説明

自己動力供給式(self−powered)バイオセンサー

【課題】本発明の目的は、液体中の有機物質の濃度および/または存在を決定するための酵素に基づくバイオセンサーを提供することである。
【解決手段】本発明は液体媒質中の検体を決定するシステムを提供する。システムは、自己動力供給式バイオセンサー、ならびに検体が酸化または還元されつつある間該バイオセンサーによって生成される電気シグナルを測定するための検出器を含んでなり、そしてバイオセンサーは、電極の1つがアノードであり、他方がカソードである1対の電極を含有し、両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持している。検体の存在下で、電極の1つに担持される酵素は、検体がそれぞれ酸化または還元される酸化または還元反応を触媒することができ、そして該1対の電極の他方は、酸化剤または還元剤がそれぞれ還元または酸化される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物電子工学の分野にあり、そしてそれは一般に、液体媒質、例えば、環境、工業または臨床起源の媒質中の有機検体の濃度および/または存在を測定するために有用なバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
生物電子工学デバイスの基本的特徴は、伝導性または半伝導性支持体上への生物材料の固定化、ならびに生物学的基質に関連した生物学的機能の電子工学的変換(transduction)である。
【0003】
バイオセンサーは、適当なトランスデューサーに直接連結されるかまたはそれを組み込まれるか、いずれかにより生物学的および化学的感知(sensing)要素を組み入れている分析デバイスであり、特定の化学薬品の濃度の電子工学的シグナルへの変換を可能にする。従来製造された大多数のバイオセンサーは、生物学的感知要素として酵素を組み入れている(1)。また、酵素−基質相互作用の電子工学的変換は、それぞれの基質を検出するための分析手段を提供できる。伝導性または半伝導性支持体上に酵素を集合する化学的手段は、自己集合性の単分子層(monolayer)または薄膜、高分子層、メンブラン、カーボンペースト(carbon paste)またはゾル−ゲル材料を用いて基質上にそれらを固定化することを含む。
【0004】
分析生物化学法における使用のために提案された特定の酵素類は酸化還元酵素である。酸化還元反応は、還元反応において酵素から検体へ、または酸化反応において検体から酵素への電子の移動を必要とする。酵素分子の酸化還元中心と電極材料との間の電気的連絡が存在する場合、検体の存在の指示として働くことができる電荷の流れがあり、そして電荷の流れの程度が検体の濃度を測定するために役立つであろう。あるいはまた、決定は、非電気化学的手段、例えばHPLCによる反応の生成物の測定に基づいてもよい。
【0005】
酸化還元中心は、タンパク質骨格によって立体的に隔離されているので、酵素の酸化還元中心と電極との間の直接の電子移動は制限される。その結果、酸化還元酵素と電極間の電気的連絡は、しばしばまた、「電子リレー」(2)と呼ばれる電子メディエーターグループによるか、または電気活性ポリマー(3)中に酸化還元タンパク質を固定化することによって達成することができる。
【0006】
生物電気触媒性電極の魅力的な応用の1つは、生物燃料電池アセンブリーの開発である。生物燃料電池は、化学エネルギーの電気エネルギーへの変換のために生物触媒を利用する。多くの有機物質は酸素中での燃焼を受けるか、またはエネルギーの放出を伴って酸化される。メタノールおよびグルコースは、酸化を受ける生物燃料として使用できる豊富な原料であり、そして分子状酸素または過酸化水素が酸化剤として作用できる。
【0007】
例えば、メタノールが燃料として使用される古典的な燃料電池では、アノードにおけるメタノールの電気−酸化は:
CHOH+HO → CO+6H+6e
によって表すことができ、そしてカソードにおける酸素の電気−還元は:
+4H+4e → 2H
によって表すことができる。
【0008】
