説明

自動培養装置、自動培養方法

【課題】自動培養装置において、摺動部分からの汚染を回避する。
【解決手段】培養容器200内の培地で細胞等の観察対象を培養操作し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置100であって、培養容器200が載置される観察台101と、観察台101に載置された培養容器200内の観察対象を観察するための観察装置102と、観察台101に載置された培養容器200内の液体を吸入し、または、前記観察台に載置された培養容器内に液体を吐出する対象処理装置103と、観察台101と、対象処理装置103とを無菌環境下に維持しうるキャビネット109とを備え、対象処理装置103は、対象物を処理する際に摺動する摺動部193を観察台101に載置される培養容器200の上端開口面191以下の水平方向に広がる基準面192より下方にのみ備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、培養観察装置に関し、特に細胞などの培養をクリーンベンチもしくは安全キャビネット等と称される無菌環境を形成するキャビネット内で自動的に行い、培養結果などを観察することのできる自動培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を培養するには、(1)培養容器内の古い培地を新しい培地に交換する培地交換作業、(2)培養容器内で増えた細胞を複数の別の培養容器に分配する継代作業などを実施する必要がある。
【0003】
従来、上記作業は、無菌のキャビネット内で手作業で行われていた。具体的には、培地交換作業とは、細胞が接着している培養容器を傾け、ピペットにて古い培地を抜き取り、新しい培地をピペットにて培養容器内に注入する作業である。また、継代作業とは、培養容器を傾け、ピペットにて古い培地を除去した後、培養容器内の血清等を洗い流す。続いて、トリプシンを添加して細胞を培養容器の底面から剥離させ、血清入り培地もしくはトリプシンインヒビターを添加して前記トリプシンによる細胞剥離反応を停止させる。次に、トリプシン、培地、トリプシンインヒビター及び剥離された細胞を含む細胞懸濁液をピペットにて遠沈管内に移動させた後、遠心分離機を用いて細胞のみを沈澱させる。最後に、上清を除去した後、新しい培地を注入して細胞を再懸濁し、複数の培養容器に分配する作業である。
【0004】
以上の作業は、非常に煩雑であり、しかも、雑菌の混入を防止することに留意しつつ行わなければならないため、作業者に大きな負担を強いるものである。
【0005】
そこで、特許文献1に記載されるような、上記作業を自動で行うことのできる細胞培養装置が種々提案されている。
【特許文献1】特開2005−218413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本願発明者らが自動で培地交換や継代作業を行うことができる培養装置を研究したところ、キャビネットによって創出された無菌環境内で、培養している細胞の状態を観察できる装置が無かった。そこで、同一の環境下で培地交換や継代作業を行うことができ、さらに細胞の状態を観察することのできる自動培養装置を想到するに至った。
【0007】
しかし、本願発明者らが鋭意研究と実験を重ねた結果、キャビネット内での作業にもかかわらず、培養容器内が汚染されることを見いだした。そしてさらに研究と実験を重ねた結果、自動化のためには存在せざるを得ない摺動部分で発生した粉塵や油煙などが汚染源であることを見いだすに至った。
【0008】
本願発明は、上記知見に基づきなされたものであり、培地交換や継代作業などを自動で行うことができ、かつ、汚染されることなく培養容器内の細胞を観察などすることのできる自動培養装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明にかかる自動培養装置は、培養容器内の培地で細胞等の観察対象を培養し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置であって、培養容器が載置される観察台と、前記観察台に載置された培養容器内の観察対象を観察するための観察装置と、前記観察台に載置された培養容器内の液体を吸入し、または、前記観察台に載置された培養容器内に液体を吐出する対象処理装置と、前記観察台と、前記対象処理装置とを無菌環境下に維持しうるキャビネットとを備え、前記対象処理装置は、対象物を処理する際に摺動する摺動部を備え、前記摺動部は、前記観察台に載置される培養容器の上端開口面以下の水平方向に広がる基準面より下方にのみ配置されることを特徴としている。
