説明

自己加速分解温度の推算方法及び装置

【課題】所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を精度よく推算することができる自己加速分解温度の推算方法及びその装置を提供する。
【解決手段】実測値取得装置11は、各種有機過酸化物の発熱開始温度を取得し、この実測値を入力変数とする。また、実測値取得装置11は、各種有機過酸化物のSADTの実測値を取得し、この実測値を出力変数とする。NNモデル構築装置12は、計算値取得装置10から供給された入力変数の計算値と、実測値取得装置11から供給された入力変数の実測値と出力変数の実測値とに基づいてNNモデルを構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己反応性物質の自己加速分解温度を推算する推算方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自己反応性物質である有機過酸化物は、そのラジカル反応性により合成樹脂の重合開始剤等に広く利用されている。しかしながら、有機過酸化物は、長期間高温にさらされると反応が徐々に進行し、反応熱が蓄積して熱爆発に至るため、その取り扱いには注意が必要となる。
【0003】
自己加速分解温度(SADT:Self Accelerating Decompositon Temperature)は、自己反応性物質を輸送、貯蔵する際の管理温度を定めるための基準となるものである。したがって、SADTの把握は、安全性を確保するために非常に重要である。有機過酸化物のSADTは、例えば、BAM(ドイツ連邦物質試験研究所)式蓄熱貯蔵試験や米国SADT試験により測定することができる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
【非特許文献1】UN : Recommendations on the Transport of Dangerous Goods ; Manual of Tests and Criteria,2nd ed.(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のSADT試験は、実施上の制約が多かった。例えば、BAM式蓄熱貯蔵試験では、恒温槽温度を5度刻みで変化させ、有機過酸化物の試料温度が1週間またはそれ以内に6度以上の温度上昇を起こす最低温度を見つけなければならないため、1回の測定に最大で1週間必要とし、また、最低温度を見つけるまで測定を繰り返し行わなければならない。また、商業包装品を犠牲にしなければならず、試験費用が高価であった。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を精度よく推算することができる自己加速分解温度の推算方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件発明者らは、上述した目的を達成するために、様々な観点から鋭意研究を重ねてきた。その結果、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数としてニューラルネットワークモデルを構築し、構築されたニューラルネットワークモデルを利用することで、所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を精度よく推算することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る自己加速分解温度の推算方法は、所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する自己加速分解温度の推算方法であって、上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を測定する測定ステップと、上記測定ステップにて測定された発熱開始温度の実測値をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算ステップとを有し、上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る自己加速分解温度の推算装置は、所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する自己加速分解温度の推算装置であって、上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を測定する測定手段と、上記測定手段で測定された発熱開始温度の実測値をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算手段とを有し、上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る自己加速分解温度の推算方法及びその装置によれば、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数としてニューラルネットワークモデルを構築することにより、所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を精度よく推算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。この実施の形態は、有機過酸化物の自己加速分解温度(SADT:Self Accelerating Decompositon Temperature)を推算するニューラルネットワークモデル(以下、「NNモデル」という。)を構築し、このNNモデルを利用して所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算するものである。SADTは、1週間又はそれ以内に自己加速分解を起こす最低の雰囲気温度であり、有機化酸化物を輸送、貯蔵する際の管理温度の基準となる。
【0012】
有機化酸化物は、図1に示すように、その化学構造よって(A)ケトンパーオキサイド、(B)パーオキシケタール、(C)ハイドロパーオキサイド、(D)ジアルキルパーオキサイド(E)ジアシルパーオキサイド、(F)パーオキシエステル、(G)パーオキシジカーボネートなどに分類される。
【0013】
