説明

自動採水装置

【課題】大気非接触の状態を保ちながら液体試料を採取することを可能とする。
【解決手段】大気非接触状態の液体試料が取り入れられる流入ポート1b並びに気密性を保ちながら液体試料を複数の採取容器2に振り分けて溜める仕組み及び採取容器2の容積を超えて液体試料が採取容器2内に吐出された場合に容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みを有するマルチポジションバルブ1と、マルチポジションバルブ1の二つの仕組みが予め定められた時間間隔で動作するように制御する制御部3とを有し、当該制御部3の制御によって大気非接触の状態を保ちながら液体試料を時間間隔で振り分けて複数の採取容器2に採取するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動採水装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば地下水などもともと大気非接触状態の液体試料を大気と接触させないで採水するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動採水装置としては、例えば連続自動式フラクションコレクターがある(特許文献1)。この連続自動式フラクションコレクターは、図2に示すように、液体クロマトグラフィ装置(図示省略)にて分離された液が排出ノズル101より多数の集液ビン102に排出されるように構成されたものであり、排出ノズル101は液体クロマトグラフィ装置に固定された横レール104に沿って直角を保って摺動する縦レール105に摺動自在に設けられており、また、集液ビン102は縦横に整列した状態で専用ラック103に格納されており、縦レール105が横レール104に沿って移動し且つノズル101がその縦レール105上を移動するので該ノズル101はA1位置からJ10位置までの全ての集液ビン102の位置まで移動するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−140127号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のフラクションコレクターでは、排出ノズル101及び集液ビン102が大気開放された構造であるので、排出ノズル101から排出されて集液ビン102に滴下する際に分析対象の液体試料が大気に触れてしまう。これにより、分析対象の液体試料が酸化してしまったり大気中の雑菌が液体試料に混入してしまったりする。したがって、原位置において大気非接触状態にある例えば地下水などを原位置における状態のまま採取・保管するために大気と接触させることなく採取することはできない。このため、大気と接触することによる影響が採取された液体試料の分析結果に反映されてしまう虞があり、原位置において大気非接触状態の液体試料について特に正確な分析結果を得るに十分な構成を備えているとは言えない。
【0005】
そこで、本発明は、大気非接触の状態を保ちながら液体試料を採取することができる自動採水装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、任意の時間間隔で液体試料を採取することができる自動採水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の自動採水装置は、大気非接触状態の液体試料が取り入れられる流入ポート並びに気密性を保ちながら液体試料を複数の採取容器に振り分けて溜める仕組み及び採取容器の容積を超えて液体試料が採取容器内に吐出された場合に容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みを有するマルチポジションバルブと、マルチポジションバルブの二つの仕組みが予め定められた時間間隔で動作するように制御する制御部とを有し、当該制御部の制御によって大気非接触の状態を保ちながら液体試料を時間間隔で振り分けて複数の採取容器に採取するようにしている。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の自動採水装置において、マルチポジションバルブが、液体試料を複数の採取容器に振り分けて溜める仕組みとして、流入ポートと連通する環状の流入ラインと、当該流入ラインに設けられた流入ジョイントと、当該流入ジョイントが接続される流入コネクタを一端に有し当該流入コネクタに流入ジョイントが接続されることによって他端から液体試料を吐出する複数の吐出ポートとを備え、また、採取容器の容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みとして、採取容器に一端が接続されると共に他端に流出コネクタを有する流出ポートと、流出コネクタと接続される流出ジョイントと、当該流出ジョイントが設けられる環状の排出ラインと、当該排出ラインと連通する排出ポートとを備えるようにしている。
【0008】