【0010】
これにより、自動培養装置は、自動化により生じる新たな汚染源を、培養容器の上端開口部よりも下方に位置させるものであるため、摺動部から発生する粉塵などによる培養容器内の汚染を可及的に回避することが可能となる。
【0011】
また、前記対象処理装置は、前記基準面の下方から上方にわたって延びる柱状部と、前記ノズルを保持する部分であって、前記柱状部の上端部に固定される保持部とを備え、前記摺動部は、柱状部の下端部に配置されることが好ましい。
【0012】
これにより、より具体的に摺動部から発生する粉塵などによる培養容器内の汚染を可及的に回避することが可能となる。
【0013】
また、前記基準面は、培養容器が載置される観察台の面から上方に20mm離れた面であることが好ましい。
【0014】
これによれば、摺動部から発生する粉塵などによる汚染からほぼ全ての培養容器を保護することが可能となる。
【0015】
さらに、培養容器を保持し、搬送し、所定の場所に載置することのできる容器移載装置を前記キャビネット内に備え、前記容器移載装置は、培養容器を移載する際に摺動する摺動部を備え、前記摺動部は、前記基準面より下方にのみ配置されることが好ましい。
【0016】
これにより、容器移載装置の摺動部から発生する粉塵などによる培養容器内の汚染を可及的に回避することが可能となる。
【0017】
さらに、前記観察台上の培養容器を傾けることのできる傾動装置を前記キャビネットの内方に備え、前記傾動装置は、培養容器を傾ける際に摺動する摺動部を備え、前記摺動部は、前記基準面より下方にのみ配置されることが好ましい。
【0018】
これにより、傾動装置の摺動部から発生する粉塵などによる培養容器内の汚染を可及的に回避することが可能となる。
【0019】
さらに、観察対象を遠心力により処理する遠心分離機と、前記遠心分離機に用いられる遠沈管を保持し、搬送し、所定の場所に載置することのできる遠沈管移載装置とを前記キャビネットの内方に備え、前記遠沈管移載装置は、遠沈管を移載する際に摺動する摺動部を備え、前記摺動部は、前記基準面より下方にのみ配置されることが好ましい。
【0020】
これにより、遠沈管移載装置の摺動部から発生する粉塵などによる培養容器内の汚染を可及的に回避することが可能となる。
【0021】
さらに、前記遠沈管移載装置は、遠沈管の上端開口面が前記基準面よりも上方に存在するように遠沈管を保持することが好ましい。
【0022】
これによれば、摺動部から発生する粉塵などによる汚染から遠沈管も保護することが可能となる。
【0023】
上記目的を達成するために、本願発明にかかる自動培養装置は、無菌環境を形成するキャビネット内の培養容器で細胞等の観察対象を培養し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置であって、培養容器が載置される観察台と、前記観察台に載置された培養容器内の観察対象を観察するための観察装置と、前記キャビネット内の全ての培養容器が閉鎖されているか否かを判定する閉鎖判定部と、培養容器が閉鎖されていないと前記閉鎖判定部が判定している場合は、前記観察台に載置される培養容器の上端開口面以下の水平方向に広がる基準面より下方でのみ前記キャビネット内の摺動部の摺動を許可する摺動規制部とを備えることを特徴とする。
【0024】
これにより、ハードウエア的に摺動部が基準面よりも上方に存在していたとしても、自動化により生じる新たな汚染から培養容器を保護することが可能となる。
【0025】
上記目的を達成するために、本願発明にかかる自動培養方法は、無菌環境を形成するキャビネット内の培養容器で細胞等の観察対象を培養し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置を用いた自動培養方法であって、前記キャビネット内の全ての培養容器が閉鎖されているか否かを判定する閉鎖判定工程と、培養容器が閉鎖されていない場合は、前記観察台に載置される培養容器の上端開口面以下の水平方向に広がる基準面より下方でのみ前記キャビネット内の摺動部の摺動させる摺動工程とを備えることを特徴とする。
