説明

自動車前照灯用メタルハライドランプ

【課題】従来の自動車前照灯用メタルハライドランプにおいては使用に応じて発光色が大きく変化するようになるという欠点があった。
【解決手段】本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプにおいては、石英ガラスからなる発光管と、この発光管の両端に設けられた封止部の石英ガラス内に溶着した、外部電源接続用金属箔と、上記発光管の中空発光部内に封入したハロゲン化金属及び希土類元素ハロゲン化物と、一端を上記金属箔に溶接し、他端を上記中空発光部内に突出せしめた対をなす高融点金属からなる電極と、上記封止部内においてこの電極に被せた高融点金属からなるコイルとより成り、上記コイルの上記金属箔側端部と上記金属箔間の距離L(mm)と上記金属箔の最大厚みM(mm)が40≦L/MかつL<1.6を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車前照灯としては、高効率なメタルハライドランプが採用されつつある。このメタルハライドランプは発光管の中空発光部内に水銀や希ガスと各波長の光を発するハロゲン化金属が封入されている。このハロゲン化金属はナトリウム、スカンジウム或いはタリウム、インジウム等の希土類元素に含まれない金属とハロゲンとの化合物である。このメタルハライドランプの発光色(色温度)はハロゲン化金属の種類及びこれらの混合比率によって決められる。しかし近年、メタルハライドの種類、混合比率は顧客のニーズ、特に発光色が多様化した事に合わせ、従来の一般照明用メタルハライドランプ等で多用されているディスプロシウムやネオジウム、ツリウムなどのランタナイド系に含まれる希土類元素とハロゲンとの化合物を含むものもある。
【0003】
従来の自動車前照灯に用いられるメタルハライドランプは図3に示すように石英ガラスにより発光管1が形成され、この発光管1の中空発光部内にタングステンからなる電極2が対向して配置してあり、この電極2はタングステンコイル3によって被覆されていると共に、電極2の基端部にはモリブデンからなる金属箔4が溶接され、この金属箔4が発光管1を形成する石英ガラス内に溶着されることで発光管1の中空発光部内の気密が保たれている。
【0004】
なお、電極2と石英ガラスが溶着していれば点灯時、電極2と石英の熱膨張差により石英ガラスに電極2からクラック(以下電極クラックという)が生じ、リークの原因となるが図4の様に石英ガラスが溶着される電極2部分にタングステンコイル3を被覆する事で、電極2と石英ガラスの溶着を防止し、電極クラックを防いでいる事は周知の技術である。
【0005】
また、放電灯の高性能化に伴い、更なる改良も検討され、例えば特許文献1に示すような「両端部に電極が設けられ、かつ内部に金属ハロゲン化物が封入された発光部と、前記電極に接続されている導入体が封止され、かつ前記発光部の両端部に設けられた封止部とを有する発光管を備えた安定点灯中における管電力が70W以下のメタルハライドランプであって、前記電極が前記封止部に封止された部分のうち前記発光部と前記封止部との境界から前記導入体に至るまでの封止電極部の少なくとも一部に金属体を被覆しており、前記金属体の重量A(mg)、前記封止電極部の重量をB(mg)とした場合、0.2≦A/B≦1.6なる関係式を満たすとともに、前記金属体の外径をOD(mm)、前記封止電極部の前記発光部と前記封止部との境界から前記金属体の前記発光部側の端までの長さを1(mm)とした場合、0.5≦1/OD≦3.5なる関係式を満たし、かつ前記電極の外径をD(mm)、安定点灯中における管電流をIla(A)とした場合、1.2≦Ila/D≦2.5なる関係式を満たすことを特徴とするメタルハライドランプ。」が知られている。
【0006】
