説明

自己乳化型ポリイソシアネート組成物ならびに水性コーティング組成物および水性接着剤組成物

【目的】 水分散安定性に優れ、かつ水分散後のイソシアネート基の安定性が高いことにより作業性、経済性に優れた自己乳化型ポリイソシアネート組成物を提供する。
【構成】 ポリイソシアネート及びイソシアネートと反応しうる活性水素基を有する親水性界面活性剤及びイソシアネートと反応しうる活性水素基を有する脂肪族化合物及び/又は脂肪酸エステルからなる、2.0〜3.5の平均NCO官能基数を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自己乳化型ポリイソシアネート組成物に関する。さらに詳しくは、水性コーティング組成物あるいは水溶性高分子及び/又は水性エマルジョンをベースとした水性接着剤の添加剤として適した組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の自己乳化型ポリイソシアネートとしては、特開昭61−291613号で述べられているような脂肪族ポリイソシアネートのノニオン性ポリアルキレンエーテルアルコール変性体および少なくとも1種の脂肪族ポリイソシアネートとそれを水中分散するのに充分な量の乳化剤との混合液が知られており、耐水性、耐熱性、接着性向上の目的でアクリル樹脂溶液、合成ゴム溶液、ポリウレタン溶液等に添加されることは公知の事実である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の自己乳化型ポリイソシアネートは、水分散安定性と水分散後のイソシアネート基の安定性を両立するという点で問題があった。つまり、水への分散性を向上させると水への親和性が高まるため、水分散後のイソシアネート基は水と反応しやすくなり、不安定となる。このような水分散後の経時によるイソシアネート基含有率の低下は、これらを使用した製品の物性を変化させる。逆に可使時間を長くするようにすると、水への分散性が不十分となり、製品の物性改善を十分に行うことができない。このような観点から、かねてより十分な水分散安定性を保持しながら、長時間使用することが可能な自己乳化型ポリイソシアネートが強く要望されていた。本発明は、水分散安定性に優れ、かつ水分散後のイソシアネート基の安定性の高いことに起因する作業性、経済性に優れた自己乳化型ポリイソシアネート組成物を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、このような従来の問題点を解決するために鋭意検討した結果、ポリイソシアネートに従来のようにポリアルキレンエーテルアルコール等の親水性鎖を導入して水分散安定性を向上させただけではなく、さらに適度な鎖長を有する親油性鎖をバランス良く導入して、水中でのイソシアネート基の保護を界面化学的手法で積極的に行うことにより、ポリイソシアネートの水分散安定性とイソシアネート基の水中での安定性の両立を可能とすることを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち、本発明により、(a) 脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートのうち少なくとも1種以上を主体成分とするポリイソシアネート、及び(b-1) イソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する親水性界面活性剤、及び(b-2) イソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する、炭素数が8以上の脂肪族化合物及び/又は原料となる脂肪酸とヒドロキシル基含有化合物の炭素数の和が8以上の脂肪酸エステルからなる、2.0 〜3.5 の平均NCO官能基数を有する自己乳化型ポリイソシアネート組成物が提供される。
【0005】また本発明により成分(a) が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートを原料としたイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、または、これらジイソシアネートのウレトジオン基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基/イソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレタン基含有ポリイソシアネート、アロファネート基含有ポリイソシアネート、ビュレット基含有ポリイソシアネート、カルボジイミド基含有ポリイソシアネート、ウレトンイミン基含有ポリイソシアネート、およびこれらの混合物からなる特許請求の範囲第1項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物が提供される。
【0006】また本発明により成分(b-1) が、少なくとも3個のポリエチレンオキシドユニットを含有するポリエチレンエーテルアルコールからなる、特許請求の範囲第1項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物が提供される。
【0007】また本発明により(c) 水、及び(d) 特許請求の範囲第1項または2項または3項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物からなる、水性コーティング組成物が提供される。
【0008】また本発明により(e) 水溶性高分子及び/又は水性エマルジョンをベースとした水性接着剤及び(f) 特許請求の範囲第1項又は2項又は3項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物からなる、水性接着剤組成物が提供される。
