説明

臓器の増大および修復のための多層複合体

【課題】組織工学インプラントは、細胞増殖のための構造および培地を提供することによって、再生を促進することができ、損傷組織環境への健康な組織の直接植え込みを可能にすることができる。新規治療法の多くは、植え込み可能な生体適合性および生分解性足場を必要とする。近年この分野が進歩しているにもかかわらず、特に、中空臓器に関する領域での組織足場の手法の改良が求められている。
【解決手段】本発明は、組織増大または再生のための装置および方法に関する。さらに具体的には、本発明は、臓器または組織での植え込み移植に適した、生体吸収性の足場材料と自己組織との複合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、組織増大または再生のための装置および方法に関する。さらに具体的には、本発明は、中空臓器または皮膚での植え込みに適した生体適合性の足場と自己組織の複合体を提供する。
【0002】
〔発明の背景〕
再生医学は、損傷組織の自律的再生を生体に促すことによって、疾病の治療およびヒト組織の回復に努めている。組織工学インプラントは、細胞増殖のための構造および培地を提供することによって、そのような再生を促進することができ、損傷組織環境への健康な組織の直接植え込みを可能にすることができる。
【0003】
これらの新規治療法の多くは、インビトロ(試験管内)およびインビボ(生体内)での使用のための植え込み可能な生体適合性および生分解性足場を必要とする。これらの足場は、組織浸潤を介して、あるいは、細胞付着および増殖の適切な手段を提供することによって治癒を補強することができる。また、これらの足場は、細胞を播種され、化学的刺激、機械的刺激および細胞刺激が最適化される方法で製造されることができる。近年この分野が進歩しているにもかかわらず、特に、皮膚や、膀胱、尿道、十二指腸、食道または気管などの中空臓器に関する領域での組織足場の手法の改良が求められている。
【0004】
〔発明の概要〕
本発明の態様は、中空臓器中の組織の増大および再生のための改良インプラントであって、自己細胞または組織を挟む生体適合性、生分解性足場を含む改良インプラントを提供する。
【0005】
本発明のある実施形態では、2層以上の生体適合性足場および自己組織または細胞が、組織の増殖を促進する手段を提供する。本発明の別の態様では、組織は、2種類以上の細胞型を含有する。
【0006】
本発明の別の実施形態では、装置は、細胞成分を定位置に保持でき、縫合など、固定手段も含むことができる。
【0007】
本発明のさらなる目的は、中空臓器中の組織再生を補強するためのインプラントの使用法を提供する。
【0008】
本発明の別の実施形態では、これらの細胞化インプラントは、穴を継当てし、損傷組織部分を修復し、あるいは、中空臓器の組織の表面積を増加させることを目的に使用されることができる。
【0009】
本発明の一部の特徴および長所が、特定の好ましい実施形態の図を参照して説明されるが、図は、本発明を例示するものであり、本発明を制限しないことを意図されている。
【0010】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、本明細書に記述されている特定の方法、プロトコルなどに制約されず、変更も可能であることを理解することが必要である。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのもので、本発明の範囲を制約することは意図されず、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ規定される。
【0011】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、本文が、他に明確に規定されない限り、複数形指示を含む。よって、例えば、細胞の指示は、指示内容が、他に明確な規定がない限り、当業者に既知の相当語句を含めて、1個以上の細胞への指示であることができる。実施例の実践以外で、あるいは、他に規定されている場合、本明細書で使用される成分の量を表す全数または反応条件は、すべての場合で、用語「約(about)」によって変更されるものと理解することが必要である。用語「約(about)」は、パーセンテージと関連して使用される場合、平均値±1%であることができる。
【0012】
特定される全特許および他の刊行物は、本発明と関連して使用可能と考えられる刊行物に記述されている、例えば、方法を説明および開示することを目的にして、参照することによって本明細書に組み入れられている。これらの刊行物は、本出願の出願日前の開示書類に関してのみ提供される。この点で、本発明人が先行発明によって、あるいは、他の理由で、開示書類に先行する権限を付与されていないことを承認するものとして、何物も解釈されてはならない。日付に関する全記載事項またはこれら書類の内容に関する発表は、すべて、出願人が入手し得る情報に基づいており、これらの書類の日付もしくは内容の正確さに関して承認されていると見なされるわけではない。
