説明

膜電極複合体、それを用いた燃料電池、及びその運転方法

【課題】 本発明は、低コストで低メタノールクロスオーバーの燃料電池用電解質膜とそれを用いた膜電極複合体及び燃料電池を提供することである。
【解決手段】 本発明の電解質膜は、芳香族ビニル化合物モノマー、含窒素複素環ビニル化合物モノマー、及びジビニル化合物モノマーを重合させ、得られる電解質膜共重合体をスルホン化することにより、電解質前駆体ポリマーへの硫酸の浸透性を改善し、スルホン化反応を促進し、均一性の高い電解質膜を作製でき、また、この塩基性の含窒素複素環構造の導入によって、作製した電解質膜においてメタノールクロスオーバーを低減化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、膜電極複合体、それを用いた燃料電池、及びその運転方法に関する。

【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する負荷が少なく、かつ、高効率の電池として燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素やメタノールのような燃料を、酸素を用いて電気化学的に酸化させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出すものである。この燃料電池として種々のものが開発されているが、陽イオン交換膜を電解質として用いる固体電解質燃料電池が特に注目されている。
【0003】
図1に、固体電解質燃料電池の原理を説明するための概念図を示す。
図1において、1が、発電要素の主要部である膜電極複合体である。この膜電極複合体1は、電解質膜2と、その両表面に接合した燃料極3(アノード)と、酸化剤極4(カソード)とからなっている。前記燃料極3の外表面には、燃料通路5が形成され、メタノールなどの燃料が供給されるようになっている。また、酸化剤極4の外表面には、酸化剤通路6が形成され、空気などの酸化剤が供給されるようになっている。
前記膜電極複合体1を構成する電解質膜2は、プロトン伝導性物質で構成され、膜内を水素イオンが通過できるようになっている。前記燃料極3においては、燃料極3が含有している触媒によって燃料が分解され、電子と水素イオンを生成し、この水素イオンが対極の酸化剤極4に到達し、酸化剤極4の酸素と結合して水を生成する。一方、燃料極3において生成した電子が、この燃料極3と酸化剤極4から外部に取り出され、外部負荷回路7に電力を供給するようになっている。
【0004】
上記燃料電池において、電解質膜2として、従来は、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸のようなフッ素系樹脂を基本構造とするプロトン伝導性膜が使用されてきている。このパーフルオロカーボンスルホン酸膜は、優れたプロトン伝導性を示すが、一方、プロトン伝導性は含水状態のクラスターネットワークを通して発揮されるため、メタノールを使用する燃料電池においては、メタノールが燃料極3(アノード)から水に混ざって、電解質膜のクラスターネットワークを通り、酸化剤極4(カソード)に拡散して出力電圧を下げる(メタノールクロスオーバー)という問題があった。このメタノールクロスオーバー現象が生じた場合には、供給された液体燃料と酸化剤とが直接反応しまうため、エネルギーを電力として出力することができない。したがって、安定した出力を得ることができないという決定的な問題が生じる。
【0005】
これを解決するために、電解質膜に、架橋構造体などを導入し、膨潤を抑えることによってクロスオーバーを抑制することが知られていた。しかしながら、この方法には、膜全体を架橋させるとプロトン伝導性が大きく低下するという問題があった。
【0006】
一方、前記ナフィオン(登録商標)は、特性が優れているものの、高価であり、一般に燃料電池を普及させるためには、より安価で特性の優れたプロトン伝導性膜の実現が求められている。その手段として、価格を低下させるためナフィオン(登録商標)の代わりに、スルホン化した高分子材料を用いることが知られている(特許文献1参照)。この方法は、高分子材料膜を、スルホン化剤を用いてスルホン化するものである。
【0007】
しかしながら、この方法は、疎水性ポリマーを極性の高い溶剤である硫酸で反応させるため、反応時間が長くなり、膜全面で均一な反応が起こりにくい。これを改善するために、反応時間を長くしたり、反応温度を高くしたりすると、熱濃硫酸による酸化作用等の影響が大きくなり、多孔質膜や重合ポリマーが劣化するという問題がある。さらに、硫酸の含浸性、処理温度、処理時間のわずかな変化でスルホン化度が大きく変化してしまい、電解質膜としての特性に大きなばらつきが発生するなどの問題がある。
【特許文献1】特開2005−113052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本実施の形態は、プロトン伝導性膜における上記問題を解決するためになされたもので、低コストで低メタノールクロスオーバーの燃料電池用電解質膜を用いた膜電極複合体及び燃料電池を提供することである。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施の形態は、前記事情に鑑みてなされたもので、スルホン酸基を有する架橋型高分子電解質であるポリマーを作製するにあたり、その電解質前駆体ポリマーの中に塩基性の含窒素複素環を有するユニットを導入することで、電解質前駆体ポリマーを硫酸のようなスルホン化剤でスルホン化反応を行う際に、電解質前駆体ポリマーへの硫酸の浸透性を改善し、スルホン化反応を促進し、均一性の高い電解質膜を作製でき、また、この塩基性の含窒素複素環構造の導入によって、作製した電解質膜においてメタノールクロスオーバーの低減効果を見出だし、完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明の実施の形態は、多孔質膜基材に、下記化学式1に示す構造成分を少なくとも有する架橋型高分子電解質を充填して作成した電解質膜であって、前記電解質膜に占める架橋型電解質の重量が20wt%〜90wt%で、かつ、架橋型電解質中の前記化学式1で表される構造成分を50wt%以上含有してなる電解質膜の一表面に燃料極、他表面に酸化剤極を接合したことを特徴とする膜電極複合体である。
【化1】

