説明

自律測位に用いる重力ベクトルを補正する携帯装置、プログラム及び方法

【課題】携帯装置を保持する態様の個人差に関係なく、重力ベクトルを補正することができる携帯装置、プログラム及び方法を提供する。
【解決手段】自律測位手段を有する携帯装置であって、ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、始動位置と終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する座標差導出手段と、南北方向座標差Nに基づいて、ピッチオフセットpを算出するピッチオフセット算出手段、及び/又は、東西方向座標差Eに対応付けて、ロールオフセットrを算出するロールオフセット算出手段とを有し、自律測位手段は、ピッチオフセットp及び/又はロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律測位に用いる重力ベクトルを補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正確な端末姿勢を推定するために、重力ベクトルを補正する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、携帯装置は、角速度センサ及び加速度センサを有し、角速度データ及び加速度データから重力方向を逐次算出する。重力ベクトルは、角速度データに基づいて算出される。最初に、その重力ベクトルを、加速度ベクトルの方向へ近づくように補正する。次に、端末が所定の運動をする場合に、その重力ベクトルを、加速度データ及び角速度データの予め定義された関係から推定される重力方向へ近づくように補正する。最後に、その重力ベクトルを、所定期間における加速度ベクトルの平均の方向へ近づくように補正する。このように補正された重力ベクトルを用いて、正確な端末姿勢を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−263930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、携帯装置に、少なくとも角速度センサを搭載する必要がある。また、加速度データと角速度データとの関係を予め定義しておく必要があり、携帯装置を保持する態様の個人差には対応できない。
【0005】
そこで、本発明は、携帯装置を保持する態様の個人差に関係なく、重力ベクトルを補正することができる携帯装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、
3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、
加速度データ及び地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角dを出力する自律測位手段と
を有し、重力ベクトルを推定する携帯装置であって、
ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、始動位置と終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する座標差導出手段と、
南北方向座標差Nに基づいてピッチオフセットpを算出するピッチオフセット算出手段、及び/又は、東西方向座標差Eに基づいてロールオフセットrを算出するロールオフセット算出手段とを有し、
自律測位手段は、ピッチオフセットp及び/又はロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出することを特徴とする。
【0007】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
ピッチオフセット算出手段は、南北方向座標差Nと、ピッチオフセットpとが、以下の式を満たすように対応付けられたピッチオフセットテーブルを有し、
【数1】

φ:所定の地磁気ベクトルから重力ベクトルに対する伏角
d:1歩毎の推定方位角
θ:円周移動によって得られるdの変化を0〜2πの連続的変化に近似した方位角
当該ピッチオフセットテーブルを用いて、当該南北方向座標差Nから、ピッチオフセットpを導出するものであり、
ロールオフセット算出手段は、東西方向座標差Eと、ロールオフセットrとが、以下の式を満たすように対応付けられたロールオフセットテーブルを有し、
【数2】

当該ロールオフセットテーブルを用いて、当該東西方向座標差Eから、ロールオフセットrを導出することも好ましい。
【0008】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
円周移動中に、自律測位手段から出力された推定方位角dを蓄積する推定方位角バッファ手段と、
ユーザ所持に基づく当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った円周移動期間を、推定方位角バッファ手段に蓄積された推定方位角dから検出する円周移動期間検出手段と
を更に有することも好ましい。
【0009】
本発明によれば、
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、
3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、
を有する携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるものであって、
加速度データ及び地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角dを出力する自律測位手段と
してコンピュータを機能させる、重力ベクトルを推定するプログラムであって、
ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、始動位置と終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する座標差導出手段と、
南北方向座標差Nに基づいてピッチオフセットpを算出するピッチオフセット算出手段、及び/又は、東西方向座標差Eに基づいてロールオフセットrを算出するロールオフセット算出手段とを有し、
自律測位手段は、ピッチオフセットp及び/又はロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出する
ようにコンピュータを更に機能させることを特徴とする。
【0010】
本発明の携帯装置用のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ピッチオフセット算出手段は、南北方向座標差Nと、ピッチオフセットpとが、以下の式を満たすように対応付けられたピッチオフセットテーブルを有し、
【数3】

