説明

自動化2次元電気泳動装置および装置構成器具

【課題】 2次元電気泳動の自動化を実現して、2次元電気泳動の利便性を高め、作業者依存度を低減し、結果の再現性を高めること。
【解決手段】 第1媒体15を支持した第1媒体支持体16を保持するための保持手段3、ならびに第1方向および第2方向からなる平面に対して平行方向または垂直方向に固定手段1または保持手段3を移動するための駆動手段4を備えたサンプル分離装置100に用いるためのサンプル分離器具20を提供する。サンプル分離器具20は、第1媒体15中で第1方向に分離した分離サンプルを第1方向と異なる第2方向にさらに分離するための第2媒体24を収納するための絶縁物20aを有し、絶縁物20aは、第2媒体24に通電する第2方向を規定する第1開口部25および第2開口部26を有し、第2開口部26は、分離サンプルを含む第1媒体を第1方向に沿って第2媒体と接着させるための形状を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動化された生物学的サンプル分離装置および当該装置を構成する器具ならびにその用途に関するものであり、より詳細には、自動化2次元電気泳動装置および装置を構成する器具ならびに2次元電気泳動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムプロジェクトが終了した後、プロテオーム研究が盛んに行われている。「プロテオーム」とは、特定の細胞、器官、臓器の中で翻訳生産されているタンパク質全体が意図され、その研究としてはタンパク質のプロファイリングなどが挙げられる。
【0003】
タンパク質をプロファイリングする手法の1つとして最も用いられているものが、タンパク質の2次元電気泳動である。タンパク質は、電荷および分子量の独特の性質を有しているので、多数のタンパク質の混合物であるプロテオームから電荷のみまたは分子量のみに依存して個々のタンパク質を分離するよりも、両者を組み合わせることにより、より多くのタンパク質を高分解能にて分離することができる。
【0004】
2次元電気泳動は、タンパク質を電荷に依存して分離する等電点電気泳動、および分子量に依存して分離するスラブゲル電気泳動(特に、SDS−PAGE)の2つの電気泳動ステップからなる。また、2次元電気泳動は、用いるサンプルを変性剤存在下または非存在下にて行うことも可能であり、数百種類以上のタンパク質を一度に分離し得る、優れた手法である(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照のこと)。
【特許文献1】特開平11−30605号公報(平成11年2月2日公開)
【非特許文献1】「より高感度・定量的な検出解析のための電気泳動最新プロトコール 汎用操作からゲノミクスとプロテオミクスまで対応!」(羊土社、2000年、55〜108頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2次元電気泳動では、サンプルを1次元目ゲルにて等電点電気泳動を行った後、1次元目ゲルを取り出して2次元目ゲルにアプライし、分子量に基づいて2次元目の分離を行う。通常、等電点電気泳動を行う1次元目ゲルは、その幅や長さに比べて非常に薄い形状を有している。よって、ゲルの表裏、pH勾配の方向の識別が困難であるだけでなく、反りや捩れが発生しやすく、形状を一定に保つことが困難である。このことは電気泳動結果の再現性が悪い要因となりやすい。さらに、1次元目ゲルの操作もまた容易ではなく、1次元目ゲルを2次元目ゲルまで移動する際の位置精度を向上させることは困難である。また、2次元目の分離にSDS−PAGEを用いる場合などは、1次元目の電気泳動終了後、1次元目ゲル中のタンパク質を2次元目に展開するために、平衡化(SDS化および還元)処理(薬液処理)を施す必要がある。1次元目ゲルにこのような処理を施す必要がある点も、作業者によるばらつきを生む原因となる。
【0006】
このように2次元電気泳動は優れた手法である一方で、熟練した技術を要する。作業者の熟練度に依存するので、2次元電気泳動を用いて再現性よく定量的なデータを取得することは困難である。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2次元電気泳動の利便性を高め、作業者依存度を低減し、結果の再現性を高めることにあり、具体的には、2次元電気泳動の自動化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るサンプル分離器具は、第1媒体中で第1方向に分離した分離サンプルを第1方向と異なる第2方向にさらに分離するための第2媒体を収納するための絶縁物を有するサンプル分離器具であって、該絶縁物は、第2媒体に通電する第2方向を規定する第1開口部および第2開口部を有し、第2開口部は、分離サンプルを含む第1媒体を第1方向に沿って第2媒体と接着させるための形状を有していることを特徴としている。
【0009】
第2開口部が上記形状を有していることにより、本発明に係るサンプル分離器具において、第1媒体中に含有される分離サンプルが首尾よく第2媒体中に移動することができ、優れた分離能を有する2次元電気泳動を行うことができる。また、上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具は、高電圧を負荷している最中であっても電圧負荷を停止することなく第1媒体を第2媒体に安全に接着させることができ、その後、必要に応じて第1媒体を除去することができる。
【0010】
本発明に係るサンプル分離器具において、分離サンプルを含む第1媒体を第1方向に沿って第2媒体と接着させるための形状を有している第3開口部が、第1開口部と第2開口部との間に設けられていてもよい。
【0011】
本発明に係るサンプル分離器具において、上記絶縁物は、2枚の板状絶縁体からなることが好ましい。
【0012】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具は、従来のスラブゲルと同様に取り扱うことができる。
【0013】
本発明に係るサンプル分離器具において、上記絶縁物は、2枚の板状絶縁体および該板状絶縁体の間に形成される第2媒体の厚さを規定するスペーサからなることが好ましい。
【0014】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具は、従来のスラブゲルと同様に取り扱うことができる。
【0015】
本発明に係るサンプル分離器具において、第2媒体の分離パラメータは第1媒体の分離パラメータと異なることが好ましい。
【0016】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具は、より高度なサンプル分離を行うことができる。
【0017】
本発明に係るサンプル分離器具において、上記絶縁物は第2媒体を収納していることが好ましい。
【0018】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具は、新たにゲルを作製する手間を省くことができる。
【0019】
本発明に係るサンプル分離器具は、第1開口部にて第2媒体と接触させる第1緩衝液を充填するための第1緩衝液槽および第2開口部にて第2媒体と接触させる第2緩衝液を充填するための第2緩衝液槽をさらに備えていることが好ましい。
【0020】
本発明に係るサンプル分離器具において、上記絶縁物、第1緩衝液槽および第2緩衝液槽は一体形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明に係るサンプル分離器具において、上記絶縁物を着脱可能に固定するための絶縁物受容部、第1緩衝液槽および第2緩衝液槽は一体形成されていることが好ましい。
【0022】
本発明に係るサンプル分離器具において、第2媒体に通電するための第1電極および第2電極は、それぞれ第1緩衝液槽および第2緩衝液槽に固定されていることが好ましい。
【0023】
本発明に係るサンプル分離装置において、第2媒体に通電するための第1電極および第2電極が、それぞれ第1緩衝液槽および第2緩衝液槽にパターニング形成された導電体からなることが好ましい。
【0024】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具を用いてより速やかにサンプル分離を実施することができる。
【0025】
本発明に係るサンプル分離器具は、第1方向へのサンプル分離を行った後の第1媒体を自動的に第1媒体供給口に密着させるための手段をさらに備えていることが好ましい。
【0026】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離器具では、第1媒体と第2媒体との接着をより密にすることができる。
【0027】
本発明に係るサンプル分離装置は、上記のサンプル分離器具が固定された固定手段を備えていることを特徴としている。
【0028】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置は、より安定した状態で種々の工程を進めていくことができる。
【0029】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記固定手段は、真空吸着機構、挟固定機構、磁力固定機構または静電吸着機構の少なくとも1つを備えていることが好ましい。
【0030】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置において、サンプル分離器具を着脱可能に固定することができる。
【0031】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1媒体を支持した第1媒体支持体を保持するための保持手段、ならびに第1方向および第2方向からなる平面に対して平行方向または垂直方向に該固定手段または該保持手段を移動するための駆動手段をさらに備えていることが好ましい。
【0032】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置において、処理工程を自動化することができる。
【0033】
本発明に係るサンプル分離装置は、第2媒体に電圧を印加するための第2媒体電圧印加手段をさらに備えていることが好ましい。
【0034】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1電極および第2電極と第2媒体電圧印加手段とを接続するための第2配線手段が備えられていることが好ましい。
【0035】
本発明に係るサンプル分離装置において、第1電極および第2電極が、前記保持手段によって保持され、前記駆動手段によってそれぞれ第1緩衝液槽および第2緩衝液槽へ配置されることが好ましい。
【0036】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置において、処理工程ならびに電極を交換および/または洗浄する工程を自動化することができる。
【0037】
本発明に係るサンプル分離装置において、サンプルを第1媒体中で第1方向に分離するための第1方向分離器具をさらに固定していることが好ましい。
【0038】
本発明に係るサンプル分離装置において、第1方向分離器具が、第1の分離を行うための第1分離槽を有していることが好ましい。
【0039】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置において2次元電気泳動を実施することができる。
【0040】
本発明に係るサンプル分離装置において、第1媒体に通電するための第3電極は、第1分離槽に固定されていることが好ましい。
【0041】
本発明に係るサンプル分離装置において、第3電極が、第1分離槽にパターニング形成された導電体からなることが好ましい。
【0042】
上記構成を採用することにより、第1方向分離器具を作製する際に同時に電極を設けることができる。
【0043】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1媒体に電圧を印加するための第1媒体電圧印加手段をさらに備えていることが好ましい。
