膨張機
【課題】膨張機の膨張不良防止対策
【解決手段】吸入ポート(34)および吐出ポート(35)が形成されたシリンダ(71)と、シリンダ(71)内に回転軸の軸心に対して偏心した状態で収納されるピストン(75)と、シリンダ(71)とピストン(75)との間に形成される流体室(72)を流体の高圧側と低圧側とに仕切るためのブレード(76)とを備え、流体室(72)において流体を膨張させる膨張機を対象としている。ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後までの間において、シリンダ(71)の内周面とピストン(75)の外周面との間を閉じる弁部材(81)を備えている。
【解決手段】吸入ポート(34)および吐出ポート(35)が形成されたシリンダ(71)と、シリンダ(71)内に回転軸の軸心に対して偏心した状態で収納されるピストン(75)と、シリンダ(71)とピストン(75)との間に形成される流体室(72)を流体の高圧側と低圧側とに仕切るためのブレード(76)とを備え、流体室(72)において流体を膨張させる膨張機を対象としている。ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後までの間において、シリンダ(71)の内周面とピストン(75)の外周面との間を閉じる弁部材(81)を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張機に関し、特に、流体の膨張不良防止対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流体の膨張により動力を発生させる容積型膨張機として、例えば回転式膨張機が知られている。この種の膨張機は、例えば蒸気圧縮式の冷媒サイクルの膨張行程を行うのに用いられている(特許文献1)。上記膨張機は、図11に示すように、シリンダ(a)と、該シリンダ(a)の内周面に沿って公転するピストン(b)とを備え、シリンダ(a)とピストン(b)との間に形成される膨張室(c)が吸入・膨張側と排出側とに区画されている。そして、ピストン(b)の公転動作に伴って、膨張室(c)は吸入・膨張側であった部分が排出側に、排出側であった部分が吸入・膨張側に順に切り換わり、流体の吸入・膨張作用と排出作用とが同時に並行して行われる。
【特許文献1】特開平8−338356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の回転式膨張機においては、ピストン(b)の回転が0°付近に位置する、いわゆる上死点付近において、吸入口(d)と排出口(e)とが連通状態となり、その結果、吸入した高圧流体が、膨張室(c)で膨張されることなく排出されてしまう、いわゆる吹き抜けが発生するという問題があった。
【0004】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、膨張機の吹き抜けを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、吸入口(34)および吐出口(35)が形成されたシリンダ(71)と、該シリンダ(71)内に回転軸の軸心に対して偏心した状態で収納されるピストン(75)と、該シリンダ(71)とピストン(75)との間に形成される流体室(72)を流体の高圧側と低圧側とに仕切るためのブレード(76)とを備え、該流体室(72)において流体を膨張させる膨張機であって、上記ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間において、上記吐出口(35)に連通している流体室(72)への吸入口(34)からの流体の流入を規制する規制手段(80)を備えている。
【0006】
上記第1の発明では、ピストン(75)が、シリンダ(71)内を回転軸の軸心に対して偏心して公転する。この公転に伴って吸入口(34)から流体室(72)内に高圧冷媒が流入し、該高圧冷媒が膨張して低圧流体となって、吐出口(35)から流出する。ここで、シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間において、規制手段(80)が、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通する流体室(72)への流体の流入を規制する。
【0007】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記規制手段(80)は、上記シリンダ(71)に設けられるばね部材(82)と、該ばね部材(82)が連結されて上記シリンダ(71)の内周面と上記ピストン(75)の外周面との間を閉じる弁部材(81)とを備えている。
【0008】
上記第2の発明では、シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、弁部材(81)が、ピストン(75)の外周面に当接する。つまり、弁部材(81)が、シリンダ(71)の内周面とピストン(75)の外周面との間を閉じるため、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通する流体室(72)に流体が流入しない。
【0009】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、上記規制手段(80)は、該ピストン(75)の外周面に取り付けられ、且つ吸入流体の上流側に向かって傾斜して上記ピストン(75)の外周面と上記シリンダ(71)の内周面との間を閉じる板ばね部材(90)で構成されている。
【0010】
上記第3の発明では、ブレード(76)およびピストン(75)は一体となって公転する。シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、板ばね部材(90)が、シリンダ(71)の内周面に当接する。また、吸入口(34)から流入した流体が、板ばね部材(90)を流体の下流側に向かって加圧し、板ばね部材(90)をシリンダ(71)の内周面にシールする。
【0011】
第4の発明は、上記第1の発明において、上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、上記規制手段(80)は、上記ピストン(75)の外周面に形成されて上記吸入口(34)に挿入される凸部(91)で構成されている。
【0012】
上記第4の発明では、ブレード(76)およびピストン(75)は一体となって公転する。シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、ピストン(75)の外周面に形成した凸部(91)を吸入口(34)に挿入する。つまり、凸部(91)が、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通する流体室(72)への流体の流入を規制する。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、吸入口(34)から吐出口(35)に連通している流体室(72)に流入する流体を規制するようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通している流体室(72)に流入する流体量を低減させることができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0014】
上記第2の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、弁部材(81)が、シリンダ(71)の内周面とピストン(75)の外周面との間を閉じるようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、流体が、吸入口(34)から、吐出口(35)と連通している流体室(72)に流入するのを防止することができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0015】
上記第3の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、板ばね部材(90)が、ピストン(75)の外周面とシリンダ(71)の内周面との間を閉じるようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、流体が、吸入口(34)から、吐出口(35)と連通している流体室(72)に流入するのを防止することができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0016】
上記第4の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、ピストン(75)の外周面に形成される凸部(91)を吸入口(34)に挿入するようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、吸入口(34)から、吐出口(35)と連通している流体室(72)に流入する流体量を低減させることができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
〈発明の実施形態1〉