φ:所定の地磁気ベクトルから重力ベクトルに対する伏角
d:1歩毎の推定方位角
θ:円周移動によって得られるdの変化を0〜2πの連続的変化に近似した方位角
当該ピッチオフセットテーブルを用いて、当該南北方向座標差Nから、ピッチオフセットpを導出するものであり、
ロールオフセット算出手段は、東西方向座標差Eと、ロールオフセットrとが、以下の式を満たすように対応付けられたロールオフセットテーブルを有し、
【数4】

当該ロールオフセットテーブルを用いて、当該東西方向座標差Eから、ロールオフセットrを導出する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0011】
本発明の携帯装置用のプログラムにおける他の実施形態によれば、
円周移動中に、自律測位手段から出力された推定方位角dを蓄積する推定方位角バッファ手段と、
ユーザ所持に基づく当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った円周移動期間を、推定方位角バッファ手段に蓄積された推定方位角dから検出する円周移動期間検出手段と
してコンピュータを更に機能させることも好ましい。
【0012】
本発明によれば、
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、
3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、
加速度データ及び地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角dを出力する自律測位機能と
を有する携帯装置について、重力ベクトルを補正する方法であって、
ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、始動位置と終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する第1のステップと、
南北方向座標差Nに基づいてピッチオフセットpを算出し、及び/又は、東西方向座標差Eに基づいてロールオフセットrを算出する第2のステップと、
自律測位機能が、ピッチオフセットp及び/又はロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出する第3のステップと
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の重力ベクトル補正方法における他の実施形態によれば、
ピッチオフセットpの算出には、南北方向座標差Nと、ピッチオフセットpとが、以下の式を満たすように対応付けられたピッチオフセットテーブルを有し、
【数5】

φ:所定の地磁気ベクトルから重力ベクトルに対する伏角
d:1歩毎の推定方位角
θ:円周移動によって得られるdの変化を0〜2πの連続的変化に近似した方位角
当該ピッチオフセットテーブルを用いて、当該南北方向座標差Nから、ピッチオフセットpを導出し、
ロールオフセットrの算出には、東西方向座標差Eと、ロールオフセットrとが、以下の式を満たすように対応付けられたロールオフセットテーブルを有し、
【数6】

