説明

自動車用ヘッドランプの配光切替用シール

【課題】ヘッドランプの前面カバーに貼り付けるだけで、左側(右側)配光を右側(左側)配光に切り替えることができる配光切替用シールを提供。
【解決手段】透過光の一部を遮光、または透過光を屈折させる光学的機能を備え、裏面に粘着層6を設けた薄厚可撓性のシール本体2で構成され、灯室Sの左(右)側配光形成用の投射型光源ユニット30に正対する前面カバー11表面に貼り付けられて、投射レンズ36周縁部からの出射光を遮光、または投射レンズ36からの出射光を左右方向斜め下方に屈折させて、本来の配光パターンPs全体の光度を低下させ、または配光パターンPs全体を斜め下方にスライドさせて、右(左)側配光としての最低限必要な条件(グレア光の抑制と中心光度の確保)を満足する配光に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射型自動車用ヘッドランプの前面カバーの所定位置に貼り付けて、左側(右側)走行に適した本来のヘッドランプの配光を右側(左側)走行に法規上適合する配光に切り替えるための配光切替用シールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、英国と欧州大陸との間は、ドーバー海峡を介して自由な往来ができることから、英国仕様車が欧州大陸で、欧州大陸仕様車が英国でそれぞれの仕様を変えることなく使用されている。しかし、英国仕様車は、左側走行を前提としてヘッドランプ(すれ違いビーム用ランプ)の配光が左側配光となるように設定され、一方、欧州大陸仕様車は、右側走行を前提としてヘッドランプ(すれ違いビーム用ランプ)の配光が右側配光となるように設定されている。このためヘッドランプの仕様の異なる地域においては、すれ違いビームが対向車に眩光(グレア光)を与えるという問題がある。
【0003】
そこで従来では、下記特許文献に示されるように、すれ違いビームを形成する投射型光源ユニット内に設けた2種類のカットオフライン形成用シェードを昇降動作させることで、左側配光と右側配光とを切り替え可能な構造になっている。
【0004】
即ち、下記特許文献に示す投射型の自動車用ヘッドランプでは、ランプボディと前面カバーで画成された灯室内に、その第1焦点に光源を配置したほぼ楕円体型状のリフレクターと、リフレクターの第2焦点に配置したカットオフライン形成用シェードと、リフレクターの第2焦点にその後方焦点をほぼ一致させて配置した投射レンズとが一体化された投射型光源ユニットが収容されているが、投射レンズとリフレクター間に、前後に重ねて配置した左側配光用,右側配光用の第1,第2のシェードをそれぞれ上下方向昇降可能に設け、駆動機構によって第1,第2のシェードを昇降動作させることで、左側配光と右側配光のいずれにも対応できる(左側配光と右側配光とを切り替えることができる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−73224号(図1〜4、10,11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし前記した従来技術では、投射レンズとリフレクター間に2枚のシェードを配置することに加え、2枚のシェードを連係動作させるための駆動機構が複雑かつ大型となって、投射型光源ユニットの大型化、重量増、コストアップ等の種々の問題があった。
【0007】
確かに、左側(右側)配光を右側(左側)配光に切り替えるためには、シェード上縁部の形状自体を変える必要があるが、ドーバー海峡を渡って英国と欧州大陸間を往来するような場合は、配光を切り替えた状態で自動車を走行させる期間は、本来のヘッドランプの配光で走行させる期間に比べると短い。
【0008】
そこで、発明者は、切替後の配光としては、切替後の新たな配光として要求される法規上の必要最低限の条件(対向車や歩行者に対してのグレア光の発生防止と安全走行のために自車ドライバーからの前方視認性の確保)さえ満足できればよいと考えた。
【0009】
そのためには、透過光の一部を遮光したり透過光を屈折させる光学的機能を備えた薄厚の可撓性シール本体をヘッドランプの前面カバーに貼り付けて、投射型光源ユニットの形成する本来の配光全体の光度を低下させたり、本来の配光全体を左右方向斜め下向きにスライドさせれば、切替後の新たな配光として要求される法規上の必要最低限の条件をクリアできる、と考えた。
【0010】