【0013】
他に規定されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本発明が関係する当業者に共通して理解されている用語の意味と同じ意味を有する。本発明の実施または試験においていずれの既知の方法、装置および材料も使用されることができるが、この点で好ましい方法、装置および材料が、本明細書に説明されている。
【0014】
本発明は、本発明が組織増大および再生を補助するように層状複合装置、およびこの装置の使用法を提供する。さらに具体的には、多層の生体適合性足場および自己組織は、1個以上の細胞型を含有する組織の増殖を促進する手段を提供することができる。これらの細胞化パッチは、利用されると、穴を埋め、損傷部分を修復し、あるいは、中空臓器の組織の表面積を増加させることができる。この装置は、自己細胞および組織を定位置に保持することができるだけでなく、インプラントの固定手段を含有することもできる。
【0015】
最近の公報は、骨格もしくは管組織の再建のための各種足場法を論じている。例えば、米国特許出願公開第20050154458号は、骨髄からの幹細胞と相互作用することができ、骨格筋利用生体材料または合成ポリマー材料の向かい合う表面の間に挟まれた、ヒアルロン酸などの「アクティブバイオ層(active bio layer)」に言及している。本発明は、「アクティブバイオ層」を必要とせず、そのような骨格筋利用に制約されない。米国特許出願公開第20040225247号は、消化管病巣の修復用の保護層を有する組織パッチに言及している。本発明は、このような「保護ライナー」を保有せず、このような病巣にも制約されない。米国特許出願公開第20050272153号は、骨内への植え込みまたは骨の所定位置への植え込み用の、生体適合性材料(細胞や組織ではない)による金属コート足場(よって、非分解性)に言及している。最後に、米国特許第6,143,293号は、例えば骨使用3次元空隙フィラーとしての使用のための積重ね式細胞播種ハイドロキシアパタイト足場に言及している。本発明は、このような空隙フィラー使用に向けられていない。
【0016】
本発明のある実施形態では、各複合体は、少なくとも2層の足場層と少なくとも1層の細胞層とを含有する。例えば、図1を参照されたい。これらの層は、各種の方法で互いの上に配置され、生体成分とのインプラントシステムを形成することができる。この足場層は、多孔質であることも、非多孔質であることもでき、天然ポリマー、合成ポリマー、生体活性ガラス、ハイドロゲル、または、平らなシートとして製造されることができるいずれかの生体適合性材料から作られることができる。1枚以上のシートは、薬剤または生体活性剤がそのマトリックス内に組み入れられる、あるいは、そのマトリックス上に配置されることができる。
【0017】
本発明の足場層は、生体吸収性であり、この足場層が生体適合性および生分解性であることを意味する。生体適合性とは、生体機能に有毒作用も、有害作用も示さない材料を指す。生分解性とは、患者の体内で吸収または分解されることができる材料を指す。生体適合性構造形成用の代表的材料は、天然または合成ポリマー、例えば、コラーゲン、ポリ(アルファエステル)[ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリオルソエステル(polyorthoesters)、ポリアンヒドリド(polyanhydrides)、および、それらのコポリマー]などがあり、これらは、速度調節された加水分解によって分解し、再吸収される。これらの材料は、分解性、扱い易さ、サイズおよび立体配置の最大調節を提供する。他の生分解性ポリマー材料は、ポリグリコール酸およびポリグラクチン(polyglactin)を含む。米国特許第5,514,181号を参照されたい。
【0018】
