説明

自家造血幹細胞の調製物、その製造方法、低温保存方法、および中枢神経系の外傷性疾患の治療のための使用

本発明は、細胞移植学および神経学の分野に適用され、中枢神経系の創傷ジストロフィーを治療するために使用することができる。本発明の主要な考案は、造血幹細胞(HSC)の調製物であり、これは、CD34抗原を含有する細胞リッチの患者の末梢血から抽出された、最終濃度が(40−100)x106 細胞/mlである自家HSCである。血液をリッチにすることは、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) の調製物、たとえばグルコース溶液中のNeilogenを、あるスキームに従って断続的に投与することを利用して行われる。また、調製物の製造方法、低温保存方法、並びに新規調製物を用いた脳および脊髄における外傷性疾患の治療方法である。開発されたシステムにより、患者は、神経疾患に対して効果的に助けられ、最小限の傷害を受ける。

【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本発明は、細胞移植学および神経学の分野に適用される。とりわけ、本発明は、自己造血幹細胞の調製物、前記調製物の製造および低温保存方法、並びに脳および脊髄の外傷性疾患の治療のための前記調製物の使用に適用される。
【0002】
多くの神経疾患の治療方法の著しい発展にもかかわらず、その成果はまだ十分ではない。これは、神経変性疾患、外傷後の脳および脊髄の傷害、および脳循環の疾患の成り行きにあてはまる。現存の治療方法は、しばしば、失われた機能性を回復させることができず、身体障害患者の数はなお多く、アクティブな生活に対する予後は、満足のいくものではない。このような理由のため、神経組織の再生プロセスを刺激する方法を開発することが重要である。
【0003】
近年、胚性神経組織に由来する細胞培養物の調製物を移植することが、神経疾患の治療で実用化されている(たとえば、ロシア連邦特許2160112, 2000)。しかし、胚性組織調製物の治療は、重大な組織適合性の問題、移植の拒絶反応のリスク、遅発性免疫コンフリクト、並びに道徳的、倫理的、法律上、および宗教上の制限がある。
【0004】
我々は、移植のために同種異系の神経幹細胞を使用することは、多大な可能性をもち(ロシア連邦特許2191388, 2002)、心筋(myocard)への移植実験で使用された造血細胞も多大な可能性をもつ(ロシア連邦特許2237440, 2004)と考える。
【0005】
我々の発明に最も近い類似発明は、ロシア連邦特許2216336(2003)に記載される技術であり、ここではSV40抗原を発現する自家造血幹細胞(AHSC)の調製物が、神経疾患の治療のために使用されている。しかし、この技術は、骨髄穿刺の間に抽出された幹細胞を使用しており、これは、患者に対して外傷性であり、医療関係者が実施するのはかなり難しい。
【0006】
この点において、神経系の外傷性疾患を治療するために患者の末梢血から抽出された造血幹細胞(SC)を使用することは、理論的および実用的に多大な意義がある。これら細胞は、大きな機能の可塑性をもち、脊髄または脳室性脳システムに導入されたときに大きな副作用につながらず、治療の有効性を増大させることができ、患者の傷害を減少させることができ、穿刺操作を回避することができ、起こり得るあらゆる合併症を減少させることができる。インサイチュー脳組織におけるSCの局所的分化は、微小環境の「シグナル」により一般にコントロールされている。限られた臨床上の観察により、移植片にSC分化の異常がないことが示された。
【0007】
本発明の技術的な課題は、末梢血の自家造血幹細胞(HSCPB)の調製物、この調製物の製造および保存方法、並びに中枢神経系における外傷性疾患の治療方法を提供することである。更に、技術的な課題は、上述の公知技術の欠点を解消すること、並びに種々の形態の脳および脊髄の外傷性疾患を有する患者の治療方法のセットを拡大することである。
【0008】
本発明により達成される技術的成果は、造血幹細胞の調製物が、神経系の疾患の間に、移植のために使用されることである。これは、自家造血幹細胞(HSC)リッチの患者の末梢血から抽出され、CD34抗原を含有し、最終濃度が(40−100)x106 細胞/mlである自家造血幹細胞(HSC)の調製物から構成されるため、注目に値する。
【0009】
