説明

自動分析システムおよび装置管理サーバ

【課題】自動分析システム内における検体の停滞状況を正確に予測し、各装置における検体の搬入出のタイミングと搬入出の順序とを調節することにより、緊急検体のTATの増加を防ぐ。
【解決手段】前記各装置における検体の搬入出を指示する装置管理サーバは、センサの信号を用いて投入済みの検体の現在位置を特定するトラッキング部と、各検体の現在位置を初期状態として、与えられた搬入出計画案を適用したときの各装置の動作をシミュレートすることにより、各検体の各部における滞留時間を推定するシミュレーション部と、緊急検体を優先的に搬入出する初期の搬入出計画案を作成して、シミュレーション部にシミュレーションを実行させ、その搬入出計画案を適用したときの各部における滞留時間が、当該各部の許容滞留時間を超えないように他の検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序を修正する搬入出計画部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査における自動分析システムに関し、特に、緊急性の高い検体を定められた時間内に検査するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の血液や尿といった検体の検査業務では作業の迅速化が求められる。特に、診察前検査の検体や急患の検体といった緊急性の高い検体(緊急検体)については、検体が検査室に到着してから検査結果を出すまでのTAT(Turn Around Time)は20分〜30分が目標となっている。
【0003】
検体の検査業務を自動化する自動分析システムは、遠心、開栓、分注といった前処理を行う装置群、検査項目に応じた分析を行う分析装置群、分類、収納、廃棄といった後処理を行う装置群、それらの装置間を接続する搬送路を形成する搬送装置、装置群を管理するサーバ、検査情報を管理するサーバ、検査業務を担当する検査技師が検査依頼、検査結果の管理、装置群の設定を行う操作端末などから構成されており、投入された多様な検体を検査依頼に応じて自動的に検査する。また、一般的な自動分析システムでは、検体が投入される投入装置に優先度の異なる複数の投入口を設け、優先度の高い投入口に投入された緊急検体を一般検体より優先して処理することができるようになっている。
【0004】
ところが、週明けの午前中など多くの検査依頼が発行される時間帯では、一部の装置の処理能力不足によって装置内や搬送路上に多数の検体が停滞してしまう渋滞現象が発生し、緊急検体を含む検体全体のTATが大幅に増加するという問題があった。この問題に対して、例えば特許文献1には、センサを使って、搬送路上および各装置のバッファ内の検体の存在状況を監視し、搬送路上に検体が停滞しないように検体の投入を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−39552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術だけでは、搬送路の下流における検体間の干渉までは予測できないので、例えば、通常よりも分注比の高い検体があったり、複数の装置を経由する必要がある検体が投入されたりすると、分注装置の前後や搬送路の分岐点や合流点に設置される方向転換装置の付近に渋滞が生じることがあった。
【0007】
また、一般的な自動分析システムの構成においては、分注装置や分析装置は、数十検体をまとめて処理する遠心装置の下流に接続されるので、検体の追い越しがない場合、1回の遠心処理のために投入された数十検体の後に投入された検体は、その前に投入された数十検体の処理が終わるまで待たされることになる。したがって、緊急検体であっても、投入のタイミングによっては、1回の遠心処理に要する数分の単位でTATが増加してしまうことがあった。
【0008】
一方、検体の追い越しが可能な搬送ラインがあったり、渋滞が生じている経路とは別の経路で検体を搬送できたりする場合には、システムの一部に渋滞が発生していても必ずしも検体の投入を抑制する必要はない。しかるに、特許文献1の技術では、検体の存在状況のみから判断して検体の投入を抑制してしまうので、システムが本来持っている処理能力を十分に発揮させることができない場合があった。
【0009】
このような従来技術の本質的な問題は、システム内に設置されたセンサから得られる検体の存在状況だけでは、投入した検体がその後の渋滞の発生にどのように影響し、どの程度の渋滞が発生するかが分からないことにある。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、システム内における検体の停滞状況を正確に予測し、緊急検体のTATの増加を防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明は、検体の検査に必要な各工程の処理を行う複数の装置を有して成る自動分析システムであって、投入済みの検体の搬入出順序と、検査内容に応じた所定の搬送経路の情報と、前記各装置内の各部に設置される検体検知センサの信号とを用いて、前記各装置における各検体の現在位置を特定するトラッキング部と、前記各検体の現在位置を初期状態として、与えられた搬入出計画案を適用したときの前記各装置の動作を、前記各装置の動作モデルを用いてシミュレートすることにより、各検体の前記各装置内の各待ち領域における滞留時間を推定するシミュレーション部と、緊急検体を一般検体よりも優先的に搬入出するような初期の搬入出計画案を作成して、前記シミュレーション部にシミュレーションを実行させ、その搬入出計画案を適用したときの前記各装置内の各待ち領域における前記滞留時間が、当該待ち領域の許容滞留時間を超える検体がある場合は、前記搬入出計画案における前記検体以外の他の検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序を修正することによって最終の搬入出計画を作成する搬入出計画部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、システム内における検体の停滞状況を正確に予測し、各装置における検体の搬入出のタイミングと搬入出の順序とを調節することにより、緊急検体のTATの増加を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一実施形態に係る自動分析システムの例を示すシステム構成図である。
【図2】第一実施形態に係る自動分析システムの機能と動作との説明図である。
【図3】第一実施形態に係る分注装置の内部機構の構造の一例を示す説明図である。
【図4】第一実施形態に係る検査装置群の各装置のハードウェア構成例を示す図である。
【図5】第一実施形態に係る装置管理サーバのハードウェア構成例を示す図である。
【図6】第一実施形態に係る検査情報管理サーバのハードウェア構成例を示す図である。
【図7】第一実施形態に係る操作端末のハードウェア構成例を示す図である。
【図8】第一実施形態に係る搬送経路情報の構成およびデータ構造の例を示す図である。
【図9】第一実施形態に係る装置モデル情報の構成およびデータ構造の例を示す図である。
【図10】第一実施形態に係る分注装置の内部機構の例をキューモデル表現した図である。
【図11】第一実施形態に係る依頼情報の構成およびデータ構造の例を示す図である。
【図12】第一実施形態に係る計画パラメータの構成およびデータ構造の例を示す図である。
【図13】第一実施形態に係る自動分析システムのサブシステム間で授受される情報の構成およびデータ構造の例を示す図である。
【図14】第一実施形態に係る装置管理サーバ内で授受される情報の構成およびデータ構造の例を示す図である。
【図15】第一実施形態に係る装置管理サーバの全体処理フローを示すフローチャートである。
【図16】第一実施形態に係る検体の待ち領域の算出処理のフローチャートである。
【図17】第一実施形態に係る推定待ち領域情報の算出処理のフローチャートである。
【図18】第一実施形態に係る搬入出計画案の修正処理のフローチャートである。
【図19】第一実施形態に係る計画パラメータ登録処理のフローチャートである。
【図20】第一実施形態に係る計画パラメータ登録用画面の表示例を示す図である。
【図21】第二実施形態に係る自動分析システムの例を示すシステム構成図である。
【図22】第二実施形態に係る自動分析システムの機能と動作との説明図である。
【図23】第二実施形態に係る方向転換装置の内部機構の構造の一例を示す説明図である。
【図24】第二実施形態に係る方向転換装置の内部機構の構造をキューモデル表現した図である。
【図25】第二実施形態に係る装置モデル情報に追加される方向転換装置向け状態定義表のデータ構造の例を示す図である。
【図26】第二実施形態に係る搬入出計画案の修正処理のフローチャートである。
【図27】第二実施形態に係る方向転換装置の優先制御処理のフローチャートである。
【図28】第二実施形態に係る優先するキューの決定ルール表のデータ構造およびデータ例を示す図である。
【図29】第二実施形態に係るSolveBlock処理(優先判定処理)のフローチャートである。
【図30】第一実施形態に係る初期の搬入出計画案の作成例を示す説明図である。
【図31】第一実施形態に係る搬入出計画案の修正例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための代表的な形態を、適宜図面を参照しながら説明する。なお、これらの図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付すことにより、繰り返して利用する場合には、重複する説明を省略する。
【0015】
<第一実施形態>
第一実施形態では、比較的単純な装置構造を有する自動分析システムの例について説明する。
【0016】
<システム構成>
図1は、第一実施形態に係る自動分析システムのシステム構成図である。図1に示すように、自動分析システム10は、検査装置群100と、装置管理サーバ108と、検査情報管理サーバ109と、操作端末110とを有して成る。検査装置群100の各装置と装置管理サーバ108とは、LAN(Local Area Network)などの装置情報ネットワーク111を介して通信可能に接続され、装置管理サーバ108と検査情報管理サーバ109と操作端末110とは、同じくLANなどの検査情報ネットワーク112を介して通信可能に接続される。また、検査情報管理サーバ109は、病院ネットワーク113を介して、例えば電子カルテシステムなどの病院内の他システムと接続される。
【0017】
検査装置群100は、前処理装置である投入装置101、遠心装置102、開栓装置103、および分注装置104と、搬送装置である直線搬送装置105と、分析装置である比色分析装置106(A,B)と、後処理装置である収納装置107とから成っており、図1で示すような配置で設置される。後記するように、これらの各装置は、それぞれが検体の搬入出を行うための複数本の搬送路を内部に備えており、隣接する装置の搬送路同士を連結することによって、装置間で検体の受け渡しができるようになっている。なお、主として検査技師の作業性を高めるために、検体の投入場所と処理済みの検体の回収場所とが近接するように検体の回収を行う収納装置107は、左端に配置されている。
【0018】
