説明

膜濾過装置の運転方法

【課題】 カチオン電着塗装工程から排出される最終水洗廃水を処理する膜濾過装置の能力安定化方法の提供。
【課題の解決手段】 廃水の乾燥固形分濃度を0.1wt%以上に調整してから、膜濾過装置に通水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン電着塗装工程の最終水洗槽より排出される廃水を処理する膜濾過装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は自動車ボディをはじめ、自動車部品、電機製品、建材等の塗装に幅広く用いられている。電着塗装システムは被塗物に電気化学的に塗膜を形成させる電着工程及び未電着塗料等を洗い落とすための洗浄工程、さらには塗膜を硬化させるための乾燥、焼き付け工程から構成されており、一般に水洗工程はUF濾液回収水洗工程と最終水洗工程に大別される。前者は、電着槽内の塗料をUFで濾過することによって得られるUF濾液を用いて被塗物を洗浄し、被塗物に物理的に付着した塗料成分を洗い落とすと共に電着槽に回収する工程である。後者は純水や工水を用いて仕上げ洗浄を行う工程であり、前記UF濾液回収水洗工程で洗い落とせなかった微量の塗料成分や侠雑イオンが洗い落される。そして、最終水洗工程で洗浄に用いられた水洗水は廃水として工程外に排出されている。仕上げ洗浄である最終水洗には多量の水が必要であり、被塗物が自動車ボディの場合には新たに100L/分以上の水が洗浄水として供給され、洗浄後は工程外に排出されている。この廃水中には、少量ながら塗料成分や侠雑イオンが含まれているため、最終的には何らかの方法で処理する必要がある。また、塗料の損失にもなっており、一般にロス分は電着槽から被塗物によって物理的に持ち出される塗料の5%相当に及ぶ。
【0003】
近年、このような廃水の処理方法として膜分離法が提案され、膜濾過装置によって濾液と濃縮液に分離し、濾液を水洗水として循環使用すると共に濃縮液を電着槽に戻し、塗料として回収再使用する方法が知られている(WO96/07775号パンフレット、特許文献1)。通常、膜濾過装置からの濃縮液を塗料として回収し、濾液を水洗水として循環使用する場合には電着塗装工程内への夾雑イオンの蓄積を防止するため、最終水洗水には純水(イオン交換水)が使われる。そして、イオン交換水の水質は電気電導度やTOCで管理されるのが一般的である。しかしながら、イオン交換水には多量の微粒子やイオン交換水の原水に由来する有機物やイオン交換樹脂からの溶出物等が含まれており、膜濾過装置への通水初期は、これらの不純物によって直接的に膜が汚染されるためと考えられるが、濾過能力が大きく低下する問題がある。また、膜濾過等によりイオン交換水の清浄度を高めた場合でも、通水初期には以下の問題があり、濾過能力の低下が避けられなかった。
【0004】
特許文献1には、膜濾過装置の能力を安定に保つための方法として廃水に酸を添加し、廃水のpHを調整する方法が開示されているが、乾燥固形分濃度(以下NV)が低い場合は、微量の酸添加によりpHが大きく低下するため、実質的に酸添加がなされず、膜が汚染される問題があった。かくして、最終水洗槽の水を更新して膜濾過装置の運転を開始する場合や塗装開始初期等、運転立ち上げ時の廃水のNVが低い場合には、濾過能力が経時的に低下する問題があることを見出し、本発明をなすに至った。
【特許文献1】WO96/07775号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電着塗装の最終水洗工程から排出される廃水を膜濾過装置で処理するにあたり、濾過能力の経時低下を抑え、濾過能力を安定化するための運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、廃水受槽6の廃水のNVを0.1wt%以上に調整してから、膜濾過装置に通水することにより前記課題を解決しうることを見出し、本発明に到達した。
本発明は以下の通りである。
1.カチオン電着塗装工程の最終水洗槽より排出される廃水を膜濾過装置にかけ、濾液と濃縮液に分離し、濾液を水洗水として循環使用すると共に濃縮液を電着槽に戻し、塗料として回収再使用する方法において、該廃水の乾燥固形分濃度を0.1%wt以上に調整してから、前記膜濾過装置に通水を開始することを特徴とする膜濾過装置の運転方法。
2.補給塗料または電着槽の塗料またはUF回収水洗槽の水洗水のいずれか、またはこれらの混合液を加えて上記廃水の乾燥固形分濃度を調整することを特徴とする請求項1.に記載の膜濾過装置の運転方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、電着塗装の最終水洗工程から排出される廃水を膜濾過装置で処理するにあたり、濾過能力の経時低下を抑え、濾過能力を安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、説明する。
図1は、最終水洗槽の廃水を処理する膜濾過装置を備えたカチオン電着塗装工程の一例を示すフロー図である。図において、被塗物16はコンベア15に取り付けられ、はじめに電着槽1に入り電着塗装される。次いで第1水洗槽2、第2水洗槽3、第3水洗槽4の順にUF濾液回収水洗工程(図1の点線内)に導かれ、最後に最終水洗槽に導かれ、イオン交換水で水洗される。最終水洗槽5からの廃水は、膜濾過装置に通水され、濾過膜モジュール9によって濃縮液と濾液に分離される。濾液は通常、濾液貯槽7に貯められた後、主として最終水洗槽にリサイクルされる。濃縮液は電着槽1または第1水洗槽2等、濃縮液よりもNVの高い槽に戻される。
【0009】
本発明は上記において、廃水受槽6の廃水のNVを0.1wt%以上に調整してから、膜濾過装置に通水することにより前記課題を解決したものである。ところで、本発明に示すNVは全て105℃で3hr加熱乾燥した場合の残留物の重量%である。
