説明

自己融着性マグネットワイヤ及びそれを用いたコイル

【課題】コイル巻き線時の熱風温度の低下と、高温使用時における融着力の向上と、を両立させることが可能な自己融着性マグネットワイヤを提供する。
【解決手段】自己融着性マグネットワイヤ4は、導体40と、導体40を被覆する絶縁層50と、さらに絶縁層50を被覆する複数の融着層と、を備えており、複数の融着層は、最も内側に位置する第1の融着層60と、最も外側に位置する第2の融着層70と、を含み、第1の融着層60のガラス転移点Tgは、第2の融着層70のガラス転移点Tgよりも相対的に高いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己融着性マグネットワイヤ及びこれを巻回してなるコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導体上に絶縁被膜を介して、融着塗料を塗布焼き付けした自己融着性マグネットワイヤが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−94026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自己融着性マグネットワイヤは、低い熱風温度でコイル巻き線ができることが好ましく、また高温使用時において高い融着力を維持していることが好ましいとされている。
【0005】
しかしながら、上記の自己融着性マグネットワイヤでは、融着塗料が単一の材料で構成されているため、熱風温度の低下と、高温使用時における融着力の向上と、を両立させることが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、コイル巻き線時の熱風温度の低下と、高温使用時における融着力の向上と、を両立させることが可能な自己融着性マグネットワイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自己融着性マグネットワイヤは、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、さらに前記絶縁層を被覆する複数の融着層と、を備えており、複数の前記融着層は、最も内側に位置する第1の融着層と、最も外側に位置する第2の融着層と、を含み、前記第1の融着層のガラス転移点は、前記第2の融着層のガラス転移点よりも相対的に高いことを特徴とする。
【0008】
上記発明において、複数の前記融着層は、前記第1の融着層と前記第2の融着層との間に位置する第3の融着層を、さらに含み、前記第3の融着層のガラス転移点は、前記第1の融着層のガラス転移点と前記第2の融着層のガラス転移点の間であってもよい。
【0009】
上記発明において、前記第1の融着層は、芳香族ポリアミドから構成されていてもよい。
【0010】
上記発明において、前記第2の融着層は、脂肪族ポリアミドから構成されていてもよい。
【0011】
本発明に係るコイルは、上記の自己融着マグネットワイヤを巻回してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の融着層を備え、最も内側に位置する第1の融着層のガラス転移点が、最も外側に位置する第2の融着層のガラス転移点よりも相対的に高くなっているので、コイル巻き線時の熱風温度の低下と、高温使用時における融着力の向上と、を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態におけるコイルを備えたアクチュエータを示す図である。
【図2】図2は、図1のII‐II線に沿った断面図である。
【図3】図3は、図2のIII部の拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態における自己融着性マグネットワイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
<<第1実施形態>>
図1は本実施形態におけるコイルを備えたアクチュエータを示す図、図2は図1のII‐II線に沿った断面図、図3は図2のIII部の拡大断面図である。
【0016】
本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4は、図1及び図2に示すように、例えば、ハードディスクドライブ装置のアクチュエータ1において、キャリッジ10を駆動させるボイスコイルモータ(VCM)20のコイル30に用いられる。この自己融着性マグネットワイヤ4は、後述するが、コイル状に巻き線(巻回)されながら熱風が吹き付けられることで相互に融着してコイル30を構成している。なお、本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4で、トランスやモータ等に用いられるコイルを構成してもよい。
【0017】
この自己融着性マグネットワイヤ4は、図3に示すように、導体40と、絶縁層50と、第1の融着層60と、第2の融着層70と、を備えている。
【0018】
導体40は、断面が円形の線状体であり、例えば銅(Cu)で構成されている。なお、導体40を、アルミニウム(Al)や錫(Sn)で構成してもよい。
【0019】
絶縁層50は、導体40の表面を被覆している。絶縁層50は、例えばポリウレタン(Polyurethane)で構成されている。なお、絶縁層50を、ポリエステル(Polyester)やポリエステルイミド(Polyester Imide)で構成してもよい。
【0020】
第1の融着層60は、絶縁層50を被覆しており、ガラス転移点はTgである。この第1の融着層60は、例えば芳香族ポリアミド(Aromatic Polyamide)で構成されている。このように第1の融着層60を芳香族ポリアミドで構成する場合には、ガラス転移点Tgは160℃となる。
【0021】
この第1の融着層60は、次のように形成される。まず、液状の芳香族ポリアミドに被覆線(導体40を絶縁層50で被覆した線)を浸し、絶縁層50に芳香族ポリアミドを付着させる。次いで、当該被覆線をダイスに通して、芳香族ポリアミドの厚さを均一にする。次いで、当該被覆線に付着した芳香族ポリアミドをオーブンで焼き付けて、第1の融着層60を形成する。
【0022】
第2の融着層70は、第1の融着層60を被覆しており、ガラス転移点はTgである。この第2の融着層70のガラス転移点Tgは、第1の融着層60のガラス転移点Tgよりも低くなっている(Tg>Tg)。第2の融着層70は、例えば脂肪族ポリアミド(Aliphatic Polyamide)で構成されている。このように第2の融着層70を脂肪族ポリアミドで構成する場合には、ガラス転移点Tgは120℃となる。なお、この第2の融着層70は、第1の融着層60と同様の方法で形成されている。
【0023】
以上の自己融着性マグネットワイヤ4は、巻線機によってコイル状に巻き線されると共にドライヤによる熱風を受け、さらにベーキング処理されることでコイル30となる。ここで、自己融着性マグネットワイヤ4は、この熱風によって、ガラス転移点の低い第2の融着層70が軟化して融着し、コイル状に保持される。ここで、コイル状となった自己融着性マグネットワイヤ4をベーキング処理し、第1の融着層60及び第2の融着層70のガス抜きをする。このとき、自己融着性マグネットワイヤ4では、ガラス転移点の高い第1の融着層60が軟化して融着が促進される。これにより、隣接する自己融着性マグネットワイヤ4同士の第1の融着層60及び第2の融着層70が相互に融着して、コイル30が完成する。
【0024】
本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4は、第1の融着層60と、第2の融着層70と、を備え、最も外側に位置する第2の融着層70を、最も内側に位置する第1の融着層60と比べて相対的にガラス転移点を低くしたので、上記のように低い熱風温度での融着が可能となっている。このため、コイル30の生産工程における省エネルギ化を図ることができる。また、熱風温度の低下に伴って、巻線機への設備投資を低減させることができ、延いてはコイル30のコストダウンを図ることができる。
【0025】
また、本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4は、低い熱風温度で巻き線ができるので、巻き線時の作業性にも優れている。
【0026】
さらに、本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4では、最も内側の第1の融着層60を、最も外側の第2融着層70と比べて相対的にガラス転移点を高くしたので、高温使用時における融着力が向上している。したがって、自己融着性マグネットワイヤ4から構成されるコイル30は、耐熱性に優れている。
【0027】
以上のように、本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4は、コイル巻き線時の熱風温度の低下と、高温使用時における融着力の向上と、の両立が可能となっている。
【0028】
<<第2実施形態>>
次に、第2実施形態について説明する。
【0029】
図4は本実施形態における自己融着性マグネットワイヤの断面図である。
【0030】
本実施形態では、第3の融着層80を備えている点で第1実施形態と相違するが、それ以外の構成は、第1実施形態と同様である。以下に、第1実施形態と相違する点についてのみ説明し、第1実施形態と同様の構成である部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
本実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4aは、図4に示すように、第1の融着層60と、第2の融着層70と、の間の位置に、第3の融着層80を備えている。
【0032】
この第3の融着層80のガラス転移点Tgは、以下の(1)〜(3)式の何れかの関係を満たしている。
【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
【数3】