とりわけ、CD34抗原を含有し、最終濃度が(40−100)x106 細胞/mlである末梢血の自家造血幹細胞(HSC)の調製物を、患者に髄腔内または脳室内注入する医薬の製造のために使用すると、中枢神経系の外傷性疾患の驚くほど効果的な治療が達成されることが観察された。
【0010】
この種類の調製物は、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) の調製物、たとえばグルコース溶液中のNeupogen(登録商標)(Amgem Inc.)を事前に、断続的に投与することにより得られる。G-CSF調製物の断続的な投与は、以下のスケジュール:
最初の3日 − 10−12時間ごとに2.5マイクログラム/kgの用量;4日目 − 同じタイムスケジュールに従って2倍の用量
で4日間にわたって行われる。
【0011】
したがって、本発明の別の側面は、中枢神経系の傷害における移植のために自家造血幹細胞の調製物を得る方法である。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、改良された技術的成果は、かかる移植用調製物を得るための方法であって、G-CSF調製物を事前に、断続的に投与し、末梢血を採取し、HSCリッチでCD34抗原を含有する末梢血からHSCを分離し、その後、赤血球から細胞懸濁液を精製し、生理食塩水で洗浄することを含む方法により達成される。その後、得られた調製物は、再注輸または低温保存に移すことができる。
【0013】
本発明の特に好ましい態様によれば、神経疾患の患者の末梢血から調製物を得る方法は、以下のスキームを用いて行われる。
【0014】
末梢血中の幹細胞の量を増大させるため、患者は、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) の調製物、たとえばグルコース溶液中のNeilogenの8回の皮下注入を、4日間にわたって10−12時間の間隔で受ける。G-SCFは、天然および合成のどんな由来からも誘導することができる。好ましくは、G-SCFは、遺伝子操作により得られる医薬調製物であり、ヒトG-CSFと全く同じである。
【0015】
最初の3日は、調製物の用量は2.5マイクログラム/kgであり、最後の日は、用量は2倍である。
【0016】
本発明の調製物の自家造血幹細胞の特別に選択された濃度を達成するために、患者を上記プロトコールに従って処置することができることに留意すべきである。その結果、所望の濃度のターゲット細胞を回収し、同時に、患者に重いダメージを与え得る長期処置を回避することができるように、この処置スキームに従うことが重要である。
【0017】
調製物を得るために細胞を集める工程は、COBE-Spectra 血液分離機を用いて、分離のための使い捨てシステムと標準溶液を使用することにより、G-CSF刺激の開始から5日目に行われる。血球分離の結果形成された細胞リッチの流体中のCD-34+細胞の濃度を、フロースルーサイトフルオロメトリーにより、FACScan装置 (Becton Dickinson, USA)で測定する。
【0018】
末梢血における幹細胞および分化した前駆細胞は、いわゆる幹細胞プール(SCP)を形成する。このプールの細胞はすべて、細胞膜上にCD34+抗原分子の共通の発現を有する。CD34+細胞のサブ集団構造の測定は、モノクローナル抗体を用いたフロースルーサイトフルオロメトリーにより行われている。
【0019】
本発明のターゲット細胞を測定、定量するために適用される技術はすべて、慣用的な技術であることが知られている。
【0020】
材料および装置
− フロースルーレーザーサイトフルオロメーター;
− フロースルーレーザーサイトフルオロメーターのためのソフトウェア;
− 抗原CD34に対するモノクローナル抗体(MCA):フィコエリトリン (PE) またはピリジンクロロフィル (PerCP) で標識され、Becton Dickinson (USA) により製造されるHPCA-2a (8G12)、アイソタイプIgG1;CD45抗原に対しては、フルオレセイン (FITC) で標識されたアイソタイプIgGl;
− 同系同種コントロール:適切な標識(PE、FITC、PerCP)を付されたマウス免疫グロブリンG1アイソタイプ;
− アジ化ナトリウム(NaN3):2.5%のアジ化ナトリウムの母液を、生理溶液を用いて調製する。アジ化ナトリウムを、最終濃度が0.25%に達するまで、栄養溶液およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に添加する。
