説明

自己温度制御型ヒータ

【課題】 本発明は、外部からの熱変動に対する出力安定性の向上を図った自己温度制御型ヒータを提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、導電性付与剤のカーボンブラックが分散されてなる樹脂組成物中に互いに近接して2以上の電極が埋設された自己温度制御型ヒータにおいて、前記カーボンブラックとして、その平均粒径が40〜70mμでDBP吸収量が60〜160cc/100gである中粒径のカーボンブラックと、その平均粒径が70mμ超である大粒径のカーボンブラックとを用い、かつ、中粒径のカーボンブラックに対する大粒径のカーボンブラックの混合比を20〜50質量%とし、さらに、これら両カーボンブラックを、ベースの樹脂組成物100質量部に対して15〜30質量部添加して、外部の熱変動に対する出力安定性を向上させた自己温度制御型ヒータにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性付与剤のカーボンブラックが分散されてなる樹脂組成物中に互いに近接して2以上の電極が埋設された自己温度制御型ヒータに関し、特に外部からの経時的な熱変動に対する出力安定性の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
導電性付与剤のカーボンブラックが分散されてなる樹脂組成物中に2以上の電極が埋設されてなる自己温度制御型ヒータ(PTCヒータ)は、電極からの通電による発熱と、発熱による温度上昇に伴う樹脂膨張によって樹脂の導電性(電気抵抗)が変動するため、結果として自動的に発熱温度の制御が行われる。つまり、導電性ポリマーのPTC機能を用いたヒータである。このため、サーモスタットなどの制御部品が不要であり、低コストで、かつ安全な発熱が得られる。従って、樹脂の特性から高温発熱(樹脂の融点以上)には不向きであるものの、種々の分野で広く使用されている。例えば、液体輸送用配管(製造装置などのプロセス配管など)の保温、加温、上下水道の凍結防止、各種融雪システムなどで使用されている。
【0003】
このような自己温度制御型ヒータにおいて、導電性付与剤であるカーボンブラックの特性、例えば粒径などがヒータ性能に大きな影響を与えるため、従来カーボン粒子の平均粒径として2種類のものを用いるものが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−294021号公報
【0004】
この従来のヒータ(特許文献1)では、平均粒径が30mμ(nm)以下のものと、平均粒径が70mμ以上のものとを適宜混合して用いている。その理由は、平均粒径が30mμ以下のものでは導電性がよく、所望の低抵抗性が得られる一方、平均粒径が70mμ以上のものでは温度変化によって大きな抵抗変化率が得られるため、これら両者の混合比を適宜調整することにより、小型で、かつ低電圧で高出力のヒータを得ている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記ヒータ(特許文献1)では、経時的にヒータ出力が変動するという問題があった。この点について、本発明者等が鋭意検討したところ、以下のことが推測された。ヒータの使用環境が熱変動を伴う場合、例えば液体輸送用のプロセス配管などにおいては、ヒータを保温や加温のため管側面などに取り付けているが、配管の洗浄時、高温のスチームを吹き付ける、所謂スチーム洗浄が行われていることが分かった。
【0006】
このように配管と共にヒータ自体が、外部からの熱変動下に晒されて、熱履歴を受けると、樹脂組成物中のカーボンブラックが凝集して、その抵抗特性が変わるからと考えられる。特に平均粒径が30mμ以下で粒径の小さい小粒径のカーボンブラックにあっては、凝集し易いため、この出力変動に大きく影響するものと考えられる。
【0007】
そこで、本発明者等が、後述する試験から明らかなように、平均粒径が30mμ以下の小粒径のカーボンブラック、平均粒径が40〜70mμの中粒径のカーボンブラック、及び平均粒径が70mμ超(70mμを超える大きさ、70mμは含まない)の大粒径のカーボンブラックを用意し、これらを幾つかの混合比で混合してサンプルのヒータを製造し、これらのヒータに外部から熱を加えて、熱履歴を再現させたところ、小粒径のカーボンブラックを使用した場合において、出力変動が推測通り大きいことが確認できた。
【0008】
これに対して、平均粒径が40〜70mμでDBP吸収量が60〜160cc/100gである中粒径のカーボンブラックと平均粒径が70mμ超の大粒径のカーボンブラックとを混合した場合、出力変動が小さいことが分かった。ここで、中粒径のカーボンブラックにあって、DBP吸収量が60〜160cc/100gであることを条件としたのは、次の理由による。カーボンブラックにおいて、樹脂の導電性に影響を与える要因としては、平均粒径の他に、ストラクチャーや粒子表面の化学的性質があるとされている。樹脂中に分散されたカーボン粒子は通常多数の粒子が集合した形態(アグリケート:例えば葡萄の房状のもの)をとり、このアグリケートの発達度合いがストラクチャーといわれる。ストラクチャーの大きさを間接的に示すものが、DBP吸収量である。
従って、平均粒径が中粒径のカーボンブラックにあっても、DBP吸収量が大きくなると、粒子の集合形態が大きくなって、所望の樹脂導電性が得られなくなる。
【0009】
平均粒径が40〜70mμの中粒径のカーボンブラックを用いるのは、平均粒径が30mμ以下の小粒径のカーボンブラックは低抵抗性に優れているが、熱履歴により凝集し易く、出力変動要因となるため、これに替えたものである。そして、そのDBP吸収量を小さめのもの(60〜160cc/100g)としたのは、所望の導電性を得るためである。後述する試験からも、DBP吸収量を小さめに設定することにより、良好な結果を見い出すことができた。
【0010】
本発明は、上記観点に立ってなされたものであり、特定のDBP吸収量を有する中粒径のカーボンブラックと大粒径のカーボンブラックの混合使用により、外部の熱変動に対する出力安定性の向上を図った自己温度制御型ヒータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明は、導電性付与剤のカーボンブラックが分散されてなる樹脂組成物中に互いに近接して2以上の電極が埋設された自己温度制御型ヒータにおいて、
前記カーボンブラックとして、その平均粒径が40〜70mμでDBP吸収量が60〜160cc/100gである中粒径のカーボンブラックと、その平均粒径が70mμ超である大粒径のカーボンブラックとを用い、かつ、中粒径のカーボンブラックに対する大粒径のカーボンブラックの混合比を20〜50質量%とし、さらに、これら両カーボンブラックを、ベースの樹脂組成物100質量部に対して15〜30質量部添加して、外部の熱変動に対する出力安定性を向上させたことを特徴とする自己温度制御型ヒータにある。

