説明

自動アーク溶接装置及び自動アーク溶接方法

【課題】溶接不良の起こりにくい自動アーク溶接装置及び方法を提供すること。
【解決手段】アーク溶接用の溶接材料を送給する溶接トーチ12と、溶接トーチ12の先端とワーク61の被溶接部とを接近させる溶接トーチ接近手段と、溶接トーチ12とワーク61との間の電流値を測定する電流測定手段32と、アークの発生後に溶接トーチ12とワーク61とを相対移動させ、連続的に溶接しビードを形成させる相対移動手段41と、溶接トーチ接近手段11により溶接トーチ12の先端をワーク61の被溶接部の溶接可能範囲まで接近させて溶接する際に、電流測定手段32が測定した電流値が、予め設定した電流値以上で所定時間経過したか否かを判定する時間判定手段と、前記時間判定手段が所定時間経過したと判定した場合、相対移動手段41によって溶接トーチ12とワーク61の相対移動を開始させ、溶接の自動制御を行う相対移動制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接機を用いて自動でアーク溶接を行う自動アーク溶接装置及び自動アーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワイヤを溶接材料とするアーク溶接機を用いて自動でアーク溶接を行う方法が知られている。このような自動アーク溶接方法では、アークを発生させた後に電極を構成する溶接トーチと非溶接部材であるワークとを相対的に移動させることで自動的に溶接を行いビードを形成することができる。また、溶接材料としてのワイヤが連続的に供給され続けることで、連続して溶接を行うことができる。自動アーク溶接方法は手棒溶接に比べて溶接棒の交換作業が不要な分能率が高く、量産の工程に好ましいとして広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、電圧値を検知して溶接トーチを移動させる自動アーク溶接方法に関する発明が開示されている。
【特許文献1】特開平6−262346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に電圧の印加とアークの発生は同時ではなく、電圧が印加されるとその後アークが発生する。また、電圧を印加してもワークの接地不良、通電不良、又は溶接トーチとワークとの短絡等の原因により、アークの発生が通常のタイミングより遅れることがある。この状態においても、引用文献1のように溶接トーチ若しくはワークの移動開始条件として印加された電圧値を測定し判定する場合には、予め設定した閾値以上の電圧値を検知したことにより溶接トーチとワークの相対移動が開始される。よって未だアークが発生していなくても相対移動が開始されてしまい、ワークにビード欠落部分が発生する。
【0005】
また、溶接開始時には、溶接トーチとワークとの間に瞬間的に大きな電流が流れるため、その瞬間に油の付着、通電不良、又は溶接トーチとワークの短絡等の原因により、ワイヤの先端が吹き飛び、アークの発生が一時的に途切れることがある。この場合も同様に電圧値の判定によりワークの移動を開始した場合には、ワークにビード欠落部分が発生する。
【0006】
これらの結果、そのワークは溶接不良であるとして廃棄されることとなる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、溶接不良の発生を防止できる自動アーク溶接装置及び自動アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アーク溶接用の溶接材料を送給する溶接トーチと、前記溶接トーチの先端とワークの被溶接部とを接近させる溶接トーチ接近手段と、前記溶接トーチとワークとの間の電流値を測定する電流測定手段と、アークの発生後に前記溶接トーチとワークとを相対移動させ、連続的に溶接しビードを形成させる相対移動手段と、前記溶接トーチ接近手段により前記溶接トーチの先端をワークの被溶接部の溶接可能範囲まで接近させて溶接する際に、前記電流測定手段が測定した電流値が、予め設定した電流値以上で所定時間経過したか否かを判定する時間判定手段と、前記時間判定手段が所定時間経過したと判定した場合、前記相対移動手段によって前記溶接トーチとワークの相対移動を開始させ、溶接の自動制御を行う相対移動制御手段と、を備え、前記予め設定した電流値は、アークを持続するのに必要な最低限の電流値であり、前記所定時間は、アークを持続するのに必要な最小限の時間であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接を開始する際の溶接トーチとワークとの間の電流値が、予め設定した電流値以上で所定時間経過したと判定された場合には、溶接トーチとワークの相対移動を開始する。よって、未だアークが発生していない状態で相対移動が開始されることはなく、確実にアークが発生してから連続的に溶接しビードを形成できる。