本発明は、前記した従来技術の問題点および前記した発明者の知見に基づいてなされたもので、その目的は、投射型自動車用ヘッドランプの前面カバーに貼り付けるだけで、左側(右側)走行に適した本来のヘッドランプの配光を右側(左側)走行に法規上適合する配光に簡単に切り替えることができる配光切替用シールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した目的を達成するために、本発明に係る自動車用ヘッドランプの配光切替用シールにおいては、透過光の一部を遮光、または透過光を屈折させる光学的機能を備え、その裏面側に粘着層が設けられた薄厚の可撓性シール本体で構成され、
ヘッドランプの灯室内に設けられた左側配光または右側配光いずれかの配光を形成する投射型光源ユニットに正対する前面カバーの表面所定位置に貼り付けられて、
前記投射型光源ユニットを構成する投射レンズの周縁部からの出射光を遮光、または投射レンズからの出射光全体を左右方向斜め下向きに屈折させることで、ヘッドランプの配光を切り替えるように構成した。
【0012】
(作用)投射型光源ユニットは、その第1焦点に光源を配置した略楕円体形状のリフレクターと、リフレクターの第2焦点に配置したカットオフライン形成用シェードと、リフレクターの第2焦点にその後方焦点をほぼ一致させて配置した投射レンズとが一体化されて構成されている。
【0013】
投射型光源ユニットの形成する配光(パターン)は、前方の仮想配光スクリーン上に、シェード上縁部の形状に対応する左(右)肩上がりのカットオフラインをもつ左側(右側)配光パターンとして顕れるが、この配光パターンは、リフレクターを周方向および軸方向に分割して制御された反射曲面要素によってそれぞれ形成された光源像を合成した光源像の集合体で構成されている。そして、光源としては、光軸方向に長さのある棒状光源(例えば、放電発光管のアークやフィラメント)が用いられているため、リフレクターの反射面における光源光の有効利用率を考えると、投射レンズから前方に出射する配光形成用の光の中でも、リフレクターの棒状光源に正対する反射面領域(図2の符号A参照)で反射されて、投射レンズの周縁部から前方に出射する光の有効利用率が最も高い(最も光束密度の高い光源像を形成する)。
【0014】
このため、第1には、遮光機能(光学的機能)を備えたシール本体によって、投射レンズの周縁部から前方に出射する光を遮光することで、投射型光源ユニットの形成する本来の配光(パターン)全体の光度を効率よく低下させて、切替後の配光において最低限必要な法規条件(ホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上、かつカットオフラインに沿った領域の光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下という2条件)を満足することができる。
【0015】
具体的には、新たに形成される配光(パターン)全体の光度は、投射レンズから出射する光を遮光する面積、即ち、シール本体の遮光機能(光学的機能)に関係するので、切替後の新たな配光として要求される法規上の必要最低限の条件(ホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域における光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下)を満足するように、投射レンズの周縁部からの出射光の遮光面積を調整することが望ましい。
【0016】
また、第2には、光屈折機能(光学的機能)を備えたシール本体によって、投射レンズから前方に出射する光全体を左右方向斜め下向きに屈折させることで、投射型光源ユニットの形成する本来の配光(パターン)全体を左右方向斜め下向きにスライドさせて、切替後の配光において最低限必要な法規条件(ホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域における光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下という2条件)を確保することができる。
【0017】
具体的には、投射型光源ユニットの形成する本来の配光(パターン)のスライド量は、投射レンズからの出射光がシール本体を透過する際に屈折される角度、即ち、シール本体の光屈折機能(光学的機能)に関係するので、ホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域の光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下となるように、シール本体の光屈折機能を調整することが望ましい。
【0018】