試験管などに入れられた検査対象の検体は、緊急検体用と一般検体用との2つの投入口を有する投入装置101から投入される。緊急検体は一般検体よりも優先して遠心装置102に送られ、緊急検体がないときには、一般検体が投入された順序で遠心装置102に送られる。遠心装置102に搬入された検体は、遠心処理が不要な場合は、そのまま次の開栓装置103に搬出される。また、遠心処理が必要な場合は、数十検体がまとめられて遠心処理されたのち、同時に遠心処理が終了した検体の中からは、緊急検体が優先して開栓装置103に搬出される。遠心装置102から開栓装置103に搬入された検体は、搬入順に開栓処理が行われたのち、分注装置104に搬出される。分注装置104では、搬入された検体を親検体として、その中からそれぞれ検査の種類に応じた所定量を分注することによって必要な数だけ子検体が生成される。そののち、親検体は、分注装置104から逆方向に搬送されて収納装置107において回収または収納が行われ、生成された子検体は直線搬送装置105によって比色分析装置106(A,B)に搬送される。比色分析装置106(A,B)では、搬入された子検体を用いて必要な検査が行われ、検査が終了した子検体は廃棄処分される。
【0019】
なお、本実施形態では、前処理装置を投入装置101、遠心装置102、開栓装置103、分注装置104が各1台の計4台としたが、それぞれが2台以上あってもよい。また、搬送装置を直線搬送装置105のみとしたが、搬送方向を変換する装置(L字形の搬送装置など)や、一時的に検体を貯留しておくバッファ装置があってもよく、それぞれが1台以上あってもよい。また、比色分析装置106(A,B)は、1台で生化学の複数項目を分析することができる。したがって、同じ親検体から分注された複数の子検体が、1台の比色分析装置106(A,B)によって処理されることもある。また、分析装置を比色分析装置106(A,B)としたが、電解質や免疫、DNAといった他の項目を分析するための装置でもよく、複数項目が一度に分析できる装置でもよい。さらに、それらの装置が複数種類、1台以上連結されていてもよい。また、後処理装置を収納装置107のみとしたが、閉栓装置などがあってもよく、それぞれが1台以上あってもよい。
【0020】
また、装置管理サーバ108や検査情報管理サーバ109は、処理負荷などに応じて2台以上を備える構成としてもよい。また、操作端末110は、検査室のレイアウトや運用などに応じて2台以上あってもよいし、検査情報管理サーバ109や装置管理サーバ108の操作端末で代用してもよい。また、本実施形態では、各装置が図1のように配置されるものとしたが、装置の配置を変更してもよい。
【0021】
<機能構成>
図2は、第一実施形態に係る自動分析システム10の機能と動作との説明図である。初めに、図2を用いて、自動分析システム10の機能構成について説明する。
【0022】
検査装置群100を構成する各装置、すなわち、投入装置101、遠心装置102、開栓装置103、分注装置104、直線搬送装置105、比色分析装置106(A,B)、および収納装置107は、それぞれ収集部201と機構制御部202とを有して成る。
装置管理サーバ108は、トラッキング部203、搬入出計画部204、シミュレーション部205、指示部206、搬送経路DB(DataBase)291、および装置モデルDB292を有して成る。
検査情報管理サーバ109は、検査情報提供部207、検査依頼DB293、およびパラメータDB294を有して成る。
また、操作端末110は、操作管理部208を有して成る。
【0023】
<動作概要>
次に、図2を用いて、自動分析システム10の動作の概要を説明する。ここでは、ある緊急検体の投入に先立って、高い分注比の検体が投入されることにより、分注装置104の処理能力を超え、分注装置104とその上流に渋滞が発生する場合を考える。
【0024】
検査装置群100を構成する各装置の収集部201は、装置内各部における検体の検知状態を示すセンサ値M271を、装置管理サーバ108のトラッキング部203に送信する。
装置管理サーバ108のトラッキング部203は、搬入出指示M272によって搬入出が指示された各検体の検査項目によって特定される搬送経路と、各装置のセンサ値M271とを使って、各検体の現在位置を特定し、各装置において検体が滞留する待ち領域ごとの検体の存在状態(待ち領域情報D281)を算出する。次に、装置管理サーバ108の搬入出計画部204は、初期条件情報M273と、待ち領域情報D281とをもとに、緊急検体を優先した初期の搬入出計画案D282を作成する。
次に、装置管理サーバ108のシミュレーション部205は、作成された搬入出計画案D282にしたがって検体を搬入出した場合の、一定時間後までの各待ち領域における待ち時間の推定量(停滞推移情報D283)を、処理項目情報M274と、搬送経路情報291Aと、装置モデル情報292Aとに基づくシミュレーションにより算出する。
そして、搬入出計画部204は、算出された待ち時間の推定量が、初期条件情報M273によって与えられる既定値を超えないように、搬入出のタイミングや順序を変更することによって搬入出計画案D282を修正して再度シミュレーションを行う動作を繰り返し、最終的に搬入出計画D284を作成する。最後に、指示部206が、作成された搬入出計画D284にしたがって、投入装置101と遠心装置102との機構制御部202に、搬入出指示M272を送信する。
【0025】
前記のような動作によって、自動分析システム10は、システム内の各待ち領域での待ち時間を既定値以下に抑えることができ、それによって緊急検体のTATを所定時間以内に収めることができる。
【0026】
<搬送機構>
次に、図3を用いて、検査装置群100を構成する各装置が備える搬送機構について説明する。図3は、代表例として分注装置104の内部機構の構造の一例を示したものである。以下、分注装置104を例にとり、各装置が備える搬送機構について詳しく説明する。
【0027】
図3に例示した分注装置104は、ベルトライン301(A〜E)、方向転換機構302(A〜H)、ストッパ303(A〜H)、検体検知センサ304(A〜I)、および処理機構305を有して成る。
【0028】
ベルトライン301は、検体を一定方向に搬送する機構であり、301Aと301Bとの2つが図の右方向に、301Cが図の左方向に、それぞれ検体を搬送する。ベルトライン301Bは、例えば、分注処理を必要としない検体を通過させるために用いることができ、ベルトライン301Cは、分注処理が終わった親検体を搬出するために用いることができる。方向転換機構302は、検体の搬送方向を直進もしくは左右90度に転換させる機構である。ストッパ303は、検体を一時的に停止させる機構である。検体検知センサ304は検体の有無を検出するかもしくは検体の識別情報を認識するための機構である。例えば、赤外線センサ、あるいは、検体自身または検体を運ぶラックやホルダに付与されたバーコードやRFID(Radio Frequency IDentification)の読取装置などである。処理機構305は、ベルトライン301A上の破線で示した領域310に停止した検体を小分け(分注)するための機構であって、例えばチューブやカップを供給するフィーダとXYZテーブルとピペッタとポンプとなどによって実現される。
【0029】
分注装置104は、隣接する装置から搬入されてきた検体を親検体として、処理機構305によって必要数の子検体を生成し、親検体と小分けした子検体との両方を隣接する装置へ搬出する。その際、ストッパ303間の距離を変更することで、停止する検体数や連続して搬出する検体数を調節できる。また、ストッパ303の動作タイミングを、搬出する装置と搬入する装置とで同期させることで、装置間での検体の受け渡し時の検体の衝突を防ぐことができる。
【0030】
なお、図3の例では、図の右方向に検体を搬送するベルトラインを2つ、図の左方向に検体を搬送するベルトラインを1つとし、処理機構305と分注処理が可能なベルトラインとをそれぞれ1つとしたが、装置の要求性能などに応じて、それぞれを少なくしても多くしてもよい。また、ベルトライン301や方向転換機構302やストッパ303ではなく、ロボットアームを使って装置内、装置間の搬送を行うものとしてもよい。
【0031】
また、他の処理を行う投入装置101、遠心装置102、開栓装置103、比色分析装置106(A,B)、収納装置107も、前記の分注装置104とほぼ同様な内部構造を有し、搬入されてきた検体に処理を施し、次の装置へ処理済みの検体を搬出する。なお、直線搬送装置105は、処理機構305を有さず、搬入されてきた検体を次の装置に搬出する。
【0032】
なお、分注装置104は、検体を容器ごと装置内部に搬入してから処理する装置であるが、直線搬送装置105などから直接検体の中身をサンプリング(外部サンプリング)する装置を備え、直線搬送装置105のベルトラインの一部にストッパ303と検体検知センサ304とを設けて、サンプリング領域を設定するようにしてもよい。
【0033】
また、投入装置101は、XYZテーブルおよびロボットアームを使って任意の順番、タイミングで検体を搬入できるものとし、さらに、検体もしくはトレイに付与された検体の識別情報を認識可能とする。遠心装置102もまた、XYZテーブルおよびロボットアームを使って任意の順番、タイミングで検体を搬出できるものとする。
【0034】
<ハードウェア構成>
図4は、検査装置群100の各装置のハードウェア構成例を示す図である。検査装置群100の各装置は、プログラムの実行、演算を行うCPU(Central Processing Unit)401と、OS(Operating System)などの基本的なプログラムを格納するROM(Read Only Memory)402と、処理データの一時格納領域として使用するRAM(Random Access Memory)403と、HDD(Hard Disk Drive)や外付けのメモリカードなどの外部記憶装置404と、装置情報ネットワーク111に接続する通信I/F(Interface)405と、検体への処理や搬送に使う各種のセンサ406(検体検知センサ304を含む)と、検体への処理や搬送に使う各種のアクチュエータ408(ストッパ303を含む)と、その制御を行うコントローラ407とから構成され、CPUバス409を介して相互にデータをやりとりすることができる。
【0035】
図5は、装置管理サーバ108のハードウェア構成例を示す図である。装置管理サーバ108は、プログラムの実行、演算を行うCPU501と、OSなどの基本的なプログラムを格納するROM502と、処理データの一時格納領域として使用するRAM503と、HDDや外付けのメモリカードなどの外部記憶装置504と、装置情報ネットワーク111および検査情報ネットワーク112に接続する通信I/F505と、入力デバイスであるキーボード506およびマウス507と、出力デバイスであるディスプレイ508とから構成され、CPUバス509を介して相互にデータをやりとりすることができる。
【0036】
図6は、検査情報管理サーバ109のハードウェア構成例を示す図である。検査情報管理サーバ109は、プログラムの実行、演算を行うCPU601と、OSなどの基本的なプログラムを格納するROM602と、処理データの一時格納領域として使用するRAM603と、HDDや外付けのメモリカードなどの外部記憶装置604と、検査情報ネットワーク112および病院ネットワーク113に接続する通信I/F605と、入力デバイスであるキーボード606およびマウス607と、出力デバイスであるディスプレイ608とから構成され、CPUバス609を介して相互にデータをやりとりすることができる。
【0037】
図7は、操作端末110のハードウェア構成例を示す図である。操作端末110は、プログラムの実行、演算を行うCPU701と、OSなどの基本的なプログラムを格納するROM702と、処理データの一時格納領域として使用するRAM703と、HDDや外付けのメモリカードなどの外部記憶装置704と、検査情報ネットワーク112に接続する通信I/F705と、入力デバイスであるキーボード706およびマウス707と、出力デバイスであるディスプレイ708とから構成され、CPUバス709を介して相互にデータをやりとりすることができる。
