説明

自動車用フロアマット及びその製造方法

【課題】フロアカーペット表面が立毛状態又はフラット状態であるかと無関係に優れた防滑性を示す自動車用フロアマット及びその製法を提供する。
【解決手段】フロアマット10は、表面層1、中間層2、及び樹脂層31と多孔質体層32とからなる裏面層3を含み、樹脂層は、所定温度以上で流動状態になる樹脂から形成され、多孔質体層は、流動状態樹脂を漏出可能な細孔を有し、中間層として樹脂非透過層を含み、裏面層は、平坦部から突出する複数の主要突起部を有し、平坦部では、表面全体に多孔質体層が露出し、内側に樹脂層が完全に覆われて存在し、そして主要突起部は、表面上に複数の小突起部を有する。製造方法は、シート状積層体と成形型とを相互に重ね合わせ、成形性樹脂層の樹脂が流動状態で、シート状積層体を押圧して主要突起部と小突起部とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用フロアマット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車内において、靴などに付着した土、砂、泥、砂利、雨水、泥水、あるいは搭乗者がこぼした飲料水などが自動車室内のフロアカーペットに付着して、フロアカーペットが汚れるのを防止するために、フロアカーペット上に自動車用フロアマットが敷かれている。
【0003】
この自動車用フロアマットとして、図8(各材料を分離して表す模式的断面図)に示すような、カーペットなどの表面材81と、この表面材81を支持するゴムや熱可塑性エラストマーなどからなる裏材85とからなるものが知られている。カーペット表面材81は、例えば、パイル層81Aと基布層81Bとを含む。このような自動車用フロアマット8においては、裏材85によって耐久性が付与されるとともに、裏材85に円錐状又は紡錘形状に突出した突起86を多数設けることにより、滑り止めの効果を発揮することができる。
【0004】
前記突起については、従来から、種々の態様が提案されている。例えば、裏面部に発泡ウレタンからなる紡錘形の突起を設けた自動車用フロアマットが知られている(特許文献1)。また、前記自動車用フロアマットの防滑性を改良する技術として、ゴム等により形成された自動車用フロアマットの裏面部に、下方へ突出する凸部を多数形成して、それらの各凸部を中心突起とし、更に、これらの中心突起の各々の側壁面から側方(すなわち、裏面の表面方向)に延び、前記中心突起より高さの低い複数の補助突起を形成した自動車用フロアマットが知られており、前記特許文献1に記載の自動車用フロアマットに比べて、効果的に滑り防止を得ることができるものとされている(特許文献2)。
【0005】
更に、形成された突起の下面に、網状体を圧接した後に強制的に離脱させて切割溝を設け、この切割溝の縁部分にバリを設けた自動車用フロアマットも知られており、防滑性が向上するとされている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−143733号公報
【特許文献2】特開昭61−220945号公報
【特許文献3】特開2002−36932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自動車用フロアマットの裏面に突起を設けることによって得られる防滑性を向上させるためには、突起とフロアカーペットとの間の摩擦力を高める必要がある。例えば、フロアカーペットがパイルカーペットのような立毛状態にある場合には、突起自体がパイル内に埋め込まれることによって防滑性が発揮される。このため、自動車用フロアマットに外力が加わった場合でも立毛繊維と突起との配置関係が維持されることが理想的であり、剛性が比較的優れた材料から形成された突起を設けた方が有利である。
【0008】
一方、フロアカーペットの表面が、例えばニードルパンチ不織布のように、比較的フラットな形状を有する場合には、主として突起の先端部分とカーペット表面との接触によって摩擦力が生じるため、同一の材質からなる突起であれば、突起とカーペット表面との接触面積のみによって防滑性が決定される。従って、フラットな表面に対して接触面積を増大させるために、例えば、可塑性の高い材料から突起を形成し、その突起を応力によって変形させる手法が採用されてきた。
このように、従来の技術では、フロアカーペットの表面形態が立毛状態であるか、あるいはフラットな状態であるかに応じて、突起の構成材料や形状を適宜変更しなければならないという問題点があった。
従って、本発明の課題は、フロアカーペットの表面形態に関係なく、特には、フロアカーペットの表面形態が立毛状態であるか、あるいはフラットな状態であるかに関係なく、優れた防滑性を有するフロアマットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題は、本発明により、
