説明

膜触媒層接合体の製造装置及び製造方法、並びに膜電極接合体の製造装置及び製造方法

【課題】剥離不良を低減することのできる、膜触媒層接合体を製造するための装置及び方法、並びに膜電極接合体を製造するための装置及び方法を提供する。
【解決手段】電解質膜10の両面に触媒層112が形成された膜触媒層接合体の製造装置1であって、長尺の電解質膜10を搬送する電解質膜搬送部2と、基材シート111上に触媒層112が形成された長尺の触媒層転写シート11を電解質膜10上において電解質膜10と同一方向に搬送する触媒層転写シート搬送部3と、触媒層転写シート11を加熱しながら電解質膜10に対して加圧する熱プレス部4と、熱プレス部4の下流に設置され、電解質膜10及び触媒層転写シート11を加熱しながら基材シート111を剥離する剥離部6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜触媒層接合体の製造装置及び製造方法、並びに膜電極接合体の製造装置及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜の両面に、電解質膜よりも一回り小さい触媒層及びガス拡散層を順に積層している。この電解質膜の両面に触媒層を形成したもの(すなわち、層構成が触媒層/電解質膜/触媒層のもの)は膜触媒層接合体(CCM)と称され、また、電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散層からなる電極を形成したもの(すなわち、層構成がガス拡散層/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散層のもの)は膜電極接合体(MEA)と称されている。
【0004】
上記膜触媒層接合体や膜電極接合体を製造する方法としては、電解質膜の両面に触媒層を形成するための触媒層ペーストを塗布及び乾燥させる、いわゆる塗布方式が一般的に採用されている。しかし、この方法によって電解質膜に触媒ペーストを塗布すると、触媒ペースト中に含まれる水やアルコールなどの溶剤によって電解質膜が膨潤変形してしまい、電解質膜表面に所望の触媒層を形成することが困難になるという問題がある。また、電解質膜に塗布した触媒ペーストを乾燥させる工程において、電解質膜が高温に曝されるために電解質膜が熱膨張などを起こし、変形する問題も生じている。
【0005】
上記塗布方式による問題を解決するために、触媒層が基材シート上に形成された触媒層転写シートを使用し、この触媒層転写シートと電解質膜を重ね合わせて熱プレスを施すことにより触媒層を電解質膜に転写形成する、いわゆる転写方式が提案されている(例えば、特許文献1、2)。この方法は、上記塗布方式の問題を解決し、簡便な方法であるために実用化に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−64574号公報
【特許文献2】特許第3465656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したような転写方式は、触媒層を電解質膜に転写した後に基材シートを剥離する必要があるが、この基材シートを剥離する際に触媒層が電解質膜側に残らずに基材シートと一緒に剥離されてしまうといった、いわゆる剥離不良が発生するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、剥離不良を低減することのできる、膜触媒層接合体を製造するための装置及び方法、並びに膜電極接合体を製造するための装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来の転写方式による膜触媒層接合体の製造方法において剥離不良が発生する原因を鋭意研究した結果、以下のことが剥離不良の一因であると判明した。すなわち、触媒層を電解質膜に転写するために触媒層転写シート及び電解質膜を加熱加圧すると電解質膜は熱膨張するが、この後の基材シートを剥離するまでの間に電解質膜が冷却されると電解質膜が一旦縮むことがある。このように電解質膜が縮むと触媒層が電解質膜から剥離してしまうことがあり、これが剥離不良のきっかけになるということが判明した。これに対して、本発明に係る膜触媒層接合体の製造方法は、電解質膜の少なくとも一方面に触媒層が形成された膜触媒層接合体の製造方法であって、長尺の電解質膜を搬送する工程と、前記電解質膜の少なくとも一方面上において、基材シート上に触媒層が形成された長尺の触媒層転写シートを前記電解質膜と同一方向に搬送する工程と、前記触媒層転写シートを、触媒層が前記電解質膜に転写するよう、加熱しながら前記電解質膜に対して加圧する工程と、前記触媒層が前記電解質膜に転写された後、前記電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら前記基材シートを剥離する工程と、を含む。
【0010】