(A)ケトンパーオキサイドとしては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド(methyl ethyl ketone peroxide)、シクロヘキサノンパーオキサイド(cyclohexanone peroxide)、アセチルアセトンパーオキサイド(acetylacetone peroxide)等を挙げることができる。
【0014】
(B)パーオキシケタールとしては、例えば、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(1,1-di(t-hexylperoxy)cyclohexane)、1,1−ジ(t−へキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(1,1-di(t-hexylperoxy)-3,3,5-trimethylcyclohexane)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(1,1-di(t-butylperoxy)cyclohexane)等を挙げることができる。
【0015】
(C)ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド(t-butyl hydroperoxide)、クメンハイドロパーオキサイド(cumene hydroperoxide)、p−メンタンハイドロパーオキサイド(p-menthane hydroperoxide)等を挙げることができる。
【0016】
(D)ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド(dicumyl peroxide)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン(2,5-dimethyl-2,5-di(t-butylperoxy)hexane)、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(di(2-t-butylperoxyisopropyl)benzene)等を挙げることができる。
【0017】
(E)ジアシルパーオキサイドとしては、例えば、ジイソブチリルパーオキサイド(diisobutyryl peroxide)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(di(3,5,5-trimethylhexanoyl) peroxide)、ジラウロイルパーオキサイド(dilauroyl peroxide)等を挙げることができる。
【0018】
(F)パーオキシエステルとしては、例えば、クミルパーオキシネオデカノエート(cumyl peroxyneodecanoate)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(1,1,3,3-tetramethylbutyl peroxyneodecanoate)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート(t-hexyl peroxyneodecanoate)等を挙げることができる。
【0019】
(G)パーオキシジカーボネートとしては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート(diisopropyl peroxydicarbonate)、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(di-n-propyl peroxydicarbonate)、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(di(4-t-butylcyclohexyl) peroxydicarbonate)等を挙げることができる。
【0020】
これらの有機過酸化物は、その分子内に―O―O―結合を有しているため、比較的低い温度で熱的に分解し、容易に遊離ラジカルを生成する。したがって、SADTの高い有機過酸化物は、熱安定性がよい。
【0021】
図2は、本実施の形態における自己加速分解温度推算システムの概略構成を示す図である。自己加速分解温度推算システム1は、計算値取得装置10と、実測値取得装置11と、NNモデル構築装置12とから構成されている。これらの装置は、一般的なコンピュータと同様の構成を有している。
【0022】
計算値取得装置10は、各種有機過酸化物のパラメータを取得し、そのパラメータを入力変数としてNNモデル構築装置12に供給する。パラメータとしては、例えば、R−O−O−R分子内のO−O、O−Rの結合距離、R−O−O−R分子内のO−Oの解離エネルギー、理論活性酸素量、分子の組成(CHOの数)、生成熱等を挙げることができる。
【0023】
−O−O−R分子内のO−O、O−Rの結合距離、O−Oの解離エネルギー及び生成熱は、分子軌道法(MO法)や密度汎関数法を用いて計算される。例えば、半経験的MO計算プログラムWinMOPAC3.5(富士通株式会社製)のPM5法を用いることにより、R−O−O−Rの最適化構造と生成熱△Hf(R−O−O−R)とを求めることができる。ここで、最適化構造のO−R、O−Rの内、結合距離が長い方をr_OX、短い方をr_OXとする。また、同様にO−R、O−Rの構造の最適化をそれぞれ行うことにより、ラジカルの生成熱△Hf(O−R)、△Hf(O−R)を求めることができる。したがって、O−Oの解離エネルギーD_PM5は、(1)式により求められる。
【0024】
D_PM5=△Hf(O−R)+△Hf(O−R)−△Hf(R−O−O−R
・・・(1)
また、理論活性酸素量AOは、(2)式で算出することができる。
【0025】
AO=16×(O−O結合数)×100/分子量 ・・・(2)
実測値取得装置11は、各種有機過酸化物の発熱開始温度、発熱量等の実測値を熱分析等により取得し、この実測値を入力変数としてNNモデル構築装置12に供給する。発熱開始温度及び発熱量の実測値は、例えば、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により取得することができる。したがって、各種有機過酸化物のサンプル量は少量で済む。
【0026】
