説明

自動溶液注入デバイス

【課題】 マイクロポンプの自律的動作を可能とした自動溶液注入デバイスを提供する。
【解決手段】 被送液溶液を収容する被送液溶液注入区画と、被送液溶液注入区画との境界に位置するダイヤフラムと、ダイヤフラムにほぼ接する位置に固定された触媒物質とを有し、ガス発生溶液が外部から導入されるガス発生溶液注入区画とを有するマイクロポンプ部を備え、マイクロポンプ部は、ガス発生溶液注入区画に導入されたガス発生溶液が触媒物質に接触することにより生ずる気体が、ダイヤフラムを押圧して被送液溶液注入区画の容積を圧縮し、被送液溶液を押し出し送液を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小なチップ上で化学分析を行う微小化学分析システムにおいて、自動的に溶液注入を行うデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の微小化学分析システム(μTAS)に求められる重要な機能の一つは自律的動作である。自律的動作を実現するに際し、送液制御は最も重要な課題である。あらかじめ微小なチップ上にプログラムが書きこまれ、外部から何も電気信号を与えなくても自発的に決められた手順にしたがって送液制御を行うことができれば、駆動装置側の負担が軽くなる。
【0003】
微小なチップにおいて、送液制御を実現する技術としては、μTASにおいて外部からの電気信号により駆動する圧電素子を用いたマイクロポンプにより送液制御を行う機構がある(例えば、特許文献1参照)。また、圧電素子を用いない手段としては、マイクロ流体デバイスにおいて、光応答性ガス発生樹脂に光を照射することにより発生するガスの圧力により駆動するマイクロポンプがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−238168号公報
【特許文献2】特開2008−216192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術においては、圧電素子を駆動するための電気信号をプログラムにしたがって与える必要がある。特許文献2の技術においても、光応答性ガス発生樹脂に光を照射する必要があるため、やはり、光源を駆動するための電気信号をプログラムにしたがって与える必要がある。したがって、特許文献1及び特許文献2の技術を用いてμTASの自律的動作を実現することはできない。
【0006】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、μTASの自律的動作を実現することにより、駆動装置側の負担を軽くすることを可能とした自動溶液注入デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動溶液注入デバイスは、被送液溶液を収容する被送液溶液注入区画と、被送液溶液注入区画との境界に位置するダイヤフラムと、ダイヤフラムにほぼ接する位置に固定された触媒物質とを有し、ガス発生溶液が外部から導入されるガス発生溶液注入区画とを有するマイクロポンプ部を備え、マイクロポンプ部は、ガス発生溶液注入区画に導入されたガス発生溶液が触媒物質に接触することにより生ずる気体が、ダイヤフラムを押圧して被送液溶液注入区画の容積を圧縮し、被送液溶液を押し出し送液を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の自動溶液注入デバイスによれば、微小流路内を進行する過酸化水素溶液の到着のタイミングにより自動的にポンプが作動するため、外部に回路やプログラムを用意する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態の自動溶液注入デバイスの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態の自動溶液注入デバイスの分解斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態の自動溶液注入デバイスにおけるマイクロポンプ部を拡大した図である。
【図4】本発明の第2実施形態の自動溶液注入デバイスの全体構成を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態の自動溶液注入デバイスの実験結果を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態の自動溶液注入デバイスの全体構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態の自動溶液注入デバイスの第1のPDMS基板及び第2のPDMS基板の構成を示す図である。
【図8】本発明の第3実施形態の自動溶液注入デバイスの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の自動溶液注入デバイスの全体構成を示す図である。図1(a)は、本実施形態の自動溶液注入デバイスの正面図であり、図1(b)は、本実施形態の自動溶液注入デバイスの側面図である。図1に示すように、本実施形態の自動溶液注入デバイス1は、PDMS基板2枚とガラス基板を積層して作製される。
【0011】
図に示すように、本実施形態の自動溶液注入デバイス1は、ガラス基板100と、第1のPoly(Dimethylsiloxane)(PDMS)基板200と、ダイヤフラム300と、第2のPDMS基板400と、アクリル板500とがこの順番に積層して構成される。本実施形態の自動溶液注入デバイス1の概略の外形サイズは、10mm×14mm程度である。
【0012】
図2は、本実施形態の自動溶液注入デバイスの分解斜視図である。図3は、本実施形態の微小参照電極デバイス1における図1中のマイクロポンプ部Aを拡大した図及びその概略断面図である。
【0013】
図2及び図3に示すように、本実施形態の自動溶液注入デバイスは、2枚のPDMS基板のうち、上段には各種試薬溶液、下段には過酸化水素溶液を送液するための流路が形成される。それぞれの基板の流路にマイクロポンプ部が接続する。マイクロポンプ部は被送液溶液と二酸化マンガンを固定したゲルをダイヤフラムを介して配置することで構成される。
【0014】
本実施形態のガラス基板100は平板状の部材であり、自動溶液注入デバイス1の底部の部材となる。
【0015】
本実施形態の第1のPDMS基板200は、過酸化水素溶液注入区画201と、触媒固定ゲル202と、二酸化マンガン(触媒)粒子203と、過酸化水素溶液送液用微小流路204と、過酸化水素溶液供給区画205と、過酸化水素溶液送液用微小液絡路206と、空気抜き用流路207とを含んで構成される。
【0016】
過酸化水素溶液注入区画201は、第1のPDMS基板200を貫通する円形断面の穴である。過酸化水素溶液注入区画201内のダイヤフラム300側には、二酸化マンガン粒子203が触媒固定ゲル202により固定されている。また、過酸化水素溶液注入区画201内のガラス基板100側に過酸化水素溶液が流入可能な所定の空間が確保できるように、触媒固定ゲル202が配置される。触媒固定ゲル202には、例えば、光硬化性のPVA-SbQゲルを用いることができる。
【0017】
過酸化水素溶液送液用微小流路204は、過酸化水素溶液供給区画205と、過酸化水素溶液注入区画201とを接続する微小流路である。また、過酸化水素溶液送液用微小流路204は、過酸化水素溶液送液用微小液絡路206を介して過酸化水素溶液注入区画201に接続する。
【0018】
過酸化水素溶液送液用微小流路204の幅は、毛細管現象が発現する程度の幅であり、本実施形態では約500μmである。また、過酸化水素溶液送液用微小液絡路206の幅は、毛細管現象が発現する程度の幅であればよく、本実施形態では約300μmである
【0019】
過酸化水素溶液供給区画205は、第1のPDMS基板200を貫通する円形断面の穴である。
【0020】
空気抜き用流路207は、過酸化水素溶液注入区画201から外部へ連絡する空気抜き穴である。過酸化水素溶液注入区画201内部の空気が空気抜き用流路207から排出されることにより、過酸化水素溶液は過酸化水素溶液注入区画201内に滑らかに導入される。
【0021】
本実施形態のダイヤフラム300は、第1のPDMS基板200と第2のPDMS基板400の間に配置され、特に、第1のPDMS基板200の過酸化水素溶液注入区画201と、後述する第2のPDMS基板400の被送液溶液注入区画401との間に配置され、両区画を区分する。
【0022】
本実施形態のダイヤフラム300には、例えば、シリコーンフィルムを用いることができる。
【0023】
本実施形態の第2のPDMS基板400は、被送液溶液注入区画401と、被送液溶液用微小流路402と、注入口403と、被送液溶液用微小液絡路404とを含んで構成される。
【0024】
被送液溶液注入区画401は、第2のPDMS基板400を半貫通する円形断面の穴である。被送液溶液注入区画401は、ダイヤフラム300に積層する側が開口となっており、アクリル板500に接する側には注入口403が設けられる。
【0025】