なお、遮光機能(光学的機能)を備えた配光切替用シール(シール本体)の具体的な構成としては、請求項2に示すように、前記シール本体を前記投射レンズの大きさにほぼ整合する円盤形状の透光性樹脂シートで構成するとともに、その表面または裏面に投射レンズの外形に対応する円環状遮光層を設けて、該シール本体を透過する光の一部を前記遮光層で遮光したり、あるいは、請求項3に示すように、前記シール本体を前記投射レンズの大きさにほぼ整合する円環状に形成した不透光性または半透光性の樹脂やゴムシートで構成して、投射レンズから前方に出射した光の一部を前記シール本体で遮光することで、前記投射型光源ユニットの形成する配光パターン全体の光度を低下させ、仮想配光スクリーンに投射された配光パターンにおけるホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域における光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下となるように構成することが考えられる。なお、配光パターン全体の光度の低下量は、円環状遮光部の巾によって調整できる。
【0019】
また、光屈折機能(光学的機能)を備えた配光切替用シール(シール本体)の具体的な構成としては、請求項4に示すように、前記シール本体を前記投射レンズの大きさにほぼ整合する円盤形状の透光性樹脂シートで構成するとともに、その表面に該シール本体を透過する光を左右方向斜め下向きに屈折させるプリズムステップを形成して、前記投射型光源ユニットの形成する本来の配光パターン全体を左右方向斜め下向き(例えば、左右のカットオフラインの段差部の傾斜方向下向き)にスライドさせ、これによって仮想配光スクリーンに形成された新たな配光パターンにおけるホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域の光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下となるように構成することが考えられる。なお、配光パターン全体のスライド量は、プリズムステップの傾斜角によって調整できる。
【0020】
このように、本発明に係る配光切替用シールを、前面カバー表面における所定位置に貼り付けるだけで、ヘッドランプ(投射型光源ユニット)の配光を本来の左側(右側)配光から、右側(左側)走行する上で法規上問題とならない適正な配光に簡単に切り替えることができる。
【0021】
また、配光切替用シール(シール本体)は、薄厚で可撓性に優れているので、前面カバーの表面に隙間なく密着し前面カバーに沿って延在するので、風や雨に対する抵抗も少なく、それだけ剥がれ難く、耐久性にも優れている。
また、配光切替用シールを剥がしたい場合は、配光切替用シール(シール本体)の端をもって引張れば、簡単に剥がすことができる。
【0022】
また、請求項5においては、請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用ヘッドランプの配光切替用シールにおいて、前面カバーに貼り付ける前のシール本体は、剥離可能な台紙に一体化されるように構成した。
【0023】
(作用)配光切替用シール(シート本体)は、前面カバーに貼り付ける前は、台紙に一体化されており、コンパクトで、しかも複数枚を重ねたとしても嵩張らず、例えば車室内のダッシュボード等の身近なところに保管し、必要に応じて使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から明らかなように、請求項1に係る自動車用ヘッドランプの配光切替用シールによれば、前面カバー表面の所定位置に貼り付けるだけで、左側(右側)走行に適した本来の配光を右側(左側)走行に法規上適合する配光に簡単に切り替えることができるとともに、元の配光に戻したい場合は、前面カバーから剥がすことで簡単に対応でき、非常に便利である。
【0025】
請求項5によれば、配光切替用シールは、身近なところに保管することができるとともに、必要に応じて簡単に前面カバーに貼り付けたり剥がしたりできるので、使い勝手に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施例である自動車用ヘッドランプの配光切替用シールの斜視図である。
【図2】同配光切替用シールの断面図である。
【図3】同配光切替用シールを貼り付けた自動車用ヘッドランプの正面図である。
【図4】同ヘッドランプの縦断面図(図3に示す線IV−IVに沿う断面図)図である。
【図5】同配光切替用シールを貼り付けたヘッドランプの配光パターンを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施例である自動車用ヘッドランプの配光切替用シールの正面である。
