説明

自動車用フロアマット

【課題】ヒールパットを有するにもかかわらず、柔軟性に優れるフロアマットを提供すること。
【解決手段】カーペットからなる表皮層を有する自動車用フロアマットMであり、表皮層の踵移動領域HAに、踵移動領域よりも小さいヒールパットHPが2個以上、又は踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に、不完全に分離する屈曲部を有するヒールパットが配置しており、前記踵移動領域は自動車用フロアマット敷設時に、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力によって、屈曲可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用フロアマットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車内においては、靴などに付着した土、砂、泥、或いは砂利などが自動車内のフロアに付着して、フロアが汚れるのを防止するために、フロアマットが敷かれている。
【0003】
このフロアマットとして、カーペットなどの表皮材と、この表皮材を支持する裏材からなるものが知られている。この表皮材は長年の使用により毛倒れ、摩耗等が発生し、著しく外観を損ねるため、表皮材上にヒールパット材を接着し、表皮材を保護することが行われてきた(特許文献1)。しかしながら、ヒールパット材として耐摩耗性に優れる加硫ゴムや熱可塑性エラストマーなどの比較的硬いヒールパット材を表皮材に接着すると、このヒールパット材を接着した箇所は接着していない箇所と比較して、硬くなる傾向が強かった。一方で、近年、ヒールパット材が接着していることによってフロアマットが硬くなる結果、アクセルペダルに引っ掛かりやすいという危険性が指摘されていた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−28145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、ヒールパットを有するにもかかわらず、柔軟性に優れるフロアマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「カーペットからなる表皮層を有する自動車用フロアマットであり、表皮層の踵移動領域に、踵移動領域よりも小さいヒールパットが2個以上、又は踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に、不完全に分離する屈曲部を有するヒールパットが配置しており、前記踵移動領域は自動車用フロアマット敷設時に、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力によって、屈曲可能であることを特徴とする、自動車用フロアマット。」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、踵移動領域よりも小さいヒールパットが2個以上配置している場合、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力が作用した時に、ヒールパット間で屈曲することができる、柔軟性に優れる自動車用フロアマットである。
【0008】
また、踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に、不完全に分離する屈曲部を有するヒールパットが配置している場合も、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力が作用した時に、屈曲部で屈曲することができる、柔軟性に優れる自動車用フロアマットである。
【0009】
このように、本発明の自動車用フロアマットは、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力が作用した時に、屈曲できる柔軟性に優れるものであるため、アクセルペダル、ブレーキペダル等に引っ掛かりにくく、また、仮にアクセルペダル、ブレーキペダル等に自動車用フロアマットが引っ掛かったとしても、自動車の誤作動を抑制することができ、安全性を高めることのできるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒールパットが配置している状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図2】踵移動領域の拡大図
【図3】柔軟性の評価に用いた試験片の上視図
【図4】柔軟性の試験方法の概念図
【図5】(a) ヒールパットの配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図 (b) ヒールパットの別の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図 (c) ヒールパットの更に別の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図 (d) ヒールパットの更に別の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図 (e) ヒールパットの更に別の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図6】ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図7】(a) ヒールパットにおける別の屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図 (b) ヒールパットにおける更に別の屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図8】ヒールパットにおける更に別の屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図9】ヒールパットにおける更に別の屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図10】ヒールパットにおける更に別の屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図