【0010】
したがって、溶接不良の発生を防止できる自動アーク溶接装置及び自動アーク溶接方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1を参照して本発明の実施の形態に係る自動アーク溶接装置100について説明する。図1は本発明の実施の形態に係る自動アーク溶接装置100の概念図である。
【0012】
自動アーク溶接装置100は、アーク溶接用の溶接トーチ12とワーク61の被溶接部とを接近させる溶接トーチ接近手段としての溶接トーチ接近機構11と、溶接時に溶接トーチ12とワーク61を相対的に移動させる相対移動手段としてのワーク回転装置41と、自動アーク溶接装置100の動作の制御を行う制御装置31とを備える。
【0013】
本実施形態では、ワーク61はショックアブソーバであり、自動アーク溶接装置100によりショックアブソーバ本体にナックルブラケットを取り付けるべく、ショックアブソーバ本体外周方向に沿って溶接が行われる。
【0014】
溶接トーチ12は、アーク溶接を行うための電極を構成し、溶接材料であるワイヤ12aを送給する。ワイヤ12aは、溶接中に連続して溶接トーチ12に送られる。溶接トーチ12とワーク61との間に電源装置21によって電圧が印加されると、溶接トーチ12とワーク61との間に電流が流れアークが発生し溶接が開始される。連続してアーク溶接を行う場合、溶接材料が消耗すると交換する必要が生じるが、ワイヤ12aは連続的に送られて溶接トーチ12の先端から繰り出されるため、溶接材料を交換することなく連続して溶接を行うことができる。
【0015】
電源装置21は、溶接に用いる電力を溶接トーチ12に供給するためのものである。電源装置21から供給される電流と、溶接トーチ12とワーク61との間を流れる電流とは等価である。したがって、溶接トーチ12とワーク61との間の電流は、制御装置31に接続された電流測定手段としての電流計32を用いて測定される。
【0016】
電流計32は、電源装置21が溶接トーチ12とワーク61との間に供給する電流値を測定し、測定した電流値を制御装置31に出力する。
【0017】
制御装置31は、自動アーク溶接装置100の制御を行うものであり、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、及びRAM(ランダムアクセスメモリ)を備える。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶しておく。CPUやRAMなどをROMに格納されたプログラムに従って動作させることによって自動アーク溶接装置100の制御が実現される。
【0018】
溶接トーチ接近機構11は、溶接トーチ12をワーク61の軸方向に沿って移動させる軸方向移動機構11aと、溶接トーチ12をワーク61の軸と垂直の方向に移動させる垂直方向移動機構11bとを備え、溶接トーチ12をワーク61の被溶接部に接近させる。軸方向移動機構11aはボールねじとボールねじを駆動するモータを備え、垂直方向移動機構11bはシリンダを備え、溶接トーチ12をそれぞれの方向に移動させる。本実施形態では、溶接トーチ12を固定されたワーク61に接近させる構成である。しかし、固定された溶接トーチ12にワーク61を接近させるようにしてもよい。
【0019】
ワーク回転装置41は、ワーク61の一端側を保持するためのチャック41aと、チャック41aで保持したワーク61を軸を中心に回転させるためのモータを備える。チャック41aに保持されたワーク61の他端側には、ワーク61をチャック41aに向けて押圧してワーク61の位置決めをするためのシリンダ51を備える。シリンダ51は、制御装置31からの信号によって伸縮するピストンロッド52を備える。
【0020】
