説明

自動分析装置

【課題】
穿孔方式の試薬容器を搭載する自動分析装置において、分注ノズルと穿孔蓋との接触による試薬サンプリング機構の負荷や、アラーム、試薬の飛び散りを抑え、信頼性の高い自動分析装置を提供する。
【解決手段】
試薬分注動作を行う際に、分注ノズル31が下降し穿孔蓋34を通過する前後の特定領域A及びBにおいて、分注ノズル31の下降速度を一時的に低速(速度:0.02m/s)に制御し、その領域を越えたら通常の速度(速度:0.04m/s)とすることで、分注ノズル31が穿孔蓋34に接触する際に発生する摩擦力を低減し、異常下降検知の誤動作を低減すると共に、試薬サンプリング機構に対する負荷を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液,尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特に穿孔方式の液体容器を用いる自動分析装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿の生体試料について複数の項目を分析する自動分析装置は、試料と混合し、反応を行わせるための第1試薬及び第3試薬を収容する試薬容器を複数個設置可能としたものが一般的である。近年は、分析項目が飛躍的に増加しており、それに対応して多くの種類の試薬も市販されるようになってきている。
【0003】
それに伴い、試薬が収容される試薬容器も複数の形状のものが市販されるようになり、蒸発による試薬の濃縮などを防止するために、試薬容器に蓋を設けて試薬の劣化を防ぐ穿孔方式の試薬容器も増加する傾向にある。
【0004】
このような穿孔方式の試薬容器を用いた自動分析装置として、例えば特許文献1がある。この特許文献1では、穿孔方式の試薬容器を用いた場合に、蓋と接触する分注ノズル部分が多くなることに着目し、分注ノズルの洗浄範囲を調整することで、ノズルの洗浄液及び洗浄時間を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−162403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、試薬分注時に試薬容器の穿孔された穿孔蓋に分注ノズルが浸入する際、試薬容器穿孔蓋と分注ノズルが接触するが、その際に分注ノズルの下降速度や、蓋の材質、形状などに起因して分注ノズルの異常下降検知が作動する可能性がある。分注ノズル異常下降検知とは、分注ノズル下降時に分注ノズル先端が装置上面カバーなどの異物にぶつかった際に、分注ノズルの下降を停止させて、分注ノズルの破損や、オペレータの怪我を防止するための機能である。
【0007】
また、分注ノズルが試薬容器から上昇する際にも、分注ノズル上昇用モータの脱調、上死点異常、更には分注ノズルが穿孔蓋を出る瞬間に分注ノズル先端に付着した試薬が許容量を超えて飛び散るおそれがあることが解った。このような問題は試薬容器に限らず、液体試料を収容する試料容器であっても、同様な問題が生じるものと考えられる。
【0008】
自動分析装置はこれらの問題が発生しないよう安全率を見積もって設計されているが、それでも、蓋材質の変質、ノズル先端の変形などの予期せぬ事態に対しても、更に安全な設計とすることが好ましい。
【0009】
そこで本発明は、穿孔方式の液体容器を用いる自動分析装置において、その目的とするところは蓋材質の変質、ノズル先端の変形などの予期せぬ事態が発生したとしても、分注ノズルのアラームや試薬の飛び散り等による分析性能への影響を抑え、信頼性の高い自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、液体を収容する穿孔方式の蓋を有する液体容器と、該蓋を貫通して該液体容器に収容された液体を吸引する分注ノズルと、該分注ノズルを上下動するノズル上下動機構と、を備えた自動分析装置において、前記分注ノズルの先端が前記蓋を貫通する区間で、前記分注ノズルの移動速度を低下するノズル上下動機構の制御装置を備えることにより、前記分注ノズルが低速で蓋を貫通するようにしたところにある。
【0011】
前記目的を達成するための本発明の更なる特徴については、以下述べる実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0012】