図1に示すように、本実施形態1に係る空気調和装置(10)は、いわゆるセパレート型のものであって、屋内に設置される室内機(13)と、屋外に設置される室外機(11)とを備えている。上記室外機(11)には、室外ファン(12)、室外熱交換器(23)、第1四路切換弁(21)、第2四路切換弁(22)および圧縮膨張ユニット(30)が収納されている。室内機(13)には、室内ファン(14)および室内熱交換器(24)が収納されている。また、室外機(11)と室内機(13)とは、一対の連絡配管(15,16)で接続されている。また、圧縮膨張ユニット(30)は、圧縮機である圧縮機構(50)と膨張機である膨張機構(60)とを備えている。
【0019】
上記空気調和装置(10)には、冷媒回路(20)が設けられている。この冷媒回路(20)は、圧縮膨張ユニット(30)、室内熱交換器(24)および室外熱交換器(23)などが接続された閉回路である。また、この冷媒回路(20)には、冷媒として、例えば二酸化炭素(CO2)が充填されている。
【0020】
上記室外熱交換器(23)および室内熱交換器(24)は、何れもクロス・フィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器により構成されている。上記室外熱交換器(23)では冷媒回路(20)を循環する冷媒が室外ファン(12)により取り込まれた室外空気と熱交換する。上記室内熱交換器(24)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室内ファン(14)によって取り込まれた室内空気と熱交換する。
【0021】
上記第1四路切換弁(21)は、4つのポートを備えている。この第1四路切換弁(21)は、第1のポートが圧縮膨張ユニット(30)の流出ポート(33)に、第2のポートが連絡配管(15)を介して室内熱交換器(24)の一端に、第3のポートが室外熱交換器(23)の一端に、第4のポートが圧縮膨張ユニット(30)の流入ポート(32)にそれぞれ接続されている。そして、上記第1四路切換弁(21)は、第1のポートと第2のポートとが連通し、且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し、且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
【0022】
上記第2四路切換弁(22)は、4つのポートを備えている。この第2四路切換弁(22)は、第1のポートが圧縮膨張ユニット(30)の吐出ポート(35)に、第2のポートが室外熱交換器(23)の他端に、第3のポートが連絡配管(16)を介して室内熱交換器(24)の他端に、第4のポートが圧縮膨張ユニット(30)の吸入ポート(34)にそれぞれ接続されている。そして、上記第2四路切換弁(22)は、第1のポートと第2のポートとが連通し、且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し、且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
【0023】
圧縮膨張ユニット(30)は、図2に示すように、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(31)を備えている。このケーシング(31)内には、圧縮機である圧縮機構(50)と、電動機(45)と、膨張機である膨張機構(60)とが収容されている。
【0024】
上記電動機(45)は、ケーシング(31)の長手方向における中央部に配置されている。この電動機(45)は、ステータ(46)とロータ(47)とにより構成されている。ステータ(46)はケーシング(31)に固定され、ロータ(47)はステータ(46)の内側に配置され、同軸にシャフト(40)の主軸部(44)が貫通している。
【0025】
上記シャフト(40)は、回転軸を構成している。シャフト(40)の下端側には、小径偏心部(43)が形成される一方、上端側には、大径偏心部(41)が形成されている。
【0026】
上記小径偏心部(43)は、主軸部(44)よりも小径に形成され、主軸部(44)の軸心から所定量だけ偏心している。一方、大径偏心部(41)は、主軸部(44)よりも大径に形成され、主軸部(44)の軸心から所定量だけ偏心している。
【0027】
上記圧縮機構(50)は、いわゆるスクロール式圧縮機を構成している。この圧縮機構(50)は、固定スクロール(51)と、可動スクロール(54)とを備えている。また、圧縮機構(50)には、流入ポート(32)および流出ポート(33)が設けられている。この流入ポート(32)および流出ポート(33)は、それぞれ配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
【0028】
上記固定スクロール(51)は、鏡板(52)に渦巻き壁状の固定側ラップ(53)が突設されて形成されている。固定スクロール(51)の鏡板(52)は、ケーシング(31)の内壁に固定されている。一方、上記可動スクロール(54)は、板状の鏡板(55)に渦巻き壁状の可動側ラップ(56)が突設されて形成されている。上記固定スクロール(51)および可動スクロール(54)は、互いに対向する状態で配置され、固定側ラップ(53)と可動側ラップ(56)とが噛み合うことにより圧縮室(59)が区画される。上記可動スクロール(54)は、その鏡板(55)の上側面の中央部に突出部分が形成されており、この突出部分にシャフト(40)の小径偏心部(43)が回転自在に嵌合されている。また、上記可動スクロール(54)は、オルダムリング(58)を介してフレーム(57)に支持されている。このオルダムリング(58)は、可動スクロール(54)の自転を規制するためのものである。そして、上記可動スクロール(54)は、自転することなく、所定の旋回半径で公転する。
【0029】
上記流入ポート(32)は、一端が固定側ラップ(53)および可動側ラップ(56)の外周側に接続されている。一方、上記流出ポート(33)は、一端が固定スクロール(51)の鏡板(52)の中央部に接続されて圧縮室(59)に開口している。
【0030】
上記膨張機構(60)は、図2および図3に示すようにいわゆる揺動ピストン型の流体機械であって、本発明に係る膨張機を構成している。この膨張機構(60)には、シリンダ(71)と、該シリンダ(71)内に収納されたピストン(75)と、フロントヘッド(61)と、リアヘッド(62)と、規制手段(80)とが備えられている。また、シリンダ(71)とピストン(75)とは、一対に形成されている。また、膨張機構(60)は、下方側からフロントヘッド(61)、シリンダ(71)およびリアヘッド(62)が積層されている。この状態において、シリンダ(71)は、下端面がフロントヘッド(61)によって閉塞され、上端面がリアヘッド(62)によって閉塞されている。そして、上記シャフト(44)が、積層された状態のフロントヘッド(61)、シリンダ(71)およびリアヘッド(62)を貫通している。
【0031】
上記ピストン(75)は、シリンダ(71)の内形よりも一回り小さい円筒状に形成されている。ピストン(75)は、その外周面が、シリンダ(71)の内周面に摺接し、上端面がリアヘッド(62)に摺接し、下端面がフロントヘッド(61)に摺接している。シリンダ(71)の内周面と、ピストン(75)の外周面との間には、流体室(72)が形成されている。また、ピストン(75)には、ブレード(76)が一体に設けられている。このブレード(76)は、ピストン(75)の外周面から、その径方向へ延びる板状に形成されている。そして、シリンダ(71)内の流体室(72)は、ブレード(76)によって高圧側の高圧室(73)と、低圧側の低圧室(74)とに仕切られている(図5参照)。
【0032】
上記シリンダ(71)は、ピストン(75)の外形よりも一回り大きい円筒状に形成され、該ピストン(75)を内部に収容している。シリンダ(71)は、一対のブッシュ(77)と、吸入口である吸入ポート(34)と、吐出口である吐出ポート(35)と、規制手段(80)とを備えている。
【0033】
上記ブッシュ(77)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となる略半月状に形成され、ブレード(76)を挟み込んだ状態でシリンダ(71)装着され、内側面がブレード(76)に対して摺動し、外側面がシリンダ(71)に対して摺動するように構成されている。つまり、ブレード(76)は、ブッシュ(77)を介してシリンダ(71)に支持され、該シリンダ(71)に対して回動自在で、且つ進退自在に構成されている。
【0034】
上記吸入ポート(34)は、シリンダ(71)を半径方向に貫通し、終端がシリンダ(71)の内周面のうち、ブッシュ(77)のやや左側の位置に開口している。つまり、この吸入ポート(34)は、流体室である高圧室(73)に連通している。一方で、吐出ポート(35)は、シリンダ(71)を半径方向に貫通し、始端がシリンダ(71)の内周面のうち、ブッシュ(77)のやや右側の位置に開口している。つまり、この吐出ポート(35)は、流体室である低圧室(74)に連通している。尚、上記吸入ポート(34)および吐出ポート(35)は、配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
【0035】
上記膨張機構(60)では、図5に示すように、シャフト(40)の回転に伴って高圧室(73)の容積が増加してゆく過程と、低圧室(74)の容積が減少してゆく過程が同期することになる。
【0036】
次に、本発明の特徴である規制手段(80)について図面に基づいて説明する。
【0037】
上記規制手段(80)は、図3、図4および図5に示すように、ばね部材(82)と、該ばね部材(82)に連結された弁部材(81)とを備え、両部材が、シリンダ(71)の内部において、吸入ポート(34)のやや左側に形成された凹部(83)に収納されて構成されている。
