説明

自動取引装置

【課題】
予め記憶された取引内容等に関する情報(ATMログ)をもとに、異常取引を自動検出する自動取引装置を提供することにある。
【解決手段】
自動取引装置で行われた過去の取引履歴を自動取引装置に記録しておき、利用者が各種取引を行う場合、利用者が指定した取引内容と、当該自動取引装置に記録されている情報とを比較し、取引が異常でないかどうかを判別し、異常取引であった場合は、異常取引ログとして自動取引装置内に記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、郵便局、銀行等の金融機関で種々の取引が可能な自動取引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カード偽造やなりすまし犯罪への対策として、自動取引装置の本人確認の手段として高セキュリティな生体認証やICカードを用いるようになってきているが、導入にはハードウェア、およびソフトウェアの更改に莫大な費用が必要である。そこでカード偽造やなりすまし犯罪を未然に防ぐ対策として1回の取引における利用限度額の設定や、1日に予め決められた回数以上取引を行った顧客に対する係員介在による本人確認、あらかじめ設定しておいた異常取引パターンの参照、といった手段が講じられている。
【0003】
異常な取引の検出手法として、特許文献1には、自動取引装置を利用した取引において、暗証番号入力速度等といった顧客の操作状態についてのデータをログファイルに記録しておき、各顧客の取引において顧客の操作状態とログファイル中の当該顧客のデータとを比較することで、異常な取引を自動的に検出する手法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−16498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カード犯罪やなりすまし犯罪への対策手法のうち、指静脈認証やICカードを用いた手法は、導入にあたってATMの台数やICカードの枚数分だけハードウェア面での投資が必要となり、顧客数の多いメガバンクでは特に導入コストが大きくなるという問題点がある。また、1日の利用限度額や1日における取引限度回数を設定する手法、およびパターンを用いた異常取引の自動検出手法では、ホストコンピュータに対する実装や、利用者や金融機関による手動設定が必要であり、導入コストが大きくなるという問題点がある。
【0006】
特許文献1で述べられている手法では、顧客の過去のデータを比較対象としているため、取引回数の少ない顧客については、比較対象データの絶対数が小さくなり、検出の信頼性が落ちることが懸念される。また比較方式は、単一データについて現在行われている取引でのデータと過去ログに記録されているデータとを順々に比較する方式なので、各データ間の関連性を考慮した比較をすることが困難である。
【0007】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、利用者に煩わしい設定手続きをさせることなく、不審な取引を自動的に検出する自動取引装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、自動取引装置毎に記録しておいた自動取引装置における過去の取引履歴を用いて、異常取引を自動検出するアルゴリズムを提案する。利用者が各種取引を行う場合、利用者が指定した取引内容と、自動取引装置に記録されている当該自動取引装置で行われた過去の取引履歴とを比較し、取引が異常でないかどうかを判別する。ここで、店舗内の自動取引装置に記録されたデータを店舗内のネットワークで共有し、利用者が指定した取引内容と、店舗単位での過去の取引履歴とを比較することも可能である(以下、当該自動取引装置との記述は当該店舗と置き換えることも可能とする)。異常取引の検出には、当該自動取引装置で行われた過去の取引の傾向が反映される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、各金融機関等の自動取引装置において、煩わしい設定をすることなく、低コストで精度の高い異常取引の検出アルゴリズムを導入することが可能となり、自動取引装置を用いた取引に関係する犯罪の抑制が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明による自動取引装置において、各種取引を実行する実施形態、および異常取引を自動検出するアルゴリズムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1に本発明で使用される自動取引装置のシステム構成を示す。1は自動取引装置であり、利用者の要求する種々の取引を自動的に実行する装置であって、それらの取引に関する操作案内(ガイダンス)、アナウンス情報等を画面に表示し、利用者の操作や指で押下された入力を受け付け、検出する操作部3を有する。なお、この操作部3は、タッチパネル等により構成された入力兼表示部(入力表示部とも言う)が望ましく、様々な情報を表示画面に表示する。この表示画面に含まれる様々な項目への押下も検知可能である。
【0012】
自動取引装置1には、利用者が取引選択等を行うための操作部3や紙幣入出金機構部6、硬貨入出金機構部7、および内部には取引のログデータを残すジャーナル、キャッシュカードやICカードを挿入するカード機構部4、取引した内容を印字部により明細票に印字し、装置内から排出する明細票機構部4、紙幣の種類を特定する紙幣鑑別装置、硬貨の種類を特定する硬貨鑑別装置、自動取引装置で行われた過去の取引内容を記録しておく磁気ディスク装置15がある。