アノードにおいて生成したプロトンはカソードに輸送される。電流の流れは、電池をカソードとアノードの区画に別ける膜を通してのイオンの流れと、外部負荷を通しての電子の流れによって維持される。
【0009】
によるグルコースの生物電気触媒酸化に基づく生物燃料電池アセンブリー(4)の例が、図1において図式的に示される。電池は2つの電極からなり、この場合アノードは、表面に再構成されたグルコースオキシダーゼ(GOx)単分子層によって機能化され、そしてカソードは、チトクロームc(Cytc)とチトクロームオキシダーゼ(COx)からなる統合された生物触媒構築物により改変されている。GOx単分子層で機能化した電極では、グルコン酸へのグルコースの生物電気触媒酸化が起き、一方Cytc/COx重層電極では、水へのOの還元が起きる。GOx層は、ピロロキノリノキノン(PQQ)単分子層に共有結合したアミノ−FAD上へのアポ−GOx(FAD補因子のないGOx)の再構成によって生成される。PQQユニットは、アノードと酵素の酸化還元中心との間を架橋する電子移動メディエーターとして働く。
【0010】
生物燃料電池を組み立てるための異なるアプローチは、1,4−ジヒドロニコチンアミド補因子の生物電気触媒酸化に基づく。種々の基質、例えばアルコール、ヒドロキシ酸または糖が、NAD(P)補因子に依存する酵素による生物触媒酸化を受ける(5)。
【0011】
当該技術分野において既知である電気化学的、特に電流測定式バイオセンサーは外部動力源によって動力を供給される。この動力源は、電極に外部電圧を印加し、それにより電極を分極し、そして電子移動反応を提供するために使用される。
【0012】
先行技術は、関心のある生物学的検体を正確に測定する道具として電流測定式バイオセンシングシステムの使用を教示している。しかしながら、これらのバイオセンサーの適用では、多くの問題、例えば感知デバイスの相対的な感度、選択性および安定性が生じる。特に、若干のシステムは、試験サンプル中に存在する妨害因子の存在により不正確になりやすい。例えば、グルコースの生物触媒酸化は検体の混入物としてのアスコルビン酸または尿酸によって妨害される。
【0013】
かくして、高度に選択性で、感受性であり、そしてサンプル中に存在する他の化学物質によって妨害されにくいバイオセンサーのための当該技術分野におけるニーズが存在する。
【0014】
(先行技術)
下記の説明において、引用は、以下の引用文献のリストにおいて示される数種の先行技術文献について作成されている。引用はリストからそれらの数字を括弧内に指示することによって作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2003‐504621号公報
【特許文献2】特表2002‐520032号公報
【特許文献3】特表2000‐500380号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Willner I.and Katz E.,Angew.Chem.Int.Ed.,2000,39,1180−1218.
【非特許文献2】(a)Schuhmann,W.;Ohara,T.J.;Schumidt,H.L.;Heller,A.J.Am.Chem.Soc.,1991,113,1394−1397.(b)Willner,I.;Riklin,A.;Shoham,B.;Rivenzon,D.;Katz,E.Adv.Mater.,1993,5,912−915.
【非特許文献3】(a)Heller,A.J.Phys.Chem.1992,96,3579−3587.(b)Willner,I;Willner,B.React.Polym.1994,22,267−279.
【非特許文献4】Katz,E.,Willner I.,Kotlyar A.B.,J.Electroanalytical Chem.1999,479,64−68.
【非特許文献5】(a)Bardea,A.;Katz,E.;B□ckman,A.F.;Willner,I.J.Am.Chem.Soc.,1997,119,9114−9119.(b)Katz,E.;Heleg−Shabtai,V.;Bardea,A.;Willner,I.;Rau H.K.;Hechnel,W.,Biosens.Bioelectron.1998,13,741−756.
