説明

膜貫通抗体誘導型のアポトーシス阻害

細胞の自殺(アポトーシス)は病因と関係があり、例えばそれは、アルツハイマー病におけるニューロンの消失の主な原因である。カスパーゼ−3は、アポトーシスの経路と非常に関係がある。生細胞のアポトーシスを阻害するための努力において、超抗体(SAT)−膜貫通技術を使用して、カスパーゼ酵素に対する抗体が生成されてきている。アポトーシス阻害剤として膜貫通抗体を使用する利点は、細胞中でのそれらの特異的な標的認識、及び従来のアポトーシス阻害剤と比較したそれらの低い毒性である。MTS輸送ペプチド改変型モノクローナル抗カスパーゼ−3抗体は、生細胞のアクチノマイシンD誘導型アポトーシス及びスペクトリンの切断を減らすことが示されている。これらの結果は、膜輸送ペプチドと結合した抗体が、さまざまな疾患においてアポトーシスを阻害する治療的可能性を有することを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は米国出願No.Xの一部継続出願であり、これは2002年5月29日に出願された国内段階の国際出願PCT/US02/16651号であり、これは2001年5月29日に出願された米国特許出願第09/865,281号の一部継続出願であり、これは1998年5月4日に出願された米国特許出願第09/070,907号の一部継続出願、現在米国特許第6,238,667号である。本出願は、2003年3月5日に出願された米国仮出願第60/451,980号の特典も主張する。前述の特許及び特許出願のそれぞれの開示は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は完全な生物学的活性ペプチド及び抗体、又はそれらの断片を含む融合タンパク質に関する。具体的には、本発明の融合タンパク質は、抗体の分子認識と免疫賦活活性、膜輸送活性、及び同種親和活性などの生物学的活性を兼ね備えている。本発明はさらに、抗体の結合性を有し、生物学的活性があるペプチドの立体配座の柔軟性を制約しその生物学的標的に関する親和性を増大させるための、ループ形成配列又は他の立体配座を与える配列の側面に位置する生物学的活性があるペプチド配列を含む、融合タンパク質に関する。本発明は、プログラムされた細胞死、即ちアポトーシスの阻害における、抗体及びその結合体の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
抗体は疾患と闘うための「特効薬」として称賛されている。しかしながら、抗体に関してなされた期待が、決して完全に実現されているわけではない。これは部分的には、抗体は免疫防御のわずか一部分であり、T細胞が免疫防御において他の戦略を与えるという事実によるものである。しかしながら、抗体は理想的な標的及び送達デバイスである。抗体は血液中での長期の生存に適合しており、血管及び組織浸透を助ける部位を有し、先天性免疫の幾つかの防御機構と機能的に関連がある。1つのこのような機構は補体系であり、これは病原体の破壊を手助けし、免疫応答の調節と関係がある。例えば補体断片C3dは、エプスタイン−バーウイルス用の結合部位でもある、B細胞上のCR2受容体と結合する。エプスタイン−バーウイルスとCR2が結合することによって、B細胞が活性化される。蓄積された証拠によって、CR2受容体(CD19/Cd20/CD81複合体)は免疫賦活的役割を有し、C3dによって活性化されることが示されている。
【0004】
多くの治療用途に、モノクローナル抗体が開発されてきている。例えば、モノクローナル抗体によって現在標的化されている疾患には、心臓病、癌、神経異常及び自己免疫性疾患がある。ほぼ全てのこれらの現在の治療用途は、特定のモノクローナル抗体、薬剤HERCEPTIN及びRITUXANなどの固有の治療有効性に頼るものである。大部分のモノクローナル抗体はこのような固有の治療活性を示さないので、タンパク質毒素又はそのサブユニットなどのさまざまな異なる毒性物質、癌の化学療法治療において現在使用されている薬剤、許容できないほど高い毒性のために臨床開発が進まなかった薬剤、又は放射性同位体を結合することによって、治療特性を加えることに開発は焦点を置いている。
【0005】
このような結合体を有効にするために、このような毒性物質を送達するモノクローナル抗体は、その標的抗原と結合し、細胞中に内在化して毒性物質を内部に運ぶことができなければならず、内部では毒性物質は、標的細胞のDNAの損傷或いはタンパク質合成又は他の代謝機能の阻害において有効である可能性がある。本来このような性質、非常に強力な免疫複合体を生み出す性質を示す抗体はわずかしかない。このように、スクリーニングアッセイが開発されてこのような抗体が試験されているが、この性質と適切な標的特異性を兼ね備える抗体はわずかしか同定されていない。
【0006】
抗体中への内在化能力を浸透させるための、他の手法が存在している。活性サブユニットと細胞結合サブユニットを兼ね備える完全なタンパク質毒素は、抗体との結合時に内在化を増大させるのに有効であるが、抗体の選択性を低下させ、それによって潜在的な毒性をもたらすことが多い。親油性薬剤も内在化の増大及び結合形での細胞内送達のために使用されてきているが、毒素と同様に結合体の選択性を低下させる。他の方法が透過性を上昇させるために使用されてきており、或いはマイクロインジェクションによって細胞中へのより良い進入が可能となる。これらの方法はいずれも重大な欠点を有する。例えばサポニン、細菌毒素、リン酸カルシウム、エレクトロポレーションなどによる細胞の透過性の上昇は、ex vivoの方法用にのみ実際に使用することができ、これらの方法は細胞に対する障害を引き起こす。マイクロインジェクションは非常に熟練した技術者を必要とし(したがってその使用は研究室での設定に限られる)、マイクロインジェクションは細胞に物理的に障害を与え、限られた適用のみを有する。何故なら、マイクロインジェクションを使用して例えば細胞の塊又は完全な組織を治療することはできず、多数の細胞を実際に注射することはできないからである。
【0007】
抗体を使用して免疫応答を増大させることができる方法の他の例は、Zanetti及びBonaの研究(Zanetti,M.、Nature、355:466〜477、1992;Zaghouani H.;Anderson S.A.、Sperbeer K.E.、Daian C.Kennedy R.C.、Mayer L.及びBona C.A.、Proc.Nat.Acad.Science USA、92:631〜635、1995)によって実証されている。これらの筆者は、分子生物学の方法を使用して、Ig重鎖のCDR3配列をT細胞及びB細胞抗原(エピトープ)に似た配列に置き換え、これらの改変型抗体が挿入されたものに特異的な強い免疫応答を誘導することを示している。
【0008】
抗体の生物学的性質は、抗原の全体的なアビディティー、並びに細胞膜及び核膜を浸透する能力を高めることができる。ペンタマーIgM抗体中でのように抗体の結合価を増大させることによって、抗原の結合を高める。結合価及びアビディティーは、自己結合性又は同型である幾つかの抗体においても増大する(Kang,C.Y.、Cheng,H.L.、Rudikoff,S.及びKohler,H.、J.Exp.Med.165:1332、1987;Xiyun,A.N.、Evans,S.V.、Kaminki,M.J.、Fillies,S.F.D.、Resifeld,R.A.、Noughton,A.N.及びChapman,P.B.、J.Immunol.157:1582〜1588、1996)。自己結合を阻害した、重鎖可変領域中のペプチドが同定された(Kang,C.Y.Brunck,T.K.、Kieber−Emmons,T.、Blalock,J.E.及びKohler,H.、Science、240:1034〜1036、1988)。自己結合性ペプチド配列を抗体中に挿入することによって自己結合の性質を与え、抗原に関する結合価及び全体的なアビディティーを増大させる。
【0009】
同様に、Rojas他、Nature Biotechnology、16:370〜375(1998)によって実証されたように、シグナルペプチドを抗体に加えることによって膜輸送が容易になる。Rojas他は12量体ペプチドを含む融合タンパク質を作製しており、このタンパク質が細胞膜浸透性を有することを示している。
【0010】
共通の疎水性モチーフを表すシグナルペプチド配列は、推定上のタンパク質チャンネルを介した哺乳動物小胞体(ER)及び原核生物原形質膜を通過する、大部分の細胞内分泌タンパク質の移動を仲介する。主要なモデルは、幾つかの膜タンパク質によって形成される親水性タンパク質チャンネルを介して膜を越えて、タンパク質が輸送されることを示す。真核生物では、細胞質中で新たに合成されるタンパク質は、シグナル認識粒子(SRP)及びそのER膜受容体により一般に認識されるシグナル配列によってER膜に向けられる。この標的化ステップに、ER膜を通過する、及び推定上のタンパク質チャンネルを介した細胞からのタンパク質の実際の移動が続く。シグナルペプチドは脂質と強く相互作用することもでき、細胞膜を通過する幾つかの分泌タンパク質の輸送は、タンパク質チャンネルの不在下で、脂質二重層を介して直接起こる可能性があるという提案が支持される。このようなシグナルペプチドを使用して、抗体又は他の生物学的活性がある分子の細胞への内在化を増大させることができ、これらは幾つかの特許(米国特許第5,807,746号、第6,043,339号及び第6,238,667号)の主題である。
【0011】
毒素、薬剤及びサイトカインなどの幾つかの生物学的活性がある分子用の送達デバイスとして、抗体が使用されてきている。より優れた組織浸透性及び低い「粘性」のために、しばしば抗体の断片、Fab又はscFvが好ましい。
【0012】
ペプチドなどの分子と抗体分子を結合させるために、2つの実際的な方法が存在する。1つの方法は化学的架橋を使用することであり、米国特許第09/070,907号中に記載された親和性架橋法などである。他の方法は、抗体及びペプチドをコードするDNAを含む融合遺伝子を設計すること、並びにその融合遺伝子を発現させることであり、この方法は本出願の主題である。
【0013】
抗体融合タンパク質は典型的には、大きなタンパク質の遺伝子全体又はそのようなタンパク質の生物学的機能を与えるドメインを用いて工学処理される。以前の小さなペプチド−抗体融合タンパク質は典型的には、抗体の精製又は特徴付けを容易にする目的で主に作製されていた。
【0014】
融合タンパク質を作製する方法は、例えば以下の米国特許中に記載されており、これらの関連する開示は参照として本明細書に組み込まれる:Mascarenhas他への米国特許第5,563,046号;Fell、Jr.への米国特許第5,645,835号;Murphyへの米国特許第5,668,225号;Nemazeeへの米国特許第5,698,679号;Whitlow他への米国特許第5,763,733号;Quertermous他への米国特許第5,811,265号;Chang他への米国特許第5,908,626号;Bona他への米国特許第5,969,109号;Epstein他への米国特許第6,008,319号;Seedへの米国特許第6,117,656号;Whitlow他への米国特許第6,121,424号;Ledbetter他への米国特許第6,132,992号;Huston他への米国特許第6,207,804号;及びSegalへの米国特許第6,224,870号。Ig融合タンパク質を作製する方法は、例えば「抗体の工学処理(Antibody Engineering)」、第2版:Carl A.K.Borrebaeck、Oxford University Press、1995)中、及び「分子クローニング(Molecular Cloning):研究室マニュアル(A Laboratory Manual)、第2版、Cold Spring Harbor Press、1989中に記載されており、これらの関連する開示は参照として本明細書に組み込まれる。
【0015】
サイトカインなどのタンパク質、毒素、酵素などの活性ドメインを主に含んでいる免疫グロブリンとの融合タンパク質、CDR(相補性決定領域)を含む免疫グロブリンの標的ドメイン、並びに抗原結合とは直接関与しないが二次的な相互作用によって高い結合親和性を与えることができる他の可変領域及びドメインとの融合タンパク質を含めた融合タンパク質は、例えば参照として本明細書に組み込まれている以下の刊行物中に記載されている:
Guo L;Wang J;Qian S;Yan X;Chen R;Meng G、「タンパク質分解に耐性がある単鎖Fv−アスパラギナーゼ融合タンパク質の構築及び構造モデル化(Construction and structural modeling of a single−chain Fv−asparaginase fusion protein resistant to proteolysis)」Biotechnol.Bioeng.、2000年11月20日;70(4):456〜63;
Muller BH;Chevrier D;Boulain JC;Guesdon JL「分子ハイブリダイゼーションの1ステップの免疫検出法用の組換え単鎖Fv抗体断片−アルカリホスファターゼ結合体(Recombinant single−chain Fv antibody fragment−alkaline phosphatase conjugate for one−step immunodetection in molecular hybridization)」J.Immunol Methods 1999年7月30日;227(1〜2):177〜85;
Griep RA;van Twisk C;Kerschbaumer RJ;Harper K;Torrance L;Himmler G;van der Wolf JM;Schots「pSKAP/S:単鎖Fvアルカリホスファターゼ融合タンパク質の生成用の発現ベクター(pSKAP/S:An expression vector for the production of single−chain Fv alkaline phosphatase fusion proteins)」Protein Expr.Purif.1999年6月16日(1):63〜9;
Vallera DA;Panoskaltsis−Mortari A;1C;Ramakrishnan S;Eide CR;Kreitman RJ;Nicholls PJ;Pennell C;Blazar BR「DT390抗CD3sFv、T細胞受容体のCD3ε部分を特異的に標的化する単鎖Fv融合免疫毒素の抗移植片対宿主疾患に対する影響(Anti−graft−versus−host disease effect of DT390−anti−CD3sFv,a single−chain Fv fusion immunotoxin specifically targeting the CD3 epsilon moiety of the T−cell receptor)」Blood 1996年9月15日;88(6):2342〜53;
Gupta S;Eastman J;Silski C;Ferkol T;Davis PB「単鎖Fv:受容体仲介の遺伝子送達におけるリガンド(Single chain Fv:a ligand in receptor−mediated gene delivery)」Gene Ther 2001年4月;8(8):586〜92;及び
Goel A;Colcher D;Koo JS;Booth BJ;Pavlinkova G;Batra「ヘキサヒスチジンタグの相対的な位置は、腫瘍関連単鎖Fv構築体の結合性に影響を与える。(Relative position of the hexahistidine tag effects binding properties of a tumor−associated single−chain Fv construct.)」Biochim Biophys Acta 2000年9月1日;1523(1):13〜20。
【0016】
生物学的活性を有するように設計された融合タンパク質は、完全な生物学的活性があるタンパク質由来の鎖状ペプチド配列を使用して構築することができる。しかしながら、このようなペプチドは典型的には、完全なタンパク質より低い親和性を有する。ペプチドの融合タンパク質中への取り込みは、完全な機能性タンパク質の取り込みほど厄介ではないので、完全長タンパク質と同等に優れた結合親和性を有するペプチドを含む融合タンパク質が必要とされている。
【0017】
本発明は、アポトーシスの阻害における抗体及びその断片の使用にも関する。細胞の自殺(アポトーシス)は、細胞分化、器官発生及び損傷細胞の除去中に、生きている生物によって有益に使用される機構である。しかしながらアポトーシスは、ある形態の病原形成と関係がある可能性もある。例えばアポトーシスは、アルツハイマー病におけるニューロンの消失及び心筋梗塞中の組織の消失の主な原因である。さらに、HIV−1感染した個体由来のTリンパ球は、同じ条件下で培養した非感染T細胞と比較して、刺激の不在下で自発的アポトーシスを経る。CD4+及びCD8+細胞の「自発的アポトーシス」は、HIV−1関連、抗イディオタイプ抗体のin−vitro添加によって加速されることが示されてきている。
【0018】
カスパーゼ酵素、例えばカスパーゼ−3は、アポトーシスの経路と非常に関係がある。アポトーシスを阻害するための試みにおいて、カスパーゼ作用を阻害するための幾つかの物質及び方法が提案されてきている。例えば、米国特許第6,566,338号(Weber他)は、化学療法及び放射線療法中に非癌細胞死を治療、改善、及び予防するため、並びに癌の化学療法及び放射線療法の副作用を治療及び改善するために、カスパーゼ阻害剤を一般的に使用することを提案している。米国特許第6,596,693号(Keana他)は、幾つかのジペプチドがアポトーシスの強力な阻害剤である可能性があることを報告している。米国特許第6,689,784号(Bebbington他)及び第6,620,782号(Cai他)は、アポトーシスの阻害剤として、あるクラスのカルバメート及び置換2−アミノベンズアミドをそれぞれ提案している。さらに、米国特許第6,426,413号(Wannamaker他)は、インターロイキン−1β−転換酵素阻害剤と呼ばれるクラスのカスパーゼ阻害剤の代表的な提案である。さらに、米国特許第6,228,603号(Reed他)は、アポトーシスの阻害剤とカスパーゼ−3又はカスパーゼ−7などのカスパーゼの特異的結合を変える物質を同定するための、スクリーニングアッセイを提案している。
【0019】
カスパーゼ酵素を阻害するためのさらに他の新規な手法は、いわゆる「超抗体技術(SAT)」の使用に関する。例えば、「生物学的活性があるペプチドと抗体の融合タンパク質(Fusion Proteins of Biologically Active Peptides and Antibodies)」という表題の、国際公開第02/097041号を参照のこと(Immpheron,Inc.及びInnexus Corporationに同時譲渡)。SATの1つの提案されている適用例は、カスパーゼ酵素に対する抗体を使用して、生細胞のアポトーシスを阻害することである。例えば、本発明の一態様は、アポトーシスと関与する酵素に免疫特異的な抗体又は抗体断片の細胞内送達を企図するものである。アポトーシス阻害剤としての膜貫通抗体の幾つかの予想される利点は、細胞中でのそれらの特異的な標的認識、及び従来のアポトーシス阻害剤と比較したそれらの低い毒性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、治療的効果のためにこのような膜浸透性抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、ペプチドドメインの生物学的活性が免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される、抗体ドメイン及びペプチドドメインを含む融合タンパク質を提供する。取り込まれるペプチドが抗体の抗原認識を低下させないように、ペプチドは抗体上の部位と共有結合している。本発明では、このことは、抗体をコードする核酸配列及びペプチドをコードする核酸配列を含む融合遺伝子を作製するステップであって、ペプチドをコードする核酸配列が抗体をコードする核酸配列内の、融合が発現されると、その結果作製された融合タンパク質は抗体及びペプチドを含み、ペプチドが抗体の抗原結合を害さない部位において抗体と結合する部位に位置するステップ、及び融合遺伝子を発現させて融合タンパク質を作製するステップを含む方法によって実施する。詳細には、融合タンパク質は、抗体をコードする遺伝子を提供するステップであって、遺伝子は突然変異して制限部位を含んでおり、制限部位は抗体の抗原結合部位をコードする遺伝子のいかなる部分からも離れて位置しているステップと、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有するペプチドをコードするDNA配列を、抗体をコードする遺伝子の制限部位に挿入して融合遺伝子を作製するステップであって、ペプチドをコードするDNA配列を、それが抗体をコードする遺伝子とインフレームになるように挿入するステップと、及び融合遺伝子を発現させて融合タンパク質を作製するステップによって作製することができる。
【0022】
ペプチドの生物学的活性を増大させるために、ループ形成配列又は立体配座を与える配列の側面にペプチドを置くことができる。
【0023】
本発明は、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有するペプチドと抗体の融合タンパク質を含む、組成物及び医薬組成物も提供する。
【0024】
生物学的活性があるペプチドと抗体の融合タンパク質を作製する本発明は、自己結合を含み、リンパ球を刺激し、生物膜を通過する輸送を可能にするペプチドを含む。
【0025】
本発明の他の態様は、正常細胞又は感染細胞中の細胞機能を調節するための新規な化合物及び方法に関するものである。特に、このような化合物及び方法は、膜輸送ペプチドと結合した抗体又はその抗体断片の使用を伴う。抗体又はその断片は、好ましくは(a)カスパーゼ、キナーゼ、及びホスファターゼなどの細胞内のシグナルタンパク質、(b)細胞内で構築される前の未成熟ウイルスタンパク質、(c)細胞表面抗原又は細胞内腫瘍抗原、(d)DNA合成及び遺伝子発現の調節に関与する核タンパク質又は核小体タンパク質、又は(e)細胞増殖又は細胞分裂停止に関与する細胞骨格タンパク質などのタンパク質標的に免疫特異的である、すなわち抗体又はその断片は、これらを認識し高い親和性で特異的に結合する。ポリクローナル又はモノクローナル抗体を使用することができる。
【0026】
本発明の好ましい態様では、前述の化合物はアポトーシスを阻害するのに有効であり、膜輸送ペプチドと結合した抗カスパーゼ抗体又はその断片を含む。特に好ましい抗体は抗カスパーゼ−3抗体である。
【0027】
本発明の第二の好ましい態様では、前述の膜輸送ペプチドは転座配列(MTS)ペプチド、例えばカポジ肉腫の線維芽細胞成長因子、HIV−1のTATペプチド、アンテナペディアホメオドメイン由来ペプチド、ヘルペスウイルスタンパク質VP22、又は輸送ペプチドに内在するペプチドなどである。特に好ましいMTSペプチドは、アミノ酸残基配列AAVLLPVLLAAP(配列番号9)、ペプチド配列KGEGAAVLLPVLLAAPG(配列番号8)などを含む。
【0028】
ヒト細胞中のアポトーシスを阻害するのに有効である医薬組成物であって、したがってヒト疾患を治療するのに有効であるとして示され、膜輸送ペプチド、例えばMTSペプチドと結合した抗カスパーゼ抗体又はその断片を含む医薬組成物も企図される。本発明の抗体−ペプチド結合体は、抗体又は抗体断片の細胞中への内在化を引き起こすことができる。
【0029】
本発明の他の態様では、疾患を治療又は予防する方法は、膜輸送ペプチド又はその断片と結合した抗カスパーゼ抗体又はその断片を含む医薬組成物を薬理学的に有効な量、必要とする患者に投与することを含む。詳細に示すのは、化学的に誘導されるアポトーシスを減らす、膜輸送ペプチドと結合した改変型抗カスパーゼ抗体である。これらの結果は、このような抗体は、アルツハイマー病、ハンチングトン病、又はパーキンソン病などのさまざまな疾患においてアポトーシスを阻害するための治療的可能性を有することを示唆している。
【0030】