【0026】
これにより、ハードウエア的に摺動部が基準面よりも上方に存在していたとしても、自動化により生じる新たな汚染から培養容器を保護しつつ、培養と観察とを行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明によれば、自動的に培養に関連する作業を行うことができるにもかかわらず、摺動によって発生する汚染から培養容器などを有効に保護した状態で培養の操作をし、培養状態などの観察を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に本願発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1は、本願発明にかかる自動培養装置の実施の形態を模式的に透視状体で示す斜視図である。
【0030】
図2は、自動培養装置の内部を模式的に示す上面図である。
【0031】
これらの図に示す自動培養装置100は、培養容器としてのディッシュ200を複数保持し、それぞれのディッシュ200に対して培養に関する作業などを自動で行うことができる装置であり、観察台101と、観察装置102と、対象処理装置としてのアスピレータ装置103と、細胞数検査装置104と、対象処理装置としてのピペッティング装置105と、容器移載装置106と、傾動装置107と、遠沈管移載装置108とをキャビネット109内に備えている。さらに、自動培養装置100は、受入台194と、分配台195と遠心分離機196と、照明装置197とを備えている。
【0032】
キャビネット109は、上記各装置などを含む作業空間を無菌状態に維持することのできるチャンバーである。本実施の形態の場合、キャビネット109は、HEPAフィルターにより空気を濾過し、クリーン(無菌状)な空気を創り出すことができる。また、創り出されたクリーンな空気は、キャビネット109の天井部から下方に向かうように流されており、キャビネット109は、浮遊する菌や塵を作業空間の床面から排出することで作業空間を無菌状態に維持できるものとなっている。
【0033】
具体的には、キャビネット109とは、クリーンベンチや安全キャビネット等を含む概念であり、一般的には、バイオハザード対策用キャビネットとも呼ばれている。
【0034】
本実施の形態の場合、キャビネット109は、自動培養装置100の作業者への安全を考慮して、自動培養装置100内の空気が作業者の方(外方)にそのまま排気されないものとなっている。つまり、バイオハザード等の危険に対して作業者を保護し、キャビネット109内方の空気がそのまま拡散して周囲環境が悪化することを防止し、かつ、自動培養装置100内で使用される培地や細胞などの試料を保護するため、導入する外気をフィルターで濾過し、循環させる空気や排気する空気もフィルターにより濾過している。
【0035】
なお、本願発明はキャビネット109として、自動培養装置100内の空気が作業者の方(外方)にそのまま排気されるような構成を採用してもかまわない。採用されるキャビネット109の機能は、培養する細胞などの種類によって選択すればよい。
【0036】
図3は、観察台と観察装置とを模式的に示す側面図である。
【0037】
観察台101は、培養容器としてのディッシュ200やウエルプレートなどが載置される部材である。本実施の形態の場合、観察台101は、ガラスなどの透明な部材で形成される天板110を備えており、ディッシュ200内の観察対象を下方から観察できるものとなっている。観察台101は、Y軸方向に天板110を往復動することができるY軸駆動機構111とY軸リニアガイド112とを有するY軸駆動装置114と、同様にX軸方向に天板110を往復動することができるX軸駆動装置113とを備え、天板110上に載置されたディッシュ200の位置の微調整を行うことができるものとなっている。
【0038】
ここで、図中の一点鎖線は、観察台101に載置される培養容器としてのディッシュ200の上端開口面191を示している。上端開口面191は、水平方向(図中XY平面)に広がる仮想的な面であり、観察台101の上端縁を含む面である。
【0039】
