説明

自動車のフード構造

【目的】 フードの移動距離を小さく抑え、かつ頭部衝撃性を低減する。
【構成】 車幅両側にストラットタワー51が配設されたエンジンルーム35の上面を閉塞するフードアウタパネル33を備え、フードアウタパネル33への衝撃を吸収するフード31の構造で、ストラットタワー51とフードアウタパネル33の間に空洞部Aを設け、空洞部Aに、直線脚部55b,57b,59b,60bを有しストラットタワー51の上部51a,52,53とフードアウタパネル33の間の車体高さ方向における間隙を埋める衝撃吸収体37a,55,57,59,60を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車のフード構造に関し、頭部衝撃子がフードから受ける衝撃を緩和する構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種の自動車のフード構造を図1313〜図16に示す(実開昭61−26682号公報参照)。図13は従来のフード構造を有する自動車を示す斜視図、図14は図13の要部拡大図、図15は図14のV−V断面図である。
【0003】図13のように、フード1のフードアウタパネル3の車体下側(エンジンルーム5側)には、フードインナパネル7が設けられている。フードインナパネル7は、枠体9と、枠体9の内部に位置して枠体9を補強するインナリブ11を有している。枠体9の車体後部両側は、それぞれフードヒンジ13を介して車体に回動自在に支持されている。エンジンルーム5内にはエンジン15が配置され、図14のようにエンジン15の車体上方に位置するインナリブ11間には、平板部17が架設されている。平板部17には、エンジン15に対向するように切り起こされた複数の切り起こし片19が設けられている。図15のように、各切り起こし片19は断面略円弧状に形成され、両端21が平板部17に連続している。
【0004】かかるフード構造によれば、歩行者の頭部がフードアウタパネル3の外面に当たると、フードアウタパネル3及びインナリブ11がエンジンルーム5側に突出するように変形し、さらに切り起こし片19がエンジンに突き当たり押圧されて潰れ変形する。すなわち、エンジン15の車体上方におけるフード1のエネルギ吸収量を切り起こし片19の変形により増大させ、フード1の移動距離を少なくして必要なエネルギ吸収量を確保している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このようにフード1のエネルギ吸収量を確保していても、フード1に対する頭部衝撃性が必ずしも緩和されているとは限らない。
【0006】頭部衝撃耐性に関する実験データとしては、図16に示すWSTC(Wayne State Tolerace Curve)が知られている(社団法人 自動車技術会発行の「新編自動車工学便覧<第3編>」(昭和58年9月30日 初版発行) 2−30頁、及び株式会社 山海堂発行の「自動車工学全書 16巻 自動車の安全」(昭和55年3月20日 初版発行) 201頁〜203頁参照)。
【0007】WSTCのパラメータとして使用している有効加速度は、平均加速度(加速度波形の積分値を作用時間で除したもの)であり、衝突した際に頭部が受ける平均反力に対応している。
【0008】このWSTCによれば、頭部衝撃子が受ける平均反力がある程度小さくても(有効加速度=G1 )、持続時間が長くなる(持続時間>T1 )と危険領域に達し、反対に平均反力が大きくても(有効加速度=G2 )、持続時間が極めて短い(持続時間<T2 )と危険領域に達せず安全域に属することが解る。
【0009】すなわち、頭部衝撃耐性は、加速度及び作用時間の双方の要因によって定まるものであり、エネルギ吸収量が大きければ必ずしも頭部衝撃性が低くなるとは限らず、衝撃時の初期反力を所定時間内にある程度急激に上昇させた方が、あまり高くない反力を長く維持するよりも頭部衝撃値を低くすることができる場合もある。
【0010】また、WSTCは直線加速度下での実験データであり、頭部衝撃子(ヘッドインパクタ)がフード1に衝突した際に受ける実際の衝撃は、直線加速度ではなく複雑な加速度波形を示すので、実際の衝撃にWSTCを直接適用することはできない。このため、衝撃子を用いた衝撃実験の結果等からWSTCを基礎に安全性を評価する手法として、障害基準値のひとつであるHIC値(Head Injury Criterion )を用いる方法が知られている。
【0011】HIC値は、次の導出式
【数1】


【数2】