式中、Aは、少なくともスルホン酸基で置換した芳香族炭化水素基を有する繰り返し構造単位であって、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、9−ビニルアンスラセン、4−ビニルビフェニル、及び、スチレンスルホン酸エチルから選ばれた少なくとも1種のビニル基含有芳香族化合物モノマー由来の繰り返し構造単位を表し、Bは、含窒素複素環化合物残基もしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩を有する繰り返し構造単位であって、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、及び、9−ビニルカルバゾールから選ばれる少なくとも1種のビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーもしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩由来の繰り返し構造単位を表し、Cは、2結合性の炭化水素基を有する繰り返し構造単位であってジビニルベンゼン、及び、ビスビニルフェニルエタンから選ばれた少なくとも1種のジビニル化合物架橋剤由来の繰り返し構造単位を表す。X、Y,Zは、上記化学式1における各繰り返し構造単位のモル分率を表し、X,Y,Zは、それぞれ0.34≦X≦0.985、0.005≦Y≦0.49、0.01≦Z≦0.495、かつY≦XかつZ≦Xの値である。

【発明の効果】
【0011】
本発明により、低メタノールクロスオーバーに電解質膜を提供することができ、直接メタノール型燃料電池(DMFC)の性能を向上することができる。また、汎用のポリマーで容易に作製できることから、低コストの電解質膜を提供することができる。これらの効果により、直接メタノール型燃料電池の製品化に大きなインパクトを与えるものである。

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で用いることのできる燃料電池の概念図である。
【図2】第4の実施の形態のアクティブ型燃料電池の概略図である。
【図3】第5の実施の形態のパッシブ型燃料電池の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、電解質膜、その製造方法、膜電極複合体及びこれを用いた燃料電池について順次説明する。
【0014】
[第1の実施の形態:電解質膜]
この実施の形態は、多孔質膜基材に、下記化学式1に示す構造成分を少なくとも有する架橋型高分子電解質を充填してなることを特徴とする電解質膜である。
【化1】

式中、Aは、少なくともスルホン酸基で置換した芳香族炭化水素基を有する繰り返し構造単位を表し、Bは、含窒素複素環化合物残基もしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩を有する繰り返し構造単位を表し、Cは、2結合性の炭化水素基を有する繰り返し構造単位を表す。X、Y,Zは、上記化学式1における各繰り返し構造単位のモル分率を表し、X,Y,Zは、それぞれ0.34≦X≦0.985、0.005≦Y≦0.49、0.01≦Z≦0.495、かつY≦XかつZ≦Xの値である。
【0015】
また、前記化学式1において、繰り返し構造単位Aは、下記化学式3で表されるビニル基含有芳香族化合物モノマー由来の繰り返し構造単位であり、繰り返し構造単位Bは、下記化学式4で表されるビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーもしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩由来の繰り返し構造単位であり、繰り返し構造単位Cは、下記化学式5で表されるジビニル化合物架橋剤由来の繰り返し構造単位であることが好ましい。
【化3】

【化4】

【化5】



【0016】
上記架橋型高分子電解質は、具体的には、下記化学式2によって表される。
【化2】


式中、X、Y,Zは、上記と同様であり、また、R1、R2、R3、R4、R5の少なくとも1つ以上はスルホン酸基(SOH)であり、それ以外の残りの置換基については、水素原子、ハロゲン元素、アルコキシ基、置換及び未置換の芳香族炭化水素基及び、置換及び未置換の芳香族炭化水素基の中から選ばれる基を表す。R6は、窒素原子を含む置換及び未置換の複素環式芳香族基、または、その硫酸塩、塩酸塩及び有機スルホン酸塩を表す。R7は、2価の有機基を表す。

【0017】
前記化学式2に記載した架橋型高分子電解質は、ビニル基含有芳香族化合物モノマー、ビニル基含有含窒素複素芳香族化合物モノマー、及びビニル基を2つ以上有するジビニル化合物架橋剤を重合して得られるものである。本実施の形態においては、これらのモノマー成分以外の成分であって、プロトン伝導性を損なうことのない他のモノマーが共重合されていてもよい。
【0018】
本実施の形態において用いられる前記化学式3のビニル基含有芳香族化合物モノマーは、芳香族環に直接あるいは間接的に結合したビニル基を有する化合物であって、具体的には、スチレン、4−メトキシスチレン、4―クロロスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−ビニルビフェニレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、9−ビニルアントラセン、アセナフチレン、インデン等を挙げることができるが、それらに限定されるわけではない。これらの化合物は、単独であるいは混合して用いることができる。
【0019】
また、本実施の形態で用いられる前記化学式4のビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーは、含窒素複素環に直接もしくは間接的に結合したビニル基を有する化合物であり、具体的には、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、ビニルキノリン、ビニルピロール、ビニルピラゾール、ビニルピリミジン、ビニルプリン、ビニルピラジン、ビニルイソキノリン等が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。これらの化合物は、単独であるいは混合して用いることができる。
【0020】
本実施の形態で用いられる前記化学式5の架橋剤となるモノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ビスビニルフェニルエタン、ビスビニルフェノキシエタン、1,4−ビスビニルフェノキシブタン、1,6−ビスビニルフェノキシヘキサン等が挙げられるがそれらに限定されるわけではない。また、ジビニルベンゼンについては、m−体、p−体、又はその混合物等を挙げられる。市販されているジビニルベンゼンには、不純物としてスチレン誘導体が混入していることがあるが、これらを除去することなく、同時に重合してもよい。
【0021】
この電解質膜において、導入されている塩基性の含窒素複素環構造を有する繰り返し構造単位は、下記化学式7に示すように、塩基性基の含窒素複素環構造部分で硫酸塩を形成していると考えられる。すなわち、ポリマー中のピリジニル基のような塩基性置換基の部分が硫酸と塩を形成している。この塩部分は、高濃度の酸によってアニオン部分を交換できる。本発明において、スルホン化工程において、この塩基性置換基部分にスルホン酸塩を形成し、この部分でプロトン伝導性が低下して抵抗が増大し、燃料電池としては、不利であるが、このスルホン酸基導入によって、電解質膜においてメタノール透過を抑える効果があり、結果的には、スルホン酸基と塩基性基の含窒素複素環構造部分とで、メタノール透過性及びプロトン伝導性をコントロールすることができ、目的にあった電解質膜を設計する事が可能となる。
【0022】
【化7】