また、実測値取得装置11は、各種有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を取得し、この実測値を出力変数としてNNモデル構築装置12に供給する。有機過酸化物の自己分解温度の実測値は、例えば、BAM式蓄熱貯蔵試験で測定される。
【0027】
なお、NNモデルを学習・構築する場合、これらの実測値は、文献値を用いることができる。
【0028】
NNモデル構築装置12は、計算値取得装置10及び実測値取得装置11から供給された入力変数と、実測値取得装置11から供給された出力変数とに基づいてNNモデルを構築する。例えば、入力変数として発熱開始温度の実測値を含む7つのパラメータを用いる場合、図3に示すように、入力層20のニューロン数が7、出力層22のニューロン数が1、中間層21のニューロン数がnである3層型のNNモデルが構築される。なお、中間層21のニューロン数は任意であるが、有効な学習を行うためには、以下の関係式を満たす必要がある。
【0029】
学習データの数>(入力層のニューロン数×中間層のニューロン数+中間層のニューロン数×出力層のニューロン数)×2 ・・・(3)
このため、学習データとして用いる有機過酸化物の数に応じて入力層20と中間層21のニューロン数は制限される。
【0030】
この図3に示すNNモデルにおいて、入力層20には、入力変数がデータξ(k=1,・・・,7)として入力されている。中間層21は、入力層20から供給されたデータξを所定の重み値Wkjに基づいて結合し、この中間層21のニューロンを通して出力層22にデータν(j=1,・・・,n)を出力する。出力層22は、中間層21から供給されたデータνを所定の重み値Wijに基づいて結合し、SADTの推算値をデータo(i=1)として出力する。また、出力層22には、出力変数であるSADTの実測値がデータζとして供給され、バックプロパゲーション法に従って、データoとデータζとの誤差が小さくなるように重み値Wkj,Wijが更新される。なお、重み値Wkj,Wijは、各学習データについて入力変数及び出力変数が与えられる毎に更新される。
【0031】
このようにしてNNモデルが構築された後、任意の有機過酸化物についての入力変数を入力層20に与えると、出力層22からはその有機過酸化物のSADTの推算値が出力される。したがって、例えば未知の有機過酸化物であっても、入力変数を入力層20に与えることで、SADTを精度よく推算することができる。
【0032】
なお、装置間のデータの受け渡しは、通信媒体を介して行ってもよく、記録媒体を介して行ってもよい。また、図1に示した自己加速分解温度推算システム1では、3台の装置を備える構成となっているが、何れか2台の装置を1台の装置に統合することもでき、また、3台の装置を1台の装置に統合することもできる。
【実施例】
【0033】
以下、実際にNNモデルを構築した場合の実施例について説明する。ここでは、NNモデルを構築するために、日本油脂株式会社化成事業部有機過酸化物カタログ(第10版)から64製品の有機過酸化物を選択し、そのSADTの文献値を出力変数とした。図4にNNモデルを構築するために選択した有機過酸化物の一部を示す。図中、「C」、「H」、「O」はそれぞれ有機過酸化物分子内の炭素、水素、酸素の数を示し、「phase」は相の状態(液体:0、固体:1)を示し、「purity」は、純度(%)を示し、「D_PM5」は解離エネルギー(O−O)(kJ/mol)を示し、「T_DSC」はDSCにより実測した発熱開始温度(℃)を示し、「Q_DSC」はDSCにより実測した発熱量(J/g)を示し、「SADT」は実測した自己加速分解温度を示し、「AO_theo」は理論活性酸素量(%)を示し、「r(O−O)」、「r(O−X1)」、「r(O−X2)」はそれぞれ最適化構造R−O―O−RのO−O結合距離、O−X1結合距離(長い方)、O−X2結合距離(短い方)を示す。
【0034】
NNモデルのシミュレーションには、NEUROSIM/L V4, NEUROSIMforExcel ver.1.2(富士通株式会社製)を用いた。また、R−O−O−R分子内のO−O、O−Rの結合距離、O−Oの解離エネルギー及び生成熱△Hf(R−O−O−R)は、必要に応じて、半経験的MO計算プログラムWinMOPAC3.5(富士通株式会社製)のPM5法を用いて算出した。
【0035】
NNモデルの学習・構築後、このNNモデルを用いて上述した64製品の有機過酸化物とは異なる8製品の有機過酸化物について検証を行った。この8製品は日本油脂株式会社化成事業部有機過酸化物カタログ(第10版)から選択した。図5に検証に用いた有機過酸化物を示す。なお、図中の略号は図4に示すものと同様である。
【0036】
これらの8製品について、発熱開始温度の実測値を含む入力変数を64製品の有機過酸化物を用いて構築されたNNモデルに入力し、得られたSADTの推算値と上記カタログの実測値を用いて2乗平均根誤差(RMS(Root Mean Square)エラー)を算出した。そして、この検証データのRMSエラーが最小となるまで学習を行った。
【0037】
なお、RMSエラーは、以下の式(4)で求めることができる。但し、式中、F(i)はSADTの推算値を示し、A(i)はSADTの実測値を示し、Nはデータ件数を示す。
【0038】
RMSエラー=[Σ(F(i)−A(i))/N]1/2 ・・・(4)
(実施例1)
上述した64製品について、入力変数を発熱開始温度の実測値(T_DSC)とし、出力変数をSADTの実測値として、入力層20のニューロン数が1、出力層22のニューロン数が1、中間層21のニューロン数が1である1−1−1型のNNモデルを構築した。学習データのRMSエラーは、12.6(℃)であった。
【0039】
そして、上述した8製品について、発熱開始温度の実測値(T_DSC)を1−1−1型のNNモデルに入力し、それぞれSADTの推定値を得た。検証データのRMSエラーは、10.0(℃)であった。
【0040】
(実施例2)
入力変数を発熱開始温度の実測値(T_DSC)と、発熱量の実測値(Q_DSC)と、長い方の結合距離(r_OX1)と、短い方の結合距離(r_OX2)と、解離エネルギー(O−O)(D_PM5)と、相の状態(phase)と、純度(purity)とし、7−3−1型のNNモデルを構築した以外は、上記実施例1と同様な方法で行った。その結果、学習データのRMSエラーは、9.6(℃)であり、検証データのRMSエラーは、8.7(℃)であった。
【0041】
(実施例3)