に従って算出される。両式中のt1 ,t2 は0<t1 <t2 となる加速度作用中の任意の時間であり、a(t) は衝撃子の頭部重心での加速度である。HIC値は、その値が小さいほど安全性が高く、一般にHIC=1000が安全限界とされている。
【0012】同式によれば、HIC値は、任意のt1 からt2 までの作用時間における平均加速度a12の2.5乗値に作用時間(t2 −t1 )を乗じた値の最大値として算出されることになる。すなわち、衝撃挙動(加速度波形)が相違すれば原則としてHIC値も相違し、平均加速度a12とその作用時間(t2 −t1 )がHIC値の大小を決める要因となる。また、平均加速度a12とその作用時間(t2 −t1)の関係は、フード1の反力とフード1の移動距離の関係に置換えることができ、フード1の反力とその移動距離によっても、HIC値の大小が決定される。
【0013】これにより、衝撃エネルギの吸収量が大きいからといって、一律にHIC値が小さくなるとはいえず、エネルギ吸収量が同一であってもHIC値が相違する場合は多々あり得る。また、フード1のある一点におけるHIC値が低い値となっても、かかる一点から外れた他の点では、HIC値が高い値を示してしまう場合もある。
【0014】従って、図13のように、従来のフード構造では、切り起こし片19が断面略円弧状に形成されているために切り起こし片19の圧壊反力の上昇が遅れ、長時間経過後まで比較的高い反力が維持されてしまうおそれがあり、頭部衝撃性の低減を行うためには、切り起こし片19の圧壊反力を下げてストロークを大きくとる必要があった。
【0015】そこで、本発明は、フードの移動距離を小さく抑えて十分なエネルギ吸収を確保すると共に、HIC値を効率的に低下させて、頭部衝撃性を低減することができるフード構造の提供を目的としている。
【0016】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、車幅両側にストラットタワーが配設されたエンジンルームの上面を閉塞するフードアウタパネルを備え、前記フードアウタパネルへの衝撃を吸収する自動車のフードの構造であって、前記ストラットタワーとフードアウタパネルの間に空洞部を設け、前記空洞部の少なくとも一部に、直線状のアウタ支持部を有し、前記ストラットタワーの上部とフードアウタパネルの間の車体高さ方向における間隙を埋める衝撃吸収体を設けたことを特徴とする。
【0017】請求項2記載の発明は、請求項1記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収体は、前記フードアウタパネルに設けられ前記ストラットタワーの上部に近接するフードインナパネルと、前記フードアウタパネルとフードインナパネルの間の空洞部に設けられた衝撃吸収部材を備え、前記衝撃吸収部材は、前記フードアウタパネル側に接続される上側接続部と前記フードインナパネル側に接続される下側接続部とを有し、前記アウタ支持部は、前記上側接続部と下側接続部を連結する直線脚部であることを特徴とする。
【0018】請求項3記載の発明は、請求項2記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収部材は、前記フードインナパネルから一体に立設したことを特徴とする。
【0019】請求項4記載の発明は、請求項1記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収体は前記ストラットタワー側に設けたことを特徴とする。
【0020】請求項5記載の発明は、請求項1〜請求項4記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収体は、車幅外端に設けられて前記フードアウタパネルの閉塞時に該フードアウタパネルの車幅外端を当接支持するアウタ折れ防止部材を備えたことを特徴とする。
【0021】
【作用】請求項1記載の発明では、フードが衝撃を受けると、まずフードの移動に伴うフードアウタパネルの局所変形時及びその後の沈み込み変形初期時において、直線状のアウタ支持部が即時にアウタパネルを支持するので、フードアウタパネルの変形が抑制され、フードの移動距離が小さい状態から十分な初期反力が得られる。また、フードの移動距離が増大すると、フードアウタパネルの慣性力によって反力が減少するが、フードの移動距離が所定距離となると、ストラットタワーの上部との干渉によって衝撃吸収体が潰れ変形を起こして所望の大きさの二次反力が生じ、反力の減少が的確に緩和される。これにより、フードの反力とその移動距離の関係を理想的な状態とすることができ、フードの移動距離を小さく抑えて十分なエネルギ吸収を確保すると共に、HIC値を効率的に低下させて、頭部衝撃性を低減することができる。