また、ワーク回転装置41はワーク61の被溶接部を溶接トーチ12に対して一定の速度で送ることで連続的に溶接を行いビードを形成する。ワーク61の円周方向に沿って溶接する場合には、溶接トーチ12の位置を固定してワーク61を回転させる構成が設備設計上好ましいため、相対移動手段はワーク回転装置41である。しかし、相対移動手段は溶接トーチ12とワーク61を相対的に移動させることで連続して溶接を行えればよい。よって、ワーク回転装置41のように溶接トーチ12の位置を固定してワーク61を移動させる構成の他、ワーク61の位置を固定して溶接トーチ12を移動させる構成としてもよい。例えばワーク61の軸方向に溶接を行う場合には、固定されたワーク61に対して溶接トーチ12をワーク61の軸方向に直線的に移動させる構成が考えられる。この場合、溶接トーチ接近機構11が相対移動手段に該当する。
【0021】
以下では、図2及び3を参照して制御装置31によって制御される自動アーク溶接装置100の動作について説明する。図2は自動アーク溶接装置100の動作の手順を示すフローチャートであり、図3は溶接開始時の電圧値及び電流値の時間的変化の一例を示すグラフ図である。
【0022】
ワーク61は、図示しない搬送装置により搬送され、ワーク回転装置41のチャック41aにて一端側が保持される。そして、シリンダ51が駆動されピストンロッド52によってワーク61の回転は許容しつつ他端側が押圧され、ワーク61は位置決めされる。その後、制御装置31は図2のフローチャートに示した制御を行う。
【0023】
S101では、制御装置31により溶接トーチ接近機構11の軸方向移動機構11a及び垂直方向移動機構11bが作動され、溶接トーチ12がワーク61の被溶接部の溶接可能範囲へと移動を開始する。
【0024】
S102では、溶接トーチ12の前進端がワーク61の被溶接部の溶接可能範囲に移動するまでは溶接トーチ12の前進を継続し、溶接トーチ12の前進端がワーク61の被溶接部の溶接可能範囲まで移動したか否かを判定する。S102で溶接トーチ12の前進端がワーク61の被溶接部の溶接可能範囲まで移動したと判定された場合には、S103にて溶接トーチを停止させる。溶接トーチ12の前進端がワーク61の被溶接部の溶接可能範囲に移動したか否かの判定は、予め定めた移動方向と移動距離に基づき、制御装置31が軸方向移動機構11aと垂直方向移動機構11bとを作動させることにより行う。
【0025】
S104では、電源装置21が溶接トーチ12とワーク61との間にアークの発生に必要な電圧を印加する。
【0026】
S105では、溶接トーチ12から溶接に使用するワイヤ12aを連続的に自動送給する。
【0027】
S106では、電流計32が溶接トーチ12とワーク61との間に流れる電流値の測定を開始する。アークの発生に必要な電流が流れると溶接トーチ12とワーク61との間にはアークが発生し溶接が開始される。
【0028】
S107では、電流計32によって測定された電流値が、電流値α以上で時間βが経過したか否かを判定する。S107は時間判定手段に該当する。
【0029】
具体的には、アークが発生し電流計32がα以上の電流値を検出すると、その経過した時間の測定を開始する。電流値α以上の時間が連続してβだけ経過するまでは時間の測定を続け、測定した時間がβ以上になると、条件が成立したと判定され、S108へと進む。
【0030】
S108では、ワーク回転装置41が駆動し、ワーク61が回転を開始する。溶接トーチ12がワーク61の外周に沿って相対移動するため、ワーク61の円周に沿ってビードが形成されることとなる。溶接トーチ12とワーク61を相対移動させることによって溶接の自動制御が行われるS108が、相対移動制御手段に該当する。
【0031】
ここで、溶接開始時に電圧を印加してもワーク61の接地不良、通電不良、又は溶接トーチ12とワーク61の短絡等の原因により、アークの発生が通常のタイミングよりも遅れることがある。この場合には、条件が成立していないため、アークが発生していない間は溶接トーチ12とワーク61の相対移動が開始されない。よってワーク61にビード欠落部分は発生しない。
【0032】
また、溶接トーチ12の先端に油の付着、通電不良、又はワイヤ12aと溶接トーチ12との短絡等の原因で、電流が流れた瞬間にワイヤ12aの先端が吹き飛び、アークの発生が一時的に途切れることがある。この場合、図3の矢印アの範囲のように電流値が上昇した後、ワイヤ12aの先端が吹き飛ぶと、アークが途切れ電流値は一気に降下する。よって、電流置α以上での時間がβに満たないためワーク回転装置41は作動せず、ワーク61にビード欠落部分は発生しない。
【0033】