【図11】(a) 実施例2で用いたヒールパットの切断寸法を示す模式的上視図 (b) 実施例3で用いたヒールパットの切断寸法を示す模式的上視図 (c) 実施例4で用いたヒールパットの切断寸法を示す模式的上視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の自動車用フロアマット(以下、単に「マット」ということがある)は、マットを敷設した場合に、目で見ることのできる表皮層としてカーペットを有するため、装飾性に優れている。なお、カーペットとしては、例えば、緞通、ウィルトンカーペット、アキスミンスターカーペット、ダブルフェースカーペット、フックドラグ、タフテッドカーペット、フロックカーペット、コードカーペット、ニットカーペットなどを挙げることができる。これらの中でも、タフテッドカーペットであるのが好ましい。なお、タフテッドカーペットの場合、パイルはカットパイルであっても良いし、ループパイルであっても良いし、これらが混在していても良い。また、本発明のカーペットを構成する素材は特に限定するものではないが、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートであるが好ましい。また、環境に配慮したポリ乳酸などのバイオマス利用の素材を利用することもできる。
【0012】
好適であるタフテッドカーペットの場合、タフテッドカーペットのゲージはタフト機に依存するため、特に限定するものではないが、一般的に1/10G、1/8G、5/32Gなどを利用することができる。しかしながら、その他の規格を持つものであってもよい。また、ステッチは数が多いとカーペットの強度が低下するため、20(ST/inch)以下であるのが好ましく、数が少ないと基布が見えやすく外観を損なうので、5(ST/inch)以上が好ましい。更に、パイル素材は特に限定するものではないがナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、環境に配慮したポリ乳酸などのバイオマス利用のパイルを利用してもよい。
【0013】
本発明のマットはカーペットからなる表皮層のみから構成することができるが、マットは自動車のフロア(通常はカーペット)上に載置して使用するため、マットは滑り止め作用を奏するのが好ましい。そのため、マットは滑り止め作用を奏する裏材層を備えているのが好ましい。このような裏材層としては、例えば、(イ)不織布のフロアとの当接面に樹脂突起を部分的に設けたもの、(ロ)不織布のフロアとの当接面側に火炎を照射して、繊維を溶融固化させ、樹脂塊を形成したもの、(ハ)発泡体のフロアとの当接面側に凹凸を形成したもの、(ニ)不織布のフロアとの当接面に点状又は線状に粘着剤を塗布したもの、(ホ)加硫ゴムや熱可塑性エラストマーのフロアとの当接面に突起を部分的に設けたもの等を挙げることができる。
【0014】
また、裏材層と表皮層の間に不織布層や発泡体層を設けることができる。このような不織布層や発泡体層が存在することによって各種機能を付与することができる。例えば、吸音性能を高めることができる。
【0015】
本発明のマットは表皮層がカーペットからなるが故に、摩耗等により穴が開くなど、著しく外観を損ねる。特に、タフテッドカーペットの場合、長年の運転により毛倒れ、摩耗等により穴が開くなど、著しく外観を損ねる。そのため、本発明においては、(1)表皮層の踵移動領域に、踵移動領域よりも小さいヒールパットが2個以上配置している(第1の態様)、又は(2)表皮層の踵移動領域に、踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に、不完全に分離する屈曲部を有するヒールパットが配置している(第2の態様)。第1の態様のマットの場合、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力によって、ヒールパット間で屈曲できる柔軟性を有するため、アクセルペダルやブレーキペダルに引っ掛かりにくく、また、仮にアクセルペダル、ブレーキペダル等にマットが引っ掛かったとしても、自動車の誤作動を抑制することができるものである。同様に、第2の態様のマットの場合、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力によって、屈曲部で屈曲できる柔軟性を有するため、アクセルペダルやブレーキペダルに引っ掛かりにくく、また、仮にアクセルペダル、ブレーキペダル等にマットが引っ掛かったとしても、自動車の誤作動を抑制することができるものである。
【0016】
(第1の態様)
まず、2個以上のヒールパットが配置している状態を示す、表皮層側からの模式的上視図を図1に示す。
【0017】
図1のマットMにおいては、自動車の幅方向Wに4行、自動車の長さ方向Lに3列の計12個の、正方形状のヒールパットHPが配置している。そのため、マットMに対して自動車の長さ方向L(自動車の前後方向Zd)に力が加わった際には、1列目と2列目の間及び2列目と3列目の間で屈曲できる柔軟性を有している。また、マットMに対して自動車の幅方向Wに力が加わった際には、1行目と2行目の間、2行目と3行目の間及び3行目と4行目の間で屈曲できる柔軟性も有している。
【0018】
なお、図1における1つのヒールパットHPは踵移動領域HA(自動車の幅方向Wにおける踵移動領域HA)をおよそ4分割した程度の長さを一辺とする正方形からなるが、マットMに対して力が加わった際に、特に自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdからの力によって、屈曲できる柔軟性を有するように、1つのヒールパットHPの大きさは踵移動領域HAよりも小さけば良く、特に限定するものではないが、ヒールパットの片表面積の総和の2分の1以下の大きさであるのが好ましく、1つのヒールパットHPの大きさが小さければ小さい程、屈曲箇所が多くなり、柔軟性に優れるため、ヒールパットの片表面積の総和の4分の1以下の大きさであるのが好ましく、ヒールパットの片表面積の総和の6分の1以下の大きさであるのがより好ましい。一方で、ヒールパット自体の耐久性、加工性の点から、1つのヒールパットHPの大きさはヒールパットの片表面積の総和の20分の1以上の大きさであるのが好ましい。
【0019】
また、図1におけるヒールパットHPは正方形状であるが、正方形である必要はない。例えば、長方形、円形、楕円形、多角形であることができる。より具体的には、図5(a)〜(e)に示すように、三角形、台形であっても良い。
【0020】
また、多角形などの角のある形状の場合、ヒールパットHPが表皮層から剥離しにくいように、角を丸めることも効果的である。しかしながら、ヒールパット間からパイルが露出しにくいように、大略正方形又は長方形であるのが好ましい。なお、ヒールパットHPが長方形である場合には、自動車の長さ方向L(自動車の前後方向Zd)に力が加わった際に、屈曲しやすいように、ヒールパットHPの短辺と自動車の長さ方向Lとが一致するように配置しているのが好ましい。
【0021】