【0012】
請求項2記載の本発明は、外部からの熱変動環境下で用いることを特徴とする請求項1記載の自己温度制御型ヒータにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自己温度制御型ヒータによると、従来ヒータにおける、平均粒径が30mμ以下の小粒径のカーボンブラックを使用していないため、外部からの熱変動があっても、樹脂中でのカーボン粒子の凝集が起こり難く、安定した出力が確保される。即ち、出力安定性の向上が得られる。また、小粒径のカーボンブラックに替えて、平均粒径が40〜70mμである中粒径のカーボンブラックを用いているが、そのDBP吸収量が60〜160cc/100gであって、小さめのものであるため、所望の導電性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1〜図2は、本発明の自己温度制御型ヒータの構造例を示したものである。
各図において、1はテープ状の樹脂組成物、2はこの樹脂組成物1の長手方向に埋設された電極、3a,3b,3は絶縁被覆である。なお、ここで3aは内層絶縁被覆、3bは外層絶縁被覆である。図1の場合は、樹脂組成物1が低密度ポリエチレンベースの3本電極タイプで、これらの各電極2,2間の間隔は約2〜3mm程度と狭く、またヒータ全体も幅5〜10mm、厚さ1.5〜2.5mmと極めて小型のものとして得られる。なお、絶縁被覆は一層構造であってもよい。また、図2の場合は、樹脂組成物1がフッ素樹脂(例えばポリビニリデンフルオライド:PVDF))ベースの2本電極タイプで、これらの各電極2,2間の間隔はやはり約2〜3mm程度と狭く、またヒータ全体も幅3〜5mm、厚さ1.0〜2.0mmと極めて小型のものとして得られる。なお、上記電極2は0.6mmφの錫メッキ銅線であるが、これに限定されない。錫メッキ銅撚線、ニッケルメッキ銅線、ニッケルメッキ銅撚線、通常の銅線、銅撚線なども使用可能である。

【0015】
この構成において、樹脂組成物の抵抗値を約300Ω・cm程度としたところ、低電圧(5〜50V)で、高出力のヒータが得られた。つまり、この小型、低電圧で、0.4〜5(W/10cm) の発熱量があった。

【0016】
上記樹脂組成物としては、低密度ポリエチレン(LDPE)などの他に以下のものなども使用することができる。高、中密度ポリエチレン(HDPE、MDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリエチレン−テレフタレート、ポリアミド、ポリエーテル−エチルケトン、ポリフェニレンサルファィド等が挙げられる。そして、これらの樹脂は単独でも、あるいはブレンドして使用してもよく、さらには、エチレン−プロピレンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等のゴムと併用することもできる。例えば、ブレンド物の場合、低密度ポリエチレン(MFR0.1〜10g/10min)55〜95質量部とEEA(MFR0.1〜10g/10min)5〜45質量部とを混合して全体を100質量部としたものなどが使用できる。

【0017】
また、上記樹脂に添加されるカーボンブラックとしては、特に限定されないが、ファネスカーボン、アセチレンブラック、ケッチンブラックなどを使用することができる。また、必要により粒子表面に適宜表面処理を施して化学的性質を改善したものも使用することができる。そして、さらに、その粒径としては、平均粒径が40〜70mμでDBP吸収量が60〜160cc/100gである中粒径のカーボンブラックと、その平均粒径が70mμ超(70mμを超える大きさ、70mμは含まない)である大粒径のカーボンブラックの両者を混合して用いるものとする。