【非特許文献6】Eugenii Katz 外2名,A non−compartmentalized glucose | O2 biofuel cell by bioengineered electrode surfaces,Journal of Electroanalytical Chemistry,1999年12月15日,Vol.479 No.1,第64−68頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、液体中の有機物質の濃度および/または存在を決定するための酵素に基づくバイオセンサーを提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、液体媒質中の有機物質の濃度および/または存在を測定する方法であって、試験される被験者における体液内の検体の侵襲的(invasive)測定のためにまた応用可能である方法を提供することである。
【0019】
検出器に電線によって連結された2つの酵素電極からなる生物燃料電池アセンブリーは、本アセンブリーにおいて生成した電圧および電流が試験される検体の定量および/または同定の指標となることから、分析用バイオセンサーとして使用されてもよいことが、本発明において見い出された。
【0020】
かくして、生物触媒性酸化または還元を受けることが可能な少なくとも1種の物質を含有する流体によって自己動力供給されるバイオセンサーが、本発明において提供される。本発明のバイオセンサーは、環境、工業または臨床起源、例えば血液試験、生物触媒リアクター、ワイン発酵工程等々の流体中の検体の濃度および/または同定の決定において、移植した侵襲的デバイスとしてイン・ビボで、または非侵襲的デバイスとしてエクス・ビボで使用されてもよい。さらにまた、電極には電位が印加されないので、バイオセンサーの作動は特異的であり、そして混入物によって妨害されない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
特に、本発明は、第1の態様によれば、自己動力供給式バイオセンサー、ならびに検体が酸化または還元されつつある間該バイオセンサーによって生成される電気シグナル(電圧または電流)を測定するための検出器を含んでなる、液体媒質中の検体を決定するシステムを提供する。検体は、それぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元を受けることができる。バイオセンサーは、電極の1つがアノードであり、他方がカソードである1対の電極を含有し、両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており、検体の存在下で電極の1つに担持される酵素は、検体がそれぞれ酸化または還元される酸化または還元反応を触媒することができ、そして該1対の電極の他方は、酸化剤または還元剤がそれぞれ還元または酸化される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している。
【0022】
用語「決定(determination)」は、物質の濃度および/または存在を測定することを意味すると理解すべきである。
【0023】
電極によって担持される酵素は酸化還元型の酵素である。酸化還元酵素は、例えば:フラビンアデニンジヌクレオチドリン酸(FAD)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、ヘム、鉄−硫黄クラスターおよびその他のような補因子に依存する。
【0024】
本発明のセンサーによって検出できる検体は、生物触媒酸化または還元反応を受けることが可能なそれらのものである。好ましくは、検体は通常有機物質であり、そして本発明は、酸化可能な有機検体を参照しながら以下に記述されるであろう。そのような検体の例は、糖分子、例えばグルコース、フルクトース、マンノースなど;ヒドロキシまたはカルボキシ化合物、例えば乳酸塩、エタノール、メタノール、ギ酸;アミノ酸または酸化還元酵素の基質として役立つすべての他の有機材料である。
【0025】
本発明のバイオセンサーにおける使用のために適当な電極は、伝導性または半伝導性材料、例えば金、白金、パラジウム、銀、炭素、銅、インジウム錫酸化物(ITO)などから作られる。侵襲的分析では、電極は、生体適合性の非有害物質から構築され、そして侵襲的貫通に際して痛みを排除する細い針として製作されねばならない。
【0026】
本発明のバイオセンサーは、通常、電極間の膜なしで使用され、そしてこれは、侵襲的適用において使用される場合には特に、バイオセンサーの大きな利点になる。それにもかかわらず、バイオセンサーは、必要な場合にはまた膜を用いて作動されてもよい。