【0038】
上記凹部(83)は、シリンダ(71)の内周面から、その半径方向に凹んでいる。また、凹部(83)の、シリンダ(71)内に開口する開口面は、一回り小さく形成されている。
【0039】
上記ばね部材(82)は、一端が、上記凹部(83)の半径方向の終端面に当接される一方、他端が、後述する弁部材(81)に当接される。
【0040】
上記弁部材(81)は、円筒状の小片に形成され、一端に、大径に形成された円形状のフランジが設けられている。弁部材(81)は、凹部(83)内において一端であるフランジが、ばね部材(82)によって付勢されることで、他端側がシリンダ(71)の内周面に突出している。この弁部材(81)は、図4(A)および図5に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近の位置)までの間、ピストン(75)の外周面に当接するよう構成されている。そして、弁部材(81)は、図4(B)および図5に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過した後、ピストン(75)の外周面から離間する。つまり、弁部材(81)は、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)が連通状態となるピストン(75)の上死点付近において、高圧冷媒が吸入ポート(34)からシリンダ(71)内の低圧室(74)に流入するのを防止するよう構成されている。
【0041】
−運転動作−
次に、空気調和装置(10)の運転動作について説明する。ここでは、空気調和装置(10)の冷房運転時および暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構(60)の動作について説明する。
【0042】
先ず、冷房運転時の動作について説明する。この冷房運転は、第1四路切換弁(21)および第2四路切換弁(22)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式冷媒サイクルが行われる。
【0043】
上記圧縮機構(50)で圧縮された高圧冷媒は、流出ポート(33)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室外熱交換器(23)へ送られ、室外空気へ放熱する。室外熱交換器(23)で放熱した高圧冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、吸入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)の膨張室(72)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギーがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、吐出ポート(35)を通って圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。室内熱交換器(24)では、低圧冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(24)から流出した低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、流入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した低圧ガス冷媒を再び圧縮して吐出する。
【0044】
次に暖房運転時の動作について説明する。この暖房運転は、第1四路切換弁(21)および第2四路切換弁(22)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
【0045】
上記圧縮機構(50)で圧縮された高圧冷媒は、流出ポート(33)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。この室内熱交換器(24)では、高圧冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。室内熱交換器(24)で放熱した高圧冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、吸入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)の流体室(72)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギーがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、吐出ポート(35)を通って圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室外熱交換器(23)へ送られる。室外熱交換器(23)では、流入した低圧冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(23)から流出した低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、流入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した低圧ガス冷媒を再び圧縮して吐出する。
【0046】
次に膨張機構(60)の動作について図5に基づいて説明する。図5は、シャフト(40)およびピストン(75)の反時計周りの回転を回転角90°毎に示したものである。前述したように、膨張機構(60)では、シャフト(40)の回転に伴って高圧室(73)の容積が増加してゆく過程(吸入過程)と、低圧室(74)の容積が減少してゆく過程(吐出過程)とが同期することになる。
【0047】
先ず、膨張機構(60)の流体室(72)へ高圧冷媒が流入する吸入過程について、図5を参照しながら説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転して、ピストン(75)とシリンダ(71)の接点が吸入ポート(34)を通過すると、吸入ポート(34)から流体室(72)へ高圧冷媒が流入し始める。ここで、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が、吸入ポート(34)を通過する直後までは、規制手段(80)である弁部材(81)が、吸入ポート(34)から流体室(72)への高圧冷媒の流入を規制する。高圧冷媒が流入した流体室(72)は、高圧室(73)を構成する。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるつれて、高圧室(73)内の容積が増加すると、高圧室(73)内の高圧冷媒が膨張して低圧となる。尚、高圧室(73)への高圧冷媒の流入は、シャフト(40)の回転角が360°に達するまで続く。シャフト(40)の回転角が360°に達するまでに、高圧室(73)は低圧室(74)となる。
【0048】
次に、膨張機構(60)の低圧室(74)から外部へ低圧冷媒が吐出する吐出過程について図5を参照しながら説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転して、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過すると、吐出ポート(35)を介して低圧室(74)から低圧冷媒が流出し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれて、低圧室(74)内の容積が減少し、低圧室(74)内の低圧冷媒が吐出ポート(35)から流出する。
【0049】
ここで、規制手段(80)である弁部材(81)の動作について説明する。図4(A)に示すように、弁部材(81)は、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前にピストン(75)の外周面に当接した後、吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近)までピストン(75)の外周面に当接している。つまり、弁部材(81)は、吸入ポート(34)から低圧室(74)へ高圧冷媒が流入するのを規制している。そして、シャフト(40)の回転角が0°付近の状態から回転して、ピストン(75)とシリンダ(71)の接点が吸入ポート(34)を通過すると、弁部材(81)が、ピストン(75)の外周面から離れ始める。その後、図4(B)に示すように、シャフト(40)の回転角が90°付近になると、弁部材(81)は、ピストン(75)の外周面から完全に離れる。
【0050】
−実施形態1の効果−
上記本実施形態1によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後までの間、弁部材(81)をピストン(75)の外周面に当接させるようにしたため、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通した状態で、高圧冷媒が、吸入ポート(34)から低圧室(74)に流れ込むのを確実に防止することができる。この結果、吸入ポート(34)から吸入された高圧冷媒が、低圧室(74)で膨張されることなく吐出ポート(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0051】
〈実施形態1の変形例〉
次に、本発明の実施形態1の変形例について説明する。
【0052】
