説明

膜電極接合体の製造方法、および膜電極接合体

【課題】保護層の形成時に、資材が無駄になることを防止すること。
【解決手段】高分子電解質膜1に液状樹脂2aを開口部2cを有する額縁状に塗布し、塗布された液状樹脂2aを硬化させ高分子電解質膜1に開口部2cを有する額縁状の保護層2bを形成する。それゆえ、例えば、樹脂フィルムを開口部を有する額縁状に切り抜き、切り抜かれた樹脂フィルムを高分子電解質膜1に貼着して保護層2bを形成する方法と異なり、廃棄される資材を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体の製造方法、および膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば、特許文献1に記載されている技術がある。
特許文献1に記載の技術では、まず、開口部を有する額縁状の樹脂フィルムを高分子電解質膜に貼着する。続いて、貼着された樹脂フィルムの開口部内に高分子電解質膜に触媒インクを塗布し、塗布された触媒インクを乾燥させて触媒層を形成する。これにより、高分子電解質膜の両面に保護層および触媒層を形成して膜電極接合体を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−12525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、額縁状の樹脂フィルムを準備する際に、樹脂フィルムの一部を切り落とす必要があった。それゆえ、樹脂フィルム、つまり、資材が無駄になってしまい、製造コストが高いものとなる可能性があった。
本発明は、斯かる実情に鑑み、保護層の形成時に、資材が無駄になることを防止できる膜電極接合体の製造方法、および膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、
高分子電解質膜、および保護層を含む膜電極接合体の製造方法であって、前記高分子電解質膜に対し液状樹脂を開口部を有する額縁状に塗布する塗布工程と、額縁状に塗布された前記液状樹脂を硬化させ前記高分子電解質膜に開口部を有する額縁状の前記保護層を形成する保護層形成工程と、を含むことを特徴とする。
このような方法によれば、高分子電解質膜に直接に額縁状の保護層を形成できる。それゆえ、保護層の形成時に、資材が無駄になることを防止できる。
本発明の他の態様は、
前記保護層の開口部内に触媒インクを塗布し、塗布された前記触媒インクを乾燥させて触媒層を形成する触媒層形成工程を含むことを特徴とする。
【0006】
このような方法によれば、塗布された触媒インクがレベリングすると、レベリングされた触媒インクが保護層でせき止められる。それゆえ、せき止められた触媒インクが乾燥されて形成される触媒層と保護層との間の隙間を無くすことができる。
本発明の他の態様は、
前記保護層をガスケットとして用いることを特徴とする。
このような方法によれば、使用するガスケット部材を削減でき、膜電極接合体を作製する工数を低減できる。それゆえ、膜電極接合体の製造コストを低減できる。
本発明の他の態様は、
上述した製造方法を用いて製造されたことを特徴とする膜電極接合体である。
このような構成によれば、ガスケットと触媒層との間の隙間が無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】膜電極接合体の製造方法の第1工程を表す模式図である。
【図2】膜電極接合体の製造方法の第2工程を表す模式図である。
【図3】膜電極接合体の製造方法の第3工程を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る膜電極接合体製造方法は、(1)高分子電解質膜1への液状樹脂2aの塗布・乾燥を行う第1工程、(2)触媒インク3aの塗布を行う第2工程、(3)触媒インク3a乾燥による触媒層3bの形成を行う第3工程の3つの工程からなる。
(1)第1工程(高分子電解質膜1への液状樹脂2aの塗布・乾燥を行う工程)
図1は、本実施形態の膜電極接合体製造方法の第1工程を表す模式図である。図1(a)は、高分子電解質膜1を上方から見た様子を表すものであり、図1(b)は、高分子電解質膜1を図1(a)のA−A線で破断して側方から見た様子を表すものである。
【0009】