【0023】
これらのモノマー組成比は、これらをモル分率で表すと、ビニル基含有芳香族化合物モノマーのモル分率(X)、ビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーのモル分率(Y)、架橋剤のモル分率(Z)とすると、X,Y,Zは、0.34≦X≦0.985、0.005≦Y≦0.49、0.01≦Z≦0.495で、かつY≦XかつZ≦Xの範囲が好ましい。
Xは、0.34〜0.985の範囲、より好ましく0.6〜0.9である。Xをこの範囲に限定したのは、Xが、0.34以下だと、プロトン伝導性が低下し、0.985以上だと、ビニル基含有含窒素複素環化合物モノマー及び架橋剤の効果が小さいため、均質で安定な膜を形成することが出来ないためである。また、Yは、0.005〜0.49の範囲、より好ましくは0.02から0.3である。Yが0.005以下だと、重合膜への硫酸の浸透を促進する効果が困難となり、0.49以上となると、電解質膜のプロトン伝導性が低下するため、好ましくない。Zは、0.01〜0.495の範囲であり、好ましくは、0.03〜0.25である。Zが、0.01未満だと架橋効果が小さくなり、架橋型高分子電解質が溶解する恐れがあり、0.495以上では、架橋度が大きいためにプロトン伝導性が低下するため、好ましくない。
【0024】
前記電解質膜において、電解質膜に占める前記架橋型電解質の重量が20wt%〜90wt%で、かつ、前記架橋型電解質中の化学式1で示した構造成分が50wt%以上を含有していることが好ましい。前記架橋型電解質の重量が、20wt%を下回ることは、プロトン伝導性が小さくなり好ましくなく、一方90wt%を上回ると、膜が弱くなるため好ましくない。
【0025】
本実施の形態において用いられる多孔質膜基材としては、連通気孔を有する高分子物質の多孔質シート、不織布、紙などが挙げられる。
【0026】
この多孔質膜の材質としては、後述するスルホン化工程あるいは加水分解工程において安定であり、また燃料電池の運用時に安定であることが求められ、これらを満たす限り、特に制限されるものではない。この材料としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、または、これらの共重合体でもよいが、特にポリエチレンが好ましい。
【0027】
電解質膜作製に使用する多孔質膜の空孔度、平均孔径、孔径分布は、適宜選択することができる。通常、空孔度20〜80%、平均孔径0.01〜10μm、好ましくは0.05〜2μmである。孔径が小さすぎるとモノマーの充填が困難となり、大きすぎると高分子電解質への補強効果が弱くなる。空孔度が小さすぎると電解質膜としての抵抗が大きくなり、大きすぎると多孔質膜自体の強度が弱くなり補強効果が低減する。さらに孔径分布の均一であることが望ましい。膜厚は1〜100μm、好ましくは10〜40μmである。薄すぎると、強度補強の効果および柔軟性や耐久性を付与するといった効果が不十分となり、クロスオーバーが発生しやすくなる。また膜厚が厚すぎると電気抵抗が高くなってしまう。このような多孔質膜材料は、一般にリチウム電池用のセパレータなどとして市販されているものを用いることができる。
【0028】
本発明の架橋型高分子電解質膜を、燃料電池に使用する際、架橋型高分子電解質膜の厚みに特に制限はないが、通常3〜200μm、好ましくは4〜100μm、より好ましくは5〜50μmである。薄すぎると実用に耐える膜強度が得られず、厚すぎると電気抵抗が高くなり、燃料電池の隔膜として好ましくない。膜厚は多孔質膜の厚み、架橋型高分子電解質溶液濃度あるいは、架橋型高分子電解質溶液の多孔質膜への塗布厚等を適切に選択する事により制御できる。
【0029】
本発明により提供される架橋型高分子電解質膜は、高分子電解質の欠点、主に強度や柔軟性、耐久性の欠如といった物理的な欠点が多孔質膜により補われた高分子電解質膜であり、燃料電池の電解質膜として好適である。
【0030】
[第2の実施の形態:製造方法の1]
以下に、第1の実施の形態である前記電解質膜の製造方法を、詳細に説明する。
この実施の形態の製造方法は、前記化学式3のビニル基含有芳香族化合物モノマー、前記化学式4のビニル基含有含窒素複素環化合物モノマー、前記化学式5の架橋剤である2つ以上のビニルを持つ有機化合物モノマー及びラジカル開始剤からなるモノマー組成物、もしくは、そのモノマー組成物に適度の溶媒を添加したモノマー溶液を、多孔質膜基材に含浸する工程(含浸工程)、このモノマー組成物をラジカル重合する工程(重合工程)、前工程で得られる複合膜をスルホン化することによってスルホン基を有する電解質膜を製造する工程(スルホン化工程)を含むものである。これにより、前記化学式2の構造を少なくとも含有する電解質を充填した電解質膜を作製することができる。
【0031】
(含浸工程)
この工程において用いるモノマー組成物としては、前記ビニル基含有含窒素複素環化合物モノマー、ビニル基含有芳香族化合物モノマー、架橋剤である2つ以上のビニルを持つ有機化合物及びラジカル開始剤からなるモノマー組成物を多孔質基材に含浸させる工程であるが、前記モノマー組成物溶液は、モノマー等が固体の場合やモノマー組成物の粘度が高い場合に多孔膜への含浸をスムーズにするため、モノマー組成物に溶媒を適量添加して調整する。
かかる溶剤としては、モノマー混合物を均一に溶解するものであれば、任意に選択して用いることができる。具体例には、トルエン、キシレン、THF、DMF等があげられるが、これらに限定されるものではない。
次に、ラジカル開始剤としては、ビニル系モノマーの重合に用いられているアゾ化合物、過酸化物及びその誘導体など、加熱によってラジカルを発生する化合物であれば使用できる。具体的には、AIBN、過酸化ベンゾイルなどがあげられるが、これに限定されるわけではない。
【0032】
前記モノマー組成物を多孔質基材に含浸せしめる方法としては、モノマー組成物もしくは溶媒溶液を多孔質膜基材に塗布又はスプレーする方法であっても良いし、多孔質膜を浸漬する方法であっても良い。なおこの工程は、多孔質基材を、支持体上に配置し、含浸させてもよい。支持体の例としては、金属、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやPVAフィルム等のプラスチックフィルムや、その表面にSiOxなどのバリヤー性の高い膜をつけたフィルムが好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