【0044】
本発明に係るサンプル分離装置は、第3電極と第1媒体電圧印加手段とを接続するための第1配線手段が備えられていることが好ましい。
【0045】
本発明に係るサンプル分離装置において、第3電極が、前記保持手段によって保持され、前記駆動手段によって第1分離槽へ配置されることが好ましい。
【0046】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置における処理工程を自動化することができ、本発明に係るサンプル分離装置の電極を容易に交換および/または洗浄することができる。
【0047】
本発明に係るサンプル分離装置において、第1方向分離器具は複数の試薬槽をさらに有していることが好ましい。
【0048】
本発明に係るサンプル分離装置は、上記試薬槽に充填された試薬を封止するための剥離除去可能なシート状封止材が設けられていることが好ましい。
【0049】
本発明に係るサンプル分離装置は、上記シート状封止材を剥離または穿孔するためのシート剥離手段またはシート穿孔手段が前記保持手段に設けられていることが好ましい。
【0050】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記シート状封止材は、上記保持手段によって保持された1次元目分離媒体支持体からの押付外力により穿孔可能であることが好ましい。
【0051】
本発明に係るサンプル分離装置において、シート状封止材によって封止かつ分離された複数の試薬が、前記試薬槽の少なくとも1つに充填されており、該複数の試薬は、該シート状封止材が剥離または穿孔されることによって混合されることが好ましい。
【0052】
本発明に係るサンプル分離装置は、上記試薬槽内へ試薬を注入するための試薬注入手段をさらに備えていることが好ましい。
【0053】
本発明に係るサンプル分離装置は、上記固定手段を冷却するための冷却手段を備えていることが好ましい。
【0054】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1媒体および第2媒体の温度を制御するための温度制御手段をさらに備えていることが好ましい。
【0055】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記温度制御手段は、第2媒体または第2媒体と接触する緩衝液の温度を検出するための温度センサを備えていることが好ましい。
【0056】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記保持手段は第1媒体支持体を保持していることが好ましい。
【0057】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記保持手段は、第1媒体支持体を介して付与される外力の方向および/または強度を検出するための圧力センサを備えていることが好ましい。
【0058】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記保持手段は、第1媒体支持体を介して付与される外力を低減するための緩衝部材が設けられていることが好ましい。
【0059】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1方向分離器具および/または上記サンプル分離器具を上記固定手段の外部から搬送して該固定手段の固定位置に設置する自動搬入手段をさらに備えることが好ましい。
【0060】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1方向分離器具および/または上記サンプル分離器具を上記固定手段の固定位置から該固定手段の外部に搬送する自動搬出手段をさらに備えることが好ましい。
【0061】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1方向分離器具および/または上記サンプル分離器具あるいはこれらの近傍の温湿度を検出するための温湿度センサを備えていることが好ましい。
【0062】
本発明に係るサンプル分離装置は、第1方向分離器具および/または上記サンプル分離器具の結露を検出するための結露センサを備えていることが好ましい。
【0063】
本発明に係るサンプル分離装置は、上記固定手段、上記保持手段、上記駆動手段、上記第1媒体電圧印加手段、および上記第2媒体電圧印加手段を同期制御するための制御手段をさらに備えていることが好ましい。
【0064】
上記構成を採用することにより、本発明に係るサンプル分離装置を用いて自動化2次元電気泳動を実行することができる。
【0065】
本発明に係るサンプル分離装置において、上記固定手段、上記保持手段または上記駆動手段の少なくとも1つが、該固定手段または該保持手段の相対位置を検出するための位置センサを備えていることが好ましい。
【0066】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、
第1媒体を支持する第1媒体支持体を保持するための保持手段;
第1分離部と第2媒体を支持する第2分離部とを固定するための固定手段;
保持手段と固定手段の相対位置関係を略水平方向および略垂直方向へ移動させるための駆動手段;
第1媒体に電圧を印加するための第1媒体電圧印加手段;ならびに
第2媒体に電圧を印加するための第2媒体電圧印加手段
を備えていることを特徴としている。
【0067】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1媒体および第2媒体が分離ゲルであることが好ましい。
【0068】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、保持手段または固定手段は、真空吸着機構、挟固定機構、磁力固定機構または静電吸着機構の少なくとも1つを有していることが好ましい。
【0069】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、駆動手段は2軸駆動手段であることが好ましい。
【0070】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1媒体支持体は保持手段に保持されていることが好ましい。
【0071】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、保持手段は第1媒体支持体を介して加わる外力の方向および/または強度を検出するための圧力センサを含んでいることが好ましい。
【0072】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1媒体支持体は略板状の絶縁物であり、該絶縁物の端面に第1媒体が形成されていることが好ましい。
【0073】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1分離部および第2分離部が固定手段に固定されていることが好ましい。
【0074】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1分離部は第1試薬槽および第2試薬槽を備えていることが好ましい。
【0075】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1試薬槽および第2試薬槽に投入される試薬の液滴拡張範囲を規定するための液滴拡張規定手段をさらに備えていることが好ましい。
【0076】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1試薬槽および第2試薬槽に投入される試薬の第1および第2の試薬槽に対する接触角を規定するためのコーティングが該試薬槽内に設けられていることが好ましい。
【0077】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1試薬槽の1つに第3電極が設けられていることが好ましい。
【0078】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第3電極は、第1分離部の一部にパターニング形成された膜状の導電体を含んでいることが好ましい。
【0079】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、保持手段と一体で作動するように形成された、第1媒体電圧印加手段と第3電極とを接続する第1配線手段をさらに備えていることが好ましい。
【0080】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1分離部内に充填された試薬を封止するための剥離除去可能なシート状封止材が設けられていることが好ましい。
【0081】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、シート状封止材を剥離するためのシート剥離手段をさらに備えていることが好ましい。
【0082】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、シート剥離手段は駆動手段によって駆動されることが好ましい。
【0083】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、シート状封止材は、保持手段によって保持された第1媒体支持体からの押付外力により穿孔可能であることが好ましい。
【0084】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1試薬槽および第2試薬槽の1つは、シート状封止材によって封止かつ分離された複数の試薬が充填されている要時調製試薬槽であり、該複数の試薬は、シート状封止材が剥離または穿孔されることによって混合されることが好ましい。
【0085】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1試薬槽および第2試薬槽内へ試薬を注入するための試薬注入手段をさらに備えていることが好ましい。
【0086】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第2分離部は、第2媒体の形成領域および電気泳動緩衝液試薬の充填領域(第1緩衝液槽および第2緩衝液槽)を備え、第2分離部の基材とは異なる材料が少なくとも第2媒体の形成領域に組み込まれていることが好ましい。
【0087】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第2媒体の少なくとも1辺の端面が第2媒体上面方向にある第2分離部端面より突出していることが好ましい。
【0088】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第2分離部内に充填された媒体または試薬を封止するための剥離除去可能なシート状封止材が設けられていることが好ましい。
【0089】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1電極および第2電極は、第2分離部の一部にパターニング形成された膜状の導電体を含んでいることが好ましい。
【0090】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、保持手段と一体で作動するように形成された、第2媒体電圧印加手段と第1電極および第2電極とを接続する第2配線手段8をさらに備えていることが好ましい。
【0091】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1分離部または第2分離部を、固定手段の外部に配置された容器キャリアから固定手段の固定位置へ供給しかつ搬出するための容器自動交換手段をさらに備えていることが好ましい。
【0092】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1分離部および第2分離部は一体形成されていることが好ましい。