他の生分解性材料は、セルロースエーテル、セルロース、セルロースエステル、フッ素化ポリエチレン、フェノール化合物、ポリ-4-メチルペンテン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリベンゾキサゾール、ポリカーボネート、ポリシアノアリールエーテル、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフルオロオレフィン、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリオキサジアゾール(polyoxadiazole)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenylene oxide)、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルフォン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリチオエーテル、ポリトリアゾール、ポリウレタン、ポリビニル、ポリビニリデンフロライド(polyvinylidene fluoride)、再生セルロース、シリコーン、尿素-ホルムアルデヒド、または、これらの材料のコポリマーもしくは物理的ブレンド(physical blends)を含む。
【0019】
本発明に適した生体適合性生分解性ポリマーの例は、Vicryl(登録商標)(Novartis-Ethicon)として製造されているポリグラクチン(polyglactin)である。Vicryl(登録商標)(ポリグラクチン910)は、それぞれグリコール酸と乳酸から誘導されたグリコリドとラクチドの90:10コポリマーである。
【0020】
足場形成用材料としてのセラミックの使用に関して、市販されているBioGlass(登録商標)(NovaBone Products, LLC, Alachua FL)などの生体活性ガラスは、乳酸-グリコール酸コポリマーマトリックス(poly(lactic co-glycolic acid) polymer matrix)で改質されることができる。米国特許第6,328,990号を参照されたい。「生体活性」とは、材料が生体組織と相互作用または結合する能力を有することを意味する。
【0021】
別法として、アルギネート-RGD(alginate-RGD)などのハイドロゲルが使用されることができる。アルギネートは、海草由来コポリマーで、このハイドロゲルの剛性は、例えばカルシウムまたはアジピン酸ジヒドラジド(adipic dihydrazide)でそのグルクロネート残基(glucuronate residues)を架橋することによって調節されることができる。アルギネートは、さらに、Arg-Gly-Asp(RDG)ペプチドなどの細胞接着ペプチドで修飾され、足場層への細胞の付着を促進することができる。例えば、ウォング等(Wong et al.)、 「570科学(570 Science)」、p.119-33、2004年;ダズ&ホリスター(Das & Hollister)、「Mats百科事典における組織工学足場(Tissue Engineering Scaffolds in Encyclopedia of Mats): Sci & Tech. 1-7 」(Elsevier Sci., Ltd. 2003年)を参照されたい。
【0022】
さらに、足場層に関して、任意の医薬品または生体活性剤が、足場に組み入れられることができる。本発明の足場と併用されることができる様々の異なる医薬品は、膨大である。そのような医薬品または薬剤は、一般に、再建もしく増大対象の組織または臓器に応じて選択され、植え付けられる臓器または組織中に適切な新組織が確実に形成されるようにする(例えば、骨治癒促進への使用のための添加剤など、例えば、Kirker-Head, 24(5) C. A. Vet. Surg. 408-19 (1995)を参照されたい)。本発明の医薬組成物から投与されることができる一般的医薬品および生体活性剤は、抗生物質および抗ウイルス薬などの抗感染症薬;化学療法剤;拒絶反応抑制剤;鎮痛剤および鎮痛合剤(analgesic combinations);抗炎症剤;ステロイドなどのホルモン;成長因子;および、他の天然由来もしくは遺伝子組換えタンパク質、ポリサッカライド、グリコプロテイン、または、リポ蛋白を含むが、それらに制約されない。
【0023】
これらの材料を含有する足場は、足場の製造に使用される材料と1種類以上の薬剤を混合することによって調合されることができる。別法として、薬剤がこの足場上に、好ましくは薬学的に受容可能なキャリアでコートされることができる。足場に溶解も反応もしないどの医薬用キャリアでも、使用されることができる。この医薬品は、液体、微粉砕固体またはいずれかの他の適切な物理的形態として存在することができる。典型的には、任意ながらも、医薬品は、希釈剤、キャリア、賦形剤、安定化剤などのうち1種類以上の添加物を含む。さらに、このような任意の薬剤または生体活性剤は、別々に添加されることができる(即ち、足場マトリックスに混入されて製造されない)。例えば、フィブリンなどの生体活性剤は、組織または細胞層に添加されることができ、また、細胞または組織層と足場層の間の生体活性糊(bioactive glue)として働くことができる。
【0024】
本発明のある態様は、異なる物理化学的性状を有する特異な足場層を含む複合体を提供する。例えば、化学的、局所的および機械的刺激が、細胞-生体材料接触面での細胞応答に影響を与えることは、既知である。ウォング等(Wong et al.)、(2004)を参照されたい。さらに、特定の臓器の構造および配置に関連する剛性の維持に機械的強度を考えると、その状況で特定の足場層の使用が勧められる。よって、例えば、本発明に従った複合体は、1層で機械的強度を提供する剛性の足場層と、細胞の内部増殖を促進する第二の足場層を含むことができる。別法として、異なる層が使用され、複合組織中に認められる異なる細胞型の増殖を促進することができる。例えば、1層の足場層が軟骨の成長を促進し、その間、第二の足場層が骨の成長を促進する。あるいは、例えば、1層の足場層が、筋肉-細胞浸潤を促進する多孔性を有し、その一方で、別の層が、大型の細胞を排除し、小型の細胞の浸潤のみを可能にする多孔質を有することができる。別法として、異なる足場層は、一方の層が他方の層よりも先に分解するように、異なる速度で分解するポリマーを含むことができる。例えば、ガンマ線照射されたPLGAは、より早く分解し、1層で使用されることができる(例えば、中空臓器の内表面上で)が、ポリエチレンオキサイドは、より遅く分解するので、別の層に使用されることができる(例えば、中空臓器の外表面上で)。
【0025】
本発明の生体成分は、技術上周知の多数の技術によって得られる自己細胞または自己組織であることができる。例えば、手術中、組織サンプルが入手され、足場層上に簡単に配置されることができる。別法として、1種類以上の細胞型を含有する組織は、例えば、メスで分離され、実質的に別個の組織サンプルにされることができる。次に、分離された組織サンプルの1個以上が、足場で使用されることができる、あるいは、この分離組織は、細胞化されてから、足場上に配置されることができる。細断または適当な細胞化剤による処理などのこのような細胞化技術は、技術上既知である。
【0026】
別法として、組織または細胞化(細胞)サンプルは、インビトロ(試験管内)で処理されてから、足場層上に配置されることができる。例えば、細胞(自己細胞など)は、インビトロで培養され、足場への播種に利用可能な細胞数を増加させることができる。組織の拒絶反応を防止するには、同種異系細胞、さらに好ましくは自己細胞の使用が好ましい。特定の実施形態では、キメラ細胞、または、トランスジェニック動物からの細胞が、ポリマーマトリクス上に播種されることができる。細胞は、遺伝子材料の播種前にトランスフェクトされることもできる。有用な遺伝子材料は、例えば、宿主の免疫応答を軽減もしくは排除できる遺伝子配列であることができる。例えば、クラスIおよびクラスII組織適合性抗原(histocompatibility antigens)などの細胞表面抗原の発現が抑制されることができる。これは、宿主による拒絶反応の可能性を移植細胞に減少させることができる。さらに、遺伝子の送達にトランスフェクションも使用されることができる。尿路上皮および筋肉細胞は、ポリマー播種前に、特異的遺伝子でトランスフェクトされることができる。細胞-ポリマー構成物は、宿主または組織工学による新臓器の長期生存に必要とされる遺伝子情報を伝えることができる。
【0027】
本発明の複合体は、臓器の治療に有用であることができる。特に、膀胱、尿道、十二指腸、食道、気管、結腸および胃などの中空臓器は、組織の増大または再生を必要とする部分での「パッチ」として、本複合体の配置が有益であることができる。例えば、膀胱に関して、膀胱の一部が先天的欠損のために欠けている、あるいは、疾病、負傷または手術(例えば、部分膀胱切除術)のために失われてしまうと、患者は、その事情が許せば、この膀胱部分を元のサイズにまで増加または回復されることが有益であると思われる。
【0028】
本発明のある態様では、医師や他の手術チームメンバーが、目前の事例に求められるサイズにまで、特定の足場のサイズを切断することができるように、足場材料シートは、滅菌状態で提供される。所望の物理化学的性状(上記のとおり)を有する複数のタイプの足場が同一または異なるパッケージで提供されることができる。
【0029】
本発明のある実施形態は、1個の外側足場層が中空臓器外表面上に置かれることができ、反対側の外側足場層がこの臓器内部に置かれることができるように、中空臓器への本複合体の配置を可能にする。このような配置において、内側複合体層は、中空臓器組織層と並列で、中空臓器組織層に隣接する、少なくとも1層の組織または細胞層(および、任意に、追加足場層によってさらに分離されることができる、あるいは、分離される必要のない追加組織または細胞層)を含む。そこで、例えば、膀胱に関して、1個の外側足場層は、漿膜層(漿膜(tunica seros))上に位置し、反対側の外側足場層は、尿路上皮(urotheliuem)上に位置する。組織層は、例えば、排尿筋(筋層)および粘膜固有層を含むことができ、各組織層は、植え込み時、本来の臓器組織に並列されることができるように本複合体内に位置される。次に、本複合体は、例えば縫合で定位置に固定される。このような配置は、本複合体が臓器に統合されるにつれ、血管新生および細胞の組織化を促進する。
【0030】
本明細書では、本発明に従った膀胱の増大に言及しているが、当然、本発明の方法および材料は、対象の様々な組織および臓器の組織再建または増大に有用である。よって、例えば、膀胱、尿管、尿道、腎盂などの臓器または組織は、細胞を播種されたポリマー足場によって増大または修復されることができる。本発明の材料および方法は、血管組織(例えば、Zdrahala, 10(4) J Biomater. Appl. 309-29 (1996)参照)、腸組織、胃(例えば、Laurencin et al., 30(2) J Biomed Mater. Res. 133-38 (1996)参照)などの再建または増大に適用されることができる。治療対象患者は、組織の再建、修復または増大を要するイヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシまたはヒトなどの哺乳類のいずれかの種であることができる。
【0031】
本発明のある実施形態では、生細胞は、足場層間に挟まれ、足場材料の表面部分を実質的に覆う。例えば、図2を参照されたい。これらの細胞は、その組織マトリックスの化学的消化によって分離されることができ、あるいは、そのマトリックスに保持され、細断されることができる。生体適合性フィラー材料が細胞に導入され、覆われる相対表面積を増加させることができる。その場合、初期細胞密度は減少してしまう可能性があるが、最終的に、細胞増殖が表面部分全体を覆う組織を生じることができる。各種細胞型が分離され、互いの最上部に層形成され、複合組織の形成を容易にすることができる。これらの層は、任意に、足場をそれらの層間に配置させることができる。
【0032】
なおも別の実施形態では、切除組織が自然な状態に保たれ、足場層間に固定される。例えば、図3を参照されたい。切除細胞と未改変組織の間には、フィブリンなどの所与の容積のフィラーが導入され、本複合体構造を定位置に保持することができる。
【0033】
本発明の別の実施形態は、本発明のパッチを使った中空臓器組織の治療法を提供する。例えば、図3および図4に示されるように、パッチ固定中、本来の組織は、自己細胞層に隣接して、また、最上位と最下位の足場の間に配置されることになる。本発明のある態様では、細胞または組織で覆われない足場は、中空臓器へのこのパッチの縫合および接着のための場所を提供する。
【0034】
〔実施例1〕
細胞を播種された90/10PGA/PLA & 小腸粘膜下層(SIS)
ブタ膀胱から尿路上皮細胞と平滑筋細胞(SMC)が分離され、37℃、5%二酸化炭素および95%大気下の加湿インキュベーター中で、細胞が85%密集度に達するまで1週間培養された。ブタ膀胱平滑筋細胞は、90/10 PGA/PLA 11 x 7 mm足場ディスク上に細胞2 x 106個/足場の密度で静置播種された。SIS足場が、同様に調製され、ブタ膀胱尿路上皮細胞を細胞2 x 106個/足場の密度で播種された。足場は、37℃の加湿インキュベーターで2時間インキュベートされ、その後、90/10PGA/PLAとSIS足場は、4−0 VICRYLコート縫合糸(ETHICON)で、内側に配置され、互いに接触する状態の両細胞播種表面と合わせて縫合された。次に、細胞播種足場は、50% ケラチノサイト-SFM培地(Invitrogen Co) および50% SMC培地(Cambrex)で培養された。2週間後、足場は、組織検査によって評価された(H&E、アルファ平滑筋アクチン染色、サイトケラチン−7(Cytokeratin-7))。尿路上皮細胞と平滑筋細胞は、ともに、それぞれの足場で保持され、免疫染色で明らかなように、それぞれの表現型を保持した。
【0035】
〔実施例2〕
細胞播種されたコート済みおよび非コート90/10 PGA/PLA足場
コート済み90/10PGA/PLA足場は、50/50 PGA/PLAの5%溶液中に足場を浸漬し、足場の剛性を増加させることによって調製された。尿路上皮細胞および平滑筋細胞は、ブタ膀胱から分離され、実施例1の記述とおりに培養された。尿路上皮細胞は、コート済み90/10 PGA/PLA足場に、細胞2 x 106個/足場の細胞密度で負荷された。非コート90/10 PGA/PLA不織布足場は、ブタ膀胱平滑筋細胞を播種された。細胞播種足場は、実施例1のとおりにインキュベートされ、2時間のインキュベーション後、この細胞播種足場は、合わせて縫合され、実施例1に記述されるとおりに培養された。2週間後、この足場は、組織検査によって評価された(H&E、アルファ平滑筋アクチン染色、サイトケラチン−7(Cytokeratin-7))。尿路上皮細胞と平滑筋細胞は、ともに、それぞれの足場で保持され、免疫染色で明らかなように、それぞれの表現型を保持した。
【0036】
〔実施例3〕
細断組織
2 cm x 2 cm組織小片が、正常で健康な膀胱から切除される。次に、平滑筋細胞層が、メスを使って、尿路上皮細胞層から取り出される。これは、別個の2個の細断用組織サンプルとなる。次に、各サンプルは、無菌条件下で処理され、少なくとも1個の細断または微粉砕組織粒子を有する浮遊液とする。
【0037】
各組織断片の粒度および形状は、変動することができる。例えば、組織サイズは、約0.1mm3および3mm3の範囲、または、0.5mm3および1mm3の範囲、または、2mm3および3mm3の範囲、または、約1mm3未満であることができる。この組織断片の形状は、例えば、細長の小片(slivers)、短冊状小片(strips)、フレーク(flakes)または立方体を含むことができる。
【0038】
その後、各組織サンプルは、別々の3 cm x 3 cm正方形のポリグラクチン 910足場(300 mg/cc、厚さ1 mm)の上に、足場の周囲1/2 cm程度を残して塗られる。これは、2個の異なる組織型を有する2個の足場となる。フィブリン糊が一方の足場に塗られ、これらの2個の足場は、サンドイッチ状の5層複合体となる(足場、細断組織型A、フィブリン、細断組織型B、足場)。
【0039】
患者の膀胱が、インプラントの配置を容易にする形状に大きめに切断される。各足場は、縫合糸を足場の1層、本来の組織層、次に足場の次の層に通すことによって固定される。このように、足場は、本来の組織と細断組織をも挟むように配置される。組織の接触面も一致するので、血管新生および細胞の組織化が促進される。
【0040】
〔実施例4〕
処理細胞
2 cm x 2 cm組織小片が、正常で健康な膀胱から切除される。次に、平滑筋細胞層が、メスを使って、尿路上皮細胞層から取り出される。これは、異なる細胞型を有する、2つの別個の組織サンプルとなる。各サンプルは、個々の細胞を分離する消化処理に供される。いったん分離されると、細胞は、コラーゲンゲルに浮遊される。
【0041】
その後、各細胞-コラーゲン浮遊液は、別個の3 cm x 3 cm正方形のポリグラクチン 910足場(300 mg/cc、厚さ1 mm)の上に、足場の周囲1/2 cm程度を残して塗られる。これは、2個の異なる組織型を有する2個の足場となる。これらの2個の足場は、合わせてサンドイッチ状となり、4層複合体を形成する(足場、細胞-コラーゲン浮遊液A、細胞-コラーゲン浮遊液B、足場)。
【0042】
患者の膀胱が、インプラントの配置を容易にする形状に大きめに切断される。各足場は、縫合糸を足場の1層、本来の組織層、次に足場の次の層に通すことによって固定される。このように、足場は、本来の組織と細断組織をも挟むように配置される。組織の接触面も一致するので、血管新生および細胞の組織化が促進される。
【0043】
〔実施例5〕
組織生検
2 cm x 2 cm組織小片が、正常で健康な膀胱から切除される。この組織は、様々な間隔で細かく切断され、次に、この組織は、3 cm x 3 cmサンプルに引き伸ばされ、この引き伸ばしは、切断が加えられた部分に空隙を生じる。この空隙内に、フィブリン糊などの生体適合性フィラーが入れられ、サンプル形状が維持され、治癒を促進することができる。
【0044】
次に、処理済みサンプルは、4 cm x 4 cm正方形のポリグラクチン 910足場(300 mg/cc、厚さ1 mm)の間に、この足場の周囲1/2 cm程度を残して挟まれる。この構成物は、3層複合体を形成する(足場、処理済み組織、足場)。
【0045】
患者の膀胱が、インプラントの配置を容易にする形状に、大きめに切断される。各足場は、縫合糸を足場の1層、本来の組織層、次に足場の次の層に通すことによって固定される。このように、足場は、本来の組織と細断組織をも挟むように配置される。組織の接触面も一致するので、血管新生および細胞の組織化が促進される。
【0046】
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示されている詳細な説明および実施を考察すると、当業者に明らかになる。詳細な説明および実施例は、例示にすぎないと見なすことを意図されており、本発明の真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲に規定されているものである。
【0047】
〔実施の態様〕
(1) 組織の増大または再生のための装置において、
(a)第一および第二の生体適合性生分解性足場層と、
(b)前記第一および第二の足場層の間に配置され、実質的に前記第一および第二の足場層と接触する少なくとも1層の自己組織と、
を含む、装置。
(2) 実施態様1に記載の装置において、
前記装置を定位置に固定する手段、
をさらに含む、装置。
(3) 実施態様2に記載の装置において、
前記固定手段は、縫合である、装置。
(4) 実施態様1に記載の装置において、
前記自己組織層は、細胞層である、装置。
(5) 実施態様1に記載の装置において、
前記生体適合性足場層は、天然ポリマー、合成ポリマー、生体活性ガラス、セラミック、およびハイドロゲルから成る群から選択される材料から構成される、装置。
(6) 実施態様5に記載の装置において、
前記足場層は、ポリグラクチン 910である、装置。
(7) 実施態様1に記載の装置において、
前記装置は、医薬品、
をさらに含む、装置。
(8) 実施態様7に記載の装置において、
前記医薬品は、生体因子を含む、装置。
(9) 実施態様8に記載の装置において、
前記生体因子は、抗体、成長因子、ホルモン、遺伝子組換え細胞、または、サイトカインである、装置。
(10) 実施態様7に記載の装置において、
前記医薬品は、薬物である、装置。
【0048】
(11) 実施態様10に記載の装置において、
前記薬物は、抗生物質、鎮痛剤、または、抗炎症剤である、装置。
(12) 実施態様1に記載の装置において、
生体適合性フィラー材、
をさらに含む、装置。
(13) 実施態様12に記載の装置において、
前記フィラーは、フィブリンである、装置。
(14) 実施態様1に記載の装置において、
前記第一細胞層とは異なる細胞型の細胞組織の第二層、
をさらに含む、装置。
(15) 実施態様14に記載の装置において、
前記第二細胞層は、第三生体適合性足場層によって前記第一細胞層から分離される、装置。
(16) 実施態様1に記載の装置において、
前記自己組織は、切除組織である、装置。
(17) 実施態様1に記載の装置において、
前記組織は、膀胱組織である、装置。
(18) 臓器組織の増大または再生方法において、
(a)第一および第二生体適合性生分解性足場層を入手する段階と、
(b)自己組織サンプルを入手する段階と、
(c)前記自己組織を前記第一および第二足場層の間に挟み、両層と実質的に接触させる段階と、
(d)1層の足場層が前記臓器の外側に位置され、1層の足場層が前記臓器の内側に位置され、前記自己層が前記臓器組織と並列するように、前記足場組織のサンドイッチ状のものを前記臓器組織に固定する段階と、
を含む、方法。
(19) 実施態様18に記載の方法において、
前記足場-組織複合体を定位置に固定する段階、
をさらに含む、方法。
(20) 臓器中の組織を増大または再生させる装置において、
(a)第一および第二生体適合性生分解性足場を入手する段階、
(b)自己組織サンプルを入手する段階、
(c)前記第一および第二足場層の間に、前記第一および第二足場層を実質的に接触させながら前記自己組織を挟む段階、ならびに、
(d)1層の足場層が前記臓器の外側に位置され、1層の足場層が前記臓器の内側に位置され、前記自己層が前記臓器組織と並列するように、前記足場組織サンドイッチ状のものを前記臓器組織に固定する段階、
を含む段階によって製造される、装置。
(21) 実施態様20に記載の装置において、
前記足場-組織複合体を定位置に固定する段階をさらに含む、装置。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、自己細胞組織が生体適合性生分解性足場層の間に挟まれている本発明の実施形態を示す。
【図2】図2は、分離細胞が生体適合性生分解性足場層の間に挟まれている本発明の実施形態を示す。
【図3】図3は、切除組織が中空臓器から取り出され、生体適合性生分解性足場層間に配置され、中空臓器に植え込まれ、この中空臓器の表面部分を置換または増加させる組織パッチを提供する本発明の実施形態を示す。
【図4】図4は、自己細胞組織および生体適合性生分解性足場を含む複合体が本来の組織に縫合される、本発明の実施形態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の増大または再生のための装置において、
(a)第一および第二の生体適合性生分解性足場層と、
(b)前記第一および第二の足場層の間に配置され、実質的に前記第一および第二の足場層と接触する少なくとも1層の自己組織と、
を含む、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、
前記装置を定位置に固定する手段、
をさらに含む、装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、