【図7】本発明の第3の実施例である自動車用ヘッドランプの配光切替用シールの斜視図である。
【図8】同配光切替用シールの断面図である。
【図9】本発明の第4の実施例である配光切替用シールの正面図で、自動車用ヘッドランプの前面カバーに貼り付けた状態の正面図である。
【図10】同配光切替用シールの断面図(図9に示す線X−Xに沿う断面図)である。
【図11】同配光切替用シールを貼り付けたヘッドランプの配光パターンを示す図である。
【図12】本発明の第5の実施例である配光切替用シールの正面図で、自動車用ヘッドランプの前面カバーに貼り付けた状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0028】
図1,2は、本発明の第1の実施例である自動車用ヘッドランプの配光切替用シールを示し、図3,4は、同配光切替用シールを貼り付けた自動車用ヘッドランプを示す。
【0029】
まず、図3,4において、自動車用ヘッドランプの構造を簡単に示す。
符号10は、自動車用ヘッドランプで、前方に開口する容器状のランプボディ11と、ランプボディ11の前面開口部に組み付けられた透明な前面カバー12によって左右方向に長い灯室Sが画成され、灯室S内には、走行ビーム形成用の反射型光源ユニット20と、すれ違いビーム形成用の投射型光源ユニット30とが左右に並設されている。
【0030】
反射型光源ユニット20は、表面アルミ蒸着処理の施された放物面形状のリフレクター22と、リフレクター22の後頂部に設けたバルブ挿着孔(図示せず)に挿着された光源であるバルブ24とから主として構成されており、バルブ24の発光はリフレクター22で反射され、前面カバー11を透過して前方にほぼ平行に導かれて、図5に示すように、横長楕円形状の走行ビーム用の配光パターンPmを形成する。
【0031】
一方、投射型光源ユニット30は、表面アルミ蒸着処理の施された略楕円体形状のリフレクター32と、リフレクター32の後頂部に設けたバルブ挿着孔33に挿着され、その発光中心がリフレクター32の第1焦点となるように配置されたバルブ34と、リフレクター32の前面開口部に円筒形状のレンズホルダー35を介し取着された正面視円形の投射レンズ36と、レンズホルダー35に一体に形成されて、その上縁部が投射レンズ36の後方焦点に一致し、かつリフレクター32の第2焦点位置にも一致するように配置されたカットオフライン形成用シェード37とが一体化された構造で、投射レンズ36から出射する光によって、図5に示すように、シェード37上縁部の形状に対応する左肩上がりのカットオフラインCL(左カットオフラインCL1,右カットオフラインCL2)を持つすれ違いビーム用の配光パターンPsを形成する。
【0032】
そして、光源ユニット20,30の同時点灯により、両光源ユニット20,30によってそれぞれ形成される配光パターンPm,Psが合成されて走行ビームが形成され、光源ユニット30の単独点灯によってすれ違いビームが形成される。
【0033】
また、光源ユニット20,30は、オートレベリング機構ALによって、光源ユニット20,30それぞれの光軸が走行路面に対し常に一定となるように調整されている。
【0034】
即ち、光源ユニット20,30(のリフレクター22,32)は、左右に長いランプブラケット40によって一体化され、ランプブラケット40の左右上部2箇所がエイミングスクリュー44a,44bで支持され、ランプブラケット40の下部1箇所がレベリング用アクチュエータ50の回転駆動軸52で支持されている。
【0035】
符号42a,42bは、ランプブラケット40の上方延出部41a,41bに装着されたベアリングナットで、ランプボディ11に支承されて前方に延出するエイミングスクリュー44a,44bの先端ねじ部が螺合している。
【0036】
符号42cは、ランプブラケット40の下方延出部41cに装着されたベアリングナットで、ランプボディ11に固定されたレベリング用アクチュエータ50の前方に延出する回転駆動軸52の先端ねじ部が螺合している。
【0037】
そして、アクチュエータ50の駆動(回転駆動軸52の回動)により、ベアリングナット42cが回転駆動軸52に沿って進退動作し、光源ユニット20,30を一体化しているランプブラケット40がベアリングナット42a,42bを通るレベリング軸Lx周りに傾動(前後傾)するように構成されている。
【0038】