(A)表面層、
(B)中間層少なくとも1層、及び
(C)中間層に接触する樹脂層と、中間層に接触しない多孔質体層とからなる裏面層
を含む自動車用フロアマットであって、
前記樹脂層は、所定温度以上に加熱されると流動状態になることのできる樹脂から形成されており、
前記多孔質体層は、流動状態の前記樹脂を漏出可能な細孔を有し、
前記中間層として、少なくとも、流動状態の前記樹脂を透過させない性質を有する樹脂非透過層を含み、
前記裏面層は、裏面層表面の平坦部と、その平坦部から突出する複数の主要突起部とを有し、
前記平坦部では、その表面全体に前記多孔質体層が露出し、その内側に前記樹脂層が完全に覆われて存在し、そして
前記主要突起部は、その表面上に、流動状態の前記樹脂が前記多孔質体層の前記細孔から漏出した後に固化して形成された複数の小突起部を有する
ことを特徴とする、前記自動車用フロアマットによって解決することができる。
【0010】
本発明による自動車用フロアマットの好ましい態様においては、前記主要突起部が、
(a)前記樹脂から形成される内側突起コア部と、
(b)その内側突起コア部の表面に形成される多孔質体シェル層と、
(c)その多孔質体シェル層の表面から突出し、前記樹脂から形成される小突起部と
からなる。
本発明による自動車用フロアマットの別の好ましい態様においては、前記主要突起部の表面に存在する小突起部が、鋭角的先端部を有するトゲ状小突起部であるか、又は球面表面を有するコブ状小突起部である。
本発明による自動車用フロアマットの更に別の好ましい態様においては、前記主要突起部の表面に存在する小突起部によって多孔質体シェル層が完全に覆われている。
本発明による自動車用フロアマットの更に別の好ましい態様においては、複数の主要突起部の表面上に形成された複数の小突起部の少なくとも一部が除去されおり、その態様では、好ましくは、複数の小突起部の少なくとも一部が、摩耗によって除去されている。
【0011】
また、本発明は、
(1)(A)表面層、
(B)中間層少なくとも1層、及び
(C)中間層に接触する成形性樹脂層と中間層に接触しない多孔質体層とからなる成形用フラット層
を含むシート状積層体と、平坦部表面と複数の主要突起部形成用凹部とを有する成形型とを、前記多孔質体層と前記成形型表面とが接触するように相互に重ね合わせ、
(2)前記成形性樹脂層を形成する樹脂が流動状態になる温度条件下で、前記シート状積層体を押圧することによって、前記主要突起部形成用凹部に位置する成形用フラット層の部分を凹部空間内に向かって突出させると共に、流動状態の樹脂の一部を前記多孔質体層の細孔から外側に漏出させ、
(3)前記成形型の平坦部表面と接触している成形用フラット層平坦部から突出する複数の主要突起部を形成すると共に、前記主要突起部の表面上に複数の小突起部を形成し、そして
(4)前記樹脂が固化状態になる温度まで冷却する
ことを特徴とする、
自動車用フロアマットの製造方法にも関する。
本発明方法の好ましい態様においては、前記成形型が、ロール状又は平板状である。
【0012】
一般に、自動車用フロアマットの「表面層」とは、自動車の室内フロアカーペット上に自動車用フロアマットを載置した際に目視により確認できる層を意味し、本明細書においてもその意味で用いる。また、「裏面層」とは、フロアカーペットと直接接触する層を意味し、本明細書においてもその意味で用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による自動車用フロアマットは、裏面表面に複数の主要突起部を有しているだけではなく、その主要突起部の表面に更に複数の小突起部を有しているので、後述する実施例において具体的データで示すように、フロアカーペットの表面形態に関係なく、特に、フロアカーペットの表面形態が立毛状態であるか、あるいはフラットな状態であるかに関係なく、いずれの場合にも優れた防滑性を示すことができる。
また、本発明による自動車用フロアマットが、前記主要突起部の表面の直ぐ内側に、突起状に湾曲した多孔質体シートの内部層を有している場合には、前記主要突起部表面の小突起部などの樹脂層が摩耗によって消滅した後であっても、前記多孔質体シートによる突起状湾曲内部層が露出するので、その多孔質体シート表面がフロアカーペットと接触し、良好な防滑性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
最初に、本発明による自動車用フロアマットの製造方法の代表的実施態様を図1〜図3に沿って説明し、続いて、本発明による自動車用フロアマットの構造をその代表的実施態様に沿って説明する。