当該ロールオフセットテーブルを用いて、当該東西方向座標差Eから、ロールオフセットrを導出する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0014】
本発明の重力ベクトル補正方法における他の実施形態によれば、
円周移動中に、自律測位手段から出力された推定方位角dを蓄積し、
ユーザ所持に基づく当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った円周移動期間を、推定方位角バッファ手段に蓄積された推定方位角dとから検出することも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の携帯装置、プログラム及び方法によれば、ユーザの円周移動によって取得した地磁気データ及び推定方位角からピッチオフセット及び/又はロールオフセットを算出し、そのオフセットによって重力ベクトルを補正することにより、携帯装置を保持する態様の個人差に関係なく、自律測位の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における携帯装置の機能構成図である。
【図2】当該携帯装置を所持したユーザの円周移動を表す説明図である。
【図3】重力ベクトルGと地磁気ベクトルMとの関係を表すユーザ座標系である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明における携帯装置の機能構成図である。
【0019】
携帯装置1は、ユーザに所持されるものであって、例えば携帯電話機又はスマートフォンのようなものである。図1によれば、携帯装置1は、加速度センサ101と、地磁気センサ102とを有する。
【0020】
加速度センサ101は、加速度、即ち単位時間当たりの速度の変化を検出する。携帯装置の傾きを検出することができる3軸タイプの場合、3次元の加速度を検出でき、地球の重力(静的加速度)の計測にも対応できる。
【0021】
地磁気センサ102は、3軸方向(前後方向、左右方向及び上下方向)の地磁気の方向を測定する。地磁気センサ102は、ホール素子を分離し、分離したホール素子からそれぞれ検出された値を出力する。
【0022】
また、携帯装置1は、自律測位部111と、座標差導出部112と、円周移動期間検出部113と、推定方位角バッファ部114と、ピッチオフセット算出部115と、ロールオフセット算出部116と、アプリケーション部117とを有する。アプリケーション部117は、自律測位部111から導出された推定方位角dを用いて、様々なサービスをユーザに提供する。これら機能構成部は、携帯装置1に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、重力ベクトルの補正方法としても理解できる。
【0023】
自律測位部111は、加速度データ及び地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角d(°)を出力する。自律測位部111は、既存のデッドレコニング(Dead Reckoning:DR)技術(自律推測航法技術)に基づくものであって、屋内のように測位電波を受信できない場所にあっても、その位置を自律的に測位することができる。デッドレコニング技術は、エンコーダや慣性センサを利用した相対的自己位置推定技術をいい、一般に、既知の初期値(位置と姿勢)に対して、地磁気データ又は角速度データ(ジャイロスコープ)及び加速度データを足し合わせて、その後の位置及び姿勢を算出する。そのために、デッドレコニング技術のみでは、誤差が蓄積していくことなる。即ち、重力ベクトルの誤差も蓄積していくこととなる。
【0024】
図1によれば、自律測位部111は、ピッチオフセット算出部115からピッチオフセットpがフィードバックされ、ロールオフセット算出部116からロールオフセットrがフィードバックされる。ここで、移動向きをx軸正方向、移動向きに対して左手方向をy軸正方向、移動向きに対する上方をz軸方向とするとする。このとき、各軸の回転を、以下のように表す。
x軸周りの回転 : ロール(roll)
y軸周りの回転 : ピッチ(pitch)
z軸周りの回転 : ヨー(yaw)
【0025】
自律測位部111は、自ら算出した推定方位角にピッチオフセットpを足し合わせ(逆算)、また、自ら算出した重力ベクトルにロールオフセットrを足し合わせる(逆算)。これによって、自律測位における重力ベクトルの誤差を補正することができ、その後の自律測位の精度を向上させることができる。
【0026】
図2は、当該携帯装置を所持したユーザの円周移動を表す説明図である。
【0027】
図2のように、携帯装置1は、ユーザに対して、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回るように指示する。ここで、自律測位部111自ら算出する重力ベクトルに誤差が含まれることによって、自律測位部111から出力される推定方位角dにも誤差を生じる。これは、始動位置座標と終動位置座標とが一致しないという誤差を生じる。即ち、自律測位部111内の重力ベクトルの誤差によって、移動軌跡が変形することとなる。この重力ベクトルには、ピッチオフセットとロールオフセットとの誤差が含まれる。