図中の二点鎖線は、上端開口面191以下の水平方向に広がる基準面192である。本実施の形態の場合、基準面192は、ディッシュ200が載置される天板110の上面から20mm上方に設定されている(図中h参照)。
【0040】
X軸駆動装置113とY軸駆動装置114とは観察対象を観察する際に摺動する摺動部(図示せず)を備えているが、同図に示すように、いずれの摺動部も、基準面192よりも下方に配置されている。
【0041】
観察装置102は、観察台101に載置されたディッシュ200内の観察対象を観察するための装置である。本実施の形態の場合、観察装置102は、光学顕微鏡と前記光学顕微鏡で得られる像を撮像することのできるカメラとを備えている。観察装置102は、ディッシュ200内の観察対象に焦点を合わせるための駆動機構(図示せず)を備えており、観察対象を観察する際に摺動する摺動部(図示せず)が存在するが、当該摺動部も基準面192よりも下方に配置されている。
【0042】
アスピレータ装置103は、対象処理装置であって、観察台101に載置されたディッシュ200内方にノズル141の先端を移動させ、ディッシュ200内の液体やゲルなどの流動体を吸入し、外部に廃棄するものである。また、本実施の形態の場合、アスピレータ装置103は、後述する遠沈管に対してもノズル141を挿入でき、液体やゲルなどの流動体を吸入し廃棄することが可能となっている。
【0043】
図4は、アスピレータ装置を模式的に示す側面図である。
【0044】
同図に示すように、アスピレータ装置103は、アスピレータ130と、ノズル駆動装置131とを備えている。
【0045】
アスピレータ130は、ディッシュ200内の液体やゲルなどの流動体を吸入し、外部に廃棄する装置であり、ノズル141と、チューブ132と、吸引ポンプ133と、廃棄タンク134とを備えている。
【0046】
ノズル141は、ディッシュ200や遠沈管に挿入するための部材であり、ノズル駆動装置131に固定される部材である。ノズル141はディッシュ200内の培地などと直接接触する部材であるため、交換可能となっている。
【0047】
なお、ノズル141を交換する場合、ノズル141の一部分が取付対象の部材と摺動するが、当該摺動する部分は対象物を処理する際に摺動する摺動部ではない。
【0048】
ここで、培地とは、細胞の培養に用いるマトリックスであり、アミノ酸、ビタミン、ブドウ糖等の栄養素や仔牛血清等の増殖因子などを含んでいる。
【0049】
チューブ132は、ノズル141と吸引ポンプ133とを結ぶ管である。チューブ132は、ノズル駆動装置131によるノズル141の動きに追随させるため、柔軟な素材で構成されている。
【0050】
吸引ポンプ133は、ディッシュ200から培地などの液体やゲルなどを吸引するための吸引力を発生させる装置である。吸引ポンプ133にも摺動する部分が存在するが、吸引ポンプ133は、キャビネット109外に存在するため、吸引ポンプ133の摺動する部分は、本願発明にかかる摺動部ではない。
【0051】
廃棄タンク134は、吸引ポンプ133により吸引された廃液などを蓄えておくタンクである。
【0052】
ノズル駆動装置131は、アスピレータ130のノズル141をディッシュ200や遠沈管に移動させ、ノズル141をディッシュ200や遠沈管に挿入するための装置である。
【0053】
ノズル駆動装置131は、XY駆動装置135と、回動装置136と、揺動装置137と、Z駆動装置138とを備えている。これらの各装置は、ディッシュ200の内部や遠沈管の内部にある液体などを処理する際に、ノズル141を移動させるための装置であり、それぞれ摺動部193を備えている。これらの摺動部193は、全て基準面192の下方でのみ摺動するものとなっている。
【0054】
また、対象処理装置としてのアスピレータ装置103は、基準面192の下方から上方にわたって延びる柱状部139と、ノズル141を保持する部分であって、柱状部139の上端部に固定される保持部140とを備えており、摺動部193は、柱状部139の下端部に配置されている。
【0055】
以上により、基準面192の下方にのみ摺動部193が存在させているにもかかわらず、ノズル141をディッシュ200の周壁を越えて移動させ、また、ノズル141をディッシュ200の内方に挿入することが可能となっている。