【0021】
− 赤血球からSCP懸濁液の純度を上げる(clean up)ための溶解試薬。式:NH4Cl − 8.26g、炭酸水素カリウム − 1g、Na4−エチレンジアミン四酢酸 − 0.37gを、100gの精製水に溶解すべきである;
− リン酸緩衝生理食塩水(PBS);
− ウシ血清アルブミン(BSA);
− 0.1%のBSAを添加したPBS(PBS-BSA)または媒体199。
【0022】
前駆細胞の量の規定は、直接免疫蛍光テスト(IFT)により決定した。
【0023】
二重トレーサー法は、CD34抗原に対するモノクローナル抗体(SCPにおける細胞の主要マーカー)とCD45分子に対するモノクローナル抗体(すべての造血細胞を決定する共通の白血球抗原)を用いた細胞基質の同時染色を含むため、最も適切と考えるべきである。この技術により、原料中のすべての造血CD45+細胞に対するCD34+細胞の量を迅速に決定することができる。非特異的な結合のレベルを決定するために、幾つかの細胞を、アイソタイプコントロールを用いて染色する。モノクローナル抗体のために使用される同じ染料(PE、FITC、PerCP)で標識されたIgG1アイソタイプのマウス免疫グロブリン(IgG1)は、アイソタイプコントロールとして通常使用される。IFTをセットアップする前に、調査される細胞を、標準的な溶解手順を用いて赤血球から取り出し、その後、1000 gで5−7分間の遠心分離によりPBS-BSAで洗浄するべきである。
【0024】
赤血球溶解技術
− 2 mlの溶解試薬を、0.2−0.5 mlの細胞沈殿物に添加し、溶液が透明になるまで撹拌しインキュベートする;
− 1000 gで5−7分間遠心分離することにより、媒体199 (Sigma Aldrich) またはPBS-BSAで細胞を2回洗浄する。
【0025】
この技術は、調製物における赤血球の危険な存在を避けるために非常に重要であることに留意すべきである。実際、赤血球の存在、これによる鉄の存在は、重い髄膜炎を引き起こし得る。しかし、上記技術は、調製物から赤血球の存在または少なくとも鉄の存在を避けるための当該技術分野で公知の他の適切な技術と置き換えることができる。
【0026】
IFTは、96ウェルトレーにおいて、抽出された細胞で行われる。これとともに、任意の材料でSCPの量を決定するため、3ウェルのパネルを使用する:
− 未染色の細胞;
− 使用したMCAの標識に相当する標識を付したアイソタイプコントロールで染色された細胞;
− CD34およびCD45抗原に対するMCAの両方で染色された細胞。
【0027】
CD34に対するMCAは、好ましくはフィコエリトリン (PE) またはピリジンクロロフィル (PerCP) 標識を付して使用されることが重要である。これら蛍光色素は、FITCと比較して高いレベルの特異的なシグナルをもつ。
【0028】
CD34+細胞の量を決定するためには、クローンHPCA-2 (8G12)、アイソタイプIgClの抗原CD34に対する抗体を使用することが最適である。
【0029】
IFTのセットアップ
細胞を、ウェルに、窪みあたり500,000個以上導入する。
【0030】
上記名称の抗体の混合物を、各ウェルに導入し、ドロッパーを用いて注意深く再懸濁する。各MCAは、ウェルあたり10マイクロリットルの体積で採取し、ウェル中のMCAの全体積を20マイクロリットルにすべきである。
【0031】
細胞を抗体とともに30分間+4℃でインキュベートする。
【0032】
インキュベーションが完了した後、1000 gで5−7分間の遠心分離を用いて、細胞を、未結合の抗体から2回洗浄すべきである。
【0033】
細胞は、フローサイトメーターを用いてその量を決定するため、特別なプラスチックチューブに移す。
【0034】
各チューブにおける細胞リッチの流体の体積は、PBS-BSAを添加することにより、200−500マイクロリットルにすべきである。
【0035】
末梢血におけるCD34+細胞の細胞集団は少ない。造血SCの末梢血への移動の予備刺激の条件下において、CD34発現細胞のパーセンテージは、約1−3%である。調製物におけるCD34+細胞の最終濃度は、(40−100)×106細胞/mlである。
【0036】
CD34抗原を含有し、神経疾患の患者から採取された細胞がリッチである自家HSCPB調製物は、製造後すぐに必ずしも使用できるわけではない。調製物の使用様式は、患者の健康状態、および他の客観的および主観的状況に依存する。たとえば、本発明の調製物による患者の治療を数回繰り返すことが必要である場合がある。