また、電極2をコイル3で被覆すると石英と電極2の接着部分を通じて、中空発光部から金属箔4までの間に僅かな隙間が生じ、ここに封入物が入り込む事で発光色が変化するという問題が生じる。これについても改善技術が提案され、例えば特許文献2に示すような「電極棒にタングステンコイルを被着し石英ガラスバルブで封止を行うメタルハライドランプの製造方法において、前記タングステンコイルは前記電極棒の外径よりも適宜に大きい内径で且つ前記石英ガラスバルブで封止を行うときにコイルピッチ間から溶融した石英ガラスが入り込むことのないピッチとして形成され、前記電極棒に被着を行った後に一端を前記電極棒が溶接されているモリブデン箔に溶接し、しかる後に前記タングステンコイルの長さの略半分の位置を保持して前記電極棒の放電端側に引張ることで、該タングステンコイルの前記モリブデン箔側の部分のピッチを伸長させると共に密着させることを特徴とするメタルハライドランプ。」が知られている。
【0007】
また、「放電室に設けられている電極の、ガラスとの接触部分にコイルが巻付けられて封止部に生じるクラックを防止して成る前照灯用メタルハライドランプにおいて、前記電極は電極径d0が点灯開始直後の電流密度が(9.5(A/mm2)≦電流密度D≦181(A/mm2))の範囲として設定され、前記電極と前記コイルとを含む断面積Sを(S≦0.2(mm2))の範囲として設定され、前記コイルの内径IDを(d0<ID≦1.5×d0)の範囲として設定され、前記コイルのコイルピッチPを(P<600%)として設定され、前記コイルの端部と金属箔との間隔Lを(L≧0.2mm)として設定され、前記放電室にはメタルハライドが(0.3±0.1mg)で且つNaI:ScI3の比率を4:1〜2:1として封入されていることを特徴とする前照灯用メタルハライドランプ。」(特許文献3)や、「中空の発光管および発光管の両端から管軸方向に延在する第1および第2の封止部を備えた石英ガラス製のバルブと;基端側がバルブの第1の封止部に固持され、先端側がバルブの包囲部内に突出するとともに先端に陰極を有する第1の内部導入体と;基端側がバルブの第2の封止部に固持され、先端側がバルブの包囲部内に突出するとともに先端に陽極を有する第2の内部導入体と;先端側が第1および第2の封止部内に固持されるとともに基端側が第1および第2の封止部から外部へ導出された一対の外部導入線と;第1の封止部の内部に気密に埋設されるとともに第1の内部導入体の基端および外部導入体の先端を電気的に接続する第1の金属箔と;第2の封止部の内部に気密に埋設されるとともに第2の内部導入体の基端および外部導入体の先端を電気的に接続する第2の金属箔と;を具備し、第1の金属箔の断面積をSw(mm2)、第1の封止部の断面積をSS(mm2)、第1の内部導入体の長さをL(mm)、ランプ電流をIL(A)、ランプの消費電力をWL(W)としたとき、数式1および数式2を満足することを特徴とする高圧放電灯。」(特許文献4)も知られている。
【特許文献1】特許第3718077号。
【特許文献2】特許第3039626号。
【特許文献3】特許第3218560号。
【特許文献4】特許第3345040号。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では金属箔と電極が溶接している箇所にコイルが接触・融合される為、コイルが無い場合に対して、発光管の中空発光部内から金属箔までに形成される隙間はどうしても多くなっていた。ここでディスプロシウム等、融点が高いランタナイド系に含まれる希土類元素のハロゲン化物を主として上記中空発光部内に封入すると、点灯・消灯を繰り返すにつれて、電極、金属箔溶接部に電極とコイル間の僅かな隙間から、従来から用いられてきたNa−Sc等に比べ、より多くのハロゲン化物が侵入してしまい、従来と同様に封入物減少により発光色が大きく変化するという問題が生じている。これは前記希土類元素ハロゲン化物は従来のナトリウム、タリウム、インジウム等から成る希土類元素以外の金属ハロゲン化金属より融点が高いものが多い為、温度の低い金属箔側の隙間に侵入しやすく、また、中空発光部内に戻りにくいものと推定される。
【0009】
また、特許文献3では剥離クラックの防止技術として金属箔4とコイル3の金属箔側端部間の距離Lを0.2mm以上にすることが提案されているが、希土類元素を多く含むランプではLを0.2mmとしても剥離クラックが生じ、また0.2mm以上とすると、コイルが被覆されていない箇所が多くなる為、電極クラックが生じる可能性が高くなるが、この件についての明記は無い。
【0010】