【0027】
バイオセンサーとして使用する電極を改変するために使用されるアプローチは、2群に分けることができる:(a)単分子層の沈着による電極表面の改変であって、単分子層は、例えば電子メディエーターおよび酵素の、1種類の電極表面における吸着か、または1種類の電極への共有結合かいずれかに基づく、および(b)多分子層による改変であって、これは、電極の重合改変の使用によってもっともしばしば達成される。
【0028】
アノード、すなわち作動電極は、酸化反応を触媒することができる酵素、ならびに好ましくはまたアノードと酵素との間の電子の移動を増強できる電子メディエーターグループ(group)を含んでなる層をその表面に担持する。
【0029】
酵素は、好ましくは、特定の検体を酸化するその能力にしたがって選ばれる。したがって、本発明のバイオセンサーはまた、特定の検体の存在を確認するために使用されてもよい。アノードの配置(configuration)において使用できる酵素は、グルコースオキシダーゼ(GOx)(この場合検体はグルコースである)、乳酸をピルビン酸に転化する乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、コリンオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アミノ酸オキシダーゼなどを含む。
【0030】
酸化還元酵素の酸化還元中心の接近不可能な性質のため、電子連絡のメディエーターが、好ましくは、メディエーターと酵素とを物理的に混合することによるか、またはメディエーターを酵素に化学的に結合させることによるかいずれかでバイオセンサーに付加され、酵素を介した反応物または所望の検体から電極への電子移動を増強する。例えば、グルコースセンサーのためのメディエーターは、電子受容体、例えば、フェロセン誘導体、キノン、種々の有機染料、有機の酸化還元ポリマー、例えばポリアニリン、無機の酸化還元マトリックス、例えば紺青などである。
【0031】
カソードは、酸化剤、好ましくは酸素の水への還元を触媒することができる酵素または酵素アセンブリー、ならびに場合によってはカソードと酵素間の電気的接触を増強するメディエーター、を含んでなる層をその表面上に担持する。そのような酵素または酵素アセンブリーの例は、ラッカーゼ、およびチトクロームc/チトクロームオキシダーゼ(COx)から形成される複合体である。例えば、ラッカーゼの場合には、電子は最終的に酸化剤、例えば分子状酸素(O)に移動されて水を生成する。酵素は4個の電子を蓄え、そしてO還元経路において中間体を放出しない。チトクロームc/チトクロームオキシダーゼ(COx)の場合には、チトクロームオキシダーゼへのチトクロームcに媒介される電子の移動は、また、水への酸素の4電子還元をもたらす。
【0032】
第2の態様によれば、本発明は、検体がそれぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元反応を受けることができる、液体媒質中の該検体を決定するための方法であって、
(i)本発明のシステムを提供し;
(ii)システムのバイオセンサーを液体媒質と接触させ;
(iii)電気シグナルが検体の存在および/または濃度の指標となるカソードとアノード間に生成した電気シグナルを測定し;
(iv)電気シグナルに基づいて検体を決定すること:
を含んでなる方法を提供する。
【0033】
例えば、液体媒質が体液、例えば血液、リンパ液または脳脊髄液であり、そして方法が侵襲的方式で実施される場合、本方法は、体内にバイオセンサーを挿入し、そしてそれを体液と接触させ、そして体内の体液中の検体を決定することを含んでなる。あるいはまた、体液またはすべての他の検体が非侵襲的式に試験されてもよく、そのような場合には、本方法は媒質に酸化剤または還元剤を添加することを含む。
【0034】
検体の例は、糖分子、例えばグルコース、フルクトース、マルトース;乳酸塩;ビリルビン;アルコールまたはアミノ酸である。
【0035】
本発明を理解し、そしてそれが実際に如何にして実施できるかを知るために、好適な実施態様が、付随する図面に関して、限定されない例によってのみここに記述される:
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、Oによるグルコースの生物電気触媒酸化に基づく生物燃料電池アセンブリーの概要図による表示である。
【図2A】図2Aは、本発明によるバイオセンサーデバイスを図示によって具体的に説明する。