上記膜触媒層接合体の製造方法によれば、剥離工程において電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら基材シートを剥離している。このため、触媒層を電解質膜に転写するための加熱加圧工程後に電解質膜が冷却されて縮み触媒層と剥離した場合であっても、再度加熱されることで電解質膜が伸びるとともに触媒層が電解質膜に再度接合される。これにより、剥離不良のきっかけ部分を低減し、ひいては剥離不良を低減することができる。なお、上記工程において、電解質膜の一方面のみに触媒層を形成してもよいし、電解質膜の両面に触媒層を形成してもよい。
【0011】
上記方法の剥離工程は、剥離ロールによって電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら基材シートを剥離することができる。また、上記剥離ロールで加熱しながら基材シートを剥離するのではなく、触媒層を転写するための加熱加圧工程から剥離工程までを電解質膜のガラス転移温度±50℃の温度で行ってもよい。このように加熱加圧工程から剥離工程までを電解質膜のガラス転移温度±50℃の温度とすることにより、電解質膜が縮むことを防止することができ、より効果的に剥離不良を低減することができる。さらには、剥離ロールによって電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しつつ、加熱加圧工程から剥離工程までを上記温度において行うこともできる。
【0012】
また、上記加熱加圧工程と剥離工程との間に、触媒層転写シートを電解質膜に対して押圧する工程をさらに含んでいてもよい。これにより、より強固に触媒層を電解質膜に接合させることができる。なお、この押圧工程は、触媒層転写シートを加熱しながら行うことが好ましい。
【0013】
また、剥離工程の後、膜触媒層接合体を冷却する工程をさらに含んでいてもよい。これにより、膜触媒層接合体を巻き取った際に、触媒層が他の部分に接合してしまうことを防止することができる。
【0014】
また、剥離工程において、基材シートの剥離する方向が電解質膜の搬送方向と約150〜180度の角度をなすことが好ましい。この角度で基材シートを剥離することで剥離不良をさらに低減することができる。
【0015】
また、本発明に係る膜電極接合体の製造方法は、上記いずれかの膜触媒層接合体の製造方法と、膜触媒層接合体の触媒層上にガス拡散層を接合する工程と、を含んでいる。
【0016】
この方法によれば、上述した膜触媒層接合体の製造方法を含んでいるため、上述したように剥離不良を低減することができる。
【0017】
また、本発明に係る膜触媒層接合体の製造装置は、電解質膜の少なくとも一方面に触媒層が形成された膜触媒層接合体の製造装置であって、長尺の電解質膜を搬送する電解質膜搬送部と、基材シート上に触媒層が形成された長尺の触媒層転写シートを電解質膜上において電解質膜と同一方向に搬送する触媒層転写シート搬送部と、触媒層転写シートを加熱しながら電解質膜に対して加圧する熱プレス部と、前記熱プレス部の下流に設置され、電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら基材シートを剥離する剥離部と、を備えている。
【0018】
この膜触媒層接合体の製造装置によれば、基材シートを剥離する剥離部において電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら基材シートを剥離する。このため、熱プレス部から剥離部まで搬送される間に電解質膜が冷却されて縮むことで触媒層と剥離した場合であっても、再度加熱することによって一旦縮んだ電解質膜を伸ばすとともに触媒層を電解質膜に接合させることができる。このため、剥離不良のきっかけ部分を低減し、ひいては剥離不良を低減することができる。
【0019】
上記製造装置は種々の構成をとることができるが、例えば、上記剥離部を、電解質膜及び触媒層転写シートを挟むように設置された一対の剥離ロールとし、この剥離ロールが電解質膜及び触媒層転写シートを加熱するよう構成してもよい。また、剥離ロールで電解質膜及び触媒層転写シートを加熱するのではなく、例えば熱プレス部から剥離部までの温度を電解質膜のガラス転移温度±50℃に維持する高温保持手段をさらに備えることで、電解質膜が縮むことを防止することができ、より効果的に剥離不良を低減することができる。さらには、剥離ロールで電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しつつ、上記高温保持手段をさらに備えてもよい。なお、上記高温保持手段は、熱プレス部から剥離部までの空間を密閉する密閉ハウジングと、密閉ハウジング内の温度を電解質膜のガラス転移温度±50℃にする加熱手段とを有するように構成してもよい。
【0020】
また、上記熱プレス部と剥離部との間に設置され、触媒層転写シートを電解質膜に対して加圧する加圧手段をさらに備えることによって、より強固に触媒層が電解質膜に接合するようにしてもよい。なお、この加圧手段は、触媒層転写シートを加熱するように構成することが好ましい。
