説明

自動車用耐融雪剤性複合塗膜

【課題】金属調で、かつ艶消し感を有すると共に、耐融雪剤性に優れた自動車用耐融雪剤性複合塗膜の提供。
【解決手段】合成樹脂成形品11上に形成された艶消しベースコート層12と、該艶消しベースコート層12上に形成されたインジウム、スズ、またはこれらの合金からなる金属薄膜層13と、該金属薄膜層13上に形成されたクリアトップコート層14とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜10において、前記艶消しベースコート層は12、ベースコート用樹脂と、該ベースコート用樹脂100質量部に対して、艶消し剤粒子として2.5〜36.0質量部のアクリル架橋粒子および/または2.5〜28.0質量部のウレタン架橋粒子(ただし、アクリル架橋粒子とウレタン架橋粒子の合計を36.0質量部以下とする。)とを含有することを特徴とする自動車用耐融雪剤性複合塗膜10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用耐融雪剤性複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のラジエターグリル、バンパー等の自動車外装部品などに用いられる合成樹脂成形品には、意匠性を付与するために、表面に蒸着法やスパッタリング法によって金属薄膜層が形成される場合が多い。金属薄膜層を形成する際は、例えば図2に示すように、合成樹脂成形品21上にベースコート層22を設け、該ベースコート層22上に金属薄膜層23を形成し、さらに該金属薄膜層23上にトップコート層24を形成し、複合塗膜20とするのが一般的である。
近年、ラジエターグリル、バンパー等には、各種センサーの電波を透過できること(電波透過性)が求められている。そのため、金属薄膜層には、電波を透過しやすい不連続膜を形成できるインジウム、スズ、またはこれらの合金が使用される場合が多い。
【0003】
また、意匠性や運転者への防眩性の配慮から、複合塗膜には金属調でありながら艶消し感を有することが要求される。
例えば特許文献1には、合成樹脂成形品本体の上に、無機系艶消し剤としてシリカ等を混合したベースコート層を設け、該ベースコート層上にメタル層を設け、該メタル層上にトップコート層を設けた合成樹脂成形品が開示されている。該合成樹脂成形品によれば、ベースコート層に無機系艶消し剤を混合することで、防眩効果を得ている。
また、艶消し剤としては、上述した無機系艶消し剤の他にも、ポリオレフィン等の有機系艶消し剤が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−56139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、積雪地域では道路の凍結防止のために、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等の融雪剤が道路に散布される場合が多い。道路に散布された融雪剤は水溶液となり、その上を自動車が通行する際に自動車の車体や車輪等に付着する。
【0006】
しかしながら、艶消し剤として用いられるシリカは多孔質である。そのため、特許文献1に記載のように、艶消し剤としてシリカを混合したベースコート層を備えた複合塗膜は、例えば図2に示すように走行中の飛び石等によりトップコート層24に亀裂や傷が生じた場合、その破損部分24aから浸入した融雪剤がシリカの細孔内に浸透しやすかった。加えて、シリカは凝集しやすいため、シリカ粒子同士の界面を伝って融雪剤がベースコート層22に浸透しやすい。その結果、ベースコート層22やシリカの細孔内に浸透した融雪剤が、これらを介して隣接する金属薄膜層23にまで浸透し、金属薄膜層23が腐食したり、変質によって透明化(不可視化)したりして、金属独特の風合いが薄れ意匠性が低下するといった問題があった。
また、有機系艶消し剤であるポリオレフィンは柔らかく変形しやすい。そのため、トップコート層に亀裂や傷が生じた場合、その破損部分から浸入した融雪剤がポリオレフィンの表面を伝ってベースコート層に浸透しやすく、シリカの場合と同様な問題があった。
【0007】