【0038】
<機能とハードウェアとの対応>
次に、図2、図4〜図7を用いて、自動分析システム10の各装置が備える機能とハードウェアとの対応を詳しく説明する。
【0039】
検査装置群100の各装置の収集部201、機構制御部202は、各装置のCPU401が、ROM402、RAM403または外部記憶装置404に格納されたプログラムを実行し、各ハードウェア(通信I/F405、センサ406、コントローラ407、アクチュエータ408)を制御することによって実現される。
装置管理サーバ108のトラッキング部203、搬入出計画部204、シミュレーション部205、指示部206は、CPU501が、ROM502、RAM503または外部記憶装置504に格納されたプログラムを実行し、各ハードウェア(通信I/F505、キーボード506、マウス507、ディスプレイ508)を制御することによって実現される。
検査情報管理サーバ109の検査情報提供部207は、CPU601が、ROM602、RAM603または外部記憶装置604に格納されたプログラムを実行し、各ハードウェア(通信I/F605、キーボード606、マウス607、ディスプレイ608)を制御することによって実現される。
操作端末110の操作管理部208は、CPU701が、ROM702、RAM703または外部記憶装置704に格納されたプログラムを実行し、各ハードウェア(通信I/F705、キーボード706、マウス707、ディスプレイ708)を制御することによって実現される。
【0040】
次に、図2を用いて、自動分析システム10の各装置が備える機能を詳しく説明する。
検査装置群100の各装置の収集部201は、センサ406から検体の位置に関するセンサ値M271を、装置管理サーバ108のトラッキング部203に送信する。
検査装置群100の各装置の機構制御部202は、装置管理サーバ108の指示部206から受信した搬入出指示M272に基づいて、検体の搬入出および検体への処理を行う。
【0041】
装置管理サーバ108のトラッキング部203は、検査装置群100の各装置の収集部201から受信したセンサ値M271と、搬送経路情報291Aとを使って、各装置内の待ち領域ごとの検体の滞留状況を表す待ち領域情報D281を算出する。ここで、待ち領域とは、検体を処理・搬送するか、それを待つために検体を停止もしくは減速する領域である。本実施形態における機構においては、ストッパ303の直前の領域が待ち領域となりうる。
装置管理サーバ108の搬入出計画部204は、待ち領域情報D281と、検査情報管理サーバ109の検査情報提供部207から受信した初期条件情報M273とを使って、緊急検体を優先した搬入出計画案D282を作成する。そして、後記にて説明するシミュレーション部205によって算出された停滞推移情報D283を使って、搬入出計画案D282を修正し、最終的な搬入出計画D284を作成する。
装置管理サーバ108のシミュレーション部205は、装置モデル情報292Aと、待ち領域情報D281と、搬入出計画案D282と、検査情報管理サーバ109の検査情報提供部207から受信した処理項目情報M274とを使って、装置の動作と検体の位置および処理状況をシミュレーションし、停滞推移情報D283(各待ち領域における待ち時間の変化の時間推移)を算出する。
装置管理サーバ108の指示部206は、搬入出計画D284に基づいて、投入装置101、遠心装置102の機構制御部202などに対して搬入出指示M272を送信し、検体の搬入出の順番とタイミングとを指示する。
装置管理サーバ108の搬送経路DB291は、搬送経路情報291Aを格納、管理する。
装置管理サーバ108の装置モデルDB292は、装置モデル情報292Aを格納、管理する。
【0042】
検査情報管理サーバ109の検査情報提供部207は、検査依頼DB293に格納された依頼情報293Aと、パラメータDB294に格納された計画パラメータ294Aとから、初期条件情報M273と処理項目情報M274とを生成し、それぞれ装置管理サーバ108の搬入出計画部204とシミュレーション部205とに送信する。
検査情報管理サーバ109の検査依頼DB293は、電子カルテシステムなどを使って医師や検査技師によって登録された依頼情報293Aを格納、管理する。
検査情報管理サーバ109のパラメータDB294は、医師や検査技師によって登録された計画パラメータ294Aを格納、管理する。
【0043】
操作端末110の操作管理部208は、搬送経路情報291A、装置モデル情報292A、依頼情報293A、計画パラメータ294Aを各種DBに登録するための入出力処理、および検体の処理状況の表示などを行う。
【0044】
<情報構造>
(搬送経路情報)
次に、図8を用いて、自動分析システム10の搬送経路情報291Aを詳しく説明する。搬送経路情報291Aは、項目群定義表T100と、経路定義表T200と、項目経路対応表T300とから成る。
【0045】
項目群定義表T100は、項目群を定義するものであって、項目群ID(Identification)(T101)と、処理項目ID(T102)とを属性に持つ。項目群ID(T101)は、検体に対して行うべき複数の処理項目から成る項目群を定義する識別子である。処理項目ID(T102)は、検体に対して行うべき処理項目の識別子である。例えば、処理項目「生化学処理1」と「生化学処理3」とから成る項目群を、項目群「生化学一般1」と定義する場合、{生化学一般1,生化学処理1}、{生化学一般1,生化学処理3}という2つのレコードを登録する。なお、検査装置群100の各装置は、項目群または処理項目に基づいて検体の処理を行う。例えば、「生化学一般1」の検体には5分間の遠心分離処理が必要な場合、遠心装置102はその項目群IDに基づいて5分間の遠心分離処理を実施する。
【0046】
経路定義表T200は、検体を搬送する経路を定義するものであって、経路ID(T201)と、搬送順T202と、装置ID(T203)と、分岐点ID(T204)と、分岐方向T205とを属性に持つ。経路ID(T201)は、検体を搬送する経路を定義する識別子である。搬送順T202は、同じ経路IDを持つレコードの中における搬送順を表す一連番号であり、この番号が小さい順に搬送が行われることを示す。装置ID(T203)は、搬送の対象となる装置の識別子である。分岐点ID(T204)は、装置内部の分岐点を表す識別子である。分岐方向T205は、当該分岐点においてどの方向に搬送すべきかを表す。例えば、図1の投入装置101から分注装置104に至るまでの経路を「経路1」と定義する場合、{経路1,1,投入,分岐点4,上}、{経路1,2,投入,分岐点5,右}、{経路1,3,遠心,分岐点2,直進}、{経路1,4,遠心,分岐点5,直進}、{経路1,5,開栓,分岐点2,直進}、{経路1,6,開栓,分岐点5,直進}、{経路1,7,分注,分岐点2,下}といったレコードを登録する。
【0047】
項目経路対応表T300は、項目群と経路との対応を表すものであって、項目群ID(T301)と分注後ID(T302)と、分注量T303と、経路ID(T304)とを属性に持つ。例えば、前記の項目群「生化学一般1」に対して、1つ20マイクロリットルで分注するものとし、分注元の検体(親)には「経路5」、分注した検体(子1)には「経路6」を割り当てる場合、{生化学一般1,親,なし,経路5}、{生化学一般1,子1,20,経路6}といったレコードを登録する。なお、本実施形態では、項目群と経路の対応付けを静的なものとしたが、日時や時間、装置状態などによって対応付けを動的に変更してもよい。
【0048】
(装置モデル情報)
次に、図9、図10を用いて、分注装置104を例にとり、自動分析システム10の装置モデル情報292Aを詳しく説明する。なお、他の装置も分注装置104と同様に定義することができる。装置モデル情報292Aは、シミュレーション部205がシミュレーションを実行するために使う情報であって、モデルオブジェクトT400と、状態定義表T500と、状態遷移表T600と、コネクション定義表T900とから成る。以下、図3に例示した内部構造を有する分注装置104を例にとり、具体的に説明する。
【0049】
モデルオブジェクトT400は、装置の状態を論理表現したものであって、現在状態T401と、1つ以上のキュー(T402〜)とを属性に持つ。各キューは、装置内の各待ち領域と1対1で対応し、検体の識別子である検体IDを、検体が対応する待ち領域に搬入された順で保持するコレクション(コンテナ)である。各キューには、自動分析システム10全体を通してユニークな識別子であるキューIDが付与されるとともに、装置のハードウェア仕様に対応した容量(キューサイズ)が予め設定され、搬入可能な検体の数も保持される。したがって、モデルオブジェクトT400を構成する各キューに、各待ち領域に存在する検体の検体IDを適切に格納しておくことによって、キューの空き状況を判別することができる。
【0050】
図10は、図3に例示した分注装置104の内部機構のハードウェアにキューを対応づけてキューモデル表現したものである。例えば、図3のベルトライン301Cに対応する戻り待機キューT402(キューサイズ=5)からは、ベルトライン301Bに対応する行き待機キュー1(T403)(キューサイズ=5)と、ベルトライン301Aに対応する行き待機キュー2(T404)(キューサイズ=5)とに検体を搬送可能であることを表している。図9に示すように、図3に例示した分注装置104の状態を示すモデルオブジェクトT400は、現在状態T401と、装置内に含まれるすべてのキュー、つまり、戻り待機キューT402(キューサイズ=5)、行き待機キュー1(T403)(キューサイズ=5)、行き待機キュー2(T404)(キューサイズ=5)、調整キューT405(キューサイズ=3)、親作業キューT406(キューサイズ=3)、子作業キュー1(T407)(キューサイズ=3)、および子作業キュー2(T408)(キューサイズ=3)とを属性に持つ。なお、図10には、分注装置104内のキューの接続関係だけを示しているが、隣接した装置のキューとの接続関係は、後記のコネクション定義表T900で定義される。
【0051】
現在状態T401には、装置の現在状態が、状態定義表T500によって定義される状態のいずれにあるかを示す状態の識別子(状態ID)が格納される。
状態定義表T500は、検体の処理に応じた装置の状態を定義するものである。例えば、分注装置104の状態定義表T500は、状態ID(T501)と、親作業キューT502と、子作業キュー1(T503)と、子作業キュー2(T504)とを属性に持つ。これらすべてのキューに検体がない初期状態(例えば、状態ID=S0)に対しては、{S0,検体なし,検体なし,検体なし}といったレコードが登録される。例えば、親作業キューT406に3本の検体が搬入された状態(例えば、状態ID=S3)に対しては、{S3,3本,検体なし,検体なし}といったレコードが登録される。なお、ここでは分注処理に影響する親作業キューT406、子作業キュー1(T407)、子作業キュー2(T408)だけを扱うものとし、分注処理に影響しない戻り待機キューT402、行き待機キュー1(T403)、行き待機キュー2(T404)、調整キューT405は、状態を定義する属性からは除いている。
【0052】
状態遷移表T600は、検体の処理項目情報M274にしたがって処理が行われることによる装置の状態の遷移と、処理に必要な時間とを定義するものである。例えば、分注装置104の状態遷移表T600は、遷移元状態T601と、遷移先状態T602と、遷移条件T603と、処理時間T604とを属性に持つ。例えば、状態1(状態ID=S1)から状態2(状態ID=S2)に遷移する場合、{S1,S2,“S1からS2への遷移条件”,400(ミリ秒)}といったレコードが登録される。なお、本実施形態では処理時間T504を一定値として表現しているが、状況によって処理時間が変動する場合には、変動条件を表す属性を追加して、状況ごとに処理時間を設定したり、処理時間を正規分布などの確率分布として表現したりしてもよい。
【0053】
コネクション定義表T900は、各装置のモデルオブジェクトT400で設定されるすべてのキューの装置内および装置間における接続関係を表すものであって、搬送元キューID(T901)と、装置ID(T902)と、分岐点ID(T903)と、分岐方向T904と、搬送先キューID(T905)とを属性に持つ。つまり、各装置のモデルオブジェクトT400で定義されるキュー1つをノード1つとしたとき、そのノード間を接続するすべての有向エッジのレコードが登録される。例えば、キュー1とキュー2とが装置Xの分岐点Yで接続していて、分岐点での分岐方向が「上」であれば、{キュー1,装置X,分岐点Y,上,キュー2}といったレコードが登録される。ここで、搬送元キューID(T901)と搬送先キューID(T905)とに格納されるキューIDは、各装置のモデルオブジェクトT400に含まれるキューの識別子である。また、装置ID(T902)および分岐点ID(T903)は、経路定義表T200(図8参照)の装置ID(T203)および分岐店ID(T204)に対応しており、これによって搬送経路とキューとの対応付けが行われる。
【0054】
(依頼情報)
次に、図11を用いて、自動分析システム10の依頼情報293Aを詳しく説明する。依頼情報293Aは、検査依頼情報表T700から成る。
検査依頼情報表T700は、検査に必要な処理項目と優先度とを表すものであって、患者ID(T701)と、検体ID(T702)と、項目群ID(T703)と、優先度T704とを属性に持つ。例えば、患者1(患者ID=患者1)から採血した検体1(検体ID=検体1)に対して通常の優先度(優先度=通常)で項目群1と項目群3とを検査する場合、{患者1,検体1,項目群1,通常}、{患者1,検体1,項目群3,通常}といったレコードが登録される。
【0055】
(計画パラメータ)
次に、図12を用いて、自動分析システム10の計画パラメータ294Aを詳しく説明する。計画パラメータ294Aは、計画パラメータ表T800から成る。
計画パラメータ表T800は、各装置内の各待ち領域で許容できる待ち時間を表現するものであって、装置ID(T801)と、待ち領域ID(T802)と、許容待ち時間T803とを属性に持つ。自動分析システム10は、緊急検体を含むすべての検体の各待ち領域における待ち時間が、この許容待ち時間T803以下となるような搬入出計画を作成して、搬入出の制御を行う。したがって、許容待ち時間T803を適切に設定することにより、緊急検体のTATを常に目標とする時間内とすることができる。
【0056】
(装置間の通信情報)
次に、図13を用いて、装置間でやりとりされる通信情報について説明する。
センサ値M271は、検査装置群100の装置内各部に設置された検体検知センサ304の検知内容を表すものであって、検知した時刻M2711、装置ID(M2712)、センサID(M2713)、値M2714から成る。ここで値M2714は、例えば、検体がセンサ上にあるかないかを表す2値の値であり、ありならば「1」、なしならば「0」となる。なお、より詳細に、検体がある場合と、検体はないが搬送するためのキャリア(ホルダやラック)はある場合と、何もない場合とを区別して表すようにしてもよい。
【0057】
搬入出指示M272は、装置に検体の搬入出の順序とタイミングを指示するものであって、搬入出する時刻M2721と検体ID(M2722)と搬入もしくは搬出を表す指示値M2723との複数の組から成る。
初期条件情報M273は、計画の初期条件を表すものであって、検体ID(M2731)と優先度M2732との複数の組と、装置ID(M2733)と待ち領域ID(M2734)と許容待ち時間M2735との複数の組とから成る。
処理項目情報M274は、検体ごとの処理項目を表すものであって、検体ID(M2741)と項目群ID(M2742)との複数の組から成る。
【0058】
(装置管理サーバ内の通信情報)
次に、図14を用いて、装置管理サーバ108内でやりとりされる通信情報について説明する。
待ち領域情報D281は、検査装置群100の装置内の各待ち領域における検体の滞留状況やその待ち順を表す情報であって、装置ID(D2811)、待ち領域ID(D2812)、待ち順(D2813)、検体ID(D2814)から成る。なお、待ち順は、先頭の検体から順に1,2,3,・・・という一連番号を付与する。
搬入出計画案D282は、搬入出計画部204が作成した搬入出の順番やタイミングの案を表すもので、装置ID(D2821)、時刻D2822、検体ID(D2823)、指示値D2824から成る。指示値D2824は、搬入出指示M272の指示値M2723と同じように、搬入もしくは搬出を表す。
停滞推移情報D283は、シミュレーションによって推測される装置内の各待ち領域における検体の待ち時間(検体に加える処理をも含めてもよい)の時間変化を表す情報であって、時刻D2831、装置ID(D2832)、待ち領域ID(D2833)、検体ID(D2834)、待ち時間D2835から成る。
搬入出計画D284は、搬入出計画部204が最終決定した搬入出の計画を表すもので、装置ID(D2841)、時刻D2842、検体ID(D2843)、指示値D2844から成る。指示値D2844は、搬入出指示M272の指示値M2723と同じように、搬入もしくは搬出を表す。
【0059】
<処理フロー>
次に、図15を用いて、検体が装置内で渋滞することを防止するために、各装置における検体の搬入出の順番とタイミングとを制御する処理の概要を説明する。なお、本実施形態における各装置は、搬入された検体に対して処理項目ID(T102)(図8参照)にしたがった処理を施し、処理した検体を搬出するものとする。
【0060】
装置管理サーバ108は、以下の処理を例えば1秒毎に実施する。なお、本実施例では1秒毎に実施するものとしたが、装置管理サーバ108の処理能力などに応じて、これより短く設定しても、長く設定しても構わない。
【0061】
まず、トラッキング部203は、搬入出指示M272と、検査装置群100の各装置の収集部201から受信したセンサ値M271と、搬送経路情報291Aとから、各待ち領域(モデルオブジェクトT400の各キュー)の検体の滞留状況を算出して待ち領域情報D281を算出する(ステップS101)。
次に、搬入出計画部204は、状態定義表T500(図9参照)にしたがって、各装置の状態を算出して、モデルオブジェクトT400を初期設定する(ステップS102)。
次に、搬入出計画部204は、検査情報提供部207に要求を出し、初期条件情報M273を取得する(ステップS103)。このとき、検査情報提供部207は、この要求に応じて依頼情報293Aと計画パラメータ294Aとから、初期条件情報M273を生成する。
次に、搬入出計画部204は、検査依頼情報表T700(図11参照)において優先度T704が高く設定された検体、緊急検体用の投入トレイや投入口に設置された検体、および突発的に投入される緊急検体を優先しつつ最大処理性能で搬入出する搬入出計画案D282を作成する(ステップS104)。
【0062】
ここで、図30を用いて、搬入出計画案D282のうちの投入装置101に関する搬入計画案の具体的な作成例を説明する。この例における投入装置101は、装置IDを「投入1」とし、3種類のトレイ(緊急検体用トレイ3001A、一般検体用トレイ3001B、遠心パス検体用トレイ3001C)を持ち、任意のトレイから最大4秒に1検体の速度で搬入可能とする。現在時刻9:00:00において、緊急検体用トレイ3001Aに1本(E5)、一般検体用トレイ3001Bに5本(S1,E2,S3,S7,S9)、遠心パス検体用トレイ3001Cに3本(S4,E6,S8)の検体が載せられているものとする。ここで、S(Standard)は一般検体を表し、E(Emergency)は緊急検体を表す。また、SとEとの後に続く番号は、トレイに到着した順番を表す。このときに作成される初期の搬入出計画案D282には、搬入計画案3002のような内容が含まれることになる。すなわち、搬入順序に関しては、まず緊急検体を優先して到着順に搬入し、次に一般検体を到着順に搬入するように計画される。搬入の時刻に関しては、投入装置101の最大処理速度で搬入を行うように、現在時刻から4秒経過するごとに1検体ずつ搬入するように計画される。
【0063】
図15に戻って、次に、シミュレーション部205は、検査情報提供部207に要求を出し、処理項目情報M274を取得する(ステップS105)。このとき、検査情報提供部207は、この要求に応じて依頼情報293Aから処理項目情報M274を生成する。
次に、シミュレーション部205は、各装置の現在の状態、各検体の処理項目、各装置の状態遷移表などを使って10分後までの状態遷移を計算(シミュレーション)して、例えば100ミリ秒の単位で各検体の待ち時間を推定した停滞推移情報D283を算出する(ステップS106)。なお、本実施形態では、10分後まで状態遷移を計算するものとしたが、装置管理サーバ108の処理能力などに応じて、これより短く設定しても、長く設定しても構わない。同様に、100ミリ秒ごとの待ち時間を推定するものとしたが、これより短く設定しても長く設定しても構わない。
【0064】
次に、シミュレーション部205は、停滞推移情報D283のすべての検体の待ち時間D2835が、初期条件情報M273にて設定された既定値である許容待ち時間M2735以下であるかを判別する(ステップS107)。その結果、すべての緊急検体の待ち時間が既定値以下ならば、ステップS109(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS108(No側)に処理を進める。
待ち時間が既定値を越えた検体がある場合(ステップS107で「No」)、搬入出計画部204は、最も早く許容待ち時間を超えた検体を搬入出する直前に遡り、検体を搬入出する時刻を遅らせた新たな搬入出計画案D282を修正し(ステップS108)、ステップS106以下の処理を再度行う。ステップS108の処理に関しては、詳しい説明を後記する。
すべての検体の待ち時間が既定値以下である場合(ステップS107で「Yes」)、搬入出計画部204は、現在の搬入出計画案D282の内容を、最終の搬入出計画D284として指示部206に引き渡し、指示部206が、検査装置群100の該当する各装置の機構制御部202に各検体の搬入出を指示する搬入出指示M272を送信して、処理を終了する(ステップS109)。各検体の搬入出を指示された機構制御部202は、その指示にしたがって検体を搬入出するための機構制御を行う。
【0065】
次に、図16を用いて、各検体の待ち領域を算出する処理(図15のステップS101)について詳しく説明する。なお、この処理は待ち領域単位に非同期に実行されるものとする。
まず、トラッキング部203は、待ち領域が未算出の検体がある限り、各検体についてステップS202以下の処理を行い、処理中の検体がすべて待ち領域を算出済みであれば、本処理を終了する(ステップS201)。
待ち領域を未算出の検体がある場合、トラッキング部203は、当該検体の搬送経路を搬送経路情報291A(図8)から取得する(ステップS202)。次に、トラッキング部203は、受信したセンサ値M271の中から、当該検体に合致する最新のセンサ値を取得する(ステップS203)。