本実施例では、自動車の車軸(前後軸)の路面に対する傾斜を傾斜センサで計測して、この傾斜センサの傾斜量が常に一定となるように、レベリング用アクチュエータ50の駆動をECUが制御する(光源ユニット20,30のそれぞれの光軸が常に路面に対し一定の傾斜となるように、光源ユニット20,30をレベリング軸Lx周りに傾動調整する)オートレベリング機構ALを備えている。
【0039】
また、前面カバー11の表面における光源ユニット30に正対する位置には、図1,2に拡大して示す、配光切替用シール1が貼り付けられている。
【0040】
配光切替用シール1は、その裏面側に粘着層6が設けられた薄厚の可撓性シール本体2で構成され、裏面側の粘着層6には台紙8が密着一体化されており、必要に応じて、台紙8を剥がして粘着層6を露呈させた形態で、前面カバー11の表面所定位置に貼り付けることができる。
【0041】
配光切替用シール1(シール本体2)は、入射した光の50〜100%の光を遮光できる黒色の半透光性樹脂またはゴムで構成されて、耐候性に優れるとともに、ヘッドランプの前面カバー11に貼り付けた際に、前面カバー11に沿って延在するとともに、前面カバー11の表面に隙間なく密着して、雨や風に対する抵抗も少なく、剥離しにくいため、耐久性にも優れている。
【0042】
また、配光切替用シール1(シール本体2)は、光源ユニット30(の投射レンズ36)の外形にほぼ整合する大きさの円環状遮光部2aと、円環状遮光部2aの中央を横切る帯状の水平遮光部2bを備え、円環状遮光部2aと水平遮光部2b間には、光が遮光されることなくそのまま通過できる開口部3,3が形成されている。
【0043】
また、配光切替用シール1(円環状遮光部2a)の中心(水平遮光部2bの長手方向中央部)には、図4に拡大して示すように、前面カバー11の表面に設けられている光軸位置を示すマーク(例えば、微小突起)11aに位置合わせするためのマーク(円孔)1aが設けられており、前面カバー11側のマーク(微小突起)11aに配光切替用シール1側のマーク(円孔)1aが一致するように、配光切替用シール1を前面カバー11表面に貼り付ければ、配光切替用シール1を光源ユニット30(の投射レンズ36)に正確に正対させることができる。
【0044】
そして、配光切替用シール(シール本体2)を構成する円環状遮光部2aおよび水平遮光部2bの巾dが所定値に設定されることで、ヘッドランプ10(投射型光源ユニット30)の本来の左側配光パターンPsが右側走行上最低限必要な法規条件を満足する配光(配光パターンPs’)に切り替わっている。
【0045】
次に、配光切替用シール1(シール本体2)の配光切替機能を詳しく説明する。
【0046】
投射型光源ユニット30の形成する本来の配光パターンは、図5に示すように、前方の仮想配光スクリーン上に、シェード上縁部37aの形状に対応する左肩上がりのカットオフラインCL(左カットオフラインCL1,右カットオフラインCL2)をもつ左側配光パターンPsとして顕れるが、この配光パターンPsは、リフレクター36を周方向および軸方向に分割して制御された反射曲面要素によってそれぞれ形成される光源像を合成した光源像の集合体で構成されている。
【0047】
そして、バルブ34の発光部(フィラメント)が光軸方向に長さのある棒状光源であるため、リフレクター32の反射面における光源光の有効利用率を考えると、投射レンズ36から前方に出射する配光形成用の光の中でも、リフレクター32の棒状光源に正対する反射面領域(図2の符号A参照)で反射されて投射レンズ36の周縁部から前方に出射する光の有効利用率が最も高い(最も光束密度の高い光源像を形成する)。
【0048】
このため、黒色の半透光性の円環状遮光部2aによって、投射レンズ36の周縁部から前方に出射する光を遮光することで、投射型光源ユニットの形成する本来の配光パターンPs全体の光度を効率よく低下させて、右側走行する上で最低限必要な法規条件(ホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上、かつカットオフラインCL1に沿った領域の光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下という2条件)を満足することができる。
【0049】
即ち、投射レンズ36の周縁部からの出射光の遮光面積が調整されて、右側配光において最低限必要な法規条件(右1.72度で下方0.86度のホットゾーン位置P2の光度が前方の視認性を確保できる5ルーメン以上で、左側カットオフラインCL1上の所定位置(左3.43度で上方0.57度の位置)P1における光度がグレア光発生のおそれのない1ルーメン以下)を確保するようになっている。
【0050】