【0037】
これに関連して、使用する時までその特性を保持するために調製物を保存するという問題がもちあがる。したがって、本発明の別の側面は、この問題を解決する最善の方法として観察される、調製物の低温保存の技術である。
【0038】
低温保存の従来の技術は、細胞リッチの流体に最終濃度10%でジメチルスルホキシドを添加し、それを、電気フリーザーを用いて1分あたり1℃の速度で−80℃または−120℃まで凍結し、それを、液体窒素または液体窒素の蒸気で保存することである [Adrian P. Gee “Bone marrow processing and purging: a practical guide”, 1991, 332-337]。しかし、前記技術は、本発明の調製物を保存するために適していない。実際、かかる技術を実施すると、細胞は破裂する。
【0039】
よって、本発明の技術的課題は、新規調製物の保存寿命を延ばすことである。この技術的成果は、調製物をジメチルスルホキシド(DMSO)と混合し、その後、液体窒素を用いて温度勾配で凍結する自家HSCPB調製物の低温保存の技術であって、調製物を−40℃まで凍結する際、1分あたり1.1℃の温度勾配により、初期濃度10−12%のDMSOとポリグルシンの混合物で凍結し、−165℃〜−170℃に達するまで凍結を行うことにより特徴づけられる技術により達成される。この技術により、本発明の調製物の保存は無限の時間まで可能である。
【0040】
低濃度のDMSOをポリグルシンと混合して用いて液体窒素の蒸気中で低温保存する以下のオリジナル技術により、低温保存の全ての段階においてほとんどロスなく、HSCPB調製物の保存が可能である。
【0041】
低温保存の工程は、以下の方法で行われる:
− 細胞リッチの流体に低温抵抗性物質(cryophilactic)を加える;
− 細胞を凍結させる。
【0042】
高度に精製されたDMSOは、造血細胞のための低温抵抗性物質(cryophilactic)として使用される。DMSOとポリグルシンの同体積の混合物を、絶えず撹拌しながら細胞リッチの流体に添加する。DMSOとポリグルシンの混合は、発熱反応であり、適量の熱を放出する。ポリグルシン中のDMSOの初期濃度は、10−12%である。
【0043】
細胞リッチの流体を含むチューブを凍結させるために、チューブを、たとえば全幅10 mmの多層の合板からつくられた適切な容器に入れるべきである。蓋をしっかりと閉めるべきであり、容器は、チューブのサイズに適切なものにすべきである。その後、容器を、−165〜−170℃の温度に達するまで、好ましくは液体窒素の蒸気の中に入れるべきである。凍結のスピードは、−40℃まで凍結する際、毎分1.1℃である。凍結は、−165〜−170℃に達するまで行われるべきであり、調製物は、その温度で保存すべきである、凍結開始から1.5−2時間後に、容器は、保存に移すことができ、移植に必要とされるまで、そこで保存することができる。かかる低温保存の技術を使用した場合、調製物の特性は、保存されている間、無限の時間にわたって変化しない。
【0044】
液体窒素の蒸気中での凍結の利点:
− 容器の保存は安全である;
− 液体窒素の消費は非常に少ない;
− 容器を扱う作業は便利である。
【0045】
製造された新規なHSCPB調製物は、自主的な患者被検体の治療のために使用されている。本発明の別の側面は、脳および脊髄の疾患を有する患者を治療する技術である。
【0046】
以前には、かかる患者を治療するために薬物による治療が使用され、近年、胚性幹細胞による細胞治療が使用されている(2000年6月20日付けのロシア連邦特許2152038および2000年6月27日付けのロシア連邦特許2152039に記載の技術が参照される)。しかし、上述のとおり、胚性組織調製物を用いた治療は、重大な組織適合性の問題、移植の拒絶反応のリスク、保留された(suspended)免疫コンフリクト、並びに道徳的、倫理的、法律上、および宗教上の制限がある。
【0047】
本明細書の発明の主題の技術的課題は、これら欠点を解消すること、有効性を増大させること、治療時間を短縮すること、治療セッションのスピードを速めること、患者が負う傷害を減らすことである。
【0048】