【0009】本発明の自己乳化型ポリイソシアネートを構成するポリイソシアネート(a) としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどおよびこれら異性体からなる芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができる。また、これらの化合物と活性水素基含有化合物との反応によるイソシアネート基末端化合物、あるいはこれら化合物の反応、例えばウレトジオン化反応、イソシアヌレート化反応、カルボジイミド化反応、ウレトンイミン化反応などによるイソシアネート変性体なども挙げることができる。本発明の自己乳化型ポリイソシアネートを構成する1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートを原料としたイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基/イソシアヌレート基含有ポリイソシアネートは、相当する原料ポリイソシアネートから公知のウレトジオン化触媒あるいはイソシアヌレート化触媒である第3級アミン類、アルキル置換エチレンイミン類、第3級アルキルフォスフィン類、アセチルアセン金属塩類、各種有機酸の金属塩類等を単独使用あるいは併用し、必要に応じて助触媒、例えばフェノール性ヒドロキシル基含有化合物、アルコール性ヒドロキシル基含有化合物等を用い、通常0〜90℃の反応温度で溶剤不存在下またはポリウレタン工業に常用の不活性溶剤、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル系の存在下および場合によっては反応温度で液状のポリオールまたはDOP等の可塑剤中において製造される。触媒は、停止剤として例えばリン酸、パラトルエンスルホン酸メチル、硫黄等を使用することにより不活性化し停止することができる。これらポリイソシアネートのうちで、水分散安定性、水分散後のイソシアネート基の安定性、無黄変性等を考慮した場合、脂肪族あるいは脂環式ポリイソシアネートが好ましく、この中でも平均NCO官能基数が2以上となるイソシアヌレート環を含有するものは、さらに耐熱性、架橋性等に関して優れている。
【0010】本発明の自己乳化型ポリイソシアネートを構成するイソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する親水性界面活性剤(b-1) のうち、ノニオン性化合物としては、ポリアルキレンエーテルアルコール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。ポリアルキレンエーテルアルコールの製造に開始剤として用いられる活性水素化合物としては、例えばメタノール,n−ブタノール、シクロヘキサノール、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アニリン、トリメチロールプロパン、グリセリンなどが挙げられる。これらのうちでは、水分散安定性を考慮した場合、低級アルコールを用いる方が親水性がより高いものとなるため好ましい。またポリオキシアルキレン脂肪酸エステルの製造に用いられる脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが挙げられる。これらのうちでは、水分散安定性を考慮した場合、低級脂肪酸を用いる方が親水性がより高いものとなるため好ましい。該ポリアルキレンエーテルアルコール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルなどに存在するポリエーテル鎖は、一般には3〜90個、特に好ましくは5〜50個のアルキレンオキシドユニットを有する純粋なエチレンオキシド鎖であるが、全アルキレンオキシドユニット中でエチレンオキシドユニットを少なくとも70%以上含む混合アルキレンオキシド鎖でも良い。本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物を構成するイソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する親水性界面活性剤(b-1) のうち、イオン性化合物としては、脂肪酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル、硫酸エステル塩等のアニオン性化合物、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、第四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩等のカチオン性化合物、スルホベタイン等の両性化合物が挙げられる。
【0011】本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物を構成するイソシアネートと反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する、炭素数が8以上の脂肪族化合物(b-2) としては、例えば、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、シンナミルアルコール等が挙げられる。本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物を構成するイソシアネートと反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する、原料となる脂肪酸とアルコールの炭素数の和が8以上の脂肪酸エステル(b-2) の原料としての脂肪酸としては、α−オキシプロピオン酸、オキシコハク酸、ジオキシコハク酸、ε−オキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、ヒドロキシ酢酸、α−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、リシノエライジン酸、リシノステアロール酸、サリチル酸、マンデル酸等を挙げることができ、ヒドロキシル基含有化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。該脂肪族化合物及び/又は脂肪酸エステル(b-2) は、ポリイソシアネート(a) と反応した後、親油性鎖部分により、付近に存在する未反応のNCO基とその周りに存在している水分子との反応を、立体障害的あるいはその親油性に基づいて界面化学的に抑制しているものと考えられる。したがって親油性鎖はある程度の長さを有した方がより有効であり、炭素数は8以上、好ましくは12以上であるのが望ましい。また、NCO基と反応する活性水素基の部位も末端ではなく主鎖の中心付近に存在するほうが好ましい。