本発明の前述の目的及び他の目的は、本発明の好ましい実施形態のみを示し記載する以下の詳細な説明及び図面から、当業者には容易に明らかとなるであろう。容易に理解されるように、本発明は、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、関連分野の技術内で変更形態が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有するペプチドと抗体の融合タンパク質を作製する方法を記載する。
【0032】
特に本発明は、取り込まれたペプチドが抗体の抗原認識を害さないように、ペプチドが抗体中の部位に位置する、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有するペプチドと抗体を含む融合タンパク質を提供する。本発明では、このことを、抗体をコードする核酸配列及びペプチドをコードする核酸配列を含む融合遺伝子を作製するステップであって、ペプチドをコードする核酸配列が抗体をコードする核酸配列内の、融合が発現すると、その結果作製された融合タンパク質は抗体及びペプチドを含み、ペプチドが抗体の抗原結合を害さない部位において抗体と結合する部位に位置するステップ、及び融合遺伝子を発現させて融合タンパク質を作製するステップを含む方法によって実施する。詳細には、融合タンパク質は、抗体をコードする遺伝子を提供するステップであって、遺伝子は突然変異して制限部位を含んでおり、制限部位は抗体の抗原結合部位をコードする遺伝子のいかなる部分からも離れて位置しているステップと、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有するペプチドをコードするDNA配列を、抗体をコードする遺伝子の制限部位に挿入して融合遺伝子を作製するステップであって、ペプチドをコードするDNA配列を、それが抗体をコードする遺伝子とインフレームになるように挿入するステップ、及び融合遺伝子を発現させて融合タンパク質を作製するステップによって作製することができる。
【0033】
本発明の他の実施形態では、生物学的活性を有するペプチドは、抗体のC末端と結合することができる。本発明の他の実施形態では、ペプチドの生物学的活性を増大させるために、ループ形成配列又は立体配座を与える配列の側面にペプチドを置くことができる。
【0034】
本明細書で使用する、用語「標的部分」は、抗原結合部位を含む任意の天然又は合成タンパク質分子を指す。この用語は、完全長免疫グロブリン分子又は任意の機能的断片、完全長免疫グロブリン分子の可変ドメイン断片など、CDR領域、ScFv、Fab、F(ab)’2、或いは改変抗体擬似体又は単鎖ドメイン結合部分を含む。個々の標的部分は、膜構造上の細胞受容体などの所望の標的、例えばタンパク質、糖タンパク質、多糖又は炭水化物に従い選択する。標的部分を選択して、正常細胞又は腫瘍細胞上の細胞受容体と結合させることができる。
【0035】
同様に、生物学的活性を有するペプチドは、融合タンパク質の所望の機能に従い、或いは言い換えれば、標的部分が正常細胞又は腫瘍細胞などの標的に結合した後の所望の結果に従い選択する。望ましい可能性があると考えられる生物学的活性には、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性がある。
【0036】
ループ形成配列又は立体配座を制約する配列は、生物学的活性を有するペプチドのいずれかの側に置くとペプチドの立体配座の柔軟性を抑制する任意のアミノ酸配列であってよい。例には、架橋してループを形成することができる、システイン対などのアミノ酸残基を含む配列がある。立体配座を制約するタンパク質の具体例はチオレドキシンである。立体配座を制約する部分又はループ形成部分の例は、例えば以下の米国特許:Brentへの米国特許第6,242,163号及び第6,004,746号、米国特許第6,258,550号;第6,147,189号;第6,111,069号;第6,100,044号;第6,084,066号;第5,952,465号;第5,948,887号;及びBrent他への第5,928,896号、Dove他への米国特許第6,200,759号及び第5,925,523号中、及び以下の刊行物中に見ることができる:
Fairlie DP;West ML;Wong AK「タンパク質表面に対する擬似体(Towards protein surface mimetics)」Curr Med Chem 1998年2月;5(1):29〜62;
Valero ML;Camarero JA;Haack T;Mateu MG;Domingo E;Giralt E;Andreu D「ウイルス抗原部位の原型に似た環状ペプチドモデル:剛性と柔軟性の間のバランスの発見(Native−like cyclic peptide models of a viral antigenic site:finding a balance between rigidity and flexibility)」J Mol Recognit 2000年1〜2月;13(1):5〜13;
Gururaja TL;Narasimhamurthy S;Payan DG;「ペプチドの非共有的制約用の新規な人造のループ状足場構造(A novel artificial loop scaffold for the noncovalent constraint of peptides)」Chem Biol.2000年7月;7(7):515〜27;
Venkatesh N;im SH;Balass M;Fuchs S;Katchalski−Katzir E「ファージライブラリー由来の環状ペプチドによる、受動的に伝播する実験的自己免疫性重症筋無力症の予防(Prevention of passively transferred experimental autoimmune myasthenia gravis by a phage library−derived cyclic peptide)」Proc Natl Acad Sci USA 2000年1月18日;97(2):761〜6;
Stott K;Blackburn JM;Butler PJ;Perutz M「グルタミン反復配列の取り込みによってタンパク質はオリゴマー化する:神経変性疾患との関係(Incorporation of glutamine repeats makes protein oligomerize:implications for neurodegenerative diseases)」Proc Natl Acad Sci USA 1995年7月3日;
前述の刊行物はいずれも、参照として本明細書に組み込まれる。
【0037】
立体配座を制約する配列は、αヘリックス又はβプリーツシートを形成する配列も含むことができる。例えば、参照として本明細書に組み込まれる以下の刊行物を参照のこと:
Lee KH;Benson DR;Kuczera K「合成ペプチドの分子の動的シミュレーションにおいて観察された、αヘリックスからpiヘリックスへの変化(Transitions from alpha to pi helix observed in molecular dynamics simulations of synthetic peptides)」Biochemistry 2000年11月14日;39(45):13737〜47;
Dettin M;Roncon R;Simonetti M;Torinene S;Falcigno L;Paolillo L;Di Bello C「HIV−1感染性を特異的に増大させるgp120由来合成ペプチドの合成、特徴付け及び立体配座の分析(Synthesis、characterization and conformational analysis of gp120−derived synthetic peptides that specifically enhance HIV−1 infectivity.)」J Pept、Sci 1997年1〜2月;3(1):15〜30;
Chavali GB;Nagpal S;Majumdar SS;Singh O;Salunke DM「GnRH結合ペプチド中のヘリックス−ループ−ヘリックスモチーフは、プロラクチン分泌の負の調節に重要である(Helix−loop−helix motif in GnRH associated peptide is critical for negative regulation of prolactin secretion)」J Mol Biol.1997年10月10日;272(5):731〜40;及び
Miceli R;Myszka D;Mao LI;Sathe G;Chaiken I「示される足場としてのコイルドコイルステムループ状ミニタンパク質(The coiled coil stem loop miniprotein as a presentation scaffold)」Drug Des Discov.、1996年4月;13(3〜4):95〜105。
【0038】
Ig融合タンパク質の発現。Ig融合タンパク質は、特異性及び/又は抗体エフェクター機能を組み合わせた抗体と独特の性質に貢献する分子の接合という利点を有する。このタンパク質ファミリーを生成する能力は、c−mycを抗体分子のFcに置換したときに最初に実証されたが(Neuberger M S、Williams G T及びFox R O.、Nature、125:604、1984)、多くの例が現在存在している。Ab融合タンパク質は、幾つかの異なる方法で得ることができる。1つの手法では、非Ig配列を可変領域に置換し;V領域が置換された分子によって、エフェクター機能などの性質に貢献する抗体を標的化する特異性、及び改善された薬物動態が与えられる。例にはIL−2及びCD4がある。或いは非Ig配列を定常領域に置換するか、或いはこれと結合させることができる。生成する分子は本来の抗体の結合特異性を保持しているが、結合するタンパク質から特性を得る。置換の位置に応じて、異なる抗体関連のエフェクター機能及び生物学的性質が保持されるであろう。例えば、「抗体の工学処理(Antibody Engineering)」、第2版:Carl A.K.Borrebaeck、Oxford University Press、1995)を参照のこと。
【0039】
IgG融合タンパク質を構築するためのベクター。一連のベクターが現在生成されており、これによって抗体分子内での異なる位置でのタンパク質の融合が可能であり、したがって異なる性質を有する融合タンパク質の構築が容易になる。これらのベクターを使用して、分子量、価電子が異なり、異なるサブセットの抗体分子の機能性を有する分子との融合タンパク質ファミリーを生成することができる。
【0040】
融合遺伝子の構築を容易にする方法の具体例として、部位特異的突然変異導入法を使用して、ヒトIgG3重鎖遺伝子中に独特の制限酵素部位を作製した。この特定の例では、CH1エクソンの3’端、CH2エクソンの5’端のヒンジの直後、及びCH3エクソンの3’端に、制限部位を生成した。このようにして生成した制限部位は、TtgGTgをTacGTaに置換したことによるCH1の末端のSnaBI、CAcCTGをCAgCTGに置換したことによるCH2の最初の部分のPvuII、及びAATgagをAATattに置換したことによるCH3の端のSspIであった。これらの操作によって、これらの位置に独特の平滑末端クローニング部位が与えられた。いずれの場合も、切断後にIgがコドンの最初の塩基に貢献するように、制限部位が位置していた。62アミノ酸の拡大したヒンジ領域を有するヒトIgG3を、免疫グロブリンとして使用するために選択する。存在するとき、このヒンジ領域は空間及び柔軟性を与え、これによって同時の抗原と受容体の結合を容易にするはずである。EcoRI部位もIgG3遺伝子の3’端に導入して、3’クローニング部位及びポリA付加シグナルを与えた。成長因子と共に使用するために最初は設計したが、これらの制限部位を使用して、抗体中の明確な位置に任意の新規の配列を置くことができる。さらに、これらのクローニングカセットを使用して、可変領域を容易に変えることができる。同様の技法を使用して、他の抗体遺伝子中に適切な制限部位を作製することができる。
【0041】
融合遺伝子の生成。融合タンパク質の生成中の第一ステップとして、平滑末端制限部位を所望の位置、融合させる遺伝子の5’端に導入しなければならない。正しい読み取り枠を保つために、切断後それが2塩基、コドンに貢献するように、部位が位置しなければならない。目的が完全な分子を有する融合タンパク質を作製することである場合、制限部位は通常、リーダー配列の後の位置などの、任意の翻訳後プロセシングの位置に導入する。或いは、目的がタンパク質の一部分のみを使用することである場合、平滑末端部位を遺伝子の任意の位置に導入することができるが、正しい読み取り枠を保つために注意を常に払わなければならない。さらに、融合タンパク質のカルボキシル末端の翻訳後プロセシングが存在する場合、このプロセシング部位に停止コドンを導入するのが望ましいことが多い。
【0042】
融合タンパク質生成時の重大な関心は、全ての要素の生物学的活性を保つことである。抗体との融合タンパク質の生成は、抗体のドメイン構造によって容易になり、全てのクローニング部位は完全なドメインの直後に位置している。この形状では、免疫グロブリンの正しい折り畳みが保証されるはずである。結合タンパク質の折り畳みは、その構造及びその融合場所に依存する。構造情報が利用可能であるときはいつでも、結合タンパク質の構造の完全性を保つ位置で、融合体を生成することが望ましい。
【0043】
機能分析に充分な量のタンパク質を生成するために、培地中にタンパク質を分泌させることが望ましい。今日までに報告されている例では、構築する融合タンパク質を構築し分泌させているが、他の融合タンパク質を設計するとき、これは依然関心事である。
【0044】
重鎖又は軽鎖遺伝子の一部分として生物学的活性があるペプチドを含む、融合遺伝子を設計するための方法は、確立された抗体の工学処理プロトコル「抗体の工学処理(Antibody Engineering)」、第2版:Carl A.K.Borrebaeck、Oxford University Press、1995、第9章、267〜293ページ)を使用することができる。H又はL鎖のN末端残基又はC末端残基に、ペプチドを融合させることができる。このような融合遺伝子の発現は、典型的には哺乳動物細胞系中で行われるが、例えば細菌又は酵母菌発現系などの、他の発現系を使用することができる。
【0045】
本発明のペプチドは、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有する。例には免疫賦活又は免疫調節活性がある。ペプチドは例えば、サイトカインのホルモン、リガンド、又は細胞受容体の本来のリガンドに由来する結合部位であってよい。好ましい実施形態では、ペプチドはC3d領域1217〜1232に由来し、約10〜約16量体の範囲である。他の実施形態ではペプチドは、C3d領域1217〜1232に由来する16量体ペプチドである。
【0046】
ペプチドは、完全長免疫グロブリン分子又は抗体の可変ドメイン断片である抗体と、結合することができる。本明細書で使用する、用語「抗体」は、抗原結合部位を含む重鎖又は軽鎖免疫グロブリン分子、或いはその任意の機能的組合せ又は断片を一般的に指す。抗体は、タンパク質、糖タンパク質、多糖又は炭水化物などの膜構造体上、及び正常細胞又は腫瘍細胞上の細胞受容体に特異的であることが好ましい。
【0047】
抗体中に取り込ませる免疫賦活性要素として、C3dのリガンド部位由来のペプチドを使用することには、分子アジュバントとしての予想外の有用性がある。D.Fearon他によって(Dempsey,P.W.、Allison,M.E.D.、Akkaraju,S.、Goodnow,C.C、及びFearon,D.T.、Science、271:348、1996)、C3dは分子アジュバントとして、メンドリ卵リソザイム(HEL)との完全な融合タンパク質の一部として使用されてきている。これらの筆者は、HEL−C3d融合タンパク質が、遊離HELより10,000倍まで免疫原性が高いことを示している(国際特許公開、国際公開第96/17625号を参照のこと)。
【0048】
我々の最新の動物実験では、C3d断片由来のペプチドを使用し化学的架橋したイディオタイプワクチンを用いて、免疫原性の同様の増大が観察されている(以下の実施例を参照のこと)。C3dペプチドをイディオタイプ及び抗イディオタイプワクチンと結合させることは、これらのワクチンの免疫原性を増大させ、フロイントアジュバンドなどの強力なアジュバンドと組み合わせた、FDAによってヒトに関する使用には認められていない、KLHなどの担体分子の結合の必要性の代わりとなると考えられる。
【0049】
他の実施形態では、ペプチドは位置1217〜1232のヒトC3d残基と相同的なヒト又は非ヒトC3d領域に由来してよく、約10〜約16量体の範囲である。抗体ワクチンに対する、親和性架橋した生物学的活性があるペプチドの他の適用例には、サイトカイン由来の活性ペプチドがある。例えば、IL1−βサイトカイン由来のナノペプチドが記載されており(Antoni他、J.Immunol、137:3201〜04、1986)、これは望ましくない副作用を誘導しない免疫賦活性を有する。本発明に従い抗体中に挿入することができる活性ペプチドの他の例には、シグナルペプチド、及び抗体の自己結合部位由来のペプチドがある。
【0050】
サイトカインのホルモン、リガンド、又は細胞受容体の本来のリガンド由来の結合部位などの、生物学的活性を有するさまざまなペプチドが知られている。
【0051】
以下の実施例1〜3は、親和性架橋によって作製されるC3d/抗体複合体に関するものであるが、これらを提供して抗体と結合したC3dペプチドによって与えられる免疫応答に対する影響を示す。
【実施例1】
【0052】
抗イディオタイプワクチンの向上。3H1は、ネズミ抗イディオタイプ抗体であり(Bhattacharya−Chatterjee他、J.Immunol.、145:2758〜65、1990)、これは癌胎児性抗原(CEA)を模倣している。3H1は、フロイントの完全アジュバント中でKLH結合ワクチンとして使用すると、抗CEA抗体を動物中で誘導する。3H1は臨床第I相試験においても試験されており、この場合3H1は、治療した癌患者のほぼ半分でCEAと結合する抗体を誘導する。しかしながら、部分的には低い免疫原性のために、臨床的応答はこの試験では観察されなかった(Foon他、J.Clin.Invst.、96:334〜342、1995)。
【0053】
3H1mAbは、C3d領域1217〜1232由来の13量体ペプチド(配列番号1)と親和性架橋させた。アミノ酸配列はCd3ペプチドに由来し、以下の配列:KNRWEDPGKQLYNVEA(配列番号1)を有する。
【0054】
BALB/cマウスに、25μgのC3d−3H1をリン酸−生理食塩水溶液に溶かしたものを筋肉内に2回免疫処置した。最後の免疫処置の7日後、マウスを失血させ、8019(Ab1イディオタイプ)、及びCEA発現腫瘍系LSI74Tとの結合に関して血清を試験した。FACSにより測定すると、C3d−3H1免疫マウス由来の血清はLS174T腫瘍細胞と結合するが、一方で対照血清(正常なマウスの血清)は、バックグラウンド蛍光のみを示した。C3d−3H1で免疫処置したマウス由来の血清は、FITC結合ヤギ抗マウスIgGで発色させるサンドウィッチアッセイにおいて、LS174T細胞のFACSで使用した。対照は正常なマウスの血清であった。分析した細胞数は、log10単位の相対的な蛍光強度に対してプロットした。
【実施例2】
【0055】
さらに、3H1(25マイクログラム、生理食塩水中)又は3H1−C3d−ペプチド(親和性架橋、25マイクログラム、生理食塩水中)で3回免疫処置したマウス由来の血清も、Ab3応答性に関して試験した。マウスを出血させ、ELISAにおいて3H1のF(ab)との結合に関して血清を試験した。マウス血清の希釈物と3H1F(ab)の結合を測定することによって、裸の3H1はAb3抗体を誘導しないが、3H1−ペプチドは誘導し、親和性架橋した3H1は免疫原性を増大させたことを示した。
【0056】
本発明を実施する際に使用することができる他のC3dペプチドには、その全容が参照として本明細書に組み込まれている、Lambris他、「補体の第三の成分、C3の系統発生(Phylogeny of the third component of complement、C3)」中、Erfi、A ed.「補体の構造及び機能の新たな側面(New Aspects of Complement structure and function)」、Austin,R.D.Landes Co.、1994 p.15〜34中に総説されたペプチドがある。
【実施例3】
【0057】
マウス腫瘍イディオタイプワクチン(38C13)の増強。38C13は、38C13 B−リンパ腫腫瘍細胞系によって発現されるイディオタイプである。Levyのグループは、このイディオタイプ腫瘍ワクチンモデルを開発してきており、KLH結合38C13Idを用いた事前免疫処置によって、マウス中での38C13腫瘍細胞による攻撃に対して防御することができることを示している(Kaminski,M.S.、Kitamura,K.、Maloney,D.G.及びLevy,R.、J.Lnniunol.、138:1289、1987)。Levyと同僚(Tao,M−H.及びLevy,R.、Nature、362:755〜758、1993)は、キメラ遺伝子から作製され哺乳動物細胞培養物の発酵において発現される、融合タンパク質(CSF−38C13)を使用する腫瘍防御の誘導も報告している。38C13Idタンパク質は、C3D領域1217〜1232由来の16量体アジド−ペプチドと親和性架橋させた。
【0058】
10匹のマウスに、50ugのC3d−38C13結合体をリン酸−生理食塩水溶液に溶かしたものを腹腔内に3回免疫処置した。3回目のワクチン接種の後、マウスを38C13腫瘍細胞で攻撃した。対照群は、この腫瘍モデル中で「ゴールドスタンダード」とみなされるQS−21に溶かした38C13−KLH(アジュバント)をワクチン接種したマウス、及びQS−21のみを注射したマウスを含んでいた。C3d−38C13結合体をワクチン接種した10匹のマウス中7匹が、腫瘍攻撃後第35日まで生存し、QS−21に溶かしたKLH−38C13をワクチン接種したマウスも同様であった。全ての対照マウスにはQS−21のみを注射し、第22日までに死亡した。
【0059】
C3Hマウスを、QS−21に溶かした38C13−KLH、又はQS−21無しの38C13−C3dペプチドで3回免疫処置した(50μg、腹膜内)。対照マウスにはQS−21のみを注射した。免疫処置マウス及び対照マウスは、次いで38C13腫瘍細胞で攻撃し、生存を調べた。
【0060】
実施例1〜3に記載した結果は、免疫賦活性ペプチドと腫瘍抗イディオタイプ及びイディオタイプワクチン抗体の親和性による架橋によって、腫瘍に対する免疫応答を有意に増大させ、腫瘍攻撃に対して防御することができることを示す。C3d架橋ワクチンを用いるワクチン接種プロトコルは、フロイントのアジュバントなどの任意のアジュバント、又はKLH結合体を含んでおらず、この両者はヒトにおける使用に関してはFDAによって認められていない。
【0061】
前の実施例で使用した手順の幾つかは知られており、C3d(補体断片)の活性結合ペプチドはLambris他、(PNAS、82:4235〜39、1985)によって記載されており、これはその全容が参照として本明細書に組み込まれている。
【0062】
以下の追加的な実施例を与えて、融合タンパク質を作製する一般的な技法を実証し、免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有する特定のペプチドを示す。
【実施例4】
【0063】
膜移動ペプチド(MTS−ペプチド)を含む融合非Igタンパク質。例えば、Rojas、M,Donahue、J P,Tan,T.及びLin,Y−Z.Nature Biotech.、16:370、「グルタチオンS−トランスフェラーゼ−MTSペプチド(GST−MTS)発現プラスミドの構築(Construction of the glutathion S−transferase−MTS peptide(GST−MTS)expression plasmids)」1998を参照のこと。
【0064】
2つの異なるGST−MTS発現プラスミドを、生物学的用途に応じて、アミノ末端又はカルボキシル末端伸長部として疎水性MTSを有する、標的タンパク質又はタンパク質ドメインを生成することができるように構築した。プラスミドpGEX−3X−MTSI及びpGEX3X−MTS2を構築するために、以下の相補的オリゴヌクレオチドを合成した:

【0065】
アニーリング後、二本鎖MTSIオリゴヌクレオチドとMTS2オリゴヌクレオチドを、BamHIで消化したpGEX−3X中で連結させた(Smith,D.B.及びJohnson,K.S.、「グルタチオンS−トランスフェラーゼとの融合体として大腸菌中で発現されるポリペプチドの1ステップ精製(Single−step purification of polypeptides expressed in Escherichia coli as fusions with glutathione S−transferase)」Gene、67:31、1988.)。DNA配列分析によって、それぞれのプラスミドにおいて、MTSコード配列は正確であり、GSTコード配列とインフレームであったことを確認した。
【0066】
GST−Grb2SH2、GST−Grb2SH2−MTS、及びGST−StatlSH2−MTS発現プラスミドの構築。ヒトGrb2SH2ドメイン(アミノ酸残基54〜164)(Lowenstein,E.J.、Daly,R.J.、Batzer,A.G.、U,W.,Margolis,B.、Lammers,R他、「SH2及びSH3ドメイン含有タンパク質Grb2は受容体チロシンキナーゼと結合してrasシグナル化する(The SH2 and SH3 domain−containing protein Grb2 links receptor tyrosine kinases to ras signaling)」、Cell、70:431、1992)、又はヒトStatlSH2ドメイン(残基567〜716)(Schindler,C.、Fu,X.−Y、Impnota,T.、Aebersold,R.、及びDarnell,J.E.Jr.、Proc.Natl Acad.Sci USA 89:7836、1992)をコードするDNA断片を、Grb2のcDNAクローン又はStatlのcDNAクローンからPCRにより合成した。それらの5’端にBamHI部位をそれぞれ含む、PCR用に使用したプライマーは、以下のものであった:

【0067】
PCR産物はBamHIで消化し、BamHIで消化したpGEX−3X又はpGEX−3XMTS2中で連結させた。ベクター/挿入体接合部のDNA配列分析によって、GST−Grb2SH2、GST−Grb2SH2−MTS、及びGST−Stat1SH2−MTSの翻訳読み取り枠が、それぞれの発現プラスミド中で保たれたことを確認した。
【0068】
MTS融合タンパク質の発現
GST融合タンパク質の発現及び精製。適切な発現プラスミド74を含む大腸菌菌株DHSorを、37℃において100μg/mlのアンピシリンを含むLBブロス中で増殖させた。GST融合タンパク質の発現は、イソプロピル、B−D−チオガラクトシド(0.5mMの最終濃度)を加えることによって誘導し、37℃でのインキュベーションを2〜3時間続けた。GST融合タンパク質は、グルタチオン−アガロース親和性クロマトグラフィーによって細菌細胞の溶解物から精製した(Smith,D.B.及びJohnson,K.S.Gene、67:31、1988)、ただし超音波処理の後、グルタチオン−アガロースビーズと混合する前に、5分間2000回転での遠心分離によって細胞溶解物を除去した。タンパク質調製物はPMIO膜(Amicon、Beverly、MA)を使用する限外濾過によって濃縮し、すぐに使用するために4℃で、或いは長期の保存用に−70℃で保存した。タンパク質濃度は、280nmにおいて分光光度計によって測定した。生物学的アッセイにおいてこれらを使用する直前に、知られている濃度の野生型GSTと比較したクーマシーブリリアントブルー染色強度を使用する、SDS−PAGEによってタンパク質濃度を確認した。GST−MTSタンパク質中のMTSのアミノ酸含有量を確認するために、(Smith,D.B.及びJohnson,K.S.、Gene67:31、1988)に記載されたのとほぼ同様に、プロテアーゼ因子Xaを用いてグルタチオン−アガロース結合GST−MTSIから、MTSペプチドを切断した。切り離したMTS含有ペプチドはC逆相HPLCによって精製し、(Smith,D.B.及びJohnson,K.S.、Gene67:31、1988)に記載されたのと同様に、質量分光分析によって特徴付けした。切り離したMTS含有ペプチドはC18逆相HPLCによって精製し、(Lin,Y−Z.、Yao,S.、Veach,R.A.、Torgerson,.R.、及びHawiger,J.、JBiol.Chem.270:14255、1995)に記載されたのと同様に、質量分光分析によって特徴付けした。
【実施例5】
【0069】
C3d−HEL融合タンパク質(Dempsey他、Science、271:348、1996)。HEL、C3d(H.Domdey他、Pro.Natl Acad Sci USA、79:7619、1982)doqプレ−プロ−インシュリンシグナル配列(M.E.Taylor及びK.Drickamer、Biochem.J.、274、575、1991)、及び(G4S)連結基をコードする相補的DNAを、ポリメラーゼ連鎖反応によって増幅させた。エピトープタグ及び停止コドンは、オリゴヌクレオチド連結基によってコードされていた。融合タンパク質カセットはタンデム:pSG5(Stratagene Cloning Systems、La Jolla、CA)中で(GS)によって連結された、doqプレ−プロ−インシュリンシグナル配列、HEL、及び1〜3個のC3dのコピーで構築した。HEL−C3d3カセットは、A71dベクターにサブクローニングした。プラスミドpSG.HEL、pSG.HEL.C3d、及びpSG.HEL.C3d2を、pSV2−neoと共にL細胞及びA71dにコトランスフェクトした。HEL.C3d3をCOS細胞中で一過的に発現させた。組換えタンパク質は、YL1/2抗体に関する親和性クロマトグラフィー(H.Skinner他、J.Biol.Chem.、66:14163、1991)、及びSephacryl S−200(Pharmacia)での分画化によって精製した。
【0070】
融合尾部は研究室規模で有用であり、経済的な回収法を使用して回収を高めるための能力を有し、これらは産業の下流プロセス用に容易にスケールアップされる。融合尾部を使用して標的タンパク質の分泌を促進することができ、酵素活性又は抗体結合に基づいて有用なアッセイタグを与えることもできる。多くの融合尾部は標的タンパク質の生物学的活性を害さず、幾つかの場合、それを安定化させることが示されてきている。それにもかかわらず、真正タンパク質の精製に関して、特異的に切断される部位が含まれることが多く、回収後に尾部の除去が可能になる。
【0071】
組換えタンパク質を回収及び精製するための融合尾部。(例えば、Ford C.、Suominen I.、Glatz C.、Protein Expr.Purif.2〜3:95〜107、1991を参照のこと)。本発明の融合タンパク質は、粗製の細胞抽出物又は培養培地からの組換えタンパク質の効率の良い回収及び精製を促進するように開発された、融合尾部も含むことができる。これらの系では、標的タンパク質は遺伝的に改変されて、C末端又はN末端ポリペプチド尾部を含んでおり、これによって回収及び精製における特異性に関する生化学的基盤が与えられる。さまざまな特性を有する尾部が使用されてきている:
(1)固定された基質又は阻害剤に関する親和性を有する完全な酵素;
(2)免疫グロブリンG又はアルブミンとの親和性を有するペプチド結合タンパク質;
(3)炭水化物結合タンパク質又はドメイン;
(4)融合タンパク質とアビジン又はストレプトアビジンの親和性を促進するための、in vivoビオチン化用のビオチン結合ドメイン;
(5)固定されたモノクローナル抗体との親和性を有する抗原エピトープ;
(6)固定金属の親和性クロマトグラフィーによる回収用のポリ(His)残基;及び
(7)アミノ酸側鎖の性質に基づく結合特異性を有する他のポリ(アミノ酸)。
【0072】
融合尾部は研究室規模で有用であり、経済的な回収法を使用して回収を高めるための能力を有し、これらは産業の下流プロセス用に容易にスケールアップされる。融合尾部を使用して標的タンパク質の分泌を促進することができ、酵素活性又は抗体結合に基づいて有用なアッセイタグを与えることもできる。多くの融合尾部は標的タンパク質の生物学的活性を害さず、幾つかの場合、それを安定化させることが示されてきている。それにもかかわらず、真正タンパク質の精製に関して、特異的に切断される部位が含まれることが多く、回収後に尾部の除去が可能になる。
【0073】
本発明は、対応する抗原に関する抗体の特異性を変えずに抗体の生物学的活性及び免疫活性を高める、抗体−ペプチド融合タンパク質の作製を記載する。この遺伝的に改変された融合タンパク質は、特許出願第09/070,907号中に記載される化学的に改変されたキメラ抗体と似ている。詳細には本発明は、いずれも前に記載した、完全又は部分的な独立栄養性24量体ペプチド、膜輸送ペプチド(MTS)又はC3dペプチドを含む抗体融合タンパク質の作製を提供する。
【0074】
本発明は、(1)抗体及び(2)免疫賦活、膜輸送及び同種親和活性からなる群から選択される生物学的活性を有するペプチドであって、抗体の抗原結合を害さない部位で、抗体とペプチド結合によって結合したペプチドから構成される融合タンパク質を含む、組成物及び医薬組成物も提供する。
【0075】
本発明のペプチド/抗体複合体中に、任意の抗体を使用することができる。好ましい抗体は抗イディオタイプ抗体である。例えば、抗イディオタイプ抗体3H1を使用することができる(「アジュバント治療剤として胎児性癌抗原(CEA)を模倣した抗イディオタイプ抗体ワクチン(3H1)(Anti−idiotype Antibody Vaccine (3H1)that Mimics the Carcinoembryonic Antigen(CEA)as an Adjuvant Treatment)」、Foon他、Cancer Weekly、Jun.24、1996を参照のこと)。本発明で使用することができる他の抗イディオタイプ抗体には、例えばクラミジア糖脂質外抗原に対する抗イディオタイプ抗体(米国特許第5,656,271号);メラノーマ及び小細胞癌腫の治療用の抗イディオタイプ抗体1A7(米国特許第5,612,030号);抗イディオタイプ抗体MK2−23抗メラノーマ抗体(米国特許第5,493,009号);抗イディオタイプ淋菌抗体(米国特許第5,476,784号)Pseudomonas aeruginosa抗イディオタイプ抗体(米国特許第5,233,024号);ヒトB細胞腫瘍の表面Igに対する抗体(米国特許第4,513,088号);及びモノクローナル抗体BR96(米国特許第5,491,088号)がある。ペプチドの長さに関する任意の制限は、ペプチド合成に関する実際の制約であるが、本発明の方法の実施に関する制限ではない。
【0076】
さらに、(その全容が参照として本明細書に組み込まれている、Kang,C.Y.Brunck、T.K.,Kiever−Emmons、T.、Blalick,J.E.及びKohler,H.、「VH由来ペプチドによる自己結合タンパク質(自己抗体)の阻害(Inhibition of self−binding proteins(auto−antibodies)by a VH−derived peptide)」、Science、240:1034〜1036、1988)中に開示されたペプチドなどの自己結合ペプチドを、本発明の方法で使用することができる。
【0077】
さらに、その全容が参照として本明細書に組み込まれている、Rojas他、「細胞膜浸透性を有するタンパク質の遺伝的改変(Genetic Engineering of proteins with cell membrane permeability)」、Nature Biotechnology、16:370〜375(1988)及び「Calbiochemシグナル変換カタログ(Calbiochem Signal Transduction Catalogue)」1997/98中に開示されたペプチドなどのシグナルペプチドを、本発明の方法で使用することができる。