【0093】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1媒体または第2媒体を温度制御するための温度制御手段をさらに備えていることが好ましい。
【0094】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1媒体電圧印加手段または第2媒体電圧印加手段を実施するための印加電圧設定プログラムに基づいて、上記温度制御手段を実施するための温度制御設定プログラムが実行されることが好ましい。
【0095】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、上記温度制御手段は、第2分離部内の第2媒体または電気泳動緩衝液試薬の温度を検出するための温度センサをさらに備えていることが好ましい。
【0096】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、上記温度制御手段は、複数の温度制御領域からなることが好ましい。
【0097】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1分離部または第2分離部の近傍の温湿度を検出するための温湿度センサを備えていることが好ましい。
【0098】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1分離部または第2分離部の結露を検出するための結露センサを備えていることが好ましい。
【0099】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1媒体はリン脂質を含むことが好ましい。
【0100】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第2媒体はリン脂質を含むことが好ましい。
【0101】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、
保持手段により保持されかつ駆動手段により移動されて、第1分離槽に配置される第3電極、および
保持手段により保持されかつ駆動手段により移動されて、第2分離部の所定の場所に配置される第1電極および第2電極
がさらに備えられていることが好ましい。
【0102】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、保持手段、固定手段、駆動手段、第1媒体電圧印加手段、および第2媒体電圧印加手段を制御するための制御手段をさらに備えていることが好ましい。
【0103】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、保持手段、固定手段または駆動手段の少なくとも1つが、第1分離部または第2分離部との相対位置を検出するための位置センサを備えていることが好ましい。
【0104】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置は、第1媒体支持体の一部に領域分割スリットを挟んで形成されたサンプル導入体と、該サンプル導入体の領域幅に対応する領域に別槽となる試薬槽を形成した第1分離部とが、設けられていることが好ましい。
【0105】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1試薬槽および第2試薬槽へ投入される試薬は2次元目分離マーカーであることが好ましい。
【0106】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、サンプル導入体は第2の第1媒体であることが好ましい。
【0107】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、上記2次元目分離マーカーはカプセル形態であることが好ましい。
【0108】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、第1媒体支持体、第1分離部、第2分離部の少なくとも1つが識別手段を備えていることが好ましい。
【0109】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、上記識別手段はICタグであることが好ましい。
【0110】
本発明に係る自動化2次元電気泳動装置において、上記識別手段はバーコードであることが好ましい。
【0111】
本発明に係る2次元電気泳動方法は、
第1媒体支持体を保持手段で保持する支持体保持工程;
電気泳動サンプルおよび分離媒体膨潤液が充填された第1試薬槽内へ第1媒体を挿入するサンプル導入工程;
第1分離槽へ第1媒体を挿入し第1媒体電圧印加手段により電圧を印加する1次元目電気泳動工程;
複数の試薬が充填された第2試薬槽内へ順次第1媒体を挿入する試薬処理工程;
第2媒体に第1媒体を接続し第2媒体電圧印加手段により電圧を印加する2次元目電気泳動工程
を包含することを特徴としている。
【0112】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記サンプル導入工程は、第1媒体の微振盪動作による膨潤促進工程を含むことが好ましい。
【0113】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記微振盪動作は超音波印加であることが好ましい。
【0114】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記サンプル導入工程は、第1媒体の温度制御による膨潤促進工程を含むことが好ましい。
【0115】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記試薬処理工程は第1媒体を第1試薬槽および第2試薬槽内へ浸した状態で駆動手段を水平方向および/または垂直方向に微小変位往復移動されることによる第1媒体の振盪動作工程を含むことが好ましい。
【0116】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記試薬処理工程は液体除去工程を含むことが好ましい。
【0117】
本発明に係る2次元電気泳動方法は、濾紙を用いて上記液体除去工程を行うことが好ましい。
【0118】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記試薬処理工程は、
染色槽内へ第1媒体を浸し、第1媒体内の電気泳動サンプルを染色する染色工程;
洗浄槽内へ第1媒体を浸して未染色色素を洗浄除去する色素洗浄除去工程;
第2平衡化槽内へ第1媒体を浸し電気泳動サンプルを平衡化する平衡化工程
を含むことが好ましい。
【0119】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記試薬処理工程は、上記平衡化工程後に高粘張液槽内へ第1媒体を浸し、第1媒体の周囲に高粘張液を付与する高粘張液工程を含むことが好ましい。
【0120】
本発明に係る2次元電気泳動方法は、上記染色工程後でありかつ2次元目電気泳動工程前において、第1媒体を電気泳動緩衝液試薬槽に浸し、電圧印加手段により電圧を印加することにより未染色色素を泳動除去する色素泳動除去工程を含むことが好ましい。
【0121】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記色素泳動除去工程の電圧印加方向を印加途中で正負反転させることが好ましい。
【0122】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記色素泳動除去工程の電気泳動緩衝液試薬槽は、第2分離部内の第2緩衝液槽であり、上記電圧印加手段は、第2媒体電圧印加手段であることが好ましい。
【0123】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記色素泳動除去工程は上記平衡化工程の前に行われることが好ましい。
【0124】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記2次元目電気泳動工程は、第2媒体電圧印加手段により電圧を印加した状態で第2媒体に第1媒体を接続することが好ましい。
【0125】
本発明に係る2次元電気泳動方法において、上記2次元目電気泳動工程は、第2媒体電圧印加手段により電圧を印加した状態で第2媒体から第1媒体を取り除くことが好ましい。
【0126】
本発明に係る2次元電気泳動方法は、
2次元目電気泳動工程後に、保持手段により保持され駆動手段により移動される第3電極を、電極洗浄部に浸した状態で駆動手段を水平方向および/または垂直方向に微小変位往復移動させる第3電極振盪洗浄動作工程;
保持手段により保持され駆動手段により移動される2次元目電気泳動装置を、電極洗浄部に浸した状態で駆動手段を水平方向および/または垂直方向に微小変位往復移動させる第1電極および第2電極振盪洗浄動作工程
を包含することが好ましい。
【発明の効果】
【0127】
本発明を用いれば、作業開始時に複数のチップ(泳動槽)をセットして作動させるだけで2次元電気泳動の全工程を全自動にて行い得、しかも、分離性能を追求する上で種々のプロトコルの選定および/または導入を容易に行うことができる。また、本発明の構成に従えば、本発明を構成する部材をディスポーザブルな形態で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0128】
本発明に係るサンプル分離装置の一実施形態を、自動化2次元電気泳動装置100を例に挙げて説明する。
【0129】
図1(a)は自動化2次元電気泳動装置100の要部構成を示す斜視図である。図1(b)は、第1媒体15が第1媒体支持体16を介して保持手段3のアーム31に結合される構成を示す。図1(c)および(d)は、自動化2次元電気泳動装置100において用いられる第2分離部(サンプル分離器具)20の構成を示す断面図および上面図である。
【0130】
本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100は、サンプルの2次元目分離を行う第2分離部(サンプル分離器具)20を固定する固定手段1、1次元目の分離を行う第1媒体15を支持したゲル付支持体17を保持するアーム31を備えた保持手段3、固定手段1および/または保持手段3を移動して双方の相対位置を変更させる駆動手段4(41および42)を有している。
【0131】
自動化2次元電気泳動装置100では、第1分離部(示さず)にてサンプルは第1方向(図中Y方向)に分離され、次いで、第2分離部20の第2開口部26へ搬送されかつ接着された後に第2分離部20にて第2方向(図中X方向)に分離される。
【0132】
第2開口部26の形状について、図1(c)および(d)に示すように、第2緩衝液槽28bにおいて上部絶縁板22を貫く開口の幅は、対応する下部絶縁板21の溝幅より広い。この差分によって、第1媒体15と第2媒体24とを密着させ得、その結果、1次元目分離を終えた第1媒体15中のサンプルの2次元目分離を首尾よく行い得る。
【0133】
第2媒体24に分離サンプルを含む第1媒体15を接着させるために、第2媒体24を覆う絶縁物20aは第1媒体15と第2媒体24とを密着させる部位を有していなければならない。このような部位は第2開口部26であっても、第1開口部25と第2開口部26との間にさらなる開口部(第3開口部)26’が設けられてもよい。第1媒体供給口は、分離サンプルを含む第1媒体15を、第1方向と垂直な面で第2媒体24に接着させるに適切な大きさおよび形状を有している。
【0134】
第2分離部20が第2媒体24を内包している場合、第1媒体供給部において第1媒体15と第2媒体24とを密着させるために、第2開口部26から第2媒体24が突出していることが好ましく、密着度を増すためには突出した第2媒体部分に凹凸がないことがより好ましい。なお、第2開口部26から第2媒体24が突出していない場合は、第2開口部26に第1媒体15と第2媒体24とを密着させるための接着部材(図示せず)が設けられていればよい。好ましい接着部材としては、アガロース、低粘度(1〜3%程度)のアクリルアミドなどのゲル、グリセリン、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロースなどの高粘調液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