次に、モノマー組成物及びその溶液を多孔質膜に含浸した後、モノマー等を製造工程中で揮発させないため、保護フィルムを支持体に接していない側の多孔質基材表面に気泡が入らないように密着させる。保護フィルムは、前記支持体と同一のものであっても、異なっていてもよい。具体的には、金属、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやPVAフィルム等のプラスチックフィルムやその表面にSiOxなどのバリヤー性の高い膜をつけたフィルムが好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
(重合工程)
前工程で、多孔質膜にモノマー組成物を含浸後、プレスなどを用いて加熱することにより、モノマーを共重合する。ラジカル重合の温度は80〜150℃が良く、好ましくは、90〜120℃が望ましい。これよりも低い温度であると硬化時間が長くなり、生産性が低下する。一方、高い温度では多孔質膜に用いられるポリマー材料が軟化もしくは溶融してしまう。
【0035】
(スルホン化工程)
前工程でモノマーを共重合して得られる複合体から、支持体及び保護フィルムを取り外し、次いで重合膜を、スルホン化剤を用いてスルホン化する。
スルホン化剤としては、濃硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄−トリエチルフォスフェート、クロロスルホン酸、あるいは、トリメチルシリルクロロサルフェートなどの公知のスルホン化剤を用いることができるが、酸化力が強すぎたり、環境負荷の大きいハロゲン系有機溶剤等の使用が必要などの理由で、濃硫酸が好ましい。
スルホン化の温度は、60〜130℃で、好ましくは、90〜120℃である。温度が低いと反応時間が非常に長くなり、温度が高いとポリマーの劣化が起こる。スルホン化時間は1〜180分で、好ましくは、2分〜90分である。反応時間が短すぎるとスルホン化度がバラツキ、長くなると電解質膜の劣化が起こる。
【0036】
スルホン化後、熱濃硫酸槽から直接純水で洗浄すると水による希釈熱が大きく、膜表面で急激な温度上昇を起こし、膜が変質する。そこで、希釈熱による膜の変質を防ぐため、熱硫酸槽から出したのち表面の硫酸を出来だけ取り除き、次に、約6M〜20M硫酸の硫酸槽に浸漬し、その後に、イオン交換水で水洗する。これは、膜表面の硫酸濃度を段階的に低下させることで希釈による発熱を緩和するためである。かかる水洗は、洗浄液のpHが中性になるまで膜の洗浄を繰り返して行い、電解質膜が完成する。
【0037】
[第3の実施の形態:製造方法の2]
上記第2の実施の形態においては、前記化学式2の重合体を得るために、含窒素複素環化合物などを含有するモノマーを用いて重合した後、スルホン化する製造方法を示したが、スルホン酸エステル基を有するモノマーを用いて重合を行い、その後、重合体のスルホン酸エステル基を加水分解して側鎖にスルホン酸基を有する重合体とすることもできる。以下、その製造方法を説明する。
【0038】
この製造方法は、多孔質膜基材に、下記化学式6で表されるモノマー、下記化学式4で表されるモノマー及び下記化学式5で表されるモノマーを含有するモノマー混合物を含浸させる工程(含浸工程)と、前記モノマー混合物を含浸させた前記多孔質基材を加熱して、前記モノマー混合物を重合させる工程(重合工程)と、前記工程で得られる重合物を、加水分解してスルホン酸基を生成する工程(加水分解工程)を少なくとも含むものである。
【0039】
この実施の形態において、化学式4で示されるモノマー及び化学式5で示されるモノマーは、前述の第2の実施の形態において用いている化合物と同じ化合物を用いることができる。
化学式6で示される化合物としては、具体的には、o−、m−もしくはp−スチレンスルホン酸エチル、スチレンスルホン酸ブチル、4−メトキシスチレンスルホン酸エチル、4―クロロスチレンスルホン酸エチル、4−クロロメチルスチレンスルホン酸エチル、4−ビニルビフェニレンスルホン酸エチル、1−ビニルナフタレンスルホン酸エチル、2−ビニルナフタレンスルホン酸エチル、9−ビニルアントラセンスルホン酸エチル、スチレンスルホン酸無水物、スチレンスルホンアミド、スチレンスルホンフェニルアミド等が挙げられる。
これらの内、スチレンスルホン酸エチルが、分子量が小さく、液体であり、各種有機溶媒に溶けるため好ましい。
【0040】
(含浸工程、重合工程)
これらの工程においては、用いるモノマー組成物が異なること以外は前記第2の実施の形態と同様に行うことができるのでその詳細は省略する。
【0041】
(加水分解工程)
この工程において、加水分解は、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液などの加水分解剤中に、重合体を含む複合膜を浸漬することによって行うことができる。この水溶液の濃度は、1〜10wt%の範囲が好ましい。濃度が低いと、加水分解に要する時間が長くなる。一方、濃度がこれ以上高いと、重合体自体が変性して好ましくない。加水分解の温度は、室温〜100℃の範囲が好ましい。温度がこれより低いと、加水分解反応が進行しない。一方、温度がこれ以上高いと、溶液の水が沸騰して反応を阻害する。この加水分解工程は、1〜5時間程度で行うことができる。
【0042】
加水分解した後、スルホン酸基が、カチオン(金属イオン、1級、2、3、及び4級アンモニウム)との塩を形成している場合、プロトン置換を行うことが必要である。プロトン置換手段としては、電解質複合膜を硫酸水溶液に含浸することによって行うことができる。
【0043】
こうして得られた電解質複合膜は、純水で中性になるまで繰り返し洗浄し、乾燥して、電解質膜とする。
【0044】
この方法に従って製造した架橋型高分子電解質は、特にメタノールのクロスオーバー現象を阻止する機能に優れ、発電効率に優れた燃料電池を作製することができる。
【0045】
[第4の実施の形態:膜電極複合体]
本実施の形態の膜電極複合体は、前記図1において、符号1で示した構造とすることができる。すなわち、図1において、前記第1ないし第3の実施の形態で説明した電解質膜2の一表面に燃料極3が配置されており、電解質膜1の他表面に酸化剤極4が配置されている構造である。
【0046】
燃料極3は、メタノール酸化触媒を有効成分とし、これに、プロトン伝導材、撥水材、結着剤などを添加した組成物を電極支持体に担持させて、作製することができる。メタノール酸化触媒としては、公知のRuPt、PtRuMo、PtRuW、PtIr、PtRuSnなどを用いることができる。
また、酸化剤極4は、酸素還元触媒を有効成分とし、これに、プロトン伝導材、撥水材、結着剤などを添加した組成物を電極支持体に担持させて、作製することができる。前記酸素還元触媒としては、公知のPt、PtCo、PtNi、Fe、RuSe、RuSeSなどを用いることができる。