穿孔方式の液体容器を用いる自動分析装置において、蓋材質の変質、ノズル先端の変形などの予期せぬ事態が発生したとしても、分注ノズルが蓋を貫通する速度を抑えることができるので、サンプリング機構の分注ノズルアラームや試薬の飛び散り等による分析性能への影響を抑え、信頼性の高い自動分析装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用する自動分析装置の概略構成図
【図2】本発明の一実施例に係る試薬サンプリング機構の構成図
【図3】本発明の一実施例に係る試薬サンプリング機構の可動域説明図
【図4】本発明の一実施例に係る分注ノズルの制御位置関係説明図
【図5】本発明の一実施例に係る分注ノズルの制御位置測定フロー図
【図6】本発明の一実施例に係る分注ノズルの制御位置データマップ図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図示する一実施例を用いて詳細に説明する。尚、以下述べる実施例では、液体を収容する穿孔方式の液体容器として試薬を収容する試薬容器を例に挙げて説明するが、試薬に限らず試料(サンプル)を収容した穿孔式の試料容器であっても同様に実施することができる。
【0015】
図1は本発明を適用する自動分析装置の一例であって、その全体の概略構成図である。本実施例では、分析対象となる試料(サンプル)を入れたサンプル容器1がセットされるサンプルディスク2、サンプルディスク2よりサンプルを吸引し、反応および測光を行うための反応セル3を複数保持する反応ディスク4へとサンプルを分注するための検体サンプリング機構5、サンプルと混合し、反応を行わせるための第1、2、3の試薬を充填してある穿孔方式の試薬容器6、試薬容器6を複数保管,保冷を行うための試薬ディスク7、試薬容器6から反応ディスク4へと試薬の分注を行う第1試薬用のR1試薬サンプリング機構8、第3試薬用のR2/3試薬サンプリング機構9、反応ディスク4上にて反応しているサンプルおよび試薬の混合液を測光するための測光部10から構成されている。また各テーブル,機構の動作制御は図示しないコンピュータ等からなる制御装置により行われる。
【0016】
図2は本発明の一実施例に係る試薬サンプリング機構の構成図である。試薬サンプリング機構8、9に備えられた分注ノズル31は水平方向と上下方向の動作の組み合わせで動作する。
【0017】
水平方向の動作は第1アーム29と第2アーム30の回転の組み合わせで動作する。第1アーム29は第1アーム駆動モータ20の回転駆動力が第1アーム用ベルト21により第1アームシャフト32及び第1アーム29に伝達されることで回転動作が行われる。
【0018】
第2アーム30は第2アーム駆動モータ22の回転駆動力が第2アームシャフト33に伝達され、さらに第2アーム用ベルト26を介して第1アーム内にあって第2アーム回転中心にとなるシャフト27に伝達されることで行われる。
図3は試薬サンプリング機構の可動域を示しており、試薬分注ノズル31のアクセス域35は第1アーム可動域36と第2アーム可動域37とを合わせた広範囲な領域となる。
【0019】
上下動作は、上下動作駆動モータ23の回転を上下動作用ベルト24及びスライダ25を介して第1アームシャフト32に伝えることで、第1アーム29及び第2アーム30を同時に上下する機構となっている。
【0020】
また、穿孔方式の試薬容器6の穿孔蓋34には、分注ノズル31が試薬分注を行う際に試薬容器穿孔蓋34を通過する開口部を、開口ノズル28によって形成することができる。
【0021】
試薬サンプリング機構8、9は、試薬分注ノズル31が下降動作時に異物に衝突したことを検知する異常下降検知機構を備えている。この異常下降検知機構は、分注ノズル31の先端が異物に衝突した際に、本来の位置より上方に移動したことをフォトカップラー(フォトインタラプタ)などで検知するものである。
【0022】
異常下降検知機構が作動したことに伴い、ノズルの下降動作を停止することで、ノズルの破損、オペレータの怪我などを防ぐことができる。また、異常下降検知が検出された時点のノズル高さは、駆動モータ23にパルスモータ等を用いることで、そのパルス数から算出することができる。
【0023】
駆動モータ23として直流モータを用いる場合は、その駆動軸にパルスエンコーダを設け、その発生パルスを計数することで同様に算出することができる。