入力変数を発熱開始温度の実測値(T_DSC)と、発熱量の実測値(Q_DSC)と、分子内の炭素の数(C)と、分子内の水素の数(H)と、分子内の酸素の数(O)と、解離エネルギー(O−O)(D_PM5)と、相の状態(phase)と、純度(purity)とし、8−3−1型のNNモデルを構築した以外は、上記実施例1と同様な方法で行った。その結果、学習データのRMSエラーは、7.5(℃)であり、検証データのRMSエラーは、8.6(℃)であった。
【0042】
(実施例4)
入力変数を発熱開始温度の実測値(T_DSC)と、発熱量の実測値(Q_DSC)と、分子内の炭素の数(C)と、長い方の結合距離(r_OX1)と、短い方の結合距離(r_OX2)と、理論活性酸素量(AO_theo)と、相の状態(phase)と、純度(purity)とし、8−3−1型のNNモデルを構築した以外は、上記実施例1と同様な方法で行った。その結果、学習データのRMSエラーは、9.8(℃)であり、検証データのRMSエラーは、8.2(℃)であった。
【0043】
(比較例)
入力変数を発熱量の実測値(Q_DSC)と、分子内の炭素の数(C)と、長い方の結合距離(r_OX1)と、短い方の結合距離(r_OX2)と、解離エネルギー(O−O)(D_PM5)と、相の状態(phase)と、純度(purity)とし、7−3−1型のNNモデルを構築した以外は、上記実施例1と同様な方法で行った。その結果、学習データのRMSエラーは、15.7(℃)であり、検証データのRMSエラーは、22.6(℃)であった。
【0044】
また、64製品のT_DSCの実測値とSADTの実測値との相関図から、一次関数近似を行い、得られた一次関数を用いて、T_DSCからSADTを求めたところ、その64製品のRMSエラーは、13.8(℃)であった。
【0045】
図6は、実施例1〜4及び比較例における入力変数及びRMSエラーの結果を示す図である。実施例1〜4と比較例とを見れば分かるように、発熱開始温度の実測値(T_DSC)を入力変数として用いたNNモデルを利用することで、有機過酸化物のSADTを精度よく推算できることが確認された。
【0046】
また、実施例2〜4のように、発熱開始温度の実測値(T_DSC)と、発熱量の実測値(Q_DSC)、相の状態の実測値(phase)、純度の実測値(purity)、分子内の炭素、水素、酸素の数の概算値(C、H、O)、結合距離の概算値(r_OX1、r_OX2)、解離エネルギーの概算値(D_PM5)、理論活性酸素量の概算値(AO_theo)のうち1以上のパラメータとを入力変数として用いたNNモデルを利用することで、有機過酸化物のSADTをさらに精度よく推算できることが確認された。
【0047】
次に、上述した64製品について、発熱開始温度の実測値(T_DSC)と、発熱量の実測値(Q_DSC)、結合距離の概算値(r_OO、r_OX1、r_OX2)、解離エネルギーの概算値(D_PM5)、理論活性酸素量の概算値(AO_theo)、相の状態の実測値(phase)、純度の実測値(purity)、生成熱△Hfの概算値(R−O−O−R)のうち1つのパラメータとを入力変数とし、出力変数をSADTの実測値として、入力層20のニューロン数が2、出力層22のニューロン数が1、中間層21のニューロン数が2である2−2−1型のNNモデルを構築した。そして、上述した8製品について、上記発熱開始温度の実測値(T_DSC)を含む2つのパラメータを2−2−1型のNNモデルに入力し、それぞれSADTの推定値を得た。また、得られたSADTの推算値と上記カタログの実測値を用いて2乗平均根誤差(RMS(Root Mean Square)エラー)を算出した。そして、この検証データのRMSエラーが最小となるまで学習を行った。
【0048】
図7は、上述した発熱開始温度の実測値(T_DSC)を含む2つのパラメータを入力変数とし、出力変数をSADTの実測値とした場合のRMSエラーの結果を示す図である。
【0049】
これらのシミレーレーション結果S1〜S11より、特に、発熱開始温度の実測値(T_DSC)と、発熱量の実測値(Q_DSC)、最適化構造R−O−O−RのO−R結合の長い方の結合距離の概算値(r_OX1)、最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離の概算値(r_OO)、相の状態の実測値(phase)、生成熱△Hfの概算値(R−O−O−R)のうち1つのパラメータとを入力変数としたNNモデルを利用することで、有機過酸化物のSADTをさらに精度よく推算できることが確認できる。
【0050】
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】有機化酸化物の分類を説明するための図である。
【図2】本実施の形態における自己加速分解温度推算システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】自己加速分解温度推算システムで構築されるNNモデルの一例を示す図である。
【図4】NNモデルを構築するために選択した有機過酸化物の一部を示す図である。
【図5】検証に用いた有機過酸化物を示す図である。
【図6】実施例1〜4及び比較例における入力変数及びRMSエラーの結果を示す図である。
【図7】2つのパラメータを入力変数とし、出力変数をSADTの実測値とした場合のRMSエラーの結果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 自己加速分解温度推算システム、10 計算値取得装置、11 実測値取得装置、12 NNモデル構築装置、20 入力層、21 中間層、22 出力層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する自己加速分解温度の推算方法であって、
上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を測定する測定ステップと、
上記測定ステップにて測定された発熱開始温度の実測値をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算ステップとを有し、
上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものである
ことを特徴とする自己加速分解温度の推算方法。
【請求項2】
所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推定する自己加速分解温度の推算方法であって、