更に、図1におけるヒールパットHPは12個配置しているが、2個以上で、マットMに対して、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdから力が加わった際に屈曲できる柔軟性を有すれば良く、その数は特に限定するものではない。また、図1におけるヒールパットHPは格子状に配置しているが、格子状である必要はなく、千鳥状に配置することもできる。千鳥状に配置していることによって、右斜め前後方向Zdから力が加わった際に屈曲しやすくなる。なお、踵移動領域とヒールパット配置領域とが完全に一致している必要はなく、図1に示すように、大略一致していれば良い。
【0022】
なお、本発明における「踵移動領域」は運転操作中に踵が移動する領域であり、例えば、オートマチック車の場合である図1を参照すると、アクセルペダルのおよそ右端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Lr)、ブレーキペダルのおよそ左端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Ll)、アクセルペダルがオルガン式の場合にはその支点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)であり、アクセルペダルが吊り下げ式の場合には、アクセルペダルをべた踏みした時のアクセルペダル面の延長面とフロアマットとの交差点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)、及び前記直線Lfと平行かつ300mm離れた直線(Lb)によって囲まれた領域である。
【0023】
また、マニュアル車の場合、図示していないが、オートマチック車と同様に、アクセルペダルのおよそ右端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Lr)、クラッチペダルのおよそ左端を通り、自動車の長さ方向Lと平行な直線(Ll)、アクセルペダルがオルガン式の場合にはその支点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)であり、アクセルペダルが吊り下げ式の場合には、アクセルペダルをべた踏みした時のアクセルペダル面の延長面とフロアマットとの交差点を通り、自動車の幅方向Wと平行な直線(Lf)、及び前記直線Lfと平行かつ300mm離れた直線(Lb)によって囲まれた領域である。
【0024】
また、本発明のマットにおけるカーペットがタフテッドカーペットの場合、ヒールパットはパイルのゲージ方向に隣接するヒールパットとは3ゲージ以下の距離だけ離間しており、パイルのステッチ方向に隣接するヒールパットとは5ステッチ以下の距離だけ離間して配置しているのが好ましい。このように配置していることによって、隣接するヒールパット間から露出するタフテッドカーペットのパイルが少ないため、タフテッドカーペットを保護し、外観を維持することができる。
【0025】
ここで、踵移動領域の拡大図である図2をもとに説明する。例えば、第2行第2列のヒールパットであるHP22は、パイルのステッチ方向SDに隣接するHP21又はHP23とは5ステッチ以下の距離だけ離間して配置している。したがって、ステッチ方向SDに力が加わった際には、HP21とHP22との間、及びHP22とHP23との間で屈曲できるとともに、HP21とHP22との間、及びHP22とHP23との間は比較的狭く、露出するパイルが少ないため、タフテッドカーペットを保護し、外観を維持することができる。同様に、HP22は、パイルのゲージ方向GDに隣接するHP12又はHP32とは3ゲージ以下の距離だけ離間して配置している。したがって、ゲージ方向GDに力が加わった際には、HP12とHP22との間、及びHP22とHP32との間で屈曲できるとともに、HP12とHP22との間、及びHP22とHP32との間は比較的狭く、露出するパイルが少ないため、タフテッドカーペットを保護し、外観を維持することができる。
【0026】
図2においては、ゲージ方向GD、ステッチ方向SDのいずれの方向にも等間隔で離間しているが、前記間隔を満たす限り、等間隔である必要はなく、ゲージ方向GDにおいて及び/又はステッチ方向SDにおいて、不規則な間隔で離間していることもできる。また、ゲージ方向GD又はステッチ方向SDには等間隔で離間しているものの、ステッチ方向SD又はゲージ方向GDには不規則な間隔で離間していることもできる。
【0027】
なお、ゲージ方向GDにおいて、隣接するヒールパットは3ゲージ以下の距離だけ離間していれば、タフテッドカーペットを保護しやすい。一方で、隣接するヒールパット同士が接していたとしても、隣接するヒールパット間で屈曲することができるため、接していても良いが、屈曲しやすいように、隣接するヒールパット距離は2ゲージ以上であるのが好ましい。なお、「ゲージ方向」はタフテッドカーペットの生産方向である。
【0028】
また、ステッチ方向SDにおいて、隣接するヒールパットは5ステッチ以下の距離だけ離間していれば、タフテッドカーペットを保護しやすい。一方で、隣接するヒールパット同士が接していたとしても、隣接するヒールパット間で屈曲することができるため、接していても良いが、屈曲しやすいように、隣接するヒールパット距離は2ステッチ以上であるのが好ましい。なお、「ステッチ方向」はタフテッドカーペットの生産方向に対して90°振った、一般に言われる横方向である。
【0029】
なお、タフテッドカーペットのゲージ方向は自動車の長さ方向L(前後方向Zd)と一致していても良いし、自動車の幅方向Wと一致していても良く、その方向は特に限定するものではない。同様に、タフテッドカーペットのステッチ方向は自動車の長さ方向L(前後方向Zd)と一致していても良いし、自動車の幅方向Wと一致していても良く、その方向は特に限定するものではない。
【0030】
なお、本発明におけるヒールパットはタフテッドカーペットのパイルを保護できるものであれば良く、特に限定するものではないが、ヒールパット自身が耐摩耗性の高いものが好ましい。例えば、ヒールパットとして、熱可塑性エラストマー、加硫ゴム、好ましくはバッキング(例えば、ポリエチレン樹脂で)されたナイロンパイル等をタフトしたカーペットから構成することができる。なお、ヒールパット毎に材質が異なっていても良い。
【0031】
このように、タフテッドカーペットの場合には、パイルのゲージ方向に隣接するヒールパットとは3ゲージ以下の距離だけ離間しており、パイルのステッチ方向に隣接するヒールパットとは5ステッチ以下の距離だけ離間しているのが好ましいが、タフテッドカーペット以外のカーペットの場合には、隣接するヒートパットとはいずれの方向においても、カーペットを保護しやすく、しかも屈曲しやすいように、5〜12mm離間しているのが好ましい。
【0032】
