説明

膨張材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントコンクリート

【課題】 大きさが10mm以下の微視的な凹凸がコンクリート表面に現れるポップアウトが生じず、従来の膨張材と同等以上の膨張性を付与できる、主に土木・建築分野において使用される膨張材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントコンクリートを提供する。
【解決手段】 最大粒径が300μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材、最大粒径が200μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,000cm2/g以下である膨張材、膨張材が、遊離石灰と無水石膏とを、また、遊離石灰と、無水石膏と、アウイン、カルシウムシリケート、及びカルシウムアルミノフェライトの水硬性化合物とを有効成分とする該膨張材、遊離石灰が、膨張材100部中、10〜70部である該膨張材、セメントと該膨張材とを含有してなるセメント組成物、並びに、該セメント組成物を用いてなるセメントコンクリートを構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用される膨張材、セメント組成物、及びそれを用いたセメントコンクリートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物のひび割れ抑制は、耐久性の向上、美観、及び維持補修コストの低減等の面から重要である。
【0003】
これまでに、コンクリートのひび割れを抑制する方法が種々提案されており、なかでも膨張材はその中心的な役割を担っている。
【0004】
コンクリート用の膨張材としては、例えば、遊離石灰−アウイン−無水石膏系膨張材や遊離石灰−カルシウムシリケート−無水石膏系膨張材が一般的に知られており、最近では、従来よりも少ない添加量でコンクリートのひび割れを低減できる高性能型膨張材も開発されている(特許文献1、特許文献2参照)。
また、特定の粒度構成に調整した生石灰粒を膨張材として使用することが提案されている(特許文献3、特許文献4、及び特許文献5参照)。
【0005】
しかしながら、いずれも、最大粒径、90μm以上の粒子の量、及びブレーン比表面積を規定し、ポップアウトを防止することについては全く言及されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平07−232944号公報
【特許文献2】特開平14−226243号公報
【特許文献3】特開2005−162564号公報
【特許文献4】特開2005−213072号公報
【特許文献5】特開2006−181895号公報
【0007】
近年では、耐久性の観点から、膨張コンクリートによるひび割れの低減が重要視されている。
一方、膨張コンクリートの表面は、膨張材粒子のポップアウトにより、大きさが10mm以下の微視的な凹凸が現れる場合があり、美観を損なうことがある。
特許文献2は、水酸化カルシウムを添加することで、膨張材の凝集による局所的なポップアウトの発生を防止するものであり、美観を損なう微視的な凹凸を防止するものではない。
また、単に粗い粒子を除去しただけでは微視的なポップアウトによる美観の低下を低減することは可能であるが、所定の膨張率を確保できないなどの課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、特定の粒度構成を付与した膨張材を使用することによって、大きさが10mm以下の微視的な凹凸がコンクリート表面に現れるポップアウトを防止でき、かつ、所定の膨張率が確保できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、最大粒径が300μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材であり、最大粒径が250μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材であり、最大粒径が200μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材であり、最大粒径が200μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,000cm2/g以下である膨張材であり、膨張材が、遊離石灰と無水石膏とを、また、遊離石灰と、無水石膏と、アウイン、カルシウムシリケート、及びカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物とを有効成分とする該膨張材であり、遊離石灰が、膨張材100部中、10〜70部である該膨張材であり、セメントと該膨張材とを含有してなるセメント組成物であり、該セメント組成物を用いてなるセメントコンクリートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の膨張材を使用することによって、大きさが10mm以下の微視的な凹凸がコンクリート表面に現れるポップアウトが生じず、従来の膨張材と同等以上の膨張性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定のない限り質量基準で示す。
また、本発明でいうセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0012】
本発明で使用する膨張材は、最大粒径が300μm以下で、90μm以上の粒子が10%超で、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下のものである。
膨張材の最大粒径は、300μm以下であり、250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。最大粒径が300μmを超えると、ポップアウトによりコンクリート表面に微視的な凹凸が形成され、美観上好ましくない。
また、本発明の膨張材は、その90μm以上の粒子が10%超である。90μm以上の粒子が10%以下では、膨張率が大きく低下するおそれがある。
そして、本発明の膨張材のブレーン比表面積は、3,500cm2/g以下であり、3,000cm2/g以下が好ましい。ブレーン比表面積が3,500cm2/gを超えると、所定の膨張が確保できなくなるおそれがある。
ここで、最大粒径とは、粒径の最大値であって、例えば、篩いでふるって、全量が通過せず、篩い残量が0.1%以下の場合の篩い目の大きさとすることが可能である。
【0013】
膨張材のブレーン比表面積の測定は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従って測定することが可能である。また、粒度の測定は、社団法人セメント協会によるJCAS K-03-1996「エア・ジェット式ふるい装置によるセメントの粉末度試験方法」に従って測定することが可能である。なお、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載の網ふるい試験方法でも測定することが可能である。
【0014】