【0078】
米国特許第5,523,208号(その全容が参照として本明細書に組み込まれている)の開示に従い、逆水治療法性を有しペプチド内で相互親和性及び同種親和性(自己)結合を示す、ペプチドを設計することができる。
【0079】
本発明は、正常細胞又は感染細胞中の細胞機能を調節するための新規な化合物及び方法を企図するものである。このような化合物は、そこに結合したペプチドの細胞浸透作用によって細胞内に内在化することができる、抗体又はその断片を含む。このようなペプチドを本明細書では、「膜輸送ペプチド」などと呼ぶ。知られている膜輸送ペプチド、又はそれらの活性断片は、結合ペプチドとして使用することができる。このような抗体又はその断片は、(a)カスパーゼ、キナーゼ、及びホスファターゼなどの細胞内のシグナルタンパク質、(b)細胞内で構築される前の未成熟ビリオンタンパク質、(c)細胞表面抗原又は細胞内腫瘍抗原、(d)DNA合成及び遺伝子発現の調節に関与する核タンパク質又は核小体タンパク質、又は(e)細胞増殖又は細胞分裂停止に関与する細胞骨格タンパク質などのタンパク質標的に免疫特異的である。ポリクローナル又はモノクローナル抗体を使用することができる。このような抗体又はそれらの断片は、10−9M以上の親和性でそれらの抗原決定基と結合することが好ましい。
【0080】
本発明の特に好ましい化合物は、膜輸送タンパク質、又はそのペプチド断片と結合した抗カスパーゼ抗体を含む化合物である。好ましい膜輸送断片は、膜転座配列(MTS)ペプチドである。特に好ましい膜輸送ペプチドには、以下のものがある:
(1)KGEGAAVLLPVLLAAPG(配列番号8)、カポジ肉腫の線維芽細胞成長因子[K−FGF]由来(Rojas他、Nature Biotechnology、16:370〜375(1988)。
(2)AAVLLPVLLAAP(配列番号9)、前述のペプチドの切断型、Lin他、J.Biol.Chem.、271:5305(1996)を参照のこと。
(3)RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号10)、アンテナペディアのホメオドメイン(Ant)由来の「ペネトラチン」(Lindberg,M.他、Eur.J.Biochem.、270(14):3055〜3063(2003)を参照のこと)。
(4)RRMKWKK(配列番号11)、ペネトラチンのC末端配列、例えばFischer,P.他、J.Peptide Res.、55(2):163〜172(2000)を参照のこと。
(5)TATペプチド、例えばHIV−I TAT由来のaa47〜57及び48〜60(例えばSchwarze、S.他、Trends Pharmacol.Sci.、21:45、2000;Li Y.他、Biochem.Biophys.Res.Commun.298(3):439〜449、2002;Hallbrink M.他、Biochim.Biophys.Acta、1515(2):101〜109、2001を参照のこと)。
(6)ヘルペスウイルスタンパク質VP22(Elliot,G.他、Cell、88:223(1997))。
(7)GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号12)、「トランスポルタン」、27量体ペプチド(Pooga、M.他、FASEB J.、12:67(1998);Lindberg,M.他、Biochem.、40:3141〜3149、2001を参照のこと)。
(8)AGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号13)、N末端6残基が欠失したトランスポルタン(Soomets、U.他、Biochim.Biophys.Acta、1467:165〜176、2000を参照のこと)。
(9)MAPとも呼ばれる、Lys−Leu−Ala−Leu(KLAL)(配列番号14)(Hallbrink M.他、Blochim.Biophys.Acta、1515(2):101〜109、2001も参照のこと)。
【0081】
本明細書で論じる、膜輸送タンパク質又はその断片と結合した抗カスパーゼ抗体を含む、アポトーシスを阻害するのに有効な医薬組成物も企図される。これらを作製するそのような融合タンパク質及び方法は、参照として本明細書に組み込まれている米国特許第09/865,281号(Kohler他)中に開示されている。
【0082】
本発明の好ましい免疫複合体は、抗体のヌクレオチド又はトリプトファン部位仲介、又は抗体のN末端連結炭水化物仲介を含めた連結の幾つかの型の1つによって、MTS配列と結合した二次抗体を含む。本明細書で使用する「二次抗体」は、一次抗体と特異的に高い親和性で結合する、抗体又はその断片を指す。本発明に有用な二次抗体には、ネズミ又はヒトIgGに対するポリクローナル又はモノクローナル抗グロブリン、又は抗体に独立栄養性を与えるT15配列(Kang,CY、Brunck,TK、Kieber−Emmons、T他、「VH由来ペプチドによる自己結合抗体(自己体)の阻害(Inhibition of self−binding antibodies(autobodies)by a VH−derived peptide)」、Science、240:1034〜6、1988)などの、新規且つ/或いは備え付けの配列を標的とする二次抗体がある。
【0083】
細胞表面抗原を標的とするモノクローナル抗体又は免疫複合体を事前投与又は事前注射し、標的との結合及び組織からの除去に充分な時間を与え、MTSペプチドと共有結合した二次抗体の投与を続けることによって送達を行う。一次抗体は毒素、薬剤、酵素又はアイソトープなどの阻害剤と結合することができ、これによって阻害剤分子の細胞中への送達を高めることができる。MTSペプチドと結合した二次抗体は、一次抗体を認識しこれと結合し、MTSペプチド活性によって細胞に内在化する。このようにして、一次免疫複合体が細胞中に運ばれ、そこでその阻害作用が高まる。
【0084】
一次抗体とMTSと結合した二次抗体を混合させ、次いで細胞を露出させ、及び一次抗体を標的とする細胞活性の阻害に関して試験することによって、このような二次結合体を使用して、細胞内標的に対するモノクローナル抗体の有用性を評価することもできる。この迅速なスクリーニングでは、細胞内標的に対する多くの抗体を、アンタゴニスト又はアゴニストとしての有用性に関してスクリーニングすることができる。したがって活性を有する抗体は、in vivo使用のためにMTSなどの膜輸送ペプチドと直接結合させることができる。
【0085】
本発明の好ましい実施形態は、二次抗体及び一次抗体のトリプトファン又はヌクレオチド結合部位と結合した、化学物質又はペプチド連結基又はキレート化合物によってスルフヒドリル、εアミノ酸又は炭水化物残基を介して結合した毒素、薬剤又はアイソトープと結合した、MTSペプチドを使用する。
【0086】
本発明は概略的に、in vivoにおける抗体結合体の細胞内部への送達に関する。このような抗体は潜在的に中和、抗ウイルス抗体、抗調節タンパク質抗体、又は抗腫瘍抗体であってよい。例えば、MTSペプチドを含む抗体結合体、及び未成熟ウイルス又は病原体で最も発現されるウイルス又は他の細胞内病原体上の抗原決定基を対象とする抗体を、生きている生物に投与することによって、送達を行うことができる。このような結合体は、それが他の細胞を成熟させ感染させる機会を有する前に、高い親和性で結合し、ウイルス構築体を破壊し、ウイルスを中和する充分な機会を有する。
【0087】
したがって本発明は、広範囲の抗体療法の一例としての、抗ウイルス(抗HIV)療法を提供する。本発明において好ましい抗体は、以下の好ましい性質を有する:
(1)本発明の抗体は、主に細胞内で発現される抗原と結合する。これは腫瘍関連抗原(TAA)及びウイルス糖タンパク質を含む。前者は、CEAなどのTAAを含む。個々の抗原決定基は細胞内形のタンパク質と主に結合することができ、一方他の抗原決定基は、主に表面上で発現される可能性がある。本発明より前に、細胞表面分子との反応性に関して、細胞内抗原を標的化する能力を有する、多くの有用な治療抗体が選択されており、選択基準は細胞内抗原との主な反応性を含むと思われる。
(2)細胞内標的はウイルス糖タンパク質を含む。例えば、大部分のモノクローナル抗体は、わずか数継代の細胞中を伝播するウイルスではなく多継代の細胞中を伝播するウイルスに対して産生されており;結果として、ウイルスに対する大部分のモノクローナル抗体は、新たな単離体よりも研究室用のウイルス菌株と良好に反応する。この結合の違いに関して提案されている説明は、大部分の抗体は、HIVに対する抗体と同様に、充分なグリコシル化及びウイルス糖タンパク質の折り畳みのために、わずか数継代のウイルス(及びおそらく新たに合成されたウイルス)由来のウイルス糖タンパク質上に隠れており且つ部分的に埋もれている、抗原決定基と反応するということである。これは、大部分の抗体は、過小グリコシル化又は不完全にグリコシル化した糖タンパク質を有する未成熟ビリオン又は不完全ビリオン、及び/又は完全に構築されていない未成熟ビリオン又は不完全ビリオンとより良く結合するはずであることを意味すると思われる。したがって、本来のウイルスとの限られた反応性のために、療法に有用であるとみなされない抗体は、細胞内の未成熟形への接触によって、標的化するのに有用であると思われる。
(3)本発明の抗体は、立体配座依存性の配列よりも、TAA又はウイルス糖タンパク質上のアミノ酸の直線配列と結合する。このような抗体は、合成及び成熟の初期に細胞内抗原と結合する可能性がさらに高く、これは、細胞内に存在する未成熟ビリオン又は非構築、糖タンパク質前駆体を含むと思われる。
(4)これらの抗体は、10−9M以上の親和性でそれらの抗原決定基と結合するはずである。
【0088】
MTS輸送ペプチド改変型モノクローナル抗カスパーゼ−3抗体は、生細胞中のアクチノマイシンD誘導型アポトーシス及びスペクトリンの切断を減らすことを、具体的な実施例によって、本明細書においてここで示す。これらの結果は、このような抗体が、さまざまな疾患においてアポトーシスを阻害する治療能力を有することを示唆する。
【実施例6】
【0089】
細胞系及び抗体。ヒトJurkat T細胞リンパ腫を、10%ウシ胎児血清及び抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン及びアンフェテリシン)を補ったRPMI 1640中で増殖させた。ウサギポリクローナル抗活性カスパーゼ−3抗体、及び抗切断型フォドリン、即ちαIIスペクトリンを、Cell Signaling,Inc.(Beverly、MA)から購入した。ウサギモノクローナル抗活性カスパーゼ−3抗体は、BD PharMingen(San Diego、CA)から購入した。ウサギ抗スペクトリン抗体は、Cell Signaling(Beverly、MA)から購入した。マウスモノクローナル抗体3H1(抗CEA)は、タンパク質G親和性クロマトグラフィーによって細胞培養物上清から精製した。抗マウス及び抗ウサギHRP結合二次抗体は、Santa Cruz Biotechnologies,Inc.から購入した。ApoAlertカスパーゼ−3蛍光アッセイキットは、Clontech Laboratories,(Palo Alto,CA)から購入した。細胞死検出ELISAは、Roche Applied Sicence(Indianapolis、IN)から購入した。カスパーゼ阻害剤は、Enzyme Systems Products(Livermore、CA)から購入した。
【実施例7】
【0090】
抗体−ペプチド結合体の合成。MTSペプチド(KGEGAAVLLPVLLAAPG)はシグナルペプチド系膜転座配列(1)であり、Genemed合成(サンフランシスコ、CA)によって合成した。抗体をPBS(pH6.0)バッファーに対して透析し、1/10体積の200mmol/LのNaIOを加え、暗所中で30分間4℃においてインキュベートすることによって酸化した。30mMまでグリセロールを加えることによって酸化を停止させ、PBS(pH6.0)バッファーに対して30分間4℃でサンプルを透析した。50倍を超えるMTSペプチドを分子中に使用して、37℃で1時間のインキュベーションによって抗体を結合させ、次いで抗体−ペプチドをPBS(pH7.4)に対して透析した。
【実施例8】
【0091】
MTS結合抗活性カスパーゼ−3抗体の細胞増殖に対する影響。2.5×10個のJurkat細胞を、96ウエルの培養プレートに接種した。0.5μgのMTS抗体結合体と共に6、12、18及び24時間インキュベートした後、等分試料を除去し、生存能力のある細胞は色素排除試験(トリパンブルー)を使用して計数した。
【実施例9】
【0092】
ELISAによる抗体内在化の試験。1ml培地で増殖させたJurkat細胞を、2μgの裸又はMTS抗体結合体と共に、0、1、3、6、12及び18時間6ウエルの培養プレート(Costar、Cambridge、MA)中でインキュベートした。細胞をスピンダウンさせ、培養物上清を新しいチューブに移し、30秒間Pellet Pestle Motor(Kontes、Vineland、NJ)によって均質化する前に、PBS(pH7.4)で細胞ペレットを2回洗浄した。全ての細胞ホモジェネート及び同体積(10μl)の培養物上清を、ヒツジ抗ウサギIgGをコーティングしたELISAプレート(Falcon、Oxnard、CA)に加え、室温で2時間インキュベートした。洗浄後、HRP標識ヤギ抗ウサギ軽鎖抗体を加え、o−フェニレンジアミンを使用して抗体を目に見える状態にした。
【実施例10】
【0093】
DNA断片化。Jurkat細胞を抗体又はカスパーゼ−3阻害剤(DEVD−fmk)で1時間予備処理し、遠心分離にかけ、アクチノマイシンD(1μg/ml)を含む新たな培地と共に4時間インキュベートした。処理後、Jurkat細胞を回収し、PBS(pH7.4)で洗浄し、次いで700μlのHLバッファー(10mMのTris−HCl、pH8.0、1mMのEDTA、0.2%のTriton X−100)中に懸濁させ、室温で15分間インキュベートした。粗製DNA調製物を、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)で2回抽出し、0.1体積の5M NaCl及び1体積のイソプロパノールを用いて−20℃で24時間沈殿させた。回収したDNAは、TEバッファー(10mMのTris、pH8.0及び1mMのEDTA)に溶かした。同じ量のDNAを1.5%アガロースゲル上での電気泳動によって解像し、臭化エチジウムで染色した後にUV蛍光によって可視化した。DNA断片化は、細胞死検出ELISA(Roche、Indianapolis、IN)によっても検出し、わずかな改変で製造者の教示書に従いこれを行った:JB6細胞をp100プレート中で増殖させ、処理後に細胞を回収し、25μlの完全な細胞溶解物をそれぞれのサンプルウエルに施した。
【実施例11】
【0094】
全細胞溶解物の調製。Jurkat細胞は前項と同じ方法で処理した。処理後、Jurkat細胞を回収し、PBS(pH7.4)で2回洗浄し、次いで300μlのCHAPSバッファー(50mMのPIPES、pH6.5、2mMのEDTA、0.1%のCHAPS)中に懸濁させた。サンプルを10秒間超音波処理し、4℃において15分間14,000rpmで遠心分離にかけた。上清を新しいチューブに移し、「全細胞溶解物」と呼んだ。
【実施例12】
【0095】
カスパーゼ−3様切断活性アッセイ。Jurkat細胞は前項と同じ方法で処理した。等しいタンパク質濃度の全細胞溶解物及びApoAlertカスパーゼ−3蛍光アッセイキットを使用して、製造者の教示書に従いカスパーゼ−3活性を分析した。スペクトルMAX GEMINIリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて、蛍光を測定した。
【実施例13】
【0096】
ウエスタンブロット分析。Jurkat細胞は前項と同じ方法で処理した。10μgの全細胞溶解物を10%のSDS−PAGEゲル上で分離して、切断型スペクトリン(1:1000希釈)に対する免疫反応性タンパク質を検出した。ポンソー染色を使用して、タンパク質のニトロセルロース膜上への移動の均一性を調べた。膜は蒸留水で洗浄して過剰な染色液を除去し、Blotto(5%のミルク、10mmのTris−HCl[pH8.0]、150mMのNaCl及び0.05%のTween20)中において2時間室温でブロッキングした。二次抗体を加える前に、膜をTBST(10mMのTris−HCl、150mMのNaCl及び0.05%のTween20)で2回洗浄し、次いでこの膜を、1:4000希釈でホースラディッシュペルオキシダーゼ結合二次抗体(Santa Cruz Biotechnology)と共にインキュベートした。最終洗浄ステップは、TBSTで3回(それぞれ5分間)、及びTBS(10mMのTris−HCl及び150mMのNaCl)で2回(それぞれ5分間)を含んでいた。高度な化学発光検出システム(ECL、Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)によって、抗体のバンドを目に見える状態にした。
【0097】
結果
MTS結合抗活性カスパーゼ−3抗体は、細胞増殖の阻害をほとんど示さない。最初に試験したのは、細胞に対するMTS抗体結合体の潜在的な毒性であった。細胞の生存能力アッセイによって、MTS抗体結合体は細胞増殖に対してほとんど影響を示さなかったことが示された(図1)。
【0098】
MTSペプチドは、生細胞中への抗活性カスパーゼ−3抗体の迅速な浸透を促進する。サンドウィッチアッセイを使用し、ELISAを設計してウサギIgを捕捉した。図2中に見られるように、MTS結合体は、モノクローナル抗活性カスパーゼ−3抗体を、生細胞中へ内在化させるのを迅速に促進した。Igの移動は1時間以内に増大し、18時間後に安定状態に達した。培養物中に残っていた抗体は1時間で減少し、18時間で平衡状態に達したようであった。裸抗体の内在化は遅れ(3時間で)、MTS結合抗カスパーゼ−3抗体と比較して低いレベルの状態であった。
【0099】
ポリクローナルMTS抗活性カスパーゼ−3抗体は、DNA断片化を阻害する。MTS結合又は裸ポリクローナル抗カスパーゼ−3抗体(1μg/mlの最終濃度−1:64希釈相当)を6mlの培養Jurkat細胞に加え、1時間プレインキュベートした。抗体は遠心分離によって洗浄除去し、アクチノマイシンD(1μg/ml)のみを含み抗体は含まない新たな培地を加え、細胞は4時間インキュベートした。5mlの培養物をDNA断片化用に回収した。裸(非結合)抗カスパーゼ−3ポリクローナル抗体が、アクチノマイシンD処理によるDNAラダー化を妨げることはなかった。対照的に、MTS結合抗カスパーゼ−3ポリクローナル抗体は、アクチノマイシンDによって誘導されるDNA断片化(アポトーシス)を有意に阻害した(データ示さず)。
【0100】
モノクローナルMTS抗活性カスパーゼ−3抗体は、DNA断片化を妨げる。MTS結合又は裸モノクローナル抗カスパーゼ−3抗体(1μg/mlの最終濃度)を6mlの培養Jurkat細胞に加え、1時間プレインキュベートした。抗体は遠心分離によって洗浄除去し、アクチノマイシンD(1μg/ml)のみを含み抗体は含まない新たな培地を加え、細胞は4時間インキュベートした。5mlの培養物をDNA断片化用に回収し、残りは細胞死ELISAアッセイ用に保存した。MTS結合抗体がDNAラダー形成を抑制することを観察したが、一方裸(非結合)抗カスパーゼ−3モノクローナル抗体が、アクチノマイシンD処理によるDNAラダー化を妨げることはなかった(データ示さず)。細胞死ELISAアッセイ(図3)によって、MTS結合抗体で細胞を予備処理すると、細胞アポトーシスの有意な減少を確認した。カスパーゼ−3阻害剤(DEVD−fmk)と共にインキュベートしたJurkat細胞は100%の生存能力を維持し、賦形剤(DMSO)処理した対照細胞は約80%の生存能力を維持した。裸の抗カスパーゼ−3抗体処理群では、わずか36%までの細胞が、4時間後に生存能力がある状態であった。しかしながら、70%の細胞は生存能力がある状態であったので、MTS抗カスパーゼ−3結合抗体処理によって、アクチノマイシンD誘導型アポトーシスに対しては劇的に保護された(表1参照)。
【表1】

【0101】
MTS結合抗活性カスパーゼ−3抗体は、カスパーゼ−3活性を抑制する。Jurkat細胞を前項と同様に処理し、ネズミ抗CEA抗体を改変し対照として使用した。図4に示すように、カスパーゼ−3様切断活性はアクチノマイシンD処理によって増大し、MTS結合モノクローナル抗活性カスパーゼ−3抗体はカスパーゼ−3様切断活性を低下させ、一方MTS−3H1抗体は全く効果を示さなかった。細胞死ELISAアッセイによって、MTS結合モノクローナル抗カスパーゼ−3抗体が、有意に低いDNA断片化を示したことも確認した(データ示さず)。
【0102】
MTS抗活性カスパーゼ−3抗体はスペクトリン切断を阻害する。カスパーゼ−3の下流標的として、スペクトリンのタンパク質レベルを調べた。スペクトリンの2つの切断断片を、アクチノマイシンD処理Jurkat細胞において観察した(データ示さず)。3H1もMTS−3H1も、スペクトリンの切断を保護しなかった。裸のモノクローナル抗活性カスパーゼ抗体は、保護に対する影響をほとんど示さず;一方MTS結合抗活性カスパーゼ−3抗体は、カスパーゼ−3阻害剤DEVD−fmkと同様に、100kDa及び75kDaαIIスペクトリン断片の切断を完全に抑制した。150kDaの切断バンドは、全ての抗体予備処理細胞サンプルにおいて明らかな変化は全く示さなかった。
【0103】
結論
前述の結果は、抗カスパーゼ−3抗体は、カスパーゼ−3活性、DNA断片化、及びスペクトリン切断などのin−vitroアポトーシス関連事象を有意に阻害することができることを示す。したがって抗カスパーゼ−3抗体を使用して、さまざまな疾患におけるアポトーシスを阻害することができる。治療上使用される抗体と対照的に、げっ歯類動物モデルにおいて示されるように、従来のペプチドアポトーシス阻害剤は強い阻害を示すだけでなく、高い毒性などの悪い副作用も有する。したがって輸送膜結合抗体は、従来のアポトーシス阻害剤と比較して低い毒性を有する。したがって輸送膜(MTS)結合抗体は、特にアルツハイマー病、ハンチングトン病及びパーキンソン病などの疾患の中枢神経系のアポトーシスを含めた、疾患を治療するための有望な新しい候補となる。
【0104】
本発明の組成物は、適量の活性成分を含む、単位剤形、滅菌溶液又は懸濁液、滅菌経口溶液又は懸濁液、経口溶液又は懸濁液、水中油型又は油中水型エマルジョンなどでの、ヒト及び動物への全身投与用の医薬組成物に有用である。局所施用は、軟膏、クリーム、ローション、ゼリー、スプレー、灌注剤などの形であってよい。本発明の組成物は、約1〜20%、及び好ましくは約5〜15%の組成の、活性成分及び担体又は賦形剤の医薬組成(重量%)で有用である。
【0105】
前述の非経口溶液又は懸濁液は経皮的に投与することができ、望むならば、さらに濃縮された徐放形を投与することができる。本発明の架橋ペプチドは、静脈内、筋肉内、腹膜内、又は局所に投与することができる。したがって、経皮投与用に徐放性物質中への活性化合物の取り込みを行うことができる。本発明の目的に認められる医薬担体は、薬剤、宿主、又は薬剤送達デバイスを含む物質に悪影響を与えない、当分野で知られている担体である。担体は、アジュバント、例えば防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤など、及び本発明の浸透性増大物質も含むことができる。哺乳動物に関する有効な用量は、治療される被験体の年齢、体重、活性レベル又は状態などの要因によって変わる可能性がある。典型的には、本発明の化合物の有効な用量は、少なくとも1日1回懸濁液によって投与するとき、約10〜500mg、好ましくは2〜15mgである。投与は適切な間隔で繰り返すことができる。
【0106】