第1方向(図中Y方向)への分離と第2方向(図中X方向)への分離を規定するパラメータは同じであってもよいが、分離性能を向上させるためにはそれぞれ異なることが好ましい。これら2方向への分離を規定するパラメータとしては、タンパク質の等電点、分子量、単位サイズあたりの表面電荷(ゾーン電気泳動)、ミセルへの分配係数(ミセル動電クロマトグラフィー)、固定相−移動相への分配係数(電気クロマトグラフィー)、相互作用物質との親和定数(親和結合電気泳動)などが挙げられるが、通常の2次元電気泳動では、第1方向への分離が等電点に基づいて、第2方向への分離が分子量に基づいて行われる。
【0136】
図1(a)に示すように、自動化2次元電気泳動装置100においては、駆動手段4は垂直方向用駆動手段41および平行方向用駆動手段42からなり、具体的には、保持手段3(支持アーム31)は垂直方向用駆動手段41の凹部(保持手段連結部)41’を介して垂直方向用駆動手段41によってZ軸方向へ移動可能に保持されている。また、垂直方向用駆動手段41は、平行方向用駆動手段42の凹部(Z軸ステージ連結部)42’を介して平行方向用駆動手段42によってX軸方向へ移動可能に保持されている。よって、固定手段1および/または保持手段3を、第1方向および第2方向からなる平面に対して、垂直方向用駆動手段41によって垂直方向に、平行方向用駆動手段42によって平行方向に移動し得る。
【0137】
用語「サンプル」は当該分野において標本、調製物と同義で用いられ、本明細書中で使用される場合、「生物学的サンプル」またはその等価物が意図される。「生物学的サンプル」は、供給源としての生物材料(例えば、個体、体液、細胞株、組織培養物もしくは組織切片)から得られる、任意の調製物が意図される。生物学的サンプルとしては、体液(例えば、血液、唾液、歯垢、血清、血漿、尿、滑液、および随液)および組織供給源が挙げられる。好ましい生物学的サンプルは、被験体サンプルである。好ましい被験体サンプルは、被験体から得た皮膚病変部、喀痰、咽頭粘液、鼻腔粘液、膿、または分泌物である。本明細書中で使用される場合、用語「組織サンプル」は、組織供給源より得られた生物学的サンプルが意図される。哺乳動物から組織生検および体液を得るための方法は当該分野で周知である。本明細書中で使用される場合、用語「サンプル」としては、上記生物学的サンプルおよび上記組織サンプル以外に、上記生物学的サンプルおよび上記組織サンプルより抽出したタンパク質サンプル、ゲノムDNAサンプルおよび/または総RNAサンプルも挙げられる。
【0138】
2次元電気泳動について、1次元目をゲル等電点電気泳動にて、2次元目をSDS−PAGEにて行う場合を例に挙げて以下に説明するが、本発明はこの態様に限定されない。
【0139】
自動化2次元電気泳動装置100には、全工程を自動化するために、第1媒体電圧印加手段5および第2媒体電圧印加手段6をそれぞれ第1分離部10および第2分離部20と接続するための配線手段7・8が備えられており、配線手段7はその先端にて第1分離槽11d内に設けられる第3電極14(1対の陽極および陰極)を、配線手段8はその先端にて第1緩衝液槽28a内および第2緩衝液槽28b内にそれぞれ設けられる第1電極29aおよび第2電極29bを有している(図2を参照のこと)。
【0140】
また、電気泳動は高電圧下にて行われるので、サンプルの分離中には第1分離部10および第2分離部20は高温になる。よって自動化2次元電気泳動装置100には、第1分離部10および第2分離部20ならびにこれらを固定する固定手段1を冷却するための冷却手段9(例えば、放熱手段60)が固定手段1直下に設けられている。特に、自動化2次元電気泳動装置100は、放熱フィン61や放熱ファン62からなる放熱手段60と冷却ペルチェ素子63とを有するペルチェ冷却制御機構(図11(a)を参照のこと)を採用することにより、電気泳動時の第1分離部10および第2分離部20の温度を一定に保つことができる。図11(a)は、微小穴に熱電対を差し込んで設けた温度センサ51にて固定手段1の表面近傍の温度をモニタリングする構成を示している。また、固定手段1の直下に冷却手段9を設けない場合は、図11(b)に示すように、ペルチェ素子63発熱面の放熱を、ヒートパイプ64を通して熱移動させて放熱手段60にて放熱させる構成例を示している。このような構成を用いれば、放熱手段60の配置自由度が上がるとともに、上方へ移動する高温空気などの流れを妨げない効果的な放熱フィンや空冷ファンの配置が可能となる。また、循環冷却水を用いる水冷パイプをヒートパイプの代わりに用いてもよい。冷却手段9は、第1分離部10および第2分離部20を同じ温度に保つように制御してもよいし、別々の温度に保つようにしてもよい。また、第1分離部10および/または第2分離部20内の温度を均一ではなく場所ごとに異なる温度となるよう制御してもよい。
【0141】
図2は、本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100の固定手段1およびその周辺に配置されている部材の断面図を示す。図2において左方から右方に向けて2次元電気泳動が実行される。
【0142】
本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100の固定手段1上には、サンプルの1次元目分離を行う第1分離部10とサンプルの2次元目分離を行う第2分離部(サンプル分離器具)20とが真空吸着によって固定されている。第1分離部10には複数の槽が設けられており、そのうちの1つには電極(第3電極)14が設けられている。第2分離部20には2つの槽(第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28b)が設けられており、それぞれに電極(第1電極29aおよび第2電極29b)が設けられている。
【0143】
図1(b)に示したように、1次元目分離に用いる第1媒体(等電点電気泳動用ゲル)15が第1媒体支持体16と接着しゲル付支持体17を形成している。市販されている第1媒体の裏面には約0.2mm厚の透明樹脂シートが付着しているので、接着剤を用いてこのシート部分と第1媒体支持体16とを接着すればよい。なお、接着材は当該分野において公知のものを使用すればよいが、第1媒体15を第1媒体支持体16と接着させた状態で使用時まで低温(−20℃)で保存することが好ましいので、低温保存に適した接着剤を用いることが好ましい。また、このような温度特性は、第1媒体支持体16についても同様である。第1媒体支持体16は本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100の保持手段3(図示せず)の一部であるアーム31によって保持される。アーム31は本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100の駆動手段4によって、図中に示すようにX方向および/またはZ方向に移動可能である。
【0144】
アーム31は真空吸着によってゲル付支持体17を結合した後、駆動手段4によって図2中の矢印2の方向へ移動される。第1媒体15はゲル付支持体17が駆動手段4によって移動されることにより、第1分離部10に設けられた各槽において所望の処理が施され、引き続き第2分離部20へ搬送される。
【0145】
なお、駆動手段4によるアーム31の移動は、以下のように行われる。平行方向用駆動手段42がアーム31を垂直方向用駆動手段41とともに第1媒体配置槽11aの所望のX位置まで駆動し、次いで駆動手段41がアーム31を所望のZ位置まで下降させる。続いて、第1媒体配置槽11aに配置したゲル付支持体17を、制御手段によりアーム31への吸着を制御することにより、駆動手段4により第1媒体15を移動させることが可能になる。アーム31への吸着の制御は、例えば電磁弁を用いれば自動制御され得る。
【0146】
第1媒体15は、その幅や長さに比べて非常に薄い形状を有している。よって、ゲルの表裏、pH勾配の方向の識別が困難であるだけでなく、反りや捩れが発生しやすく、形状を一定に保つことが困難である。このことは電気泳動結果の再現性が悪い要因となり得る。さらに、電気泳動の各工程での第1媒体15の操作もまた容易ではないので、第1媒体15を移動する際の位置精度を向上させることは困難である。このような不具合を克服して第1媒体15を自動装置にて安定的に保持しかつ操作するために、本発明者らは、第1媒体15を第1媒体支持体16に固定して用いた。
【0147】
図2中の第1分離部10および第2分離部20の構成を、図3および図4により詳細に示す。図3は、サンプルの1次元目分離を行う第1分離部10とサンプルの2次元目分離を行う第2分離部20とが固定された固定手段1の断面図を示し、図4は、その上面図を示す。
【0148】
図3に示すように、本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100の固定手段1上には、サンプルの1次元目分離を行う第1分離部10とサンプルの2次元目分離を行う第2分離部20とが固定されている。第1分離部10には複数の試薬槽11(11a〜11d)および12(12a〜12d)が設けられており、第2分離部20には2つの槽(第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28b)が設けられている。なお、図9において、第1分離部10には4つの槽からなる試薬槽11および7つの槽からなる試薬槽12を用いているが、図2〜6では、要部構成の説明を簡略化するために、第1分離部10が4つの槽からなる試薬槽11および4つの槽からなる試薬槽12を有する構成を用いている。
【0149】
第1分離部10では、サンプルを第1媒体15に導入する工程、第1媒体15を膨潤させる工程、第1媒体15に電圧を印加してサンプルを第1方向に分離する工程、第1媒体15中の分離サンプルを染色する工程、第2分離部20での環境に平衡化する工程が行われる。第1分離部10は、第1媒体15をこのように処理するに好ましい形状を有している。第1媒体15へのサンプルの添加と第1媒体の膨潤とを別々に行うことにより、膨潤速度を向上させることができる。
【0150】
また上記染色工程は、従来通りサンプルの第1方向分離前または第2方向分離後に行われてもよいが、染色操作が煩雑でありかつ時間を要し、自動化を試みることが非常に困難であるので、第1方向へのサンプル分離後でありかつ第2方向へのサンプル分離の前に染色を行われるサンプル中のタンパク質(またはDNA)と蛍光物質とを結合させることが好ましい。サンプル中のタンパク質(またはDNA)と蛍光物質との結合様式としては、共有結合、イオン結合、配位結合、インターカレートなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0151】
第1分離部10は、単一の絶縁体に溝(試薬槽)11・12が設けられた構成を有している。第1試薬槽11は、1次元目分離を行うまでの工程に必要な試薬を格納するためのものであり、第2試薬槽12は、1次元目分離後で2次元目分離前に必要な試薬を格納するためのものである。具体的には、第1試薬槽11は、第1媒体配置槽11a、サンプル槽11b、膨潤槽11c、第1分離槽11dからなり、サンプル槽11bはサンプル導入部13を有している。第2試薬槽12は、第1平衡化槽12a、染色槽12b、洗浄槽12c、第2平衡化槽12dからなる。第1分離槽11dは、第1媒体15での1次元目分離が行われる部位であり、1次元目分離に必要な緩衝液を充填される。ただし、膨潤槽11c内に格納される試薬が1次元目分離に必要な緩衝液を含む場合は、第1分離槽11d内に1次元目分離に必要な緩衝液を充填しなくてもよい。第1分離槽11dでは、第1媒体電圧印加手段5により電圧を印加されることにより、第1媒体15中のサンプルが分離される。第1平衡化槽12aは、第1方向分離に用いた緩衝液を置換させて、第1方向分離後に行う染色の効率を上げるための緩衝液を格納するために設けられることが好ましい。洗浄槽12cは、蛍光色素を格納した染色槽12bにて付着した過剰な蛍光色素を洗浄する緩衝液を格納するために設けられることが好ましい。第2平衡化槽12dは、第2方向分離を行うために好ましい試薬が格納されており、例えば、第1媒体15中のタンパク質を還元する試薬、該タンパク質をSDS化する試薬が格納されている。また、第2方向分離の方法に応じて、緩衝液、界面活性剤、酵素、相互作用物質などが格納されてもよい。