【図2B】図2Bは、本発明によるバイオセンサーデバイスを図示によって具体的に説明する。
【図3】図3は、アノードにおける酵素GOxおよびカソードにおけるCytc/COxに基づくグルコースバイオセンサーのためのアノードおよびカソードの配置の概要図による表示である。
【図4】図4は、2つの校正曲線:a)グルコースについての校正曲線;b)乳酸塩についての校正曲線を示すグラフである。
【図5】図5は、(a)空気を飽和した0.1Mリン酸バッファー、(b)空気を飽和した50mMアスコルビン酸、(c)空気を飽和した8mMグルコース、(d)Oを含まない(Ar雰囲気下の)50mMグルコース:の注入において、PQQ−FAD/GOxおよびCytc/COxで機能化した電極からなる生物燃料電池に基づくバイオセンサーの開放回路電圧(Voc)を示すグラフである。矢印は注入時を示す。空気で平衡化したリン酸バッファー、0.1M,pH=7.0が、別に記述されない限りバックグラウンド電解質として使用された;温度約30℃。
【図6】図6は、それぞれアノードおよびカソードにおける酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)およびCytc/COxに基づく乳酸バイオセンサーのためのアノードおよびカソードの配置の概要図による表示である。
【図7A】図7Aは、PQQ−FAD/GOxアノードを用いる、流動セル中に注入したグルコースの可変濃度における開放回路電圧(Voc)を示すグラフである。
【図7B】図7Bは、PQQ−NAD/LDHアノードを用いる、流動セル中に注入した乳酸塩の可変濃度における解放回路電圧(Voc)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施例)
次に示す特定の実施態様は、本発明を具体的に説明することを意図しており、そしてその範囲を限定するものと考えるべきではない。
【0038】
引用は、本発明のシステムにおいて使用されてもよいバイオセンサーの簡単な配置を概要図により示す図2Aおよび2Bについてなされる。しかしながら、本発明の概念に基づく多くの他のアセンブリーが構成されてもよい。かくして、図2Aは、アノード12およびカソード14として働く2つの酵素で機能化されたAu電極(活性面積約0.19cm)からなる流動注入セルとして構成したバイオセンサー10(全てのその部分をあわせて組み立てる前)を示す。両電極はガラス板16および18上に支持され、そしてゴムOリング20(厚さ約2mm)によって分離される。ゴムリング中に埋め込まれた針22および24は、ユニットを流動セルに転換し、ここを液体媒質が流速1mLmin−1で流動できる。カソードとアノード間の距離は約2mmである。図2Bは、組み立てた形態における同デバイスを示す。
【0039】
図2Aおよび2Bにおいて示したデバイスが膜なしで作動することに注目すべきであり、そしてこの可能性がバイオセンサーの配置をはるかに簡単にするので、このことは、特に侵襲的適用のための本発明のバイオセンサーの有意な利点である。しかしながら、本発明のバイオセンサーは好ましくは電極間の膜なしで作動するけれども、それは、同時に、例えば非侵襲的適用において膜を用いてもまた作動することができる。
【0040】
液体媒質は、試験される検体と酸化剤をその中に溶解した溶液を含有する。例えば、非侵襲的適用において、酸化剤が酸素である場合は、溶液は分析前に酸素により飽和される。バイオセンサーの作動中、酸化剤の濃度は一定に保たれるべきである。これに対して、検体の濃度の代わりに酸素の濃度を測定することが望まれる場合、その時は検体の濃度が一定に保たれねばならない。
【0041】
図3は、グルコースの濃度を測定するバイオセンサーのためのアノードおよびカソードの配置を示す。グルコースオキシダーゼアノードは、ピロロキノリノキノン(PQQ,図3における化合物I)単分子層に共有結合されたアミノエチルフラビンアデニンジヌクレオチドリン酸(アミノ−FAD、図3における化合物II)上へのアポGOxの再構成によって生成される。カソードは、Au電極上に集合されたグルタル酸ジアルデヒドで架橋されたCytc/COx単分子層からなる。
【0042】
図4は、流動条件下で2電極セルへの可変グルコース濃度の注入において、図3に示したグルコース動力供給電池の開放回路電圧(Voc)を示す。校正曲線は、電極電位のネルンスト制御濃度依存性について期待されるような対数関係をたどる。グルコースは濃度範囲1mM−80mMにおいて感知される。グルコースの不在下では電圧出力はない(図5,注入(a))。自己動力供給式電池は、連続作動条件下では30℃で5時間安定である。アノードおよびカソードは、0℃で乾燥状態での貯蔵では少なくとも2カ月間安定である。電圧電池はアスコルビン酸,50mMの添加では乱されない(図5,注入(b))。また、電圧は、アルゴンの不活性雰囲気下でグルコース,50mMの添加では電池において発生しない(図5,注入(d))。この後者の実験は、電池によるグルコースの感知が、それぞれアノードとカソードによる同時の酸化(グルコースの)と還元(水への酸素の)を必要とすることを明らかに示している。