図1は、本発明による自動車用フロアマットの原料となるシート状積層体10Aの各層を分離して、成形型5と共に示す模式的分解断面図である。シート状積層体10Aは、表面層としてのカーペット層1と、中間層としての樹脂非透過層2と、成形用フラット層3Aとを含む。また、図2は、図1に示すシート状積層体10Aを成形型5に接触させた状態を示す模式的分解断面図である。
【0015】
表面層としてのカーペット層1は、パイル層11と基布層12とを含む。シート状積層体10Aの前記カーペット層1とは反対側の裏面に位置する成形用フラット層3Aは、成形性樹脂層31Aと多孔質体層32Aとからなる。前記カーペット層1と前記成形用フラット層3Aとの間に位置する中間層としての樹脂非透過層2は、一方の表面で前記基布層12と接触し、もう一方の表面で成形性樹脂層31Aと接触している。前記成形性樹脂層31Aは、所定温度以上に加熱されると流動状態になることのできる樹脂から形成されている。前記樹脂非透過層2は、前記成形性樹脂層31Aを構成する樹脂が流動状態になった際に、その流動状態の樹脂を透過させない性質を有する。
【0016】
前記シート状積層体10Aにおいて、成形用フラット層3Aは全体的に平坦な層であって、表面に突起部を有していない。その成形用フラット層3Aを構成する成形性樹脂層31A及び多孔質体層32Aのいずれも、それぞれが全体的に平坦な層であり、突起部を有していない。更に、前記成形性樹脂層31Aの表面は、その全体が多孔質体層32Aに覆われており、成形性樹脂層31Aは、外側から観察することができない。なお、前記シート状積層体10Aを構成する前記樹脂非透過層2も全体的に平坦な層であり、前記カーペット層1も、表面のパイル層11の凹凸を無視すれば、全体的に平坦な層である。
【0017】
本発明による自動車用フロアマットを製造する際は、図2に示すように、前記シート状積層体10Aを成形型5と接触させる。成形型5は、その表面に平坦表面51と、複数の窪み部52とを有している。窪み部52は、前記シート状積層体10Aの裏面において、後述する主要突起部を形成すべき位置に配置されている。前記シート状積層体10Aは、前記多孔質体層32Aが前記成形型5の平坦表面51と接触するように相互に重ね合わせる。
【0018】
次に、成形性樹脂層31Aを構成する樹脂が流動化している温度条件下で、例えば、押圧ローラ(図示せず)あるいは押圧パネル(図示せず)を用いて、図2の矢印Pに示す方向に、前記シート状積層体10Aを前記成形型5に対して押圧する。成形性樹脂層31Aを構成する樹脂が流動化する温度条件とするには、例えば、前記シート状積層体10Aを成形型に押圧する前に加熱するか、あるいは成形性樹脂層31Aを形成するための樹脂シートを流動化温度条件に加熱した状態で、その他の各層用の材料からなるシートとを積層し、その温度条件を維持した状態で成形型に押圧することができる。
【0019】
流動化した樹脂は、それが接触する樹脂非透過層2を透過することができないので、図3に示すように、成形型5の窪み部52の空隙に向かって押し出される。この際に、多孔質体層32Aも、流動化樹脂によって窪み部52の空隙に向かって押し出される。
【0020】
図4及び図5は、成形性樹脂層31Aの樹脂と多孔質体層32Aの多孔質体とが、窪み部52の空隙に向かって押し出された後に冷却・固化されて、主要突起部4と小突起部6とが形成された状態を模式的に示す部分拡大断面図である。主要突起部4は、半球状突出コア部41と、その半球状突出コア部41の全表面を覆う湾曲シェル層42とからなる。半球状突出コア部41は、前記シート状積層体10Aの成形性樹脂層31Aを形成していた樹脂から形成され、湾曲シェル層42は、前記シート状積層体10Aの多孔質体層32A形成していた多孔質体から形成される。
【0021】
前記シート状積層体10Aの多孔質体層32Aを形成する多孔質体(すなわち、前記湾曲シェル層42を形成する多孔質体)は、流動化状態の前記樹脂を透過することのできる多数の細孔を有している。従って、成形性樹脂層31Aの樹脂と多孔質体層32Aの多孔質体とが、窪み部52の空隙に向かって押し出される際に、前記樹脂の一部は、多孔質体の細孔を通過して外側に漏出する。こうして、例えば、図4に示すような鋭角的先端部を有するトゲ状小突起部6Aが形成されたり、又は図5に示すような球面表面を有するコブ状小突起部6Bが形成される。
【0022】
小突起部6は、成形性樹脂層31Aを形成していた樹脂の物性(例えば、流動性)、多孔質体層32A形成していた多孔質体の物性(例えば、細孔直径や変形性、すなわち形状維持性)、及び成形条件(例えば、温度又は圧力)などによって種々の形態となることができる。すなわち、前記樹脂が加熱時に流動性に富むものであり、前記多孔質体が成形型の凹部に対する追従性が高い場合には、図4に示すようなトゲ状小突起部6Aが形成されやすく、前記樹脂が流動性に乏しいものであり、前記多孔質体が成形型の凹部に対する追従性に乏しい場合には、図5に示すようなコブ状小突起部6Bが形成されやすい。また、前記樹脂や多孔質体の物性によって、トゲ状小突起部6Aとコブ状小突起部6Bとの中間的な形状の小突起部を形成することもできる。