本発明で使用する膨張材は、CaO原料、Al2O3原料、Fe2O3原料、SiO2原料、及びCaSO4原料等を所定量配合して、熱処理し、遊離石灰と、無水石膏と、アウイン、カルシウムシリケート、及びカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物とを鉱物として含有するクリンカーを合成したものである。遊離石灰、無水石膏、及び水硬性化合物を単に混合しても、本発明の膨張材として使用可能ではあるが、優れた膨張性能を得るためには、熱処理して、遊離石灰、無水石膏、及び水硬性化合物が全部、一度にクリンカーとして生成するようにすることが好ましい。
【0015】
本発明の膨張材に使用されるクリンカーを製造する際の熱処理温度は特に限定されるものではないが、1,100〜1,600℃が好ましく、1,200〜1,500℃がより好ましい。1,100℃未満では、得られた膨張材の膨張性能が充分ではなくなるおそれがあり、1,600℃を超えると無水石膏が分解するおそれがある。
【0016】
ここで、CaO原料としては石灰石や消石灰等が挙げられ、Al2O3原料としてはボーキサイトやアルミ残灰等が挙げられ、Fe2O3原料としては銅カラミ、鉄粉、及び市販の酸化鉄等が挙げられ、SiO2原料としては市販の二酸化ケイ素や珪石等が挙げられ、CaSO4原料としては二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等が挙げられる。
これら原料中には各種の不純物が存在する。不純物の具体例としては、Na2O、K2O、MgO、TiO2、及びP2O5などが挙げられるが、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。
【0017】
本発明の膨張材は、遊離石灰と、無水石膏と、アウイン、カルシウムシリケート、及びカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物とを鉱物として含有するものが好ましい。
【0018】
本発明の膨張材中の無水石膏は特に限定されるものではなく、I型、II型、又はIII型のいずれの形態のものも使用可能である。
【0019】
アウインとは、一般的に、3CaO・3Al2O3・CaSO4で表されるものである。
また、カルシウムシリケート(以下、C3Sという)とは、CaO−SiO2系を総称するものであり特に限定されるものではないが、一般的に、2CaO・SiO2や3CaO・SiO2がよく知られている。通常は、3CaO・SiO2として存在していると考えられる。
さらに、カルシウムアルミノフェライト(以下、C4AFという)とは、CaO−Al2O3−Fe2O3系を総称するものであり特に限定されるものではないが、一般的に、4CaO・Al2O3・Fe2O3や6CaO・Al2O3・2Fe2O3などの化合物がよく知られている。通常は、4CaO・Al2O3・Fe2O3として存在していると考えられる。
【0020】
本発明では、膨張材100部中の、遊離石灰、無水石膏、アウイン、カルシウムシリケート、及びカルシウムアルミノフェライトの含有量は、用途によって異なるため特に限定されるものではないが、遊離石灰は、膨張材100部中、10〜70部が好ましく、30〜50部がより好ましい。70部を超えるとコンクリートの流動性が低下するおそれがある。
また、無水石膏は、膨張材100部中、10〜50部が好ましく、20〜40部がより好ましい。この範囲外では優れた膨張性能が得られなくなるおそれがある。
さらに、アウインは5〜50部が好ましく、10〜30部がより好ましい。そして、カルシウムシリケートやカルシウムアルミノフェライトは5〜20部が好ましく、10〜15部がより好ましい。この範囲より少ない場合には貯蔵安定性が悪くなるおそれがあり、この範囲より多いと膨張量が不足するおそれがある。
【0021】
本発明の膨張材に所定量の鉱物が含有量されているかどうかは、次に示すX線回折リートベルト法等よって定量可能である。
例えば、粉砕した膨張材に、酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施することで測定可能であり、測定結果を、例えば、Sietronics社の「SIROQUANT」を用いて解析することが可能である。
【0022】
本発明の膨張材の配合量は目的によって異なるため特に限定されるものではないが、通常、セメントと膨張材の合計100部中、3〜10部が好ましく、5〜7部がより好ましい。膨張材の配合量が多すぎると膨張量が大きすぎて強度低下を引き起こすおそれがあり、逆に、少なすぎると所定のひび割れ抑制効果が得られなくなるおそれがある。
【0023】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、エコセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。
【0024】
本発明では、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、粉末ポリマー、凝結調整剤、デキストリンなどの糖類、セメント急硬材、ベントナイトやゼオライトなどの粘土鉱物、及びハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0025】
本発明の膨張材をコンクリートと配合する際の混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、強制二軸ミキサ、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどが挙げられる。
【0026】
本発明のコンクリートの養生方法は特に限定されるものではなく、屋外養生、水中養生、気中乾燥養生、蒸気養生、及びオートクレーブ養生等を採用することが可能である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例、比較例をあげてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実験例1
CaO原料として試薬1級炭酸カルシウムを、Al2O3原料として試薬1級酸化アルミニウムを、Fe2O3原料として試薬1級酸化第二鉄を、SiO2原料として試薬1級二酸化ケイ素を、及びCaSO4原料として試薬1級二水石膏を所定量配合して、混合粉砕した後、電気炉を用いて、1,350℃で3時間熱処理し、遊離石灰50部、無水石膏30部、アウイン10部、C3S5部、及びC4AF5部のクリンカーを合成し、表1に示す粒度構成に粉砕し、膨張材を調製した。
各材料の単位量を、水170kg/m3、セメント298kg/m3、膨張材20kg/m3、細骨材807kg/m3、及び粗骨材997kg/m3とし、水/(セメント+膨張材)比53.5%、細骨材率45%、及び空気量4.5%とし、減水剤をセメントと膨張材の合計100部に対して、0.4部配合してコンクリートを調製した。
調製したコンクリートの長さ変化率とポップアウトの有無とを評価した。結果を表1に併記する。
【0029】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製
細骨材 :姫川水系産川砂、比重2.62
粗骨材 :姫川水系産川砂利、比重2.65
減水剤 :市販ポリカルボン酸塩系高性能AE減水剤
水 :水道水
【0030】
<測定方法>
長さ変化率:JIS A 6202に準じて材齢7日の長さ変化率を測定。評価は、長さ変化率が200×10-6以上を良、150×10-6以上、200×10-6未満を可、150×10-6未満を不可とした。
ポップアウトの評価:コンクリートを幅20cm、長さ20cm、高さ10cmの型枠に詰め、表面観察により、ポップアウトの有無を確認した。評価は、ポップアウトの発生数が2個未満を優、2個以上、10個未満を良、10個以上、20個未満を可、20個以上を不可とした。
【0031】
【表1】