具体的には、投射型光源ユニット30の形成する配光パターン全体Psの光度は、投射レンズ36周縁部からの出射光の遮光面積(配光切替用シール1の特に円環状遮光部2aの面積)に関係するので、配光切替用シール(シール本体2)を構成する円環状遮光部2aおよび水平遮光部2bの巾dが所定値に設定されることで、左側配光に適した配光パターン全体Psの光度全体が低下して、右1.72度で下方0.86度のホットゾーン位置P2の光度は、当初の23ルーメンから法規条件(5ルーメン以上)を満足する7.7ルーメンに、左側カットオフラインCL1上の所定位置(左3.43度で上方0.57度の位置)P1における光度は、当初の3ルーメンから法規条件(1ルーメン以下)を満足する1ルーメンにそれぞれ低下した、新たな配光パターンPs’が得られた。
【0051】
なお、水平遮光部2bの遮光機能(配光パターン全体Psの光度を低下させる機能)は、円環状遮光部2aの遮光機能に比べて低いので、円環状遮光部2aの巾dだけによって、配光パターンPs全体の光度を調整できる。
【0052】
即ち、水平遮光部2bは、配光パターンPsの光度の調整というよりも、位置決め用のマーク(円孔)1aを形成するために設けられていることから、図6に示す第2の実施例の配光切替用シール1A(シール本体2A)のように、水平遮光部2bに代えて、円環状遮光部2aの中心から放射状に延出する垂直遮光部2cを形成し、垂直遮光部2cの端部にマーク(円孔)1aを設けるようにしてもよい。
【0053】
図7,8は、本発明に係る配光切替用シールの第3の実施例を示す。
【0054】
前記した第1,第2の実施例の配光切替用シール1,1A(シール本体2,2A)は、中央部が開口する円環状遮光部2aで構成されていたが、この第3の実施例の配光切替用シール1Bは、光源ユニット30(の投射レンズ36)の外形にほぼ整合する大きさの円盤形状のシール本体2Bで構成されており、シール本体2Bの裏面側全体に粘着層6が形成されているため、それだけ前面カバー11への密着性に優れている。
【0055】
また、シール本体2Bは、シリコン等の光透過率の高い透光性樹脂で構成されるとともに、粘着層6も透光性の材料で構成されて、シール本体2Cに裏面側から入射した光はそのまま前面側から出射できるが、シール本体2Cの表面には、投射レンズ36の外形に整合する大きさに、黒色半透光性の円環状遮光層2a1が印刷により形成されており、シール本体2Bに裏面側から入射した光の一部がこの円環状遮光層2a1によって遮光されるようになっている。
【0056】
また、シール本体2Bの裏面側中央部には、第1の実施例におけるマーク(円孔)1aに相当するマーク(凹部)1a1が設けられており、前面カバー11側のマーク(微小突起)11a(図4参照)に一致させることで、配光切替用シール1B(シール本体2B)を光源ユニット30(の投射レンズ36)に正確に正対させることができる。
【0057】
なお、配光切替用シール1B(シール本体2B)の配光切替機能は、前記した第1の実施例の配光切替用シール1(シール本体2)の配光切替機能と同様であり、その重複した説明は省略する。
【0058】
また、前記した第1〜第3の配光切替用シール1,1A,1Bに設けられた円環状遮光部2aや円環状遮光層2a1は、いずれも黒色半透光性に構成されているが、円環状遮光部2aや円環状遮光層2a1を不透光性材料で構成してもよく、その場合は、配光切替用シールの遮光機能が上がることから、円環状遮光部2aや円環状遮光層2a1の巾dを幾分小さく設定することになる。
【0059】
また、前記した第1〜第3の実施例では、左側配光を右側配光に切り替える場合について説明したが、第1〜第3の実施例の配光切替用シール1,1A,1Bは、右側配光を左側配光に切り替える場合についても使用できる。即ち、第1〜第3の実施例の配光切替用シール1,1A,1Bは、左側(右側)走行に適した本来のヘッドランプの配光を右側(左側)走行に法規上適合する配光に切り替えることができる。
【0060】
図9,10は、本発明に係る配光切替用シールの第4の実施例を示す。
これらの図において、配光切替用シール1Cは、前記した第3の実施例と同様、光源ユニット30(の投射レンズ36)の外形にほぼ整合する大きさで、その裏面側全体に粘着層6が設けられた円形状の薄厚の可撓性シール本体2Cで構成され、裏面側の粘着層6に予め一体化されている台紙8を剥がして、前面カバー11に貼り付けられている。
【0061】