【0022】請求項2記載の発明では、請求項1の作用に加え、衝撃力が直線脚部を介してフードインナパネルにも分散されるので、フードアウタパネルの変形がより強固に抑制され、フードの移動距離が小さい状態から大きな初期反力が得られる。またフードアウタパネルの沈み込み時にも衝撃力がフードインナパネルに分散されるので、反力の減少の割合が極度に低下するおそれもなく、的確な初期反力が得られる。
【0023】請求項3記載の発明では、請求項2の作用に加え、衝撃吸収体をフードインナパネルから一体に立設したので、部品点数の低減、フード重量の軽減、及び組付作業性の向上を図ることができる。
【0024】請求項4記載の発明では、請求項1の作用に加え、衝撃吸収体をストラットタワー側に設けたので、フードの重量が軽減され、フードの開閉性を良好に維持することができる。
【0025】請求項5記載の発明では、請求項1〜請求項4の作用に加え、衝撃吸収体はアウタ折れ防止部材を備えているので、フードアウタパネルの車幅端部における折れを防止することができ、フードの初期反力を確実に増大させることができる。
【0026】
【実施例】本発明にかかる実施例は、図1のようなフード31の移動距離が大きく制限されるストラットタワー51の車体上方において、HIC値を効率的に低下させる構造とすることにより、頭部衝撃性の低減を図るものである。
【0027】具体的には、フード31の移動距離及びHIC値を共に小さく抑えることが可能なフード31の反力とその移動量との理想的な関係を示す波形(理想波形)を、衝撃時に必要とされるエネルギ吸収量と前記導出式(1)(2)に基づき計算によって予め求めると共に、ストラットタワー51の上方のフード31に対して衝撃実験を行い実際の反力の波形(基礎波形)を求め、この基礎波形が理想波形に近付くようなフード構造とすることによって、少ない移動距離でHIC値を効率的かつ確実に低下させている。
【0028】以下、本発明の請求項1〜請求項3、及び請求項5にかかる第1実施例を図面に基づき説明する。
【0029】図1は第1実施例にかかる自動車のフード構造を示す斜視図、図2は図1のフードのH−H断面図、図3は図1の要部平面図、図4は図3のI−I断面図、図5は図3のJ−J断面図であり、図6は本実施例の基礎となるフード構造(基礎構造)を図2と同じ断面で示したものである。
【0030】図1及び図2のように、フード31のフードアウタパネル33はエンジンルーム35の上面を閉塞し、フードアウタパネル33の車体下側(エンジンルーム35側)には、フードインナパネル37が設けられている。フードインナパネル37は、フードアウタパネル33の周縁部及び内部に配設されてフードアウタパネル37の剛性を高める断面ハット状のインナリブ39を複数有している。
【0031】エンジンルーム35の車幅両側にはストラットタワー51が設けられている。ストラットタワー51は、フードリッジ49から車幅内側に突出するように設けられ、ストラットタワー51の上部としての上面51aには3本のボルト52が立設され、各ボルト52にはナット53が締結されている。なお、図中31はフェンダを示している。
【0032】ストラットタワー51とフードアウタパネル33の間には空洞部Aが設けられ、ストラットタワー51の車体上方のフードインナパネル37aには、平板部41が設けられている。平板部41は、車体内側及び車体外側でインナリブ39に連続するように両インナリブ39から延設され、かかるフードインナパネル37aは、ストラットタワー37aの上部としてボルト52・ナット53に近接して設けられている。平板部41と連続する車幅内側のインナリブ39aの車体内側端部45aは、弾性を有するマスチック等の樹脂46によってフードアウタパネル33に接着され、車幅外側のインナリブ39bの車体外側端部45bは、フードアウタパネル33の周縁部33aの折返しにより該周縁部33aに圧着されている。
【0033】ボルト52・ナット53に近接するフードインナパネル37aとフードアウタパネル33の間の空洞部Aには、複数の衝撃吸収部材55,57,59が配設されている。フードインナパネル37aと衝撃吸収部材55,57,59は衝撃吸収体を構成し、衝撃吸収部材55,57,59は、中間部に二つ(55)と、車幅内側及び車幅外側に一つずつ(57,59)というように4箇所に設けられている。中間部の衝撃吸収部材55と、車幅内側の衝撃吸収部材57は、3箇所のボルト52・ナット53に対応してその上方に設けられている。