次に、ヒールパットの別の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図を図5(a)に示す。図5(a)においては、三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPとを有し、三角形状のヒールパットHPは踵移動領域の自動車の前方向右前における、踵移動領域のコーナー部を構成するように配置している。このように、三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPとが配置しているため、自動車の前から後ろ方向に、右下がりの直線状にカーペットが露出している。そのため、マットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、ヒールパットが存在せず、カーペットが露出した、三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPとの間で屈曲できる柔軟性を有している。
【0033】
図5(a)においては、三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPとを配置している、つまり、異なる形かつ異なる大きさのヒールパットを組み合わせているが、同じ形又は同じ大きさのヒールパットを組み合わせることもできる。例えば、図5(b)に示すように、同じ三角形状かつ同じ大きさのヒールパットを組み合わせることもできる。この場合もマットMに対して、自動車の前後方向Zdに対して右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、ヒールパットが存在せず、カーペットが露出した、三角形状のヒールパットHPと三角形状のヒールパットHPとの間で屈曲できる柔軟性を有している。
【0034】
また、図5(a)においては、三角形状のヒールパットHPが踵移動領域の自動車の右前方向の、踵移動領域のコーナー部を構成するように配置しているが、図5(c)に示すように、三角形状のヒールパットHPが踵移動領域の左後ろにおける、踵移動領域のコーナー部を構成するように配置することができる。この場合もマットMに対して、右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、ヒールパットが存在せず、カーペットが露出した、ヒールパット間で屈曲できる柔軟性を有している。
【0035】
更に、図5(a)においては、三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPの2個が配置しているが、図5(d)に示すように、三角形状の小ヒールパットHP、台形形状のヒールパットHP、三角形状の大ヒールパットHPの3個が配置することもできる。この場合、マットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、ヒールパットが存在せず、カーペットが露出した、三角形状の小ヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPとの間、及び台形形状のヒールパットHPと三角形状の大ヒールパットHPとの間の2箇所で屈曲できる柔軟性を有している。
【0036】
同様に、図5(e)に示すように、2つの三角形状の小ヒールパットHP、HP、2つの台形形状のヒールパットHP、HPの4個が配置することができる。この場合、マットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、ヒールパットが存在せず、カーペットが露出した、三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPとの間、台形形状のヒールパットHP、HP間、及び台形形状のヒールパットHPと三角形状のヒールパットHPとの間の3箇所で屈曲できる柔軟性を有している。このように、ヒールパット数が多くなればなるほど、屈曲できる部分が多くなるため、柔軟性に優れている。
【0037】
なお、図5(a)〜(e)における1つのヒールパットの大きさは特に限定するものではないが、1つのヒールパットの大きさが小さければ小さい程、小さい力で容易に屈曲することができ、柔軟性に優れるため、少なくとも1つのヒールパットは、ヒールパットの片表面積の総和の4分の1以下の大きさであるのが好ましく、ヒールパットの片表面積の総和の6分の1以下の大きさであるのがより好ましい。一方で、ヒールパット自体の耐久性、加工性の点から、最も小さいヒールパットであっても、ヒールパットの片表面積の総和の20分の1以上の大きさであるのが好ましい。
【0038】
また、図5(a)〜(e)におけるヒールパットの形状は三角形、台形など、角のある形状であるため、ヒールパットが表皮層から剥離しにくいように、角を丸めることも効果的である。
【0039】
このような、図5(a)〜(e)のような場合であっても、隣接するヒートパットとは、いずれの方向においても、カーペットを保護しやすく、しかも屈曲しやすいように、5〜12mm離間しているのが好ましい。
【0040】
このような本発明のマットは、常法によりカーペットを製造した後、踵移動領域に、踵移動領域よりも小さいヒールパットを2個以上配置する。なお、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdからの力によって、屈曲可能であるように配置する。タフテッドカーペットの場合には、パイルのゲージ方向に隣接するヒールパットとは3ゲージ以下の距離だけ離間しており、パイルのステッチ方向に隣接するヒールパットとは5ステッチ以下の距離だけ離間した状態で配置するのが好ましい。それ以外のカーペットの場合には、隣接するヒートパットとはいずれの方向においても、5〜12mm離間した状態で配置するのが好ましい。
【0041】
そして、高周波融着、ホットメトル樹脂による融着、超音波融着によりヒールパットを固定した後、周縁を所望形状に成形して製造することができる。なお、カーペットの周縁を所望形状に成形した後にヒールパットを配置し、同様にしてヒールパットを固定し、マットとすることもできる。また、カーペット層以外の層(例えば、裏材層)を有する場合には、ヒールパットを配置する前に又は配置した後に、ホットメルト樹脂で融着することにより、或いはマットの周縁部をオーバーロック加工、テープ加工又は融着加工することにより積層一体化し、前記と同様にして製造することができる。
【0042】
(第2の態様)
本発明の第2の態様について、ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図である図6をもとに説明する。
【0043】