【0013】
図2に図1に示した自動取引装置の内部ブロック図を示す。自動取引装置1は、図1に示されている操作部(入力兼表示部)3やカード機構部・明細票機構部4、通帳機構部5の他に、紙幣および硬貨(媒体)の入金/出金機能や、媒体の種類を特定する紙幣鑑別機能、媒体の搬送機能、媒体の収納機能を有する紙幣入出金機構部6と硬貨入出金機構部7や、ATMサーバ等のホストコンピュータ12とデータの送受信を行う回線接続部8、自動取引装置で行われた過去の取引内容を記録しておくATMログ10、ATMログ10を照合して取引が異常かどうかを判断する取引内容照合部9を備える。これら各部は制御部2によって処理が制御される。
【0014】
図3に自動取引装置1に格納するATMログ10の内容を示す。「ATM情報」は自動取引装置そのものの情報として、機種1101、設置店舗1102、設置年月日1103を有する。「ATMログ情報」は、自動取引装置で行われた引出しや預入れといった取引毎、また、曜日/時間帯別や月別、キータイプ速度別といったカテゴリ毎の一日平均取引情報として、取引回数1104、平均取引金額1105、平均取引時間1106といった情報を有する。これらの情報の中から適宜必要な情報を異常取引の検出に利用する。また、図3に示されていない情報も適宜追加可能なのは言うまでもない。
【0015】
図4に基づいて、自動取引装置における異常取引の検出処理を説明する。本実施例では無帳支払取引を例に説明する。
【0016】
利用者は、自動取引装置1の操作部3に表示されている「いらっしゃい」の初期画面の「お引出し」ボタンに触れて取引を選択する(ステップ100、ステップ101)。
【0017】
利用者は、カード機構部・明細票機構部4にカードを挿入する(ステップ102)。なお、この操作は「いらっしゃい」初期画面表示中に行ってもよい。
【0018】
操作部3に暗証番号入力画面が表示されると、利用者は暗証番号を入力する(ステップ103)。
【0019】
暗証番号が正しければ、操作部3は取引金額入力画面を表示し、利用者は取引金額を入力する(ステップ104)。取引金額が入力されると、操作部3は取引情報確認画面を表示し、利用者が「確認」ボタンに触れることで、自動取引装置内部での取引処理を開始する(ステップ105)。
【0020】
自動取引装置1の取引内容照合部9は、自動取引装置1の磁気ディスク15に格納されているATMログ10と、利用者が入力した取引情報とを比較し、取引が正常かどうかを判別する。ここで、異常と判別された場合はどの程度異常であるかを判別し、異常取引ログ11に記録する(ステップ106)。取引が異常かどうかを判別する手法、および取引の異常さを判別する手法については、図5にて後述する。
【0021】
取引の異常の度合いに応じて、注意喚起パターンを決定する(ステップ107)。まず、取引が正常と判別された場合は、通常の取引処理を続行する。取引が異常と判別された場合の処理は、異常の度合いに応じて3パターンに分ける。異常の度合いが小さかった場合は、後方監視装置に通報し、監視員に注意を促す(ステップ108)。利用者に対しては、異常取引の可能性があるとの旨を伝える警告画面を表示する(ステップ109)。異常の度合いが中程度だった場合は、後方監視装置通報(ステップ110)に加え、利用者の顔写真を撮影する。顔写真の撮影にあたっては、利用者に対して可否確認(ステップ111)を行う。利用者が了承した場合は、顔写真を撮影(ステップ112)し、取引を続行する。利用者が拒否した場合は取引を中止する。異常の度合いが大きかった場合は、取引を中断(ステップ113)し、係員介入によって取引の意図を確認する(ステップ114)。係員不在の場合はインターフォンを用いた会話によって確認を行う。係員が、取引が正常と判断した場合は取引を続行し、異常と判断した場合は取引を中止する。
【0022】
判定処理が終了すると、自動取引装置1は、ホストコンピュータと取引成立に必要な電文のやり取り(ステップ115)を行い、明細票または通帳に取引情報を印字(ステップ116)し、カード・明細票・現金を返却(ステップ117)し、操作部3に「ありがとう」画面を表示し、取引を終了する(ステップ118)。
【0023】
図5に異常取引を検出するアルゴリズムを示す。
【0024】
取引内容照合部9は、まず、利用者が指定した取引の種類や取引金額と、自動取引装置1のATMログ10に記録されている今日の日付・曜日や利用者のキータッチ速度といった情報とを比較する(ステップ201)。
【0025】
比較にあたっては、各比較対象データについて、ATMログ10に記録されている比較対象データの平均値と分散値から導出される標準スコアを導出し、比較対象データにおける標準スコアの差の二乗和の平方を利用者が指定した取引と過去の取引との相異の指標値とする。全てのデータを対等に扱うため、データの比較には必ず標準スコアを用いることとする。
【0026】
複数種類データが関連した傾向がみられる場合、例えば無帳支払取引において、キータッチ速度が遅いほど引出し金額が大きくなる傾向や、1日あたりの利用人数が多い場合は同一人物の連続取引回数は小さくなる傾向等があれば、それらを異常取引の検出に反映するために、比較対象とする各データ間の相関性(相関係数、寄与率等)を随時算出しておき、相関性の高いデータがあれば、それらのデータの相関性も異常取引の検出に利用する。
【0027】