【0021】
また、上記熱プレス部は、電解質膜及び触媒層転写シートを挟むように設置された加熱ロールによって構成してもよい。
【0022】
また、剥離部の下流に設置され、膜触媒層接合体を冷却する冷却部をさらに備えることで、膜触媒層接合体を巻き取るときに触媒層が他の部分と接合することを防ぐことができる。
【0023】
また、剥離不良をさらに低減させるためには、上記剥離部が、基材シートの剥離する方向が電解質膜の搬送方向と150〜180度の角度をなすようにガイドすることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る膜電極接合体の製造装置は、上記いずれかの膜触媒層接合体の製造装置と、上記剥離部の下流に設置され、触媒層上にガス拡散層を接合させるガス拡散層接合手段と、を備えている。
【0025】
この製造装置によれば、上記膜触媒層接合体の製造装置を備えているために、上述したように剥離不良を低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る膜触媒層接合体を製造するための装置及び方法、並びに膜電極接合体を製造するための装置及び方法によれば、剥離不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る膜触媒層接合体の製造装置の実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明に係る膜触媒層接合体の製造装置の他の実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明に係る膜電極接合体の製造装置の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る膜触媒層接合体の製造装置及び製造方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、膜触媒層接合体の製造装置の概略図である。なお、図中の矢印は、各種ロールの回転方向や、各種シートの搬送方向を示している。また、図1の左側を「上流」、右側を「下流」と称して説明する。
【0029】
図1に示すように、膜触媒層接合体の製造装置1は、電解質膜10を搬送する電解質膜搬送部2と、基材シート111上に触媒層112が形成された触媒層転写シート11を搬送する触媒層転写シート搬送部3と、触媒層転写シート11の触媒層112を電解質膜10に転写させるための第1の熱プレス部4と、触媒層転写シート11の触媒層112を電解質膜10により強固に接合するための第2の熱プレス部5と、触媒層112が電解質膜10に転写した後の基材シート111を剥離するための剥離部6と、電解質膜10の両面に触媒層112が形成された膜触媒層接合体12を冷却するための冷却部7と、を備えている。
【0030】
電解質膜搬送部2は、電解質膜10を供給する電解質膜供給ロール21と、膜触媒層接合体12を巻き取る膜触媒層接合体巻取ロール22とから主に構成されている。電解質膜供給ロール21には、長尺の電解質膜10がロール状にセットされている。また、膜触媒層接合体巻取ロール22には、電解質膜10の両面に触媒層112が形成された膜触媒層接合体12が、ロール状になって巻き取られる。この電解質膜搬送部2によって搬送される電解質膜10の搬送速度は、特に限定されるものではないが、0.1〜5m/minとすることが好ましい。
【0031】
触媒層転写シート搬送部3は、触媒層転写シート11を供給する触媒層転写シート供給ロール31a、31bと、触媒層転写シート11の基材シート111を巻き取る基材シート巻取ロール32a、32bとから主に構成されている。この触媒層転写シート搬送部3は、触媒層転写シート11が、電解質膜10の上面及び下面に配置されるよう、電解質膜搬送部2の上方及び下方にそれぞれ設置されている。また、各触媒層転写シート11は、触媒層112が電解質膜10側を向くように配置されている。触媒層転写シート供給ロール31a、31bは、長尺の触媒層転写シート11がロール状にセットされており、基材シート巻取ロール32a、32bには、触媒層転写シート11から剥離された基材シート111がロール状になって巻き取られる。この触媒層転写シート搬送部3によって搬送される触媒層転写シート11の搬送速度は、特に限定されるものではないが、上述した電解質膜搬送部2と同じ速度であることが好ましい。
【0032】