【0043】
図6は、乳酸濃度を測定するバイオセンサーの配置を示す。アノードの配置は、組み込んだ乳酸デヒドロゲナーゼ,LDHを重層した電極からなる。Au電極に結合したピロロキノリンキノン(PQQ)単分子層に、アミノエチルで機能化したNAD(アミノ−NAD,図6における化合物III)がカップリングされた(3)。LDHとPQQ−NAD単分子層アセンブリー間に形成された親和力−複合体はグルタル酸ジアルデヒドにより架橋され、組み込まれた電気的に接触したLDH−機能化電極が得られた。LDH−改変電極およびCytc/COx重層電極は、それぞれ、自己動力供給式乳酸感知電池のアノードとカソードとして用いられた。図4,曲線bは、流動条件下で電池への可変濃度の乳酸の注入における電池の開放回路電圧,Vocを示す。図4bの校正曲線は、乳酸塩が濃度範囲1mM−80mMにおいて感知されることを示している。対照実験は、アスコルビン酸,50mMまたはグルコース,50mMの注入において、または乳酸塩,50mMがアルゴンの不活性雰囲気下で電池に注入される場合には、開放回路電位が電池に発生しないことを証明している。これらの対照実験は、乳酸の検出が生物燃料電池要素としてアノードおよびカソードの同時作動の結果であることを示している。自己燃料式乳酸感知デバイスは、連続作動条件下では7時間安定であり、そして組み込んだLDH−機能化電極は、0℃で乾燥状態での貯蔵では少なくとも2カ月間安定である。
【0044】
図7は、(A)PQQ−FAD/GOxアノードを用いるグルコースの感知において、(B)PQQ−NAD/LDHアノードを用いる乳酸の感知において、生物燃料電池に基づくセンサーデバイス中への基質の可変濃度における開放回路電圧(Voc)を示す。両システムでは、Cytc/COx機能化電極がカソードとして適用された。矢印は、濃度それぞれ1mM,2mM,4mM,8mM,15mM,25mMおよび50mMにおける基質を含む、pH7.0の1mLリン酸バッファー、0.1Mからなるサンプルの注入を示す。全データは、空気飽和の0.1Mリン酸バッファー,pH7.0,30℃において記録された。
【0045】
結論として、本発明は、化学エネルギーから電気化学エネルギーへの変換に基づくバイオセンサーシステムの新規概念を導入した。これらの生物燃料電池は低効率において作動し、そしてエネルギー供給器としての応用は限定されるけれども、引き出しうる電力は感知する事象を証明するには十分である。事実、電池の低い電力出力は、それが電極における妨害物質の酸化還元変換を排除するので、感知工程では利点を有する。本感知デバイスは外部動力源なしに作動するので、それらを魅力的な侵襲的感知要素に変える。
【0046】
本発明の自己動力供給式バイオセンサーの利点は数多く存在する、なかんずく;(i)センサーは2つの電極のみからなり、そして電極に印加される外部電圧は存在しない;(ii)システムは生物学的流体によって自己で動力供給されるので、センサーは移植した侵襲的感知デバイスとして機能できる;(iii)電位が電極に印加されないので、本バイオセンサーデバイスの作動は特異的であり、そしてそれは混入物によって妨害されない;(iv)システムは基質の不在下では電圧を生じないので、基質の1濃度でもシステムを校正するのに十分である。
【符号の説明】
【0047】
10 バイオセンサー
12 アノード
14 カソード
16、18 ガラス板
20 ゴムOリング
22、24 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己動力供給式バイオセンサー、ならびに検体が酸化または還元されつつある間該バイオセンサーによって生成される電気シグナルを測定するための検出器を含んでなる、液体媒質中の検体を決定するシステムであって、検体は、それぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元を受けることができ、該バイオセンサーは、電極の1つがアノードであり、他方がカソードである1対の電極を含有し、両電極はそれらの表面に酸化還元酵素を担持しており、検体の存在下で、電極の1つに担持される酵素は、検体がそれぞれ酸化または還元される酸化または還元反応を触媒することができ、そして該1対の電極の他方は、酸化剤または還元剤がそれぞれ還元または酸化される反応を触媒できる酵素をその表面に担持している、システム。
【請求項2】
該検体が有機検体である、請求項1のシステム。
【請求項3】
2つの電極の少なくとも1つが、酵素とアノードまたはカソードの基質との間で電子を移動できる電子メディエーターグループを担持している、請求項1のシステム。
【請求項4】
両電極が、それらの表面に電子メディエーターグループを担持している、請求項3のシステム。
【請求項5】
酸化剤が、水に還元される酸素である、請求項1〜4のいずれか1つのシステム。
【請求項6】
酸化還元酵素が補因子依存性酵素であり、そして補因子が、フラビンアデニンジヌクレオチドリン酸(FAD)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、ヘムおよび鉄−硫黄クラスターから選ばれる、請求項5のシステム。
【請求項7】
該有機検体が、糖分子、ヒドロキシ、カルボニルまたはカルボキシ化合物およびアミノ酸からなる群から選ばれる、請求項2〜5のいずれか1つのシステム。
【請求項8】
電極が、各々独立して、金、白金、パラジウム、銀、炭素、銅およびインジウム錫酸化物から選ばれる材料から作られるか、またはそれによってコーティングされる、請求項1〜7のいずれか1つのシステム。
【請求項9】
アノード電極に担持される酵素が、グルコースオキシダーゼ(GOx)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、コリンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼおよびアルコールデヒドロゲナーゼから選ばれる、請求項1〜8のいずれか1つのシステム。
【請求項10】
カソード電極に担持される酵素が、ラッカーゼ、およびチトクロームc/チトクロームオキシダーゼ(COx)から形成される複合体から選ばれる、請求項1〜9のいずれか1つのシステム。
【請求項11】
アノードとカソードとの間に膜をさらに含んでなる、請求項1〜10のいずれか1つのシステム。
【請求項12】
バイオセンサーが、試験される被験者の体液中の検体の侵襲的測定のために適応される、請求項1記載の検体検出システム。
【請求項13】
検体がそれぞれ酸化剤または還元剤の存在下で生物触媒酸化または還元を受けることができる、液体媒質中の該検体を決定するための方法であって、
(i)請求項1〜12のいずれか1つのシステムを提供し;
(ii)該システムのバイオセンサーを液体媒質と接触させ;
(iii)該検体の存在および/または濃度の指標となるカソードとアノード間に生成する電気シグナルを測定し;
(iv)該シグナルに基づいて該検体を決定すること:
を含んでなる方法。
【請求項14】
該酸化剤が酸素である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
媒質に酸化剤または還元剤を添加することを含んでなる、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
該液体媒質が体液である請求項13記載の方法であって、該バイオセンサーを体内に挿入し、そしてそれを体液と接触させ、そして体内の該体液中の該検体を決定することを含んでなる方法。
【請求項17】
該液体媒質が体液である請求項13記載の方法であって、該方法が非侵襲的方式において実施される方法。
【請求項18】
該体液が、血液、リンパ液または脳脊髄液である、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
該検体が、糖分子、乳酸塩、ビリルビン、アルコールおよびアミノ酸から選ばれる、請求項16または17記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2009−236923(P2009−236923A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164971(P2009−164971)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【分割の表示】特願2003−523986(P2003−523986)の分割
【原出願日】平成14年8月12日(2002.8.12)
【出願人】(503083166)イサム・リサーチ・デベロツプメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシテイ・オブ・エルサレム (6)