被送液溶液用微小流路402は、被送液溶液用微小液絡路404を介して被送液溶液注入区画401に接続し、また、図1に示すように、被送液溶液の吐出口402aが自動溶液注入デバイス1の側面に形成される。
【0026】
被送液溶液用微小流路402の幅は、約500μmである。また、被送液溶液用微小液絡路404の幅は、約300μmである。
【0027】
本実施形態のアクリル板500は、第2のPDMS基板400上に配置され、特に、第2のPDMS基板400の注入口403上部に配置される。
【0028】
ここで、図1のA部に示す、被送液溶液注入区画401、ダイヤフラム300、過酸化水素溶液注入区画201、二酸化マンガン粒子203、及び、触媒固定ゲル202からなる箇所を、マイクロポンプ部Aとする。
【0029】
次に、本実施形態のマイクロポンプ部の動作について説明をする。本実施形態のマイクロポンプ部の動作原理は非常にシンプルである。本実施形態の自動溶液注入デバイスは、過酸化水素から酸素気泡を生じる触媒反応を利用し、このとき過酸化水素溶液注入区画201に生じる体積変化をポンプ駆動力とするものである。
【0030】
まず、被送液溶液注入区画401に被送液溶液を満たし、図3(b)に示すようにアクリル板500で封をする。次に、過酸化水素溶液供給区画205から過酸化水素溶液送液用微小流路204に過酸化水素溶液を導入すると、毛細管現象により溶液は流路中を自発的に送液され、過酸化水素溶液注入区画201内に浸入する。
【0031】
図3(d)に示すように、過酸化水素溶液が図中のB方向に送液され、過酸化水素溶液注入区画201内に過酸化水素溶液が供給されると、触媒固定ゲル202に固定された二酸化マンガン粒子203と過酸化水素溶液が接触し酸素が発生する。発生した酸素は泡(Bubbles)となり、ダイヤフラム300を押し上げる。
【0032】
ダイヤフラム300が押し上げられることにより、被送液溶液注入区画401の体積が減少し、被送液溶液注入区画401に注入された被送液溶液(Solution)は、図中のA方向に押し出され、被送液溶液用微小流路402に押し出される。
【0033】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態の自動溶液注入デバイスの全体構成を示す図である。図に示すように、本実施形態の自動溶液注入デバイスは、マイクロポンプを複数備える点で、第1実施形態の自動溶液注入デバイスとは相違がある。以下、第1実施形態の自動溶液注入デバイスと相違する構造部分について主に説明する。
【0034】
図に示すように、複数のマイクロポンプA〜Aは過酸化水素溶液送液用微小流路204に各々結合している。図では、過酸化水素溶液供給区画205とマイクロポンプAとの距離をl1とし、過酸化水素溶液供給区画205とマイクロポンプA2との距離をl2とし、過酸化水素溶液供給区画205とマイクロポンプA3との距離をl3とする。
【0035】
そして、過酸化水素溶液供給区画205からの距離が短い順に各マイクロポンプA〜Aは動作し、各マイクロポンプA〜A内の被送液溶液は、過酸化水素溶液の到達した順に、順次マイクロポンプA〜Aから排出される。
【0036】
過酸化水素溶液送液用微小流路204とマイクロポンプA〜Aを適当な位置に配置することで、それぞれのマイクロポンプから被送液溶液が排出されるタイミングを自由にプログラムし制御できる。
【0037】
また、マイクロポンプの駆動のタイミングは流路形状、ぬれ性や、流路の材質や、断面寸法により適宜制御することが可能である。
【0038】
また、過酸化水素溶液送液用微小流路204および過酸化水素溶液注入区画201内への過酸化水素溶液の送液速度を調節するため、過酸化水素溶液には界面活性剤(Triton X-100)を添加してもよい。界面活性剤(Triton X-100)を添加することにより高速なスイッチングを行うことができる。
【0039】
このような方法により、マイクロポンプ駆動のタイミングはあらかじめプログラミング情報として自動溶液注入デバイス構造上に書き込むことが可能である。
【0040】
なお、本実施形態では複数のマイクロポンプA〜Aを直線状に配列したが、これに限られるものではなく、必要に応じて円弧状に配列してもよい。また、図4と同様の自動溶液注入デバイスを並列的に複数配置すれば、より複雑な溶液操作を行うこともできる。
【0041】
図5は、本発明の第2実施形態の自動溶液注入デバイスの実験結果を示す図である。
【0042】
プログラミング用流路に過酸化水素溶液を導入すると、溶液は自発的に流路中を進行し、各マイクロポンプ部の区画を満たした。そして、図5(a)に示すようにマイクロポンプ部では、ダイヤフラムの膨張と液溜め中の溶液の排出が認められた。プログラミング用流路の過酸化水素溶液は、一定時間後に次のポンプの区画を満たし、図5(b)に示すように、同様の変化が認められた。
【0043】
図5(c)は、3つのポンプを並列的に並べ、それぞれのポンプから流路に順次溶液が排出される様子を示す。図5(d)に示すように、溶液排出量が図中左側ほど大きいのは、過酸化水素溶液のポンプ部への到達時間の差を反映しており、位置関係で送液のタイミングをプログラミングできることが示された。なお、変化を起こすタイミングは流路の材質や断面寸法により調節できる。また、過酸化水素溶液中に界面活性剤を添加すると、送液速度が増大し、より高速なスイッチングを行うことができる。
【0044】
(第3実施形態)
上記実施形態では、マイクロポンプで被送液溶液を押し出すことを行ったが、被送液溶液注入区画に被送液溶液を満たさず空気のみを満たしておき、他の流路内の溶液に圧力を及ぼすこともできる。図6はそのようなポンプを含むデバイスの例である。
【0045】
図6は、本発明の第3実施形態の自動溶液注入デバイスの全体構成を示す図である。図に示すように、本実施形態の自動溶液注入デバイスは、外側に空気を満たした補助マイクロポンプB、Bを備えるとともに、内側に被送液溶液を満たしたマイクロポンプA、Aを備える点で、他の実施形態の自動溶液注入デバイスとは相違がある。以下、他の実施形態の自動溶液注入デバイスと相違する構造部分について主に説明する。
【0046】
図6(a)は、本実施形態の自動溶液注入デバイスの正面図であり、図6(b)は、本実施形態の自動溶液注入デバイスの側面図である。
【0047】
図に示すように、本実施形態の自動溶液注入デバイス1は、ガラス基板100と、第1のPDMS基板200と、ダイヤフラム300と、第2のPDMS基板400と、アクリル板500とがこの順番に積層して構成される。
【0048】
図7(a)は、本実施形態の第2のPDMS基板400の正面図である。
【0049】
本実施形態の第2のPDMS基板400は、第1の被送液溶液注入区画401aと、第2の被送液溶液注入区画401bと、被送液溶液合流用微小流路402と、第1の注入口403aと、第2の注入口403bと、第1の被送液溶液用微小液絡路404aと、第2の被送液溶液用微小液絡路404bと、第1の気室区画405aと、第2の気室区画405bと、被送液溶液用微小流路406と、を含んで構成される。
【0050】
第1の被送液溶液注入区画401a及び第2の被送液溶液注入区画401bは、第2のPDMS基板400を半貫通する円形断面の穴である。第1の被送液溶液注入区画401a及び第2の被送液溶液注入区画401bは、ダイヤフラム300に積層する側が開口となっており、アクリル板500に接する側には第1の注入口403a及び第2の注入口403bがそれぞれ設けられる。
【0051】
被送液溶液合流用微小流路402は、第1の被送液溶液用微小液絡路404a及び第2の被送液溶液用微小液絡路404bを介して、各々第1の被送液溶液注入区画401a及び第2の被送液溶液注入区画401bに接続する。
【0052】
第1の気室区画405a及び第2の気室区画405bは、第2のPDMS基板400を半貫通する円形断面の穴であり、ダイヤフラム300に積層する側が開口となっている。第1の気室区画405a及び第2の気室区画405bは、被送液溶液合流用微小流路402の両端部にそれぞれ接続する。
【0053】
被送液溶液用微小流路406の一端は、被送液溶液合流用微小流路402の、第1の被送液溶液用微小液絡路404a及び第2の被送液溶液用微小液絡路404bの接続箇所の中間に接続し、他端は自動溶液注入デバイス3の側面で終端をなす。
【0054】
図7(b)は、本実施形態の第1のPDMS基板200の正面図である。
【0055】
本実施形態の第1のPDMS基板200は、第1の過酸化水素溶液注入区画201aと、第2の過酸化水素溶液注入区画201bと、過酸化水素溶液送液用微小流路204と、過酸化水素溶液供給区画205と、第1の過酸化水素溶液送液用微小液絡路206aと、第2の過酸化水素溶液送液用微小液絡路206bと、過酸化水素溶液用微小液絡路206cと、空気抜き用流路207a、207bと、第3の過酸化水素溶液注入区画208aと、第4の過酸化水素溶液注入区画208bと、空気抜き用流路209a、209bとを含んで構成される。
【0056】
第1の過酸化水素溶液注入区画201a及び第2の過酸化水素溶液注入区画201bは、第1のPDMS基板200を貫通する円形断面の穴である。第1の過酸化水素溶液注入区画201aと、第2の過酸化水素溶液注入区画201b内のダイヤフラム300側には、他の実施形態と同様に二酸化マンガン粒子が触媒固定ゲル(不図示)により固定されている。