【0056】
ピペッティング装置105は、対象処理装置であって、観察台101に載置されたディッシュ200内や遠沈管内に培地、剥離液、洗浄液などを供給する装置である。このピペッティング装置105は、具体的には培地供給モジュールと、剥離液供給モジュールと、洗浄液供給モジュールと、ノズル駆動装置とを有している。
【0057】
ここで、剥離液とは、細胞同士及び細胞と器壁との接着を剥がして単一細胞からなる浮遊液を作るものであり、具体的にはトリプトシン/EDTA(PET)等である。
【0058】
洗浄液とは、単一細胞からなる浮遊液を作る際、剥離液注入前に細胞を洗浄するものであり、具体的にはPBS(−)等である。
【0059】
培地供給モジュールは、具体的には、一回の操作で使用する培地を貯蔵する第2次培地タンクと、チューブ132と同様の可撓性のあるチューブと、培地を圧送することのできるポンプと、全ての操作で使用する培地を貯蔵する第1次培地タンク等を備えている。この第1次培地タンクは、培地を低温にて保存している。培地を供給する際は、培地を37℃前後の所定温度に昇温するための第2次培地タンクに移送して保存している。
【0060】
剥離液供給モジュールは、上記培地供給モジュールと同様の構造を有しており、所定量の剥離液を第2次剥離液タンクなど(図示せず)に供給できるものとなっている。
【0061】
洗浄液供給モジュールも、上記培地供給モジュールと同様の構造を有しており、所定量の洗浄液を第2次洗浄液タンクなど(図示せず)に供給できるものとなっている。
【0062】
ピペッティング装置105は、培地供給モジュールや剥離液供給モジュールや洗浄液供給モジュールの第2次薬液タンク内の薬液をディッシュ200や遠沈管に供給するための装置である。ピペッティング装置105が備えるノズル駆動装置は、アスピレータ装置103が備えるノズル駆動装置131と同様の構造を備えており、基準面192より下方にのみ、培地や剥離液や洗浄液を供給する際に摺動する摺動部を備えている。
【0063】
上記の構成によりピペッティング装置105のノズル駆動装置は、観察台101に載置されたディッシュ200内方にノズルの先端を移動させ、ディッシュ200や遠沈管内の液体やゲルなどを定量的に吸入し、吸入した液体やゲルなどを定量的に吐出する装置である。ピペッティング装置105は、具体的にはピペッターと、ノズル駆動装置とを有している。
【0064】
ピペッターは、具体的には、液体などを吸入し保持しておくことのできるノズルと、液体などを正確な量だけ吸入し、吐出することのできる吸排装置とを備えている。
【0065】
ノズル駆動装置は、ノズルをディッシュ200や遠沈管に移動させ、当該ノズルをディッシュ200や遠沈管に挿入するための装置である。ピペッティング装置105が備えるノズル駆動装置は、アスピレータ装置103が備えるノズル駆動装置131と同様の構造を備えており、基準面192より下方にのみ、培地や剥離液や洗浄液を供給する際に摺動する摺動部を備えている。
【0066】
細胞数検査装置104は、所定量の細胞懸濁液が供給された状態を、細胞観察装置102で観察することで、単位液量当りの細胞数を算出することが出来る装置である。この装置も、基準面192より下方にのみ摺動する摺動部を備えている。
【0067】
容器移載装置106は、培養容器であるディッシュ200を保持し、搬送し、所定の場所に載置することのできる装置である。
【0068】
傾動装置107は、観察台101上の培養容器であるディッシュ200を傾けることのできる装置である。
【0069】
図5は、容器移載装置106を模式的に示す図であり、同図(a)は、y方向から望む側面図、同図(b)は、x方向から望む上部だけを示す側面図である。
【0070】
容器移載装置106は、受入台194や、観察台101や、分配台195に載置されるディッシュ200を保持し、持ち上げ、各台にまで移動させ、各台に載置することのできる装置である。容器移載装置106は、XY駆動装置161と、Z駆動装置162と、保持力発生装置163とを備えている。これらの各装置は、ディッシュ200を所定の場所に移送する際に駆動する装置であり、それぞれ摺動部193を備えている。これらの摺動部193は、全て基準面192の下方でのみ摺動するものとなっている。
【0071】
傾動装置107は、観察台101上の培養容器であるディッシュ200を傾けることのできる装置である。傾動装置107は、ディッシュ200を傾けることにより、ディッシュ200内の液体などが一方に偏り、アスピレータ装置103によって液体を処理しやすくする機能を備えており、カム170や、傾動軸171を備えている。これらの各部材は、ディッシュ200を傾ける際に摺動する摺動部193を備えているが、これらは全て基準面192の下方に配置されている。本実施の形態の場合、傾動装置107は、容器移載装置106に組み込まれている。
【0072】
遠沈管移載装置108は、観察対象を受け取る位置から遠心分離機196まで遠沈管を移載することのできる装置である。遠沈管移載装置108は、XY方向、Z方向、θ方向に移動自在であり、各所に摺動部(図示せず)を備えるが、いずれの摺動部も基準面192の下方に配置されている。
【0073】
上記実施の形態によれば、例えば、蓋が開けられたディッシュ200内の観察対象細胞を培養操作する際に、アスピレータ装置103や、容器移載装置106などが稼動しても、摺動部193から放出される粉塵や油煙などによりディッシュ200内が汚染されることを回避することが可能となる。つまり、キャビネット109内に発生している空気の流れが上方から下方に向かっているため、摺動部193から汚染源が発生してもこれらは下方に向かって追いやられる。摺動部193は、培養容器であるディッシュ200の上端開口面191の下方に設定される基準面192よりも下方に配置されているため、摺動部193から発生した汚染源がディッシュ200の周壁を乗り越えることを回避できる。
【0074】
上記自動培養装置100によれば、ディッシュ200などの培養容器の蓋が開いた状態でも、培養容器内を汚染することなくキャビネット109内で作業を行うことが可能となる。
【0075】
なお、本特許請求の範囲や明細書において、摺動部とは、培養容器を移載する作業、培養容器を傾ける作業、遠沈管を移載する作業、アスピレータ装置103や細胞数検査装置104やピペッティング装置105のノズルを移動させる作業を実施するにあたり、一の部材と他の部材とが擦れている部分を意味する単語として用いている。従って、安全キャビネット109の扉も摺動する部分を備えているが、これらの摺動する部分は本願発明の摺動部には含まれない。
【0076】
また、キャビネット109内には、クリーンな空気を送風する為に設置する送風装置が設けられており、当該送風装置も摺動する部分を備えている。当該摺動する部分は、基準面より上方に配置される場合もあるが、HEPA等のフィルターを通過する空気のフィルターに対する風上側に送風装置を配置する事で、送風装置の摺動する部分は、本願発明で問題とする摺動部には含まれなくなる。
【0077】
また、摺動部とは擦れる部分を意味し、その意味において直線方向に擦れる部分や円方向に擦れる部分も含まれ、ギアのかみ合わせによって擦れる部分や、ボールねじのようにボールが転がりながら溝と擦れる部分も含まれる。すなわち、摺動により粉塵や油煙などが発生する部分は摺動部に含まれる。
【0078】
なお、本実施の形態では、培養容器として円形のディッシュ200を例示して説明したが、培養容器はディッシュ200ばかりでなく、図6に示す矩形のウエルプレート201など、任意の容器でかまわない。
【0079】
次に、本願発明にかかる他の実施の形態について説明する。
【0080】
図7は、本実施の形態にかかる自動培養装置を示すブロック図である。
【0081】
同図に示すように、自動培養装置100は、キャビネット109内の培養容器で細胞等の観察対象を培養操作し、当該観察対象を観察することのできる装置であって、培養容器が載置される観察台101と、観察台101に載置された培養容器内の観察対象を観察するための観察装置102と、対象処理装置としてのアスピレータ装置103と、対象処理装置としての細胞数検査装置104と、対象処理装置としてのピペッティング装置105と、容器移載装置106と、傾動装置107と、遠沈管移載装置108とを機構部として安全キャビネット109内に備えている。さらに、自動培養装置100は、前記機構部を制御するための機能部として、閉鎖判定部301と、摺動規制部302とを備えている。
【0082】