その後ワイヤ12aが送られ溶接トーチ12の先端にアーク発生可能な長さ突出すると、図3の矢印イの範囲のようにアークが発生し電流値が再び上昇する。そして溶接が正常に開始されると電圧値及び電流値は定常状態へと移行し、電流置α以上で時間β以上を経過するとワーク回転装置41が作動する。
【0034】
したがって、溶接トーチ12とワーク61との間にアークが発生していない状態でワーク回転装置41が作動することはなく、ワーク61にビード欠落部分は発生しない。
【0035】
ここでα及びβは予め設定した閾値である。図3のようにαはアークが正常に連続的に発生しているときに必要な最低限の電流値に相当する値に、βは電流が流れてアークを安定して持続させるのに必要な最小限の時間に相当する値にそれぞれ設定することが望ましい。
【0036】
以上の実施の形態によれば、次のような効果を奏する。
【0037】
溶接トーチ12とワーク61との間にアークが発生し電流値が上昇しても、予め設定した閾値以上の電流値で、予め設定した閾値以上の時間を経過しなければワーク回転装置41は作動しない。よって、電流が流れた瞬間に溶接材料としてのワイヤ12aの先端が吹き飛ぶ現象が発生しても、電流値が一気に降下して電流値αよりも小さくなるため、ワーク回転装置41を作動させるための指令を出さない。したがって、アークが途切れてビード欠落部分が形成される溶接不良の発生を防止できる。
【0038】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る自動アーク溶接装置及び自動アーク溶接方法は、工業製品等の溶接する工程がある製品を量産する際に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動アーク溶接装置100の構成図である。
【図2】自動アーク溶接装置100の動作の手順を示すフローチャートである。
【図3】溶接開始時の電圧値及び電流値の時間的変化の一例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0041】
100 自動アーク溶接装置
11 溶接トーチ接近機構
12 溶接トーチ
12a ワイヤ
21 電源装置
31 制御装置
32 電流計
41 ワーク回転装置
51 シリンダ
61 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接用の溶接材料を送給する溶接トーチと、
前記溶接トーチの先端とワークの被溶接部とを接近させる溶接トーチ接近手段と、
前記溶接トーチとワークとの間の電流値を測定する電流測定手段と、
アークの発生後に前記溶接トーチとワークとを相対移動させ、連続的に溶接しビードを形成させる相対移動手段と、
前記溶接トーチ接近手段により前記溶接トーチの先端をワークの被溶接部の溶接可能範囲まで接近させて溶接する際に、前記電流測定手段が測定した電流値が、予め設定した電流値以上で所定時間経過したか否かを判定する時間判定手段と、
前記時間判定手段が所定時間経過したと判定した場合、前記相対移動手段によって前記溶接トーチとワークとの相対移動を開始させ、溶接の自動制御を行う相対移動制御手段と、
を備え、
前記予め設定した電流値は、アークを持続するのに必要な最低限の電流値であり、
前記所定時間は、アークを持続するのに必要な最小限の時間であることを特徴とする自動アーク溶接装置。
【請求項2】
前記相対移動手段は、前記溶接トーチに対してワークを回転移動させるワーク回転装置であることを特徴とする請求項1に記載の自動アーク溶接装置。
【請求項3】
アーク溶接用の溶接材料を送給する溶接トーチの先端とワークの被溶接部とを接近させる工程と、
前記溶接トーチとワークとの間の電流値が、予め設定した電流値以上で所定時間経過したか否かを判定する工程と、
所定時間経過したと判定した場合、前記溶接トーチとワークとの相対移動を開始させ、溶接の自動制御を行う工程と、
を備え、
前記予め設定した電流値は、アークを持続するのに必要な最低限の電流値であり、
前記所定時間は、アークを持続するのに必要な最小限の時間であることを特徴とする自動アーク溶接方法。
【請求項4】
前記溶接トーチとワークとの相対移動は、前記溶接トーチに対するワークの回転移動であることを特徴とする請求項3に記載の自動アーク溶接方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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