このように、シリカ等の無機系艶消し剤や、ポリオレフィン等の有機系艶消し剤を含有するベースコート層を備えた複合塗膜は、金属調であり、かつ艶消し感を有するものの、融雪剤に対する耐性が不十分であった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、金属調で、かつ艶消し感を有すると共に、耐融雪剤性に優れた自動車用耐融雪剤性複合塗膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自動車用耐融雪剤性複合塗膜は、合成樹脂成形品上に形成された艶消しベースコート層と、該艶消しベースコート層上に形成されたインジウム、スズ、またはこれらの合金からなる金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたクリアトップコート層とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜において、前記艶消しベースコート層は、ベースコート用樹脂と、該ベースコート用樹脂100質量部に対して、艶消し剤粒子として2.5〜36.0質量部のアクリル架橋粒子および/または2.5〜28.0質量部のウレタン架橋粒子(ただし、アクリル架橋粒子とウレタン架橋粒子の合計を36.0質量部以下とする。)とを含有することを特徴とする。
また、前記艶消し剤粒子の平均粒子径が3〜20μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属調で、かつ艶消し感を有すると共に、耐融雪剤性に優れた自動車用耐融雪剤性複合塗膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の複合塗膜の一例を示す断面図である。
【図2】従来の複合塗膜の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の自動車用耐融雪剤性複合塗膜(以下、「複合塗膜」という。)の一例について、図1を参照しながら説明する。
この例の複合塗膜10は、合成樹脂成形品11上に形成された艶消しベースコート層12と、該艶消しベースコート層12上に形成された金属薄膜層13と、該金属薄膜層13上に形成されたクリアトップコート層14とを備えて構成される。
なお、図1においては、説明の便宜上、寸法比などは実際のものと異なったものである。
【0013】
<艶消しベースコート層>
艶消しベースコート層12は、ベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子および/またはウレタン架橋粒子とを含有する。
ベースコート用樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の硬化性樹脂が好ましい。硬化性樹脂としては、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの中でもウレタン樹脂が好ましい。
これら硬化性樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ウレタン樹脂としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、アルキッド樹脂などの主剤と、イソシアネート化合物などの硬化剤とを含む2液型のウレタン樹脂が好ましい。
主剤としては、例えば日立化成工業株式会社製のアクリルポリオール「ヒタロイド3469」;日立化成工業株式会社製のポリエステルポリオール「エスペル1692」;日立化成工業株式会社製のアルキッド樹脂「フタルキッド235−50」等が好適である。
一方、硬化剤としてはジフェニルメタンジイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート化合物、キシレンジイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物等が挙げられる。市販品としては、例えば住化バイエルウレタン株式会社製のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体「デスモジュールN3300」;旭化成ケミカルズ株式会社製のヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体「デュラネート24A−100」等が好適である。
【0015】
アクリル架橋粒子およびウレタン架橋粒子は非多孔質であるため、後述するトップコート層14に亀裂や傷が生じても、その破損部分から浸入した融雪剤はアクリル架橋粒子やウレタン架橋粒子の内部にまで浸透しにくい。また、アクリル架橋粒子およびウレタン架橋粒子は凝集しにくく、艶消しベースコート層12中では独立して存在する傾向にある。従って、トップコート層14に亀裂や傷が生じても、融雪剤は艶消しベースコート層12に浸透しにくい。そのため、金属薄膜層13は融雪剤による影響を受けにくい。
さらに、アクリル架橋粒子やウレタン架橋粒子は硬く、熱や応力によって溶融したり変形したりしにくい。そのため、粒子表面を伝って融雪剤が艶消しベースコート層12に浸入したとしても、溶融したり変形したりしやすいポリオレフィンに比べて、融雪剤は金属薄膜層13にまで浸透しにくい。
【0016】
従って、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子および/またはウレタン架橋粒子を含有する艶消しベースコート層12を備えた複合塗膜10は、耐融雪剤性に優れる。よって、走行中の飛び石等によりトップコート層14に亀裂や傷が生じても、金属薄膜層13は融雪剤による影響を受けにくい。すなわち、融雪剤によって金属薄膜層13が腐食したり、変質によって透明化(不可視化)したりしにくく、金属独特の風合いを維持でき、意匠性に優れる。
特に、複合塗膜10の耐融雪剤性が向上する点で、艶消し剤粒子としてはアクリル架橋粒子が好ましい。これは、アクリル架橋粒子がウレタン架橋粒子に比べて加水分解されにくいためであると考えられる。その結果、複合塗膜10の耐融雪剤性が向上するものと考えられる。
【0017】
なお、艶消し剤粒子として非架橋型のアクリル粒子やウレタン粒子を用いた場合、特にエンジンに近い部分では熱への影響によって艶消し剤粒子が軟化し、艶消しベースコート層がゆるみやすくなる。その結果、トップコート層に亀裂や傷が生じた場合、破損部分から浸入した融雪剤が艶消しベースコート層に浸透しやすくなる。
しかし、本発明においては、艶消し剤粒子として架橋型のアクリル粒子(アクリル架橋粒子)やウレタン粒子(ウレタン架橋粒子)を用いるので、熱による影響を受けにくく、融雪剤が艶消しベースコート層に浸透しにくい。そのため、金属薄膜層は融雪剤による影響を受けにくい。
【0018】
アクリル架橋粒子は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、架橋剤の存在下で(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単独重合または共重合させて、架橋アクリル樹脂を製造する。
ついで、架橋アクリル樹脂を粉砕機で粉砕し、得られた粉砕物を所望の粒子径になるまで分級し、アクリル架橋粒子を得る。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
また、重合の際には、これらのアクリルモノマーと共重合可能なモノマーを共重合させてもよい。共重合可能なモノマーとしては、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、スチレン等が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。また、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の両方を示すものとする。
【0020】
架橋剤としては、2つ以上の重合性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
2官能の単量体としては、例えばアリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート、ヘキサメチレンジアクリレートなどが挙げられる。
3官能以上の単量体としては、例えばトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0021】
アクリル架橋粒子としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば東洋紡績株式会社製の「タフチックFH−S050」、「タフチックFH−S020」、「タフチックFH−S015」、「タフチックFH−S010」、「タフチックFH−S008」、「タフチックFH−S005」、「タフチックF−200」などが好適である。
【0022】
一方、ウレタン架橋粒子は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、架橋剤の存在下で、アクリルポリオールやポリエステルポリオールなどの主剤と、イソシアネート化合物などの硬化剤を反応させて、架橋型ウレタン樹脂を製造する。
ついで、架橋ウレタン樹脂を粉砕機で粉砕し、得られた粉砕物を所望の粒子径になるまで分級し、ウレタン架橋粒子を得る。
【0023】
アクリルポリオールやポリエステルポリオールなどの主剤や、硬化剤としては、ベースコート用樹脂の説明において先に例示した主剤および硬化剤が挙げられる。
また、架橋剤としては、アクリル架橋粒子の説明において先に例示した架橋剤が挙げられる。
【0024】
ウレタン架橋粒子としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば大日精化工業株式会社製の「ダイプラコートRHU5070」、「ダイプラコートRHU5150」などが好適である。
【0025】
アクリル架橋粒子およびウレタン架橋粒子(以下、これらを総称して「艶消し剤粒子」という場合がある。)は、平均粒子径が3〜20μmであることが好ましい。平均粒子径が3μm以上であれば、十分な艶消し効果が得られる。一方、平均粒子径が20μm以下であれば、得られる複合塗膜の外観にざらつき感が生じるのを抑制できる。
ここで「平均粒子径」とはメジアン径のことであり、具体的にはレーザー回折・散乱法により、例えば日機装株式会社製の「マイクロトラックHRA」を用いて測定された「平均粒子径」である。
【0026】
艶消しベースコート層12中のアクリル架橋粒子の割合(含有量)は、ベースコート用樹脂100質量部に対して2.5〜36.0質量部であり、2.5〜28.0質量部が好ましい。アクリル架橋粒子の割合が2.5質量部以上であれば、十分な艶消し効果が得られる。一方、アクリル架橋粒子の割合が36.0質量部以下であれば、得られる複合塗膜の外観にざらつき感が生じるのを抑制できる。加えて、耐融雪剤性に優れた複合塗膜が得られるようになるが、かかる理由は以下のように考えられる。
【0027】
すなわち、アクリル架橋粒子の割合が多くなると、艶消しベースコート層12中において粒子が鎖状につながりやすくなる。その結果、トップコート層14に亀裂や傷が生じた場合、その破損部分から浸入した融雪剤が粒子を伝って艶消しベースコート層12に浸透しやすくなり、金属薄膜層13は融雪剤による影響を受けやすくなると考えられる。アクリル架橋粒子の割合が36.0質量部以下であれば、粒子が艶消しベースコート層12中で独立して存在しやすくなるので、トップコート層14に亀裂や傷が生じても、融雪剤は艶消しベースコート層12に浸透しにくく、金属薄膜層13は融雪剤による影響を受けにくい。よって、耐融雪剤性に優れた複合塗膜が得られる。特に、アクリル架橋粒子の割合が28.0質量部以下であれば、耐融雪剤性を長期にわたって持続できる複合塗膜が得られやすくなる。
【0028】
一方、艶消しベースコート層12中のウレタン架橋粒子の割合は、ベースコート用樹脂100質量部に対して2.5〜28.0質量部である。ウレタン架橋粒子の割合が2.5質量部以上であれば、十分な艶消し効果が得られる。一方、ウレタン架橋粒子の割合が28.0質量部以下であれば、得られる複合塗膜の外観にざらつき感が生じるのを抑制できる。加えて、耐融雪剤性に優れた複合塗膜が得られるようになるが、かかる理由はアクリル架橋粒子の場合と同様であると考えられる。
【0029】
なお、アクリル架橋粒子とウレタン架橋粒子を併用する場合、これらの合計割合がベースコート用樹脂100質量部に対して36.0質量部以下となるように用いる。合計割合が36.0質量部以下であれば、得られる複合塗膜の外観にざらつき感が生じるのを抑制できる。加えて、耐融雪剤性に優れた複合塗膜が得られる。
合計割合の下限値については特に制限されないが、ベースコート用樹脂100質量部に対して2.5質量部以上が好ましい。合計割合が2.5質量部以上であれば、十分な艶消し効果が得られる。
【0030】
艶消しベースコート層12は、必要に応じてその他添加剤を含有してもよい。
その他添加剤としては、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0031】
艶消しベースコート層12の厚さは、5〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。厚さが5μm以上であれば、複合塗膜10の外観が良好となる。一方、厚さが50μm以下であれば、艶消しベースコート層12を形成する塗料を塗布したときに、塗料が均一に塗布されず特に端部に溜まって膜厚に差が生じる、いわゆる「タマリ」と呼ばれる現象などの不具合の発生を抑制でき、複合塗膜10の外観が良好となる。
【0032】
<金属薄膜層>
金属薄膜層13はインジウム、スズ、またはこれらの合金からなる不連続膜である。
金属薄膜層13が不連続膜であることにより、複合塗膜10は、各種センサーの電波を透過できる。
また、金属薄膜層13が不連続膜であるため、後述するクリアトップコート層14は金属薄膜層13のみならず、艶消しベースコート層12とも接することになる。従って、複合塗膜10全体としての付着性は、金属薄膜層13とクリアトップコート層14との付着性、および艶消しベースコート層12とクリアトップコート層14との付着性の両方に依存する。よって、金属薄膜層13が不連続膜であることにより、複合塗膜10の付着性が向上する。
【0033】
金属薄膜層13は、蒸着法またはスパッタリング法により形成される。
金属薄膜層13の厚さは、5〜150nmが好ましく、30〜100nmがより好ましい。厚さが5nm以上であれば、金属外観が良好となる。一方、厚さが150nm以下であれば、白ボケが抑制され、良好な金属外観が得られる。
【0034】
<クリアトップコート層>
クリアトップコート層14は、トップコート用樹脂と必要に応じて添加剤とを含有する。
トップコート用樹脂としては、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の硬化性樹脂が好ましい。硬化性樹脂としては、艶消しベースコート層の説明において先に例示した硬化性樹脂が挙げられる。
【0035】
一方、添加剤としては、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、紫外線吸収剤、ラジカルトラップ剤等が挙げられる。
【0036】
クリアトップコート層14の厚さは、5〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。厚さが5μm以上であれば、ゆず肌などの発生を抑制でき、複合塗膜10の外観が良好となる。一方、厚さが50μm以下であれば、タマリなどの不具合の発生を抑制でき、複合塗膜10の外観が良好となる。
【0037】
<複合塗膜の製造方法>
本発明の複合塗膜10は、合成樹脂成形品11上に艶消しベースコート層12、金属薄膜層13、クリアトップコート層14を順次形成することで得られる。
合成樹脂成形品11としては、自動車のラジエターグリル、バンパー、ホイールキャップ、サイドモール等の自動車外装部品などが挙げられる。
また、合成樹脂成形品11の材料としては、自動車外装部品に用いられる樹脂であれば特に制限されないが、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0038】
ここで、複合塗膜10の製造方法の一例について、具体的に説明する。
まず、合成樹脂成形品11上に艶消しベースコート層12を形成する。艶消しベースコート層12は、上述したベースコート用樹脂と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子および/またはウレタン架橋粒子と、必要に応じてその他添加剤とを混合してベースコート用塗料を調製し、該ベースコート用塗料を合成樹脂成形品11上に塗布し、乾燥することで形成できる。
ベースコート用塗料は、必要に応じて溶剤によって濃度を調整して用いてもよい。溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
ベースコート用塗料の塗布方法としては、スプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などが挙げられる。
また、乾燥方法としては、ベースコート用樹脂の種類により、加熱法、光照射法などを適宜選択して用いることができるが、加熱法が特に適している。加熱法の場合、60〜100℃で、30〜360分間加熱するのが好ましい。
【0040】
ついで、艶消しベースコート層12上に、蒸着法またはスパッタリング法により金属薄膜層13を形成する。
ついで、金属薄膜層13上にクリアトップコート層14を形成し、複合塗膜10を得る。クリアトップコート層14は、上述したトップコート用樹脂と、必要に応じて添加剤とを混合してトップコート用塗料を調製し、該トップコート用塗料を金属薄膜層13上に塗布し、乾燥することで形成できる。
トップコート用塗料は、必要に応じて溶剤によって濃度を調整して用いてもよい。溶剤としては、ベースコート用塗料の説明において先に例示した溶剤が挙げられる。
また、トップコート用塗料の塗布方法、および乾燥方法としては、ベースコート用塗料の塗布方法および乾燥方法と同様である。
【0041】
上述した方法により形成された艶消しベースコート層12は、表面が波打ったように凹凸状になる。従って、金属薄膜層13の表面も、艶消しベースコート層12の表面形状が反映され、波打ったような凹凸状となる。金属薄膜層13の表面が凹凸状であることにより、光が乱反射し、金属調でありながら、かつ艶消し感を有する複合塗膜10が得られる。
【0042】
なお、合成樹脂成形品11上に艶消しベースコート層12を形成するに際しては、必要に応じてプライマー処理等の前処理を合成樹脂成形品11に施してもよいが、上述した艶消しベースコート層12は、合成樹脂成形品11に対する付着性にも優れるため、前処理を行わなくても十分な付着性が得られる。
【0043】
以上説明した本発明の複合塗膜は、金属調で、かつ艶消し感を有する。また、艶消しベースコート層中に含まれる艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子および/またはウレタン架橋粒子を用いるので、耐融雪剤性に優れる。従って、融雪剤が散布された道路を走行中、飛び石等によりトップコート層に亀裂や傷が生じても、融雪剤が艶消し剤粒子や艶消しベースコート層を介して金属薄膜層に浸透しにくいので、金属薄膜層が腐食したり、変質によって透明化(不可視化)したりしにくく、金属独特の風合いを維持でき、意匠性に優れる。
【0044】
また、本発明の複合塗膜は不連続の金属薄膜層を備えるので、各種センサーの電波を透過しやすい。従って、自動車のラジエターグリル、バンパー等の自動車外装部品の表面の加飾に好適である。
【実施例】
【0045】
<トップコート用塗料の調製>
2液のアクリルウレタン系塗料主剤(藤倉化成株式会社製、「レクラック#110」)と、硬化剤(藤倉化成株式会社製、「レクラック#110硬化剤」)と、溶剤としてシンナー(藤倉化成株式会社製、「レクラック#702シンナー」)とを、質量比(主剤/硬化剤/シンナー)が15/1/10となるように混合し、トップコート用塗料を調製した。
【0046】
[実施例1]
ベースコート用樹脂の主剤としてアクリルポリオール(日立化成工業株式会社製、「ヒタロイド3469」、水酸基価(OHV)=100mgKOH/g)74.1質量部、および硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(旭化成ケミカルズ株式会社製、「デュラネート24A−100」、NCOの質量割合=23.5%)25.9質量部と、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子D(東洋紡績株式会社製、「タフチックFH−S005」、平均粒子径=5μm)2.5質量部と、その他添加剤として表面調整剤(楠本化成株式会社製、「ディスパロン1970」)2.5質量部と、溶剤として酢酸エチル50質量部、メチルエチルケトン40質量部、および酢酸ブチル100質量部とを混合し、ベースコート用塗料を調製した。
【0047】
合成樹脂成形品としてABS樹脂製の板(15cm×15cm)を用いた。該合成樹脂成形品上に、先に調製したベースコート用塗料を、硬化後の厚さが25μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装し、80℃で60分間乾燥して溶剤を除去すると共に硬化させ、艶消しベースコート層を形成した。
ついで、真空蒸着装置(株式会社アルバック製、「EX−200」)を用い、艶消しベースコート層上にインジウムの金属材料を真空蒸着することにより、金属薄膜層(インジウム薄膜層)を形成した。インジウム薄膜層の厚さは60nmであった。
ついで、インジウム薄膜層上に、先に調製したトップコート用塗料を、硬化後の厚さが25μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装し、80℃で60分間乾燥して溶剤を除去すると共に硬化させ、クリアトップコート層を形成し、複合塗膜を得た。
【0048】
<評価>
(付着性の評価)
複合塗膜のクリアトップコート層上に、1mm幅で5×5の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープを使用した。結果を表1に示す。
○:碁盤目の残存数が25個。
△:碁盤目の残存数が10〜24個。
×:碁盤目の残存数が9個以下。
【0049】
(外観の評価)
複合塗膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:艶消し感および透明感を有し、ざらつき感が感じられない。
△:艶消し感はあるが、透明感にやや劣る、またはざらつき感が感じられる。
×:艶消し感がない。
【0050】
(耐融雪剤性の評価:評価1)
融雪剤として、水、塩化カルシウム、塩酸の混合溶液(質量比:水/塩化カルシウム/塩酸=1000/70/30)を用いた。
JIS K 5600−5−3に準じ、デュポン式衝撃試験機を用い、高さ50cmの位置から複合塗膜におもり(質量:500g)を衝突させた。
おもりを衝突させた後の複合塗膜を融雪剤に55℃×120時間浸漬させた。浸漬後の複合塗膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。結果を表1に示す。
○:金属の変質による透明化が確認されない。
△:部分的に金属の変質による透明化が確認されたが僅かであり、実用上問題はない。
×:全体的に金属の変質による透明化が確認された。
【0051】
(耐融雪剤性の評価:評価2)
融雪剤への浸漬条件を55℃×200時間に変更した以外は、評価1と同様にして耐融雪剤性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜11、比較例1〜6]
表1、2に示す組成に従ってベースコート用塗料を調製した以外は、実施例1と同様にして複合塗膜を製造し、各評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1、2中の主剤、硬化剤、および艶消し剤粒子等は以下の通りである。
・アクリルポリオール:日立化成工業株式会社製の「ヒタロイド3469」、水酸基価(OHV)=100mgKOH/g。
・アルキッド樹脂:日立化成工業株式会社製の「フタルキッド235−50」、OHV=110mgKOH/g。
・ポリエステルポリオール:日立化成工業株式会社製の「エスペル1692」、OHV=65mgKOH/g。
・HMDIイソシアヌレート:住化バイエルウレタン株式会社製の「デスモジュールN3300」(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体)、NCOの質量割合=21.8%。
・HMDIビウレット:旭化成ケミカルズ株式会社製の「デュラネート24A−100」
(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体)、NCOの質量割合=23.5%。
・アクリル架橋粒子A:東洋紡績株式会社製の「タフチックFH−S020」、平均粒子径=20μm。
・アクリル架橋粒子B:東洋紡績株式会社製の「タフチックFH−S015」、平均粒子径=15μm。
・アクリル架橋粒子C:東洋紡績株式会社製の「タフチックFH−S010」、平均粒子径=10μm。
・アクリル架橋粒子D:東洋紡績株式会社製の「タフチックFH−S005」、平均粒子径=5μm。
・アクリル架橋粒子E:東洋紡績株式会社製の「タフチックF−200」、平均粒子径=3μm。
・アクリル架橋粒子F:東洋紡績株式会社製の「タフチックFH−S050」、平均粒子径=50μm。
・ウレタン架橋粒子A:大日精化工業株式会社製の「ダイプラコートRHU5150」、平均粒子径=15μm。
・ウレタン架橋粒子B:大日精化工業株式会社製の「ダイプラコートRHU5070」、平均粒子径=7μm。
・PP粒子:ビックケミー・ジャパン株式会社製の「CERAFLOUR970」(ポリプロピレン粒子)、平均粒子径=9μm。
・PTFE粒子:ビックケミー・ジャパン株式会社製の「CERAFLOUR980」(ポリテトラフルオロエチレン粒子)、平均粒子径=3μm。
・PE粒子:ビックケミー・ジャパン株式会社製の「CERAFLOUR991」(ポリエチレン粒子)、平均粒子径=5μm。
・シリカ粒子:水澤化学工業株式会社製の「ミズカシルP−78F」、平均粒子径=12μm。
・表面調整剤:楠本化成株式会社製の「ディスパロン1970」
【0056】
表1、2から明らかなように、各実施例で得られた複合塗膜は、艶消し感を有すると共に、付着性および耐融雪剤性に優れていた。
特に、艶消し剤粒子としてアクリル架橋粒子を用いた実施例1〜7、11は、耐融雪剤性の結果が良好であった。その中でも特に、ベースコート用樹脂100質量部に対するアクリル架橋粒子の割合が2.5〜28.0質量部である実施例1〜6、11で得られた複合塗膜は、耐融雪剤性を長期にわたって持続できた。ただし、平均粒子径が50μmのアクリル架橋粒子Fを用いた実施例11で得られた複合塗膜は、艶消し感を有してはいたものの、ざらつき感が感じられた。
【0057】
一方、艶消し剤粒子としてPP粒子、PTFE粒子、PE粒子、およびシリカ粒子を用いた比較例1〜4で得られた複合塗膜は、付着性に優れ、艶消し感は有するものの、耐融雪剤性に劣っていた。
また、アクリル架橋粒子やウレタン架橋粒子の割合が多い比較例5、6で得られた複合塗膜は、付着性に優れ、艶消し感は有するものの、耐融雪剤性に劣っていた。
【符号の説明】
【0058】
10:自動車用耐融雪剤性複合塗膜、11:合成樹脂成形品、12:艶消しベースコート層、13:金属薄膜層、14:クリアトップコート層、20:複合塗膜、21:合成樹脂成形品、22:ベースコート層、23:金属薄膜層、24:クリアトップコート層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂成形品上に形成された艶消しベースコート層と、該艶消しベースコート層上に形成されたインジウム、スズ、またはこれらの合金からなる金属薄膜層と、該金属薄膜層上に形成されたクリアトップコート層とを備えた自動車用耐融雪剤性複合塗膜において、
前記艶消しベースコート層は、ベースコート用樹脂と、該ベースコート用樹脂100質量部に対して、艶消し剤粒子として2.5〜36.0質量部のアクリル架橋粒子および/または2.5〜28.0質量部のウレタン架橋粒子(ただし、アクリル架橋粒子とウレタン架橋粒子の合計を36.0質量部以下とする。)とを含有することを特徴とする自動車用耐融雪剤性複合塗膜。
【請求項2】
前記艶消し剤粒子の平均粒子径が3〜20μmであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用耐融雪剤性複合塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−30161(P2012−30161A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170543(P2010−170543)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】