図6のヒールパットHPは、踵移動領域に相当する大きさを有する長方形状のヒールパットHPに対して、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向へ伸びる4本の第1スリット群Th、Th、Th、Thと、左上方向へ伸びる4本の第2スリット群Th、Th、Th、Thとを有し、第1スリット群のスリットと第2スリット群のスリットとが、互い違いとなるように配置している。このように、第1スリット群及び第2スリット群の各スリットによって、踵移動領域よりも小さい領域に完全ではなく、不完全に分離している。そのため、図6から明らかなように、ヒールパットは分離しておらず、ジグザグ状に繋がった状態にあるため、1つのヒールパットとしての取り扱い性に優れている。このようなヒールパットHPを配置したマットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、第1スリット群及び第2スリット群の各スリットにおいて屈曲可能であるため、柔軟性に優れている。
【0044】
なお、図6に示すように、踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に分離するように屈曲部を有し、マットMに対して、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdから力が加わった際に屈曲可能で、柔軟性に優れているように、屈曲部と外周又は屈曲部のみによってほぼ分離される領域、つまり、屈曲部(図6の場合、スリット)を延長することによって完全に分離した場合の領域の大きさは、ヒールパットの片表面積の総和の2分の1以下の大きさであるのが好ましく、ヒールパットの片表面積の総和の4分の1以下の大きさであるのが好ましく、ヒールパットの片表面積の総和の6分の1以下の大きさであるのがより好ましい。一方で、ヒールパット自体の耐久性、加工性の点から、前記領域の大きさは、ヒールパットの片表面積の総和の20分の1以上の大きさであるのが好ましい。
【0045】
また、図6においては、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向及び左上方向へスリット(屈曲部)が伸びているが、図面上、左右方向に伸びていれば、自動車の前後方向Zdに屈曲可能である。
【0046】
更に、図6におけるヒールパットHPは8個のスリット(屈曲部)を有するが、1個以上で、マットMに対して、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdからの力によって、屈曲できる柔軟性を有すれば良く、その数は特に限定するものではない。
【0047】
更に、図6におけるヒールパットHPにおけるスリット(屈曲部)の幅は、カーペットを保護しやすく、しかも屈曲しやすいように、5〜12mmであるのが好ましい。図6のヒールパットHPは第1の態様と同様に、熱可塑性エラストマー、加硫ゴム、好ましくはバッキング(例えば、ポリエチレン樹脂で)されたナイロンパイル等をタフトしたカーペット等から構成することができる。
【0048】
なお、図6においては、第1スリット群Th、Th、Th、Thのスリットと第2スリット群Th、Th、Th、Thのスリットとが、互い違いとなるように配置しているが、互い違いである必要はない。また、図6においては、第1スリット群Th、Th、Th、Thは、図面上、右下方向へ伸び、第2スリット群Th、Th、Th、Thは、図面上、左上方向へ伸びているが、いずれのスリットも同じ方向へ伸びていても良い。
【0049】
第2の態様の別の態様について、ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図である図7(a)に示す。この図7(a)のヒールパットHPはスリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向(又は左上方向)へ伸びている点、つまり、貫通孔(屈曲部)TH〜Thがヒールパットの外周まで到達していない点のみが相違する。図7(a)に示すヒールパットも図6のヒールパットと同様に、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thによって、踵移動領域よりも小さい領域に完全ではなく、不完全に分離しているため、図7(a)から明らかなように、ヒールパットは分離しておらず、外周が繋がった状態にあるため、1つのヒールパットとしての取り扱い性に優れている。このようなヒールパットHPを配置したマットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが屈曲部として作用できるため、柔軟性に優れている。
【0050】
図7(a)のヒールパットHPは前記の点が異なるのみで、その他は図6のヒールパットと全く同様であることができる。
【0051】
更に別の態様について、ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図である図7(b)に示す。この図7(b)のヒールパットHPはスリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが、図面上、右斜め上の領域にのみ存在している点のみが図7(a)とは相違する。図7(b)に示すヒールパットも図7(a)のヒールパットと同様に、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thによって、踵移動領域よりも小さい領域に完全ではなく、不完全に分離しているため、図7(b)から明らかなように、ヒールパットは分離しておらず、右斜め上の領域の外周、及び左斜め下の領域が繋がった状態にあるため、1つのヒールパットとしての取り扱い性に優れている。このようなヒールパットHPを配置したマットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが屈曲部として作用できるため、柔軟性に優れている。
【0052】
図7(b)のヒールパットHPは前記の点が異なるのみで、その他は図6又は図7(a)のヒールパットと全く同様であることができる。
【0053】
更に別の態様について、ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図である図8に示す。この図8のヒールパットHPはスリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向へ伸びるものの、それぞれのスリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thをそれぞれ2つに分断する接続部Co〜Coが存在している。図8に示すヒールパットも図6のヒールパットと同様に、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thによって、踵移動領域よりも小さい領域に完全ではなく、不完全に分離している。また、図8から明らかなように、ヒールパットは分離しておらず、図面上、右斜め上方へ伸びる直線状に、接続部Co〜Coによって繋がった状態にあるため、1つのヒールパットとしての取り扱い性に優れている。このようなヒールパットHPを配置したマットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが屈曲部として作用できるため、柔軟性に優れている。