【0018】
この混合比としては、中粒径のカーボンブラックに対する大粒径のカーボンブラックの混合比を20〜50質量%とする。その理由は、大粒径のカーボンブラックの混合比が20質量%未満では、少な過ぎて所望の抵抗値の変化率が得られないからである。また、逆に50質量%を超えるようになると、中粒径のカーボンブラック量が少なくなり、所望の抵抗値が得られなくなるからである。

【0019】
また、中粒径のカーボンブラックのDBP吸収量を60〜160cc/100gとしたのは、60cc/100g未満では、所望の導電性が得られないからであり、160cc/100gを超えるようになると、抵抗が低くなり過ぎるからである。

【0020】
これら両カーボンブラックの樹脂組成物に対する添加量を、樹脂組成物100質量部に対して、15〜30質量部としたのは、15質量部未満では、少な過ぎて樹脂組成物の抵抗値が大きくなり過ぎるからであり、30質量部を超えるようになると、逆に樹脂組成物の抵抗値が小さくなり過ぎるからである。

【0021】
このような樹脂組成物には、カーボンブラックの他に、必要により、他の添加剤を適宜添加することができる。例えば、安定剤、特にフッ素樹脂の場合炭酸カルシウム等の酸受容体を含有させることもできる。また、樹脂組成物を架橋させるには、電子線架橋や有機過酸化物等による化学架橋により行えばよく、それぞれ単独でもよく、両者を併用することも可能である。

【0022】
このヒータの製造にあたっては、樹脂組成物を、押出機などにより電極を埋設させる形で押し出し、例えは電子線(例えば線量=15Mrad)で照射架橋させ、所望の絶縁被覆を施すことにより得られる。

【0023】
〈実施例、比較例〉
表1〜表5に示す配合からなる、樹脂組成物のベース樹脂とカーボンブラックを用いて、図1と同構造のサンプルの自己温度制御型ヒータを製造した。ヒータの長径(幅)は9.0mm、短径(厚さ)は1.8mmで、電子線照射架橋させた。サンプルの評価にあっては各ヒータを1.0mに切断して行った。ベース樹脂はフッ素樹脂のPVDF(ソルベイソレクシス社製:ハイラー460)、カーボンブラックはコロンビア社製(CD705uB)、旭カーボン社製(旭サーマルFT)、CABOT社製(BLACK−PEARLS3500、バルカンXC72)、COLUMBIAN社製(RAVEN460)を用いた。なお、各表中のベース樹脂、カーボンブラックの数値は質量部数を示す。また、カーボンブラックの粒径は平均粒径を示す。

【0024】
各サンプルのヒータについて、物性評価(出力、出力変化)の試験を行った。
〈出力試験〉はヒータ電極に通電してその出力(W/m)を求めた。そして、30〜60W/mの範囲の出力であれば合格とし、それ以外を不合格とした。
〈出力変化試験〉はヒータを230℃×5時間の環境下に置いた後、ヒータ電極に通電し、試験前の出力と比較して出力変化を求めた。そして、出力変化(変動:上昇)が25%以内の場合を合格とし、それ以上の場合を不合格とした。

【0025】

【表1】

【0026】

【表2】

【0027】

【表3】

【0028】

【表4】

【0029】
上記の表1〜表3から明らかなように、本発明の自己温度制御型ヒータの場合(実施例1〜15)、全ての物性において良好であることが分かる。

【0030】
これに対して、表4から明らかなように、本発明の条件を欠く自己温度制御型ヒータの場合(比較例1〜7)、いずれの点において問題があることが分る。
つまり、比較例1ではカーボンブラックの総添加量が少な過ぎて(12質量部)、所望の出力が得られず、また、出力変化も大きいことが分かる。比較例2ではカーボンブラックの総添加量が多過ぎて(36質量部)、出力が大きくなり過ぎることが分かる。
比較列3〜7ではカーボンブラックの平均粒径が小さい場合(30mμ)で、大粒径のカーボンブラックとの総添加量が適正な範囲(15〜30質量部)であっても、いずれも出力変化が大きいことが分かる。なお、比較列7では出力も大きくなり過ぎることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る自己温度制御型ヒータの一例を示した縦断端面図である。
【図2】本発明に係る自己温度制御型ヒータの他例を示した縦断端面図である。
【符号の説明】
【0032】
1・・・樹脂組成物、2・・・電極、3,3a,3b・・・絶縁被覆


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性付与剤のカーボンブラックが分散されてなる樹脂組成物中に互いに近接して2以上の電極が埋設された自己温度制御型ヒータにおいて、
前記カーボンブラックとして、その平均粒径が40〜70mμでDBP吸収量が60〜160cc/100gである中粒径のカーボンブラックと、その平均粒径が70mμ超である大粒径のカーボンブラックとを用い、かつ、中粒径のカーボンブラックに対する大粒径のカーボンブラックの混合比を20〜50質量%とし、さらに、これら両カーボンブラックを、ベースの樹脂組成物100質量部に対して15〜30質量部添加して、外部の熱変動に対する出力安定性を向上させたことを特徴とする自己温度制御型ヒータ。
【請求項2】
外部からの熱変動環境下で用いることを特徴とする請求項1記載の自己温度制御型ヒータ。


【図1】
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【図2】
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