【0047】
これらの触媒は、粒状で用いることが、触媒機能を高効率で発揮することができることから好ましい。プロトン伝導材としては、前記電解質膜を形成した材料を用いることができる。また、撥水材は、電極膜内を水が通過することがないよう配合するものであり、フッ素樹脂などを用いることができる。また、結着剤は、触媒粒子を相互に結着し膜状を維持できるようにするものであり、高分子樹脂を用いることができる。なお、前記撥水材としての機能を有することから撥水材と結着剤を兼ねてフッ素樹脂を用いることが好ましい。さらに、燃料極3の電気伝導性を向上させるため、導電剤を添加することもできる。導電剤としては、カーボンブラックなどの炭素粒子を用いるのが好ましい。これらの添加成分は、直接メタノール燃料電池の技術において公知のものである。
【0048】
前記電極支持体としては、多孔質カーボンペーパーを用いることが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するため好ましいが、これ以外にも、例えば金、白金、ステンレス、ニッケル等の薄膜やメッシュあるいはスポンジ、あるいは、酸化チタン、シリカ、酸化スズに代表される公知の導電性粒子が挙げられる。この電極支持体に集電体をさらに接合して形成してもよいし、前記電極支持体が、燃料極あるいは酸化剤極の集電体を兼ねてもよい。
【0049】
電極支持体に触媒を担持させる方法としては、具体的には、例えば多孔質カーボンペーパーなどの所望の電極支持体上に前記メタノール酸化触媒あるいは酸素還元触媒を含む懸濁液を塗布し、その後乾燥することにより得ることができる。
【0050】
また、触媒の担持方法としては、上記塗布方法以外に、スパッタやケミカルベーパーデポジションに代表される真空薄膜作製法、メッキ、無電解メッキや含浸法等の化学的ないし電気化学的方法でも行うことができる。さらには、アーク溶解やメカニカルミリング等の方法も使用できる。
【0051】
前記燃料極3及び酸化剤極4は、電解質膜2に当接させて配置される。燃料極3を電解質膜2に当接させる方法としては、ホットプレス、キャスト製膜をはじめとする公知の方法が使用できる。
【0052】
[第5の実施の形態:燃料電池(アクティブ型)]
次に本発明の燃料電池の1形態であるアクティブ型燃料電池について、その断面図である図2を用いて説明する。本実施の形態の燃料電池は、前述の各実施の形態により作製される高分子電解質膜を用いてなるものである。
【0053】
図2が、アクティブ型燃料電池の単セルを示す模式図である。
図2において、電解質膜27は、その両表面に酸化剤極(カソード)26と燃料極(アノード)29が接合され電極膜複合体(MEA)として、配置されている。このMEAは、前記実施の形態で説明した方法によって作製されたものを用いることができる。この酸化剤極26及び燃料極29の端部は、PTFEなどの材料で形成されたシール材25,28によってシールされ、燃料や排ガスなどが外部に漏出しないようになっている。酸化剤極26の外側には、酸化剤流路板23に埋め込まれた酸化剤流路24が配置され、酸化剤極26に空気のような酸化剤が供給されるようになっている。また、燃料極29の外側には、同様に燃料流路板31に埋め込まれた燃料流路30が配置され、燃料極29にメタノールガスのような燃料を供給できるようになっている。これらの酸化剤流路24及び燃料流路30は、ポンプのような手段によって強制的に酸化剤や燃料を供給もしくは排出するようになっていてもよいし、強制手段を用いることなく自然対流などによってガスを流通させてもよい。
【0054】
上記酸化剤流路板23及び燃料流路板31は、酸化剤極26及び燃料極29に発生する電気エネルギーを取り出すため、導電体で形成することが好ましい。そして、これらの酸化剤流路板23及び燃料流路板31の外側には、金属板のような集電体22、32が配置され、電気エネルギーを取り出すようになっている。
また、上記集電体22、32の外側には、ヒータ21、33を配置し、燃料電池を加熱するようにしてもよい。これによって燃料電池の発電効率を改善することができる。
【0055】
図2に示す直接メタノール型燃料電池の概念図においては、筐体を図示していないが、上記組み立て体を筐体内に収容して燃料電池を構成することができる。
また、図2においては、発電要素として単一の組み立て体である単セルだけを表しているが、本実施の形態においては、この単セルをそのまま使用してもよいし、複数のセルを直列及び/または並列接続して実装燃料電池とすることもできる。セル同士の接続方法は、バイポーラ板を使用する従来の接続方式を採用してもよいし、平面接続方式を採用してもよい。無論その他公知の接続方式の採用も有用である。
【0056】
[第6の実施の形態:燃料電池(パッシブ型)]
次に本発明の燃料電池の1形態であるパッシブ型燃料電池について、その断面図である図3を用いて説明する。本実施の形態の燃料電池は、前述の各実施の形態により作製される高分子電解質膜を用いてなるものである。
【0057】
図3が、アクティブ型燃料電池の単セルを示す模式図である。図3において、電解質膜45は、その両表面に酸化剤極(カソード)44と燃料極(アノード)46が接合され電極膜複合体(MEA)として、配置されている。このMEAは、前記実施の形態で説明した方法によって作製されたものを用いることができる。この酸化剤極44と燃料極46から、リード線52、53が引き出され、発電した電気エネルギーを外部に取り出せるようになっている。燃料極46の下方には、メタノールのような燃料50収容した燃料容器49が配置されている。燃料容器49に収容されている燃料は、気化し、気化膜48、気化室54、及び穴あき締め付け板47を通って、燃料極46に供給される。本実施の形態のパッシブ型燃料電池においては、燃料の供給は強制給気手段を用いることなく自然対流などによって供給される。
一方、前記酸化剤極44の上方には、穴あき締め付け板43、多孔質保水板42及び穴あき締め付け板41が配置され、上記酸化剤極44に酸素を供給できるようになっている。
【0058】
図3に示すパッシブ型燃料電池の概念図においては、筐体を図示していないが、上記組み立て体を筐体内に収容して燃料電池を構成することができる。
また、図3においては、発電要素として単一の組み立て体である単セルだけを表しているが、本実施の形態においては、この単セルをそのまま使用してもよいし、複数のセルを直列及び/または並列接続して実装燃料電池とすることもできる。セル同士の接続方法は、平面接続方式など公知の方法を採用することができる。