他方、特許文献4では箔と石英の熱膨張差によって生じるクラックを防止する技術として、箔断面積S、ランプ電流ILをIL/S≦180とする、すなわち電流に対し箔断面を大きくすることが提案されているが、自動車前照灯用メタルハライドランプにおいて、箔の厚みを大きくする、すなわち箔断面積を増やすと逆に剥離クラックが発生しやすいという現象が見られた。
【0011】
ここで本発明者は前記課題を克服する為に鋭意研究した結果、上記L(mm)と金属箔の最大厚みM(mm)が40≦L/MかつL<1.6の関係を満たすことで前記問題が解決できる事を見出した。
【0012】
本発明は上記知見に基づいて成されたものである。
【0013】
本発明の目的は、希土類元素のハロゲン化物を封入しても、電極クラック及び剥離クラックを防止しつつ、且つ点灯時における発光色変化も少ないメタルハライドランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプは、石英ガラスからなる発光管と、この発光管の両端に設けられた封止部の石英ガラス内に溶着した、外部電源接続用金属箔と、上記発光管の中空発光部内に封入したハロゲン化金属及び希土類元素ハロゲン化物と、一端を上記金属箔に溶接し、他端を上記中空発光部内に突出せしめた対をなす高融点金属からなる電極と、上記封止部内においてこの電極に被せた高融点金属からなるコイルとより成り、上記コイルの上記金属箔側端部と上記金属箔間の距離L(mm)と上記金属箔の最大厚みM(mm)が40≦L/MかつL<1.6を満たすことを特徴とする。
【0015】
上記コイルの上記金属箔側端部が上記封止部内において上記電極に溶着されており、上記コイルの他端が上記中空発光部内に露出していることを特徴とする。
【0016】
上記希土類元素ハロゲン化物が、上記中空発光部内に封入されたハロゲン化物総量に対し重量比で40%以上80%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプによれば、電極クラック及び剥離クラックを防止でき、使用による発光色変化が極めて少ないようになる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面によって本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明においては図1〜図3に示すように管電力35W(管電圧85V、管電流0.41A)のメタルハライドランプを発光管1として用い、酸化トリウムを1%wt含有するタングステンからなる直径0.25、全長7mmの電極2の基端を、その端部がエッジ形状を有するモリブデンからなる金属箔4に接続し、上記電極2の遊端を石英ガラスからなる発光管1の中空発光部内に突出せしめる。電極2には従来と同様、タングステンからなるコイル3を被覆せしめ、発光管1の中空発光部内には水銀と、バッファーガスとして例えばキセノンガスと、ナトリウム、スカンジウム或いはタリウム、インジウム等の希土類元素以外の金属とハロゲンとの化合物であるハロゲン化金属と、デイスプロシウム、ネオジウム、ツリウムなどのランタナイド系に含まれる希土類元素とハロゲンの化合物である希土類元素ハロゲン化物とを封入し、上記希土類元素ハロゲン化物は、上記中空発光部内に封入されるハロゲン化物総量に対し重量比で70%とする。
【0020】
また、上記金属箔4の厚みの最大部を0.015、0.020、0.025mmとし、上記L(mm)を従来の0.2mmに加え0.4mm〜1.6mmまで変化させた場合の実験例を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
この評価は日本電球工業会規格JEL215に記載されている試験方法を用い、1500時間まで評価を行って電極クラック及び剥離クラック発生の有無、色温度変化を確認した。色温度は前照灯白色範囲を考慮し、初期の色温度に対し110%までを良とした。
【0023】
表1から明らかなようにL/Mが40未満であると剥離クラックが生じている。これはLが短い程、コイルを介してハロゲン化物が箔まで達しやすく、またMが厚い程、膨張・収縮によって生じる空孔が広くなりハロゲン化物が溜まりやすい為と推測される。
【0024】
一方、色温度の変化はL/Mが40未満であると初期に対し10%以上上昇し、結果白色範囲から逸脱している。これは前記同様、ハロゲン化物が箔により多く侵食した結果、水銀による発光が強くなった為と推測される。