【0012】本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物の製造方法は、公知の方法で一般には溶剤の不存在下でおこなわれるが、必要に応じてウレタン工業では常用の不活性溶剤、触媒等を使用することもでき、一般には50〜130℃の中程度に高められた温度にて行われる。本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物の製造において、該脂肪族化合物及び/又は脂肪酸エステル(b-2) は、該ポリイソシアネート(a) のNCO含有量を基準として、その相対活性水素基含有量が0.1〜25.0mol%、好ましくは2.0〜15.0mol%となる量を用いるのが望ましい。該脂肪族化合物または脂肪酸エステル(b-2) の導入量が少なすぎる場合は、イソシアネート基の界面化学的な保護を充分行うことができないため、水分散液としたときの可使時間が短くなるため好ましくない。逆に導入量が多すぎた場合は、水分散安定性が低下するため好ましくない。本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物の製造において、該親水性界面活性剤(b-1) は、該ポリイソシアネート(a) のNCO含有量を基準として、その相対活性水素基含有量が1.0〜30.0mol%、好ましくは8.0〜20.0mol%となる量を用いるのが望ましい。親水性界面活性剤(b-1) の導入量が少なすぎる場合は、これにより変性されたポリイソシアネートの水分散性が悪くなり、例えば沈降などするため好ましくない。逆に親水性界面活性剤(b-1) の導入量が多すぎる場合は、それに応じて該脂肪族化合物及び/又は脂肪酸エステル(b-2) の導入量を増やさなければ、変性されたポリイソシアネートと水との親和性が強くなりすぎるため、水中でのイソシアネート基の安定性が悪化してしまう。また該親水性界面活性剤(b-1) 、該脂肪族化合物、脂肪酸エステル(b-2) の導入量の過度の増大は、相対的に変性されたポリイソシアネートのNCO含有量と平均NCO官能基数を減少させるため避けるべきである。従って、該親水性界面活性剤(b-1) 、該脂肪族化合物あるいは脂肪酸エステル(b-2) による該ポリイソシアネート(a) の変性量の上限は、平均NCO官能基数が2.0以上となる量とすべきである。このように該ポリイソシアネート(a) に親水性界面活性剤(b-1) と親油性鎖である該脂肪族化合物または脂肪酸エステル(b-2) をバランス良く導入することにより、約2.0 〜3.5 の平均NCO官能基数を有する自己乳化型ポリイソシアネート組成物が製造される。本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物は、親水性鎖を導入して水分散安定性向上させただけにとどまらず、さらに適度な長さの親油性鎖を親水性鎖とのバランスを考慮して導入したことにより、同時に水中でのイソシアネート基と水との反応を界面化学的に抑制している。
【0013】本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物には、必要に応じて他の物質、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐熱性向上剤、着色剤、無機および有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、補強材、触媒などを添加することができる。
【0014】本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物は、水と混合することにより、容易に水分散液とすることができ、この水分散液を紙、木質材料、プラスチック、金属材料、無機材料等の水性コーティング剤あるいは水性接着剤として使用することが可能である。この分散液は、水分散後も比較的安定に存在しているイソシアネート基がこれら基材表面に存在する活性水素基と反応するため、非常に密着性の良いコーティグ剤、あるいは接着剤となる。また、水分散後かなりの時間が経過し、イソシアネート基が消滅した後の水分散液も、粒径が0.1〜0.3μm程度のエマルジョン状態として安定に存在し、それを、常温乾燥あるいは加熱乾燥して得られるウレア化合物を主体とした皮膜は、硬く強靱なものとなるため、フイルムまたはシートの状態あるいは各種基材のコーティグ剤等として使用することが可能である。なお、この場合、基材との密着性が重視される場合は、イソシアネート基が存在している状態で塗布し、使用するのが望ましい。