【0028】
「ピッチオフセット」は、左右方向を回転軸とした重力ベクトルの回転オフセットである。また、「ロールオフセット」は、前後方向を回転軸とした重力ベクトルの回転オフセットである。ここで、単一の方向に移動(歩行)した場合に、地磁気データ及び加速度データから重力ベクトルを補正しようとした場合、以下の問題が発生する。
【0029】
(1)ピッチオフセットとロールオフセットとを、分離することができない。
(2)移動における絶対方位をGPS(Global Positioning System)から取得する必要がある。
【0030】
これに対し、本発明によれば、当該携帯装置1を所持したユーザに、円周方向に1周回って、円を描くように移動(歩行)させるだけであって、GPSも必要としない。
【0031】
座標差導出部112は、ユーザの行動に基づいて、当該装置が円周方向に一周回った際に、始動位置と終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する。
【0032】
その座標差から、以降の処理によってオフセットが逆算される。尚、以下のように、注目すべき点がある。
(1)円を描くように歩行した場合、東西方向座標差Eには、ピッチオフセットはのらない。即ち、相殺されて0となる。
(2)円を描くように歩行した場合、南北方向座標差Nには、ロールオフセットはのらない。即ち、相殺されて0となる。
【0033】
このように、円周方向に1周移動することによって、絶対方位角を必要としないために、GPSのような絶対測位部を搭載する必要がない。携帯端末を保持するユーザも、円を描くように歩いて、始動位置に戻ればよいだけであって、方位を意識する必要もない。
【0034】
本発明における他の実施形態によれば、円周移動期間検出部113を更に備えるものであってもよい。円周移動期間検出部113は、推定方位角の変化から、ユーザが周回していることを検出する。推定方位角が0°〜360°まで変化することを検出する。
【0035】
円周移動期間検出部113に対応して、推定方位角バッファ部114を更に有する。推定方位角バッファ部114は、円周移動期間に、自律測位部111から出力された複数の推定方位角dを蓄積し、それら推定方位角を、円周移動期間検出部113へ出力する。推定方位角は、円周移動期間における例えば歩数毎に取得されるものであってもよい。
【0036】
尚、円周移動期間は、ユーザ自ら、当該携帯端末へ「円周移動開始」を入力し、円周方向に一回りし、その後、当該携帯端末へ「円周移動終了」を入力するものであってもよい。この場合、円周移動期間検出部113及び推定方位角バッファ部114を、携帯装置に搭載する必要もない。
【0037】
図3は、重力ベクトルGと地磁気ベクトルMとの関係を表すユーザ座標系である。
【0038】
図3によれば、重力ベクトルGによって推定された移動方位角θが表されている。また、重力ベクトルGに対して、地磁気ベクトルMは、伏角φを有する。ここで、伏角φは、当該携帯端末による円周方向への一回りの移動があっても、一定である。
【0039】
地磁気は、南から北へ向けて到来しており、地磁気ベクトルは、地域によって固有の伏角φを伴って、北(磁北)方向を示すベクトルとなる。また、重力ベクトルGに対して垂直な平面(地表面)への射影ベクトルは、北向きベクトルを表す。北向きベクトルから前向きベクトルへの回転角θは、移動方向方位角を表す。角度は、北から時計回りで表される。
【0040】
図3によれば、地磁気ベクトルは、前後成分、回転軸成分及び鉛直成分に分解される。
前後成分 =sinφcosθ
回転軸成分=sinφsinθ
鉛直成分 =cosφ
【0041】
重力ベクトルにオフセットがかかることによって、重力ベクトルを基準とした座標系では、地磁気ベクトルが、本来あるべき位置から回転して見える。これを重力ベクトルに対し垂直な面(地表面)から見ると、北方向が正しい位置からずれて見える。このときのθが、観測される方位角dとなる。
【0042】
[ピッチオフセット算出部115]
ピッチオフセット算出部115は、当該ユーザの始動位置と終動位置との間の南北方向座標差Nに基づいて、ピッチオフセットpを算出する。ここで、南北方向座標差Nは、図2によって表されている。ピッチオフセット算出部115は、南北方向座標差Nに対応付けてピッチオフセットpを記憶したピッチオフセットテーブルを有する。
【0043】
ここで、地磁気ベクトルに対して、ピッチオフセットpをかけた場合を考える。地磁気ベクトルの回転軸成分は、回転の影響を受けないために、一定である。
回転軸成分=sinφsinθ
【0044】
一方で、回転面成分(前後成分、鉛直成分)は、以下のように表される。
m=(sinφcosθ,cosφ)
これに、回転p(ピッチオフセット)を加えると、以下のようになる。
【数7】