【0152】
第2媒体24において、第1媒体15中で第1方向に分離した分離サンプルが、第1方向と異なる第2方向にさらに分離される。この第2方向へのサンプル分離を実行するために、第2分離部20では、第1方向に分離したサンプルを含む第1媒体15を第2媒体24に密着させる工程;第2媒体24に電圧を印加してサンプルを第2方向に分離する工程が行われる。自動化2次元電気泳動装置100においては、第2方向への分離中のサンプルを検出する工程もまた行われる。
【0153】
第2分離部20は、下部絶縁板21と上部絶縁板22とを重ね合わせた絶縁部20aに、上部絶縁部22を貫いて下部絶縁部に設けられた2つの溝(第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28b)を有している。また、下部絶縁板21には、上部絶縁板22との間に第2媒体24を覆いかつ収納するための溝(第2媒体収納部)24’が設けられている。第2媒体収納部24’に収納された第2媒体24(図示せず)は下部絶縁板21および上部絶縁板22からなる絶縁部20aに覆われ、第1開口部25および第2開口部26において絶縁部20aの外部と接触可能である。
【0154】
第1開口部25および第2開口部26は、第2分離部20に設けられた第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bにそれぞれ面している。第2方向へのサンプル分離を実行するために、第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bには、第2媒体収納部24’に収納された第2媒体24と第1開口部25および第2開口部26を介して接する第1緩衝液および第2緩衝液がそれぞれ充填される。第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bには第1電極29aおよび第2電極29bが設けられており、第1電極29aおよび第2電極29bを介して第2媒体電圧印加手段6によって第2媒体24に電圧が印加されると、第1開口部25から第2開口部26に向かって電流が流れるとともにサンプルが第2開口部26から第1開口部25に向かって展開/分離される。
【0155】
自動化2次元電気泳動装置100は、第1媒体支持体16を介して付与される外力を低減するための緩衝部材(図6△部)を備えるとともに、自動化2次元電気泳動装置100は、2次元電気泳動に必要なサンプル、試薬、分離媒体を所定の位置にセットした後に、上述した各手段を適切に制御しかつ全工程を自動にて実行させるための制御手段50を有している。第2媒体24または第2媒体と接触する緩衝液の温度を検出するための温度センサ(図3▲部)、第1媒体支持体16を介して付与される外力の方向および/または強度を検出するための圧力センサ(図6▲部)、第1媒体15および第2媒体24の温度を制御するための温度制御手段、第1分離部10および/または第2分離部20あるいはこれらの近傍の温湿度を検出するための温湿度センサ52、第1分離部10および/または第2分離部20の結露を検出するための結露センサ53、固定手段1または保持手段3の相対位置を検出するための位置センサ54などからの情報を制御手段50に入力して、制御手段50は、自動化を首尾よく行うために、固定手段1、保持手段3(アーム31)、駆動手段4、第1媒体電圧印加手段5、第2媒体電圧印加手段6、第1配線手段7、第2配線手段8、冷却手段9の制御信号を出力する(図8を参照のこと)。本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100が有する制御手段は、好ましくは、種々の言語を用いて作製されかつROMおよび/またはRAMなどの記録媒体に格納されたプログラムコードを実行するCPUなどの演算手段であり得る。
【0156】
制御を開始することにより駆動手段4が保持手段3を移動(搬送)する。ゲル付支持体17は、保持手段3の一部であるアーム31に保持されているので、第1媒体15を固定化したゲル付支持体17は、制御手段により駆動される駆動手段4によって間接的に移動(搬送)されて所望の処理を以下のように施される。
【0157】
第1媒体配置槽11aに配置されたゲル付支持体17がサンプル槽11bまで搬送される。サンプルが第1媒体15に吸収されるまでゲル付支持体17はサンプル槽11b内に維持されている。サンプル吸収に必要な時間は、制御手段の格納部に記録されている。次いで、ゲル付支持体17は、膨潤槽11cまで搬送され、第1媒体15が膨潤するまで膨潤槽11c内に維持され、必要に応じて微小振盪される。第1媒体15が膨潤するに必要な時間および微小振盪動作に関する情報もまた、制御手段の格納部に記録されている。ゲル付支持体17上で膨潤した第1媒体15は第1分離槽11dまで搬送され、第1分離槽11d内の第3電極14間に配置される。ここで、第1媒体電圧印加手段5によって第1媒体15に電圧が印加されて、サンプルが第1媒体15中にて第1方向に分離される。サンプル分離に必要な時間および必要な電圧に関する情報もまた、制御手段の格納部に記録されている。上述した各情報は、制御手段の格納部に記録されたプログラムによって、用いる第1媒体15の種類、サンプルの種類、各試薬の種類に従って適宜選定かつ実行される。
【0158】
第1媒体15中にて第1方向への分離が終了した後、第1媒体15は、第1平衡化槽12aまで搬送され、必要に応じて微小振盪されることにより、引き続く染色が首尾よく行われるように平衡化される。次いで、平衡化後の第1媒体15は染色槽12bまで搬送され、必要に応じて微小振盪されて、第1媒体15中のサンプルが染色される。染色後の第1媒体15は洗浄槽12cまで搬送され、微小振盪されることにより過剰な色素が適宜洗浄される。次いで、脱色後の第1媒体15は、第2媒体中での第2方向への分離を首尾よく行うために、第2平衡化槽12dまで搬送され、必要に応じて微小振盪されることにより、引き続く第2媒体中での第2方向への分離が首尾よく行われるように平衡化される。平衡化後の第1媒体15は第2媒体24の第1媒体供給部26まで搬送され、第2媒体24に密着される。
【0159】
第1媒体15が第2媒体24に密着された後に第2媒体電圧印加手段6によって第2媒体24に電圧が印加されることにより、サンプルが第2媒体24中にて第2方向に分離される。リアルタイムモニタリングを行う場合は、この第2方向への分離中に検出手段(図示せず)を介して行えばよい。なお、試薬槽12a〜12dおよび第2媒体24での分離において必要な時間などの情報もまた、制御手段の格納部に記録されている。上述した各情報は、制御手段の格納部に記録されたプログラムによって、用いる第1媒体15および第2媒体24の種類、サンプルの種類、各試薬の種類に従って適宜選定かつ実行される。
【0160】
このように自動化2次元電気泳動装置100において、制御手段による上述したような制御が実行されることにより、2次元電気泳動の工程を全自動にて行い得る。また、自動化2次元電気泳動装置100が、上述したような制御が実行する制御手段を有することにより、種々のプロトコルの選定および/または導入を容易に行って、サンプル分離性能を追求することができる。また、2次元電気泳動の電圧印加プログラムをコンピュータにてフィードバック制御するための2次元用高電圧印加制御システムを導入し、自動ステージと連携して制御することができる。
【0161】
なお、第2媒体24を第2媒体収納部24’にて作製しても、別途作製した第2媒体24を移動して第2媒体収納部24’に固定してもよい。第2分離部20にて第2媒体24を作製しない場合は、第2媒体収納部24’は溝である必要はなく、その場合、第2媒体24の厚みと等しいスペーサ(示さず)を下部絶縁板21の第2媒体24を固定する部位を囲むように配置し、スペーサを介して下部絶縁板21と上部絶縁板22とを接着すればよい。
【0162】
第1開口部25および第2開口部26においてのみ第2媒体24が緩衝液と接していることが好ましいので、第2媒体24を覆う絶縁物20aは防水性が高い物質からなることが好ましい。また、リアルタイムモニタリングなどのように第2媒体24を絶縁物20aから取り外すことなくサンプルを検出するためには、絶縁物20aは光透過性の高い物質からなることが好ましい。このような特性を兼ね備えた物質としては、ガラス、樹脂が挙げられ、樹脂材料としてはPMMA、PDMS、COP、ポリカーボネート、ポリスチレン、PET、塩ビなどが挙げられ、重量や操作性、生産性の観点からアクリル樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)など)が好ましい。
【0163】
自動化2次元電気泳動装置100においては、ゲル付支持体17が順次移動されながら、種々の工程が実行される。よって、ゲル付支持体17の3次元での位置精度が重要である。この場合、ゲル付支持体17が堅固に固定されるだけでなく、相対的に移動する第1分離部10および第2分離部20もまた堅固に固定される必要がある。
【0164】
第1分離部10、第2分離部20およびゲル付支持体17を、サンプルごとに交換して用いることを考慮すると、これらの固定化は着脱可能であることが好ましい。第1分離部10、第2分離部20およびゲル付支持体17を、固定手段1および保持手段3に固定するための機構としては、上述したような真空吸着機構以外に、挟固定機構、磁力固定機構および静電吸着機構が挙げられるが、これらに限定されない。また、真空吸着機構を採用する場合は、真空吸着プレートを介して固定することが好ましい。
【0165】
なお、第1分離部10および第2分離部20を透明なPMMAで作製する場合、サンプルの蛍光検出の際に励起光が第1分離部10および第2分離部20の下のステージ(固定手段)1にまで照射される。ステージ(固定手段)1に凹凸がある場合は励起光および/または蛍光波長が不均一に反射することにより検出時のバックグラウンドが上がり、首尾よい検出が妨げられてしまう。よって、真空吸着プレートは、反射の少ない色調であること、凹凸のない平面に処理してあること、真空吸着のために設ける吸引穴を第2分離部20の検出部直下以外の部位に設けることが好ましい。
【0166】
第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bにそれぞれ設けられる第1電極29aおよび第2電極29b、ならびに第1分離槽11dに設けられる第3電極14は、固定されていてもされていなくてもよい。固定されている場合は、電極28a、28bおよび14は、それぞれ各槽28a、28bおよび14にパターニング形成された導電体であってもよい。また、電極の搬送/着脱を自動化にて行う場合は、図5に示すように、アーム31が電極29a、29bおよび14をそれぞれ槽28a、28bおよび11dに搬送し、各槽に設けられた電極固定部(図示せず)に着脱し得る。また、電極29a、29bおよび14をそれぞれ第1緩衝液槽28a、第2緩衝液槽28b、第1分離槽11dに固定せず、充填された緩衝液に浸す形態であってもよい。電極29a、29bおよび14を搬送可能な形態で用いる場合は、図5に示すように、電極洗浄槽40を設けることにより各電極を首尾よく洗浄し得る。なお、電極洗浄槽40の設置部位は図5に示す部位に限られず、第1分離部10の任意の部位に設けられ得る。
【0167】
上述したように、第1分離部10は複数の槽(試薬槽)11・12を有する。この複数の試薬槽は、第1媒体15におけるサンプル分離に必要な試薬、および分離後の第1媒体15(または第1媒体15中のサンプル)の染色に必要な試薬を充填することが好ましいが、充填される試薬は必要に応じて適宜選択され得る。また、複数の試薬槽11・12の数は、必要な処理工程に応じて増減させればよい。