【0015】本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物は、水溶性高分子及び/又は水性エマルジョンをベースとした水性接着剤のための添加剤として使用することが可能である。これらの添加効果としては、従来の自己乳化型ポリイソシアネートと同様に耐熱性、耐水性、接着性向上等が挙げられるが、本発明の自己乳化型イソシアネートでは、水中でのイソシアネート基と水との反応が導入した親油性鎖により抑制されているため、これらの性能改善効果は、より長時間にわたりしかも高度に安定して継続する。なお添加は、自己乳化型ポリイソシアネート組成物を水性分散液として行うが、必要に応じて直接添加してもよい。本発明に使用されうる水溶性高分子溶液としては、ポリビニルアルコール、水溶性エチレン酢ビ共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性セルロース誘導体、水溶性ポリエステルおよび水溶性リグニン誘導体等が挙げられる。また本発明に使用されうる水性エマルジョンとは、いわゆるラテックス、エマルジョンと表現されるものすべてを包含する。例えば、スチレンブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリルブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタアクリレートブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス、ポリブタジエンラテックス等のゴム系ラテックス、ポリアクリル酸エステルラテックス、ポリ塩化ビニリデンラテックス、ポリブタジエンラテックス、あるいはこれらのラテックスをカルボキシル変性したものなどが挙げられ、さらにはポリ塩化ビニルエマルジョン、ウレタンアクリルエマルジョン、シリコンアクリルエマルジョン、酢酸ビニルアクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン等が列挙される。
【0016】
【発明の効果】本発明の自己乳化型ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネートに水分散安定性を向上させる親水性鎖だけでなく、親油性鎖をバランス良く導入してイソシアネート基を界面化学的手法で積極的に保護することにより、優れた水分散安定性と水分散後のイソシアネート基の安定性が得られた。水性コーティグ剤、水性接着剤に用いると本発明のポリイソシアネートは水分散状態での安定した使用が長時間可能になった。
【0017】
【実施例】次に、本発明の実施例および比較例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。特にことわりのない限り、実施例中の部及び%はそれぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。
【0018】〔自己乳化型ポリイソシアネートを構成するポリイソシアネート(a)の製造例〕
HDI変性体の製造例製造例1撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器に、HDI300部、1,3−ブタンジオール2.4部を入れ反応器内を窒素置換して、攪はんしながら反応温度80℃に加温し、同温度で2時間反応させた。このときの反応液のイソシアネート含有量を測定したところ、48.8%であった。次に触媒としてカプリン酸カリウム0.06部、助触媒としてフェノール0.3部を加え、60℃で4.5時間イソシアヌレート化反応を行なった。この反応液に停止剤としてリン酸を0.042部加え、反応温度で1時間攪はん後、遊離HDIを120℃、0.01Torrで薄膜蒸留により除去した。得られた液は、淡黄色透明液体でイソシアネート基含有量=21.1%、粘度2200cP/25℃、遊離HDI含有量0.4%であり、FT−IRおよび13C−NMRからイソシアネート基、イソシアヌレート基およびウレタン基の存在は確認されたが、ウレトジオン基は確認されなかった。このHDI変性体をA−1とする。
製造例2撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI300部、1,3−ブタンジオール10.2部、触媒としてプロピオン酸カリウム0.06部、フェノール0.3部、リン酸を0.072部用いて製造例1と同様に反応を行なった。HDIに1,3−ブタンジオールを反応させた後は、イソシアネート基含有量は45.3%であった。また、薄膜蒸留後は、イソシアネート基含有量19.2%、粘度2800cP/25℃、遊離HDI含有量0.3%であり、FT−IRおよび13C−NMRからイソシアネート基、イソシアヌレート基およびウレタン基の存在は確認されたが、ウレトジオン基は確認されなかった。このHDI変性体をA−2とする。
製造例3撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器に、HDI3000部と触媒としてトリオクチルホスフィン6.0部を仕込み、攪はんしながら反応温度65〜70℃に加温し、同温度で6時間反応させ、次いでリン酸3.5部を加え反応を停止させた。このとき得られた液は、淡黄色透明液体でイソシアネート基含有量=30.3%であった。次に遊離HDIを120℃、0.01Torrで薄膜蒸留により除去し、イソシアネート基含有量18.7%の淡黄色透明液体を得た。得られた液には、FT−IRおよび13C−NMRからイソシアネート基、ウレトジオン基およびイソシアヌレート基が存在することが確認された。この液を高沸点溶剤であるプロピレングリコールメチルエーテルアセテートの沸点でn−ブブチルアミンと反応させ、HClで逆滴定して求めたイソシアネート基含有量は30.8%となり、よってウレトジオン基含有量12.1%であり、イソシアヌレート基含有量=19.2%であった。このウレトジオン基/イソシアヌレート基含有HDI変性体をA−3とする。
【0019】〔自己乳化型ポリイソシアネートの合成〕
実施例1撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでポリオキシエチレンメチルエーテル(水酸基価140、東邦千葉工業製、以後メトキシPEG#400と略称する)16部とリシノレイン酸メチルエステル(水酸基価160、伊藤製油製、以後CO−FAメチルエステルと略称する)4部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量15.8%、粘度890cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(A)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
実施例2撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでメトキシPEG#400を16部とCO−FAメチルエステル6部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量15.3%、粘度940cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(B)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
実施例3撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでメトキシPEG#400を16部とCO−FAメチルエステル10部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量14.3%、粘度2580cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(C)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
【0020】実施例4撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−2を100部仕込み、次いでメトキシPEG#400を20部とリシノレイン酸ブチルエステル(水酸基価145、伊藤製油製)18部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量12.4%、粘度2615cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(D)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
実施例5撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでポリオキシエチレンメチルエーテル(水酸基価51、東邦千葉工業製)を10部とCO−FAメチルエステル10部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量16.2%、粘度2855cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(E)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
実施例6撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部を仕込み、次いでメトキシPEG#400を16部と12−ヒドロキステアリン酸メチルエステル(水酸基価160、伊藤製油製)10部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量14.1%、粘度2890cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(F)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
【0021】実施例7撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでリシノール酸カリウム(伊藤製油製)15部とC−FAメチルエステル10部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量14.4%、粘度2420cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(G)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
実施例8撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−3を100部仕込み、次いでメトキシPEG#400を16部とCO−FAメチルエステル10部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量13.9%、粘度3030cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(H)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
実施例9撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を85部とIPDIイソシアヌレート体IPDI−T1890/100(NCO含有量17.0%、ダイセル・ヒュルス製)を15部仕込み、次いでメトキシPEG#1000を16部とCO−FAメチルエステル10部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量14.8%、粘度3200cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(I)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
【0022】比較例1撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでメトキシPEG#400を4部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量19.9%、粘度2408cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(I)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