図1(a)(b)に示すように、第1工程では、まず、高分子電解質膜1の有する2つの面のうちの、一方の面に対し液状樹脂2aを開口部2cを有する額縁状に塗布する。ここで、高分子電解質膜1としては、燃料電池に使用される公知のものを使用する。例えば、ナフィオン(登録商標)、ダウ膜(登録商標)、フレミオン(登録商標)またはアシプレックス(登録商標)を使用できる。また、液状樹脂2aとしては、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系等の炭化水素系液状樹脂や、シリコン系液状樹脂、フルオロエーテル系等のフッ素系液状樹脂等を使用する。液状樹脂2aは、樹脂の伸縮性、ガス透過性、コスト等を考慮して適宜選択する。また、液状樹脂2aの塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷等、パターン塗布できる手法であれば手法を問わない。さらに、額縁状とは、後述する触媒インク3aを塗布する部分に四角形状に開口した開口部2cを有し、当該部分の周囲を囲む枠状部からなる形状である。
【0010】
続いて、額縁状に塗布された液状樹脂2aを乾燥・硬化させ、高分子電解質膜1に開口部2cを有する額縁状の保護層2bを形成する。ここで、液状樹脂2aの乾燥・硬化方法としては、例えば、熱、UV(ultraviolet)照射等を使用できる。
このように本実施形態では、高分子電解質膜1に液状樹脂2aを額縁状に塗布し、塗布された液状樹脂2aを硬化させて保護層2bを形成する。それゆえ、例えば、樹脂フィルムを額縁状に切り抜き、切り抜かれた樹脂フィルムを高分子電解質膜1に貼着して保護層2bを形成する第1の従来の方法と異なり、廃棄される部材を無くすことができる。また、樹脂フィルムの貼着位置の位置決めという煩雑な作業を不要とすることができる。
【0011】
また、例えば、上記従来の方法では、樹脂フィルムが好適な位置から位置ずれると、触媒層3bと樹脂フィルムとの間に隙間が発生する。それゆえ、そのような隙間が発生した膜電極接合体を燃料電池に用いると、燃料電池の耐久性が低下する可能性がある。また、触媒層3bに額縁状の樹脂フィルムがオーバーラップした場合、樹脂フィルム下の触媒層3bは、触媒能力を失うため、燃料電池の発電に寄与できなくなる。これに対し、本実施形態の方法によれば、保護層2bを比較的容易に適切な位置に形成できる。そのため、燃料電池の耐久性の低下を防止でき、触媒層3bの触媒能力の低下を防止できる。
【0012】
なお、保護層2bの厚さは、触媒層3bの厚さに応じて適宜規定すればよい。また、保護層2bを高分子電解質膜1に形成した後、保護層2bの平滑性の確保等の目的ために更にプレス処理等を行ってもよい。また、保護層2bを高分子電解質膜1に形成する際に高分子電解質膜1の熱変形等が懸念される場合、高分子電解質膜1が有する面のうち、保護層2bを形成する面とは反対側の面に予め適宜補強フィルム等を貼着してもよい。また、高分子電解質膜1に保護層2bを形成する前に、高分子電解質膜1に対し加熱処理、真空処理等による含水率の制御、プレス処理等の前処理を行ってもよい。
【0013】
(2)(3)第2、第3工程(触媒インク3aの塗布・乾燥を行う工程)
図2は、本実施形態の膜電極接合体製造方法の第2工程を表す模式図である。図2(a)は、高分子電解質膜1を上方から見た様子を表すものであり、図2(b)は、高分子電解質膜1を図2(a)のB−B線で破断して側方から見た様子を表すものである。
図3は、本実施形態の膜電極接合体製造方法の第3工程を表す模式図である。図3(a)は、高分子電解質膜1を上方から見た様子を表すものであり、図3(b)は、高分子電解質膜1を図3(a)のC−C線で破断して側方から見た様子を表すものである。
【0014】
図2(a)(b)、図3(a)(b)、に示すように、第2、第3工程では、まず、保護層2bの開口部2c内に触媒インク3aを塗布し、塗布された触媒インク3aを乾燥させて触媒層3bを形成する。ここで、触媒インク3aとしては、例えば、触媒物質をカーボン等の導電性粒子に担持させた物質を含むものを使用する。また、触媒物質としては、例えば、白金の他に、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属またはこれらの合金、または酸化物、複酸化物等を使用できる。さらに、カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒物質に侵されないものであればどのようなものでも構わない。例えば、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等を使用できる。また、カーボン粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下したりするので、10〜1000nm程度が好ましい。さらに好ましくは、10〜100nm程度とするのがよい。また、触媒インク3aの溶媒としては、高分子電解質膜1と触媒物質とを溶解または分散できるものであればよいが、加熱により除去しやすいものが好ましく、沸点が150℃以下であるとよい。