本変形例は、上記実施形態1において膨張機構(60)が、揺動ピストン型に構成されているのに対し、膨張機構(60)が、ローリングピストン型に構成されているものである。
【0053】
具体的には、図6に示すように、本変形例においてブレード(76)は、ピストン(75)と別体に形成されている。つまり、本変形例のピストン(75)は、単純な円筒状に形成されている。また、本変形例のシリンダ(71)には、ブレード溝(78)が形成され、ブレード(76)は、シリンダ(71)のブレード溝(78)に進退自在な状態で設けられている。そして、ブレード(76)は、ばね(図示なし)によって付勢され、その先端がピストン(75)の外周面に押し付けられている。したがって、シリンダ(71)内でピストン(75)がシャフト(40)の回転に伴って回転しながら揺動しても、このブレード(76)は、ブレード溝(78)に沿って上下方向に移動し、その先端は、常にピストン(75)と接した状態に保たれる。その他の構成、動作および効果は、実施形態1と同様である。
【0054】
〈発明の実施形態2〉
次に、本発明の実施形態2について図面に基づき説明する。
【0055】
図7に示すように、本実施形態2は、上記実施形態1における規制手段(80)の構成が異なっているものである。本実施形態2に係る規制手段(80)は、上記実施形態1における規制手段(80)に代えて、板ばね部材である板ばね(90)がピストン(75)の外周面に取り付けられて構成されている。
【0056】
具体的に、上記板ばね(90)は、横長の平板状に形成され、ピストン(75)の外周面において、図7における吸入ポート(34)のやや左側に対応する位置に、冷媒の上流側に向かって傾斜した状態で設けられている。この板ばね(90)は、図8(A)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前に、その上面がシリンダ(71)の内周面に当接した後、吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近の位置)までシリンダ(71)の内周面に当接するよう構成されている。また、このとき、板ばね(90)は、吸入ポート(34)から流入される高圧冷媒による圧力によって、シリンダ(71)の内周面にシールされる。そして、板ばね(90)は、図8(B)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過した後、シリンダ(71)の内周面から離間する。つまり、板ばね(90)は、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通状態となるピストン(75)の上死点付近において、ピストン(75)の外周面とシリンダ(71)の内周面との間を閉じることで、高圧冷媒がシリンダ(71)内の低圧室(74)に流入するのを防止するよう構成されている。
【0057】
上記本実施形態2によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、板ばね(90)が、ピストン(75)の外周面とシリンダ(71)の内周面との間を閉じるようにしたため、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通した状態で、高圧冷媒が吸入ポート(34)から低圧室(74)に流入するのを防止することができる。その他の構成、動作および効果は実施形態1と同様である。
【0058】
〈発明の実施形態3〉
次に、本発明の実施形態3について図面に基づき説明する。
【0059】
図9に示すように、本実施形態3は、上記実施形態1における規制手段(80)の構成が異なっているものである。本実施形態3に係る規制手段(80)は、上記実施形態1における規制手段(80)に代えて、ピストン(75)の外周面に、凸部(91)が形成されて構成されている。
【0060】
具体的に、上記凸部(91)は、略円筒状に形成され、ピストン(75)の外周面において、図9における吸入ポート(34)のやや左側に設けられている。この凸部(91)は、図10(A)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前に、吸入ポート(34)に挿入された後、吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近の位置)まで吸入ポート(34)に挿入されるよう構成されている。そして、凸部(91)は、図10(B)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過した後、吸入ポート(34)から抜き出る。つまり、凸部(91)は、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通状態となるピストン(75)の上死点付近において、吸入ポート(34)内に挿入されることで、高圧冷媒がシリンダ(71)内の低圧室(74)に流入するのを規制するよう構成されている。
【0061】
上記本実施形態3によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後までの間、ピストン(75)の外周面に形成される凸部(91)を吸入ポート(34)に挿入するようにしたため、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通した状態で、吸入ポート(34)から低圧室(74)に流入する高圧冷媒量を低減させることができる。その他の構成、動作および効果は実施形態1と同様である。
【0062】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態1〜3について、以下のような構成としてもよい。
【0063】
本発明は、実施形態1〜3に示す圧縮膨張ユニット(30)に本発明を適用したが、本発明は、その他の各種構成における膨張機に対しても適用することができる。
【0064】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明は、膨張機の膨張不良防止対策について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施形態1〜3に係る空気調和装置を示す配管系統図である。
【図2】実施形態1〜3に係る圧縮膨張ユニットを示す縦断面図である。
【図3】実施形態1に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図4】(A)は、実施形態1に係る回転角0°付近の膨張機を示す概略水平断面図であり、(B)は、実施形態1に係る回転角90°付近の膨張機を示す概略水平断面図である。
【図5】実施形態1に係る膨張機の動作を回転角90°毎に示す水平断面図である。
【図6】実施形態1の変形例に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図7】実施形態2に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図8】(A)は、実施形態2に係る回転角0°付近の膨張機を示す概略水平断面図であり、(B)は、実施形態2に係る回転角90°付近の膨張機を示す概略水平断面図である。
【図9】実施形態3に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図10】(A)は、実施形態3に係る回転角0°付近の膨張機を示す概略水平断面図であり、(B)は、実施形態3に係る回転角90°付近の膨張機を示す概略水平断面図である。
【図11】従来技術における回転式膨張機の動作を回転角90°毎に示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0067】
34 吸入ポート
35 吐出ポート
71 シリンダ
72 流体室
75 ピストン
76 ブレード
80 規制手段
81 弁部材
82 ばね部材
90 板ばね
91 凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張機に関し、特に、流体の膨張不良防止対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、流体の膨張により動力を発生させる容積型膨張機として、例えば回転式膨張機が知られている。この種の膨張機は、例えば蒸気圧縮式の冷媒サイクルの膨張行程を行うのに用いられている(特許文献1)。上記膨張機は、図11に示すように、シリンダ(a)と、該シリンダ(a)の内周面に沿って公転するピストン(b)とを備え、シリンダ(a)とピストン(b)との間に形成される膨張室(c)が吸入・膨張側と排出側とに区画されている。そして、ピストン(b)の公転動作に伴って、膨張室(c)は吸入・膨張側であった部分が排出側に、排出側であった部分が吸入・膨張側に順に切り換わり、流体の吸入・膨張作用と排出作用とが同時に並行して行われる。
【特許文献1】特開平8−338356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の回転式膨張機においては、ピストン(b)の回転が0°付近に位置する、いわゆる上死点付近において、吸入口(d)と排出口(e)とが連通状態となり、その結果、吸入した高圧流体が、膨張室(c)で膨張されることなく排出されてしまう、いわゆる吹き抜けが発生するという問題があった。
【0004】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、膨張機の吹き抜けを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、吸入口(34)および吐出口(35)が形成されたシリンダ(71)と、該シリンダ(71)内に回転軸の軸心に対して偏心した状態で収納されるピストン(75)と、該シリンダ(71)とピストン(75)との間に形成される流体室(72)を流体の高圧側と低圧側とに仕切るためのブレード(76)とを備え、該流体室(72)において流体を膨張させる膨張機であって、上記ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間において、上記吐出口(35)に連通している流体室(72)への吸入口(34)からの流体の流入を規制する規制手段(80)を備えている。
【0006】
上記第1の発明では、ピストン(75)が、シリンダ(71)内を回転軸の軸心に対して偏心して公転する。この公転に伴って吸入口(34)から流体室(72)内に高圧冷媒が流入し、該高圧冷媒が膨張して低圧流体となって、吐出口(35)から流出する。ここで、シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間において、規制手段(80)が、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通する流体室(72)への流体の流入を規制する。
【0007】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記規制手段(80)は、上記シリンダ(71)に設けられるばね部材(82)と、該ばね部材(82)が連結されて上記シリンダ(71)の内周面と上記ピストン(75)の外周面との間を閉じる弁部材(81)とを備えている。
【0008】
上記第2の発明では、シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、弁部材(81)が、ピストン(75)の外周面に当接する。つまり、弁部材(81)が、シリンダ(71)の内周面とピストン(75)の外周面との間を閉じるため、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通する流体室(72)に流体が流入しない。
【0009】
第3の発明は、上記第1の発明において、上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、上記規制手段(80)は、該ピストン(75)の外周面に取り付けられ、且つ吸入流体の上流側に向かって傾斜して上記ピストン(75)の外周面と上記シリンダ(71)の内周面との間を閉じる板ばね部材(90)で構成されている。
【0010】
上記第3の発明では、ブレード(76)およびピストン(75)は一体となって公転する。シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、板ばね部材(90)が、シリンダ(71)の内周面に当接する。また、吸入口(34)から流入した流体が、板ばね部材(90)を流体の下流側に向かって加圧し、板ばね部材(90)をシリンダ(71)の内周面にシールする。
【0011】
第4の発明は、上記第1の発明において、上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、上記規制手段(80)は、上記ピストン(75)の外周面に形成されて上記吸入口(34)に挿入される凸部(91)で構成されている。
【0012】
上記第4の発明では、ブレード(76)およびピストン(75)は一体となって公転する。シリンダ(71)とピストン(75)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、ピストン(75)の外周面に形成した凸部(91)を吸入口(34)に挿入する。つまり、凸部(91)が、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通する流体室(72)への流体の流入を規制する。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、吸入口(34)から吐出口(35)に連通している流体室(72)に流入する流体を規制するようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、吸入口(34)から、吐出口(35)に連通している流体室(72)に流入する流体量を低減させることができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0014】
上記第2の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、弁部材(81)が、シリンダ(71)の内周面とピストン(75)の外周面との間を閉じるようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、流体が、吸入口(34)から、吐出口(35)と連通している流体室(72)に流入するのを防止することができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0015】
上記第3の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、板ばね部材(90)が、ピストン(75)の外周面とシリンダ(71)の内周面との間を閉じるようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、流体が、吸入口(34)から、吐出口(35)と連通している流体室(72)に流入するのを防止することができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0016】
上記第4の発明によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、ピストン(75)の外周面に形成される凸部(91)を吸入口(34)に挿入するようにしたため、吸入口(34)と吐出口(35)とが連通した状態で、吸入口(34)から、吐出口(35)と連通している流体室(72)に流入する流体量を低減させることができる。この結果、吸入口(34)から流入された流体が、流体室(72)で膨張されることなく吐出口(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
〈発明の実施形態1〉
図1に示すように、本実施形態1に係る空気調和装置(10)は、いわゆるセパレート型のものであって、屋内に設置される室内機(13)と、屋外に設置される室外機(11)とを備えている。上記室外機(11)には、室外ファン(12)、室外熱交換器(23)、第1四路切換弁(21)、第2四路切換弁(22)および圧縮膨張ユニット(30)が収納されている。室内機(13)には、室内ファン(14)および室内熱交換器(24)が収納されている。また、室外機(11)と室内機(13)とは、一対の連絡配管(15,16)で接続されている。また、圧縮膨張ユニット(30)は、圧縮機である圧縮機構(50)と膨張機である膨張機構(60)とを備えている。
【0019】
上記空気調和装置(10)には、冷媒回路(20)が設けられている。この冷媒回路(20)は、圧縮膨張ユニット(30)、室内熱交換器(24)および室外熱交換器(23)などが接続された閉回路である。また、この冷媒回路(20)には、冷媒として、例えば二酸化炭素(CO2)が充填されている。
【0020】
上記室外熱交換器(23)および室内熱交換器(24)は、何れもクロス・フィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器により構成されている。上記室外熱交換器(23)では冷媒回路(20)を循環する冷媒が室外ファン(12)により取り込まれた室外空気と熱交換する。上記室内熱交換器(24)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室内ファン(14)によって取り込まれた室内空気と熱交換する。
【0021】
上記第1四路切換弁(21)は、4つのポートを備えている。この第1四路切換弁(21)は、第1のポートが圧縮膨張ユニット(30)の流出ポート(33)に、第2のポートが連絡配管(15)を介して室内熱交換器(24)の一端に、第3のポートが室外熱交換器(23)の一端に、第4のポートが圧縮膨張ユニット(30)の流入ポート(32)にそれぞれ接続されている。そして、上記第1四路切換弁(21)は、第1のポートと第2のポートとが連通し、且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し、且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
【0022】
上記第2四路切換弁(22)は、4つのポートを備えている。この第2四路切換弁(22)は、第1のポートが圧縮膨張ユニット(30)の吐出ポート(35)に、第2のポートが室外熱交換器(23)の他端に、第3のポートが連絡配管(16)を介して室内熱交換器(24)の他端に、第4のポートが圧縮膨張ユニット(30)の吸入ポート(34)にそれぞれ接続されている。そして、上記第2四路切換弁(22)は、第1のポートと第2のポートとが連通し、且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し、且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
【0023】