第1の熱プレス部4は、電解質膜10及び触媒層転写シート11を上下から挟むように設置された一対の加熱ロール41a、41bから構成されている。この加熱ロール41a、41bは、内部に熱媒体が流れること等によって電解質膜10及び触媒層転写シート11を加熱することができ、加熱ロール41a、41b表面の温度を約200度まで加熱できるよう構成されていることが好まく、100〜180度まで加熱することがより好ましい。加熱ロール41a、41b内を流れる熱媒体としては、好ましくは水やオイルなどを使用することができる。また、加熱ロール41a、41bは、電解質膜10及び触媒層転写シート11がスムーズに搬送方向(図1の右方向)に流れるよう、上の加熱ロール41aが反時計回り、下の加熱ロール41bが時計回りに回転している。また、これら加熱ロール41a、41bで電解質膜10及び触媒層転写シート11を挟むことによって、触媒層転写シート11に0.5〜20MPaの圧力を掛けることが好ましく、1〜10MPaの圧力を掛けることがさらに好ましい。
【0033】
第1の熱プレス部4の下流には、第2の熱プレス部5が設置されている。この第2の熱プレス部5も、上述した第1の熱プレス部4と同様に、一対の加熱ロール51a、51bから構成されており、これら加熱ロール51a、51bは上下から電解質膜10及び触媒層転写シート11を挟むように設置されている。この第2の熱プレス部5の加熱ロール51a、51bも、内部に上述したような熱媒体が流れること等によって電解質膜10や触媒層転写シート11を加熱することができ、また、触媒層転写シート11に掛ける圧力は、1〜10MPaとすることが好ましい。
【0034】
第2の熱プレス部5の下流には剥離部6が設置されている。剥離部6は、電解質膜10及び触媒層転写シート11の上下面に設置された一対の剥離ロール61a、61bから構成されている。一対の剥離ロール61a、61bは、触媒層転写シート11の基材シート111が剥離するのをガイドするように、上側に配置された剥離ロール61aは反時計回り、下側に配置された剥離ロール61bは時計回りに回転する。このときの電解質膜10の搬送方向と、基材シート11の剥離方向とがなす角度αは、特に限定されるものではないが、より剥離不良を低減するためには、約150〜180度とすることが好ましい。なお、剥離ロール61a、61bのロール径を小さくしたり、剥離された転写基材シート111を巻き取る巻取ロール32a、32bをより上流側に設置するなど位置を調整することなどで、上述した角度αを調整することができる。また、一対の剥離ロール61a、61bは、触媒層転写シート11を介して電解質膜10を電解質膜のガラス転移温度±50℃の温度で加熱するよう、内部に上述したような熱媒体が流れており、剥離ロール61a、61bの表面温度を200度程度とすることが好ましく、100〜180℃程度とすることがより好ましい。なお、この一対の剥離ロール61a、61bが触媒層転写シート11に掛ける圧力は0〜5MPa程度とすることが好ましい。
【0035】
剥離部6の下流には冷却部7が設置されている。冷却部7は、膜触媒層接合体12を挟むように上下面に設置された一対の冷却ロール71a、71bを備えている。各冷却ロール71a、71bは、間で挟む膜触媒層接合体12を冷却するよう、内部に冷媒が流れている。この冷却ロール71a、71bにより、膜触媒層接合体12を約50度以下まで冷却することが好ましい。冷媒としては、好ましくは水等を挙げることができる。なお、この一対の冷却ロール71a、71bは、膜触媒層接合体を冷却できる程度に膜触媒層接合体に接触していればよく、強い圧力を掛ける必要はない。
【0036】
次に、膜触媒層接合体12を構成する材料の材質について説明する。
【0037】
電解質膜10は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、電解質膜10の膜厚は通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。また、電解質膜10のガラス転移温度(Tg)、すなわち、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂のガラス転移温度(Tg)は、約110〜130℃である。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定や動的粘弾性測定などで測定することができる。
【0038】
触媒層転写シート11は、基材シート111上に触媒層112が形成されたものであるが、基材シート111の材質としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパラバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。さらには、高分子フィルム以外にアート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙などの非塗工紙であっても良い。基材シート111の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から通常6〜100μm程度、好ましくは10〜30μm程度程度とするのがよい。したがって、基材シートとしては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。また、上記基材シート111上に離型層を形成してもよい。離型層は、例えば、化学気相成長法、物理気相成長法等の公知の方法で製造することができる。剥離性の観点から、ケイ素酸化物からなり化学気相成長法で形成されるものが好ましい。