【0168】
特定の実施形態において、複数の試薬槽11・12は、充填された試薬を封止するための剥離除去可能なシート状封止材が設けられている(図6を参照のこと)。シート状封止材を設けることにより、内包する試薬の飛散を避けることができ、かつ試薬を内包した第1分離部10を容易に保存することができる。
【0169】
1つの局面において、シート状封止材は、自動化2次元電気泳動装置100が備えているシート剥離手段(図示せず)によって剥離除去され得る。シート剥離手段は駆動手段4によって駆動されることが好ましい。この場合、シート状封止材を設けたまま第1分離部10を自動化2次元電気泳動装置100に設置しても、制御手段の制御下にて首尾よく剥離除去され得る。なお、図6では、保持手段3のアーム31がシート剥離手段である形態を示している。
【0170】
別の局面において、シート状封止材は、ゲル付支持体17からの押付外力によって穿孔可能であり得る。また、穿孔を容易にするために第1媒体支持体16は穿孔用補助具を備えていてもよい。この場合、上記シート剥離手段のようなさらなる手段を設けることなく第1分離部におけるゲル付支持体17の通常の動作によってシート状封止材を穿孔し得る。
【0171】
さらなる実施形態において、第1分離部10は、要時調整試薬槽を有し、この要時調整試薬槽は、シート状封止材によって複数の試薬を内包する単一の試薬槽内であり、シート状封止材が剥離除去または穿孔された際に、複数の試薬が混合される。自動化2次元電気泳動装置100が実行する工程において、予め調整することができずに要時調整の必要がある試薬が使用される場合であっても、本実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置100を用いれば、煩雑な作業を回避し得る。
【0172】
上述したような試薬槽11・12を有する第1分離部10を備えた自動化2次元電気泳動装置100は、試薬槽11・12に試薬を注入するための試薬注入手段(示さず)を備えていることを特徴とすることがなお好ましい。この試薬注入手段は、保持手段および駆動手段と連動して動作する形態であることが好ましい。
【0173】
なお、第2分離部20において、絶縁物20a、第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bが一体形成されている態様を用いて本発明を説明してきたが、これらは別々に構成されていてもよい。
【0174】
第2分離部20の別の実施形態において、図7に示すように、第2分離部20は、第2媒体24を収納する第2媒体収納部24’を挟んで下部絶縁板21および上部絶縁板22から形成される絶縁物20aと、絶縁物20aを受容する絶縁物受容部27、第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bを有する泳動槽30とからなる。絶縁物20aにおいて、下部絶縁板21および上部絶縁板22は、それぞれ第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bにおいて第2媒体24が緩衝液と接するための第1開口部25および第2開口部26を有している。泳動槽30において、絶縁物受容部27は、絶縁物20a(特に下部絶縁板21)を隙間なく受容し得る平面を有している。
【0175】
本実施形態において、絶縁物20aおよび泳動槽30を構成する材料はそれぞれ同一であっても別であってもよい。泳動槽30は、緩衝液が充填されるという観点から防水性が高い物質からなることが好ましい。絶縁物20aと泳動槽30は固定されることが好ましいが真空吸着機構、挟固定機構、磁力固定機構および静電吸着機構等により着脱可能であることがより好ましい。さらに、泳動槽30は、絶縁物受容部27、第1緩衝液槽28aおよび第2緩衝液槽28bが別々に設けられてもよく、この場合、充填された緩衝液が漏出することなく第1開口部25および第2開口部26に供給されるように密着し得る形態を有していればよいので、真空吸着機構、挟固定機構、磁力固定機構および静電吸着機構等を採用することができる。
【0176】
上述したように、本発明に係る自動化2次元電気泳動装置100は、第2媒体または第2媒体と接触する緩衝液の温度を検出するための温度センサ(図3▲部)、第1媒体支持体を介して付与される外力の方向および/または強度を検出するための圧力センサ(図6▲部)、第1媒体および第2媒体の温度を制御するための温度制御手段、第1分離部および/または第2分離部あるいはこれらの近傍の温湿度を検出するための温湿度センサ52、第1分離部および/または第2分離部の結露を検出するための結露センサ53、該固定手段または該保持手段の相対位置を検出するための位置センサ54などを備える。これらのセンサからの情報が制御手段50に入力されて、制御手段50は、自動化を首尾よく行うために、固定手段1、保持手段3(アーム31)、駆動手段4、第1媒体電圧印加手段5、第2媒体電圧印加手段6、第1配線手段7、第2配線手段8、冷却手段9の制御信号を出力し、さらに高度な自動化が行われ得る。
【0177】
温度センサは、熱電対、白金測温抵抗体、サーミスタ等を用いればよく、温度制御対象物の温度を正確に測定し得る場所に配置することが好ましい。簡単には、アルミニウム、銅、その他の熱伝導性に優れた物質により形成された冷却プレート(または固定手段1)に穴を設け、その穴に温度センサを挿入して固定すればよい(図11を参照のこと)。あるいは、冷却プレートに温度センサを貼り付けて配置してもよい。なお、図2では固定手段1の裏面に熱電対が貼り付けられている。または、第2分離部20全体の温度を測定し得る位置に配置した赤外線反射を用いた温度測定器を使用してもよい。また、例えば、温度センサ配置動作を電極配置動作と同時に行って、動作工程を複雑化することなくゲル(第1媒体15または第2媒体24)または泳動用緩衝液に温度センサを直接接触させる構成をとることにより、より正確な温度モニタリングおよびその制御が可能となる。さらに、特に2次元目分離において電気泳動の進行状況に応じてゲル(第2媒体24)中での最大発熱位置が移動していくので、温度制御の基本単位を第2方向に複数分割して各々独立して温度制御を行えば常にゲル(第2媒体24)全域を均一な温度に維持し得る。
【0178】
温湿度センサは、溶液チップ(第1分離部10)と2Dチップ(第2分離部20)を配置した筐体内部の空間の温湿度を測定するために配置される。温湿度センサは、空間の空気温度を検出するための温度センサと湿度センサとを組み合わせたものでもよく、また簡略化のためには上記の冷却プレートの温度センサと湿度センサとを組み合わせたものでもよい。あるいは冷却プレートに取付けた結露センサによって湿度状況が判断され得る。溶液チップ(第1分離部10)と2Dチップ(第2分離部20)とを配置した装置筐体内部の空間は、装置の分離性能と再現性確保のために、内部カバー等を用いて可能な限り閉鎖空間とされるべきであり、恒温恒湿状態が維持されるとともに、必要に応じて温度または湿度の情報に基づいて電気泳動時間および/または電気泳動電圧印加プログラムが微調整されてもよい。
【0179】
本発明に係る2次元電気泳動装置100において、完全な自動化を行うためには種々の問題点が存在するが、その対処法の一例を以下に詳述する。
【0180】
アーム31はプログラムに記載された情報(固定駆動位置)に基づいて駆動を行うため、アーム31により保持したゲル付支持体17をサンプル槽11bへ搬送してサンプル導入を行う際、サンプルの液量が少ないので、垂直方向駆動手段41により第1媒体15をサンプル槽11bの底部まで正確に移動させるためには、装置を構成する器具(例えば、第1媒体支持体16、第1媒体15の裏面に備えられたフィルム、および第1媒体15と第1媒体支持体16とを接着させる接着剤など)の材料のばらつきおよび第1媒体15の厚さを考慮する必要がある。このような場合、例えば、アーム31の駆動位置を固定とせず、アーム31に設けられた圧力センサから第1媒体15が底部に到達したか否かの情報を用いることにより、アーム31の駆動位置を自動制御することができる。サンプル槽11bの底部の位置情報を圧力センサからの信号により取得し、フィードバック制御することにより、サンプル槽11bの底部まで第1媒体15を搬送することができるので、ゲル付支持体17の厚みばらつきに対応可能となる。以降の工程における垂直方向駆動位置は、サンプル槽11b搬送時の底部の位置情報からゲル付支持体17の厚みを算出し得るので、このゲル付支持体17の厚みの情報に基づいて駆動を行えばよい。2次元電気泳動装置100に圧力センサを設けない、より簡易な構成の場合には、2次元電気泳動を始める前に第1媒体配置槽11aにゲル付支持体17の第1媒体15が底部に接するように配置されているため、この情報を利用することが可能である。すなわち、上記材料(ゲル付支持体17の厚み)のばらつきを考慮し、第1媒体配置槽11aに配置されたゲル付支持体17を吸着可能な位置を固定駆動位置とすることで上記材料(ゲル付支持体17の厚み)のばらつきに対処し、サンプル槽11bの底部まで第1媒体15を駆動することができる。なお、膨潤槽11c以降における垂直方向の移動についても、上記方式および第1分離部10の各槽の深さの情報に基づけば、固定駆動位置として自動制御可能となる。上記吸着位置および各槽の深さ情報を基準に設定しておけば、上記材料ばらつきに対処可能である。アーム31とゲル付支持体17が所定の垂直方向位置にぴったりと吸着するのではなく、少し余裕を持たせる。すなわち、材料ばらつきに起因するゲル付支持体17の想定され得る最小厚と最大厚の範囲が過大であってもゲル付支持体17の何れかの部位でアームに吸着可能な構成としておく(図12(a)、(b)を参照のこと)。
【0181】
また、膨潤槽11cにおいて第1媒体15が膨潤するにつれて、第1媒体15の重量(厚み)が時間とともに増加する。用いる第1媒体15によって膨潤後の第1媒体15の厚みは変動し得るが、第1媒体15の種類に応じて予め時間−膨潤特性を測定しておけば、膨潤時間に応じて垂直方向を首尾よく制御し得る。あるいは、膨潤槽11cに充填する膨潤液量を予め多くし、膨潤後のゲル下端が膨潤槽11cの底部よりも上方になるよう垂直方向駆動位置を設定しておけばよい。第1媒体15に吸収された膨潤液のみが第1分離槽11dに搬送されるため、第1分離槽11dにおいて電圧印加により過度の電流が流れることはなく、過剰の膨潤液を用いることによる不具合は生じない。この手法に従えば、第1媒体15の膨潤後の厚みにばらつきが生じても首尾よく対処し得る。
【0182】
またさらに、第1分離槽11dでの第1方向分離の際、第1媒体15と第3電極14とを確実に密着させる必要がある。上述したように膨潤後の第1媒体15の厚みにはばらつきがある。対処法として、電極との接触を確認するための圧力センサを設け、垂直方向駆動位置をフィードバック制御する。圧力センサを用いない場合はゲル付支持体17を第1分離槽11dへ搬送した後に一旦吸引を開放してアーム31からゲル付支持体17を切り離すことにより、重力によって下降する第1媒体15が第3電極14に確実に密着する。第1分離終了後、ゲル付支持体17を再度アーム31により保持させ、以降の工程に用いることができる。上述の例と同様に、アーム31とゲル付支持体17が所定の位置にぴったりと吸着するのではなく、少し余裕を持たせる構成としておく。つまり、第1分離前後でゲル付支持体17のZ位置(垂直方向位置)が変化しても、図12中のアーム−支持体結合部32はゲル付支持体17の何れの部位とでも吸着できる構成としておく(図12(a)、(b)を参照のこと)。第1分離後の工程において、垂直方向駆動に精度はそれ程必要とされないため、第1分離時の垂直方向駆動位置情報は、以降の工程に必須ではない。ここで、アーム−支持体結合部32でのゲル付支持体17とアーム31との着脱は真空吸引の開閉に電磁弁を用いることが好ましい。あるいは、第3電極14間に予め微小電圧を印加し、その状態でゲル付支持体17を保持したアーム31を下降させる。この際、電流値をモニタリングすることにより第1媒体15と第3電極14との接着を検出することができるので、電流値をもとに垂直駆動位置をフィードバック制御可能となり、第1媒体15が第3電極14に確実に密着されることができる。あるいは、第1媒体15の厚みの最小値を基準にゲル付支持体17を保持したアーム31を下降させることも可能である。この場合、第1媒体15の厚みによっては第1媒体15を第3電極14に強く押し当てることになるが、不具合は生じにくい。