前記機構部に関しては、上述の各装置などと機能、構成は同様である。ただし、本実施の形態の場合、摺動部193が基準面192以下にのみ配置されるという条件は前記機構部に課せられていない。
【0083】
閉鎖判定部301は、キャビネット109内の全ての培養容器が閉鎖されているか、もしくは、培養容器の蓋がされているか否かを判定する処理部である。具体的には、培養容器の蓋を閉じる動作の指示回数が、培養容器の蓋を開ける動作の指示回数と同じ、または、上回っている場合には全ての培養容器が閉鎖されていると判定する。
【0084】
摺動規制部302は、培養容器が閉鎖されていないと閉鎖判定部301が判定している場合には、観察台101に載置される培養容器の上端開口面191以下の水平方向に広がる基準面192より下方でのみキャビネット109内の全摺動部の摺動を許可する処理部である。具体的には、基準面192よりも上方に摺動部193を有する装置に関しては、稼動を停止させ、基準面192よりも下方にのみ摺動部193を有する装置については稼動を許可する制御を行う。
【0085】
なお、キャビネット109内にクリーンな空気を流通させるための送風装置など、無菌環境外に配置される装置に関しては前記制御の対象外である。つまり、無菌環境内に配置される摺動部193を有する装置が制御対象となる。
【0086】
以上のような構成の自動培養装置100であれば、基準面192よりも上方に摺動部193を備えることができるため、設計の自由度が向上する。つまり、培養容器が開放状態にある場合でも稼動させる必要のある装置のみ、基準面192よりも下方に摺動部193を配置すればよい。一方、基準面192よりも上方に摺動部193がある装置に関しては、培養容器が開放状態にある場合は、動作が規制されるため、培養容器内部の汚染を回避することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本願発明にかかる自動培養装置は、細胞等を自動で培養し、観察する装置に適用できる。具体的には、培地交換作業、継代作業、観察作業をキャビネット内で自動的に行う装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本願発明にかかる自動培養装置の実施の形態を模式的に透視状体で示す斜視図である。
【図2】自動培養装置の内部を模式的に示す上面図である。
【図3】観察台と観察装置とを模式的に示す側面図である。
【図4】アスピレータ装置を模式的に示す側面図である。
【図5】容器移載装置106を模式的に示す図であり、(a)は、y方向から望む側面図、(b)は、x方向から望む上部だけを示す側面図である。
【図6】培養容器のバリエーションを示す平面図である。
【図7】本実施の形態にかかる自動培養装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0089】
100 自動培養装置
101 観察台
102 観察装置
103 アスピレータ装置
104 細胞数検査装置
105 ピペッティング装置
106 容器移載装置
107 傾動装置
108 遠沈管移載装置
109 キャビネット
110 天板
111 軸駆動機構
112 軸リニアガイド
113 X軸駆動装置
114 Y軸駆動装置
130 アスピレータ
131 ノズル駆動装置
132 チューブ
133 吸引ポンプ
134 廃棄タンク
135 XY駆動装置
136 回動装置
137 揺動装置
138 Z駆動装置
139 柱状部
140 保持部
141 ノズル
161 XY駆動装置
162 Z駆動装置
163 保持力発生装置
170 カム
171 傾動軸
191 上端開口面
192 基準面
193 摺動部
194 受入台
195 分配台
196 遠心分離機
197 照明装置
200 ディッシュ
201 ウエルプレート
301 閉鎖判定部
302 摺動規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器内の培地で細胞等の観察対象を培養し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置であって、
培養容器が載置される観察台と、
前記観察台に載置された培養容器内の観察対象を観察するための観察装置と、
前記観察台に載置された培養容器内の液体を吸入し、または、前記観察台に載置された培養容器内に液体を吐出する対象処理装置と、