【0034】図4のように、車幅外側の衝撃吸収体を構成する衝撃吸収部材59は、断面矩形または台形状のハット形状に形成され、樹脂46を介してフードアウタパネル33に接着される上側接続部59aと、上側接続部59aの両端から車体下方に屈曲され直線状に延設されたアウタ支持部としての直線脚部59bと、直線脚部59bの下端から屈曲されフードインナパネル37aに溶着される下側接続部59cを備えている。
【0035】衝撃吸収部材59の車体下方に位置するフードインナパネル37aには、衝撃吸収体を構成するバンパラバー取付部材60が、フードインナパネル37aから車体下方に断面矩形または台形状のハット状に切り起されている。バンパラバー取付部材60は、フードインナパネル37aから車体下方に直線状に延設されたアウタ支持部としての脚部60bと、脚部60b間に設けられたバンパラバー嵌合部60aを備えている。バンパラバー嵌合部60aには、孔部60dが形成され、この孔部60dにストラットタワー51の上面51aに当接するアウタ倒れ防止部材としての弾性樹脂製のバンパラバー47が嵌合されている。すなわち、バンパラバー47がストラットタワー51の上面51aに当接することにより、フードアウタパネル33の閉塞時にフードアウタパネル33の車幅外端が当接支持される。
【0036】図5のように、中間部の衝撃吸収部材55は、ストラットタワー51の上面51aから突出したボルト52・ナット53に対向して設けられ、前記車幅外側の衝撃吸収体59と同様に、上側接続部55と直線脚部55bと下側接続部55cを備えている。また、車幅内側の衝撃吸収体57は、中間部の衝撃吸収部材55とほぼ同一の構成である。
【0037】中間部及び車幅内側の衝撃吸収部材55,57の直線脚部55b,57bは両端でフードアウタパネル33とフードインナパネル37aに接続され、フードインナパネル37aはストラットタワー51のボルト52・ナット53に近接して設けられているので、かかる位置でのストラットタワー51とフードアウタパネル33の間の車体高さ方向における間隙は、前記直線脚部55b,57b及びフードインナパネル37aによって埋められていることとなる。
【0038】また、車幅外側の衝撃吸収部材59の直線脚部59bは両端でフードアウタパネル33とフードインナパネル37aに接続され、フードインナパネル37aにはバンパラバー47を備えたバンパラバー取付部60の脚部60bが立設されているので、かかる位置でのストラットタワー51とフードアウタパネル33の間の車体高さ方向における間隙は、前記直線脚部59b、フードインナパネル37a、及び脚部60bによって埋められていることとなる。
【0039】次に作用を説明する。
【0040】上記のように構成されたフード31は、衝撃実験においてHIC値を効率的に低下させることができる理想波形(フードの反力(F)−フードの変形による移動距離)に近似した波形が得られる構造となっている。
【0041】図6は衝撃実験を行った基礎構造を示し、図7は衝撃実験の結果として得た基礎波形C1 ,C2 と理想波形Cm を示している。
【0042】図6のように基礎構造のフード63は、衝撃吸収体が設けられていない点を除き、図1とほぼ同様の構成であり、ボルト52・ナット53はフードアウタパネル33に対向している。
【0043】基礎構造に対する衝撃実験は、中間部のボルト52・ナット53に対向するフードアウタパネル33の上側に衝撃子61を当て、衝撃子61の移動距離と加速度を測定することにより行う。この衝撃子61の移動距離及び加速度は、それぞれ図7中横軸に示すフードの変形による移動距離S(フードアウタパネル33の移動距離)及び図7中縦軸に示すフード63の反力Fに対応し、前記実験により図7に示す基礎波形C1 が得られる。図中において、基礎波形C1 は概略形状である。
【0044】理想波形Cm は、基礎構造におけるフードの移動量及びHIC値を共に小さく抑えることができる理想的な反力の波形を、衝撃時に必要とされるエネルギ吸収量と前記HICの導出式に基づき計算によって求めたものである。理想波形Cmと図中横軸の移動距離Sによって区画された内部面積は吸収エネルギであり、この内部面積が、必要とされるエネルギ吸収量となるように設定されている。なお、衝撃時に必要とされるエネルギ吸収量は、衝撃実験や計算等によって求める。
【0045】理想波形Cm では、移動距離Sの小さい変形初期は初期反力が急増し、移動距離S1 のときに最大反力F1 となり(図中pm )、移動距離S2 となる間に反力FがF2 まで急に減少するが、移動距離S2 以降の変形後期において、二次反力が作用して反力減少の割合が緩和されるショルダー部(図中qm )が表れ、さらに移動距離S3 で再び反力Fが急に減少し、移動距離S0 で衝撃エネルギが完全に吸収されて反力がほぼ零に達するというものである。