【0057】
過酸化水素溶液送液用微小流路204は、第1の過酸化水素溶液送液用微小液絡路206aと、第2の過酸化水素溶液送液用微小液絡路206bをそれぞれ介して、第1の過酸化水素溶液注入区画201a及び第2の過酸化水素溶液注入区画201bに接続する。
【0058】
過酸化水素溶液供給区画205は、第1のPDMS基板200を貫通する円形断面の穴である。過酸化水素溶液供給区画205は、過酸化水素溶液用微小液絡路206cを介して、過酸化水素溶液送液用微小流路204の、第1の過酸化水素溶液送液用微小液絡路206a及び第2の過酸化水素溶液送液用微小液絡路206bの接続箇所の中間に接続する。
【0059】
第3の過酸化水素溶液注入区画208a及び第4の過酸化水素溶液注入区画208bは、第1のPDMS基板200を貫通する円形断面の穴である。第3の過酸化水素溶液注入区画208a及び第4の過酸化水素溶液注入区画208b内のダイヤフラム300側には、第1の過酸化水素溶液注入区画201a及び第2の過酸化水素溶液注入区画201bと同様に二酸化マンガン粒子が触媒固定ゲル(不図示)により固定されている。
【0060】
また、第3の過酸化水素溶液注入区画208a及び第4の過酸化水素溶液注入区画208bは、過酸化水素溶液送液用微小流路204の両端部にそれぞれ接続する。
【0061】
空気抜き用流路207a、207b、209a、209bは、各過酸化水素溶液注入区画から外部へ連絡する空気抜き穴である。
【0062】
本実施形態のダイヤフラム300は、第1のPDMS基板200と第2のPDMS基板400の間に配置され、特に、第1の被送液溶液注入区画401a及び第1の過酸化水素溶液注入区画201aとの間、第2の被送液溶液注入区画401b及び第2の過酸化水素溶液注入区画201bとの間、第1の気室区画405a及び第3の過酸化水素溶液注入区画208aとの間、および、第2の気室区画405b及び第4の過酸化水素溶液注入区画208bとの間に配置され、両区画を区分する。
【0063】
ここで、図6のA部に示す箇所をマイクロポンプ部Aとし、A部に示す箇所をマイクロポンプ部Aとし、B部に示す箇所を補助マイクロポンプ部Bとし、B部に示す箇所を補助マイクロポンプ部Bとする。
【0064】
次に、本実施形態のマイクロポンプ部の動作について説明をする。図8は、本発明の第3実施形態の自動溶液注入デバイスの実験結果を示す図である。
【0065】
まず、過酸化水素溶液を過酸化水素溶液供給区画205に注入する。すると、過酸化水素溶液は、過酸化水素溶液送液用微小流路204を介して、第1の過酸化水素溶液注入区画201a及び第2の過酸化水素溶液注入区画201bに流入する(図8(a))。
【0066】
マイクロポンプA及びAが動作し、各マイクロポンプ内の被送液溶液が被送液溶液合流用微小流路402へ押し出される(図8(b))。
【0067】
次に、過酸化水素溶液は、過酸化水素溶液送液用微小流路204を介して、第3の過酸化水素溶液注入区画208a及び第4の過酸化水素溶液注入区画208bに流入する。すると、補助マイクロポンプB及びBが動作し、被送液溶液合流用微小流路402へ補助マイクロポンプB及びB内の空気を押し出す(図8(c))。
【0068】
被送液溶液合流用微小流路402へ押し出された被送液溶液は、補助マイクロポンプB及びB内から押し出された空気により、両端から加圧され、被送液溶液合流用微小流路402の中央部で2液の混合が促進され、混合液は、被送液溶液用微小流路406を介してデバイスの外部に吐出される(図8(d))。
【0069】
なお、上記各実施形態では、ガスを発生させる手段として、過酸化水素と二酸化マンガンを例としてあげたが、これに限られず、他の液体及び触媒の組み合わせも可能である。
【0070】
例えば、カタラーゼによる酵素反応では過酸化水素が基質となって酸素が発生する。したがって、二酸化マンガンの代わりにこれをゲル中に固定すれば、同様の動作が実現できる。また、炭酸水素イオンを含む溶液からは、低pHで二酸化炭素が発生する。したがって、ゲル201中に二酸化マンガン粒子203を固定せず、ここに塩酸等の酸をしみ込ませておき、過酸化水素の代わりに炭酸水素ナトリウム溶液を流し込み、過酸化水素と二酸化マンガンを用いた時と同様の変化を起こすことができる。同様の変化はアンモニウムイオンを含む溶液のpHを塩基溶液により上昇させることにより起こすこともできる。
【0071】
さらに、酸化還元酵素による酵素反応では、過酸化水素が生成する。例えば、グルコースは酵素グルコースオキシダーゼにより酸化され、この際過酸化水素が生成する。この化学反応式は次の通りである。