その他、分注ノズル31が試薬容器6内の試薬液面に接触したことを電気伝導度、静電容量変化などに基づいて検出する、通常の液面センサも備えている。
【0024】
試薬容器6の穿孔蓋34の高さは、試薬ディスク7への設置面の高さ寸法及び穿孔蓋34の高さ寸法、および試薬サンプリング機構8、9に備えられた分注ノズル31の先端が穿孔蓋34に接触するまでの分注ノズル31の下降量から求めることができる。
【0025】
しかし、試薬ディスク7の円周上に配置された試薬容器6の穿孔蓋34や試薬液面の高さは、個々の部品の寸法精度や組立誤差、試薬容器6の重さによる歪み等により、個々の試薬容器ごとに異なることが考えられる。
【0026】
図4に本実施例に係る分注ノズル制御のための位置関係を示す。図において、Zは分注ノズル最大移動寸法、AおよびBは低速領域、Xは穿孔蓋−試薬液面寸法、αは突っ込み量、Cは試薬容器穿孔蓋までの下降量、Dは穿孔蓋−試薬液面寸法を示す。分注ノズル31を下降制御するには、これらの位置・寸法を分注ノズル31の下降量との関係で求める必要があるが、その位置関係は前記した理由で個々の試薬容器ごとに異なることになる。
【0027】
そこで先ず、これらの位置関係を試薬容器ごとに測定し、記憶する実施例を図5の分注ノズルの制御位置測定フロー、および図6の制御位置データマップを用いて説明する。
【0028】
自動分析装置を立ち上げ、分析を開始する前に試薬容器を試薬ディスクに設置(ステップ51)した後に、円周上に配置された試薬容器の穿孔蓋の高さを、分注ノズル31を下降させ異常下降検知を使用し、試薬容器に対してセンサの入る位置(下降パルス数C)を全ての試薬容器について測定し、図6の制御位置データマップに記憶させる(ステップ52)。
【0029】
次に、分注ノズル31を下降させ試薬容器内の試薬液面の高さを静電容量方式の液面センサを使用して液面高さ(下降パルス数D)を測定し、図6の制御位置データマップに記憶させる(ステップ53)。このパルス数Dに分注ノズルの液面からの突っ込み量αの固定パルス数を加えたパルス数が最大下降パルス数Zとなり、図6の制御位置データマップに記憶する(ステップ54)。
【0030】
また、穿孔蓋付近での分注ノズル下降速度の低速域を決めるため、穿孔蓋までのパルス数から固定パルス数を引いたパルスを低速開始パルス数Vとし、逆に穿孔蓋までのパルス数から固定パルス数を加えたパルスを低速終了パルス数Yとして夫々算出し、図6の制御位置データマップに記憶する(ステップ55,56)。このようにして全ての試薬容器の位置情報(制御パルス数)を求め、低速領域を確定すること(ステップ57)で、以後の試薬分注ノズル31の上下動作を図6の制御位置データマップに記憶したデータに基づいて制御する。
【0031】
ここで突っ込み量αは、確実に試薬を吸引するために、分注ノズル31の先端部を試薬液中に浸入させるために必要な距離である。液面センサは分注ノズル31が液体に接触することで検知信号を発生するため、穿孔方式の試薬容器6を使用した場合、穿孔蓋34に付着した液体に接触した際にも検知信号を発生する。この場合には、本来の液面は穿孔蓋34よりも下方にあることから、試薬サンプリング機構8、9の下降動作において、穿孔蓋34までの下降中は検知信号を無視するように制御を行う。
【0032】
また、分注ノズル31を最下降点まで下降させるためにパルスモータへ送る総パルス数から、液面を検知するまでにパルスモータへ送ったパルス数を差し引いた残パルス数を、試薬容器毎に記憶しておくことにより、次に同じ試薬の分注を行う際には、記憶しておいた残パルス数までの分注ノズル31の下降動作を高速に制御することができる。
【0033】
ここで、試薬サンプリング機構8、9が試薬分注動作を行う際に、分注ノズル31が下降し穿孔蓋34を通過する前後の特定領域A及びBにおいて、分注ノズル31の下降速度を一時的に低速(速度:0.02m/s)に制御し、その領域を越えたら通常の速度(速度:0.04m/s)に制御する。このような分注ノズル31の高速動作及び低速動作は、上下動作駆動モータ23をパルスモータとすれば、その駆動パルスレートをルーチン動作内の動作内容に応じ変更することで実現できる。
【0034】
上記の例では、特定領域A及びBの速度を通常速度の50%に設定することで、分注ノズル31が穿孔蓋34に接触する際の摩擦力を大幅に低減することを優先したが、処理効率を優先する場合には通常速度の70%程度までで十分な効果があることが判った。