【0023】
前記多孔質体の外側に漏出した流動化樹脂によって形成される複数の小突起部は、多孔質体シェル層の表面上にて、それぞれを隔離して形成されるか、あるいは隣接する小突起部を相互に一体化して形成されることができる。図4は、前記湾曲シェル層42の表面上で、各トゲ状小突起部6Aがそれぞれ独立に隔離された状態で形成されている場合を示しており、従って、前記湾曲シェル層42を形成する多孔質体が、各トゲ状小突起部6Aの間に外側から観察可能である。一方、図5は、前記湾曲シェル層42の表面上で、各コブ状小突起部6Bがそれらのフモト部において相互に一体化され、前記湾曲シェル層42の表面上に被覆層61を形成しており、従って、前記湾曲シェル層42を形成する多孔質体は、完全に樹脂によって覆われており、外側から観察することはできない。この場合、コブ状小突起部6Bが被覆層61の上に突出して形成されている。なお、図5に示す被覆層61は、コブ状小突起部6Bのフモト部に形成させることができるだけでなく、例えば、図4に示すようなトゲ状小突起部6Aのフモト部にも形成させることができる。
【0024】
多孔質体層32Aを形成している多孔質体の形状安定性が比較的高くなる場合には、図2の矢印Pに示す方向に、前記シート状積層体10Aを前記成形型5に対して押圧した際に、多孔質体層32Aが、流動化樹脂によって窪み部52の空隙に向かって押し出される程度が少なくなる。この場合には、多孔質体の細孔を通過して外側に漏出した樹脂によって、複数の主要突起部が主に形成され、それと同時に、それらの主要突起部の表面に複数の小突起部が形成される。
【0025】
図6は、図1〜図3に示す方法によって製造され、図5に示す態様の主要突起部4と小突起部6とを備えた自動車用フロアマット10の模式的断面図である。この自動車用フロアマット10は、表面層としてのカーペット層1と、中間層としての樹脂非透過層2と、裏面層としての凹凸裏面層3とを含む。カーペット層1及び樹脂非透過層2は、シート状積層体10Aの形態のままであり、それぞれ全体として平坦である。
【0026】
一方、凹凸裏面層3は、シート状積層体10Aの成形用フラット層3Aから成形型によって変形されて形成されており、その表面には、平坦部7と、その平坦部から突出する複数の主要突起部4とが存在する。平坦部7は、成形型5の平坦表面51と接触した領域であり、表面には多孔質体層32が露出した状態で残り、その内側には樹脂層31が存在する。なお、シート状積層体10Aにおいて、成形型5の平坦表面51と接触した領域の樹脂の一部は、成型時に主要突起部の樹脂層に移動するので、平坦部7の樹脂層31の層厚は、成形性樹脂層31Aの層厚よりも薄くなる。
【0027】
凹凸裏面層3の表面上の主要突起部4は、成形型5の窪み部52に押し込まれることにより、平坦部7から突出して成形された領域であり、多孔質体層32の外側には、小突起部6、例えば、図4に示すようなトゲ状小突起部6A、あるいは図5に示すようなコブ状小突起部6Bが存在し、場合より、図5に示すような被覆層61が存在する。また、図4及び図5に示すとおり、主要突起部4の内部は、樹脂からなる半球状突出コア部41と、多孔質体からなり、前記半球状突出コア部41の全表面を覆う湾曲シェル層42とからなる。なお、前記の成型時に、シート状積層体10Aにおいて、成形型5の窪み部52の部分に位置した多孔質体層32Aの多孔質体は、流動化樹脂によって窪み部52の空隙に押し出されることによって引き延ばされるので、この部分の多孔質体層32の層厚は、シート状積層体10Aの多孔質体層32Aの層厚よりも薄くなる。
【0028】
本発明による自動車用フロアマットは、裏面層の表面に複数の主要突起部が存在し、更に、それらの主要突起部の表面に複数の小突起部を有するので、フロアカーペットの表面形態が立毛状態であるかあるいはフラットな状態であるかとは無関係に、優れた防滑性を示すことができる。更に、本発明による自動車用フロアマットが、例えば、図4及び図5に示すように、前記主要突起部4の表面の直ぐ内側に、湾曲シェル層42を有している場合には、前記主要突起部4の表面の小突起部6などの樹脂層が摩耗によって消滅した後であっても、前記多孔質体シートによる突起状湾曲シェル層42が露出するので、その多孔質体シート表面がフロアカーペットと接触し、良好な防滑性を維持することができる。この場合、多孔質体シート表面の内側の半球状突出コア部41を形成する樹脂が、高可塑性材料からなる場合には、特にフラットな形態のフロアカーペットに対して有効であり、多孔質体シート表面の内側の半球状突出コア部41を形成する樹脂が、高剛性材料からなる場合には、特に立毛形態のフロアカーペットに対して有効である。
