説明

自動製パン機

【課題】生チョコレートの調理に適した50℃以下の加熱と、生チョコレートの材料を飛び散りや焦げ付き、ムラのないように滑らかに溶かしながら攪拌して、分離などの失敗のない生チョコレートを簡単に作ることができる自動製パン機を提供すること。
【解決手段】生チョコレートコースが選択された場合、チョコレートの溶解温度付近まで加熱部を制御して加熱を行う加熱工程、駆動部を動作してチョコレートを溶解しながら攪拌を行う攪拌工程を実行する、生チョコレート専用コースを設けて、操作が簡単で、かつ短時間で出来ばえの良い生チョコレートを調理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に家庭用に使用される自動製パン機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動製パン機は種々の構造のものが知られており、近年は例えばケーキ、餅、めん、ジャムの製造など、パンの製造以外の用途にも使用されている。例えば、特許文献1(特開2000−116527号公報)には、短時間で本格的なプレザーブスタイルのジャムを作ることができるパン製造機を安価に提供することを目的として、予熱工程と煮込み工程と冷却工程を有するジャムコースを設けたパン製造機が記載されている。図5(a)(b)は、特許文献1に記載された従来の製パン機を示すものである。図5(a)(b)に示すように、110〜130℃の設定温度で練り羽根を止めて90%以上のヒータ通電率でジャム材料を加熱し、設定温度を超えるとヒータを切り、練り羽根に回転時間を0.2秒以下、停止時間を回転時間の10倍以上とした間欠回転をさせて攪拌し、設定温度より下がると練り羽根を止め80%以上のヒータ通電率で加熱し、最後に冷却工程を設け練り羽根の間欠回転で完成したジャムを攪拌しながらヒータを切って自然冷却することにより、短時間で本格的なプレザーブスタイルのジャムを作ることができ、同じ練り羽根でパン生地も練れるパン製造機を、変速装置やファンモータを使うことなく安価に提供できる。
【0003】
また、特許文献2(特開平8−308741号公報)には、容器の温度差を少なくし、均等に熱を加えて十分煮込み、すばやく冷却し、変色や焦げの無いジャムができる自動製パン機を提供することを目的として、予熱工程においては設定温度を70℃にし、ヒータの通電率を45%とし、低めの温度でゆっくりと加熱することにより、容器内の温度を均一に上昇させるようにしたもので、これにより、均等に加熱し変色や焦げのないジャムができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−116527号公報
【特許文献2】特開平8−308741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の自動製パン機でパン以外の調理できるメニューのバラエティの広がりは、前述した通りであるが、さらに新しいメニューとして、生チョコレートを自動製パン機で作りたいというニーズがある。一般的な生チョコレートの作り方としては、ボールに刻んだチョコレートを入れ、そこへ沸騰した生クリームを注ぎ、必要に応じてはちみつやバターなどの副材料を加え、混ぜながら溶かしたのち冷やし固める。あるいは、チョコレートを50℃〜55℃の湯せんにかけて、混ぜながら溶かす方法がある。
【0006】
いずれの方法も、チョコレートを調理する際、最も重要なことは温度管理である。チョコレートはカカオバターの油脂の中に、カカオマス、砂糖、粉乳などの固形微粒子と微量の水分が混ざり合った状態である。チョコレートを溶かすときには、熱によって溶けて流動性を帯びたカカオバターに、砂糖や粉乳の粒子が固形のまま混ざっている状態を保つようにしなければならない。しかし、温度が高すぎたり、直火で加熱したりすると、粘度が高く熱の対流が起こりにくいチョコレートは、局所的に温度が上がって焦げてしまい、前述の構造が大きく崩れて、砂糖や粉乳などの油は溶けずに、水に溶ける成分とカカオバタ
ーの油脂が分離してしまう。そのため緩やかに約50℃程度の湯せんで加熱して溶かす方が良いとされている。つまり、チョコレートの溶解温度より大幅に温度が高くなると分離したり、融点が低い乳脂を多く含んだミルクチョコレートやホワイトチョコレートは、粉乳が砂糖と一緒に固まって、滑らかに溶けずもろもろの状態になったりして失敗するリスクが高いものである。
【0007】
よって、例えば、従来のジャムコースでは、容器内の温度が100℃付近まで上昇してしまい、50℃以下が望ましい生チョコレートを調整するために適当な温度とは大きくかけ離れていた。また調理時間も60分以上の調理コースであり、数分で調理できるチョコレートには、全く適さないという課題を有していた。また、他の調理コースであっても同様にチョコレートを調理するために適するコースはなかった。
【0008】
従って、本発明は、前記従来の課題を解決するもので、生チョコレートの調理に適した50℃以下の加熱と、生チョコレートの材料を飛び散りや焦げ付きを防ぎながら、ムラがなく滑らかに溶かしながら攪拌して、分離などの失敗のない生チョコレートを簡単に作ることができる自動製パン機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の自動製パン機は、内部に加熱室が設けられた有底筒状の機器本体と、前記機器本体の上部開口部を開閉可能な外蓋と、前記加熱室内に収納され、調理材料を収容する容器と、前記容器内に配置され、前記容器内の前記調理材料を混練または攪拌する羽根と、前記羽根を回転駆動する駆動部(モータ)と、前記容器を加熱する加熱部と、前記加熱室内の温度を検知する温度検知部と、生チョコレートコースを含む複数の調理コースから特定の調理コースを選択可能な選択部と、前記選択部にて選択された調理コースと前記温度検知部の検知温度とに基づき、前記加熱部と前記駆動部(モータ)とを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記選択部にて前記生チョコレートコースが選択された場合、チョコレートの溶解温度付近まで前記加熱部を制御して加熱を行う加熱工程、前記駆動部を動作してチョコレートを溶解しながら攪拌を行う攪拌工程を実行する、生チョコレート専用コースを設けたものである。
【0010】
これによって、生チョコレート材料をジャムコースと比べて大幅に低い、チョコレートの溶解温度付近にまで適温に加熱したのち、溶解しながら攪拌する生チョコレート専用コースを設けたことにより、操作が簡単で、かつ短時間で出来ばえの良い生チョコレートを調理することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の自動製パン機は、選択部にて前記生チョコレートコースが選択された場合、チョコレートの溶解温度付近まで前記加熱部を制御して加熱を行う加熱工程、前記駆動部を動作してチョコレートを溶解しながら攪拌を行う攪拌工程を実行する、生チョコレート専用コースを設けたものである。すなわち、生チョコレートの材料を飛び散りや焦げ付き、およびムラのないように滑らかに溶かしながら攪拌して、分離などの失敗のない生チョコレートを簡単な操作で短時間に作ることができ、同じ羽根や容器でパン生地も練って焼ける自動製パン機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる自動製パン機の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態1にかかる自動製パン機の斜視図
【図3】生チョコレートコース実行時の容器の温度変化を示すグラフ
【図4】生チョコレートコースの調理シーケンスで(a)は通常のシーケンスを示す工程図(b)は追加攪拌のシーケンスを示す工程図
【図5】従来の製パン機のジャムコースの工程図
【図6】チョコレートの種類ごとの成分、溶解温度を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の発明は、内部に加熱室が設けられた有底筒状の機器本体と、前記機器本体の上部開口部を開閉可能な外蓋と、前記加熱室内に収納され、調理材料を収容する練り容器と、前記容器内に配置され、前記練り容器内の調理材料を混練または攪拌する練り羽根と、
前記羽根を回転駆動する駆動部(モータ)と、前記容器を加熱する加熱部と、
前記加熱室内の温度を検知する温度検知部と、生チョコレートコースを含む複数の調理コースから特定の調理コースを選択可能な選択部と、前記選択部にて選択された調理コースと前記温度検知部の検知温度とに基づき、前記加熱部と前記駆動部(モータ)とを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記選択部にて前記生チョコレートコースが選択された場合、チョコレートの溶解温度付近まで前記加熱部を制御して加熱を行う加熱工程、前記駆動部を動作してチョコレートを溶解しながら攪拌を行う攪拌工程を実行する、生チョコレート専用コースを設けたことにより、操作が簡単で、かつ短時間で出来ばえの良い生チョコレートを調理することができる。
【0014】
第2の発明は、特に、第1の発明の前記制御部は、生チョコレートコースを選択した場合の加熱工程において、前記容器に投入された生チョコレートの材料が、チョコレートの溶解温度である30℃〜50℃になるように設定された前記温度検知部の所定温度に到達するまで、前記加熱部にて前記羽根を動作させずに、生チョコレート材料を加熱するようにしたことにより、チョコレート材料を飛散させたり、分離させることなく、チョコレートの溶解をムラなく均一の行うことができるものである。
【0015】
第3の発明は、特に、第1および第2の発明の前記制御部は、生チョコレートコースを選択した場合の攪拌工程においては、加熱工程でチョコレートの溶解温度に加温された生チョコレート材料を、チョコレートの溶解温度より冷めないように前記加熱部にて所定温度を維持しながら、前記練り羽根を低速度の間欠回転により溶解する第1攪拌工程、その後、溶解した材料を第1攪拌工程より、高速度で前記練り羽根を間欠回転して、材料を均一に攪拌してチョコレートの構造を整える第2攪拌工程を設けたことにより、生チョコレート材料を飛散や焦げ付きなく、均一に攪拌できるため、つやよく滑らかな生チョコレートを作ることができる。
【0016】
第4の発明は、特に、第1から第3の発明の生チョコレートコースの加熱工程と攪拌工程が終了後、再度スタートボタンを受けつけ、任意に設定した時間、前記羽根を間欠回転する追加の攪拌を実行できるようにしたことにより、生チョコレートの材料に溶け残りや混ざりムラがあった場合、あるいはチョコレートの量を増減したり、フレーバーや具材でアレンジする場合にも、簡単な操作で出来映えのバラツキに対応でき、バラエティ豊かな生チョコレートを応用したメニューを作ることができる。
【0017】
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明の前記追加の攪拌機能は、2回まで可能とし、そのうち1回の追加攪拌で設定できる調理時間は1分〜5分とし、さらに前記温度検知部が所定の温度を下回った場合には追加攪拌機能を受け付けないようにしたことにより、チョコレートの温度が下がり、再び固まり始めると、かえってチョコレートのムラができたり、つやがなくなったりする不具合を防止することができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施形態にかかる自動製パン機の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる自動製パン機の縦断面図であり、図2は、その斜視図である。
【0020】
図1及び図2において、本実施形態にかかる自動製パン機は、内部に加熱室1aが設けられた有底筒状の樹脂製の機器本体1を備えている。機器本体1の下部には、シャーシ2が取り付けられている。シャーシ2には、駆動部の一例であるモータ3と、容器支持台4とが取り付けられている。
【0021】
モータ3は、プーリやベルトなどを含む伝達機構5を介して、容器支持台4に回転可能に支持されたコネクタ下6に回転力を与える。コネクタ下6は、練り容器7の下部に回転可能に支持されたコネクタ上8と係合可能に構成されている。練り容器7は、加熱室1a内に収納され、パン、ケーキ、餅、本実施形態においてはチョコレートなどの調理材料を収容する着脱可能な容器である。この練り容器7は、水分や油分が漏れないように構成されている。また、練り容器7は、コネクタ下6とコネクタ上8とが係合することで容器支持台4上に取り付けられる一方、コネクタ下6とコネクタ上8との係合が外されることで加熱室1aから取り外し可能である。
【0022】
コネクタ上8は、練り容器7の底壁から上方に向けて突出するように取り付けられている。コネクタ上8の先端部には、練り容器7内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根9が着脱可能に取り付けられている。練り羽根9は、モータ3の回転力が伝達機構5に伝達され、コネクタ下6及びコネクタ上8が回転することで回転駆動する。
【0023】
練り容器7の上端部には、図1に示すように、練り容器7の上部開口部よりも上方に突出する把手取付部7aが少なくとも2箇所設けられている。これらの把手取付部7aには、貫通孔が設けられており、当該貫通孔に略半円弧状の把手7bが回動可能に取り付けられている。これにより、練り容器7の着脱及び持ち運びが容易になっている。
【0024】
加熱室1aには、練り容器7を加熱する加熱部の一例であるヒータ11と、加熱室1a内の温度を検知する温度検知部の一例である温度センサ12とが設けられている。ヒータ11は、容器支持台4上に取り付けられた練り容器7の下部を、隙間を空けて包囲するように配置されている。ヒータ11としては、例えば、シーズヒータを用いることができる。温度センサ12は、加熱室1a内の平均的な温度を検知することができるように、ヒータ11から少し離れた位置に配置されている。
【0025】
機器本体1の上部には、機器本体1の上部開口部を開閉可能な蓋13が回動可能に取り付けられている。蓋13は、蓋本体14と、外蓋15とを備えている。蓋本体14には、レーズン、ナッツなどの副材料を収納する副材料容器16と、イーストを収納するイースト容器17とが取り付けられている。副材料容器16とイースト容器17とは、練り容器7の上方に配置されている。
【0026】
副材料容器16は、着脱可能に構成され、着脱を容易にするため凹状の摘み部16aを備えている。副材料容器16の底壁は、副材料容器16に収容された副材料を練り容器7内に投入することができるように、蓋本体14の底壁14aに対して回動可能に取り付けられた開閉板16bを有している。開閉板16bは、ソレノイド18に接続され、ソレノイド18が駆動することにより開放される。また、イースト容器17の底壁は、イースト容器17に収容されたイーストを練り容器7内に投入することができるように、蓋本体14の底壁14aに対して回動可能に取り付けられた開閉弁17aで構成されている。開閉弁17aは、ソレノイド(図示せず)に接続され、当該ソレノイドが駆動することにより開放される。
【0027】
外蓋15は、副材料容器16及びイースト容器17の上部開口部を開閉可能に取り付けられている。
【0028】
機器本体1の上部には、複数の調理コースから特定の調理コースを選択可能な選択部19と、選択部19で選択された情報などの各種情報を表示する表示部20と、室温を検知する室温センサ21とが設けられている。選択部19は、各種動作の開始又は停止、タイマー設定なども行うことができるように構成されている。調理コースには、例えば、生チョコレートコース、食パンコース、パン生地コース、うどんコース、もちコースなどが含まれる。
【0029】
また、機器本体1には、図2に示すように、自動製パン機の持ち運びを容易にするためのハンドル22と、先端に差込プラグ23を備えた電源コード24と、各部の駆動を制御する制御部25とが設けられている。制御部25には、複数の調理コースに対応する調理シーケンスが記憶されている。調理シーケンスとは、練り、ねかし、発酵、焼成などの各調理工程を順に行うにあたって、各調理工程においてヒータ11の通電時間、温調温度、練り羽根9の回転速度、ソレノイドの駆動タイミングなどが予め決められている調理の手順のプログラムをいう。制御部25は、選択部19にて選択された特定の調理コースに対応する調理シーケンスと温度センサ12の検知温度とに基づいて、モータ3、ヒータ11、開閉板16bを開放するソレノイド18、及び開閉弁17aを開放するソレノイド(図示せず)の駆動を制御する。
【0030】
次に、前記のように構成された本実施形態にかかる自動製パン機を用いて生チョコレートを調理するときの手順及び動作の一例について説明する。図3は生チョコレートコース実行時の練り容器とチョコレートの温度変化を示すグラフ、図4は生チョコレートコースの調理シーケンスで(a)は通常のシーケンスを示す工程図(b)は追加の攪拌シーケンスを示す工程図である。なお、自動製パン機の各種動作は制御部25の制御の下に行われる。
【0031】
まず、使用者は、パンを製造する場合と同じ練り容器7に、同じくパンを製造する場合と同じ練り羽根9をコネクタ上8に取り付けるとともに、適当な大きさに割った板チョコレート、生クリーム、はちみつ、バターなどの生チョコレート材料を練り容器7内に入れる。その後、当該練り容器7を容器支持台4上にセットし、蓋13を閉じる。このとき、室温センサ21にて、環境温度を検知して、検知した環境温度に応じて、少なくとも2つの温度帯コース、つまり本実施例の場合は10℃以上の高温コースと10℃未満の低温コースを設けて、それぞれに対応した調理シーケンスを実行するようになっている。
【0032】
次いで、使用者は、選択部19にて複数の調理コースから生チョコレートコースを選択した後、選択部19に設けられたスタートボタンを押圧するなどして、調理の開始を指示すると、図4に示すようにまず加熱工程を実行する。加熱工程においては、ヒータ11が室温センサ21の検知温度により、高温であれば75%、低温であれば90%の通電率で通電され、練り容器7を、生チョコレートコースに対応して予め決められた所定の温度T1(55℃〜60℃)まで昇温させる。この間、モータ3は停止、つまり練り羽根9の回転は停止したままで、チョコレート材料は30℃〜40℃程度に加温され、チョコレートの形は固体を留めているものの、外周が少しずつ溶解し始める。この昇温にかかる時間は、チョコレートや副材料の量などによって異なるが、例えば3〜9分であり、好ましくは5〜7分である。ここでモータ3および練り羽根9を停止している理由としては、硬いチョコレートと、冷たい生クリームは、調理開始直後は、いくら攪拌してもチョコレートの温度が溶解し始める30℃以上にならないと混ざり合わず、粘度の低い生クリームが練り容器外に飛散したり、硬いチョコレートの塊は羽根に絡まず上手く攪拌できないなど、早急の攪拌することはかえって、均一に溶解して混ざりあうことを妨げるものであるからで
ある。
【0033】
加熱工程で、練り容器7が所定の温度T1に達すると、次に生チョコレートコースに対応して予め決められた所定の温度T2(40℃〜45℃)を所定時間(例えば調理開始から12分)まで維持しながら、練り羽根9をゆっくり回転させる第1攪拌工程に移行する。第1攪拌工程においては、加熱工程で練り容器7内の加熱されたチョコレート材料を均一に溶かす工程である。加熱工程で加熱されたチョコレート材料は、水分が少なく対流が起こらないので、温度ムラが大きくなっている。しかし、ここで練り羽根9を必要以上に高速に回転させると、チョコレート材料が、練り容器7外に飛散したり、飛散しないまでも練り羽根9の遠心力により、練り容器7の周囲にチョコレート材料が付着して、全体が均一に溶解し混ざり合わない結果となる。そこで、チョコレートの溶解するスピードに合わせて、練り羽根9をゆっくり間欠回転させることで、チョコレート材料のムラを押さえ、かつ均一に溶解し混ぜ合わせることができるのである。本実施形態では、練り羽根9を0.05秒ON、1.0秒OFFという間欠回転の動作を約5分〜7分繰り返し、チョコレートを序々に溶かしながら、生クリームなどの他の材料と混ぜ合わせていくようになっている。
【0034】
第1攪拌工程で、固形のチョコレートはほぼ溶けて、粘性の高い液体状態になったところで、次に第2攪拌工程に移行する。第2攪拌工程では、本実施形態の場合、練り羽根9を第1攪拌工程より回転の速い0.1秒ON、0.8秒OFFという間欠回転で約5分間動作する。このとき、チョコレートの温度は40℃〜45℃程度に保つように、ヒータ11の通電を高温帯では20%、低温帯では25%の通電率で制御する。チョコレートは、前述の通りカカオバターの油脂の中に、カカオマス、砂糖、粉乳などの固形微粒子と微量の水分が混ざり合った状態である。一方、生クリームは水分の中に乳脂肪が細かい粒で分散した乳化の構造(水中油滴型)をとっており、水分と乳脂肪が分離せずに混ざり合っているのは、乳脂肪球のまわりを乳化剤が取り囲んで両者が直接に接することがないからである。生チョコレートをつくる際、溶かしたチョコレートに生クリームを加えていくと、生クリームの水分が乳化剤の仲立ちによって分散する、油中水滴型の乳化の形で混ざっていく。生クリームの分量が多くなると、カカオバターがベースであるチョコレートの油中水滴型の構造から、生クリームが徐々に混ぜ合わされる過程で、生クリームの水分がベースとなり、その中にカカオバターと乳脂肪が、乳化剤に取り込まれて粒状になって分散するようになる(水中油敵型)。いずれの場合も、2つの材料を乳化させるとき、徐々によく混ぜることが必要であり、これによって、チョコレートの構造を整え、滑らかでつやのある生チョコレートを作ることができる。この作業を自動製パン機で行う工程が、第2攪拌工程であり、生チョコレート材料を飛散や、焦げ付きなく、均一で滑らかに攪拌できるようになっている。
【0035】
以上のように、本発明の第1の実施の形態にかかる自動製パン機において、選択部にて前記生チョコレートコースが選択された場合、チョコレートの溶解温度付近まで前記加熱部を制御して加熱を行う加熱工程、前記駆動部を動作してチョコレートを溶解しながら攪拌を行う攪拌工程を実行する、生チョコレート専用コースを設けたものである。すなわち、生チョコレートの飛散や焦げ付き、分離を防ぎつつ、簡単な操作で短時間に出来映えのよい生チョコレートをつくることができ、同じ羽根や容器でパン生地も練って焼ける製パン機を提供できる。
【0036】
(実施の形態2)
本発明の実施形態にかかる自動製パン機の動作について、図4(b)を参照しながら説明する。実施の形態2にかかる自動製パン機の特徴は、前述した第1の実施の形態で通常の生チョコレートをつくる調理シーケンスが終了後、生チョコレートの材料に溶け残りや混ざりムラがあった場合、あるいは、フレーバーや具材でアレンジする場合は、再度、選
択部19より、追加のチョコレートコースを選択後、調理時間を1分〜5分の間で任意に設定した調理時間、前記練り羽根9を間欠回転する追加の攪拌工程を実行できる点である。
【0037】
また、前記追加の攪拌工程の実行は、2回まで可能とし、そのうち1回の追加の攪拌工程で設定できる調理時間は1分〜5分とし、さらに前記温度検知部が所定の温度を下回った場合には追加の攪拌工程を受け付けないようにしたことを特徴としている。
【0038】
ところで、生チョコレートの材料は、前述した通り、チョコレート、生クリーム、はちみつなどが主な材料であるが、本発明の場合に使用するチョコレートは、比較的入手しやすい市販の板チョコレートを使用する配合を基本にしている。ただし、市販の板チョコレートといっても種類は様々で、大きくはミルクチョコレート、ブラックチョコレート、ホワイトチョコレートに分類できる。これらのチョコレートは、図6のようにそれぞれ成分や溶解温度が異なるため、生チョコレートを作った場合も、硬さや粘度、外観や口溶けなどが異なる。例えば、市販のミルクチョコレートをベースに使った場合には、乳成分が多いため、チョコレートを溶かしても粘度が高いため、チョコレート成分が練り容器7の内側面に付着しやすい傾向がある。一方、ブラックチョコレートをベースに使った場合には、乳成分が含まれていないため、溶かすと粘度が低くさらりとしており、練り容器7へのチョコレートの付着は少ない。しかし、溶解温度が高いので全体が完全に溶けるまでには時間がかかる場合がある。
【0039】
また、生チョコレートのあらかじめ設定された基本配合に対して、チョコレートの量の増減や、あるいは基本のチョコレートをアレンジして、フルーツやナッツなどの具材を加えたり、洋酒やコーヒーなどでフレーバーをつけたりする場合がある。チョコレートの量を増減すると、特に増やした場合は、通常の所定時間では溶け残りがあったり、洋酒やコーヒーなどでフレーバーをつけたりする場合は、油脂分に水分を加えるため、乳化に時間がかかったりする場合がある。さらに、フルーツやナッツなどの具材を加える場合は、生チョコレートの生地が出来上がった状態で、具材を加え、具材が均一に混ぜこむ操作が必要である。
【0040】
そこで、本発明の生チョコレートコースでは、生チョコレートをつくる調理シーケンスが終了後、生チョコレートの材料に溶け残りや混ざりムラがあった場合、あるいはチョコレートの量を増やした場合に通常の所定時間では溶け残りがあったり、洋酒やコーヒーなどでフレーバーをつけたりする場合には、再度、選択部19より、追加の生チョコレートコースを選択後、調理時間を1分〜5分の間で任意に設定した調理時間、前記練り羽根9を間欠回転する追加の攪拌を実行できるようにしている。また、基本のチョコレートをアレンジして、フルーツやナッツなどの具材を加える場合には、同様に通常の生チョコレート調理後に具材を加えてから、選択部19より、追加の生チョコレートコースを選択し、調理時間を1分〜5分の間で任意に設定した調理時間、練り羽根9を間欠回転して、具材を均一に混ぜ込むことができる。本実施例の場合、追加の攪拌工程の動作は前記の第2攪拌工程に準じた動作となっている。
【0041】
