説明

自動車用シート

【課題】 着座者が小柄である場合、背もたれ部及びヘッドレストの位置を前方へ変更調整することができる自動車用シートを提供する。
【解決手段】 自動車用シート11の背もたれ部13の上端にヘッドレスト16を設ける。背もたれ部13の上部前面には、他の部分13aから分割された分割片13bを形成する。その分割片13bを、他の部分13aとともに背もたれ部13の一部を構成する通常位置P1と、他の部分13aの下部前方において単独で背もたれ部13を構成する前方位置P2とに配置可能に構成する。ヘッドレスト16を背もたれ部13の上端の通常位置P3と背もたれ部13の上部前方の前方位置P4とに配置可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車に装備される自動車用シートに係り、特に背もたれ部の上端にヘッドレストを備えた自動車用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の自動車用シートとしては、例えば図5に示すような構成のものが一般的である。この構成の自動車用シート21は、腰掛部22と、背もたれ部23とから構成されている。背もたれ部23の上端にはヘッドレスト24が取り付けられている。そして、シート21全体が前後方向へ移動調節可能に構成されている。また、背もたれ部23が腰掛部22に対して角度調節可能に構成されるとともに、ヘッドレスト24が背もたれ部23に対して高さ調節可能に構成されている。
【0003】
また、特許文献1には、子供用シートとして適用できるようにしたシートが開示されている。
【特許文献1】特開平5−85241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この従来の自動車用シート21においては、腰掛部22の前後方向の奥行き寸法が一定になっている。このため、シート21が運転席であって、着座者Mが女性等の小柄な人である場合、たとえ自動車用シート21全体が上下位置調節可能に構成されているものであって、下部側に調節されている状態であっても、腰掛部22の奥まで深く腰掛けると、アクセルペダルやブレーキペダルに足が届かなかったり、膝の裏側部分が腰掛部22上に位置したりして、ペダル操作が困難になった。よって、このような場合、従来の自動車用シート21では、図5に鎖線で示すように、背もたれ部23と着座者Mの背中との間にクッション25等を介在させて、ドライビングポジションを前方に変更調整していた。従って、クッション25等の携行を忘れると、ドライブビングポジションの調整操作が不可能になるという問題があった。また、特許文献1の構成は、子供用として対応できるものの、大人がドライビングポジションを確保するには無理がある。
【0005】
また、前記のように、クッション25等を使用してドライビングポジションを前方に変更調整した場合、着座者Mの頭部がヘッドレスト24から前方側に大きく離れてしまう。このため、自動車の衝突時等において、ヘッドレスト24により着座者Mの頭部を後方から効果的に支持することができないということもあった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、小柄な着座者である場合、背もたれ部及びヘッドレストの位置を前方へ容易に変更調整することができる自動車用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、背もたれ部の上端にヘッドレストを備えた自動車用シートにおいて、前記背もたれ部の上部前面には同背もたれ部の他の部分から分割された分割片を形成して、その分割片を他の部分とともに背もたれ部の一部を構成する位置と、他の部分の下部前方において単独で背もたれ部を構成する位置とに配置可能に構成し、前記ヘッドレストを背もたれ部の上端位置と背もたれ部の上部前方位置とに配置可能に構成したことを特徴とするものである。
【0008】
(作用)
請求項1に記載の発明においては、着座者が小柄である場合、背もたれ部の分割片を同背もたれ部の他の部分の下部前方において単独で背もたれ部を構成する位置に配置する。それとともに、ヘッドレストを背もたれ部の上部前方位置に配置する。よって、クッション等の別の部材を必要とせず、背もたれ部及びヘッドレストの位置を容易に前方へ変更調整することができて、シートが運転席である場合、良好なドライビングポジションを確保することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、この発明によれば、着座者が小柄である場合、背もたれ部及びヘッドレストの位置を前方へ容易に変更調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、この発明の一実施形態を、図1〜図4に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、この実施形態の自動車用シート11は、腰掛部12と、その腰掛部12の後端に傾斜角度調節可能に装着された背もたれ部13とから構成されている。
【0011】