したがって、これらの自動採水装置によると、流入ポートから取り入れられてから採取容器への振り分けに至るまで密閉系が構成されて分析対象の液体試料が大気と接触することなく採取される。また、これらの自動採水装置によると、任意の時間間隔で液体試料の採取が自動で行われる。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の自動採水装置において、マルチポジションバルブの二つの仕組みを動作させると共に制御部を動作させるためのバッテリーを更に有するようにしている。この場合には、マルチポジションバルブと制御部とがバッテリーで駆動するようにしているので、商用電源を用いる必要がなく、商用電源の有無に関係なくどのような場所にも容易に設置され得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自動採水装置によれば、流入ポートから取り入れられてから採取容器への振り分けに至るまで密閉系が構成されて分析対象の液体試料が大気と接触することなく採取されるので、液体試料の酸化や大気中の雑菌の液体試料への混入を防ぐことができ、正確な分析結果を得るようにして信頼性の向上を図ることが可能になる。また、任意の時間間隔で液体試料の採取が自動で行われるので、手間を軽減すると共に汎用性の向上が可能になる。
【0011】
さらに、本発明の自動採水装置によれば、商用電源を用いる必要がなく、商用電源の有無に関係なくどのような場所にも容易に設置することができるので、汎用性の向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の自動採水装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】従来のフラクションコレクターを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明の自動採水装置を原位置トレーサー試験において採取される地下水の自動採取に適用した実施形態の一例を示す。この自動採水装置は、大気非接触状態の液体試料が取り入れられる流入ポート1b並びに気密性を保ちながら液体試料を複数の採取容器2に振り分けて溜める仕組み及び採取容器2の容積を超えて液体試料が採取容器2内に吐出された場合に容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みを有するマルチポジションバルブ1と、マルチポジションバルブ1の二つの仕組みが予め定められた時間間隔で動作するように制御する制御部3とを有し、当該制御部3の制御によって大気非接触の状態を保ちながら液体試料を時間間隔で振り分けて複数の採取容器2に採取するようにしている。
【0015】
本実施形態における原位置トレーサー試験は、岩盤20中に漏洩した有機態14Cの地下水移行挙動に及ぼす微生物影響を明らかにするため、岩盤原位置にボーリングによって設けられた注入孔21にBrトレーサ入りの13C標識酢酸イオン溶液を圧入して岩盤20内を浸透させると共に注入孔21から所定の距離離れた位置にボーリングによって設けられた回収孔22から地下水を採取し、採取された地下水を分析することによって間隙中に棲息する微生物による分解挙動を明らかにするものである。そして、この試験に纏わる分析を正確に行うためには、回収孔22内において大気非接触状態にある地下水を、酸化や雑菌の混入を防ぐために大気非接触状態のままで採取する必要がある。なお、注入孔21及び回収孔22は横孔として設けられる。
【0016】
回収孔22から湧出する分析対象の液体試料としての地下水は、一端が回収孔22に差し込まれると共に他端がマルチポジションバルブ1に接続される回収ライン23(具体的には流路管)によってマルチポジションバルブ1に取り入れられる。なお、回収孔22の岩盤20表面の開口部においては回収ライン23を貫通させるキャップ22aによって回収ライン23の周囲が塞がれており、回収孔22から湧出して回収ライン23に流れ込む地下水は大気と接触することがなく岩盤20内からの大気非接触の状態が保たれる。なお、回収孔22内における地下水と大気との非接触をより確実なものとするために、地下水の回収位置(即ち回収深さ)の周辺の回収孔22内を地下水で満たすように回収孔22内の適当な位置に一つ若しくは複数の止水パッカーを設けるようにしても良い。
【0017】
本実施形態のマルチポジションバルブ1は、本体1aと、回収ライン23から取り入れられる地下水を気密性を保ちながら採取容器としての複数のサンプル瓶2に振り分けて溜めるための仕組みとして、回収ライン23が接続される流入ポート1bと、当該流入ポート1bと連通する環状の流入ライン1cと、当該流入ライン1cに設けられた流入ジョイント1dと、当該流入ジョイント1dが接続される流入コネクタ1eを一端に有し当該流入コネクタ1eに流入ジョイント1dが接続されることによって他端から地下水を吐出する複数の吐出ポート1fとを備える。
【0018】
ここで、回収ライン23と流入ポート1b,流入ポート1bと流入ライン1c,流入ジョイント1dと流入コネクタ1eとはいずれも水密性・気密性を有して接続・連通される。