【0046】基礎波形C1 では、衝突直後の変形初期はフードアウタパネル33が衝撃子61の外形状に沿って局所変形を起こし、主としてフードアウタパネル33の張力に依存する初期反力が増大する。ところが、フードアウタパネル33の端部では、フードアウタパネル33が折れて変形し易く、即時に十分な張力が得られない。このため、初期反力の増加の割合は理想波形Cm と比べて小さく、得られる最大反力(略F3 )も理想波形Cm の最大反力F1 よりも低い。(図中p1 )。また、最大反力F3 を得た後は、フードアウタパネル33は衝撃子61から受けた慣性力によって広い範囲で沈み込みを開始して、移動距離Sの増大に伴って反力Fが急に減少し、反力がF2 よりもさらに低下する。そして、インナリブ39が潰れ変形を起してフードアウタパネル33がボルト52・ナット53に干渉することによって、再び反力がF4 まで増大し、フード63の移動が停止する。
【0047】このように、基礎構造のフード63では、初期反力が小さく、また移動距離が大きくなった後に再び反力Fが増大してしまうため、ショルダー部(図中qm )も得られない。このため、衝撃開始から長時間経過後に反力Fが上昇してしまい、頭部衝撃性に対して悪影響を及ぼしてしまうおそれがあった。また、フードアウタパネル33がボルト52・ナット53に干渉して停止する場合には、エネルギ吸収が不十分となるおそれもあった。
【0048】これに対し、本実施例にかかるフード31は、変形初期には、まずフードアウタパネル33が衝撃子61の外形状に沿って局所変形を起こして初期反力が立ち上がって急増する。この際、中間部の衝撃吸収部材55の直線脚部55bがボルト52・ナット53とフードアウタパネル33の間の車体高さ方向における間隙を埋めているので、フードアウタパネル33が直線脚部55bによって即時に支持される。したがってフードアウタパネル33の変形が抑制され、フード31の移動距離が小さい状態から十分な初期反力が得られ、移動距離Sが略S2 となった状態で最大反力(略F1 )が得られる。また、バンパラバー46がフードアウタパネル33の車幅外側端部における折れを防止しているので、初期反力は確実に増大する。
【0049】最大反力を得た後は、フードアウタパネル33は衝撃子61から受けた慣性力によって広い範囲で沈み込みを開始して反力Fが急に減少するが、かかる減少時には、依然フードアウタパネル33が直線脚部55bによって支持され、かつフードアウタパネル33への衝撃力は直線脚部55bによってフードインナパネル37aに分散されるので、反力Fの極端な減少は生ぜず、反力Fの減少割合を所望の割合とすることができる。そして、移動距離Sが略S3 に達すると反力Fが略F2 まで低下し、その後、直線脚部55bが潰れ変形(塑性変形)を開始し、所望の二次反力が生じて的確なショルダー部が表れる。直線脚部55bが十分に潰れると、フードアウタパネル33がボルト52・ナット53と直接的に干渉する前に衝撃エネルギが完全に吸収され、反力Fが再び急激に減少してほぼ零となり、図8のようにフード31が停止する。
【0050】なお、車幅内側及び車幅外側の衝撃吸収部材57,59の上方のフードアウタパネル33についても、同様の作用・効果を得ることができる。
【0051】したがって、本実施例によれば、理想波形Cm と近似した波形が得られ、少ない移動距離でHIC値を効果的に低下させて、頭部衝撃性を緩和することができる。
【0052】図9及び図10は、請求項3にかかる第1実施例の変形例を示したもので、図9は図3に対応する平面図であり、図10は図5に対応する図9のK−K断面図である。
【0053】この衝撃吸収部材65は前記中間部の衝撃吸収部材55に対応するもので、フードインナパネル37aから切り起すことによって衝撃吸収部材65をフードインナパネル37aに一体的に立設している点を除き、前記衝撃吸収部材55とほぼ同一の構成であり、上側接続部65aおよび直線脚部65bと、インナパネル37aから屈曲された下側接続部65cを備えている。
【0054】このような変形例によれば、前記衝撃吸収部材55による効果に加えて、衝撃吸収部材65をフードインナパネル37aから一体に立設したので、部品点数の低減及び組付け作業性の向上を図ることができる。
【0055】次に、請求項3及び請求項4記載の発明にかかる第2実施例を図11及び図12に基づいて説明する。
【0056】図11は第2実施例の要部断面図であり、図12は第2実施例の要部斜視図である。