技術的成果は、中枢神経系の疾患を治療する方法であって、幹細胞リッチでCD34抗原を含有する患者自身の末梢血から抽出された新規な自家細胞調製物の注入を含む方法により達成される。細胞調製物は、体重1 kgあたり2.7(0.005−16.8)×106 CD34含有細胞の用量で、患者に注入される。調製物は、2.0−100.0 mlのキャリアにつき1 mlの細胞調製物の比で、髄腔内および脳室内注入に適したキャリアと予め混合するべきである。また、我々の技術により低温保存され、その後解凍された調製物が、本方法で使用される。注入の直前に、37−40℃の温度の水浴で解凍が行われる。調製物は、生理溶液で2回洗浄すべきであり、解凍された調製物は、すぐに破壊され、危険な毒性作用を引き起こすため、調製物は、解凍してから最初の6時間の間のみ使用することができる。
【0049】
したがって、本発明の更なる目的に従って、髄腔内または脳室内注入に適した薬学的に許容可能なキャリアと混合された、2.7(0.005−16.8)×106 CD34-抗原 自家造血幹細胞を含む薬学的調製物が提供される。
【0050】
調製物の自家造血幹細胞の濃度は、あらゆる種類の副作用を回避するよう注意して選択されたことに留意すべきである。実際、公知の腫瘍治療で使用される幹細胞の量は、本ケースで選択された量よりずっと多い(100倍)。かかる多量の細胞を、患者の脳または脊髄を治療するためにも使用した場合、重い副作用が起こることを我々は観察した。我々は、本発明の方法の実施に成功し、その結果、本発明の方法とは異なる方法で使用された場合に治療効果がない少量の幹細胞を使用することにより、副作用を起こすことなく驚くべき治療効果を得ることができることを驚くべきことに見出した。
【0051】
上述のとおり、本発明の目的は、従来技術の欠点を回避し、加えて患者に対して最小限の苦痛で行われるようシンプルである、中枢神経系の外傷性疾患の効果的な治療を提供することである。したがって、本発明は、中枢神経系疾患の治療のための医薬を製造するための上記調製物の使用も提供する。
【0052】
本発明の治療方法の有効性を、脳および脊髄の傷害の必然的結果に苦しむ患者に対して試験し、胚性幹細胞(ESC)の移植および輸注、および従来の薬物による治療と比較した。とりわけ、本発明は、たとえば身体的外傷、低酸素症、化学的薬剤、薬物乱用、外傷性の脳または脊髄の傷害、発作、周産期虚血、脳性麻痺、アルツハイマーおよびパーキンソンタイプの疾患、ハンチントン病、コルサコフ病、およびクロイツフェルト−ヤコブ病により引き起こされる傷害または損傷の治療に使用されるのに適している。
【0053】
結果を客観的なものにするために、特別なスケールを使用した:ASIA (Scale of the American Spinal Injury Association) およびFIM (Scale of the Functional Independence) (C.Grander, 1979, L.Cook, 1994)、およびMR-イメージング、神経筋電図記録、脳マッピング、脳造影検査、複合的尿力学的検査、血液および脳脊髄液の免疫化学的検査のデータ。研究に参加した脳および脊髄の外傷性疾患を有する患者の総数は312人であった。患者を3つのグループに分けた:第1グループ(メイン)−自家HSCPB調製物を輸注する治療を受けた患者(80人の患者);第2グループ(112人の患者)−胚性幹細胞(ESC)を輸注する治療を受けた患者;第3グループ(コントロールグループ、120人の患者)−従来の薬物による治療を受けた患者および1 mlの0.9%生理溶液NaClの注入により診断の脊髄穿刺を受けた患者。
【0054】
性別および年齢による患者の分布を表1に示す。異なる方法による中枢神経系(脳および脊髄)の外傷性疾患の治療の有効性の図を図1に示し、ここでは、患者が脳および脊髄の外傷性疾患を有している場合の、新規な自家HSCPB調製物を輸注する有効性とESCの同様の移植および輸注との間の比較を観察することができる。この図の追加の表には、異なる治療の有効性を示す患者の数が示される。新規な自家HSCPB調製物を移植および輸注する最大の有効性が、ESCを受けたグループおよびコントロールグループと比較して、証明された。
【表1】

【表2】

【0055】
表2は、脳および脊髄に損傷を有する患者に髄腔内に使用したときの、新規な自家HSCPB調製物の移植および輸注の限られた臨床使用の結果を示す。新規な調製物を使用する高い有効性が示される。
【0056】
自家血液幹細胞の調製物の製造および使用の利点:
i) 全身麻酔も骨髄穿刺も使用することなく、患者に最小の損傷を負わせて、末梢血から調製物を製造する実現性;
ii) 複数および繰り返しのセッションの調製物の製造を行う実現性;
iii) 製造の相対的な迅速性;
iv) 調製物の特性を変えることなく、ある条件において、調製物を無限の時間にわたって保存する実現性;これにより、延期された注入の実施が可能である;
v) 遺伝的操作の無限の実現性。
【0057】
新規技術に従って、自家HSCPB調製物を製造するために、80セッションの血液採取が行われた。合併症または手順に対する不耐性のために失敗したセッションまたは終了したセッションはなかった。セッションの期間は、患者の体重を考慮して、60 ml/分の血液採取の平均スピードで、3時間を超えなかった。これは、治療手順の短縮を意味する。
【0058】
例1
患者S、40歳。診断:永久的な脊椎(vertebrospinal)傷害の長期効果。圧迫骨折C6−C7脊椎炎の必然的結果、C5−C6レベルの脊髄内包虫嚢などの脊髄に対する傷害、これは、上肢の低度の痙性対麻痺および不全対麻痺、および骨盤器官の機能不全を伴う。脊髄および骨髄の頸部に対する傷害は、自動車事故で1994年に起こった。患者は、脊髄傷害の患者のための専門機関および回復期センターで長期間の治療を受けた。臨床上の出現は、主に、上肢の低度の痙性対麻痺および重い不全対麻痺、骨盤器官の機能不全、および尿失禁と大便失禁の徴候から成る。患者は、自分の状況に適応して10年をすごし、家の中で一人で生活することができた。ブランチプログラム「New Cell Technologies for Medicine」のプロトコールのフレーム内で完全に検査した後、新規な自己HSCPB調製物の治療を処方する決定がなされた。幹細胞の末梢血への移動を4日間刺激した後、血液採取のHSCセッションを、COBE Spectraセパレーターで、末梢静脈を通して行った。セッションの間、60分、血流は60 ml/分である。セッションの間、調製物は、患者の体重1 kgあたり、2.7(0.005)×106 CD34抗原含有細胞の用量で製造した。調製物は、DMSOとポリグルシンとともに処理し、低温保存した。3日後、調製物を解凍し、1 mlの体積で、2 mlの薬学的に許容可能なキャリアと混合し、患者に髄腔内に注入した。副作用は認められなかった。臨床上の出現では、輸注後の7日間、ポジティブなダイナミクスがあった:左手および右手の指に動きが現れた;小さな動きが回復した(指を使用して小さな物体をつかむことができる);前腕の動きの量が、左の方が大きいが、増大した;正常な感覚能の幾つかの領域が脚で現れた;右の母指の小さな動きおよび腹部筋肉のコントロールが現れた。1.5ヶ月後、両脚に外転および内転の動きが現れ、患者は、足を上下に動かすことができた。制御された神経筋電図記録によれば、左の方が大きいが、腕および脚において導電率が増大した。骨盤器官の機能は、3ヵ月後に回復した:患者は、排便および排尿をコントロールすることができ、これは、複合的尿力学的検査により証明された。
【0059】
例2
患者G、22歳。臨床上の診断:永久的な脊髄の傷害の必然的結果、およびTh12椎骨の骨折。骨盤器官の機能不全。
【0060】
二次的診断:病巣の萎縮性胃炎(nidal gastratrophia)。慢性膀胱炎。慢性腎盂腎炎。尿石症。高位膀胱切開術(epicystostomy)後のコンディション (2003)。術後のコンディション − 経尿道、膀胱内の(endovesical)機械的膀胱砕石術(cystolithotrypsy, cystlithotapsy)(2004)。
【0061】
患者には、骨盤肢の運動および感覚能の欠如、排便および排尿の機能不全に関して愁訴があった。
【0062】
疾患の履歴:2001年に、約10mの高さから落下した;事故後、家族が話すとおり、長期間、意識がなかった;すぐに病院に搬送された。患者は、意識を回復したとき、脚を動かすこと、感じることができないことに気付いた。病院で3日目に、Th12の減圧椎弓切除術を行い、チタンの安定化システムを組み込んだ。患者は、なお、脚を動かすこと、感じることができなかった。患者は、ドイツおよびルーマニアで様々な機関で検査され、治療を受けたが、有意な効果はなかった。クリニックに入院して、ブランチプログラム「New Cell Technologies for Medicine」のフレーム内で検査した。
【0063】