【0072】
グルコース + 酸素 → グルコノラクトン + 過酸化水素
【0073】
したがって、ゲル201中に二酸化マンガン粒子203の代わりに酵素を固定し、過酸化水素の代わりにグルコース溶液を流せば、過酸化水素と二酸化マンガンを用いた時と同様の変化を起こすことができる。
【0074】
以上説明したように、本発明の各実施形態による自動溶液注入デバイスによれば、微小流路内を進行する過酸化水素溶液の到着のタイミングにより順次自動的にポンプが作動するため、外部に回路やプログラムを用意する必要がない。
【符号の説明】
【0075】
1:自動溶液注入デバイス
100:ガラス基板
200:第1のPoly(dimethylsiloxane)(PDMS)基板
201:過酸化水素溶液注入区画
202:触媒固定ゲル
203:二酸化マンガン(触媒)粒子
204:過酸化水素溶液送液用微小流路
205:過酸化水素溶液供給区画
206:過酸化水素溶液送液用微小液絡路
207:空気抜き用流路
300:ダイヤフラム
400:第2のPDMS基板
401:被送液溶液注入区画
402:被送液溶液用微小流路
403:注入口
404:被送液溶液用微小液絡路
500:アクリル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被送液溶液を収容する被送液溶液注入区画と、
前記被送液溶液注入区画の一面に備わるダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムにほぼ接する位置に触媒物質が固定され、ガス発生溶液が導入されるガス発生溶液注入区画と、
を備えるマイクロポンプ部を少なくとも1つ有し、
前記マイクロポンプ部は、
前記ガス発生溶液注入区画に導入された前記ガス発生溶液が前記触媒物質に接触することにより生ずる気体が、前記ダイヤフラムを介して前記被送液溶液注入区画内の前記被送液溶液を押し出し送液を行うことを特徴とする自動溶液注入デバイス。
【請求項2】
空気を収容する気室区画と、
前記気室区画の一面に備わるダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムにほぼ接する位置に触媒物質が固定され、ガス発生溶液が導入されるガス発生溶液注入区画と、
を備える補助マイクロポンプ部を少なくとも1つさらに有し、
前記補助マイクロポンプ部は、
前記ガス発生溶液注入区画に導入された前記ガス発生溶液が前記触媒物質に接触することにより生ずる気体が、前記ダイヤフラムを介して前記気室区画内の前記空気を押し出すことにより、前記被送液溶液に圧力を与えることを特徴とする請求項1に記載の自動溶液注入デバイス。
【請求項3】
前記ガス発生溶液注入区画は、ガス発生溶液送液用微小流路を介して前記ガス発生溶液が導入されることを特徴とする請求項1または2に記載の自動溶液注入デバイス。
【請求項4】
前記マイクロポンプ部の動作タイミングは、前記ガス発生溶液送液用微小流路の、長さ、流路形状、ぬれ性、材質、又は、断面寸法のうちの少なくとも1つに従って設定されることを特徴とする請求項3に記載の自動溶液注入デバイス。
【請求項5】
前記触媒物質と前記ガス発生溶液とは、
二酸化マンガン及び過酸化水素溶液、酵素カタラーゼ及び過酸化水素溶液、酸及び炭酸水素イオンを含む溶液、塩基溶液及びアンモニウムイオンを含む溶液、酸化還元酵素及びその基質を含む溶液から選ばれた1つの組み合わせであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の自動溶液注入デバイス。
【請求項6】
前記触媒物質は、触媒固定ゲルにより前記ガス発生溶液注入区画内に固定されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の自動溶液注入デバイス。
【請求項7】
請求項1から6に記載の自動溶液注入デバイスの制御方法であって、
前記ガス発生溶液に界面活性剤を添加することにより送液速度を変化させて、送液のタイミングを調整することを特徴とする自動溶液注入デバイスの制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230529(P2010−230529A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79027(P2009−79027)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】