【0015】
さらに、触媒インク3aの塗布方法としては、例えば、スロットコーター、スクリーン印刷、グラビア印刷等、パターン塗布できる手法であれば手法を問わない。また、触媒インク3aの塗布形状としては、例えば、保護層2bの開口部2c周辺よりも10〜200μm程度小さい形状とするのが望ましい。例えば、開口部2c周辺から10μm以下の範囲まで触媒インク3aを塗布する場合、保護層2b上に触媒インク3aがオーバーラップして塗布される可能性がある。また、例えば、開口部2c周辺よりも200μm以上小さい範囲に触媒インク3aを塗布する場合、触媒インク3aがレベリングで保護層2bまで到達せず、保護層2bと触媒層3bとの間に隙間が生じる可能性がある。これに対し、保護層2bの開口部2c周辺よりも10〜200μm程度小さい範囲に触媒インク3aを塗布する場合、塗布された触媒インク3aが乾燥するまでの間に触媒インク3aがレベリングすることで、触媒層3bと保護層2bとの間の隙間を無くすことができる。
【0016】
このように本実施形態では、高分子電解質膜1の部分のうち、保護層2bの開口部2c内の部分に触媒インク3aを塗布し、塗布された触媒インク3aを乾燥させて触媒層3bを形成する。それゆえ、塗布された触媒インク3aがレベリングすると、触媒インク3aが保護層2bでせき止められる。そのため、せき止められた触媒インク3aが乾燥されて形成される触媒層3bと保護層2bとの間の隙間を無くすことができる。
【0017】
また、例えば、開口部を有する2枚の額縁状の樹脂フィルムの剥離可能な接合体からなる額縁状マスクを高分子電解質膜1に貼着して保護層2bを形成し、保護層2bが形成された高分子電解質膜1に触媒インク3aを塗布して触媒層3bを形成し、その後、額縁状マスクを形成する2枚の樹脂フィルムのうちの、高分子電解質膜1に貼着されていない樹脂フィルムを剥がす従来の方法では、樹脂フィルムを剥す際に触媒層3bが破壊される可能性がある。これに対し、本実施形態の方法によれば、樹脂フィルムを剥がす作業が無いため、触媒層3bが破壊されることを防止できる。
【0018】
また、例えば、上記従来の技術では、樹脂フィルムに付着した触媒インク3aを再利用するために、樹脂フィルムから触媒金属を回収して触媒を再作製する必要があり、また、触媒再抽出の際にロスを生じる可能性がある。これに対し、本実施形態の方法によれば、保護層2bの開口部2c内の部分に触媒インク3aを塗布するため、触媒金属を回収して触媒を再作製する必要が無く、触媒再抽出の際にロスを生じる可能性が無い。
【0019】
なお、第2、第3工程において、高分子電解質膜1の変形が懸念される場合、高分子電解質膜1が有する面のうち、触媒層3bを形成する面とは反対側の面に予め適宜補強フィルム等を貼着してもよい。また、触媒層3bを形成する面とは反対側の面から高分子電解質膜1に加熱処理等を行っても構わない。高分子電解質膜1を加熱する場合、加熱の温度は触媒インク3aに用いる溶媒にも依存するが40〜120℃が望ましい。例えば、40℃以下であると変形に対する効果が無くなり、120℃以上であると触媒インク3aのレベリングが十分でなく触媒層3bと保護層2bの間に隙間が生じる可能性がある。また、触媒インク3aの乾燥にはIR(Infrared)乾燥、温風乾燥等の手法を適宜用いる。
【0020】
以上の第1工程〜第3工程を実施することにより、高分子電解質膜1の有する2つの面のうちの、一方の面に保護層2bと触媒層3bとが形成される。続いて、高分子電解質膜1の有する2つの面のうちの、他方の面に第1工程〜第3工程を同様に実施することにより、他方の面に保護層2bと触媒層3bとが形成される。これにより、高分子電解質膜1の両面に保護層2bと触媒層3bとが形成され、膜電極接合体が完成する。なお、本実施形態では、高分子電解質膜1の有する2つの面のうちの、一方の面に保護層2bと触媒層3bとを形成した後に、他方の面に保護層2bと触媒層3bとを形成する例を示したが、他の手順を採用しても構わない。例えば、高分子電解質膜1の両面に保護層2bを形成した後に、高分子電解質膜1の両面に触媒層3bを形成する手順としても構わない。
【0021】