【0057】図11及び図12のように、本実施例は、ストラットタワー51の上面51aに衝撃吸収体71を設けたものであり、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0058】衝撃吸収体71は、フードアウタパネル33に近接して設けられた上板部81と、上板部81の周縁から車体下方に屈曲されフードアウタパネル33側からストラットタワー51側に直線状に延設されたアウタ支持部としての複数の直線脚部73,75,77を備えている。上板部81は、ストラットタワー51の上面51aに突出する3箇所のボルト52・ナット53の上方を覆うように設けられ、上板部81には、衝撃吸収体71の圧壊反力を所望の大きさに設定するための孔部79が形成されている。この孔部79は、ボルト52・ナット53の上方に優先的に配置され、ボルト52締結時の作用性を向上させている。ボルト52・ナット53に近接する直線脚部73,75の下端部82,83は、ボルト52・ナット53側に屈曲され、この下端部82、83がボルト52・ナット53に共締めされることによって、衝撃吸収体71がストラットタワー51の上面51aに固定されている。
【0059】上板部81の車幅外側には、フードアウタパネル33の閉塞時にフードアウタパネル33の車幅外端を当接支持するアウタ倒れ防止部材としての弾性樹脂製のバンパラバー67が設けられている。
【0060】本実施例によれば、第1実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0061】すなわち、変形初期には、まずフードアウタパネル33が局所変形を起こして初期反力が立ち上がって急増する。この際、アウタパネル33が直線脚部73,75,77によって即時に支持されるのでフードアウタパネル33の変形が抑制され、移動距離が小さい状態から十分な初期反力が得られ、移動距離Sが略S1となった状態で最大反力(略F1 )が得られる。また、バンパラバー67がフードアウタパネル33の車幅端部における折れを防止しているので、初期反力は確実に増大する。
【0062】最大反力を得た後は、フードアウタパネル33は慣性力によって広い範囲で沈み込みを開始して反力Fが急に減少するが、かかる減少時にはフードアウタパネル33への衝撃力は直線脚部73,75,77によって依然支持されているので、反力Fの極端な減少は生ぜず、反力Fの減少割合が所望の割合に維持される。そして、移動距離Sが略S2 に達すると反力Fが略F2 まで低下し、その後、直線脚部73,75,77が潰れ変形(塑性変形)を開始し、所望の二次反力が生じて的確なショルダー部が表れる。直線支持部73,75,77が十分に潰れると、フードアウタパネル33がボルト52・ナット53と直接的に干渉する前に衝撃エネルギが完全に吸収され、反力Fが再び急激に減少してほぼ零となる。
【0063】したがって、本実施例によれば、理想波形Cm と近似した波形が得られ、少ない移動距離でHIC値を効果的に低下させて、頭部衝撃性を緩和することができる。
【0064】また、衝撃吸収体71をストラットタワー51側に設けたので、フード70の重量が軽減され、フード70の開閉性を良好に維持することができる。
【0065】さらに、衝撃吸収体71は、既存のボルト52・ナット53に共締めすることによってストラットタワー51に固定しているので、簡単な構成とすることができる。
【0066】
【発明の効果】以上説明してきたように、請求項1記載の発明によれば、フードへの衝撃後、直線状のアウタ支持部が即時にアウタパネルを支持するので、フードの移動距離が小さい状態から十分な初期反力が得られる。また、フードの移動距離が増大し所定距離となると、ストラットタワーの上部との干渉によって衝撃吸収体が潰れ変形を起こして所望の大きさの二次反力が生じ、反力の減少が的確に緩和される。これにより、フードの反力とその移動距離の関係を理想的な状態とすることができ、フードの移動距離を小さく抑えて十分なエネルギ吸収を確保すると共に、HIC値を効率的に低下させて、頭部衝撃性を低減することができる。
【0067】請求項2記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、衝撃力が衝撃吸収部材の直線脚部を介してフードインナパネルにも分散されるので、的確に初期反力を増大することができ、頭部衝撃性を一段と低減することができる。
【0068】請求項3記載の発明によれば、請求項2の効果に加え、衝撃吸収部材をフードインナパネルから一体に立設したので、部品点数の低減、フード重量の軽減、及び組付作業性の向上を図ることができる。