背もたれ部13の上部前面には、同背もたれ部13の他の部分13aから分割された分割片13bが形成されている。この分割片13bは、他の部分13aに対し支持アーム14を介して、上下方向へスライド可能に、かつ上部スライド位置において前後方向へ回動可能に取り付けられている。すなわち、分割片13bは、図2に示すように、背もたれ部13の上部前面に形成された凹部15内において、他の部分13aとともに背もたれ部13の一部を構成する通常位置P1と、図4に示すように、他の部分13aの下部前方において、単独で背もたれ部13を構成する前方位置P2とに切り替え配置されるようになっている。
【0012】
前記背もたれ部13の上端には、ヘッドレスト16が取り付けられている。このヘッドレスト16は、背もたれ部13の上端に対し一対の支持レバー17を介して、前後方向へ回動可能に取り付けられている。そして、ヘッドレスト16は、図2に示すように、背もたれ部13の上端の通常位置P3と、背もたれ部13の上部前方の前方位置P4とに切り替え配置されるようになっている。背もたれ部13の上端には、両支持レバー17を直立位置で保持するとともに、両支持レバー17の後方回動を許容するための解除操作可能なストッパ機構18が配設されている。
【0013】
なお、前記ヘッドレスト16及び分割片13bは、図示しないロック機構により図4に示す位置で解除可能にロックされる。
次に、前記のように構成された自動車用シートの動作を説明する。
【0014】
さて、この自動車用シート11を使用する着座者Mが通常の体形である場合には、図2に示すように、背もたれ部13の分割片13bを、凹部15内において他の部分13aとともに背もたれ部13の一部を構成する通常位置P1に配置する。また、ヘッドレスト16を、背もたれ部13の上端の通常位置P3に配置する。この状態で、着座者Mが腰掛部12に腰を掛ければ、背もたれ部13及びヘッドレスト16により、着座者Mの背及び頭部を後方から効果的に支持することができる。
【0015】
一方、着座者Mが小柄である場合には、図3に示すように、ストッパ機構18を解除操作して、ヘッドレスト16をいったん支持レバー17とともに後方へ傾動させて、分割片13bの移動範囲外に位置させる。そして、背もたれ部13の分割片13bを支持アーム14に沿って上方にスライドさせる。その後、図4に示すように、背もたれ部13の分割片13bを他の部分13aの下部前方において単独で背もたれ部13を構成する前方位置P2に配置する。それとともに、ヘッドレスト16を背もたれ部13の上部前方の前方位置P4に配置する。この状態で、着座者Mが腰掛部12に腰を掛ければ、その着座者Mが小柄であっても、背もたれ部13及びヘッドレスト16により、着座者Mの背及び頭部を後方から効果的に支持することができる。
【0016】
以上のように、この自動車用シート11においては、着座者Mが小柄である場合、クッション等の別の部材を必要とせず、背もたれ部13及びヘッドレスト16の位置を容易に変更調整することができる。よって、シート11が運転席である場合、良好なドライビングポジションを確保することができる。
【0017】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ ヘッドレスト16と分割片13bとの間に連結機構を設けて、ヘッドレスト16または分割片13bの一方を図2の位置と図4の位置との間で移動させた場合に、他方も同時に移動されるように構成すること。
【0018】
・ ヘッドレスト16及び分割片13bの回動をモータ駆動によって行うように構成すること。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態の自動車用シートを示す斜視図。
【図2】図1の自動車用シートを側方から見て示す構成図。
【図3】図2の自動車用シートの動作状態を示す構成図。
【図4】図3の状態からさらに動作した状態を示す構成図。
【図5】従来の自動車用シートを示す側面図。
【符号の説明】
【0020】
11…自動車用シート、12…腰掛部、13…背もたれ部、13a…他の部分、13b…分割片、14…支持アーム、16…ヘッドレスト、17…支持レバー、M…着座者、P1…分割片の通常位置、P2…分割片の前方位置、P3…ヘッドレストの通常位置、P4…ヘッドレストの前方位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背もたれ部の上端にヘッドレストを備えた自動車用シートにおいて、前記背もたれ部の上部前面には同背もたれ部の他の部分から分割された分割片を形成して、その分割片を他の部分とともに背もたれ部の一部を構成する位置と、他の部分の下部前方において単独で背もたれ部を構成する位置とに配置可能に構成し、前記ヘッドレストを背もたれ部の上端位置と背もたれ部の上部前方位置とに配置可能に構成したことを特徴とする自動車用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−123721(P2006−123721A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314650(P2004−314650)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】