【0183】
なおさらに、第2媒体24での第2方向分離の際、第1媒体15と第2媒体24を確実に密着させる必要がある。上述したように、第2開口部26から第2媒体24が突出していることにより密着度が向上するが、突出する第2媒体24の長さは常に一定とはかぎらない。この場合、固定手段1に固定(吸着)された第2分離部20を一旦開放し、第1媒体15を第2媒体24に強く押し当てることにより、第1媒体15と第2媒体24との接着に不要な力は第2分離部20を移動させる力として分散させることができる。そして、第1媒体15と第2媒体24との接着後に第2分離部20を再度固定手段1に固定(吸着)すればよい。ただし、再度固定は行わなくてもよい。あるいは、図7の構成とし、第2分離部20において第2媒体24がスライド可能に固定されている構成を用いてもよい。
【0184】
第2媒体24での第2方向分離の際には、第1媒体15中のサンプルを確実に第2媒体24に移動させなければならない。そのためには第1媒体15の垂直方向位置と第2媒体24の垂直方向位置とが一致する必要がある。第1媒体15の厚さにはばらつきがあるので、第2媒体24の厚さを第1媒体15の厚さより大きく設けておくことにより、第1媒体15の厚さのばらつきの影響を回避することができる。
【0185】
駆動手段4による各部材の移動によって生じ得る不具合(例えば、緩衝液槽からの緩衝液のオーバーフロー、支持板への溶液の付着など)を回避するためまたは各工程を迅速化するためには、各部材に親水性材料または疎水性材料を使い分ければよい。
【0186】
本発明に係る2次元電気泳動装置100がさらに照射部および検出部を有している場合、分離したサンプルの検出時にアーム31および/またはゲル付支持板17により励起光または蛍光が反射することにより、検出が首尾よく行えない可能性がある。この場合は、アーム31および/またはゲル付支持体17に反射防止膜を設けるか、またはアーム31および/またはゲル付支持体17を反射しない材料から構成させればよい。
【0187】
電気泳動を首尾よく行うためには第1媒体15および/または第2媒体24に気泡が付着することは避けられなければならない。しかし、垂直方向への移動時には気泡を第1媒体15に巻き込みやすい。この場合は、第1媒体15の下面を水平から若干傾きをもたせて形成するか、または若干傾きを持たせて保持すればよい。第1媒体配置槽11aの底面に所望の傾きを持たせておくことにより、アーム31は、第1媒体15の下面は水平面から傾きを有してゲル付支持体17を保持し得る(図13(a)を参照のこと)。あるいは、アーム31がゲル付支持体17の重心から少しずれた位置にてゲル付支持体17を一点保持することにより、一点保持部81を中心にゲル付支持体17が重心のずれに相当する微少量の回転が可能であるため、アーム31は、第1媒体15の下面は水平面72から傾きを有してゲル付支持体17を保持し得る(図13(b)・(c)を参照のこと)。この場合の保持手段3としては、一点で挟んで保持するような挟み固定、ゲル付支持体17に設けた孔に軸を挿入する固定などが望ましい。垂直方向駆動後、第1媒体15が各槽底部71に達した後は、第1媒体15の下面が底部71に対して水平となるような固定であることが望ましい。底部71に達した際に、底部71からの抗力により傾きを有していた第1媒体15が水平となる(図13(b))。垂直方向(Z軸)の上昇時には重心のずれに従って再び傾きを有するので、次の工程でも気泡を巻き込むことはない(図13(a))。また、垂直方向駆動手段41の動作を遅くすれば気泡を巻き込みにくくし、第1分離部20における試薬槽11・12の幅を第1媒体15の幅より広くすれば気泡を逃がしやすい。また、第1媒体15を第2媒体24に接続させる際、接続水平位置の直上から垂直方向降下により接続を行うと、第1媒体15の下方または第1媒体15と第2媒体24との界面に気泡が付着しやすい。接続時の駆動手段4は、まず接続水平位置より若干第2緩衝液槽28bよりに水平方向駆動し、その位置で第2分離を実行する垂直位置に垂直方向駆動を行い、最後に接続水平位置に水平方向駆動することが望ましい。また、接続前に第2緩衝液槽28b中で水平方向および/または垂直方向に微小振盪を行い、第1媒体15に付着した気泡を除去してもよい。
【0188】
膨潤および/または平衡化の際に第1媒体支持体16に付着した溶液が第1媒体15に垂れてくると、第1方向分離および/または第2方向分離の電流値が一定しないことがあり得るが、Z方向への移動時に溶液が第1媒体支持体16に付着しないように垂直方向駆動手段41の動作を首尾よく制御すればよい。また、本発明に係る2次元電気泳動装置100は、ゲル付支持体17が次の試薬槽に搬送される前に第1媒体支持体16に付着した溶液を拭い取る機構を有していてもよい。
【0189】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0190】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0191】
〔第1媒体(1Dゲル)15〕
第1媒体15として、膨潤させた際に約0.5mm厚となる乾燥タイプの固定化pH勾配ゲルを、約52mm×約1mmのサイズに切断したものを用いた。
【0192】
このような第1媒体15に対して支持板のサイズを、52mm×12mm×1mmとし、52mm×1mmの面にて両者を固定した。用いた支持板は、ガラスまたは樹脂(例えば、PMMA(ポリメチルメタクリレート))からなる。
【0193】
〔保持手段(支持アーム)31〕
ゲル付支持体17を保持するための保持手段3の支持アーム31上に1mm幅×46mm長の吸着溝を形成し、この吸着溝に支持板上端部を吸引することにより、第1媒体15をアームに吸着させた。吸引のオン/オフを行うことにより、アームから第1媒体15を容易に着脱し得るとともに、電気泳動用電極を保持・運搬するためにアームに着脱し得る。
【0194】
〔第1分離部(溶液チップ)10〕
第1分離部10として、70mm×70mm×10mm厚のPMMA基板Aを用い、この基板に1.1mm幅×3mm深の溝(×1本)と、1.5mm幅×3mm深の溝(×3本)と、5mm幅×9mm深の溝(×7本)を設けた。1.1mm幅の溝にはゲル付支持体17を、1.5mm幅の溝にはサンプル、第1媒体膨潤液(電気泳動用緩衝液)、および電極をそれぞれ格納または充填した。5mm幅の溝には、染色工程に必要な溶液および第2分離に必要な第2平衡化液を収納した。また、サンプルを導入し膨潤させたゲルを、電極を配置した溝に挿入し、電極と接触させて電圧を印加しサンプルの第1方向への分離を行った。
【0195】
〔第2媒体(2Dゲル)24および第2分離部(2Dチップ)20〕
第2分離部20として、70mm×70mm×10mm厚のPMMA基板21を用い、この基板の両端部付近に68mm×9mm×9mm深の溝部を2つ設けた。さらに、第2分離部20には、第2媒体収納部24’として、断面が第1媒体の断面サイズ(52mm×0.5mm)と同じまたは若干大きい溝(55mm〜60mm×0.5mm〜1.0mm)を設けた。
【0196】
次いで、5mm厚のPMMA基板22を上記10mm厚のPMMA基板21の内部に部分的に入り込むように重ね合わせ、上記2つの溝部の位置に開口を設けた。なお、開口の1つを68mm×9mmとした。
【0197】
図示するように、第2媒体24は、基板21に固定され、基板22によって被覆されていない部位(幅3mm相当)26を有する。また、68mm×9mmの2つの溝は、緩衝液が収納される(第1または第2の)緩衝液槽28a・28bを形成している。第2分離部20にて電気泳動を行う際に、各緩衝液槽28a・28bに別途電極を配置してサンプルの第2方向への分離を行う。基板21上に第2媒体24を固定した後、樹脂ネジまたは接着剤を用いて基板21と基板22とを固定した。
【0198】
〔固定手段(プレート)1〕
第1分離部10および第2分離部20の下部に、ブラックアルマイト加工を施したアルミニウム製の冷却・真空吸着プレートを設け、真空吸着機構により第1分離部10および第2分離部10を単一のプレート1に固定した。
【0199】
〔真空吸着機構〕
上述したように、70mm幅の第1分離部10および第2分離部20を、真空吸着を用いて単一のプレートに固定した。
【0200】
〔駆動手段(自動ステージ)4〕
ゲル付支持体の移動、振盪を行うための駆動手段4を、ステッピングモータ駆動のX軸ステージおよびZ軸ステージにより構成した。X軸ステージについてストローク85mm(分解能1μm/パルス)、Z軸ステージについてストローク15mm(分解能1μm/パルス)とし、汎用の多軸ステッピングモータコントローラを介してGPIB接続したパソコンにて制御した。さらに検出装置などの複数の機器との統合制御を行った。
【0201】
〔冷却機構〕
電圧を印加することにより発熱した第1分離部10および第2分離部20を冷却するために、上記ステージ1の下部にペルチェ素子(2基)を配置した。ペルチェ素子は容量51.4W、サイズ40mm×40mmであり、Kタイプの熱電対を温度センサとして接続した温度調節器により設定温度に制御されている。ペルチェ素子の放熱面側には放熱フィンを配置し、空冷用DCファンをさらに配置した。
【0202】
〔電圧印加手段(電気泳動用電源)5・6〕
第1媒体および第2媒体に電圧を印加するための電圧印加手段5・6として、パソコン制御可能なモジュールタイプの高電圧ユニットを使用した。電圧印加手段5・6の制御を、駆動手段の制御と連動して行った。
【0203】
第1媒体用として最大電圧6kV、最大電流1.7mAの10W仕様の高電圧ユニットを、第2媒体用として最大電圧0.6kV、最大電流50mAの30W仕様の高電圧ユニットを用いた。各ユニットを、AD/DA変換ボードをインストールしたパソコンにより制御した。これにより、出力電圧設定、電圧および/または電流をモニタリングし得た。
【0204】
〔2次元電気泳動〕
乾燥タイプのゲル付支持体17を保持手段3の支持アーム31に真空吸着にて保持し、駆動手段4が保持手段3をX方向およびZ方向に移動させた。具体的には、第1媒体15を、第1媒体槽11aからサンプル槽11b、膨潤槽11c、第1分離槽11dへ順次移動しかつ挿入し、第1媒体15に所定の処理を施した。第1分離槽11dの両端に電極14を予め配置し、第1媒体15の両端が電極14に接するように第1媒体15を挿入しかつ保持した。等電点電気泳動電圧印加プログラムに従って第1媒体15に電圧を印加した。
【0205】
等電点電気泳動分離終了後、第1媒体15を、第1平衡化槽12a、染色槽12b、洗浄槽12c、第2平衡化槽12dの試薬槽へ順次移動しかつ挿入し、必要に応じて各槽にて振盪させた。振盪動作はX軸方向またはZ軸方向への微小変位の繰り返し往復運動からなる。
【0206】
第2分離部20には、予め電気泳動用電極29a・29bを配置しておき、第1媒体15を第2媒体24へ移動させ、負極側の第2緩衝液槽28bへ浸し、振盪動作により第1媒体15表面の気泡を除去し、第1媒体供給部26にて第2媒体24端面へ押付け密着させた。次いで、2次元目電気泳動電圧印加プログラムに従って第2媒体24に電圧を印加した。2次元目電気泳動前に染色がなされているために、第2分離部20上方に設置したCCDカメラを用いて電気泳動分離経過をリアルタイムで観察し得る。
【0207】
本実施例において用いた自動化2次元電気泳動装置(図9)では、以下の工程を作業者が行う:
(i) 膨潤槽11cにゲル膨潤液を、第2試薬槽12に各試薬を、それぞれ充填しておく。
(ii)サンプル槽11bのサンプル導入部13にサンプルをアプライする。
(iii) ゲル付支持体17を第1媒体配置槽11aに配置する。
(iv) 第1分離部10を固定手段1上に配置し、真空吸着を用いて固着させる。
(v) 第2分離部20を固定手段1上に配置し、真空吸着を用いて固着させる。
(vi) 第1電極29a、第2電極29b、および第3電極14を配置する。