しかし、前記した第1〜第3の実施例の配光切替用シール1,1A,1Bは、例えば、ヘッドランプ10本来の左側走行に適した配光パターンPsの形状を変更することなく、配光パターンPs全体の光度を右側走行する上で法規上最低限必要な条件を満足できる光度まで低下させるという、投射レンジ36から出射した光の一部を遮光する遮光機能を備えているのに対し、本実施例の配光切替用シール1Cは、ヘッドランプ10本来の左側走行に適した配光パターンPsの形状を変更することなく、右側走行する上で法規上最低限必要な条件を満足できる所定位置まで配光パターンPsを光軸に対し斜め下向きにスライドさせるという、投射レンジ36から出射した光全体を屈折させる機能を備えている。
【0062】
即ち、配光切替用シール1C(シール本体2C)は、シリコン等の透光性樹脂で構成され、裏面側の粘着層6も透光性材料で構成されるとともに、シール本体2Cの表面には、プリズムステップ4が等間隔に形成されており、図10に示すように、シール本体2Cに入射した光がプリズムステップ4の延在方向と直交する方向(図9の符号L1で示す白抜き矢印参照)に光軸に対し所定角度θだけ下向きに屈折して出射するように構成されている。
【0063】
符号5,5a〜5dは、いずれもシール本体2C裏面側に設けたマークで、符号5は中心位置を示すマーク(凹部)、符号5a,5bは水平基準位置を示す黒色マーク、符号5c,5dは垂直基準位置を示す黒色マークで、プリズムステップ4の配列方向L1は、水平基準マーク5a,5bおよび中心マーク5を通る仮想水平基準線L2に対し15度傾斜して、光源ユニット30の形成する配光パターンPsの左カットオフラインCL1と右カットオフラインCL2間の段差の傾斜角(仮想スクリーンのH−H線に対する傾斜角15度)に一致している。
【0064】
一方、前面カバー11の表面には、投射型光源ユニット30の光軸位置を示すマーク(例えば、微小突起)11aを挟んだ上下に一対の垂直基準マーク(例えば、微小突起)11b,11cが設けられており、配光切替用シール1Cを前面カバー11に貼り付ける際に、中心マーク5がマーク11aに一致し、垂直基準マーク5c,5dを通る仮想垂直基準線L3が垂直基準マーク11b,11cに整合するように配光切替用シール1Cを周方向に位置決めすることで、投射レンズ36に対し配光切替用シール1Cが正対するとともに、プリズムステップ4透過光の屈折方向が配光パターンPsのカットオフラインCL1,CL2間の段差部の傾斜(15度)に一致するようになっている。
【0065】
また、光源ユニット30の形成する配光パターンPsのスライド量は、投射レンズ36からの出射光がシール本体2Cを透過する際にプリズムステップ4によって屈折される角度θに関係するので、シール本体2Cのプリズムステップ4の屈折角θは、新たに形成される配光パターンPs”が右側配光において最低限必要な法規条件(右1.72度で下方0.86度のホットゾーン位置P2の光度が前方の視認性を確保できる5ルーメン以上で、左側カットオフラインCL1上の所定位置(左3.43度で上方0.57度の位置)P1における光度がグレア光発生のおそれのない1ルーメン以下)を満たす所定値に設定されている。
【0066】
なお、前記した配光切替用シール1C(シール本体2C)は、投射レンズ36の大きさにほぼ整合する大きさに形成されていたが、投射レンズ36よりも大きい形状であってもよい。そして、例えば、配光切替用シール1C(シール本体2C)の外形の一部を前面カバー11の周縁部形状に整合する形状に形成した場合は、配光切替用シール1C(シール本体2C)を前面カバー11に貼り付ける際に、配光切替用シール1C(シール本体2C)の周縁部を前面カバー11の周縁部に合わせることで、配光切替用シール1C(光を屈折させる屈折方向)の周方向の位置決めを正確に行うことができる。
【0067】
また、第4の実施例の配光切替用シール1Cは、図12に示すように構成することで、右側配光を左側配光に切り替える配光切替用シールとしても使用できる。
【0068】
即ち、図12は、本発明の第5の実施例である配光切替用シールを示し、自動車用ヘッドランプの前面カバーに貼り付けた状態の正面図である。
【0069】
配光切替用シール1Dを構成するシール本体2Dの裏面側には、左側配光を右側配光に切り替える際に使用するマーク(水平基準位置を示す黒色マーク5a,5b、垂直基準位置を示す黒色マーク5c,5d)に加えて、右側配光を左側配光に切り替える際に使用するマーク(水平基準位置を示す赤色マーク5a1,5b1、垂直基準位置を示す赤色マーク5c1,5d1)も設けられている。
【0070】
その他の構成は、前記した第4の実施例の配光切替用シール1Cと同一であり、同一の符号を付すことで、重複した説明は省略する。
【0071】