入院時までの神経学的状況:はっきりした意識。平均的サイズの同等の瞳孔。活発な光反応、DES。右鼻唇のひだが部分的にスムーズである。舌が右に少しずれる。口蓋垂が右に大きくずれる。咽喉反射がある。肢の筋緊張が低下する。上肢に動きがなく、感覚障害がある。両側に病的なロッソリーモ徴候がある。腹壁反射がない。低度の痙性対麻痺。脚反射が特に右側ではっきりしている。受動運動を診査したときの下肢の間代性運動。左側にTh12および右側にL1の皮膚腫を伴うすべての感覚タイプのブロック感覚脱失。バビンスキー徴候、プセップ(Pussep’s)徴候、ゴードン徴候、シェファー徴候を、両側で観察することができる。骨盤器官の機能不全、中枢型。髄膜の症状はない。最後の入院以降、神経学的状況に進行がみられる − 患者は、内側および外側筋肉により股関節を動かすことができる。
【0064】
脊髄および脳の胸郭−腰椎のMRT;結論:椎弓切除術Th12後のコンディション、Th11−Th12のレベルでチタン定着剤(fixer)の組込み。Th11およびTh12ボディーのV形状の変形。Th11−Th12の椎骨間の高さの不均一な低下および変化またはMRシグナルを、背中への小さな(〜0.2 cm)突出で観察することができる。腰椎部分の検査の間、病的変化はみられなかった。脳の検査の間、脳組織において病的シグナルは発見されなかった。左側脳室の前角(front horn)の中程度の非対称性拡張がある:フロント頭頂領域のコンベコンタル(convecontal)クモ膜下腔の小さな拡張。
【0065】
結論:椎弓切除術Th12後のコンディション、チタン定着剤(fixer)Th11−Th12、Th12ボディーの圧迫骨折。脳脊髄液コンダクターシステムの徴候はみられない。
【0066】
クモ膜下領域への自家HSCPB調製物の再注輸を行った。時間ごとに、患者の体重1 kgあたり6.3×106 CD34抗原含有細胞の原理に従って、用量を計算した。
【0067】
このため、永久的な脊髄傷害と低度の対麻痺を有する患者は、クリニックに入院し、プログラム“New Cell Technologies for Medicine”のフレーム内で治療を継続し、リハビリテーション治療を受けた。検査の間の自家HSCの注入の指標:血清および脳脊髄液中の神経特異的タンパク質に対する抗体の不在、血清および脳脊髄液の神経栄養性ウイルス分析の否定的な結果、脳脊髄液の臨床分析の満足な結果、および血液分析の良い結果。同時に、患者は、運動療法、ジムでの運動(トレッドミルを含む)、マッサージおよび生理学的処置を行った。また患者は、保存療法を受けた。
【0068】
一年後の病後歴。患者は、脚の筋肉バルクを増大させた。下肢のまわりの測定は、3cm増大し、股関節部のまわりでは、左側から2.5cmまで、右側では5cmまで増大した。患者は、歩行器の助けを借りて一人で歩くことができ、生殖機能は回復し、排便を完全にコントロールすることができたが、カテーテルの助けを借りてのみ排尿することができた。モザイクの感覚能が、脚と殿部に現れた。
【0069】
このように、調製物自体、その製造、保存、および中枢神経系における創傷ジストロフィーを治療するための使用方法を含む、新規システムが開発された。これにより、脳および脊髄に傷害を有する患者は、緊急時またはかかる傷害の必然的結果を治療する際に、非常に効果的に助けられ、最小限の損害を受ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終濃度が(40−100)x106 細胞/mlである、CD34抗原を含有する患者の末梢血の自家造血幹細胞(HSC)の調製物。
【請求項2】
前記自家造血幹細胞およびその分化した前駆細胞を含む、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) を、以下のスケジュール:
最初の3日 − 10−12時間ごとに2.5マイクログラム/kgの用量;4日目 − 同じタイムスケジュールに従って2倍の用量
に従って4日間にわたって、患者に事前に、断続的に投与することを含む製造方法により得られる、請求項1または2に記載の調製物。
【請求項4】
髄腔内または脳室内注入に適したキャリアを含む、請求項1、2または3に記載の調製物。
【請求項5】
DMSOおよびポリグルシン(polyglucine)の混合物と、DMSOの初期濃度10−12%で混合された、請求項1〜4の何れか1項に記載の低温保存された調製物。
【請求項6】
低温保存の手段が、液体窒素、好ましくは液体窒素の蒸気である、請求項5に記載の低温保存された調製物。