【0029】
本発明による自動車用フロアマットにおいては、表面層として、従来の自動車用フロアマットの表面層として用いられている通常の層を利用することができる。特に、表面層としてのカーペット層は装飾性に優れているため、搭乗者に対して快適なドライブを提供することができる。本発明で用いるカーペット層としては、通常の自動車用フロアマットの表面層として配置されているものが好ましい。このカーペットとしては、特に限定するものではないが、例えば、タフテッドカーペット、ニードルパンチカーペット、緞通、フックカーペット、ウィルトンカーペット、又はアキスミンスターカーペットなどを挙げることができる。
【0030】
本発明による自動車用フロアマットにおいては、中間層は、1又は複数の層からなることができ、一方の表面(又は一方の最外層)で前記カーペット層と接触し、もう一方の表面(又はもう一方の最外層)で裏面層を構成する樹脂層と接触している。また、前記中間層は、少なくとも1層の樹脂非透過層を含む。前記中間層が複数の層からなる場合には、裏面層を構成する樹脂層と接触する最外層として、この樹脂非透過層を設けるのが好ましい。前記樹脂非透過層は、前記樹脂層を構成する樹脂が、流動状態になった際に、その流動状態の樹脂を透過させない性質を有する。
【0031】
本発明による自動車用フロアマットにおいては、中間層として、従来の自動車用フロアマットの中間層として用いられている通常の層を利用することができる。特には、種々の多孔質材料からなる層を利用することができ、例えば、樹脂非透過性を有するフェルト層を用いることができる。フェルト層は、種々の合成樹脂繊維又は天然繊維からなることができる。フェルト層を、面密度が300〜800g/m程度の材料から形成すると、成型時に流動化樹脂の漏出を有効に防止することができるので、樹脂非透過性フェルト層として用いることができる。樹脂非透過性中間層としては、合成樹脂製フィルムをフェルト中間層の表面に貼付して用いることもできる。
【0032】
本発明の自動車用フロアマットにおいて、裏面層の樹脂層を形成する材料としては、約100℃以下(好ましくは約80℃以下)で固化し、約100℃以上(好ましくは約120℃以上)で軟化ないし流動化することができる限り、従来の自動車用フロアマットの突起担持裏面層を形成する通常の材料を利用することができる。具体的には、前記樹脂層を形成する材料として、例えば、ゴム又は軟質樹脂を用いることができる。
【0033】
前記ゴムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、又はニトリル−ブタジエンゴム等を挙げることができる。また、前記軟質樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性エラストマーが好適であり、このような熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、スチレン系エラストマー、例えば、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)エラストマー、又はSIS(スチレン−イソプレン−スチレン)エラストマー、オレフィン系エラストマー、例えば、アタクチックポリプロピレン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)、又はポリ塩化ビニル等を挙げることができる。特に、SBSエラストマー又はSISエラストマーを好適に使用することができる。
【0034】
特に、前記小突起部を形成する材料(従って、同時に前記主要突起部を形成する材料)としては、充分な防滑性を得るために、硬度55〜75のものを用いるのが好ましい。ここで「硬度」とは、JIS K6253の5.2「デュロメータ硬さ試験」に規定されたタイプAデュロメータにより測定される硬度である。
【0035】
本発明の自動車用フロアマットにおいては、裏面層の樹脂層を形成する材料(例えば、ゴム又は軟質樹脂)に粘性低下剤を添加して、裏面層の多孔質体層からの漏出性を向上させることができる。粘性低下剤としては、例えば、着色顔料、マイクロバルーン、あるいは発泡剤を用いることができる。
【0036】
本発明による自動車用フロアマットにおいて、裏面層の多孔質体層を形成する材料としては、流動状態の前記樹脂を漏出させることのできる複数の細孔を有する限り特に限定されないが、成型時に流動化樹脂によって成形型の窪み部の空隙部に押し出されて湾曲して変形することのできる材料であることが好ましい。このような多孔質体として、例えば、繊維質多孔質体、好ましくは、織物、編み物、特に好ましくは、不織布を挙げることができる。