前記観察台と、前記対象処理装置とを無菌環境下に維持しうるキャビネットとを備え、
前記対象処理装置は、対象物を処理する際に摺動する摺動部を備え、
前記摺動部は、前記観察台に載置される培養容器の上端開口面以下の水平方向に広がる基準面より下方にのみ配置される
自動培養装置。
【請求項2】
前記対象処理装置は、
培養容器に挿入されるノズルと、
前記基準面の下方から上方にわたって延びる柱状部と、
前記ノズルを保持する部分であって、前記柱状部の上端部に固定される保持部とを備え、
前記摺動部は、柱状部の下端部に配置される
請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項3】
前記基準面は、培養容器が載置される観察台の面から上方に20mm離れた面である請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項4】
さらに、
培養容器を保持し、搬送し、所定の場所に載置することのできる容器移載装置を前記キャビネット内に備え、
前記容器移載装置は、培養容器を移載する際に摺動する摺動部を備え、
前記摺動部は、前記基準面より下方にのみ配置される
請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項5】
さらに、
前記観察台上の培養容器を傾けることのできる傾動装置を前記キャビネットの内方に備え、
前記傾動装置は、培養容器を傾ける際に摺動する摺動部を備え、
前記摺動部は、前記基準面より下方にのみ配置される
請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項6】
前記対象処理装置は、液体を吸い出すアスピレータ装置、または、培地、剥離液、洗浄液などを供給する供給装置、または、液体を定量的に吸入及び吐出するピペッティング装置である請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項7】
さらに、観察対象を遠心力により処理する遠心分離機と、
前記遠心分離機に用いられる遠沈管を保持し、搬送し、所定の場所に載置することのできる遠沈管移載装置とを前記キャビネットの内方に備え、
前記遠沈管移載装置は、遠沈管を移載する際に摺動する摺動部を備え、
前記摺動部は、前記基準面より下方にのみ配置される
請求項1に記載の自動培養装置。
【請求項8】
前記遠沈管移載装置は、遠沈管の上端開口面が前記基準面よりも上方に存在するように遠沈管を保持する請求項7に記載の自動培養装置。
【請求項9】
無菌環境を形成するキャビネット内の培養容器で細胞等の観察対象を培養し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置であって、
培養容器が載置される観察台と、
前記観察台に載置された培養容器内の観察対象を観察するための観察装置と、
前記キャビネット内の全ての培養容器が閉鎖されているか否かを判定する閉鎖判定部と、
培養容器が閉鎖されていないと前記閉鎖判定部が判定している場合は、前記観察台に載置される培養容器の上端開口面以下の水平方向に広がる基準面より下方でのみ前記キャビネット内の摺動部の摺動を許可する摺動規制部と
を備える自動培養装置。
【請求項10】
無菌環境を形成するキャビネット内の培養容器で細胞等の観察対象を培養し、当該観察対象を観察することのできる自動培養装置を用いた自動培養方法であって、
前記キャビネット内の全ての培養容器が閉鎖されているか否かを判定する閉鎖判定工程と、
前記閉鎖判定工程で培養容器が閉鎖されていないと判定される場合は、前記観察台に載置される培養容器の上端開口面以下の水平方向に広がる基準面より下方でのみ前記キャビネット内の摺動部を摺動させる摺動工程と
を備える自動培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−136666(P2010−136666A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315518(P2008−315518)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】