また、重点を置くべきデータが存在する場合、例えば無帳支払取引において、毎月特定日に引出し金額が大きくなる傾向や、同一人物が複数回連続して取引する場合には一回あたりの引出し金額が小さくなる傾向等があれば、重点を置くべきデータに重み係数をつけることにより、日程的な条件や人為的な条件を考慮した異常取引の検出を実現する。もちろん、重みは取引状況から判断して自動的に付加可能である。
【0028】
指標値が閾値以下の場合、取引は正常とみなし、異常取引の検出アルゴリズムは終了する(ステップ202)。閾値は、各データの平均値や分散値の変動、およびデータ間の相関関係を考慮して動的に決定する。従って、当該自動取引装置の利用状況をリアルタイムに反映した異常取引の検出が可能となる。
【0029】
なお、ここでは当該自動取引装置のATMログに記録されているデータを利用する例を述べたが、複数ATMで共有する情報やホストコンピュータで保持している個人情報を利用することももちろん可能である。
【0030】
指標値が閾値以上の場合、取引は異常とみなし、取引の異常の度合いを算出する処理を行う(ステップ203)。取引の異常の度合いは、異常取引を検出するために取引内容照合部9で算出した指標値が、閾値に対してどの程度大きい値であったかによって判断する(ステップ204)。また、異常取引ログ11に取引データを記録する。
【0031】
本アルゴリズムを用いることにより、時期や時間帯に不相応な取引、あるいは自動取引装置を利用するユーザ層の性質と比較して不審な形態の取引を自動的に検出し、それぞれに応じた対処を施すことが可能となる。
【0032】
本実施例では、引出し取引を対象に異常取引の自動検出手法を説明したが、預入れや振込といった他の取引においても可能であり、比較の手法については、標準スコア間の差の二乗和の平方をとる手法以外でも、処理に膨大な時間を要せずに適切な相異の指標値を求めることが可能であり、当該自動取引装置を利用するユーザ層の特性や複数データの相関関係をリアルタイムに反映できる手法であれば問題ない。
【0033】
また、比較に使用する情報を必要に応じて新たに追加し、異常取引の判別に利用可能であることは言うまでもない。
【0034】
本実施形態によれば、当該自動取引装置に記録されている過去の取引履歴を用いるため、取引回数の少ない顧客に対しても十分な量の比較データを用いることが可能となる。また、本発明での異常取引の検出アルゴリズムにおける取引内容の比較では、各データ間の相関関係を随時チェックし、取引内容の比較に反映するので、各データ間の関連性を考慮した異常取引の検出が可能となる。
【0035】
また、取引が異常と認識されると、異常と認識された取引内容を自動取引装置内の異常取引ログに記録する。また、異常の度合いに応じて、後方監視装置への通報や、利用者の顔写真および取引の様子の撮影、さらには取引中止や係員による取引意図の確認を行う構成を採用しても良い。
【0036】
本実施形態は、ソフトウェアを構築することで実現するので、ハードウェアに対する投資は不要である。また、過去の取引内容との比較により異常取引を検出するので、認証手段や操作手法によらず検出が可能となる。異常取引の検出には、当該自動取引装置に記録されている過去の取引情報がリアルタイムに反映されるので、利用者や金融機関が煩わしい設定をしなくても、自動取引装置の設置場所に特化した利用状態を蓄積したうえで多様なパターンの異常取引の検出が可能となる。さらに、ホストコンピュータが保持する利用者の個人情報は必ずしも利用する必要は無いので、利用回数の少ない顧客に対しても有効であり、ホスト接続不要による取引時間短縮、ホスト設定不要によるコスト低下を図ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】自動取引装置(ATM)の概要図
【図2】自動取引装置の内部構成図
【図3】自動取引装置に格納されるATMログ情報
【図4】自動取引装置内での引出し取引の処理のフロー図
【図5】異常取引の自動検出処理のフロー図
【符号の説明】
【0038】
1:自動取引装置(ATM)、2:制御部、3:操作部、4:カード機構部・明細票機構部、5:通帳機構部、6:紙幣入出金機構部、7:硬貨入出金機構部、8:回線接続部、9:取引内容照合部、10:ATMログ情報、11:異常取引ログ、12:ホストコンピュータ、15:磁気ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣の入出金取引を自動的に行う自動取引装置であって、
種々の画面を表示し、当該画面の特定項目への入力を検知する操作手段と、
カード情報の読み書きおよび明細票への印字を行うカード・明細票機構と、
通帳情報の読み書きおよび印字を行う通帳機構と、
利用者が希望する各種取引において利用者が指定した取引の内容と、自動取引装置に記録されている自動取引装置の取引履歴とを比較することで、取引が異常でないかを判別し、取引が異常とであると判別した場合、当該取引を異常取引ログに記録する制御を行う制御手段とを備えることを特徴とする自動取引装置。
【請求項2】
前記取引が異常と判別された場合、前記制御部は、その異常の度合いに応じて、後方監視装置への通報、監視カメラによる利用者の顔写真や取引の様子の撮影、または当該取引の取引中止を行うことを有することを特徴とする請求項1記載の自動取引装置。
【請求項3】
利用者が希望する各種取引において、利用者が指定した取引の内容と、自動取引装置に記録されている取引履歴とを比較することで、取引が異常でないかを判別するため、自動取引装置で行われた過去の取引記録を保存しておき、異常取引の判別アルゴリズムに用いる手段を有する請求項1記載の自動取引装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate