説明

自己乳化型イソシアネート化合物

【課題】 乳化の温度に依存せずに安定なミセルの形成が可能な自己乳化型イソシアネート化合物を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩と、有機ポリイソシアネート化合物とを反応させてなる自己乳化型イソシアネート化合物。ここで、Rは炭素数4〜12の炭化水素基等、Rは炭素数1〜12の炭化水素基等、Rは水酸基で置換された炭素数1〜18の炭化水素基等、R及びRは、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基等、Xは、Cl、Br等を意味する。但し、R及びRの少なくとも一方は水酸基を有していなければならない。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己乳化型イソシアネート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の脱溶剤の要求から、ポリウレタンの原料となるポリイソシアネート化合物としては、水分散性を有するものや自己乳化性を有するものが求められている。自己乳化性を有するポリイソシアネート化合物を作成する方法としては、ポリイソシアネート化合物にメトキシポリエチレングリコールを反応させる方法が知られており(特許文献1)、メトキシポリエチレングリコールを付加したポリイソシアネート化合物にイオン性界面活性剤を添加することも行われている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−222150号公報
【特許文献2】特開平9−71720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1又は2に開示された、メトキシポリエチレングリコール等の片末端がアルキル基でキャップされたオキシアルキレン化合物により得られる自己乳化型イソシアネート化合物は、高温で乳化した時の当該化合物のミセルの粒径が、低温で乳化した時の粒径に比べ極端に大きくなり、高温乳化安定性が悪いという問題がある。
【0004】
そこで、本発明の目的は、乳化の温度に依存せずに安定なミセルの形成が可能な自己乳化型イソシアネート化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩と、有機ポリイソシアネート化合物とを反応させてなる自己乳化型イソシアネート化合物を提供する。
【化1】



[式中、Rは炭素数4〜12の炭化水素基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基又は水素原子、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜18の炭化水素基、をそれぞれ示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基又はカルボキシル基を示し、Xは、Cl、Br、I、BF、NO、CHSO、CSO、CSO、CSO、CHSO、又はCHSOを示す。但し、R及びRの少なくとも一方は水酸基を有していなければならない。]
【0006】
上記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩を用いた自己乳化型イソシアネート化合物は、70℃程度の高温で乳化した場合のミセルの粒径を、5℃程度の低温で乳化した時のミセルの粒径とほぼ等しくすることができ、高温乳化安定性に優れる。
【0007】
高温乳化安定性を更に向上させることができることから、R及びRはいずれも水素原子であり、Xは、Cl又はBrであることが好ましく、Rは炭素数4〜12のアルキル基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は水素原子、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましい。
【0008】
一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩は、下記一般式(2)で表されるイミダゾリウム塩であることが好ましい。このようなイミダゾリウム塩を用いることにより、高温乳化安定性を更に高めることができる。
【化2】



[式中、Rは炭素数4〜12の炭化水素基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基又は水素原子、nは1〜18の数、XはCl又はBr、をそれぞれ示す。]
【0009】
一般式(2)で表されるイミダゾリウム塩においても、Rは炭素数4〜12のアルキル基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は水素原子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
乳化の温度に依存せずに安定なミセルの形成が可能な自己乳化型イソシアネート化合物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明の自己乳化型イソシアネート化合物は、下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩と、有機ポリイソシアネート化合物とを反応させてなるものである。
【化3】



【0013】
ここで、Rは炭素数4〜12の炭化水素基であるが、この炭化水素基としては、直鎖状、環状若しくは分岐状のアルキル基、アルケニル基又はベンジル基、フェニル基などの芳香族炭化水素基が適用できる。炭素数4〜12の炭化水素基としては、例えば、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基が挙げられる。アルケニル基としては、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、4−ペンテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、5−ヘキセニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基等が挙げられる。また、それぞれの炭化水素基に水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、もしくはアルデヒド基を有していてもよい。
【0014】
炭化水素基の炭素数が4未満である場合は、有機ポリイソシアネート化合物に対する溶解性が低下し反応が生じ難い。一方、炭素数が12を超す場合は、粘度が高くなり、有機ポリイソシアネート化合物との反応速度が遅くなる。有機ポリイソシアネート化合物に対する溶解性に優れ、反応速度も速いことから、上記炭化水素基の炭素数は6〜10が好ましい。なお、Rが水素原子の場合、有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しウレア結合した化合物が固体として析出してしまうため、このようなイミダゾリウム塩は用いることができない。
【0015】
一般式(1)におけるRは、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基又は水素原子である。この炭化水素基としては、直鎖状、環状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基又はベンジル基、フェニル基などの芳香族炭化水素基が適用できる。炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、4−ペンテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、5−ヘキセニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基等が挙げられる。
【0016】
の炭化水素基の炭素数が12を超す場合は、粘度が高くなり、有機ポリイソシアネート化合物との反応速度が遅くなる。Rの炭化水素基としては、炭素数1〜10の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜8の炭化水素基がより好ましい。
【0017】
一般式(1)におけるRは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜18の炭化水素基である。このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、4−ペンテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、5−ヘキセニル基、6−ヘプテニル基、7−オクテニル基が挙げられる。芳香族炭化水素としてはベンジル基、フェニル基が挙げられる。
【0018】
の炭化水素基としては、炭素数1〜15の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜10の炭化水素基がより好ましく、炭素数1〜8の炭化水素基が更に好ましい。なお、Rは水酸基を有していることが好ましく、有機ポリイソシアネート化合物との反応性の観点から、水酸基の位置は末端(イミダゾール環の窒素原子に結合している炭素から最も離れた位置)であることが好ましい。
【0019】
一般式(1)におけるR及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基又はカルボキシル基である。炭素数1〜18の炭化水素基としては上記例示と同様のものが挙げられ、炭素数としては、1〜15が好ましく、1〜10がより好ましい。
【0020】
一般式(1)におけるXは、Cl、Br、I、BF、NO、CHSO、CSO、CSO、CSO、CHSO、又はCHSOを示す。ポリイソシアネート化合物の反応性の観点から、Xは、Cl、Br又はIが好ましく、Cl又はBrがより好ましい。
【0021】
なお、上記R及びRの少なくとも一方は水酸基を有している必要があるが、Rが水酸基を有していることが好ましい。
【0022】
一般式(1)のイミダゾリウム塩においてXがClである場合において、反応させる有機ポリイソシアネート化合物がポリメリックMDIであるときは、Rの炭素数は6〜10が好ましい。Rの炭素数が6より少ない場合、有機ポリイソシアネート化合物の反応性が悪く、炭素数が10を超える場合は粘度が高くなり有機ポリイソシアネート化合物との反応速度が遅くなる傾向にある。
【0023】
一般式(1)のイミダゾリウム塩においてXがBrである場合において、反応させる有機ポリイソシアネート化合物がポリメリックMDIであるときは、Rの炭素数は4〜10が好ましい。Rの炭素数が4より少ない場合、有機ポリイソシアネート化合物の反応性が悪く、炭素数が10を超える場合は粘度が高くなり有機ポリイソシアネート化合物との反応速度が遅くなる傾向にある。
【0024】
一般式(1)のイミダゾリウム塩は、以下に示すイミダゾール化合物(1a)とアルキル化剤(1b)、又はイミダゾール化合物(2a)とアルキル化剤(2b)を反応させることにより、合成することができる。アルキル化剤(1b)又は(2b)の使用量は、イミダゾール化合物(1a)又は(2a)1モル当り、1〜1.3モルが好ましく、1〜1.2モルがより好ましい。
【化4】



[式中、Rは炭素数4〜12の炭化水素基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基又は水素原子、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜18の炭化水素基、をそれぞれ示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基又はカルボキシル基を示し、Xは、Cl、Br、I、BF、NO、CHSO、CSO、CSO、CSO、CHSO、又はCHSOを示す。但し、R及びRの少なくとも一方は水酸基を有していなければならない。]
【0025】
イミダゾール化合物(1a)としては1−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾール,1−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルイミダゾール,1−(2−ヒドロキシエチル)−2−エチルイミダゾール,1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ブチルイミダゾール,1−メチル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−エチル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−プロピル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−n−ブチル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−n−ヘキシル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−ベンジル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,などが挙げられる。
【0026】
イミダゾール化合物(2a)としては1−n−ブチルイミダゾール,1−イソブチルイミダゾール,1−n−ペンチルイミダゾール,1−n−ヘキシルイミダゾール,1−n−オクチルイミダゾール,1−n−デシルイミダゾール,1−n−ドデシルイミダゾール,1−ベンジルイミダゾール,1−n−ブチル−2−メチルイミダゾール,1−イソブチル−2−メチルイミダゾール,1−n−ペンチル−2−メチルイミダゾール,1−n−ヘキシル−2−メチルイミダゾール,1−n−オクチル−2−メチルイミダゾール,1−n−デシル−2−メチルイミダゾール,1−n−ドデシル−2−メチルイミダゾール,1−ベンジル−2−メチルイミダゾール,1−n−ブチル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−n−ヘキシル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,1−ベンジル−2−ヒドロキシメチルイミダゾール,などが挙げられる。
【0027】
アルキル化剤(1b)としては1−クロロブタン,2−クロロブタン,1−クロロペンタン,2−クロロペンタン,1−クロロヘキサン,1−クロロヘプタン,1−クロロオクタン,1−クロロノナン,1−クロロデカン,1−クロロドデカン,1−クロロオクタデカン,1−ブロモブタン,2−ブロモブタン,1−ブロモペンタン,2−ブロモペンタン,1−ブロモヘキサン,1−ブロモヘプタン,1−ブロモオクタン,1−ブロモノナン,1−ブロモデカン,1−ブロモドデカン,1−ブロモオクタデカンなどのハロゲン化アルキル,
ジブチル硫酸などのジアルキル硫酸、パラトルエンスルホン酸−n−ブチル、パラトルエンスルホン酸イソブチル、メタンスルホン酸ブチル等のアルキルスルホン酸エステル、ベンジルクロリド、ベンジルブロミドなどが挙げられる。
【0028】
アルキル化剤(2b)としては1−クロロメタン,1−クロロエタン,1−クロロプロパン,2−クロロプロパン,1−クロロブタン,2−クロロブタン,1−クロロペンタン,2−クロロペンタン,1−クロロヘキサン,1−クロロヘプタン,1−クロロオクタン,1−クロロノナン,1−クロロデカン,1−クロロドデカン,1−クロロオクタデカン,1−ブロモメタン,1−ブロモエタン,1−ブロモプロパン,2−ブロモプロパン,1−ブロモブタン,2−ブロモブタン,1−ブロモペンタン,2−ブロモペンタン,1−ブロモヘキサン,1−ブロモヘプタン,1−ブロモオクタン,1−ブロモノナン,1−ブロモデカン,1−ブロモドデカン,1−ブロモオクタデカンなどのハロゲン化アルキル,クロロエタノール、クロロブタノール、クロロオクタノール、クロロデカノール、ブロモエタノール、ブロモブタノール、ブロモオクタノール、ブロモデカノール等のハロゲン化アルコール,ジメチル硫酸,ジエチル硫酸,ジブチル硫酸などのジアルキル硫酸、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸−n−ブチル、パラトルエンスルホン酸イソブチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸ブチル等のアルキルスルホン酸エステル、ベンジルクロリド、ベンジルブロミドなどが挙げられる。
【0029】
合成は、イミダゾール化合物(1a)にアルキル化剤(1b)又はイミダゾール化合物(2a)にアルキル化剤(2b)を一度に加えて行なってもよく、また、徐々に滴下することによっても実施することができる。この場合の反応は、無溶剤または反応溶媒の存在下で実施される。反応溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリルの他、メタノールやプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、そして石油系溶媒のn−ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロルメタン、トルエン、キシレン、クロルベンゼンが挙げられる。また、これらの反応溶媒については、単独又は混合体で使用することもできる。
【0030】
溶媒使用量はイミダゾール化合物(1a)又は(2a)のイミダゾール1モル当り、50ccから500ccの割合であり、好ましくは100ccから300ccである。反応温度は20℃から150℃であり、好ましくは30℃から110℃である。反応時間は1時間から100時間であり、好ましくは3時間から48時間である。ここで使用する反応器としてはアルキル化剤(1b)が低沸点の場合、密閉型のオートクレイブを使用するとよく、この時の圧力は1〜10気圧が好ましい。
【0031】
このような反応で得られたイミダゾリウム塩には未反応のアルキル化剤(1b)又は(2b)が含まれている場合もあり、反応溶媒が残存している場合もある。そのような場合は精製を行う。
【0032】
精製方法としては、蒸留、反応溶媒を用いた再結晶,再沈、抽出等の方法が挙げられ、蒸留特に薄膜蒸留が溶剤等を用いることなくできるので好ましい。また、好ましい薄膜蒸留の条件としては、圧力:2.0kPa以下、温度:100〜200℃であり、特に好ましい条件は圧力:1.5kPa以下、温度:120〜180℃である。
【0033】
上記に加え、必要に応じてアルキル化剤(1b)又は(2b)の脱離アニオンを目的とするアニオンのイオン交換を行うこともできる。アルキル化剤(1b)又は(2b)の脱離アニオンと目的とするアニオンのイオン交換の方法としては、以下の式で表される方法で行うことができる。ここで、Yはハロゲン原子、Mはアルカリ金属、AはBF、NO等を示す。
【化5】



【0034】
このとき、溶媒(アセトニトリル、酢酸エチルエステル、アセトン等)中に、イミダゾリウムハロゲン塩と当量の対アニオンのアルカリ金属塩を添加して、0〜100℃(さらに好ましくは40〜60℃)で、3〜20時間(さらに好ましくは5〜10時間)反応を行った後、ろ過を行い、その後濃縮することが好ましい。これにより目的とするイミダゾリウム塩が得られる。なお、上記において、反応温度が0℃未満では反応が十分に進まない場合があり、逆に100℃を超えると着色の原因となって好ましくない。
【0035】
一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩としては、下記一般式(2)で表されるイミダゾリウム塩が特に好ましい。
【化6】



【0036】
ここで、Rは炭素数4〜12のアルキル基であることが好ましく、Rは水酸基又はメチル基であることが好ましく、nは1〜18(好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6、更には1〜3)の数であることが好ましく、Xは、Cl又はBrがよい。
【0037】
以上説明したイミダゾリウム塩と、有機ポリイソシアネート化合物を反応させることで自己乳化型イソシアネート化合物が得られる。
【0038】
本発明に用いることのできる有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、4,4′−ジフェルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、また、その重合体やそのポリメリック体、更にこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0039】
有機ポリイソシアネート化合物は活性水素基含有化合物で変性してもよい。活性水素基含有化合物とは、活性水素基を1つ以上有する化合物であり、例えば長鎖ポリオール、具体的にはポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール及びこれらのコポリオールなどが挙げられる。これらの長鎖ポリオールは単独で又は2種以上混合して使用してもよい。これらの長鎖ポリオールの数平均分子量は300〜10000が好ましい。
【0040】
ポリエステルポリオールとしては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロオルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸、酸エステル、又は酸無水物等の1種以上と、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、あるいはビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等のグリコール、ヘキサメチレンジアミン、キシレンジアミン、イソホロンジアミン、モノエタノールアミン等のジアミン又はアミノアルコール等の1種以上との脱水縮合反応で得られる、ポリエステルポリオール又はポリエステルアミドポリオールが挙げられる。また、ε−カプロラクトン等の環状エステル(ラクトン)モノマーの開環重合で得られるラクトン系ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0041】
ポリカーボネートポリオールとしては、多価アルコールと、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等との脱アルコール反応などで得られるものが挙げられる。この多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサメチレンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0042】
ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフランなどを、後述する開始剤を用いて開環重合させた官能基数が1〜5の数平均分子量300〜10,000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及びこれらを共重合したポリエーテルポリオール、更に、前述のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを開始剤としたポリエステルエーテルポリオールが挙げられる。前記ポリエーテルポリオールを得るための開始剤としては、官能基数が1〜5、数平均分子量18〜500の各種モノアルコール、グリコール、グリコールエーテル、モノアミン、ジアミン、アミノアルコール、水、尿素などを用いることができる。上記の化合物は単独で又はその2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
また、活性水素基含有化合物としては、前記の長鎖ポリオールの他に、短鎖ポリオールも好適に使用することができる。短鎖ポリオールとしては、分子量32〜300のものが好ましく、具体的には、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、あるいはビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等のグリコール、ヘキサメチレンジアミン、キシレンジアミン、イソホロンジアミン、モノエタノールアミン等のジアミン又はアミノアルコール等を挙げることができる。上記の化合物は、単独で又はその2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
本発明の自己乳化型イソシアネート化合物は、有機ポリイソシアネート化合物に、一般式(1)のイミダゾリウム塩を一度に加えて得てもよく、また、徐々に滴下することによって製造することができる。反応温度は0℃〜120℃が好ましく、10℃〜100℃がより好ましい。反応温度が0℃未満では反応が十分に進まない場合があり、逆に120℃を超えるとイソシアヌレート化やアロファネート化など望ましくない反応が起こる場合がある。
【0045】
自己乳化型イソシアネート化合物を得るに際しては、イソシアネート基と活性水素基との当量比(イソシアネート基/活性水素基)が5〜1000の範囲であることが好ましく、中でも10〜500の範囲であることが特に好ましい。この当量比が5未満の場合は、自己乳化型イソシアネート化合物の粘度が過度に上昇し、作業性等に不具合が生じる場合がある。また、この当量比が1000超の場合は、自己乳化性が低下する場合がある。
【0046】
以上説明した本発明の自己乳化型イソシアネート化合物は、中密度繊維板、パーティクルボード,オリエンテッドストランドボードなどのリグノセルロース系材料の成形体用バインダー、磁気テープバインダー,塗料、接着剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、軟質フォーム、硬質フォームの製造用に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応器を窒素置換した後、この反応器に1−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾール100.0gと、1−クロロオクタン198.9gを仕込み、100℃にて攪拌しながら、46時間反応させた。その後H―NMRで未反応の1−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾールが無いことを確認した。この反応混合物から未反応の1−クロロオクタンを140℃・10mmHgにて留去することによりオニウム塩(イミダゾリム塩)「A1」を得た。
【0049】
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応器を窒素置換した後、この反応器にポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製、商品名「MR−200」)を990g仕込んだ。次いでイミダゾリム塩組成物「A1」10gを室温で攪拌しながら仕込み、室温(25℃)にて攪拌しながら、1時間反応させて、変性量1%、イソシアネート(NCO)含量30.4%、25℃での粘度300mPa・sの自己乳化型ポリイソシアネート化合物「P1」を得た。
【0050】
(比較例1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応器を窒素置換した後、この反応器にポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製、商品名「MR−200」)を970g仕込み50℃にて攪拌した。次いで50℃に加熱したメトキシポリエチレングリコール#700を30g攪拌しながら仕込み、80℃まで攪拌しながら昇温し、3時間反応させて、変性量3%、イソシアネート(NCO)含量29.5%、25℃での粘度200mPa・sの自己乳化型ポリイソシアネート化合物「P2」を得た。
【0051】
(比較例2)
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応器を窒素置換した後、この反応器にポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業社製、商品名「MR−200」)を990g仕込み50℃にて攪拌した。次いで50℃に加熱したメトキシポリエチレングリコール#700を10g攪拌しながら仕込み、80℃まで攪拌しながら昇温し、3時間反応させて、変性量1%、イソシアネート(NCO)含量30.3%、25℃での粘度180mPa・sの自己乳化型ポリイソシアネート化合物「P3」を得た。
【0052】
(エマルジョンの粒径測定)
100mlのポリカップ中に、5℃、25℃、50℃又は70℃に調整した水45ml、これに5℃、25℃、50℃又は70℃に調整したP1、P2又はP3を5g添加して、この混合液を攪拌機(TKホモディスパー)で3000rpmにて20秒攪拌し、エマルジョンを得た。
【0053】
スライドガラス上にエマルジョンを1滴たらし、厚さ0.15mmのカバーグラスをかぶせ、光学顕微鏡で300倍に拡大して観測した。300μm×300μmの範囲に含まれるエマルジョンの粒径(d)及び個数(n)を測定し、次式(a)により粒径(D)を計算した。
D=Σd/n ・・・ (a)
【0054】
実施例1、比較例1及び2の自己乳化型ポリイソシアネート化合物について、粒径(D)の測定結果を、変性量、NCO含量及び粘度のデータとともに表1に示す。
【表1】



【0055】
表1の結果から、比較例1及び2では、温度の上昇と共に乳化安定性は低下するが、実施例1では、温度が上昇した場合においても乳化安定性が高く維持されていることが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩と、有機ポリイソシアネート化合物とを反応させてなる自己乳化型イソシアネート化合物。
【化1】



[式中、Rは炭素数4〜12の炭化水素基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基又は水素原子、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜18の炭化水素基、をそれぞれ示し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基又はカルボキシル基を示し、Xは、Cl、Br、I、BF、NO、CHSO、CSO、CSO、CSO、CHSO、又はCHSOを示す。但し、R及びRの少なくとも一方は水酸基を有していなければならない。]
【請求項2】
及びRはいずれも水素原子であり、Xは、Cl又はBrである請求項1記載の自己乳化型イソシアネート化合物。
【請求項3】
は炭素数4〜12のアルキル基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は水素原子、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基である請求項1又は2記載の自己乳化型イソシアネート化合物。
【請求項4】
一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩が下記一般式(2)で表されるイミダゾリウム塩である請求項1記載の自己乳化型イソシアネート化合物。
【化2】



[式中、Rは炭素数4〜12の炭化水素基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の炭化水素基又は水素原子、nは1〜18の数、XはCl又はBr、をそれぞれ示す。]
【請求項5】
は炭素数4〜12のアルキル基、Rは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基又は水素原子である請求項4記載の自己乳化型イソシアネート化合物。


【公開番号】特開2009−185092(P2009−185092A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23147(P2008−23147)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】