【0054】
図8のヒールパットHPは前記の点が異なるのみで、その他は図6のヒールパットと全く同様であることができる。
【0055】
更に別の態様について、ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図である図9に示す。この図9のヒールパットHPはスリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向へ伸びるものの、それぞれのスリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thをそれぞれ3つに分断する接続部Co11〜Co82が存在している。図9に示すヒールパットも図6のヒールパットと同様に、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thによって、踵移動領域よりも小さい領域に完全ではなく、不完全に分離している。図9から明らかなように、ヒールパットは分離しておらず、接続部Co〜Coによって繋がった状態にあるため、1つのヒールパットとしての取り扱い性に優れている。このようなヒールパットHPを配置したマットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、スリット状の貫通孔(屈曲部)TH〜Thが屈曲部として作用できるため、柔軟性に優れている。
【0056】
図9のヒールパットHPは前記の点が異なるのみで、その他は図6のヒールパットと全く同様であることができる。
【0057】
更に別の態様について、ヒールパットにおける屈曲部の配置状態を示す、表皮層側からの模式的上視図である図10に示す。この図10のヒールパットHPはスリット状の薄肉部(屈曲部)i〜iが3本、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向(又は左上方向)へ伸びている。このように、スリット状の薄肉部(屈曲部)i〜iによって、踵移動領域よりも小さい領域に、ヒールパットの厚さ方向において不完全に分離している。このようなヒールパットHPを配置したマットMに対して、自動車の右斜め前後方向Mdから力が加わった際には、スリット状の薄肉部(屈曲部)i〜iは薄肉であることから剛性が低く、屈曲部として作用できるため、柔軟性に優れている。
【0058】
なお、図10に示すように、踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に分離するようにスリット状の薄肉部(屈曲部)を有すれば良く、マットMに対して、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdからの力によって、屈曲できる柔軟性を有するように、スリット状の薄肉部(屈曲部)によって分離される領域、又は図6と同様に、スリット状の薄肉部(屈曲部)と外周、或いはスリット状の薄肉部(屈曲部)のみによってほぼ分離される領域、つまり屈曲部を延長することによって完全に分離した場合の領域の大きさは、ヒールパットの片表面積の総和の2分の1以下の大きさであるのが好ましく、ヒールパットの片表面積の総和の4分の1以下の大きさであるのが好ましく、ヒールパットの片表面積の総和の6分の1以下の大きさであるのがより好ましい。一方で、ヒールパット自体の耐久性、加工性の点から、前記領域の大きさは、ヒールパットの片表面積の総和の20分の1以上の大きさであるのが好ましい。
【0059】
また、図10においては、図面上、上下方向(自動車の前後方向Zd)に対して、右下方向(又は左上方向)へスリット状の薄肉部が伸びているが、図面上、左右方向(又は右左方向)へ伸びていれば、自動車の前後方向からの力によって、屈曲可能である。
【0060】
更に、図10におけるヒールパットHPは3個のスリット状の薄肉部(屈曲部)を有するが、1個以上で、マットMに対して、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdから力が加わった際に屈曲できる柔軟性を有すれば良く、その数は特に限定するものではない。
【0061】
更に、図10のヒールパットHPにおけるスリット状の薄肉部(屈曲部)の幅は、屈曲しやすいように、1〜5mmであるのが好ましい。図10のヒールパットHPは第1の態様と同様に、熱可塑性エラストマー、加硫ゴム、好ましくはバッキング(例えば、ポリエチレン樹脂で)されたナイロンパイル等をタフトしたカーペット等から構成することができる。
【0062】
なお、薄肉部からなる屈曲部の配置は図10の配置に限定されず、図6〜図9と同様に配置していることによって、屈曲可能であることができる。また、薄肉部は均一な厚さのヒールパットを加圧するなどして形成したものであると、加圧によって薄肉部が硬くなる傾向があるため、加圧などすることなく、形成した薄肉部であるのが好ましい。
【0063】
本発明の「屈曲部」は、踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に、不完全に分離する部分であり、マットに対して、自動車の前後方向Zd又は右斜め前後方向Mdから力が加わった際に、優先して屈曲する部分である。この屈曲部としては、例えば、図6のようなスリット、図7(a)(b)のような(スリット状)貫通孔、図10のような(スリット状)薄肉部、ヒールパットの面方向に対して不完全に分離する切れ込み、ヒールパットの厚さ方向に対して不完全に分離する切れ込み、或いはこれらの組み合わせを挙げることができる。このように、「不完全に分離」していると、どこかで繋がっているため、1枚のヒールパットとして取り扱うことのできる、取り扱い性に優れるものである。
【0064】
このような本発明のマットは、常法によりカーペットを製造した後、踵移動領域に、前述のような屈曲部を有するヒールパットを配置した後、高周波融着、ホットメトル樹脂による融着、超音波融着によりヒールパットを固定した後、周縁を所望形状に成形して製造することができる。なお、カーペットの周縁を所望形状に成形した後にヒールパットを配置し、同様にしてヒールパットを固定し、マットとすることもできる。また、カーペット層以外の層(例えば、裏材層)を有する場合には、ヒールパットを配置する前に又は配置した後に、ホットメルト樹脂で融着することにより、或いはマットの周縁部をオーバーロック加工、テープ加工又は融着加工することにより積層一体化し、前記と同様にして製造することができる。
【0065】