【0032】
実験例2
実験例1で合成したクリンカーを粉砕して、最大粒径が200μm、90μm以上の粒子(90μmの篩残分)が16%、ブレーン比表面積が3,300cm2/gの膨張材を調製した。
セメントと膨張材の合計100部中、表2に示す膨張材を使用したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
比較のため、従来市販の膨張材を使用して実験を行った。結果を表2に併記する。
【0033】
【表2】

【0034】
実験例3
CaO原料、Al2O3原料、Fe2O3原料、SiO2原料、及びCaSO4原料を所定量配合して表3に示す鉱物を有するクリンカーを合成し、粉砕して、最大粒径が200μm、90μmの篩残分が12%、ブレーン比表面積が2,900cm2/gの膨張材を調製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0035】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の膨張材を用いることによって、大きさが10mm以下の微視的な凹凸がコンクリート表面に現れるポップアウトが生じにくく、コンクリート表面の仕上がりが良好で、従来の膨張材と同等以上の膨張性を付与することが可能であり、コンクリートを使用する土木・建築分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大粒径が300μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材。
【請求項2】
最大粒径が250μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材。
【請求項3】
最大粒径が200μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,500cm2/g以下である膨張材。
【請求項4】
最大粒径が200μm以下、90μm以上の粒子が10%超、ブレーン比表面積が3,000cm2/g以下である膨張材。
【請求項5】
膨張材が、遊離石灰と無水石膏とを有効成分とする請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載の膨張材。
【請求項6】
膨張材が、遊離石灰と、無水石膏と、アウイン、カルシウムシリケート、及びカルシウムアルミノフェライトからなる群より選ばれた一種又は二種以上の水硬性化合物とを有効成分とする請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載の膨張材。
【請求項7】
遊離石灰が、膨張材100部中、10〜70部である請求項5又は請求項6に記載の膨張材。
【請求項8】
セメントと、請求項1〜請求項7のうちのいずれか一項に記載の膨張材とを含有してなるセメント組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のセメント組成物を用いてなるセメントコンクリート。

【公開番号】特開2008−201592(P2008−201592A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35862(P2007−35862)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】