比較例2撹はん機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた反応器にHDI変性体A−1を100部仕込み、次いでメトキシPEG#400を16部を加え、昇温し、75℃を保持しながら3時間反応させたところ、NCO含有量16.5%、粘度2140cP/25℃の淡黄色透明のイソシアネート基末端プレポリマー(J)を得た。このプレポリマーは、自己乳化性を有していた。
【0023】〔水分散安定性、水分散後NCO安定性、およびコーティング性評価〕実施例1〜9及び比較例1〜2の自己乳化型ポリイソシアネート100部に水500部を加え、ラボミキサーにてよく混合し、水分散液を得た。それぞれの水分散液について水分散安定性、水分散後のNCO含有量の経時変化、また水分散後1時間経過した水分散液をケイカル板上に塗布し、室温で1時間その後80℃で3時間保持してコーティングした場合の塗膜状態及び密着性について評価した。評価結果を表1に示す。また、親水性界面活性剤(b-1) の種類と導入量が等しい、実施例1〜3と比較例2を用いて、親油性鎖であるCO−FAメチルエステルの導入効果を図1に示す。結果として親油性鎖の導入は、水分散性を保ったままNCO基の安定性を高めた。
【0024】〔自己乳化型ポリイソシアネート添加による物性改善効果〕次に示す実施例10、11および比較例3、4のフィルムの耐熱性および耐湿熱性を評価した。耐熱性は、JIS2号ダンベルで打ち抜いたフィルムに対し5g/100 μm の荷重をかけた状態で、昇温速度5℃/minにて昇温したときに、急激に伸びるかあるいは破断したときの温度を軟化点として評価した。耐湿熱性は、40℃の水中に一定期間浸水したあとの吸水率を重量変化により測定した。結果を表2に示す。結果として本発明のポリイソシアネート組成物を添加することにより、耐熱性、耐水性は大幅に改善された。
【0025】実施例10ウレタンエマルジョンA(固形分30%、粘度100cP/25℃)100部に実施例4で得た自己乳化型ポリイソシアネート5部を加え、ガラス棒にて撹はん混合したところ、容易に分散した。この分散液からフィルムを作成した。
実施例11アクリルエマルジョンA(固形分50%、粘度300cP/25℃、亜細亜工業製)100部に実施例4で得た自己乳化型ポリイソシアネート5部を加え、ガラス棒にて撹はん混合したところ、容易に分散した。この分散液から実施例10と同条件にてフィルムを作成した。
比較例3ウレタンエマルジョンAから実施例10と同条件にてフィルムを作成した。
比較例4アクリルエマルジョンAから実施例10と同条件にてフィルムを作成した。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1〜3と比較例2を用いて、親油性鎖であるCO−FAメチルエステルの導入効果を示す図である。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】(a) 脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートのうち少なくとも1種以上を主体成分とするポリイソシアネート、及び(b-1) イソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する親水性界面活性剤、及び(b-2) イソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する、炭素数が8以上の脂肪族化合物及び/又は原料となる脂肪酸とヒドロキシル基含有化合物の炭素数の和が8以上となる脂肪酸エステルからなる、2.0 〜3.5 の平均NCO官能基数を有する自己乳化型ポリイソシアネート組成物。
【請求項2】成分(a) が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートを原料としたイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、または、これらジイソシアネートのウレトジオン基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基/イソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレタン基含有ポリイソシアネート、アロファネート基含有ポリイソシアネート、ビュレット基含有ポリイソシアネート、カルボジイミド基含有ポリイソシアネート、ウレトンイミン基含有ポリイソシアネート、およびこれらの混合物からなる特許請求の範囲第1項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物。
【請求項3】成分(b-1) が、少なくとも3個のポリエチレンオキシドユニットからなるポリエチレンエーテルアルコールである、特許請求の範囲第1項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物。
【請求項4】(c) 水、及び(d) 特許請求の範囲第1項又は2項又は3項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物からなる、水性コーティング組成物。
【請求項5】(e) 水溶性高分子及び/又は水性エマルジョンをベースとした水性接着剤、及び(f) 特許請求の範囲第1項または2項または3項記載の自己乳化型ポリイソシアネート組成物からなる、水性接着剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開平7−48429
【公開日】平成7年(1995)2月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−358228
【出願日】平成4年(1992)12月25日
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)