また、本実施形態では、保護層2bをガスケットとして用いても構わない。ガスケットとは、構造に気密性や、水密性を持たせるために用いるシール材である。それゆえ、使用するガスケット部材を削減でき、膜電極接合体を作製する工数を低減できる。そのため、膜電極接合体の製造コストを低減できる。また、保護層2bと触媒層3bとの間の隙間を無くすことで、ガスケットと触媒層3bとの間の隙間を無くすことができる。
【0022】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得る。
まず、高分子電解質膜1の有する2つの面のうちの、一方の面に対し液体樹脂2bをスクリーン印刷で開口部2cを有する額縁状に塗布した。ここで、高分子電解質膜1としては、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを用いた。また、液体樹脂2bとしては、20質量%高分子電解質溶液(ナフィオン:登録商標、Dupont社製)を用いた。
続いて、額縁状に塗布された液状樹脂2aを乾燥・硬化させ、高分子電解質膜1に開口部2cを有する額縁状の保護層2bを形成した。ここで、液状樹脂2aの乾燥・硬化方法としては、60℃の温風を5分間送風する方法を用いた。なお、保護層2bの開口部2cは、一辺が50mmの四角形状とした。
【0023】
続いて、保護層2bの開口部2c内に触媒インク3aをスクリーン印刷で塗布し、塗布された触媒インク3aを乾燥させて触媒層3bを形成した。ここで、触媒インク3aとしては、白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と、20質量%高分子電解質溶液(ナフィオン:登録商標、Dupont社製)とを、水、エタノールの混合溶媒で混合した後、遊星型ボールミルで分散処理を行い、調製したものを使用した。なお、触媒インク3aの塗布領域は、一辺が49.90mmの四角形状とした。また、触媒インク3aの乾燥方法としては80℃の温風を5分間送風する方法を用いた。
以上の材料および手順により、高分子電解質膜1に保護層2b(ナフィオン)と触媒層3bとを形成できることが確認できた。また、形成された保護層2b(ナフィオン)と触媒層3bとの間に隙間が無いことも確認できた。
【0024】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について図面を参照して説明する。
実施例2では、液体樹脂2bとして、20質量%高分子電解質溶液(ナフィオン:登録商標、Dupont社製)の代わりにエポキシアクリレート樹脂を用いた。また、液状樹脂2aの乾燥・硬化方法として、500mJ/cm2のUV光を10秒間照射する方法を用いた。なお、他の材料および手順は実施例1と同等とし、膜電極接合体を作製した。
以上の材料および手順により、高分子電解質膜1に保護層2b(エポキシアクリレート)と触媒層3bとを形成できることが確認できた。また、形成された保護層2b(エポキシアクリレート)と触媒層3bとの間に隙間が無いことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、副資材のロスや触媒のロスが殆ど無い膜電極接合体の製造方法を提供することができる。また、本発明の製造方法を用いて製造した膜電極接合体によれば、保護層と触媒層との間に隙間が生じ難いため、耐久性を向上することができる。それゆえ、本発明の製造方法を用いて製造した膜電極接合体は、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 高分子電解質膜
2a 液状樹脂
2b 保護層
2c 開口部
3a 触媒インク
3b 触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜、および保護層を含む膜電極接合体の製造方法であって、
前記高分子電解質膜に対し液状樹脂を開口部を有する額縁状に塗布する塗布工程と、
額縁状に塗布された前記液状樹脂を硬化させ前記高分子電解質膜に開口部を有する額縁状の前記保護層を形成する保護層形成工程と、を含むことを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記保護層の開口部内に触媒インクを塗布し、塗布された前記触媒インクを乾燥させて触媒層を形成する触媒層形成工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記保護層をガスケットとして用いることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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