【請求項7】
患者の体重1 kgあたり2.7 (0.005−16.8)x106 のCD34抗原含有自家造血幹細胞を、髄腔内または脳室内輸注に適した薬学的に許容可能なキャリアと混合して含む薬学的調製物。
【請求項8】
中枢神経系の疾患の治療のための医薬を製造するための、請求項1〜7の何れか1項に記載の調製物の使用。
【請求項9】
前記調製物が、グルコース溶液中のG-CSF NeipogenまたはNeupogenを、以下のスケジュール:
最初の3日 − 10−12時間ごとに2.5マイクログラム/kgの用量;4日目 − 同じタイムスケジュールに従って2倍の用量
に従って4日間にわたって、患者に事前に、断続的に投与することを利用して製造される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
赤血球から患者の末梢血に由来するHSCを精製する工程を含む、請求項1〜7の何れか1項に記載の調製物の製造方法。
【請求項11】
顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) を用いて、以下のスケジュール:
最初の3日 − 10−12時間ごとに2.5マイクログラム/kgの用量;4日目 − 同じタイムスケジュールに従って2倍の用量
に従って4日間にわたって、患者を事前に、断続的に処置する工程;
前記患者から末梢血を採取する工程;
赤血球から患者の末梢血に由来するHSCを精製する工程
を順に含む、請求項10に記載の調製物の製造方法。
【請求項12】
使い捨てシステムを用いて、治療開始から5日目に、細胞HSCを集める工程を更に含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
血球分離により細胞を集めた後、濃縮工程を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
赤血球からHSCを精製する工程が、
細胞HSCの細胞沈殿物に溶解試薬を添加すること;
溶液が透明になるまで撹拌しインキュベートすること;
細胞を遠心分離により適切な媒体で2回洗浄すること
により行われる、請求項11〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
溶解試薬が、NH4Cl、炭酸水素カリウム、およびNa4−エチレンジアミン四酢酸の水溶液である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
洗浄媒体が、媒体199またはPBS-BSAから選択される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
細胞の濃度をフロースルーサイトフルオロメトリーにより測定する工程を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
末梢血に由来する自家造血幹細胞の調製物の低温保存方法であって、
前記調製物を、初期濃度10−12%のジメチルスルホキシド(DMSO)およびポリグルシン(polyglucine)と混合する工程;
混合物を、液体窒素により、−40℃に達するまで1分あたり1.1℃の温度勾配で凍結させる工程;
混合物を、−165℃〜−170℃に達するまで更に凍結させる工程
を含む方法。
【請求項19】
前記凍結が、液体窒素の蒸気により行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者の体重1 kgあたり2.7 (0.005−16.8)x106 CD34-抗原 自家造血幹細胞を含む調製物により、中枢神経系の外傷性疾患に罹患している患者を治療する方法。

【公表番号】特表2008−534529(P2008−534529A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503377(P2008−503377)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008527
【国際公開番号】WO2006/102933
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(507326755)メディテク・インダストリーズ・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】