【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではなくその要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0060】
(実施例1)
スチレン0.834g(8.0mmol)、2−ビニルピリジン0.106g(1.0mmol)に、架橋剤(65%ジビニルベンゼン(アルドリッチ社製))0.204g(1.0mmol)および過酸化ベンゾイル(BPO)11mgを混合してモノマー組成物を調整した。このモノマー組成物を、支持体(SiOx蒸着PVAフィルム)上に6cm×7.5cmのポリエチレン多孔質膜(旭化成社製セパレータN720(厚さ25ミクロン))を載せて含浸した後、保護フイルム(支持体と同じ物)を密着させ、110℃に加熱したプレスで圧力をかけながら20分間重合した。保護フィルム及び支持体を剥離後、合成した膜を濃硫酸中で105℃の温度で10分反応させた後、約18N硫酸溶液に膜を浸漬したのち、純水を用いて洗浄液が中性となるまで行うことにより水洗して電解質膜を作製した。実施例1の条件を表1及び2に示す。
【0061】
(実施例2〜実施例29)
実施例1と同様な方法で、表1及び2に記載したモノマー組成物と多孔質膜を用いて電解質膜を作製した。
【0062】
【表1】

【表2】

【0063】
(実施例30〜実施例36)
ビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーとして、2−ビニルピリジンを用い、架橋剤として、ジビニルベンゼンを用い、ビニル基含有芳香族化合物モノマーとして、表3に示す物質を用い、表3に示す条件で、実施例1と同様な方法で、電解質膜を作製した。
【0064】
【表3】

【0065】
(実施例37)
スチレンスルホン酸エチル3.694g(17.4mmol)、2−ビニルピリジン0.047g(0.4mmol)に、架橋剤(65%ジビニルベンゼン(アルドリッチ社製))0.441g(2.2mmol)および過酸化ベンゾイル(BPO)11mgを混合したモノマー組成物を調整した。このモノマー組成物を支持体(SiOx蒸着PVAフイルム)上に、6cm×7.5cmのポリエチレン多孔質膜(旭化成社製セパレータN720(厚さ25μm))を載せて含浸した後、保護フイルム(支持体と同じ物)を密着させ、110℃に加熱したプレスで圧力をかけながら20分間重合した。保護フィルム及び支持体を剥離後、重合膜を、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液(2.38wt%)を用いて100℃で3.5時間加水分解を行った。純水で洗浄後、プロトン置換を行うために硫酸水溶液中にフィルムを浸して、100℃で2時間ホットプレートを用いて加熱したのち、冷却し純水で洗浄し、洗浄水のpHが中性になるまで洗浄を続け電解質膜を作製した。この電解質膜は、評価を行うまで純水中で保存した。この実施例の詳細について、表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
(実施例38〜実施例49)
表4に記載した条件で、実施例37と同様な方法で、電解質膜を作製した。
【0068】
(実施例50〜実施例66)
ビニル基含有芳香族化合物モノマーとして、スチレンを用い、架橋剤としてジビニルベンゼンを用いたこと以外は、表5に記載した条件で実施例1と同様にして電解質膜を作製した。
【0069】
【表5】

【0070】
(比較例1)
スチレン1.0g、架橋剤(ジビニルベンゼン)0.2gおよび触媒(BPO)12mgを混合した組成物を支持体のSiOx蒸着PVAフィルム上に6cm×7.5cmの寸法の多孔質膜(旭化成社製セパレータN720(厚さ26ミクロン))を載せて含浸した後、保護フイルム(支持体と同じ物)を密着させ、110℃に加熱したプレスで圧力をかけながら20分間重合した。成形した膜を濃硫酸中において105℃で120分反応させた後、約18M硫酸溶液に膜を浸漬し、水洗して電解質膜を完成させた。比較例の詳細については、表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
(比較例2)
スルホン化反応を150℃で反応時間10分としたこと以外は、比較例1と同一の条件で電解質膜を製造した。比較例の詳細については表6に併記する。
【0073】
(実施例67)
上記実施例及び比較例で作製した電解質膜について、下記のメタノール透過度及び導電率測定によって、膜特性評価を行った。
【0074】
・ メタノール透過度の測定
25℃に保った2つのガラス容器の間を電解質膜で仕切り、一方に純水、もう一方に3Mのメタノール水溶液入れる。時間が経つと純水側にメタノールが浸透しメタノール濃度が上昇する。4分おきに濃度を、ガスクロマトグラフィを用いて測定し、濃度上昇の傾きから透過度を求めた。評価基準として、ナフィオン(登録商標)117膜を測定した。ナフィオン(登録商標)117膜のメタノール透過度は、実測値として3.0μmol/min/cmである。
各電解質膜のプロトン伝導性は、ナフィオン(登録商標)117の特性値で規格化した値を求め、表7,8及び9に示した。
【0075】
【表7】