【0045】
つまり、ピッチオフセットがかかった前後成分(観測値)は、以下のように表される。
前後成分=sinφcosθcosp−cosφsinp
【0046】
推定方位角dに、1歩進んだ際の座標は、以下のように表される。
(E,N)=(e,n)=(sind,cosd
【0047】
E及びNは、前述した回転面成分及び前後成分によって、以下のようにθ及びpの式で表される。
【数8】

【0048】
ここで、ユーザがX歩かけて、方位角0°から時計回りに一周歩行した際の座標を考える。東西方向の座標は、前述の式によって、以下のように表される。
【数9】

【0049】
この式によれば、奇関数となり、E=0となる。これは、ピッチオフセットpがのらないことを意味する。
【0050】
また、南北方向の座標は、前述の式によって、以下のように表される。
【数10】

【0051】
この式によれば、南北方向の座標Nとピッチオフセットpとを関係付けることができる。ピッチオフセットテーブルは、南北方向の座標Nとピッチオフセットpとを対応付けて予め記憶する。勿論、本発明によれば、前述の式をリアルタイムに算出するものであってもよいが、その算出の演算処理量に負荷がかかるために、テーブルに予め登録していることが好ましい。
【0052】
[ロールオフセット算出部116]
ロールオフセット算出部116は、当該ユーザの始動位置と終動位置との間の東西方向座標差Eに基づいて、ロールオフセットrを算出する。ここで、東西方向座標差Eは、図2によって表されている。ロールオフセット算出部116は、東西方向座標差Eに対応付けてロールオフセットrを記憶したロールオフセットテーブルを有する。
【0053】
ここで、地磁気ベクトルに対して、ロールオフセットrをかけた場合を考える。地磁気ベクトルの前後成分は、回転の影響を受けないために、一定である。
回転軸成分=sinφcosθ
【0054】
一方で、回転面成分(水平成分、鉛直成分)は、以下のように表される。
m=(sinφsinθ,cosφ)
これに、回転r(ピッチオフセット)を加えると、以下のようになる。
【数11】

【0055】
つまり、ロールオフセットがかかった水平成分(観測値)は、以下のように表される。
水平成分=sinφsinθcosr−cosφsinr
【0056】
推定方位角dに、1歩進んだ際の座標は、以下のように表される。
(E,N)=(e,n)=(sind,cosd
【0057】
E及びNは、前述した回転面成分及び水平成分によって、以下のようにθ及びrの式で表される。
【数12】

【0058】
ここで、ユーザがX歩かけて、方位角0°から時計回りに一周歩行した際の座標を考える。東西方向の座標は、前述の式によって、以下のように表される。
【数13】

【0059】
この式によれば、東西方向の座標Eとロールオフセットrとを関係付けることができる。ロールオフセットテーブルは、東西方向の座標Eとロールオフセットrとを対応付けて予め記憶する。勿論、本発明によれば、前述の式をリアルタイムに算出するものであってもよいが、その算出の演算処理量に負荷がかかるために、テーブルに予め登録していることが好ましい。
【0060】
また、南北方向の座標は、前述の式によって、以下のように表される。
【数14】