圧縮膨張ユニット(30)は、図2に示すように、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(31)を備えている。このケーシング(31)内には、圧縮機である圧縮機構(50)と、電動機(45)と、膨張機である膨張機構(60)とが収容されている。
【0024】
上記電動機(45)は、ケーシング(31)の長手方向における中央部に配置されている。この電動機(45)は、ステータ(46)とロータ(47)とにより構成されている。ステータ(46)はケーシング(31)に固定され、ロータ(47)はステータ(46)の内側に配置され、同軸にシャフト(40)の主軸部(44)が貫通している。
【0025】
上記シャフト(40)は、回転軸を構成している。シャフト(40)の下端側には、小径偏心部(43)が形成される一方、上端側には、大径偏心部(41)が形成されている。
【0026】
上記小径偏心部(43)は、主軸部(44)よりも小径に形成され、主軸部(44)の軸心から所定量だけ偏心している。一方、大径偏心部(41)は、主軸部(44)よりも大径に形成され、主軸部(44)の軸心から所定量だけ偏心している。
【0027】
上記圧縮機構(50)は、いわゆるスクロール式圧縮機を構成している。この圧縮機構(50)は、固定スクロール(51)と、可動スクロール(54)とを備えている。また、圧縮機構(50)には、流入ポート(32)および流出ポート(33)が設けられている。この流入ポート(32)および流出ポート(33)は、それぞれ配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
【0028】
上記固定スクロール(51)は、鏡板(52)に渦巻き壁状の固定側ラップ(53)が突設されて形成されている。固定スクロール(51)の鏡板(52)は、ケーシング(31)の内壁に固定されている。一方、上記可動スクロール(54)は、板状の鏡板(55)に渦巻き壁状の可動側ラップ(56)が突設されて形成されている。上記固定スクロール(51)および可動スクロール(54)は、互いに対向する状態で配置され、固定側ラップ(53)と可動側ラップ(56)とが噛み合うことにより圧縮室(59)が区画される。上記可動スクロール(54)は、その鏡板(55)の上側面の中央部に突出部分が形成されており、この突出部分にシャフト(40)の小径偏心部(43)が回転自在に嵌合されている。また、上記可動スクロール(54)は、オルダムリング(58)を介してフレーム(57)に支持されている。このオルダムリング(58)は、可動スクロール(54)の自転を規制するためのものである。そして、上記可動スクロール(54)は、自転することなく、所定の旋回半径で公転する。
【0029】
上記流入ポート(32)は、一端が固定側ラップ(53)および可動側ラップ(56)の外周側に接続されている。一方、上記流出ポート(33)は、一端が固定スクロール(51)の鏡板(52)の中央部に接続されて圧縮室(59)に開口している。
【0030】
上記膨張機構(60)は、図2および図3に示すようにいわゆる揺動ピストン型の流体機械であって、本発明に係る膨張機を構成している。この膨張機構(60)には、シリンダ(71)と、該シリンダ(71)内に収納されたピストン(75)と、フロントヘッド(61)と、リアヘッド(62)と、規制手段(80)とが備えられている。また、シリンダ(71)とピストン(75)とは、一対に形成されている。また、膨張機構(60)は、下方側からフロントヘッド(61)、シリンダ(71)およびリアヘッド(62)が積層されている。この状態において、シリンダ(71)は、下端面がフロントヘッド(61)によって閉塞され、上端面がリアヘッド(62)によって閉塞されている。そして、上記シャフト(44)が、積層された状態のフロントヘッド(61)、シリンダ(71)およびリアヘッド(62)を貫通している。
【0031】
上記ピストン(75)は、シリンダ(71)の内形よりも一回り小さい円筒状に形成されている。ピストン(75)は、その外周面が、シリンダ(71)の内周面に摺接し、上端面がリアヘッド(62)に摺接し、下端面がフロントヘッド(61)に摺接している。シリンダ(71)の内周面と、ピストン(75)の外周面との間には、流体室(72)が形成されている。また、ピストン(75)には、ブレード(76)が一体に設けられている。このブレード(76)は、ピストン(75)の外周面から、その径方向へ延びる板状に形成されている。そして、シリンダ(71)内の流体室(72)は、ブレード(76)によって高圧側の高圧室(73)と、低圧側の低圧室(74)とに仕切られている(図5参照)。
【0032】
上記シリンダ(71)は、ピストン(75)の外形よりも一回り大きい円筒状に形成され、該ピストン(75)を内部に収容している。シリンダ(71)は、一対のブッシュ(77)と、吸入口である吸入ポート(34)と、吐出口である吐出ポート(35)と、規制手段(80)とを備えている。
【0033】
上記ブッシュ(77)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となる略半月状に形成され、ブレード(76)を挟み込んだ状態でシリンダ(71)装着され、内側面がブレード(76)に対して摺動し、外側面がシリンダ(71)に対して摺動するように構成されている。つまり、ブレード(76)は、ブッシュ(77)を介してシリンダ(71)に支持され、該シリンダ(71)に対して回動自在で、且つ進退自在に構成されている。
【0034】
上記吸入ポート(34)は、シリンダ(71)を半径方向に貫通し、終端がシリンダ(71)の内周面のうち、ブッシュ(77)のやや左側の位置に開口している。つまり、この吸入ポート(34)は、流体室である高圧室(73)に連通している。一方で、吐出ポート(35)は、シリンダ(71)を半径方向に貫通し、始端がシリンダ(71)の内周面のうち、ブッシュ(77)のやや右側の位置に開口している。つまり、この吐出ポート(35)は、流体室である低圧室(74)に連通している。尚、上記吸入ポート(34)および吐出ポート(35)は、配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
【0035】
上記膨張機構(60)では、図5に示すように、シャフト(40)の回転に伴って高圧室(73)の容積が増加してゆく過程と、低圧室(74)の容積が減少してゆく過程が同期することになる。
【0036】
次に、本発明の特徴である規制手段(80)について図面に基づいて説明する。
【0037】
上記規制手段(80)は、図3、図4および図5に示すように、ばね部材(82)と、該ばね部材(82)に連結された弁部材(81)とを備え、両部材が、シリンダ(71)の内部において、吸入ポート(34)のやや左側に形成された凹部(83)に収納されて構成されている。
【0038】
上記凹部(83)は、シリンダ(71)の内周面から、その半径方向に凹んでいる。また、凹部(83)の、シリンダ(71)内に開口する開口面は、一回り小さく形成されている。
【0039】
上記ばね部材(82)は、一端が、上記凹部(83)の半径方向の終端面に当接される一方、他端が、後述する弁部材(81)に当接される。
【0040】
上記弁部材(81)は、円筒状の小片に形成され、一端に、大径に形成された円形状のフランジが設けられている。弁部材(81)は、凹部(83)内において一端であるフランジが、ばね部材(82)によって付勢されることで、他端側がシリンダ(71)の内周面に突出している。この弁部材(81)は、図4(A)および図5に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近の位置)までの間、ピストン(75)の外周面に当接するよう構成されている。そして、弁部材(81)は、図4(B)および図5に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過した後、ピストン(75)の外周面から離間する。つまり、弁部材(81)は、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)が連通状態となるピストン(75)の上死点付近において、高圧冷媒が吸入ポート(34)からシリンダ(71)内の低圧室(74)に流入するのを防止するよう構成されている。
【0041】
−運転動作−
次に、空気調和装置(10)の運転動作について説明する。ここでは、空気調和装置(10)の冷房運転時および暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構(60)の動作について説明する。
【0042】
先ず、冷房運転時の動作について説明する。この冷房運転は、第1四路切換弁(21)および第2四路切換弁(22)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式冷媒サイクルが行われる。
【0043】
上記圧縮機構(50)で圧縮された高圧冷媒は、流出ポート(33)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室外熱交換器(23)へ送られ、室外空気へ放熱する。室外熱交換器(23)で放熱した高圧冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、吸入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)の膨張室(72)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギーがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、吐出ポート(35)を通って圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。室内熱交換器(24)では、低圧冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。室内熱交換器(24)から流出した低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、流入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した低圧ガス冷媒を再び圧縮して吐出する。
【0044】
次に暖房運転時の動作について説明する。この暖房運転は、第1四路切換弁(21)および第2四路切換弁(22)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
【0045】
上記圧縮機構(50)で圧縮された高圧冷媒は、流出ポート(33)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。この室内熱交換器(24)では、高圧冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。室内熱交換器(24)で放熱した高圧冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、吸入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)の流体室(72)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギーがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、吐出ポート(35)を通って圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室外熱交換器(23)へ送られる。室外熱交換器(23)では、流入した低圧冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(23)から流出した低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、流入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した低圧ガス冷媒を再び圧縮して吐出する。
【0046】
次に膨張機構(60)の動作について図5に基づいて説明する。図5は、シャフト(40)およびピストン(75)の反時計周りの回転を回転角90°毎に示したものである。前述したように、膨張機構(60)では、シャフト(40)の回転に伴って高圧室(73)の容積が増加してゆく過程(吸入過程)と、低圧室(74)の容積が減少してゆく過程(吐出過程)とが同期することになる。
【0047】
先ず、膨張機構(60)の流体室(72)へ高圧冷媒が流入する吸入過程について、図5を参照しながら説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転して、ピストン(75)とシリンダ(71)の接点が吸入ポート(34)を通過すると、吸入ポート(34)から流体室(72)へ高圧冷媒が流入し始める。ここで、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が、吸入ポート(34)を通過する直後までは、規制手段(80)である弁部材(81)が、吸入ポート(34)から流体室(72)への高圧冷媒の流入を規制する。高圧冷媒が流入した流体室(72)は、高圧室(73)を構成する。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるつれて、高圧室(73)内の容積が増加すると、高圧室(73)内の高圧冷媒が膨張して低圧となる。尚、高圧室(73)への高圧冷媒の流入は、シャフト(40)の回転角が360°に達するまで続く。シャフト(40)の回転角が360°に達するまでに、高圧室(73)は低圧室(74)となる。
【0048】
次に、膨張機構(60)の低圧室(74)から外部へ低圧冷媒が吐出する吐出過程について図5を参照しながら説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転して、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過すると、吐出ポート(35)を介して低圧室(74)から低圧冷媒が流出し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれて、低圧室(74)内の容積が減少し、低圧室(74)内の低圧冷媒が吐出ポート(35)から流出する。
【0049】
ここで、規制手段(80)である弁部材(81)の動作について説明する。図4(A)に示すように、弁部材(81)は、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前にピストン(75)の外周面に当接した後、吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近)までピストン(75)の外周面に当接している。つまり、弁部材(81)は、吸入ポート(34)から低圧室(74)へ高圧冷媒が流入するのを規制している。そして、シャフト(40)の回転角が0°付近の状態から回転して、ピストン(75)とシリンダ(71)の接点が吸入ポート(34)を通過すると、弁部材(81)が、ピストン(75)の外周面から離れ始める。その後、図4(B)に示すように、シャフト(40)の回転角が90°付近になると、弁部材(81)は、ピストン(75)の外周面から完全に離れる。
【0050】
−実施形態1の効果−
上記本実施形態1によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後までの間、弁部材(81)をピストン(75)の外周面に当接させるようにしたため、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通した状態で、高圧冷媒が、吸入ポート(34)から低圧室(74)に流れ込むのを確実に防止することができる。この結果、吸入ポート(34)から吸入された高圧冷媒が、低圧室(74)で膨張されることなく吐出ポート(35)から吐出される、いわゆる吹き抜けを確実に防止することができる。
【0051】
〈実施形態1の変形例〉
次に、本発明の実施形態1の変形例について説明する。
【0052】
本変形例は、上記実施形態1において膨張機構(60)が、揺動ピストン型に構成されているのに対し、膨張機構(60)が、ローリングピストン型に構成されているものである。
【0053】
具体的には、図6に示すように、本変形例においてブレード(76)は、ピストン(75)と別体に形成されている。つまり、本変形例のピストン(75)は、単純な円筒状に形成されている。また、本変形例のシリンダ(71)には、ブレード溝(78)が形成され、ブレード(76)は、シリンダ(71)のブレード溝(78)に進退自在な状態で設けられている。そして、ブレード(76)は、ばね(図示なし)によって付勢され、その先端がピストン(75)の外周面に押し付けられている。したがって、シリンダ(71)内でピストン(75)がシャフト(40)の回転に伴って回転しながら揺動しても、このブレード(76)は、ブレード溝(78)に沿って上下方向に移動し、その先端は、常にピストン(75)と接した状態に保たれる。その他の構成、動作および効果は、実施形態1と同様である。
【0054】
〈発明の実施形態2〉
次に、本発明の実施形態2について図面に基づき説明する。
【0055】
図7に示すように、本実施形態2は、上記実施形態1における規制手段(80)の構成が異なっているものである。本実施形態2に係る規制手段(80)は、上記実施形態1における規制手段(80)に代えて、板ばね部材である板ばね(90)がピストン(75)の外周面に取り付けられて構成されている。
【0056】
具体的に、上記板ばね(90)は、横長の平板状に形成され、ピストン(75)の外周面において、図7における吸入ポート(34)のやや左側に対応する位置に、冷媒の上流側に向かって傾斜した状態で設けられている。この板ばね(90)は、図8(A)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前に、その上面がシリンダ(71)の内周面に当接した後、吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近の位置)までシリンダ(71)の内周面に当接するよう構成されている。また、このとき、板ばね(90)は、吸入ポート(34)から流入される高圧冷媒による圧力によって、シリンダ(71)の内周面にシールされる。そして、板ばね(90)は、図8(B)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過した後、シリンダ(71)の内周面から離間する。つまり、板ばね(90)は、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通状態となるピストン(75)の上死点付近において、ピストン(75)の外周面とシリンダ(71)の内周面との間を閉じることで、高圧冷媒がシリンダ(71)内の低圧室(74)に流入するのを防止するよう構成されている。
【0057】