本発明においてNVの調整は、好ましくは補給塗料または電着槽1の塗料またはUF回収水洗槽2から4の水洗水のいずれか、またはこれらの混合液を加えることにより行うことができる。ここで加えた塗料分は随時、濃縮液として回収されるのでロスにはならない。なお、補給塗料とは塗装によって消費される塗料を電着槽に補充する際の塗料をいう。
本発明においては廃水のNVを通水前に0.1wt%以上に調整する必要がある。NVが0.1wt%未満ではイオン交換水中の不純物で直接的に膜汚染されるため、及びまたは微量の酸添加によりpHが鋭敏に変化し、廃水中のNVすなわち塗料成分を分散させ得るまでの酸添加が行われないためと見なされるが、通水初期に濾過能力が大きく低下する。また、廃水のNVが0.1wt%以上に上がっても濾過能力の低下が継続する。
【0010】
一方、本発明の方法によればイオン交換水中の不純物がNV成分に包含されるため、またNV成分がpH変化に対して緩衝作用を有するため、充分な酸添加がなされ、塗料成分の分散性が向上するものと考えられるが、透過能力は初期低下した後経時的に安定化する。また、本発明において、NVは好ましくは5wt%以下、より好ましくは3%以下である。電着塗料を含む液の濾過能力は、濃度依存性があるのでNVが5wt%を越えると濾過能力の減少が大きくなる場合がある。さらに、NV5wt%以上の濃度で通水すると、それ以下のNVに戻しても濾過能力がなかなか元に戻らなくなる場合がある。
【0011】
次に本発明の廃水のNV調整は、初めて膜モジュールに通水する場合すなわち運転立ち上げ時に特に有効であり、一旦、通水した後は、NVが0.1wt%以下で通水してもよい。例えば最終水洗槽は定期的に水の更新がなされたり、塗装が行われない場合は膜濾過装置内を濾液で置換し、装置は停止されるが、このような後で通水を再開する場合には本発明の方法を用いる必要はない。必要な通水時間は少なくとも30分以上、好ましくは1時間以上であり、膜面積当たりの積算濾液量は少なくとも50L/hr/m以上、好ましくは100L/hr/m以上である。また、本発明は膜モジュールの構造や材質、孔径には無関係にUF膜に広範に適用できる。
【0012】
なお、廃水のNVは、塗装が行われるにしたがって上昇するので、0.1wt%以上になるのを待って通水することもできるが、それまでの間は濾過水を水洗水としてリサイクルすることができないので、イオン交換水を多量に消費することになり非効率的である。同時に、排水量も増大するので、本発明の補給塗料または電着槽の塗料またはUF回収水洗槽の水洗水のいずれか、またはこれらの混合液を加えることによりNV調整を行うことが好ましい。
【実施例1】
【0013】
自動車部品の電着塗装の最終水洗工程に、図2に示す膜濾過試験装置を設置し、以下の試験を行った。初めに500Lの廃水受槽にNV0.02wt%の最終水洗廃水400Lを受け入れ、これに電着槽の塗料(NV20.5%)を3.6L加え、NVを0.2wt%に調整した。次いで液面コントローラーにより、廃水受槽の水位を維持しながら、膜濾過装置に通水した。膜モジュールはポリアクリロニトリル系重合体からなる外径1.4mm、内径0.8mm、分画分子量13000の中空糸膜が充填された膜面積4.7mのモジュール1本を用いた。また、酸貯槽に10vol%の酢酸を用意し、濾液のpHの下限値を5.3に、上限値を5.5に設定し、酸注入によりpHがこの範囲に保たれるようにするとともに、濃縮液を濃縮液回収ポンプにより5分間に1回の頻度で1回につき0.5L払い出した。濃縮液は電着槽に返送し、濾液は装置外に払い出した。膜モジュールの入口圧力を0.25MPa、出口圧力を0.05MPaに設定し、濾過能力を測定した。濾過能力の推移及び最終水洗廃水(廃水受槽への受け入れ水)のNVを表1に示す。
【0014】
[比較例1]
膜濾過装置に通水する前に廃水のNVを調整しなかった以外は実施例1と同様の試験を行った時の濾過能力の変化及び最終水洗廃水のNVを表1に併記した。
【0015】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、カチオン電着塗装廃水処理の分野で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が対象とする電着塗装工程及び膜濾過装置の一例を示すフロー図である。
【図2】実施例で用いた膜濾過試験装置を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0018】
1 電着槽
2 第1UF濾液回収水洗槽
3 第2UF濾液回収水洗槽
4 第3UF濾液回収水洗槽
5 最終水洗槽
6 廃水受槽
7 濾液貯層
8 回収水洗用UFモジュール
9 最終水洗廃水用膜濾過モジュール
10 回収水洗用UFの循環ポンプ
11 最終水洗廃水膜濾過装置の循環ポンプ
12 最終水洗廃水膜濾過装置の濾液回収ポンプ
13 最終水洗廃水膜濾過装置の濃縮液回収ポンプ
14 イオン交換水
15 コンベア
16 被塗物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗装工程の最終水洗槽より排出される廃水を膜濾過装置にかけ、濾液と濃縮液に分離し、濾液を水洗水として循環使用すると共に濃縮液を電着槽に戻し、塗料として回収再使用する方法において、該廃水の乾燥固形分濃度を0.1wt%以上に調整してから、前記膜濾過装置に通水を開始することを特徴とする膜濾過装置の運転方法。
【請求項2】
補給塗料または電着槽の塗料またはUF回収水洗槽の水洗水のいずれか、またはこれらの混合液を上記廃水に加えて乾燥固形分濃度を調整することを特徴とする請求項1に記載の膜濾過装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−116505(P2006−116505A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309920(P2004−309920)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】