【0061】
この式によれば、奇関数となり、N=0となる。これは、ロールオフセットrがのらないことを意味する。
【0062】
前述したように、一周歩行した後の座標には、以下のような特性を有する。
南北方向:ピッチオフセットpのみが反映される
東西方向:ロールオフセットrのみが反映される
これによって、歩行者が一周したあとの座標から、ピッチオフセットとロールオフセットとを導出することができる。
【0063】
このように算出されたピッチオフセットp及び/又はロールオフセットrは、自律測位部111へフィードバックされる。これによって、自律測位部111は、自ら推定された重力ベクトルに対してピッチオフセットpを引いたベクトルを、重力ベクトルとして位置を推定する。
【0064】
最後に、前述した南北方向座標差Nとピッチオフセットpとの関係式、及び、東西方向座標差Eとロールオフセットrとの関係式について、補足的に説明する。
【0065】
式における「θ」は、「正当方位角」を意味する。ここで、本発明によれば、正当方角θを、直接的に観測する必要がない。当該携帯装置を円周方向に1周回すことによって、正当方位角は、例えばθ=0°,1°,2°,・・・,359°のように連続的に変化したものとみなされるからである。そして、本発明によれば、円周方向に1周回った後、その座標差からピッチオフセット及びロールオフセットを逆算することができる。
【0066】
ここで、位置のズレとして現れる座標差は、正当方位角θを変化させながら移動(歩行)した場合に、推定方位角dから得られる推定位置の蓄積の結果である。従って、前述の式によれば、東西方向座標差E及び南北方向座標差Nは、ピッチオフセットp及びロールオフセットrを伴った、正当方位角θ(0〜2πまでの変化)の積分によって表される。この式の中で、予め観測できている値(入力すべき既知の値)は、地磁気ベクトルの伏角φ(固定値)、南北方向座標差N、東西方向座標差Eのみである。
【0067】
更に、前述した実施形態によれば、ピッチオフセットp及びロールオフセットrを算出するために、テーブルを用いている。勿論、p=・・・及びr=・・・と表した式によってリアルタイムに算出することも可能であるが、多大な演算量を要する。そのために、pとN、及び、rとEの関係を、予めシミュレートした値を、テーブルに保持しておく。これによって、ピッチオフセット算出部114及びロールオフセット算出部115は、N及びEに基づいてテーブルを引くだけで、p及びrを得ることができる。
【0068】
以上、詳細に説明したように、本発明の携帯装置、プログラム及び方法によれば、ユーザの円周移動によって取得した地磁気データ及び推定方位角からピッチオフセット及び/又はロールオフセットを算出し、そのオフセットによって重力ベクトルを補正することにより、携帯装置を保持する態様の個人差に関係なく、自律測位の精度を向上させることができる。
【0069】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0070】
1 携帯装置
101 加速度センサ
102 地磁気センサ
111 自律測位部
112 座標差導出部
113 円周移動期間検出部
114 推定方位角バッファ部
115 ピッチオフセット算出部
116 ロールオフセット算出部
117 アプリケーション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、
3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、
前記加速度データ及び前記地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角dを出力する自律測位手段と
を有し、重力ベクトルを推定する携帯装置であって、
ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、前記始動位置と前記終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する座標差導出手段と、
前記南北方向座標差Nに基づいてピッチオフセットpを算出するピッチオフセット算出手段、及び/又は、前記東西方向座標差Eに基づいてロールオフセットrを算出するロールオフセット算出手段とを有し、
前記自律測位手段は、前記ピッチオフセットp及び/又は前記ロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出する
ことを特徴とする携帯装置。
【請求項2】
前記ピッチオフセット算出手段は、前記南北方向座標差Nと、前記ピッチオフセットpとが、以下の式を満たすように対応付けられたピッチオフセットテーブルを有し、
【数1】

φ:所定の地磁気ベクトルから重力ベクトルに対する伏角
d:1歩毎の推定方位角
θ:円周移動によって得られるdの変化を0〜2πの連続的変化に近似した方位角
当該ピッチオフセットテーブルを用いて、当該南北方向座標差Nから、ピッチオフセットpを導出するものであり、
前記ロールオフセット算出手段は、前記東西方向座標差Eと、前記ロールオフセットrとが、以下の式を満たすように対応付けられたロールオフセットテーブルを有し、
【数2】