【0019】
なお、本実施形態のマルチポジションバルブ1は8つの吐出ポート1fを有するようにしているが、本発明に用いられるマルチポジションバルブ1の吐出ポート1fの個数は8つに限られるものではなく、分析対象の液体試料の採取計画に必要とされる個数の吐出ポート1fを少なくとも有するマルチポジションバルブが用いられる。
【0020】
そして、マルチポジションバルブ1の各吐出ポート1fの位置には各吐出ポート1fの吐出開口側が差し込まれて吐出ポート1fから吐出される地下水を溜めるための複数のサンプル瓶2が載置される。
【0021】
サンプル瓶2の上端開口には、吐出ポート1fの吐出開口側が接続される(言い換えると、差し込まれる)流入バルブが備えられているバルブ付きキャップ2aが取り付けられる。これにより、吐出ポート1fから吐出されてサンプル瓶2の内部に溜められる地下水は大気と接触しない。なお、各吐出ポート1fの位置に合わせてサンプル瓶2を配置して吐出ポート1fとサンプル瓶2とを直接接続することが困難である場合などは、各吐出ポート1fの吐出開口にチューブ等の流路管の一端を取り付けると共に当該流路管の他端をサンプル瓶2のバルブ付きキャップ2aに取り付けるようにしても良い。
【0022】
そして、各吐出ポート1f及び流入コネクタ1eは本体1aに固定して取り付けられていると共に環状の流入ライン1cは本体1aに対して回転可能に取り付けられており、流入ライン1cが回転することによって当該流入ライン1cに設けられている流入ジョイント1dが接続される流入コネクタ1e及び吐出ポート1fが切り換えられ、流入ポート1bから取り入れられる地下水がマルチポジションバルブ1を経由して溜められるサンプル瓶2が切り換えられる。
【0023】
本実施形態のマルチポジションバルブ1は、さらに、サンプル瓶2の容積を超えて吐出ポート1fから地下水がサンプル瓶2内に吐出された場合に容積を超えた分の地下水を排出するための仕組みとして、サンプル瓶2に取り付けられたバルブ付きキャップ2aに備えられている流出バルブに一端が接続される(言い換えると、差し込まれる)と共に他端に流出コネクタ1gを有する流出ポート1hと、流出コネクタ1gと接続される流出ジョイント1iと、当該流出ジョイント1iが設けられる環状の排出ライン1jと、当該排出ライン1jと連通する排出ポート1kとを備える。
【0024】
ここで、流出ジョイント1iと流出コネクタ1g,排出ポート1kと排出ライン1jとはいずれも水密性・気密性を有して接続・連通される。また、流出バルブが取り付けられたキャップ2aによってサンプル瓶2と流出ポート1hとの接続も水密性・気密性が確保される。
【0025】
そして、各流出ポート1h及び流出コネクタ1gは本体1aに固定して取り付けられていると共に環状の排出ライン1jは本体1aに対して回転可能に取り付けられており、排出ライン1jが回転することによって当該排出ライン1jに設けられている流出ジョイント1iが接続される流出コネクタ1g及び流出ポート1hが切り換えられ、サンプル瓶2から溢れ出る地下水がマルチポジションバルブ1を経由して排出ポート1kから系外に排出される。
【0026】
以上の構成により、回収孔22内に湧出してから、回収ライン23を通過して流入ポート1bからマルチポジションバルブ1に取り入れられ、当該マルチポジションバルブ1によって吐出先が切り換えられて各サンプル瓶2に溜められるまで、地下水は大気と接触しない状態が保たれる。
【0027】
本発明の自動採水装置は、また、マルチポジションバルブ1の制御を行う制御部3を有する。なお、制御部3は、マルチポジションバルブ1に内蔵されるものであっても良いし、制御部3とは別体の外部機器として構成されるものであっても良い。
【0028】
制御部3は、回収ライン23から取り入れられる地下水を試料として溜めるために各サンプル瓶2への振り分けを行うマルチポジションバルブ1の制御を行うものである。本実施形態の場合には、制御部3は、タイムスイッチの機能を少なくとも備え、予め設定された時間間隔で流入ライン1c及び排出ライン1jを動作させて流入ジョイント1dと流入コネクタ1eとの接続及び流出ジョイント1iと流出コネクタ1gとの接続を切り換えて地下水を溜めるサンプル瓶2を切り換えるようにする。
【0029】
なお、流入ジョイント1dが接続される流入コネクタ1eと流出ジョイント1iが接続される流出コネクタ1gとは、同一のサンプル瓶2に接続されている吐出ポート1fと流出ポート1hとのそれぞれに取り付けられているコネクタ1e,1gの組み合わせである。そして、予め設定された時間間隔の間は、流入ライン1cも排出ライン1jも動作することがなく、特定のサンプル瓶2に対して吐出ポート1fから地下水が吐出され続け、サンプル瓶2の容量を超えた場合には越えた分は流出ポート1hから排出され続ける。
【0030】