【0039】
また、触媒層112の材質としては、公知の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)である。詳しくは、触媒層112は、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含有する。触媒粒子としては、例えば、白金や白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。また、水素イオン伝導性高分子電解質としては、上述した電解質膜10に使用されるものと同じ材料を使用することができる。なお、触媒層112の膜厚は、ダイレクトメタノール形燃料電池の場合は20〜100μmが好ましく、固体高分子形燃料電池の場合は15〜30μmが好ましい。
【0040】
この触媒層転写シート11の製造方法は、まず、上述した材料からなる基材シート111を準備する。次に、上述した触媒粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を適当な溶剤に混合、分散して触媒ペーストを作製する。そして、形成される触媒層112が所望の膜厚になるように触媒ペーストを公知の方法に従い、必要に応じて離型層を介して基材シート111上に塗工する。触媒ペーストの塗工方法としては、スクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティングなどの公知の塗工方法を挙げることができる。触媒ペーストを塗工した後、所定の温度及び時間で乾燥することにより基材シート111上に触媒層112が形成される。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度である。上記触媒ペーストを作製する際に使用する溶剤としては、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水またはこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でもアルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、等の炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコール等が挙げられる。
【0041】
次に上述した膜触媒層接合体の製造装置1を使用した膜触媒層接合体の製造方法について説明する。
【0042】
まず、電解質膜供給ロール21から電解質膜10を巻き出すとともに、触媒層転写シート供給ロール31a、31bから触媒層転写シート11を巻き出し、電解質膜10の上下面を触媒層転写シート11で挟んだ状態で下流側へと送り出す。なお、このとき、電解質膜10の上下面に積層された各触媒層転写シート11は、触媒層112が電解質膜10側を向くように配置されている。
【0043】
触媒層転写シート11で上下面が挟まれた状態の電解質膜10は、まず第1の熱プレス部4へと送られる。触媒層転写シート11は、第1の熱プレス部4の各加熱ロール41a、41bによって加熱及び加圧されることで、触媒層112が電解質膜10へと転写される。このように触媒層112が電解質膜10に転写された後に第2の熱プレス部5へと送られ、触媒層転写シート11が第2の熱プレス部5の各加熱ロール51a、51bによってさらに加熱及び加圧されることで、より強固に触媒層112が電解質膜10へと接合される。
【0044】
このように触媒層112が上下面に転写された電解質膜10は次に剥離部6へと送られる。剥離部6では、上下に設置された各剥離ロール61a、61bによって触媒層転写シート11を介して電解質膜10を加熱しながら基材シート11を剥離し、剥離された上側の基材シート11は基材シート巻取ロール32aに、下側の基材シート11は基材シート巻取ロール32bに巻き取られる。このように基材シート11が剥離されると、電解質膜10の上面及び下面に触媒層112が形成された、いわゆる膜触媒層接合体12が完成する。
【0045】
以上のように完成した膜触媒層接合体12は、冷却部7に送られ、一対の冷却ロール71a、71bによって冷却されてから膜触媒層接合体巻取ロール22に巻き取られる。
【0046】
以上、本実施形態によれば、剥離部6の剥離ロール61a、61bによって電解質膜10を加熱しながら基材シート111を剥離している。このため、第1の熱プレス部4から剥離部6までの間に電解質膜10が冷却されて縮むことによって触媒層112と剥離した場合であっても、その縮んだ電解質膜10を再度伸ばして触媒層112と接合させ、この結果、剥離不良のきっかけ部分を低減して剥離不良を低減させることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、図2に示すように、第1のプレス部4から剥離部6までの間の工程を電解質膜10のガラス転移温度±50℃の温度で行うために、高温保持手段8をさらに設けることもできる。高温保持手段8としては、例えば、第1の熱プレス部4から剥離部6までの空間を密閉するよう密閉ハウジング81を設置し、この密閉ハウジング81内を高温にするよう加熱手段82を設けて構成することができる。この加熱手段82によって、密閉ハウジング81内の温度を200℃程度まで加熱することが好ましく、100〜180℃程度まで加熱することがより好ましい。この加熱手段82としては、例えば、熱風を供給する熱風供給装置や赤外線ヒータ等を用いることができる。このように高温保持手段8を設けることによって、第1の熱プレス部4や第2の熱プレス部5の後で電解質膜10が冷却されることがないため、剥離不良のきっかけとなる電解質膜10と触媒層112との間の剥離を防止することができる。なお、高温保持手段8を設けた場合は、第2の熱プレス部5の加熱ロール51a、51bは、電解質膜10及び触媒層転写シート11を加熱してもよいし、加熱せずに単に加圧するだけであってもよい。また、剥離ローラ61a、61bも電解質膜10及び触媒層転写シート11を加熱してもよいし、加熱していなくてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、製造した膜触媒層接合体12を膜触媒層接合体巻取ロール22にて巻き取る膜触媒層接合体の製造装置1として説明したが、図3に示すように、膜触媒層接合体12を製造した後に、膜触媒層接合体12の上面及び下面にガス拡散層13を圧着して膜電極接合体14を製造して膜電極接合体巻取ロール22’にて巻き取るような膜電極接合体の製造装置1’とすることもできる。この場合は、剥離部6と冷却部7との間に、ガス拡散層供給部9を設置する。ガス拡散層供給部9は、ロール状のガス拡散層13がセットされたガス拡散層供給ロール91a、91bを備えており、ガス拡散層13を膜触媒層接合体12の上面及び下面のそれぞれに搬送させる。そして、圧着ロール15a、15bにて膜触媒層接合体12及びガス拡散層13を挟み、ガス拡散層13を膜触媒層接合体12の上面及び下面にそれぞれ圧着させて膜電極接合体14を製造する。なお、この圧着ロール15a、15bによって膜触媒層接合体12及びガス拡散層13に掛ける圧力は0.1〜10MPaとすることが好ましく、そのときの圧着ロール15a、15bの表面温度は30〜200℃とすることが好ましい。完成した膜電極接合体14は、冷却ロール71a、71bによって冷却されて、膜電極接合体巻取ロール22’によって巻き取られる。なお、ガス拡散層13の材料は、公知であり、燃料極、空気極を構成する各種のガス拡散層を使用でき、燃料である燃料ガス及び酸化剤ガスを効率よく触媒層に供給するため、多孔質の導電性基材からなっている。多孔質の導電性基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等が挙げられる。
【0049】
また、上述した膜電極接合体の製造装置1’の後工程として、完成した膜電極接合体14を所望の大きさに切断する切断部や、切断された膜電極接合体にガスケットを設置するガスケット設置部、膜電極接合体14を上面及び下面から挟持するようセパレータを設置するセパレータ設置部を備えていてもよい。
【0050】
また、上記実施形態において、第2の熱プレス部5を省略することもできる。
【0051】
また、上記実施形態では、電解質膜10の両面に触媒層112やガス拡散層13が形成されているが、電解質膜10の上面又は下面のみに触媒層112やガス拡散層13を形成することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 膜触媒層接合体の製造装置
2 電解質膜搬送部
3 触媒層転写シート搬送部
4 第1の熱プレス部(熱プレス部)
5 第2の熱プレス部(加圧手段)
6 剥離部
7 冷却部
8 高温保持手段
10 電解質膜
11 触媒層転写シート
111基材シート
112 触媒層
12 膜触媒層接合体
13 ガス拡散層
14 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の少なくとも一方面に触媒層が形成された膜触媒層接合体の製造方法であって、
長尺の電解質膜を搬送する工程と、
前記電解質膜の少なくとも一方面上において、基材シート上に触媒層が形成された長尺の触媒層転写シートを前記電解質膜と同一方向に搬送する工程と、
前記触媒層転写シートを、触媒層が前記電解質膜に転写するよう、加熱しながら前記電解質膜に対して加圧する工程と、
前記触媒層が前記電解質膜に転写された後、前記電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら前記基材シートを剥離する工程と、