なお、本発明における「屈曲可能」とは、実施例の(柔軟性の評価)と同様にして測定した、自動車の前後方向又は右斜め前後方向から力が作用した際の応力が6N/192mm幅以下であることを意味し、この応力が小さければ小さい程、屈曲しやすいことを意味するため、5N/192mm幅以下であるのが好ましく、4N/192mm幅以下であるのが更に好ましく、3N/192mm幅以下であるのが最も好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
(表皮層)
ポリエステル繊維製一次基布(目付:110g/m)に、ポリプロピレン製カットパイルをゲージ1/8、ステッチ11.3の密度でタフトした後、スチレン−ブタジエンゴムでバッキングした、タフテッドカーペット(=表皮層、パイル目付:700g/m、バッキング量:240g/m)を用意した。
【0068】
(裏材層)
繊度17dtexのポリエステル繊維、繊度6.6dtexのポリエステル繊維、繊度3.3dtexのポリエステル繊維、及び繊度4.4dtexの芯鞘型融着繊維(芯成分:ポリエチレンテレフタレート、鞘成分:低融点ポリエステル)からなる繊維ウェブを、ニードルを使用して絡合した後、針深度を上げたニードルを使用して繊維を突出させ、片表面に繊維が突出したニードルパンチ不織布を製造した。
【0069】
次に、温度150〜160℃で熱処理することにより芯鞘型融着繊維の鞘成分で融着させ、続いて、突出した繊維をガス毛焼き機により直炎で熱処理して、樹脂魂を有する毛焼き不織布(=裏材層、目付:300g/m)を製造した。
【0070】
(前駆マット)
上記表皮層と裏材層をポリオレフィンホットメルト接着剤(150g/m)で接着した後、外周縁を図1に示すような凸形状に裁断して前駆マットを形成した。なお、表皮層であるタフテッドカーペットはゲージ方向GDが自動車の長さ方向L(前後方向Zd)と平行であるように、裏材層と接着した。また、前駆マットの寸法は図1におけるa=約190mm、b=h=約120mm、c=約120mm、d=f=約640mm、e=約430mm、g=約120mmとした。また、この前駆マットにおける踵移動領域HAは、図1におけるg辺と平行、かつg辺から自動車の後方方向RDに30mmだけ離間した直線Lf、f辺と平行、かつf辺から自動車の前方方向に対して左側方向に105mmだけ離間した直線Lr、直線Lrと平行、かつ直線Lrから自動車の前方方向に対して自動車の左側方向に192mmだけ離間した直線Ll、及び直線Lfと平行、かつ直線Lfから自動車の後方方向RDに112mmだけ離間した直線Lbとによって囲まれた、自動車の長さ方向Lに112mm、自動車の幅方向Wに192mmの長方形状の領域であった。
【0071】
(ヒールパット)
ポリエステル繊維製一次基布(目付:120g/m)に、ナイロン製パイルをゲージ1/10、ステッチ10.0の密度でタフトした後、スチレン−ブタジエンゴムでバッキングした、タフテッドカーペット(パイル目付:610g/m、バッキング量:150g/m)を用意した。そして、このバッキング側に対して、更にポリエチレン樹脂でバッキング(量:270g/m)し、前駆ヒールパットを形成した。次いで、前駆ヒールパットを大略長方形状に裁断し、ヒールパット(短辺の長さ:51.25mm、長辺の長さ:90.35、R7に角丸め)を作製した。
【0072】
(マット)
前記ヒールパット4枚を前記前駆マットの踵移動領域HAに、2行、2列の格子状に並べた。なお、1行1列目のヒールパットHP11と2行1列目のヒールパットHP21とは5ステッチ(11.3mm)の間隔をあけ、1行1列目のヒールパットHP11と1行2列目のヒールパットHP12とは3ゲージ(9.5mm)の間隔をあけ、2行2列目のヒールパットHP22と2行1列目のヒールパットHP21とは3ゲージ(9.5mm)の間隔をあけ、2行2列目のヒールパットHP22と1行2列目のヒールパットHP12とは5ステッチ(11.3mm)の間隔をあけて配置した。また、各ヒールパットは短辺方向が自動車の長さ方向Lと平行であるように配置した。
【0073】
その後、高周波ウエルダーによりヒールパットのポリエチレン樹脂を溶着することによりヒールパットHP11〜HP22を固定し、本発明のマットを製造した。
【0074】
(比較例1)
実施例1と同様にして製造した前駆ヒールパットを、大略長方形状に裁断してヒールパット(短辺の長さ:112mm、長辺の長さ:192mm、R7に角丸め)を作製した。このヒールパット1枚を前記前駆マットの踵移動領域に配置したこと以外は、実施例1と同様にしてマットを製造した。
【0075】
(参考例1)
実施例1と同様にして製造したヒールパット4枚を前記前駆マットの踵移動領域HAに、2行、2列の格子状に並べた。なお、1行1列目のヒールパットHP11と2行1列目のヒールパットHP21とは5ステッチ(11.3mm)の間隔をあけ、1行1列目のヒールパットHP11と1行2列目のヒールパットHP12とは5ゲージ(15.9mm)の間隔をあけ、2行2列目のヒールパットHP22と2行1列目のヒールパットHP21とは5ゲージ(15.9mm)の間隔をあけ、2行2列目のヒールパットHP22と1行2列目のヒールパットHP12とは5ステッチ(11.3mm)の間隔をあけて配置した。なお、各ヒールパットは短辺方向が自動車の長さ方向Lと平行であるように配置した。
【0076】
その後、高周波ウエルダーによりヒールパットのポリエチレン樹脂を溶着することによりヒールパットHP11〜HP22を固定し、マットを製造した。
【0077】
(参考例2)
実施例1と同様にして製造したヒールパット4枚を前記前駆マットの踵移動領域HAに、2行、2列の格子状に並べた。なお、1行1列目のヒールパットHP11と2行1列目のヒールパットHP21とは8ステッチ(18.0mm)の間隔をあけ、1行1列目のヒールパットHP11と1行2列目のヒールパットHP12とは3ゲージ(9.5mm)の間隔をあけ、2行2列目のヒールパットHP22と2行1列目のヒールパットHP21とは3ゲージ(9.5mm)の間隔をあけ、2行2列目のヒールパットHP22と1行2列目のヒールパットHP12とは8ステッチ(18.0mm)の間隔をあけて配置した。なお、各ヒールパットは短辺方向が自動車の長さ方向Lと平行であるように配置した。
【0078】
その後、高周波ウエルダーによりヒールパットのポリエチレン樹脂を溶着することによりヒールパットHP11〜HP22を固定し、マットを製造した。
【0079】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造した前駆ヒールパットを裁断し、図11(a)に示すような三角形状のヒールパットHPと台形形状のヒールパットHPを作製した。これらヒールパットHP、HP2枚を、前駆マットの踵移動領域に、図5(a)に示すように配置した(ヒールパットHPとヒールパットHPとの間隔は5mm)こと以外は、実施例1と同様にしてマットを製造した。
【0080】
(実施例3)