当該ロールオフセットテーブルを用いて、当該東西方向座標差Eから、ロールオフセットrを導出する
ことを特徴とする請求項1に記載の携帯装置。
【請求項3】
円周移動中に、前記自律測位手段から出力された推定方位角dを蓄積する推定方位角バッファ手段と、
ユーザ所持に基づく当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った円周移動期間を、前記推定方位角バッファ手段に蓄積された推定方位角dから検出する円周移動期間検出手段と
を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯装置。
【請求項4】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、
3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、
を有する携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるものであって、
前記加速度データ及び前記地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角dを出力する自律測位手段と
してコンピュータを機能させる、重力ベクトルを推定するプログラムであって、
ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、前記始動位置と前記終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する座標差導出手段と、
前記南北方向座標差Nに基づいてピッチオフセットpを算出するピッチオフセット算出手段、及び/又は、前記東西方向座標差Eに基づいてロールオフセットrを算出するロールオフセット算出手段とを有し、
前記自律測位手段は、前記ピッチオフセットp及び/又は前記ロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出する
ようにコンピュータを更に機能させることを特徴とする携帯装置用のプログラム。
【請求項5】
前記ピッチオフセット算出手段は、前記南北方向座標差Nと、前記ピッチオフセットpとが、以下の式を満たすように対応付けられたピッチオフセットテーブルを有し、
【数3】

φ:所定の地磁気ベクトルから重力ベクトルに対する伏角
d:1歩毎の推定方位角
θ:円周移動によって得られるdの変化を0〜2πの連続的変化に近似した方位角
当該ピッチオフセットテーブルを用いて、当該南北方向座標差Nから、ピッチオフセットpを導出するものであり、
前記ロールオフセット算出手段は、前記東西方向座標差Eと、前記ロールオフセットrとが、以下の式を満たすように対応付けられたロールオフセットテーブルを有し、
【数4】

当該ロールオフセットテーブルを用いて、当該東西方向座標差Eから、ロールオフセットrを導出する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項4に記載の携帯装置用のプログラム。
【請求項6】
円周移動中に、前記自律測位手段から出力された推定方位角dを蓄積する推定方位角バッファ手段と、
ユーザ所持に基づく当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った円周移動期間を、前記推定方位角バッファ手段に蓄積された推定方位角dから検出する円周移動期間検出手段と
してコンピュータを更に機能させることを特徴とする請求項4又は5に記載の携帯装置用のプログラム。
【請求項7】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、
3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、
前記加速度データ及び前記地磁気データを用いて重力ベクトルを算出すると共に、自律的に測位した推定方位角dを出力する自律測位機能と
を有する携帯装置について、重力ベクトルを補正する方法であって、
ユーザの行動に基づいて、当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った際に、前記始動位置と前記終動位置の座標差から、南北方向座標差N及び東西方向座標差Eを導出する第1のステップと、
前記南北方向座標差Nに基づいてピッチオフセットpを算出し、及び/又は、前記東西方向座標差Eに基づいてロールオフセットrを算出する第2のステップと、
前記自律測位機能が、前記ピッチオフセットp及び/又は前記ロールオフセットrによって補正した重力ベクトルを用いて推定方位角dを算出する第3のステップと
を有することを特徴とする重力ベクトル補正方法。
【請求項8】
前記ピッチオフセットpの算出には、前記南北方向座標差Nと、前記ピッチオフセットpとが、以下の式を満たすように対応付けられたピッチオフセットテーブルを有し、
【数5】

φ:所定の地磁気ベクトルから重力ベクトルに対する伏角
d:1歩毎の推定方位角
θ:円周移動によって得られるdの変化を0〜2πの連続的変化に近似した方位角
当該ピッチオフセットテーブルを用いて、当該南北方向座標差Nから、ピッチオフセットpを導出し、
前記ロールオフセットrの算出には、前記東西方向座標差Eと、前記ロールオフセットrとが、以下の式を満たすように対応付けられたロールオフセットテーブルを有し、
【数6】

当該ロールオフセットテーブルを用いて、当該東西方向座標差Eから、ロールオフセットrを導出する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項7に記載の重力ベクトル補正方法。
【請求項9】
円周移動中に、前記自律測位手段から出力された推定方位角dを蓄積し、
ユーザ所持に基づく当該装置が、始動位置と終動位置とが一致するように円周方向に一周回った円周移動期間を、前記推定方位角バッファ手段に蓄積された推定方位角dとから検出する
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の重力ベクトル補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−212234(P2012−212234A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76459(P2011−76459)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】