【表8】

【表9】

【0076】
・ 導電率の測定 〜直流測定法
従来の交流インピーダンス装置を用いて測定する方法では、導電率と実際のセルにおける特性が大幅に乖離する場合があった。また測定のばらつきが非常に大きく、仕掛けてからの時間変化もあり、精度に問題があったため、本実験では直流測定法を採用した。この方法は、DMFCの発電時と同様に電解質膜にプロトンを直流で流し、その抵抗値からプロトン導電率を求める方法である。
【0077】
具体的には、白金電極を用い硫酸水溶液(1mol/l)中に定電流(0.1A)を流して水の電気分解を行い、発生したHが電極間を流れる様にする。その電極間に電解質膜を挟みこむと、Hが膜中を流れて電圧降下が起きる。この電位差を膜表面に配置したカロメル電極で測定することで抵抗値が求まる。実際には膜がない状態とある状態とを測定し、その差から抵抗値を求めることとする。基準としてナフィオン(登録商標)117膜を測定した。各電解質膜のプロトン伝導性は、ナフィオン(登録商標)117の特性値で規格化した値を求めて、表7,8及び9に示した。
【0078】
表7,8及び9に示したように、電解質膜によって、プロトン伝導度とメタノール透過度の両方が大きく変化し、相対的に膜特性の評価を行なうのが困難である。そこで、本実施例では、合成した電解質膜の相対的なメタノール透過度を明らかにするため、下記式のように、プロトン伝導度で規格化したメタノール透過度(α)を算出し評価した、この値を、表7,8及び9に併せて示した。
α=(ナフィオン(登録商標)117で規格化したメタノールの透過度)÷(ナフィオン(登録商標)117で規格化したプロトン伝導度)
【0079】
このα値は、プロトン伝導度当たりのメタノール透過度を示しており、ナフィオン(登録商標)117でα=1であり、α値が低いほどメタノールの透過が抑えられていることを意味する。表7,8及び9に示したように合成した各種膜は、αが0.7より小さいことから、プロトン伝導性当たりのメタノール透過度は、ナフィオン(登録商標)117より抑えられていることがわかった。
【0080】
(実施例68)
以下、上記実施例によって作製した電解質膜を用いて、以下の方法によって、電極を作製した。
【0081】
・ アノード電極(A−1)の作製
約RuPt42%を担持したCNF触媒55mgと約RuPt42%を担持したカーボン(Printex25)を水分散し、10%PTFE分散液で撥水処理されたカーボンペーパー(東レ製、120,3×4cm)上で吸引ろ過して触媒層を形成した。乾燥した後、減圧で4%ナフィオン(登録商標)溶液に2分含浸させた後、6%ナフィオン(登録商標)溶液に3分含浸させ、ろ紙上で余分なナフィオン(登録商標)溶液を吸収させ、室温で乾燥して、アノード電極(A−1)とした。触媒量はPtRu量で換算して約3.6mg/cmとなるように作製した。
【0082】
・ カソード電極(C−1)の作製
ジルコニアボール10φ,50g,5φ,25gを入れた50mLの蓋つきポリ容器に約Pt70%担持カーボン(ケッチェン)2.0g,水2.0g,メトキシプロパノール8.0g,20%ナフィオン(登録商標)溶液6.0gの順に混合し,卓上ボールミルで6時間,分散処理をして触媒スラリーとした。
【0083】
20%PTFE分散液で撥水処理されたカーボンペーパー(東レ製,090,20×10cm)さらに、MPLを約30μm形成させた。そこにフラットコーター(約400μmギャップ)を用いて触媒スラリーを塗布し、室温で1昼夜乾燥した。これを12 cmに切り出してカソード電極(C−1)とした。カソード触媒量はPt量で換算して約2.0mg/cmとなるように作製した。
【0084】
・ アノード電極(A−2)の作製
ジルコニアボール10φ、50g、5φ、25gを入れた50mLの蓋つきポリ容器に約PtRu43%担持カーボン(printex25)2.0g、水2.0g、メトキシプロパノール8.0g、20%ナフィオン(登録商標)溶液6.0gの順に混合し、卓上ボールミルで6時間、分散処理をして触媒スラリーとした。
【0085】
10%PTFE分散液で撥水処理されたカーボンペーパー(東レ製,120,20×10cm)にフラットコーター(約400μmギャップ)を用いて触媒スラリーを塗布し、室温で1昼夜乾燥した。これを12cmに切り出してアノード電極(A−2)とした。アノード触媒量はPtRu量で換算して約2.6mg/cmとなるように作製した。
【0086】
・ カソード電極(C−2)の作製
約Pt担持CNF触媒50mgを水分散し、20%PTFE分散液で撥水処理されたカーボンペーパー(東レ製、120,3×4cm)上で吸引ろ過して触媒層を形成した。乾燥した後、減圧で4%ナフィオン(登録商標)溶液に2分含浸させた後、6%ナフィオン(登録商標)溶液に3分含浸させ、ろ紙上で余分なナフィオン(登録商標)溶液を吸収させ、室温で乾燥して、カソード電極(C−2)とした。触媒量はPt量で換算して約1.5mg/cmとなるように作製した。
【0087】
(比較例4)
・ 膜電極接合体(MEA)の作製
実施例68で作製したアノード(A−1)及びカソード(C−1)を、熱硫酸水溶液(重量比で水/濃硫酸=2/1)で1時間煮沸処理後、次いで沸騰水で電極を洗浄して硫酸を除去した。その後流水で洗浄して使用した。この両電極とプロトン化処理をしたナフィオン(登録商標)117膜をホットプレス条件125℃、5分、30kg/cmで熱圧着してMEAを作製した。
【0088】
(実施例69〜実施例77)
ナフィオン(登録商標)膜に代えて、表10で示す番号の実施例で作製した電解質膜を用いたこと以外は、比較例4と同様にして、MEAを作製した。
【0089】
【表10】