前述の記載及び実施例の目的は、いかなる制限も示さずに本発明の幾つかの実施形態を例示することである。本発明の組成物及び方法のさまざまな変更形態及び変形を、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに添付の特許請求の範囲内で実施することができることは、当業者には容易に明らかであろう。本明細書に引用した全ての特許及び刊行物は、それらの全容が参照として組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】MTS抗活性カスパーゼ−3抗体結合体で処理したJurkat細胞の、検出による生存能力を示す図である。2.5×10個のJurkat細胞を、96ウエルの培養プレートに接種した。0.5μgのMTS抗体と共に6、12、18及び24時間インキュベートした後、等分試料を除去し、生存能力のある細胞は色素排除試験(トリパンブルー)を使用して計数した。
【図2】サンドウィッチELISAによる抗体内在化の検出を示す図である。ヒツジ抗ウサギ抗体を、ELISAプレート(400ng/ウエル)上にコーティングした。細胞のホモジェネート及び等体積の培養物上清を、ヒツジ抗ウサギIgGコーティングELISAプレート(Falcon、Oxnard、CA)に加え、室温で2時間インキュベートした。洗浄後、HRP標識ヤギ抗ウサギ軽鎖抗体を加え、o−フェニレン−ジアミンを加えることによって抗体を目に見える状態にした。内在化した抗体と培養物中の抗体の比をプロットする。
【図3】細胞死のELISAアッセイによって測定した、DNA断片化の程度を示す図である。MTS結合又は裸の抗カスパーゼ−3抗体(2μg/ml)を、6mlの培養したJurkat細胞に加え、1時間プレインキュベートした。遠心分離によって抗体を洗浄し、アクチノマイシンD(1μg/ml)を含む新鮮な培地を加え、4時間インキュベートした。ラダー電気泳動によるDNA断片化の評価用に5mlの培養物を回収し;残りはELISAアッセイ用に回収した。AD=アクチノマイシンD;裸抗体=カスパーゼ−3抗体;MTS−Ab=MTS結合抗カスパーゼ−3抗体;カスパーゼ−3阻害剤=DEVD−fmk(100μM)。*、p<0.01、対照と比較したもの;#、p<0.01、裸のカスパーゼ−3抗体と比較したもの。
【図4】カスパーゼ−3様切断活性アッセイを示す図である。全細胞溶解物の等量のタンパク質を、ApoAlertカスパーゼ−3蛍光アッセイキットを使用することによってこのアッセイに施用した。*、p<0.01、対照と比較したもの;#、p<0.01、裸のカスパーゼ−3抗体と比較したもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正常細胞又は感染細胞の機能を調節するのに有効な化合物であって、膜輸送ペプチドと結合した抗体又はその断片を含み、前記抗体又はその断片が、(a)カスパーゼ、キナーゼ、及びホスファターゼからなる群から選択される細胞内のシグナルタンパク質、(b)未成熟ウイルスタンパク質、(c)細胞表面抗原又は細胞内腫瘍抗原、(d)DNA合成及び遺伝子発現の調節に関与する核タンパク質又は核小体タンパク質、又は(e)細胞増殖又は細胞分裂停止に関与する細胞骨格タンパク質に免疫特異的である化合物。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
アポトーシスを阻害するのに有効であり、膜輸送ペプチドと結合した抗カスパーゼ抗体又はその断片を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記抗体が抗カスパーゼ−3抗体である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記膜輸送ペプチドが転座配列(MTS)ペプチドである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記MTSペプチドがカポジ肉腫の線維芽細胞成長因子、HIV−1のTATペプチド、アンテナペディアホメオドメイン由来のペプチド、ヘルペスウイルスタンパク質VP22、又は輸送ペプチドに内在する、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記MTSペプチドがアミノ酸残基配列AAVLLPVLLAAP(配列番号9)を含む、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記MTSペプチドがアミノ酸残基配列KGEGAAVLLPVLLAAPG(配列番号8)を含む、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
前記膜輸送ペプチドが、アミノ酸残基配列:KGEGAAVLLPVLLAAPG(配列番号8)を含む第二のペプチドと比べて低い疎水性を有し、前記膜輸送ペプチドが、前記第二のペプチドと比べて大きな内在化の増強と免疫結合力を与える、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
ヒトでのアポトーシスを阻害するのに有効である医薬組成物であって、膜輸送ペプチドと結合した抗カスパーゼ抗体又はその断片を含む医薬組成物。
【請求項11】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗体が抗カスパーゼ−3抗体である、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記膜輸送ペプチドが膜の転座配列(MTS)ペプチドである、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
前記MTSペプチドがアミノ酸残基配列AAVLLPVLLAAP(配列番号9)を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
前記MTSペプチドがアミノ酸残基配列KGEGAAVLLPVLLAAPG(配列番号8)を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ヒトの疾患を治療又は予防する方法であって、膜輸送ペプチドと結合した抗カスパーゼ抗体又はその断片を含む組成物の薬理学的に有効な量を、必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項17】
前記疾患がアルツハイマー病、ハンチングトン病、又はパーキンソン病である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
二次抗体と結合した膜輸送ペプチド又はその断片を含む、免疫複合体。
【請求項19】
前記二次抗体がポリクローナル又はモノクローナル免疫グロブリンである、請求項18に記載の免疫複合体。
【請求項20】
前記膜輸送ペプチド又はその断片がMTS配列である、請求項18に記載の免疫複合体。
【請求項21】
前記膜輸送ペプチド又はその断片が、前記二次抗体のトリプトファン残基又はヌクレオチド結合部位と共有結合している、請求項18に記載の免疫複合体。
【請求項22】
前記二次抗体が、前記抗体のスルフヒドリル、εアミノ酸又は炭水化物基を介して阻害物質と共有結合している、請求項18に記載の免疫複合体。
【請求項23】
ヒトの疾患を治療又は予防する方法であって、
細胞表面の標的に免疫特異的である一次抗体を必要とする患者に事前投与すること、
前記一次抗体の前記標的への結合及び正常組織からの除去に充分な時間を与えること、及び
膜輸送ペプチド又はその断片と共有結合した二次抗体であって前記一次抗体に免疫特異的である該二次抗体を投与することを含む方法。
【請求項24】
前記一次抗体が毒素、薬剤又は放射性同位体と結合している、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記毒素が(a)リシン、アブリン、ジフテリア及びシュードモナス(Pseudomonas)外毒素からなる群から選択されるホロタンパク質毒素、(b)完全タンパク質毒素サブユニット、又は(b)リシンA鎖、アブリンA鎖、ジフテリア毒素A鎖、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A及びゲロニンからなる群から選択される天然のA鎖毒素サブユニットである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記薬剤が、ヒトの疾患を治療するのに適した化学療法剤、又は高い効力を有するがヒトにおける使用に関して許容できないほど高い毒性を有している化学療法剤である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記放射性同位体が、キレート化合物を介して抗体と結合しているα、β又はオージェ放射性同位体である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記二次抗体が、光活性化によって前記膜輸送ペプチド又はその断片と共有結合している、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記二次抗体が毒素、薬剤又は放射性同位体と結合している、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記毒素が(a)リシン、アブリン、ジフテリア及びシュードモナス(Pseudomonas)外毒素からなる群から選択されるホロタンパク質毒素、(b)完全タンパク質毒素サブユニット、又は(b)リシンA鎖、アブリンA鎖、ジフテリア毒素A鎖、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A及びゲロニンからなる群から選択される天然に存在するA鎖毒素サブユニットである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記薬剤が、ヒトの疾患を治療するのに適した化学療法剤、又は高い効力を有するがヒトにおける使用に関して許容できないほど高い毒性を有している化学療法剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記放射性同位体が、キレート化合物を介して抗体と結合しているα、β又はオージェ放射性同位体である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記二次抗体が、前記抗体のスルフヒドリル、εアミノ酸又は炭水化物基を介して阻害物質と共有結合している、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記患者が癌、HIV又は他のウイルスベクター、又は細菌物質に罹患している、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
in−vitroのスクリーニングアッセイであって、
細胞受容体又は細胞内標的に免疫特異的である一次抗体と複数の細胞を接触させるステップであって、前記一次抗体が膜輸送ペプチド又はその断片と結合しているステップ、及び
前記一次抗体の内在化による細胞活性のアンタゴニズム又はアゴニズムの可能性を評価するステップを含むアッセイ。
【請求項36】
in−vitroのスクリーニングアッセイであって、
細胞受容体又は細胞内標的に免疫特異的である一次抗体と複数の細胞を接触させるステップ、
膜輸送ペプチド又はその断片と結合した二次抗体を前記一次抗体と混合させるステップであって、前記二次抗体が前記一次抗体に免疫特異的であるステップ、及び
前記一次抗体の内在化による細胞活性のアンタゴニズム又はアゴニズムの可能性を評価するステップを含むアッセイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−522122(P2006−522122A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509211(P2006−509211)
【出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/006911
【国際公開番号】WO2004/078146
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(505334710)インネクサス バイオテクノロジー インコーポレイテッド (1)
【出願人】(505334112)イムフェロン インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】