実施例1と同様にして製造した前駆ヒールパットを裁断し、図11(b)に示すような三角形状のヒールパットHP、HP2枚を作製した。これらヒールパットHP、HP2枚を、前駆マットの踵移動領域に、図5(b)に示すように配置した(ヒールパットHPとヒールパットHPとの間隔は5mm)こと以外は、実施例1と同様にしてマットを製造した。
【0081】
(実施例4)
実施例1と同様にして製造した前駆ヒールパットを裁断し、図11(c)に示すような三角形状のヒールパットHP、HP2枚と、台形形状のヒールパットHP、HPを作製した。これらヒールパットHP〜HP4枚を、前駆マットの踵移動領域に、図5(e)に示すように配置した(ヒールパットHPとヒールパットHPとの間隔は5mm、ヒールパットHPとヒールパットHPとの間隔は5mm、ヒールパットHPとヒールパットHPとの間隔は5mm)こと以外は、実施例1と同様にしてマットを製造した。
【0082】
(柔軟性の評価)
実施例1〜4及び参考例1〜2のマットから、図3に試験片の上視図を示すように、ヒールパットの外周縁に沿って長方形状に切断した。また、比較例1のマットからヒールパットHPの外周縁に沿って長方形状に切断した。その後、(1)長辺を二等分する直線と、一方の長辺から10mm離間した長辺と平行な直線との交点を中心とする直径10mmの貫通穴Hl、(2)短辺を二等分する直線と、一方の短辺から10mm離間した短辺と平行な直線との交点を中心とする直径10mmの貫通穴Hw、又は(3)コーナー部における、長辺、短辺のいずれからも10mm離間した点を中心とする直径10mmの貫通穴Hcを形成し、それぞれ試験片Sとした。
【0083】
次いで、図4に概念図を示すように、前記試験片Sに貫通穴Hlを形成した場合、貫通穴Hlから短辺と平行方向に、貫通穴Hlから75mmだけ離間した地点よりも離れた領域に、両端に穴を開けた冶具Jを載置するとともに、冶具の穴を介してネジNで試験片Sを固定(固定幅:192mm)した。また、前記試験片Sに貫通穴Hwを形成した場合、貫通穴Hwから長辺と平行方向に、貫通穴Hwから75mmだけ離間した地点よりも離れた領域に、両端に穴を開けた冶具Jを載置するとともに、冶具の穴を介してネジNで試験片Sを固定(固定幅:112mm)した。更に、前記試験片Sに貫通穴Hcを形成した場合、貫通穴Hcから短辺と平行方向に、貫通穴Hcから75mmだけ離間した地点よりも離れた領域に、両端に穴を開けた冶具Jを載置するとともに、冶具の穴を介してネジNで試験片Sを固定(固定幅:192mm)した。
【0084】
その固定状態で、前記試験片Sの貫通穴Hl、貫通穴Hw、又は貫通穴Hcに、引張強度試験機Tのチャックに取り付けたフックFを挿入し、試験片Sに対して直角方向Uに、500mm/min.の速度で引張り、チャックを30mmだけ上昇させた際の応力を測定した。この応力の測定を貫通穴Hl、貫通穴Hw、又は貫通穴Hcのそれぞれに対して5回ずつ行い、その算術平均値を算出した。なお、貫通穴Hwの場合には、固定幅が112mmであったため、固定幅192mmに換算した。この結果は表1に示す通りであった。





【0085】
【表1】

【0086】
(耐摩耗性の評価方法)
実施例1〜4及び参考例1〜2のマットから、図3に試験片の上視図を示すように、ヒールパットの外周縁に沿って長方形状に切断して試験片Sを調製した。また、比較例1のマットからヒールパットHPの外周縁に沿って長方形状に切断して試験片Sを調製した。
【0087】
次いで、各試験片SをJIS L 1021−11に規定されている、テーバー形摩耗試験機を用い、下記条件で摩耗させた後、その表面状態を目視により確認した。この結果は表2に示す通りであった。

摩耗輪:H−18
荷重:1000kgf
回転数:1000回
回転速度:70rpm
【0088】
【表2】

【0089】
以上の実施例1と比較例1との比較から、表皮層の踵移動領域に、踵移動領域よりも小さいヒールパットが2個以上配置していることによって、自動車の前後方向Zdにおける柔軟性に優れていることがわかった。
【0090】
また、実施例1と参考例1との比較から、パイルのゲージ方向に隣接するヒールパットとが3ゲージ以下の距離だけ離間して配置していると、耐摩耗性に優れ、表皮層の保護機能に優れていることがわかった。更に、実施例1と参考例2との比較から、パイルのステッチ方向に隣接するヒールパットとが5ステッチ以下の距離だけ離間して配置していると、耐摩耗性に優れ、表皮層の保護機能に優れていることがわかった。
【0091】
更に、実施例1と実施例2〜4との比較から、自動車の前後方向に対して直角方向に屈曲可能な領域を有すると、自動車の前後方向Zdからの力によって屈曲しやすく、自動車の前後方向に対して右斜め下方向に伸びる屈曲可能な領域を有すると、自動車の右斜め前後方向Mdからの力によって屈曲しやすいことがわかった。そのため、実施例1のマットはブレーキペダルに引っ掛かりやすい場合に有効であり、実施例2〜4のマットはアクセルペダルに引っ掛かりやすい場合に有効であった。
【0092】
また、実施例2、3と実施例4との比較から、ヒールパットの個数を増やすことで、より容易に屈曲可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0093】
M マット
HP、HPnm ヒールパット
HA 踵移動領域
L 自動車の長さ方向
W 自動車の幅方向
FD 自動車の前方方向
RD 自動車の後方方向
GD ゲージ方向
SD ステッチ方向
Lf、Ll、Lb、Lr 踵移動領域を示す直線
a〜h マットの周縁の長さ
Hl、Hw、Hc 貫通穴
S 試験片
T 引張強度試験機
U 試験片に対する直角方向
J 冶具
N ネジ
F フック
Th、・・Th 貫通孔(屈曲部)
、i、i 薄肉部(屈曲部)
Co、・・Co、Co11、・・Co82 接続部
Zd 自動車の前後方向
Md 自動車の右斜め前後方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーペットからなる表皮層を有する自動車用フロアマットであり、表皮層の踵移動領域に、踵移動領域よりも小さいヒールパットが2個以上、又は踵移動領域よりも小さい2つ以上の領域に、不完全に分離する屈曲部を有するヒールパットが配置しており、前記踵移動領域は自動車用フロアマット敷設時に、自動車の前後方向又は右斜め前後方向からの力によって、屈曲可能であることを特徴とする、自動車用フロアマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−6569(P2012−6569A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197186(P2010−197186)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】