を含む、膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記剥離工程は、剥離ロールによって前記電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら基材シートを剥離する、請求項1に記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱加圧工程から剥離工程までを前記電解質膜のガラス転移温度±50℃の温度で行う、請求項1又は2に記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱加圧工程と剥離工程との間に、前記触媒層転写シートを前記電解質膜に対して押圧する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項5】
前記押圧工程は、前記触媒層転写シートを加熱しながら行う、請求項4に記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記剥離工程の後、前記膜触媒層接合体を冷却する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項7】
前記剥離工程において、基材シートの剥離する方向が前記電解質膜の搬送方向と150〜180度の角度をなす、請求項1〜6のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造方法と、
前記膜触媒層接合体の触媒層上にガス拡散層を接合する工程と、
を含む、膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
電解質膜の少なくとも一方面に触媒層が形成された膜触媒層接合体の製造装置であって、
長尺の電解質膜を搬送する電解質膜搬送部と、
基材シート上に触媒層が形成された長尺の触媒層転写シートを電解質膜上において電解質膜と同一方向に搬送する触媒層転写シート搬送部と、
触媒層転写シートを加熱しながら電解質膜に対して加圧する熱プレス部と、
前記熱プレス部の下流に設置され、電解質膜及び触媒層転写シートを加熱しながら基材シートを剥離する剥離部と、
を備えた、膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項10】
前記剥離部は、電解質膜及び触媒層転写シートを挟むように設置された一対の剥離ロールであって、前記剥離ロールが電解質膜及び触媒層転写シートを加熱する、請求項9に記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項11】
前記熱プレス部から剥離部までの温度を電解質膜のガラス転移温度±50℃に維持する高温保持手段をさらに備えた、請求項9又は10に記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項12】
前記高温保持手段は、前記熱プレス部から剥離部までの空間を密閉する密閉ハウジングと、前記密閉ハウジング内の温度を電解質膜のガラス転移温度±50℃にする加熱手段とを有する、請求項11に記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項13】
前記熱プレス部と剥離部との間に設置され、触媒層転写シートを電解質膜に対して加圧する加圧手段をさらに備えた、請求項9〜12のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項14】
前記加圧手段は、触媒層転写シートを加熱する、請求項13に記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項15】
前記熱プレス部は、電解質膜及び触媒層転写シートを挟むように設置された加熱ロールである、請求項9〜14のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項16】
前記剥離部の下流に設置され、膜触媒層接合体を冷却する冷却部をさらに備えた、請求項9〜15のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造装置。
【請求項17】
前記剥離部は、基材シートの剥離する方向が前記電解質膜の搬送方向と150〜180度の角度をなすようガイドする、請求項9〜16のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の膜触媒層接合体の製造装置と、
前記剥離部の下流に設置され、触媒層上にガス拡散層を接合させるガス拡散層接合手段と、
を備えた、膜電極接合体の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−182563(P2010−182563A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25797(P2009−25797)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】