【0025】
また、Lが1.6mm以上であるとコイルが被覆されていない箇所が長くなる為、電極クラックが生じる。
【0026】
よってL/Mは40以上且つLを1.6mm以下とする事で電極クラック、剥離クラックを防止し、色温度変化を少なくする事が可能である。
【0027】
箔の厚みは厚い方が容量が増加し、ランプ電流による温度上昇が緩和され、外部リードへの熱放出が促進されると推測されるが、この要因よりも箔厚みを薄くする事による熱膨張・収縮の抑制の方が剥離クラックには有効である事が判ったので、箔厚みは薄い方が好ましい。
【0028】
箔の厚みMは0.015mmが好ましい。これ以下の厚さでは箔が柔らかすぎて、電極や外部リードを箔に溶接する際や、電極、箔、外部リードの付いたマウントを発光管内に挿入する工程で工数がかかり、精度も悪くなる。
【0029】
本実験では希土類元素ハロゲン化物を重量比で総重量の70%としたがこれ以外(40%以上80%以下)でも電極クラック、剥離クラック抑制効果は良好であった。しかし80%以上とすると発光効率が低下し、商品価値が下がるので80%以下が好ましい。また40%以下であると希土類元素による演色性の向上等の効果が薄くなるので40%以上が好ましい。
【0030】
なお、上記中空発光部に水銀を封入しない水銀フリーメタルハライドランプにおいては水銀を封入しない分、水銀によるエネルギー損失が無いのでデイスプロシウム等蒸気圧の低い希土類物質がより発光しやすくなり、これによる演色性が向上するが、このような水銀フリーのものでも各メタルハライドの蒸気圧等は同様であり、点灯による箔クラックの発生、発光色変化が生じ易い。従って、本発明は水銀フリーのものにも同様にして適用できることは勿論である。
【0031】
以上の様に、希土類元素ハロゲン化物を重量比で40%以上80%以下封入しても、L(mm)と金属箔の最大厚みM(mm)を40≦L/MかつL<1.6とすることで電極クラック及び剥離クラックを防止し、発光色変化も極めて少ないメタルハライドランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の自動車前照灯用メタルハライドランプの縦断正面図である。
【図2】図1に示す自動車前照灯用メタルハライドランプの要部の拡大図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】従来の自動車前照灯用メタルハライドランプの縦断正面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 発光管
2 電極
3 タングステンコイル
4 金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなる発光管と、この発光管の両端に設けられた封止部の石英ガラス内に溶着した、外部電源接続用金属箔と、上記発光管の中空発光部内に封入したハロゲン化金属及び希土類元素ハロゲン化物と、一端を上記金属箔に溶接し、他端を上記中空発光部内に突出せしめた対をなす高融点金属からなる電極と、上記封止部内においてこの電極に被せた高融点金属からなるコイルとより成り、上記コイルの上記金属箔側端部と上記金属箔間の距離L(mm)と上記金属箔の最大厚みM(mm)が40≦L/MかつL<1.6を満たすことを特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項2】
上記コイルの上記金属箔側端部が上記封止部内において上記電極に溶着されており、上記コイルの他端が上記中空発光部内に露出していることを特徴とする請求項1記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。
【請求項3】
上記希土類元素ハロゲン化物が、上記中空発光部内に封入されたハロゲン化物総量に対し重量比で40%以上80%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の自動車前照灯用メタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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