次に、トラッキング部203は、取得した最新のセンサ値を使って当該検体の待ち領域と待ち順とを決定して、当該レコードを待ち領域情報D281に追加して登録する(ステップS204)。このとき、決定する待ち領域は、(1)検体がストッパ303等により停止して検知状態にあるときには、最新のセンサ値を与えた検体検知センサ304の設置場所に対応する待ち領域に、(2)検体が未検知状態にあるときには、搬送経路情報291Aから取得した搬送経路において、最新のセンサ値を与えた検体検知センサ304の設置場所から次に行きつく待ち領域に、それぞれ決定する。
【0066】
次に、図17を用いて、停滞推移情報の算出処理(図15のステップS106)を詳しく説明する。なお、この処理は各モデルオブジェクト単位に並列に実行されるものとする。
まず、シミュレーション部205は、シミュレーション時刻を現在時刻に設定し、装置の現在状態をモデルオブジェクトT400(図9参照)に設定する(ステップS301)。具体的には、図15のステップS102で算出した装置の状態をモデルオブジェクトT400の現在状態T401に設定し、待ち領域情報D281(図14参照)から取得した各検体の待ち状況を、モデルオブジェクトT400の各キューに設定する。さらに、現時点における各検体の待ち時間を示すレコードを、停滞推移情報D283に追加して登録する。ここで、現時点における各検体の待ち時間は、現在時刻と検体検知センサ304によって検知された搬入時刻との差として算出する。
次に、シミュレーション部205は、図15のステップS105で取得した各検体の処理項目情報M274を参照して、状態遷移表T600で規定された状態遷移の中から、最も早い時刻に遷移条件を満たすものを1つ選択する(ステップS302)。
次に、シミュレーション部205は、シミュレーション時刻が完了時刻(現時刻から10分後)を過ぎていない限りステップS304に処理を進め、完了時刻を過ぎている場合は、本処理を終了する(ステップS303→End)。
【0067】
完了時刻を過ぎていない場合、シミュレーション部205は、状態遷移表T600を参照して、遷移条件を満たす状態遷移に必要な時間が経過したかどうかを判別する(ステップS304)。その結果、状態遷移に必要な時間が経過したならばステップS305(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS309(No側)に処理を進める。
【0068】
状態遷移に必要な時間を経過している場合(ステップS304で「Yes」)、シミュレーション部205は、その状態遷移の結果として次の待ち領域に搬出すべき検体があるかどうかを判別する(ステップS305)。その結果、搬出すべき検体があるならばステップS306(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS308(No側)に処理を進める。
【0069】
搬出すべき検体がある場合(ステップS305で「Yes」)、シミュレーション部205は、搬出先キューを含む装置のモデルオブジェクトT400を参照して、搬出先キューに空きがあるかどうかを判別する(ステップS306)。その結果、搬出先キューに空きがあるならばステップS307(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS309(No側)に処理を進める。
【0070】
搬出先キューに空きがある場合(ステップS306で「Yes」)、シミュレーション部205は、当該搬出先キューへの検体の搬出を行う(ステップS307)。具体的には、並列してシミュレーションを実行している搬出先のキューに対して、搬出する当該検体の搬入予約を行い、状態遷移表T600の該当する処理時間T604から取得した、搬出にかかる時間だけ待機したのち、当該検体に対応するデータを搬出元のキューから削除するとともに、搬出元のキューに残っている各検体に対応する停滞推移情報D283のレコードの待ち時間D2835に、前記搬出にかかる時間を加え、時刻D2831を更新する。なお、検体の搬入予約は、他の装置のシミュレーションを実行するときの入力データとなるとともに、ステップS306で搬出先キューの空きを判定するときに、当該検体よりも早い時刻に搬入される他の検体によって搬出先キューに空きがなくなるかどうかを判定するために使用される。
【0071】
ステップS307終了後、もしくは、搬出すべき検体がない場合(ステップS305で「No」)、シミュレーション部205は、モデルオブジェクトT400の現在状態T401を、状態遷移表T600にしたがって遷移後の状態に対応する状態IDに変更することにより、当該装置の装置状態を更新したのち(ステップS308)、ステップS302に処理を戻して前記の処理を繰り返す。
【0072】
状態遷移に必要な時間を経過していない場合(ステップS304で「No」)、もしくは、搬出先キューに空きがない場合は(ステップS306で「No」)、シミュレーション部205は、シミュレーション時刻を100ミリ秒進めるように時間をインクリメントしたのち(ステップS309)、ステップS303に処理を戻して前記の処理を繰り返す。
【0073】
次に、図18を用いて、搬入出計画案D282の修正処理(図15のステップS108)を詳しく説明する。
まず、搬入出計画部204は、シミュレーションの結果として停滞推移情報D283に登録された待ち時間D2835が、最も早い時刻(最初)に当該待ち領域の既定値(許容待ち時間M2735)を超えた検体を抽出する(ステップS401)。このとき、搬出済みの検体の既定値を超えた時刻は、時刻D2831から待ち時間D2835と許容待ち時間M2735との差分を引くことによって算出し、未搬出の検体の既定値を超えた時刻は、停滞推移情報D283に登録された最後の搬出に係るレコードの時刻D2831に、最終のシミュレーション時刻と当該時刻D2821との差分から許容待ち時間M2735を引いた時間を加えることによって算出する。
【0074】
次に、搬入出計画部204は、対象の検体が遠心処理する必要がないかどうかを判別する(ステップS402)。その結果、遠心処理する必要がないならばステップS403(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS404(No側)に処理を進める。
遠心処理する必要がない場合(ステップS402で「Yes」)、搬入出計画部204は、遠心装置102からの搬出時刻の調節を行う(ステップS403)。具体的には、対象の検体が遠心装置102を搬送される時刻周辺において、対象の検体と同じ搬送路を使う他の一般検体の遠心装置102からの搬出時刻を2秒ずつ遅らせるように搬入出計画案D282を修正する。
遠心処理する必要がある場合(ステップS402で「No」)、もしくは、ステップS403実行後、搬入出計画部204は、投入装置101からの搬入時刻の調節を行う(ステップS404)。具体的には、対象の検体の2検体前の検体から、投入装置101からの搬入時刻を2秒ずつ遅らせるように搬入出計画案D282を修正する。
【0075】
前記の遠心装置102からの搬出時刻を調節する処理(ステップS403)は、例えば、ある遠心装置で複数の一般検体を処理しており、その一般検体が処理されたのち一挙に搬出され、その先に接続された装置内で渋滞が生じた結果、その後に投入される遠心処理が不要な緊急検体の待ち時間が既定値を超えるといった場合に、その遠心装置からの一般検体の搬出を抑制し、緊急検体を先に処理するための処理である。
【0076】
ここで、図31を用いて、投入装置101からの搬入時刻を調節する処理(ステップS404)における搬入計画案の修正例について説明する。例えば、初期の搬入計画案3101に基づいて投入装置「投入1」から搬入したときのシミュレーションの結果、遠心処理を必要とする一般検体である検体S9の待ち時間が、開栓装置103内で許容待ち時間を超えたものとする。この場合、検体S9の2つ前の検体から搬入時刻を遅らせる。まず1回目の修正が実施される。1回目の修正では、検体S7,S8,S9の搬入時刻をそれぞれ2秒ずつ遅らせる(修正1回目の搬入計画案3102)。そのように搬入出計画案を修正しても、再度同様に検体S9の待ち時間が許容待ち時間を超えた場合は、2回目の修正が実施される。その結果、検体S7,S8,S9は当初の予定より4秒遅れて投入されることになる(修正2回目の搬入計画案3103)。このように搬入計画案を修正をした結果、全ての検体の全ての待ち領域における待ち時間が許容待ち時間を超えないようになったとすると、搬入出計画案D282の修正は完了する。このとき、2回目以降の修正においては、遡って搬入時刻を遅らせる検体の数を順次増やすようにしてもよい。
【0077】
なお、本実施形態では1回の修正ごとに搬出時刻もしくは搬入時刻を2秒ずつ遅らせるものとしたが、装置管理サーバ108の処理性能に応じてそれより少なくしても、多くしても構わない。また、搬入時刻を遅らせるのは2検体前からとしたが、それより少なくしても、多くしても構わない。また、遠心装置102からの搬出時刻の調節が行われた場合には、投入装置101からの搬入時刻の調節を行わないようにしてもよい。
また、前記の処理方法はヒューリスティックな方法であるが、このほか、搬入出の順番や時刻を変える操作をオペレータとして定義し、モンテカルロ法などの最適化手法を併用しても構わない。その場合であっても、待ちが生じた検体を搬入出した時刻周辺に対して、集中的に修正を加えることによって迅速な修正が可能となる。
また、本実施形態では、最も早い時刻に待ち時間が規定値を超えた1つの検体に関する修正を行うものとしたが、待ち時間が規定値を超えた複数の検体に関する修正をまとめて行うようにしてもよい。
また、本実施形態では100ミリ秒単位で10分後までのシミュレーションを行って計画案を修正することとしたが、待ち領域中の検体の数やその位置から渋滞の発生を検知して計画案を修正するものとしてもよい。
【0078】
次に、図19と図20とを用いて、計画パラメータ表T800(図12参照)の登録方法を説明する。図19は、計画パラメータ表T800の登録処理の例を示したフローチャートであり、図20は、計画パラメータ表T800の登録処理に用いる計画パラメータ登録用画面の表示例である。この計画パラメータ登録画面は、操作端末110の操作管理部208によって入出力の制御が行われる。
【0079】
まず、検査技師等の登録者は、項目群コンボボックスG101を使って、事前に登録された項目群の中から任意の項目群を1つ選択する(ステップS501)。
それにより、フロービューG102に、選択した項目群に対応する検体の搬送経路がグラフ表示されるので、次に、登録者は、フロービューG102に表示された搬送経路を確認しつつ、代表検体コンボボックスG103を使って、搬送される検体(親検体、および、分注された子検体)の中から、パラメータを登録すべき代表検体を選択する(ステップS502)。
それにより、最短処理時間ボックスG104には、最短で処理した場合のTATの予測時間が表示される。この予測時間には、予め該当する項目群の検体を1つだけ処理するものとしてシミュレーションした結果を用いる。
次に、許容遅延時間コンボボックスG105を使って、選択した代表検体が緊急検体であった場合に許容可能な最大の遅延時間を設定する(ステップS503)。
【0080】
最後に、登録者がOKボタンG106を押す(マウスでクリックする)ことをきっかけとして、操作管理部208は、各装置が処理能力を最大かつ待ちなく動作させた際に発生する各待ち領域における待ち時間(T1)と、設定された最大の遅延時間を検体が経由する待ち領域数で割った値(T2)との和を、各待ち領域の許容待ち時間T803として、計画パラメータ表T800に当該レコードを登録する(ステップS504)。なお、登録者がCancelボタンG107を押すことで、登録を取りやめることができる。
【0081】
以上説明したように、第一実施形態に係る自動分析システムによれば、緊急検体と一般検体とのすべての検体の各待ち領域における待ち時間を既定値以下に抑えることができるので、緊急検体のTATを常に目標の時間内に収めることができる。
【0082】
<第二実施形態>
第二実施形態では、途中から搬送経路が2つに分岐する装置構造を有する自動分析システムの例について説明する。
【0083】
<システム構成>
図21は、第二実施形態に係る自動分析システムのシステム構成図である。図21に示すように、自動分析システム20は、検査装置群2100と、装置管理サーバ2115と、検査情報管理サーバ2116と、操作端末2117とを有して成る。検査装置群2100の各装置と装置管理サーバ2115とは、LANなどの装置情報ネットワーク2118を介して通信可能に接続され、装置管理サーバ2115と検査情報管理サーバ2116と操作端末2117とは、同じくLANなどの検査情報ネットワーク2119を介して通信可能に接続される。また、検査情報管理サーバ2116は、病院ネットワーク2120を介して、例えば電子カルテシステムなどの病院内の他システムと接続される。
【0084】
検査装置群2100は、閉栓装置2101と、収納装置2102と、投入装置2103と、遠心装置2104と、開栓装置2105と、分注装置2106と、直線搬送装置2107,2111と、方向転換装置2108,2112と、検体の搬出順を変更できるバッファ装置2109,2113と、比色分析装置2110(A,B)と、免疫分析装置2114(A,B)とから成っており、図21で示すような配置で設置される。
【0085】
<機能構成>
図22は、第二実施形態に係る自動分析システム20の機能と動作との説明図である。初めに、図22を用いて、自動分析システム20の機能構成について説明する。
【0086】
検査装置群2100を構成する各装置は、それぞれ収集部201と機構制御部202とを有して成る。
装置管理サーバ2115は、トラッキング部203、搬入出計画部204、シミュレーション部205、指示部206、搬送経路DB291、および装置モデルDB292を有して成る。
検査情報管理サーバ2116は、検査情報提供部207、検査依頼DB293、およびパラメータDB294を有して成る。
また、操作端末2117は、操作管理部208を有して成る。
【0087】
<動作概要>
次に、図22を用いて、自動分析システム20の動作の概要を説明する。ここでは、ある緊急検体の投入に先立って、高い分注比の検体が投入されることにより、分注装置2106の処理能力を超え、分注装置2106の上流に渋滞が発生する場合に加え、検体を比色分析装置2110(A,B)で検査した後に、免疫分析装置2114(A,B)で検査するというような「戻り動作」が頻繁に生じることにより、方向転換装置2108の処理能力を超え、方向転換装置2108の周辺でも渋滞が発生する場合を考える。
【0088】
検査装置群2100を構成する各装置の収集部201は、装置内各部における検体の検知状態を示すセンサ値M271を、装置管理サーバ2115のトラッキング部203に送信する。
装置管理サーバ2115のトラッキング部203は、搬入出指示M272によって搬入出が指示された各検体の検査項目によって特定される搬送経路と、各装置のセンサ値M271とを使って、各検体の現在位置を特定し、各装置において検体が滞留する領域ごとの検体の存在状態(待ち領域情報D281)を算出する。次に、装置管理サーバ2115の搬入出計画部204は、初期条件情報M273と、待ち領域情報D281とをもとに、緊急検体を優先した初期の搬入出計画案D282を作成する。
次に、装置管理サーバ2115のシミュレーション部205は、作成された搬入出計画案D282にしたがって検体を搬入出した場合の、一定時間後までの各待ち領域における待ち時間の推定量(停滞推移情報D283)を、処理項目情報M274と、搬送経路情報291Aと、装置モデル情報292Bとに基づくシミュレーションにより算出する。
そして、搬入出計画部204は、算出された待ち時間の推定量が、初期条件情報M273によって与えられる既定値を超えないように、搬入出のタイミングや順序を変更することによって搬入出計画案D282を修正して再度シミュレーションを行う動作を繰り返し、最終的に搬入出計画D284を作成する。最後に、指示部206が、作成された搬入出計画D284にしたがって、投入装置2103と、遠心装置2104と、バッファ装置2109,2113との機構制御部202に、搬入出指示M272を送信する。
【0089】
前記のような動作によって、自動分析システム20は、システム内の各待ち領域での待ち時間を既定値以下に抑えることができ、それによって緊急検体のTATを所定時間以内に収めることができる。
【0090】
<搬送機構>
方向転換装置2108,2112を除く他の装置の内部機構の構造は、第一実施形態において説明したものと同様である。
なお、投入装置2103は、XYZテーブルおよびロボットアームを使って任意の順番、タイミングで検体を搬入できるものとし、さらに、検体もしくはトレイに付与された検体の識別情報を認識可能とする。遠心装置2104、バッファ装置2109,2113もまた、XYZテーブルおよびロボットアームを使って任意の順番、タイミングで検体を搬出できるものとする。
【0091】
図23は、方向転換装置2108の内部機構の構造の一例を示したものである。以下、図23を用いて、方向転換装置2108,2112の搬送機構について詳しく説明する。
【0092】
図23に例示した方向転換装置2108は、ベルトライン2301、方向転換機構2302、ストッパ2303、検体検知センサ2304を有して成る。これら各機構の機能は、第一実施形態で説明したものと同様である。以下、方向転換機構2302のような排他制御する必要がある領域を共有部と称するものとする。
【0093】
ここで、簡単に本実施形態における方向転換装置2108の動作を説明する。
方向転換装置2108は、他の装置がストッパ単位で非同期に検体の搬送を制御するのに対し、制御サイクル(例えば1秒)単位で、あるキューから別のキューへ検体を搬送する。その際、同じ共有部を介さない限り、同時に複数のキューを処理する。すなわち、図23に示した内部機構の構造をキューモデル表現した図24において、例えば、キュー4からキュー12への搬送とキュー6からキュー10への搬送とは、同じ制御サイクルで搬送できる。一方、キュー4からキュー12への搬送とキュー8からキュー5への搬送とは、図中左上の共有部をどちらの搬送でも用いるため、同じ制御サイクルでは搬送できない。
【0094】
次に、方向転換機構2302の処理性能の特性を説明する。キュー1からキュー10へ向かう検体とキュー3からキュー12へ向かう検体とが、同じ時間帯で続けて搬送される場合、それぞれ異なる共有部しか通らないので、どちらから搬入された検体についても最大性能で搬送できる。ところが、キュー1からキュー10へ向かう検体と、キュー3からキュー9へ向かう検体とが、同じ時間帯に搬送される場合、キュー1からキュー6へ向かう検体とキュー5からキュー9へ向かう検体とが、図中左下の同じ共有部を使用することとなる。例えば、キュー1に対してキュー5を常に優先して搬送るように制御し、かつ、キュー5に検体があるならば、キュー5の検体がなくなるまで、キュー5からキュー9へ検体が搬送される。一方、キュー5に対してキュー1を常に優先して搬送るように制御し、かつ、キュー1に検体があるならば、キュー1の検体がなくなるまで、キュー1からキュー6へ検体が搬送される。したがって、(1)方向転換装置2108は、検体が同じ共有部を用いる場合は、検体が同じ共有部を用いない場合に比べ搬送性能が低下する。また、(2)搬出した際に同じ共有部を用いるキューのどちらを優先するかを制御することで、方向転換装置2108の搬送方向ごとの搬送性能のバランスを調節できるという特性を有する。
【0095】
<ハードウェア構成>
検査装置群2100の各装置のハードウェア構成は、第一実施形態において説明した検査装置群100の各装置のハードウェア構成と同様である。
装置管理サーバ2115のハードウェア構成は、第一実施形態において説明した装置管理サーバ108のハードウェア構成と同様である。
検査情報管理サーバ2116のハードウェア構成は、第一実施形態において説明した検査情報管理サーバ109のハードウェア構成と同様である。
操作端末2117のハードウェア構成は、第一実施形態において説明した操作端末110のハードウェア構成と同様である。
【0096】
<機能とハードウェアとの対応>
自動分析システム20の各装置が備える機能とハードウェアとの対応は、装置モデル情報292Aが装置モデル情報292Bとなっている点を除き、第一実施形態と同様である。
【0097】
<情報構造>
自動分析システム20の情報構造は、装置モデル情報292Aが装置モデル情報292Bとなっている点を除き、第一実施形態と同様である。そこで、図9、図23、図24、図25を用いて、自動分析システム20の装置モデル情報292Bについてのみ詳しく説明する。
【0098】
(装置モデル情報)
装置モデル情報292Bは、シミュレーション部205がシミュレーションを実行するために使う情報であって、図9に例示したモデルオブジェクトT400と、状態定義表T500と、状態遷移表T600と、コネクション定義表T900と、図25に例示した方向転換装置向け状態定義表T1000とから成る。モデルオブジェクトT400と、状態定義表T500と、状態遷移表T600と、コネクション定義表T900は、第一実施形態で説明したものと同様である。また、搬入出計画D284(図14)についても第一実施形と同じ構造である。ただし、方向転換装置2108,2112に対する指示値D2844は、搬入もしくは搬出を表す値ではなく、どの方向を優先して搬入するかを表す値となる。具体的には、後記の優先するキューの決定ルール表T2000(図28)における優先する搬入方向に挙げた「優先なし」、「左側優先」、「下側優先」、「右側優先」、「上側優先」をそれぞれ識別する整数値(0,1,2,3,4)とする。
【0099】
図25に例示した方向転換装置向け状態定義表T1000は、方向転換装置2108の状態を定義するものであって、状態ID(T1001)と、キュー1〜12(T1002A〜T1002L)と、共有部1〜4(T1003A〜T1003D)とを属性に持つ。ここで共有部とは、図23における方向転換機構2302(A〜D)のような排他制御する必要がある領域の使用状況を表す。なお、他の装置と異なり方向転換装置2108において状態定義表に前記使用状況を付与する理由は、前述のような排他制御動作を規定するためである。すなわち、方向転換装置向け状態定義表T1000で区別して定義された状態ごとに、検体の搬送方向と搬送時間とを設定することにより、より正確なシミュレーションを可能とする。
【0100】
<処理フロー>
次に、検体が装置内で渋滞することを防止するために、各装置における検体の搬入出の順番とタイミングとを制御する処理の概要を説明する。なお、本実施形態における各装置は、搬入された検体に対して処理項目ID(T102)(図8参照)にしたがった処理を施し、処理した検体を搬出するものとする。第二実施形態における処理の基本的な流れは、状態定義表T500と方向転換装置向け状態定義表T1000とを併用する点と、搬入出計画案の修正処理とを除いて、第一実施形態の処理の流れと同様である。
【0101】
ここでは、図26を用いて、第二実施形態における搬入出計画案D282の修正処理(図15のステップS108)を詳しく説明する。
まず、搬入出計画部204は、シミュレーションの結果として停滞推移情報D283に登録された待ち時間D2835が、最も早い時刻に当該待ち領域の既定値(許容待ち時間M2735)を超えた検体を抽出する(ステップS601)。なお、既定値を超えた時刻の算出方法は、前記のステップS401(図18)と同様である。
【0102】
次に、搬入出計画部204は、停滞推移情報D283を参照することにより、対象の検体について、方向転換装置2108,2112周辺で待ちが発生しており、かつ、同じ待ち領域を複数回経由する戻り動作が多いかどうかを判別する(ステップS602)。その結果、方向転換装置2108,2112周辺で待ちが発生しており、かつ、戻り動作が多いならば、ステップS603(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS605(No側)に処理を進める。
【0103】
方向転換装置2108,2112周辺で待ちが発生しており、かつ、戻り動作が多い場合(ステップS602で「Yes」)、搬入出計画部204は、バッファ装置2109,2113からの搬出時刻の調節を行う(ステップS603)。具体的には、対象の検体がバッファ装置2109,2113から搬出される時刻周辺において、バッファ装置2109,2113にある一般検体の搬出時刻を2秒ずつ遅らせるように搬入出計画案D282を修正する。ここで、戻り動作が多いとは、方向転換装置2108,2112に搬入される検体の30%以上が戻り動作を行う場合とする。なお、本実施形態では30%としたが、システム構成や運用に応じて多くしても少なくしてもよい。
次に、搬入出計画部204は、方向転換装置2108,2112の優先制御を行う(ステップS604)。具体的には、各方向に隣接する装置(例えば、方向転換装置2108に関しては、直線搬送装置2107と直線搬送装置2111とバッファ装置2109)において、最も検体が渋滞している(検体の待ち時間の総和が最も大きい)待ち領域からの検体を優先して搬送するように方向転換装置2108,2112を制御する。なお、本実施形態では、隣接する装置を優先制御の対象としたが、検体の渋滞に直接関与しない直線搬送装置2107と直線搬送装置2111に代えて、分注装置2106とバッファ装置2113とを対象としてもよい。
【0104】
方向転換装置2108,2112周辺で待ちが発生していない、または、戻り動作が多くない場合(ステップS602で「No」)、もしくは、ステップS604実行後、搬入出計画部204は、対象の検体が遠心処理する必要がないかどうかを判別する(ステップS605)。その結果、遠心処理する必要がないならばステップS606(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS607(No側)に処理を進める。
遠心処理する必要がない場合(ステップS605で「Yes」)、搬入出計画部204は、遠心装置2104からの搬出時刻の調節を行う(ステップS606)。具体的には、対象の検体が遠心装置2104を搬送される時刻周辺において、対象の検体と同じ搬送路を使う他の一般検体の遠心装置2104からの搬出時刻を2秒ずつ遅らせるように搬入出計画案D282を修正する。
遠心処理する必要がある場合(ステップS605で「No」)、もしくは、ステップS606実行後、搬入出計画部204は、投入装置2103からの搬入時刻の調節を行う(ステップS607)。具体的には、対象の検体から2検体前の検体から、搬入時刻を2秒ずつ遅らせるように搬入出計画案D282を修正する。
【0105】
前記のバッファ装置の搬出時刻を調節する処理(ステップS603)と方向転換装置の優先制御処理(ステップS604)とは、例えば、ある分析装置で一般検体を処理しており、その一般検体が処理されて搬出され、その同じ分析装置に向かう緊急検体と戻り動作を行う一般検体との搬送経路の違いよって競合が発生し、方向転換装置の周辺に渋滞が生じた結果、分析装置に向かう緊急検体の待ち時間が既定値を超えるといった場合に、その分析装置からの検体の搬出を抑制し、緊急検体を先に処理することによって、TATを保証しつつ高効率でシステムを運用するための処理である。
【0106】
次に、方向転換装置の優先制御処理(図26のステップS604)を詳しく説明する。
まず、説明に先立って、方向転換装置の搬出口に対応する各キュー(例えば、図24のキュー9,10,11,12)へ検体を1回の処理で搬出できる搬出元のキューの集合を“ブロック”と定義する。図24の例の場合は、ブロック1がキュー1とキュー5とから、ブロック2がキュー2とキュー6とから、ブロック3がキュー3とキュー7とから、ブロック4がキュー4とキュー8とから、それぞれ構成されるものとする。
【0107】
次に、図27を用いて、方向転換装置の優先制御処理の流れを説明する。
まず、停滞推移情報D283を参照して、隣接する装置の各方向に関して、将来最大の待ち時間となる検体を含む方向(最大待ち方向)と、その待ち時間(最大待ち時間)とを算出する(ステップS701)。
次に、図28で例示した優先するキューの決定ルール表(T2000)に基づいて、キューの優先順位を設定する(ステップS702)。具体的には、前記の最大待ち時間が待ち領域ごとの既定値を超えていなければ「優先なし」とし、ブロック1においてはキュー1よりキュー5を優先して搬送し、ブロック2においてはキュー2よりキュー6を優先して搬送し、ブロック3においてはキュー3よりキュー7を優先して搬送し、ブロック4においてはキュー4よりキュー8を優先して搬送するように優先順位を設定する。前記の最大待ち時間が待ち領域ごとの既定値を超えているならば、最大待ち方向を優先する搬入方向とする。例えば、優先する搬入方向を「右側優先」とした場合には、ブロック1においてはキュー1よりキュー5を優先して搬送し、ブロック2においてはキュー2よりキュー6を優先して搬送し、ブロック3においてはキュー7よりキュー3を優先して搬送し、ブロック4においてはキュー4よりキュー8を優先して搬送するように優先順位を設定する。
次に、停滞推移情報D283を参照して、隣接する装置の、将来待ち時間がより長くなる検体を含む方向に対応するブロックから順に、そのブロックを表す識別子を伴って(引数として)後記のSolveBlock処理を呼び出すことで各キューの搬送制御計画を立てる(ステップS703)。なお、ブロックの識別子に対応するブロックの中で、優先することに決定したキューを優先度の高いキュー、そうでないキューを優先度の低いキューと記す。
【0108】
次に、図29を用いて、SolveBlock処理の流れを説明する。SolveBlock処理は、自身を再帰的に呼び出しながら、各ブロックで搬送する検体を決定していく。
まずSolveBlock処理の再帰呼び出し回数が4回目でないかどうかを判別する(ステップS801)。その結果、再帰呼び出し回数が4回目でないならばステップS802(Yes側)に処理を進め、そうでなければ(ステップS801で「No」)ステップS818(No側)に処理を進める。
再帰呼び出し回数が4回目でない場合(ステップS801で「Yes」)、優先度の高いキューに未搬送の検体があるかどうかを判別する(ステップS802)。その結果、未搬送の検体があるならばステップS803(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS810(No側)に処理を進める。
【0109】
優先度の高いキューに未搬送の検体がある場合(ステップS802で「Yes」)、行き先がキュー9,10,11,12のいずれかであって検体を搬送可能である(空きがあり、かつ、共有部が使われていない)かどうかを判別する(ステップS803)。その結果、行き先がキュー9,10,11,12のいずれかであって検体を搬送可能であるならば、ステップS804(Yes側)に処理を進める。そうでなければステップS805(No側)に処理を進める。
行き先がキュー9,10,11,12のいずれかであって検体を搬送可能である場合(ステップS803で「Yes」)、優先度の高いキューから検体を搬送することとして、処理を終了する(ステップS804)。
【0110】
行き先がキュー9,10,11,12のいずれでもないか、検体を搬送可能でない場合(ステップS803で「No」)、検体の行き先のキューに搬送可能であるかどうかを判別する(ステップS805)。その結果、搬送可能であるならばステップS808(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS806(No側)に処理を進める。
搬送可能でない場合(ステップS805で「No」)、行き先のキューが属するブロックの識別子を伴ってSolveBlock処理を呼び出す(ステップS806)。
次に、検体を搬送可能であるかどうかを再度判別する(ステップS807)。その結果、搬送可能であるならばステップS808(Yes側)に処理を進めし、そうでない場合はステップS810(No側)に処理を進める。
【0111】
ステップS805もしくはステップS807において搬送可能である場合(ステップS805で「Yes」、ステップS807で「Yes」)、再帰呼び出しの1回目であるかどうかを判別する(ステップS808)。その結果、再帰呼び出しの1回目であるならば(ステップS808で「Yes」)ステップS804(Yes側)に処理を進め、そうでない場合はステップS809(No側)に処理を進める。
再帰呼び出しの1回目でない場合は(ステップS808で「No」)、キュー5,6,7,8のいずれかから検体を搬送することとして、処理を終了する(ステップS809)。
【0112】
ステップS802において優先度の高いキューに未搬送の検体がない場合(ステップS802で「No」)、もしくは、ステップS807において検体が搬送可能でない場合(ステップS807で「No」)、優先度の低いキューに未搬送の検体があるかどうかを判別する(ステップS810)。その結果、優先度の低いキューに未搬送の検体があるならばステップS811(Yes側)に処理を進め、そうでなければ(No側)処理を終了する。
優先度の低いキューに未搬送の検体がある場合(ステップS810で「Yes」)、その検体の行き先がキュー9,10,11,12のいずれかであって検体を搬送可能であるかどうかを判別する(ステップS811)。その結果、行き先がキュー9,10,11,12のいずれかであって検体を搬送可能であるならばステップS812(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS813(No側)に処理を進める。
【0113】
行き先がキュー9,10,11,12のいずれかであって検体を搬送可能である場合(ステップS811で「Yes」)、優先度の低いキューの検体を搬送することとして、処理を終了する(ステップS812)。
行き先がキュー9,10,11,12のいずれでもないか、検体を搬送可能でない場合(ステップS811で「No」)、検体を搬送可能であるかどうかを判別する(ステップS813)。その結果、搬送可能であるならばステップS816(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS814(No側)に処理を進める。
【0114】
搬送可能でない場合(ステップS813で「No」)、行き先のキューが属するブロックの識別子を伴ってSolveBlock処理を呼び出す(ステップS814)。
次に、検体を搬送可能であるかどうかを再度判別する(ステップS815)。その結果、搬送可能であればステップS816(Yes側)に処理を進め、そうでなければ(ステップS815で「No」)処理を終了する。
【0115】
ステップS813もしくはステップS815において搬送可能である場合(ステップS813で「Yes」、ステップS815で「Yes」)、再帰呼び出しの1回目であるかどうかを判別する(ステップS816)。その結果、再帰呼び出しの1回目であるならばステップS812(Yes側)に処理を進め、そうでなければステップS817(No側)に処理を進める。