【0037】
前記不織布の面密度は、好ましくは、15〜100g/m程度、より好ましくは20〜35g/m程度である。また、前記不織布の通気性は、好ましくは、50〜450cm/cm・s、より好ましくは、150〜250cm/cm・sである。ここで、通気性とは、JIS L1096「一般織物試験法」の「6.27」に規定される通気性(フラジール形試験機使用)を意味する。
【0038】
なお、裏面層表面の平坦部から突出する主要突起部の寸法は、具体的には、フモト部の直径が、好ましくは5〜15mm程度(より好ましくは8〜12mm)であり、高さが、好ましくは5〜10mm程度である。
【0039】
前記多孔質体層を形成する不織布としては、スパンボンド不織布(面密度=20〜100g/m)、トウ開繊不織布(面密度=20〜30g/m)等の長繊維不織布を好適に使用することができる。
【0040】
なお、本明細書において「流動状態の樹脂」とは、前記シート状積層体から自動車用フロアマットを製造する際に、前記多孔質体層の細孔から漏出した後に冷却固化して小突起部を形成することのできる状態の樹脂を意味する。好ましくは、前記シート状積層体から自動車用フロアマットを製造する際に、前記成形型の窪み部の空隙に前記多孔質体層の一部を押し出すと共に細孔から漏出して小突起部を形成することのできる状態の樹脂を意味する。従って、流動化の程度が進行して、前記多孔質体層の一部を前記成形型の窪み部の空隙に押し出すことができない状態まで液体化することは好ましくない。
【0041】
本発明による自動車用フロアマットを前記シート状積層体から製造する際に用いる成型型及び押圧手段も、前記裏面層に複数の主要突起部と複数の小突起部とを形成することができる限り、特に限定されない。例えば、平板状若しくはロール状の成型型と平板状若しくはロール状の押圧手段との組合せを利用することができる。また、前記シート状積層体の積層工程、すなわち、表面層、中間層、及び成形用フラット層の積層工程の全体又は一部と、成形型による成形工程とを組み合わせることもできる。
【0042】
前記成形工程は、コールドプレス法又はホットプレス法のいずれによっても実施することができる。コールドプレス法は、例えば、流動化された成形性樹脂層を含むシート状積層体を用いて実施することができ、ホットプレス法は、非流動化成形性樹脂層を含むシート状積層体を加熱しながら実施することができる。また、本発明による製造方法は、バッチ法又は連続法によって実施することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
《実施例1》
図1及び図2に示す態様と同様のシート状積層体を準備した。カーペット層としては、ナイロンベロア調カーペット(パイル長=10mm;1/10ゲージ;面密度=700g/m)を使用した。樹脂非透過性フェルト層(中間層)としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維製フェルト(面密度=650g/m;厚さ=5mm)を使用した。成形用フラット層の成形性樹脂層としては、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)エラストマー〔軟化温度=130℃;層厚=1.35mm;MI値=7〜15g/min(ASTM D1238E規定の測定値)〕を使用し、成形用フラット層の多孔質体層としては、トウ開繊不織布〔面密度=25g/m;通気性=241cm/cm・s;厚さ=0.1mm;商品名=『ユニセル』;帝人(株)製〕を使用した。
成型型としては、表面に複数の円形窪み部(円形開口部直径=9mm;窪み部の最大深さ=5mm;窪み部ピッチ=10mm)を有する鉄製の平板状成型型〔平坦部表面積:窪み部開口部面積=30:70〕を使用し、前記シート状積層体と接触させた状態で、押圧ロールで成型加工を実施した。この際、成形性樹脂層は流動化していた。
こうして、裏面層表面の平坦部から突出する複数の主要突起部(高さ=約3〜4mm;フモト部直径=約8〜9mm)を有すると共に、各主要突起部の表面に被覆層とコブ状小突起部(被覆層からの高さ=約0.2〜1.0mm)とを有する本発明による自動車用フロアマットが得られた。得られた自動車用フロアマットの裏面の表面構造を図7(写真)に示す。
なお、得られた自動車用フロアマットの一部を切断して主要突起部の部分の断面形状を調べたところ、コブ状小突起部の表面から1mm程度の内部にまで不織布層が湾曲して突出していた。
【0045】
《実施例2》