【0035】
以上述べたように、分注ノズル31が下降し穿孔蓋34を通過する際は、低速領域Aで低速にし、穿孔蓋34通過後の低速領域Bまで低速を維持し、その後液面までの距離X(図4の低速領域−試薬液面寸法X)を通常の速度で下降させることができる。従って、分注ノズル31が穿孔蓋34に接触する際に発生する摩擦力を低減し、異常下降検知の誤動作を低減できると共に、試薬サンプリング機構8、9に対する負荷を低減することができる。
【0036】
また、分注ノズル31を液面から上昇させる場合も同様に、液面から穿孔蓋34に接触する前までの距離Xは通常の速度で上昇し、穿孔蓋34に接触する前の距離Bで低速にした状態で穿孔蓋34を通過し、距離Aを通過後に通常の上昇速度に戻す。
【0037】
これにより、分注ノズル31の上昇にも、分注ノズル31が穿孔蓋34に接触することで発生する摩擦力を低減し、上下動作駆動モータ23の脱調や試薬サンプリング機構8、9の上死点検知異常を低減することができると共に、分注ノズル31が穿孔蓋34との接触により生じる分注ノズル31先端に付着した試薬液滴の試薬容器外への飛び散りも低減することができる。
【0038】
また、以上述べた実施例は試薬を収容する試薬容器に対する分注方式を例に挙げて説明しているが、試薬容器に限らず、試料を収容した穿孔式の試料容器であっても同様に実施することができることは明らかである。
【符号の説明】
【0039】
1・・・サンプル容器、2・・・サンプルディスク、3・・・反応セル、4・・・反応ディスク、5・・・検体サンプリング機構、6・・・試薬容器、7・・・試薬ディスク、8・・・R1試薬サンプリング機構、9・・・R2/3試薬サンプリング機構、10・・・測光部、20・・・第1アーム駆動モータ、21・・・第1アーム用ベルト、22・・・第2アーム駆動モータ、23・・・上下動作駆動モータ、24・・・上下動作用ベルト、25・・・スライダ、26・・・第2アーム用ベルト、27・・・シャフト、28・・・開口ノズル、29・・・第1アーム、30・・・第2アーム、31・・・分注ノズル、32・・・第1アームシャフト、33・・・第2アームシャフト、34・・・穿孔蓋、35・・・試薬分注ノズルアクセス域、36・・・第1アーム可動域、37・・・第2アーム可動域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する穿孔方式の蓋を有する液体容器と、該蓋を貫通して該液体容器に収容された液体を吸引する分注ノズルと、該分注ノズルを上下動するノズル上下動機構と、を備えた自動分析装置において、前記分注ノズルの先端が前記蓋を貫通する区間で、前記分注ノズルの移動速度を低下するノズル上下動機構の制御装置を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、前記制御装置は、設置された複数の液体容器の蓋の高さを夫々計測する手段と、該蓋の高さを基準に算出した低速領域の開始値及び終了値を前記液体容器ごとに記憶する手段とを備え、前記分注ノズルの上下動時、該当する液体容器の前記開始値及び終了値に応じて移動速度を低下することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、前記分注ノズルが異物に接触したことを検知する分注ノズル異常下降検知機構を備え、前記制御装置は、前記分注ノズル異常下降検知機構で検知した蓋の位置を記憶し、前記検知した蓋の位置から前記分注ノズルの先端が蓋を貫通する区間を設定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の自動分析装置において、前記分注ノズルの先端が前記蓋を貫通する区間の速度は、蓋を貫通する区間以外の速度の50%〜70%の速度とすることを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117916(P2012−117916A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267937(P2010−267937)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】