再帰呼び出しの1回目でない場合は(ステップS816で「No」)、キュー5,6,7,8のいずれかから検体を搬送することとして、処理を終了する(ステップS817)。
【0116】
以上の処理によって、搬入出計画部204は、どのキューからどのキューへ検体を搬送するかを決定することができる。なお、図23に例示した方向転換装置2108は平面的なものであるが、3次元に方向転換機構を接続した構造となっていても同様である。例えば、最も簡単な例として、本実施形態で示した4つの方向転換機構が並ぶ方向転換装置を1つの面と考え、これと同じものを垂直方向に2面配置して互いに接続した装置でもよい。
また、本実施形態における方向転換装置ではなく、中心に検体を載せたまま回転できる機構(ターンテーブル)であっても、同じ時間帯に続けて検体を搬送する場合には、ハードウェア上の共有部に由来する処理性能の変化が生じる。その際の優先制御は、より単純にどの方向も優先しないときは、左右上下方向とも均等に検体を受け取り、どこかの方向を優先する場合には、優先したい方向から高い頻度で検体を受け取ることで実現可能である。
【0117】
また、本実施形態においては、搬入出の調節方法として(1)投入装置からの搬入時刻の調節、(2)遠心装置からの搬出時刻の調節、(3)バッファ装置からの搬出時刻の調節、(4)方向転換装置における優先制御処理を行うものとしたが、これらのうちどれか1つだけを行ってもよいし、任意の2つ以上を組み合わせてもよいし、他の調節方法と組み合わせてもよい。また、搬入出の調節を行う対象装置を限定してもよい。
【0118】
<効果に関する補足>
以上説明したように、本発明によれば、自動分析システム内の検体の存在状態と自動分析システムの動作モデルとから、搬入出計画部によって作成された初期の搬入出計画案を適用した場合の各待ち領域における待ち時間をシミュレートし、それらの待ち時間が許容値を超えるときには、検体の搬入出を抑止したり搬入出の順序を変更したりすることなどにより、緊急検体のTATを一定時間以内に収めることができる。さらに、検査の依頼量が多い状況であっても、緊急検体のTATが保証されるので、検査技師は検体の投入順やタイミングを気にすることなく検体を投入することができる。また、検体の停滞状況や、それから推測される各検体の待ち時間や検査終了時間を検査技師などに提示することによって、検査全体の作業の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0119】
10,20 自動分析システム
100,2100 検査装置群
101,2103 投入装置
102,2104 遠心装置
103,2105 開栓装置
104,2106 分注装置
105,2107,2111 直線搬送装置
106A,106B、2110A,2110B 比色分析装置
107,2102 収納装置
2101 閉栓装置
2108,2112 方向転換装置
2109,2113 バッファ装置
2114A,2114B 免疫分析装置
108,2115 装置管理サーバ
109,2116 検査情報管理サーバ
110,2117 操作端末
111,2118 装置情報ネットワーク
112,2119 検査情報ネットワーク
201 収集部
202 機構制御部
203 トラッキング部
204 搬入出計画部
205 シミュレーション部
206 指示部
207 検査情報提供部
208 操作管理部
291 搬送経路DB(搬送経路の情報)
292 装置モデルDB
293 検査依頼DB
294 パラメータDB
291A 搬送経路情報
292A,292B 装置モデル情報
293A 依頼情報
294A 計画パラメータ
301(A〜E),2301 ベルトライン
302(A〜H),2302 方向転換機構
303(A〜H),2303 ストッパ
304(A〜I),2304 検体検知センサ
305 処理機構
M271 センサ値
M272 搬入出指示
M273 初期条件情報
M274 処理項目情報
D281 待ち領域情報
D282 搬入出計画案
D283 停滞推移情報
D284 搬入出計画
T100 項目群定義表
T200 経路定義表
T300 項目経路対応表
T400 モデルオブジェクト(動作モデル)
T500 状態定義表
T600 状態遷移表
T700 検査依頼情報表
T800 計画パラメータ表
T900 コネクション定義表
T1000 方向転換装置向け状態定義表
T2000 優先するキューの決定ルール表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体の検査に必要な各工程の処理を行う複数の装置を有して成る自動分析システムであって、
投入済みの検体の搬入出順序と、検査内容に応じた所定の搬送経路の情報と、前記各装置内の各部に設置される検体検知センサの信号とを用いて、前記各装置における各検体の現在位置を特定するトラッキング部と、
前記各検体の現在位置を初期状態として、与えられた搬入出計画案を適用したときの前記各装置の動作を、前記各装置の動作モデルを用いてシミュレートすることにより、各検体の前記各装置内の各待ち領域における滞留時間を推定するシミュレーション部と、
緊急検体を一般検体よりも優先的に搬入出するような初期の搬入出計画案を作成して、前記シミュレーション部にシミュレーションを実行させ、その搬入出計画案を適用したときの前記各装置内の各待ち領域における前記滞留時間が、当該待ち領域の許容滞留時間を超える検体がある場合は、前記搬入出計画案における前記検体以外の他の検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序を修正することによって最終の搬入出計画を作成する搬入出計画部と
を備えることを特徴とする自動分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析システムにおいて、
前記動作モデルは、前記各装置内の待ち領域ごとの検体数によって当該装置の状態が定義され、前記状態の各々に対して遷移条件と所要処理時間と次の状態とを規定する状態遷移によって定義される
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析システムにおいて、
分注装置の前記動作モデルを定義する前記状態および状態遷移は、分注比に応じて子検体を生成する動作の定義を含む
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の自動分析システムにおいて、
搬送路の合流点を有する装置の前記動作モデルを定義する前記状態および状態遷移は、当該合流点に至る各待ち領域ごとの検体数に応じて当該合流点への搬入順序を制御する動作の定義を含む
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項5】
請求項4に記載の自動分析システムにおいて、
前記搬送路の合流点を有する装置の前記動作モデルを定義する前記状態は、当該合流点に至る各待ち領域ごとの検体数と当該合流点の使用状態との組み合わせによって定義される
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の自動分析システムにおいて、
前記搬入出計画部が行う前記検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序の修正は、
前記滞留時間が前記許容滞留時間を超える検体よりも前に搬入出を行うように計画された検体の搬入出時刻を遅らせるものである
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項7】
請求項6に記載の自動分析システムにおいて、
前記滞留時間が前記許容滞留時間を超える検体が複数あった場合の、前記搬入出計画部が行う前記検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序の修正は、
最も早い時刻に前記滞留時間が前記許容滞留時間を超えた検体よりも前に搬入出を行うように計画された検体の搬入出時刻を遅らせるものである
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の自動分析システムにおいて、
前記滞留時間が前記許容滞留時間を超える検体が、複数の検体をひとまとめにして処理する装置による当該処理を必要としない場合の、前記搬入出計画部が行う前記検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序の修正は、
前記滞留時間が前記許容滞留時間を超える検体が当該装置付近を搬送される時間帯において、当該装置で処理された一般検体の搬出時刻を遅らせるものである
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の自動分析システムにおいて、
搬送路の合流点を有する装置の周辺で前記滞留時間が前記許容滞留時間を超える検体がある場合の、前記搬入出計画部が行う前記検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序の修正は、
当該装置に接続される分析装置またはバッファ装置に滞留している一般検体の搬出時刻を遅らせるものである
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の自動分析システムにおいて、
搬送路の合流点を有する装置の周辺で前記滞留時間が前記許容滞留時間を超える検体がある場合の、前記搬入出計画部が行う前記検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序の修正は、
当該装置への搬入方向のなかで将来の前記滞留時間が最大となった検体の搬送方向を優先して搬送するものである
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の自動分析システムにおいて、
前記許容滞留時間は、
検査の依頼内容に応じた所定の搬送経路による検体の最短処理時間を基準として設定される許容遅延時間を、当該搬送経路に含まれるすべての待ち領域に分配することによって生成される
ことを特徴とする自動分析システム。
【請求項12】
検体の検査に必要な各工程の処理を行う複数の装置を有して成る自動分析システムの前記各装置に検体の搬入出を指示する装置管理サーバであって、
前記装置管理サーバは、
投入済みの検体の搬入出順序と、検査内容に応じた所定の搬送経路の情報と、前記各装置内の各部に設置される検体検知センサの信号とを用いて、前記各装置における各検体の現在位置を特定するトラッキング部と、
前記各検体の現在位置を初期状態として、与えられた搬入出計画案を適用したときの前記各装置の動作を、前記各装置の動作モデルを用いてシミュレートすることにより、各検体の前記各装置内の各待ち領域における滞留時間を推定するシミュレーション部と、
緊急検体を一般検体よりも優先的に搬入出するような初期の搬入出計画案を作成して、前記シミュレーション部にシミュレーションを実行させ、その搬入出計画案を適用したときの前記各装置内の各待ち領域における前記滞留時間が、当該待ち領域の許容滞留時間を超える検体がある場合は、前記搬入出計画案における前記検体以外の他の検体の搬入出のタイミングまたは搬入出の順序を修正することによって最終の搬入出計画を作成する搬入出計画部と
を備えることを特徴とする装置管理サーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2011−242154(P2011−242154A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111913(P2010−111913)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】