本発明の自動採水装置は、さらに、バッテリー4を備える。バッテリー4は制御部3に電力を供給すると共に制御部3の命令に従って動作する際にマルチポジションバルブ1に電力を供給する。なお、本発明においてマルチポジションバルブ1の流入ライン1cと排出ライン1jとが動作するのは予め決められた時間間隔毎のみであるので、バッテリーとして大きな出力を有するものである必要はなく、コンパクトなもので十分である。そして、コンパクトなバッテリーで動作可能であるので、商用電源を必要とする場合のような制約がなくどこでも本発明の自動採水装置を用いることが可能になり、且つ、持ち運びが容易な構成とすることが可能になる。
【0031】
以上のように構成された本発明の自動採水装置によれば、流入ポート1bから取り入れられてからサンプル瓶2への振り分けに至るまで密閉系が構成されて分析対象の液体試料が大気と接触することなく採取されるので、液体試料の酸化や大気中の雑菌の液体試料への混入を防ぐことができ、正確な分析結果を得るようにして信頼性の向上を図ることが可能になる。また、任意の時間間隔で液体試料の採取が自動で行われるので、手間を軽減すると共に汎用性の向上が可能になる。
【0032】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、本発明の自動採水装置を原位置トレーサー試験において採取される地下水の自動採取に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明の自動採水装置が適用され得る試験はこれに限られず、液体試料の採取・保管作業において対象試料を大気に接触させないことが望ましい或いは必要な種々の試験に適用することができる。
【0033】
また、本実施形態では、バルブ付きキャップ2aによって個々のサンプル瓶2と吐出ポート1f及び流出ポート1hとの接続に水密性・気密性を確保するように構成されているが、サンプル瓶2と吐出ポート1f及び流出ポート1hとの間の水密性・気密性の確保の仕方はこれに限られず、気密性を有するハウジング内に全てのサンプル瓶2を収容すると共に当該ハウジング内に挿入される吐出ポート1f及び流出ポート1h(或いはそれぞれに取り付けられるチューブ等の流路管)との間の気密性を確保する構成としても良い。
【0034】
また、本実施形態では、バッテリー4を有するものとして構成されているが、本発明の成立においてバッテリーを有することは必須のものではない。商用電源が確保できる場合や場所であれば、マルチポジションバルブ1も制御部3も商用電源で動作させるようにしても良い。
【0035】
また、本発明に用いられ得るマルチポジションバルブは、大気非接触状態の液体試料が取り入れられる流入ポート並びに気密性を保ちながら液体試料を複数の採取容器に振り分けて溜める仕組み及び採取容器の容積を超えて液体試料が採取容器内に吐出された場合に容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みを有するものであれば良く、本実施形態のマルチポジションバルブ1には限られない。
【符号の説明】
【0036】
1 マルチポジションバルブ
1b 流入ポート
2 採取容器(サンプル瓶)
3 制御部
4 バッテリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気非接触状態の液体試料が取り入れられる流入ポート並びに気密性を保ちながら前記液体試料を複数の採取容器に振り分けて溜める仕組み及び前記採取容器の容積を超えて前記液体試料が前記採取容器内に吐出された場合に前記容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みを有するマルチポジションバルブと、前記マルチポジションバルブの二つの仕組みが予め定められた時間間隔で動作するように制御する制御部とを有し、当該制御部の制御によって大気非接触の状態を保ちながら前記液体試料を前記時間間隔で振り分けて前記複数の採取容器に採取することを特徴とする自動採水装置。
【請求項2】
前記マルチポジションバルブが、前記液体試料を複数の採取容器に振り分けて溜める仕組みとして、前記流入ポートと連通する環状の流入ラインと、当該流入ラインに設けられた流入ジョイントと、当該流入ジョイントが接続される流入コネクタを一端に有し当該流入コネクタに前記流入ジョイントが接続されることによって他端から前記液体試料を吐出する複数の吐出ポートとを備え、また、前記採取容器の容積を超えた分の液体試料を排出するための仕組みとして、前記採取容器に一端が接続されると共に他端に流出コネクタを有する流出ポートと、前記流出コネクタと接続される流出ジョイントと、当該流出ジョイントが設けられる環状の排出ラインと、当該排出ラインと連通する排出ポートとを備えることを特徴とする請求項1記載の自動採水装置。
【請求項3】
前記マルチポジションバルブの二つの仕組みを動作させると共に前記制御部を動作させるためのバッテリーを更に有することを特徴とする請求項1または2記載の自動採水装置。

【図1】
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【図2】
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