上記本実施形態2によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間、板ばね(90)が、ピストン(75)の外周面とシリンダ(71)の内周面との間を閉じるようにしたため、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通した状態で、高圧冷媒が吸入ポート(34)から低圧室(74)に流入するのを防止することができる。その他の構成、動作および効果は実施形態1と同様である。
【0058】
〈発明の実施形態3〉
次に、本発明の実施形態3について図面に基づき説明する。
【0059】
図9に示すように、本実施形態3は、上記実施形態1における規制手段(80)の構成が異なっているものである。本実施形態3に係る規制手段(80)は、上記実施形態1における規制手段(80)に代えて、ピストン(75)の外周面に、凸部(91)が形成されて構成されている。
【0060】
具体的に、上記凸部(91)は、略円筒状に形成され、ピストン(75)の外周面において、図9における吸入ポート(34)のやや左側に設けられている。この凸部(91)は、図10(A)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前に、吸入ポート(34)に挿入された後、吸入ポート(34)を通過する直後(シャフト(40)の回転角が0°付近の位置)まで吸入ポート(34)に挿入されるよう構成されている。そして、凸部(91)は、図10(B)に示すように、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吸入ポート(34)を通過した後、吸入ポート(34)から抜き出る。つまり、凸部(91)は、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通状態となるピストン(75)の上死点付近において、吸入ポート(34)内に挿入されることで、高圧冷媒がシリンダ(71)内の低圧室(74)に流入するのを規制するよう構成されている。
【0061】
上記本実施形態3によれば、ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出ポート(35)に到達する直前から吸入ポート(34)を通過する直後までの間、ピストン(75)の外周面に形成される凸部(91)を吸入ポート(34)に挿入するようにしたため、吸入ポート(34)と吐出ポート(35)とが連通した状態で、吸入ポート(34)から低圧室(74)に流入する高圧冷媒量を低減させることができる。その他の構成、動作および効果は実施形態1と同様である。
【0062】
〈その他の実施形態〉
本発明は、上記実施形態1〜3について、以下のような構成としてもよい。
【0063】
本発明は、実施形態1〜3に示す圧縮膨張ユニット(30)に本発明を適用したが、本発明は、その他の各種構成における膨張機に対しても適用することができる。
【0064】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明は、膨張機の膨張不良防止対策について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施形態1〜3に係る空気調和装置を示す配管系統図である。
【図2】実施形態1〜3に係る圧縮膨張ユニットを示す縦断面図である。
【図3】実施形態1に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図4】(A)は、実施形態1に係る回転角0°付近の膨張機を示す概略水平断面図であり、(B)は、実施形態1に係る回転角90°付近の膨張機を示す概略水平断面図である。
【図5】実施形態1に係る膨張機の動作を回転角90°毎に示す水平断面図である。
【図6】実施形態1の変形例に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図7】実施形態2に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図8】(A)は、実施形態2に係る回転角0°付近の膨張機を示す概略水平断面図であり、(B)は、実施形態2に係る回転角90°付近の膨張機を示す概略水平断面図である。
【図9】実施形態3に係る膨張機を示す水平断面図である。
【図10】(A)は、実施形態3に係る回転角0°付近の膨張機を示す概略水平断面図であり、(B)は、実施形態3に係る回転角90°付近の膨張機を示す概略水平断面図である。
【図11】従来技術における回転式膨張機の動作を回転角90°毎に示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0067】
34 吸入ポート
35 吐出ポート
71 シリンダ
72 流体室
75 ピストン
76 ブレード
80 規制手段
81 弁部材
82 ばね部材
90 板ばね
91 凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口(34)および吐出口(35)が形成されたシリンダ(71)と、該シリンダ(71)内に回転軸の軸心に対して偏心した状態で収納されるピストン(75)と、該シリンダ(71)とピストン(75)との間に形成される流体室(72)を流体の高圧側と低圧側とに仕切るためのブレード(76)とを備え、該流体室(72)において流体を膨張させる膨張機であって、
上記ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間において、上記吐出口(35)に連通している流体室(72)への吸入口(34)からの流体の流入を規制する規制手段(80)を備えている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項2】
請求項1において、
上記規制手段(80)は、上記シリンダ(71)に設けられるばね部材(82)と、該ばね部材(82)が連結されて上記シリンダ(71)の内周面と上記ピストン(75)の外周面との間を閉じる弁部材(81)とを備えている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項3】
請求項1において、
上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、
上記規制手段(80)は、該ピストン(75)の外周面に取り付けられ、且つ吸入流体の上流側に向かって傾斜して上記ピストン(75)の外周面と上記シリンダ(71)の内周面との間を閉じる板ばね部材(90)で構成されている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項4】
請求項1において、
上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、
上記規制手段(80)は、上記ピストン(75)の外周面に形成されて上記吸入口(34)に挿入される凸部(91)で構成されている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項1】
吸入口(34)および吐出口(35)が形成されたシリンダ(71)と、該シリンダ(71)内に回転軸の軸心に対して偏心した状態で収納されるピストン(75)と、該シリンダ(71)とピストン(75)との間に形成される流体室(72)を流体の高圧側と低圧側とに仕切るためのブレード(76)とを備え、該流体室(72)において流体を膨張させる膨張機であって、
上記ピストン(75)とシリンダ(71)との接点が吐出口(35)に到達する直前から吸入口(34)を通過する直後までの間において、上記吐出口(35)に連通している流体室(72)への吸入口(34)からの流体の流入を規制する規制手段(80)を備えている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項2】
請求項1において、
上記規制手段(80)は、上記シリンダ(71)に設けられるばね部材(82)と、該ばね部材(82)が連結されて上記シリンダ(71)の内周面と上記ピストン(75)の外周面との間を閉じる弁部材(81)とを備えている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項3】
請求項1において、
上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、
上記規制手段(80)は、該ピストン(75)の外周面に取り付けられ、且つ吸入流体の上流側に向かって傾斜して上記ピストン(75)の外周面と上記シリンダ(71)の内周面との間を閉じる板ばね部材(90)で構成されている
ことを特徴とする膨張機。
【請求項4】
請求項1において、
上記ブレード(76)は、上記ピストン(75)と一体に形成され、
上記規制手段(80)は、上記ピストン(75)の外周面に形成されて上記吸入口(34)に挿入される凸部(91)で構成されている
ことを特徴とする膨張機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−167832(P2009−167832A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4453(P2008−4453)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
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