【0069】請求項4記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、衝撃吸収体をストラットタワー側に設けたので、フードの重量が軽減され、フードの開閉性を良好に維持することができる。
【0070】請求項5記載の発明によれば、請求項1〜請求項4の効果に加え、アウタ折れ防止部材がフードアウタパネルの車幅端部における折れを防止するので、フードの初期反力を確実に即時に増大させることができ、頭部衝撃性をより確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例にかかる自動車のフード構造を示す斜視図である。
【図2】図1のフードのH−H断面図である。
【図3】図1の要部平面図である。
【図4】図3のI−I断面図である。
【図5】図3のJ−J断面図である。
【図6】第1実施例の基礎構造を示す断面図である。
【図7】基礎波形C1 と理想波形Cm を示す概略図である。
【図8】第1実施例の作用を説明する断面図である。
【図9】第1実施例の変形例を示した図3に対応する平面図である。
【図10】図9のK−K断面図である。
【図11】第2実施例の要部断面図である。
【図12】第2実施例の要部斜視図である。
【図13】従来のフード構造を有する自動車を示す斜視図である。
【図14】図17の要部拡大図である。
【図15】図18のV−V断面図である。
【図16】WSTCを示す図である。
【符号の説明】
31 フード
33 フードアウタパネル
35 エンジンルーム
37 フードインナパネル
37a ストラットタワー上方のフードインナパネル(衝撃吸収体)
47 バンパラバー(アウタ折れ防止部材)
51 ストラットタワー
55 衝撃吸収部材(衝撃吸収体)
55a 上側接続部
55b 直線脚部(アウタ支持部)
55c 下側接続部
57 衝撃吸収部材(衝撃吸収体)
57a 上側接続部
57b 直線脚部(アウタ支持部)
57c 下側接続部
59 衝撃吸収部材(衝撃吸収体)
59a 上側接続部
59b 直線脚部(アウタ支持部)
59c 下側接続部
60 バンパラバー取付部(衝撃吸収体)
60b 脚部(アウタ支持部)
65 衝撃吸収部材(衝撃吸収体)
65a 上側接続部
65b 脚部(アウタ支持部)
65c 下側接続部
67 バンパラバー(アウタ倒れ防止部材)
71 衝撃吸収体
73 直線脚部(アウタ支持部)
75 直線脚部(アウタ支持部)
77 直線脚部(アウタ支持部)
A 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車幅両側にストラットタワーが配設されたエンジンルームの上面を閉塞するフードアウタパネルを備え、前記フードアウタパネルへの衝撃を吸収する自動車のフードの構造であって、前記ストラットタワーとフードアウタパネルの間に空洞部を設け、前記空洞部の少なくとも一部に、直線状のアウタ支持部を有し、前記ストラットタワーの上部とフードアウタパネルの間の車体高さ方向における間隙を埋める衝撃吸収体を設けたことを特徴とする自動車のフード構造。
【請求項2】 請求項1記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収体は、前記フードアウタパネルに設けられ前記ストラットタワーの上部に近接するフードインナパネルと、前記フードアウタパネルとフードインナパネルの間の空洞部に設けられた衝撃吸収部材を備え、前記衝撃吸収部材は、前記フードアウタパネル側に接続される上側接続部と前記フードインナパネル側に接続される下側接続部とを有し、前記アウタ支持部は、前記上側接続部と下側接続部を連結する直線脚部であることを特徴とする自動車のフード構造。
【請求項3】 請求項2記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収部材は、前記フードインナパネルから一体に立設したことを特徴とする自動車のフード構造。
【請求項4】 請求項1記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収体は前記ストラットタワー側に設けたことを特徴とする自動車のフード構造。
【請求項5】 請求項1〜請求項4記載の自動車のフード構造であって、前記衝撃吸収体は、車幅外端に設けられて前記フードアウタパネルの閉塞時に該フードアウタパネルの車幅外端を当接支持するアウタ折れ防止部材を備えたことを特徴とする自動車のフード構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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