前記固定手段は、縫合である、装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置において、
前記自己組織層は、細胞層である、装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置において、
前記生体適合性足場層は、天然ポリマー、合成ポリマー、生体活性ガラス、セラミック、およびハイドロゲルから成る群から選択される材料から構成される、装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置において、
前記足場層は、ポリグラクチン 910である、装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置において、
前記装置は、医薬品、
をさらに含む、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置において、
前記医薬品は、生体因子を含む、装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置において、
前記生体因子は、抗体、成長因子、ホルモン、遺伝子組換え細胞、または、サイトカインである、装置。
【請求項10】
請求項7に記載の装置において、
前記医薬品は、薬物である、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置において、
前記薬物は、抗生物質、鎮痛剤、または、抗炎症剤である、装置。
【請求項12】
請求項1に記載の装置において、
生体適合性フィラー材、
をさらに含む、装置。
【請求項13】
請求項12に記載の装置において、
前記フィラーは、フィブリンである、装置。
【請求項14】
請求項1に記載の装置において、
前記第一細胞層とは異なる細胞型の細胞組織の第二層、
をさらに含む、装置。
【請求項15】
請求項14に記載の装置において、
前記第二細胞層は、第三生体適合性足場層によって前記第一細胞層から分離される、装置。
【請求項16】
請求項1に記載の装置において、
前記自己組織は、切除組織である、装置。
【請求項17】
請求項1に記載の装置において、
前記組織は、膀胱組織である、装置。
【請求項18】
臓器組織の増大または再生方法において、
(a)第一および第二生体適合性生分解性足場層を入手する段階と、
(b)自己組織サンプルを入手する段階と、
(c)前記自己組織を前記第一および第二足場層の間に挟み、両層と実質的に接触させる段階と、
(d)1層の足場層が前記臓器の外側に位置され、1層の足場層が前記臓器の内側に位置され、前記自己層が前記臓器組織と並列するように、前記足場組織のサンドイッチ状のものを前記臓器組織に固定する段階と、
を含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記足場-組織複合体を定位置に固定する段階、
をさらに含む、方法。
【請求項20】
臓器中の組織を増大または再生させる装置において、
(a)第一および第二生体適合性生分解性足場を入手する段階、
(b)自己組織サンプルを入手する段階、
(c)前記第一および第二足場層の間に、前記第一および第二足場層を実質的に接触させながら前記自己組織を挟む段階、ならびに、
(d)1層の足場層が前記臓器の外側に位置され、1層の足場層が前記臓器の内側に位置され、前記自己層が前記臓器組織と並列するように、前記足場組織サンドイッチ状のものを前記臓器組織に固定する段階、
を含む段階によって製造される、装置。
【請求項21】
請求項20に記載の装置において、
前記足場-組織複合体を定位置に固定する段階をさらに含む、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−100058(P2008−100058A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−254186(P2007−254186)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(507324119)ジョンソン・アンド・ジョンソン・リジェネレイティブ・セラピューティックス・エルエルシー (4)
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Regenerative Therapeutics, LLC
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, MA 02767, United States of America
【Fターム(参考)】