このため、左側走行に適した本来のヘッドランプの配光を右側走行に法規上適合する配光に切り替える場合は、図9に示すように、垂直基準マーク5c,5dを通る仮想垂直基準線L3が垂直基準マーク11b,11cに整合するように配光切替用シール1Dを周方向に位置決めして前面カバー11に貼り付け、右側走行に適した本来のヘッドランプの配光を左側走行に法規上適合する配光に切り替える場合は、図12に示すように、垂直基準マーク5c1,5d1を通る仮想垂直基準線L3’が垂直基準マーク11b,11cに整合するように配光切替用シール1Dを周方向に位置決めして前面カバー11に貼り付けることで、ヘッドランプの左側(右側)配光を法規上適合する右側(左側)配光に切り替えることができる。
【符号の説明】
【0072】
1,1A,1B,1C,1D 配光切替用シール
2a 円環状遮光部
2a1 円環状遮光層
2b 水平遮光部
2,2A,2B,2C,2D 配光切替用シール本体
6 粘着層
8 台紙
4 プリズムステップ
10 自動車用ヘッドランプ
11 前面カバー
30 投射型光源ユニット
36 投影レンズ
Ps’、Ps” 配光パターン
CL(CL1,CL2) 水平カットオフライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過光の一部を遮光、または透過光を屈折させる光学的機能を備え、その裏面側に粘着層が設けられた薄厚の可撓性シール本体で構成され、
ヘッドランプの灯室内に設けられた左側配光または右側配光いずれかの配光を形成する投射型光源ユニットに正対する前面カバーの表面所定位置に貼り付けられて、
前記投射型光源ユニットを構成する投射レンズの周縁部からの出射光を遮光、または投射レンズからの出射光全体を左右方向斜め下向きに屈折させることで、ヘッドランプの配光を切り替えることを特徴とする自動車用ヘッドランプの配光切替用シール。
【請求項2】
前記シール本体は、前記投射レンズの大きさにほぼ整合する円盤形状の透光性樹脂シートで構成されるとともに、その表面または裏面には、投影レンズの外形に対応する円環状遮光層が設けられ、該シール本体を透過する光の一部が前記遮光層で遮光されて、前記投射型光源ユニットの形成する配光パターン全体の光度が低下し、仮想配光スクリーンに投射された配光パターンにおけるホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域における光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下となるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用ヘッドランプの配光切替用シール。
【請求項3】
前記シール本体は、前記投射レンズの大きさにほぼ整合する円環状に形成された半透光性樹脂またはゴムシートで構成されるとともに、投射レンズから前方に出射した光の一部が前記シール本体で遮光されて、前記投射型光源ユニットの形成する配光パターン全体の光度が低下し、仮想配光スクリーンに投射された配光パターンにおけるホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域における光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下となるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載に記載の自動車用ヘッドランプの配光切替用シール。
【請求項4】
前記シール本体は、前記投射レンズの大きさにほぼ整合する円盤形状の透光性樹脂シートで構成されるとともに、その表面には、該シール本体を透過する光を左右方向斜め下向きに屈折させるプリズムステップが形成されて、前記投射型光源ユニットの形成する本来の配光パターン全体が左右方向斜め下向きにスライドし、仮想配光スクリーンに投射された新たな配光パターンにおけるホットゾーンの光度が前方の視認性を確保できる所定値以上で、カットオフラインに沿った領域における光度がグレア光発生のおそれのない所定値以下となるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用ヘッドランプの配光切替用シール。
【請求項5】
前記配光切替用シールは、前面カバーに貼り付ける前は、剥離可能な台紙に一体化されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用ヘッドランプの配光切替用シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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