成形用フラット層の多孔質体層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維製スパンボンド不織布〔面密度=100g/m;通気性=202cm/cm・s;厚さ=0.35mm;商品名=『ルトラジュール』;日本ルトラビル(株)製〕を使用したこと以外は、実施例1の操作を繰り返すことによって、本発明による自動車用フロアマットを得た。得られた自動車用フロアマットの裏面には、主要突起部(高さ=約3〜4mm;フモト部直径=約8〜9mm)と共に、各主要突起部の表面に被覆層とコブ状小突起部(被覆層からの高さ=約0.2〜1.0mm)が形成されていた。なお、得られた自動車用フロアマットの一部を切断して主要突起部の部分の断面形状を調べたところ、コブ状小突起部の表面から1mm程度の内部にまで不織布層が湾曲して突出していた。
【0046】
《実施例3》
成形用フラット層の多孔質体層として、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維製スパンボンド不織布〔面密度=25g/m;通気性=400cm/cm・s;厚さ=0.1mm;商品名=『シンテックス』;三井化学(株)製〕を使用したこと以外は、実施例1の操作を繰り返すことによって、本発明による自動車用フロアマットを得た。得られた自動車用フロアマットの裏面には、主要突起部(高さ=約3〜4mm;フモト部直径=約8〜9mm)と共に、各主要突起部の表面に被覆層とコブ状小突起部(被覆層からの高さ=約0.2〜1.0mm)が形成されていた。なお、得られた自動車用フロアマットの一部を切断して主要突起部の部分の断面形状を調べたところ、コブ状小突起部の表面から1mm程度の内部にまで不織布層が湾曲して突出していた。
【0047】
《比較例1》
使用したシート状積層体が成形用フラット層の多孔質体層を含まないこと、及び、使用した成形型の窪み部が鋭角的円錐形状の突起(高さ=約3.5mm;フモト部直径=約3mm)を形成可能な窪み部を有すること以外は、実施例1の操作を繰り返すことによって、図8に示すような従来型の比較用自動車用フロアマットを製造した。得られた比較用自動車用フロアマットの突起表面には、小突起は形成されていなかった。
【0048】
〔物性評価〕
(1)主要突起部及び小突起部による防滑性
実施例1〜3及び比較例1で製造した各自動車用フロアマットから供試サンプル(縦=100mm;横=125mm)をそれぞれ裁断し、供試サンプルの上に重りを載せた状態で、市販のタフトカーペット(縦=800mm;横=300mm)及びニードルパンチカーペット(縦=800mm;横=300mm)の上に載置した。この際、供試サンプルと重りとの合計重量が100gとなるようにした。
前記タフトカーペット及びニードルパンチカーペット上に載置されている供試サンプルを引張試験機「テンシロン」で等速にて横方向に引張り、その際の抵抗荷重を移動距離150mmにわたって計測し、その際の最大値を調べた。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

表1の最大値の単位は「N」である。
【0050】
なお、使用したタフトカーペットは、実施例1〜3でカーペット層に用いたカーペットと同じものであった。
また、使用したニードルパンチカーペットは、ポリエステル製で、面密度は400g/mであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明による自動車用フロアマットは、自動車の室内において、靴などに付着した土、砂、泥、砂利、雨水、泥水、あるいは搭乗者がこぼした飲料水などが自動車室内のフロアカーペットに付着して、フロアカーペットが汚れるのを防止するために、フロアカーペット上に敷いて用いることができ、しかも、フロアカーペットの表面形態が立毛状態であるか、あるいはフラットな状態であるかに関係なく、優れた防滑性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による自動車用フロアマットの原料となるシート状積層体の各層を分離して、成形型と共に示す模式的分解断面図である。
【図2】図1に示すシート状積層体を成形型に接触させた状態を示す模式的分解断面図である。
【図3】図1に示すシート状積層体から成形型によって本発明の自動車用フロアマットを成形した状態を示す模式的分解断面図である。
【図4】主要突起部と小突起部とが形成された状態の1態様を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図5】主要突起部と小突起部とが形成された状態の別の態様を模式的に示す部分拡大断面図である。
【図6】図1〜図3に示す方法によって製造され、図5に示す態様の主要突起部と小突起部とを備えた自動車用フロアマットの模式的断面図である。
【図7】実施例1で得られた自動車用フロアマットの裏面の表面構造を示す写真である。