第3の融着層80を、例えば香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドを混合したもので構成してもよいし、或いは、芳香族ポリアミドや脂肪族ポリアミドとは異なる、ガラス転移点がTgである他の樹脂材料で構成してもよい。
【0036】
また、上記(3)式が成立するように、融着層60,70,80のガラス転移点Tg,Tg,Tgを外層から内層にかけて段階的に高くすることで、ガラス転移点Tgとガラス転移点Tgとの差を大きくすることができ、ガラス転移点Tgを高めると共に、ガラス転移点Tgを低下させることができる。
【0037】
また、外層から内層にかけて段階的にガラス転移点が高くなっていれば、第1の融着層60と第2の融着層70との間に位置する第3の融着層80を2層以上設けてもよい。
【0038】
因みに、上述の第1実施形態においても、第1の融着層60と第2の融着層70は、Tg>Tgの関係を満たしていればよく、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドを混合したもので構成されていてもよい。また、Tg>Tgの関係を満たすガラス転移点Tgであれば、第1の融着層60を、芳香族ポリアミドとは異なる他の樹脂材料で構成してもよい。同様に、Tg>Tgの関係を満たすガラス転移点Tgであれば、第2の融着層70を、脂肪族ポリアミドとは異なる他の樹脂材料で構成してもよい。
【0039】
以下に、本発明をさらに具体化した実施例及び比較例により本発明の効果を確認した。以下の実施例及び比較例は、上述した第1実施形態における自己融着性マグネットワイヤ4のコイル巻き線時の熱風温度の低下の効果と、高温使用時における融着力の向上の効果と、を確認するためのものである。
【0040】
<実施例1>
実施例1では、上述した第1実施形態と同様の自己融着性マグネットワイヤのサンプルを作製した。このサンプルでは、導体として、直径120μmの銅製の線を用い、絶縁層として、ポリウレタンの層を厚さ5μmで導体上に形成した。
【0041】
また、第1の融着層を、芳香族ポリアミドで構成し、厚さを2.5μmとした。一方、第2の融着層を、脂肪族ポリアミドで構成し、厚さを2.5μmとした。
【0042】
この実施例1のサンプルを用いて、熱風温度を変化させて複数のコイル(ボイスコイルモータに用いられるコイル)を作製した。なお、巻き線条件としては、回転数を1000rpmとし、テンションを120gfとした。
【0043】
この複数のコイルについて、自己融着性マグネットワイヤ同士の融着の有無を確認した。実施例1のサンプルが融着した最も低い熱風温度を表1に示す。
【0044】
【表1】

<比較例1>
比較例1では、第1の融着層と第2の融着層の何れも芳香族ポリアミドで構成したこと以外は、実施例1と同一構造のサンプルを作製した。この比較例1のサンプルを用いて、実施例1と同様の方法で、コイルを作製し、比較例1のサンプルが融着した最も低い熱風温度を調べた。比較例1についての結果を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
比較例2では、第1の融着層と第2の融着層の何れも脂肪族ポリアミドで構成したこと以外は、実施例1と同一構造のサンプルを作製した。この比較例2のサンプルを用いて、実施例1と同様の方法でコイルを作製し、実施例1と同様の方法で、比較例2のサンプルが融着した最も低い熱風温度を調べた。比較例2についての結果を表1に示す。
【0046】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同一構造のサンプルを作成した。この実施例2のサンプルを用いて、回転数を1回転/秒、テンションを20gfとした巻き線条件で、コイル(ヘリカルコイル)を作成し、当該コイルに対して圧縮方向へ15gfの荷重を印加しながら、180℃、3時間のベーキング処理を行った。
【0047】
このコイルについて、25℃〜200℃のそれぞれの雰囲気下で、JIS C3003:1999に基づくピール試験を行い、コイルの融着強度を調べた。実施例2についてのピール試験の結果を表2に示す。なお、表2において、融着層が剥がれる直前の荷重を融着力として示した。
【0048】
【表2】

<比較例3>
比較例3では、比較例1と同一構造のサンプルを作成した。この比較例3のサンプルを用いて、回転数を1回転/秒、テンションを20gfとした巻き線条件で、コイル(ヘリカルコイル)を作成した。当該コイルに対して、実施例2と同様に、ベーキング処理を行った後、ピール試験を行った。比較例3についてのピール試験の結果を表2に示す。
【0049】
<比較例4>
比較例4では、比較例2と同一構造のサンプルを作成した。この比較例4のサンプルを用いて、回転数を1回転/秒、テンションを20gfとした巻き線条件で、コイル(ヘリカルコイル)を作成した。当該コイルに対して、実施例2と同様に、ベーキング処理を行った後、ピール試験を行った。比較例4についてのピール試験の結果を表2に示す。
【0050】
<考察>
実施例1では、500℃の熱風温度で融着した。これに対し、比較例1では、580℃まで熱風温度を上げなければ融着しなかった。
【0051】
また、実施例2では、180℃〜200℃の高温雰囲気下においても3gf〜7gfの融着力を保っていた。これに対し、比較例4では、180℃〜200℃の高温雰囲気下での融着力がゼロであった。
【0052】
このことから、自己融着性マグネットワイヤが複数の融着層を備え、最も内側に位置する融着層のガラス転移点を、最も外側に位置する融着層のガラス転移点に対して相対的に高い構成とすることで、コイル巻き線時の熱風温度の低下と、高温使用時における融着力の向上と、の両立が可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1…アクチュエータ
10…キャリッジ
20…ボイスコイルモータ
30…コイル
4,4a…自己融着性マグネットワイヤ
40…導体
50…絶縁層
60…第1の融着層
70…第2の融着層
80…第3の融着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、
さらに前記絶縁層を被覆する複数の融着層と、を備えており、
複数の前記融着層は、
最も内側に位置する第1の融着層と、
最も外側に位置する第2の融着層と、を含み、
前記第1の融着層のガラス転移点は、前記第2の融着層のガラス転移点よりも相対的に高いことを特徴とする自己融着性マグネットワイヤ。
【請求項2】
請求項1記載の自己融着性マグネットワイヤであって、
複数の前記融着層は、前記第1の融着層と前記第2の融着層との間に位置する第3の融着層を、さらに含み、
前記第3の融着層のガラス転移点は、前記第1の融着層のガラス転移点と前記第2の融着層のガラス転移点の間であることを特徴とする自己融着性マグネットワイヤ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自己融着性マグネットワイヤであって、
前記第1の融着層は、芳香族ポリアミドから構成されていることを特徴とする自己融着性マグネットワイヤ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の自己融着性マグネットワイヤであって、
前記第2の融着層は、脂肪族ポリアミドから構成されていることを特徴とする自己融着性マグネットワイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の自己融着マグネットワイヤを巻回してなるコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−96423(P2011−96423A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247340(P2009−247340)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】