上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度、発熱量、相の状態及び純度の実測値を測定する測定ステップと、
上記所望の有機過酸化物の結合距離、解離エネルギー、分子の組成、理論活性酸素量、及び生成熱の概算値を計算する計算ステップと、
上記測定ステップ及び上記計算ステップにて測定又は計算された発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、純度の実測値、結合距離の概算値、解離エネルギーの概算値、分子の組成の概算値、理論活性酸素量の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算ステップとを有し、
上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、純度の実測値、結合距離の概算値、解離エネルギーの概算値、分子の組成の概算値、理論活性酸素量の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものである
ことを特徴とする自己加速分解温度の推算方法。
【請求項3】
所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する自己加速分解温度の推算方法であって、
上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度、発熱量及び相の状態の実測値を測定する測定ステップと、
上記所望の有機過酸化物の最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離、O−R結合のうち長い方のO−R結合距離及び生成熱の概算値を計算する計算ステップと、
上記測定ステップ及び上記計算ステップにて測定又は計算された発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離の概算値、O−R結合のうち長い方のO−R結合距離の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算ステップとを有し、
上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離の概算値、O−R結合のうち長い方のO−R結合距離の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものである
ことを特徴とする自己加速分解温度の推算方法。
【請求項4】
所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する自己加速分解温度の推算装置であって、
上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を測定する測定手段と、
上記測定手段で測定された発熱開始温度の実測値をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算手段とを有し、
上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものである
ことを特徴とする自己加速分解温度の推算装置。
【請求項5】
所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推定する自己加速分解温度の推算装置であって、
上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度、発熱量、相の状態及び純度の実測値を測定する測定手段と、
上記所望の有機過酸化物の結合距離、解離エネルギー、分子の組成、理論活性酸素量及び生成熱の概算値を計算する計算手段と
上記測定手段及び上記計算手段にて測定又は計算された発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、純度の実測値、結合距離の概算値、解離エネルギーの概算値、分子の組成の概算値、理論活性酸素量の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算手段とを有し、
上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、純度の実測値、結合距離の概算値、解離エネルギーの概算値、分子の組成の概算値、理論活性酸素量の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものである
ことを特徴とする自己加速分解温度の推算装置。
【請求項6】
所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する自己加速分解温度の推算装置であって、
上記所望の有機過酸化物の発熱開始温度、発熱量及び相の状態の実測値を測定する測定手段と、
上記所望の有機過酸化物の最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離、O−R結合のうち長い方のO−R結合距離及び生成熱の概算値を計算する計算手段と、
上記測定手段及び上記計算手段にて測定又は計算された発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離の概算値、O−R結合のうち長い方のO−R結合距離の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上をニューラルネットワークモデルに入力することにより、上記所望の有機過酸化物の自己加速分解温度を推算する推算手段とを有し、
上記ニューラルネットワークモデルは、有機過酸化物の発熱開始温度の実測値、発熱量の実測値、相の状態の実測値、最適化構造R−O−O−RのO−O結合距離の概算値、O−R結合のうち長い方のO−R結合距離の概算値、生成熱の概算値のうち、発熱開始温度の実測値を含む2以上を入力変数とし、有機過酸化物の自己加速分解温度の実測値を出力変数として構築されたものである
ことを特徴とする自己加速分解温度の推算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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