【0090】
(実施例78)
以下上記方法によって得たMEAを用いて、図2に示すアクティブ型DMFCを組み立て、発電を行って発電特性の評価を行った。
比較例4と実施例69〜77の各種MEAの発電特性をアクティブ型DMFC燃料電池の単セル(図2参照)を用いて評価した。燃料としては、3Mメタノール水溶液で送液量は、0.8ml/min、空気の送気量は、120ml/minで、セル温度70℃で行なった。その結果を電流密度が150mA/cmの際の電圧(V)で、表10に示した。
【0091】
(実施例79)
実施例78の評価後、比較例4と実施例71〜79の各種MEAの長期性能評価を行なった。運転条件は、燃料1Mメタノール水溶液で送液量は、0.8ml/min、空気の送気量は、120ml/minで、セル温度70℃で電流密度が150mA/cm2で500時間(12時間運転、12時間停止)の運転を行なった。電圧の変化は、ナフィオン(登録商標)117のMEA同等で電圧低下は、初期で電圧の7%以内であった。
【0092】
(比較例5)
実施例68で作製したアノード(A−2)及びカソード(C−2)を熱硫酸水溶液(重量比で水/濃硫酸=2/1)で1時間、煮沸処理後、次いで沸騰水で電極を洗浄して硫酸を除去した。流水で洗浄して使用した。この両電極とプロトン化処理をしたナフィオン(登録商標)117膜をホットプレス条件125℃、5分,30kg/cmで熱圧着してMEAを作製した。
【0093】
(実施例80〜実施例84)
ナフィオン(登録商標)膜に代えて表11に示す番号の実施例で作製した電解質膜を用いること以外は、比較例5と同様にして膜電極複合体(MEA)を作製した。
【0094】
(実施例85)
以下上記方法によって得たMEAを用いてパッシブ型DMFCを組み立て、発電を行って、発電特性の評価を行った。
すなわち、比較例5と実施例80〜84の各種MEAの発電特性を、燃料として純メタノールを用いて、図3のようなパッシブ型DMFCの標準セルを用いて行なった。標準セルは、図3に示した構成とし、純メタノールを気化させてアノードに供給し、カソードへの空気供給は、自発的に起こる対流を利用して供給した。
その結果得られた最大発電密度を、表11に示した。
【0095】
【表11】

【0096】
表11の結果から明らかなように、比較例5のMEAを用いた燃料電池が、最大出力8.1mW/cmであったのに対して、本実施例の燃料電池は、いずれも最大出力が14mW/cmを上回っており、極めて優れた発電効率を示した。

【符号の説明】
【0097】
1…膜電極複合体
2、27、45…電解質膜
3、29、46…燃料極
4、26、44…酸化剤極
5、30…燃料通路
6、24…酸化剤通路
7…外部負荷回路
50…メタノール燃料
21,33…ヒータ
25,28…シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜基材に、下記化学式1に示す構造成分を少なくとも有する架橋型高分子電解質を充填して作成した電解質膜であって、前記電解質膜に占める架橋型電解質の重量が20wt%〜90wt%で、かつ、架橋型電解質中の前記化学式1で表される構造成分を50wt%以上含有してなる電解質膜の一表面に燃料極、他表面に酸化剤極を接合したことを特徴とする膜電極複合体。
【化1】

式中、Aは、少なくともスルホン酸基で置換した芳香族炭化水素基を有する繰り返し構造単位であって、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、9−ビニルアンスラセン、4−ビニルビフェニル、及び、スチレンスルホン酸エチルから選ばれた少なくとも1種のビニル基含有芳香族化合物モノマー由来の繰り返し構造単位を表し、Bは、含窒素複素環化合物残基もしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩を有する繰り返し構造単位であって、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、及び、9−ビニルカルバゾールから選ばれる少なくとも1種のビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーもしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩由来の繰り返し構造単位を表し、Cは、2結合性の炭化水素基を有する繰り返し構造単位であってジビニルベンゼン、及び、ビスビニルフェニルエタンから選ばれた少なくとも1種のジビニル化合物架橋剤由来の繰り返し構造単位を表す。X、Y,Zは、上記化学式1における各繰り返し構造単位のモル分率を表し、X,Y,Zは、それぞれ0.34≦X≦0.985、0.005≦Y≦0.49、0.01≦Z≦0.495、かつY≦XかつZ≦Xの値である。

【請求項2】
前記燃料極が、メタノール分解触媒を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜電極複合体。

【請求項3】
多孔質膜基材に、下記化学式1に示す構造成分を少なくとも有する架橋型高分子電解質を充填して作成した電解質膜であって、前記電解質膜に占める架橋型電解質の重量が20wt%〜90wt%で、かつ、架橋型電解質中の前記化学式1で表される構造成分を50wt%以上含有してなる電解質膜の一表面に燃料極、他表面に酸化剤極を接合した膜電極複合体を用いたことを特徴とする燃料電池。
【化1】


式中、Aは、少なくともスルホン酸基で置換した芳香族炭化水素基を有する繰り返し構造単位であって、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、9−ビニルアンスラセン、4−ビニルビフェニル、及び、スチレンスルホン酸エチルから選ばれた少なくとも1種のビニル基含有芳香族化合物モノマー由来の繰り返し構造単位を表し、Bは、含窒素複素環化合物残基もしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩を有する繰り返し構造単位であって、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、及び、9−ビニルカルバゾールから選ばれる少なくとも1種のビニル基含有含窒素複素環化合物モノマーもしくはその硫酸塩、塩酸塩、又は有機スルホン酸塩由来の繰り返し構造単位を表し、Cは、2結合性の炭化水素基を有する繰り返し構造単位であってジビニルベンゼン、及び、ビスビニルフェニルエタンから選ばれた少なくとも1種のジビニル化合物架橋剤由来の繰り返し構造単位を表す。X、Y,Zは、上記化学式1における各繰り返し構造単位のモル分率を表し、X,Y,Zは、それぞれ0.34≦X≦0.985、0.005≦Y≦0.49、0.01≦Z≦0.495、かつY≦XかつZ≦Xの値である。

【請求項4】
請求項3の燃料電池を用い、燃料として、メタノールを含有する燃料を用いることを特徴とする燃料電池の運転方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−138786(P2011−138786A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26399(P2011−26399)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【分割の表示】特願2005−378477(P2005−378477)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】