【図8】裏面表面に突起を有する従来の自動車用フロアマットの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・カーペット層;2・・・樹脂非透過層;3・・・凹凸裏面層;
3A・・・成形用フラット層;4・・・主要突起部;5・・・成形型;
6・・・小突起部;6A・・・トゲ状小突起部;6B・・・コブ状小突起部;
7・・・平坦部;8・・・従来の自動車用フロアマット;
10・・・本発明の自動車用フロアマット;10A・・・シート状積層体;
11・・・パイル層;12・・・基布層;31・・・主要突起部の樹脂層;
32・・・主要突起部の多孔質体層;31A・・・成形用フラット層の成形性樹脂層;
32A・・・成形用フラット層の多孔質体層;
41・・・半球状突出コア部;42・・・湾曲シェル層;
51・・・成形型平坦表面;52・・・成形型窪み部;
61・・・被覆層;81・・・表面材;81A・・・パイル層;81B・・・基布層;
85・・・裏材;86・・・突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)表面層、
(B)中間層少なくとも1層、及び
(C)中間層に接触する樹脂層と、中間層に接触しない多孔質体層とからなる裏面層
を含む自動車用フロアマットであって、
前記樹脂層は、所定温度以上に加熱されると流動状態になることのできる樹脂から形成されており、
前記多孔質体層は、流動状態の前記樹脂を漏出可能な細孔を有し、
前記中間層として、少なくとも、流動状態の前記樹脂を透過させない性質を有する樹脂非透過層を含み、
前記裏面層は、裏面層表面の平坦部と、その平坦部から突出する複数の主要突起部とを有し、
前記平坦部では、その表面全体に前記多孔質体層が露出し、その内側に前記樹脂層が完全に覆われて存在し、そして
前記主要突起部は、その表面上に、流動状態の前記樹脂が前記多孔質体層の前記細孔から漏出した後に固化して形成された複数の小突起部を有する
ことを特徴とする、前記自動車用フロアマット。
【請求項2】
前記主要突起部が、
(a)前記樹脂から形成される内側突起コア部と、
(b)その内側突起コア部の表面に形成される多孔質体シェル層と、
(c)その多孔質体シェル層の表面から突出し、前記樹脂から形成される小突起部と
からなる、請求項1に記載の自動車用フロアマット。
【請求項3】
前記主要突起部の表面に存在する小突起部が、鋭角的先端部を有するトゲ状小突起部であるか、又は球面表面を有するコブ状小突起部である、請求項1又は2に記載の自動車用フロアマット。
【請求項4】
前記主要突起部の表面に存在する小突起部によって多孔質体シェル層が完全に覆われている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車用フロアマット。
【請求項5】
複数の主要突起部の表面上に形成された複数の小突起部の少なくとも一部が除去された請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動車用フロアマット。
【請求項6】
複数の小突起部の少なくとも一部が、摩耗によって除去された請求項5に記載の自動車用フロアマット。
【請求項7】
(1)(A)表面層、
(B)中間層少なくとも1層、及び
(C)中間層に接触する成形性樹脂層と中間層に接触しない多孔質体層とからなる成形用フラット層
を含むシート状積層体と、平坦部表面と複数の主要突起部形成用凹部とを有する成形型とを、前記多孔質体層と前記成形型表面とが接触するように相互に重ね合わせ、
(2)前記成形性樹脂層を形成する樹脂が流動状態になる温度条件下で、前記シート状積層体を押圧することによって、前記主要突起部形成用凹部に位置する成形用フラット層の部分を凹部空間内に向かって突出させると共に、流動状態の樹脂の一部を前記多孔質体層の細孔から外側に漏出させ、
(3)前記成形型の平坦部表面と接触している成形用フラット層平坦部から突出する複数の主要突起部を形成すると共に、前記主要突起部の表面上に複数の小突起部を形成し、そして
(4)前記樹脂が固化状態になる温度まで冷却する
ことを特徴とする、
自動車用フロアマットの製造方法。
【請求項8】
前記成形型が、ロール状又は平板状である、請求項7に記載の自動車用フロアマットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−315430(P2006−315430A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136968(P2005−136968)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】