(vii) 自動化2次元電気泳動装置100の開始ボタンを押す。
(viii) 2次元電気泳動の全自動化工程が終了した後、第1電極29a、第2電極29b、および第3電極14を取り除く。
(ix) 第1分離部10および第2分離部20を固定手段1から取り外す。
(x) 第2分離部20を観察する。
【0208】
上記工程(i)〜(x)以外を図9に示した本発明に係る自動化2次元電気泳動装置を用いて、マウス脳可溶性画分を2次元方向に分離した。サンプルの2次元分離が首尾よく行われたことを図10に示す。
【0209】
このように本実施例において用いた自動化2次元電気泳動装置では、全工程の一部を作業者が行っているが、制御手段に用いるプログラムを適宜設定すれば全工程を自動化することができることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【産業上の利用可能性】
【0210】
2次元電気泳動装置の不利益を改善し得る本発明は、現在盛んに行われているプロテオーム研究をより発展させることができ、本発明の自動化2次元電気泳動装置および当該装置に用いる種々の部材を別々に作製・販売することにより市場を活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の要部構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の要部構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の要部構成を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の要部構成を示す上面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の要部構成を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の要部構成を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の構成部材であるサンプル分離器具の構成を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置における制御ブロック図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置の構成を示す写真である。
【図10】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置を用いてマウス脳可溶性画分を2次元方向に分離した結果を示す写真である。
【図11】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置を構成する器具の構成を示す概略図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置を構成する器具の構成を示す概略図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る自動化2次元電気泳動装置を構成する器具の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0212】
1 固定手段
2 矢印
3 保持手段
4 駆動手段
5 第1媒体電圧印加手段
6 第2媒体電圧印加手段
7 第1配線手段
8 第2配線手段
9 冷却手段
10 第1分離部(第1方向分離器具)
11 第1試薬槽
11a 第1媒体配置槽
11b サンプル槽
11c 膨潤槽
11d 第1分離槽
12 第2試薬槽
12a 第1平衡化槽
12b 染色槽
12c 洗浄槽
12d 第2平衡化槽
13 サンプル導入部
14 第3電極
15 第1媒体
16 第1媒体支持体
17 ゲル付支持体
20 第2分離部(サンプル分離器具)
20a 絶縁物
21 下部絶縁板
22 上部絶縁板
23 シート状封止材
24 第2媒体
24’ 第2媒体収納部
25 第1開口部
26 第2開口部(第1媒体供給口)
26’ 第3開口部(第1媒体供給口)
27 絶縁物受容部
28a 第1緩衝液槽
28b 第2緩衝液槽
29a 第1電極
29b 第2電極
30 泳動槽
31 支持アーム(シート剥離手段またはシート穿孔手段)
31’ 支持アーム(シート剥離手段またはシート穿孔手段)
32 アーム−支持体結合部
40 電極洗浄部
41 Z軸ステージ(垂直方向用駆動手段)
41’ Z軸ステージ−保持手段連結部
42 X軸ステージ(平行方向用駆動手段)
42’ X軸ステージ−Z軸ステージ連結部
50 制御手段
51 温度センサ
52 温湿度センサ
53 結露センサ
54 位置センサ
60 放熱手段
61 放熱フィン
62 放熱ファン
63 ペルチェ素子
64 ヒートパイプ
71 第1試薬槽11または第2試薬槽12の底面
72 第1試薬槽11内または第2試薬槽12内の液面
81 一点保持部
82 支持アーム31の重心線
100 自動化2次元電気泳動装置(サンプル分離装置)
X 第2方向
Y 第1方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1媒体中で第1方向に分離した分離サンプルを第1方向と異なる第2方向にさらに分離するための第2媒体を収納するための絶縁物を有するサンプル分離器具であって、
該絶縁物は、第2媒体に通電する第2方向を規定する第1開口部および第2開口部を有し、
第2開口部は、分離サンプルを含む第1媒体を第1方向に沿って第2媒体と接着させるための形状を有していることを特徴とするサンプル分離器具。
【請求項2】
分離サンプルを含む第1媒体を第1方向に沿って第2媒体と接着させるための形状を有している第3開口部が、第1開口部と第2開口部との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサンプル分離器具。
【請求項3】
前記絶縁物が、2枚の板状絶縁体からなることを特徴とする請求項1に記載のサンプル分離器具。
【請求項4】
第2媒体の分離パラメータが第1媒体の分離パラメータと異なることを特徴とする請求項1に記載のサンプル分離器具。
【請求項5】
前記絶縁物が第2媒体を収納していることを特徴とする請求項1または2に記載のサンプル分離器具。
【請求項6】
第1開口部にて第2媒体と接触させる第1緩衝液を充填するための第1緩衝液槽および第2開口部にて第2媒体と接触させる第2緩衝液を充填するための第2緩衝液槽をさらに備えた請求項1または2に記載のサンプル分離器具。
【請求項7】
前記絶縁物、第1緩衝液槽および第2緩衝液槽が一体形成されていることを特徴とする請求項6に記載のサンプル分離器具。
【請求項8】
前記絶縁物を着脱可能に固定するための絶縁物受容部、第1緩衝液槽および第2緩衝液槽が一体形成されていることを特徴とする請求項6に記載のサンプル分離器具。
【請求項9】
第2媒体に通電するための第1電極および第2電極が、それぞれ第1緩衝液槽および第2緩衝液槽に固定されていることを特徴とする請求項6に記載のサンプル分離器具。
【請求項10】
第1方向へのサンプル分離を行った後の第1媒体を自動的に第2開口部に密着させるための手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のサンプル分離器具。
【請求項11】
請求項6に記載のサンプル分離器具が固定された固定手段を備えていることを特徴とするサンプル分離装置。
【請求項12】
前記固定手段が、真空吸着機構、挟固定機構、磁力固定機構または静電吸着機構の少なくとも1つを備えていることを特徴とする請求項11に記載のサンプル分離装置。
【請求項13】
第1媒体を支持した第1媒体支持体を保持するための保持手段、ならびに第1方向および第2方向からなる平面に対して平行方向または垂直方向に該固定手段または該保持手段を移動するための駆動手段をさらに備えていることを特徴とする請求項11に記載のサンプル分離装置。
【請求項14】
第2媒体に電圧を印加するための第2媒体電圧印加手段をさらに備えていることを特徴とする請求項12に記載のサンプル分離装置。
【請求項15】
第1電極および第2電極と第2媒体電圧印加手段とを接続するための第2配線手段が備えられていることを特徴とする請求項14に記載のサンプル分離装置。
【請求項16】
第1電極および第2電極が、前記保持手段によって保持され、前記駆動手段によってそれぞれ第1緩衝液槽および第2緩衝液槽へ配置されることを特徴とする請求項15に記載のサンプル分離装置。
【請求項17】
サンプルを第1媒体中で第1方向に分離するための第1方向分離器具をさらに固定していることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離装置。
【請求項18】
第1方向分離器具が、第1の分離を行うための第1分離槽を有していることを特徴とする請求項17に記載のサンプル分離装置。
【請求項19】
第1媒体に通電するための第3電極が、第1分離槽に固定されていることを特徴とする請求項18に記載のサンプル分離装置。
【請求項20】
第1媒体に電圧を印加するための第1媒体電圧印加手段をさらに備えていることを特徴とする請求項19に記載のサンプル分離装置。
【請求項21】
第3電極と第1媒体電圧印加手段とを接続するための第1配線手段が備えられていることを特徴とする請求項20に記載のサンプル分離装置。
【請求項22】
第3電極が、前記保持手段によって保持され、前記駆動手段によって第1分離槽へ配置されることを特徴とする請求項20に記載のサンプル分離装置。
【請求項23】
第1方向分離器具が複数の試薬槽をさらに有していることを特徴とする請求項17に記載のサンプル分離装置。
【請求項24】
前記試薬槽に充填された試薬を封止するためのシート状封止材が設けられていることを特徴とする請求項23に記載のサンプル分離装置。
【請求項25】
前記シート状封止材を剥離または穿孔するためのシート剥離手段またはシート穿孔手段が前記保持手段に設けられていることを特徴とする請求項24に記載のサンプル分離装置。
【請求項26】
シート状封止材によって封止かつ分離された複数の試薬が、前記試薬槽の少なくとも1つに充填されており、該複数の試薬は、該シート状封止材が剥離または穿孔されることによって混合されることを特徴とする請求項25に記載のサンプル分離装置。
【請求項27】
前記固定手段を冷却するための冷却手段を備えていることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離装置。
【請求項28】
第2媒体または第2媒体と接触する緩衝液の温度を検出するための温度センサを備えていることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離装置。
【請求項29】
前記保持手段が第1媒体支持体を保持していることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離装置。
【請求項30】
前記保持手段が、第1媒体支持体を介して付与される外力の方向および/または強度を検出するための圧力センサを備えていることを特徴とする請求項29に記載のサンプル分離装置。
【請求項31】
前記保持手段は、第1媒体支持体を介して付与される外力を低減するための緩衝部材が設けられていることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離装置。
【請求項32】
前記固定手段、前記保持手段、前記駆動手段、前記第1媒体電圧印加手段、および前記第2媒体電圧印加手段を同期制御するための制御手段をさらに備えていることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−64848(P2007−64848A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252755(P2005−252755)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(501218566)学校法人片柳学園 (10)