以上のような追加の攪拌工程は、チョコレートの温度が下がり、再び固まり始めると、かえってチョコレートのムラができたり、つやがなくなったりする不具合が生じるため、追加の攪拌機能を選択できるのは、通常の調理終了後2回まで可能とし、そのうち1回の追加の攪拌工程で設定できる調理時間は1分〜5分とし、さらに前記温度検知部が所定の温度、本実施例の場合は40℃を下回った場合には追加の攪拌工程を受け付けないようして、出来映えに不具合が生じないようにしている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明にかかる自動製パン機は、生チョコレートの飛散や焦げ付き、分離を防ぎつつ、簡単な操作で短時間に生チョコレートをつくることができ、同じ羽根や容器でパン生地も練って焼ける自動製パン機を提供でき、特に、一般に家庭用に使用される自動製パン機として有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 機器本体
2 シャーシ
3 モータ
4 容器支持台
5 伝達機構
6 コネクタ下
7 練り容器
7a 把手取付部
7b 把手
8 コネクタ上
9 練り羽根
11 ヒータ
12 温度センサ
13 蓋
14 蓋本体
15 外蓋
16 副材料容器
17 イースト容器
18 ソレノイド
19 選択部
20 表示部
21 室温センサ
22 ハンドル
23 差込プラグ
24 電源コード
25 制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に加熱室が設けられた有底筒状の機器本体と、
前記機器本体の上部開口部を開閉可能な外蓋と、
前記加熱室内に収納され、調理材料を収容する練り容器と、
前記練り容器内に配置され、前記練り容器内の調理材料を混練または攪拌する練り羽根と、
前記羽根を回転駆動する駆動部(モータ)と、
前記容器を加熱する加熱部と、
前記加熱室内の温度を検知する温度検知部と、
生チョコレートコースを含む複数の調理コースから特定の調理コースを選択可能な選択部と、
前記選択部にて選択された調理コースと前記温度検知部の検知温度とに基づき、前記加熱部と前記駆動部(モータ)とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記選択部にて前記生チョコレートコースが選択された場合、チョコレートの溶解温度付近まで前記加熱部を制御して加熱を行う加熱工程、前記駆動部を動作してチョコレートを溶解しながら攪拌を行う攪拌工程を実行する、生チョコレート専用コースを設けた自動製パン機。
【請求項2】
前記制御部は、生チョコレートコースを選択した場合の加熱工程において、前記容器に投入された生チョコレートの材料が、チョコレートの溶解温度である30℃〜50℃になるように設定された前記温度検知部の所定温度に到達するまで、前記加熱部にて前記羽根を動作させずに、生チョコレート材料を加熱するようにした、請求項1に記載の自動製パン機。
【請求項3】
前記制御部は、生チョコレートコースを選択した場合の攪拌工程においては、加熱工程でチョコレートの溶解温度に加温された生チョコレート材料を、チョコレートの溶解温度より冷めないように前記加熱部にて所定温度を維持しながら、前記練り羽根を低速度の間欠回転により溶解する第1攪拌工程、その後、溶解した材料を第1攪拌工程より、高速度で前記練り羽根を間欠回転して、材料を均一に攪拌してチョコレートの構造を整える第2攪拌工程を設けた、請求項1および2に記載の自動製パン機。
【請求項4】
前記生チョコレートコースの加熱工程と攪拌工程が終了後、再度スタートボタンを受けつけ、任意に設定した時間、前記羽根を間欠回転する追加の攪拌工程を実行できるようにしたこと特徴とする請求項1から3に記載の自動製パン機。
【請求項5】
前記追加の攪拌工程は、2回まで可能とし、そのうち1回の追加の攪拌工程で設定できる調理時間は1分〜5分とし、さらに前記温度検知部が所定の温度を下回った場合には追加の攪拌工程を受け付けないようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動製パン機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−9812(P2013−9812A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144042(P2011−144042)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】