説明

自走力を有するイオン雲を利用した除電装置

【課題】イオン雲を自走力で静電気に到達させて中和させる除電装置を提供する。
【解決手段】針状電極1と接地電極3に電源2から電力を供給し、当該針状電極1の針端であるコロナ発生部7から空間8にイオンを充満させ、この状態で衝撃圧力発生装置5により空間6と前記空間8に衝撃圧力を印加することによって、リング状のイオン塊が回転しながら自走して静電気に自力で到達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
静電気除去に関する
【従来の方法】
【0002】
種々の技法が静電気対策として開発されているが、除電装置はその優れた特性により繊維・印刷・石油化学・粉体・バイオ・医療・ナノテク・セキュリティ・エレクトロニクス・等に用途が拡大され、いずれの業界でも重宝されている。その結果、対象となる静電気の種類と使用場所の多様性に対応して、種々の形式のものが市販されている。
しかしながら、基本原理は「発生させた除電用のイオンの再結合で静電気を中和消滅させる」であるから、除電装置の動作原理に関しては、人為的にイオンを発生させる、生じたイオンのうちの一部は静電気の一部を再結合で中和消滅させる、一部のイオンは静電気の一部と双極子的結合をおこない電界強度を低下させる、一部のイオンは荷電作用をおこない逆帯電を生じる、一部のイオンは大地に流出する、と定性的に説明するだけで、どの部分が再結合し、どの部分が双極子的結合を生じ、どの部分で逆帯電が生じるか定量的な説明はおこなわれていない。定量的説明をおこなうためには、学術的手法としてポアソンの式を解くことからはじめなければならないが、電荷分布を現場測定できる計器が得られていないので、いまのところ正解は得られない。やむを得ずダストフィギュアーやフィールドメーターで得られた測定値と障害発生状況とを勘案して除電装置の材質・形状・イオン発生原理等の改良と現場での使用条件の検討を進めている。
以上のようなことから、除電装置の改良とは、イオン発生様式としてのX線・紫外線・高電圧等の応用方法、電極材料と形状による寿命変化や除電効率の向上、気流やイオン輸送管による作用域の拡大または限定等が主となり、再結合によるイオンの消滅に関しては経験的な蓄積に依存してきた。実際問題として、これらの状況は各社のカタログ類から以下のように推察できる。
狭い場所から狙ったワークを確実に除電する小型設計、チューブ利用で除電エリアのレイアウト自由な回転自由のノズル方向、送風による誘導域の2倍化、攪拌したイオン空間のフィードバックによるイオンバランス、ノズル噴出による除塵と除電との一体化したエアーガン、性能抜群のX線除電等
【参考資料】
(1)(財)日本電子部品信頼性センター発行 第16回信頼性・ESD対策技術展示会技術資料集 2006.11
(2)静電気ハンドブック 静電気学会編 2000.11.
【従来の方法の問題点】
【0003】
除電装置の動作に関する学術的な正解の有無に関係なく、評価方法と適正な使用方法をメーカーは要求される。関係者が種々検討した結果、帯電プレートモニター法が除電装置の性能評価方法として現在公認されている。
帯電プレートモニター法とは15cm×15cmの平行平板電極で20PFのコンデンサーを形成し、直流電圧で充電したものを静電気と見倣し、除電装置で除電したときの電位の減衰を特性とするもので、以下のような潜在的な問題が残されている。
(1)導体の電位は接地等で0にすることができる。しかし、絶縁物では、それの全体を0電位にすることは特別の場合を除き不可能に近い。
(2)導体であれば、電位を0にすれば電荷量も0になる。絶縁物の場合には、正電荷の和と負電荷の和が0であれば帯電量は形式的に0であるが、静電気の作用は0にならない。
すなわち、導体と不導体とでは、電位・電荷量・電界・静電容量の意味が異なる。それゆえに、帯電プレートモニターで評価した除電装置の性能では、デバイスのような微細加工された複合材の除電に必要な性能を評価することができないので、除電とは「帯電体の電位を0またはそれに近い値に近づける」を廃し、「帯電体のいずれの場所でも電荷密度を0またはそれに近づける」に変更し、それに基づいて設計・施行及び評価をおこなうことが必要となる。
【発明の解決しようとする課題】
【0004】
静電気がつくる電気力線に沿って除電用イオンは移動し、正イオンは負の静電気に、負イオンは正の静電気に吸引付着して静電気を中和消滅させる除電装置であれば、除電に関する経験的知識がなくても良質の除電が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
帯電体のいずれの場所でも電荷密度が0またはそれに近い状態になるように除電用イオンが進行するためには、必要量の除電用イオンが必要な場所に移動する自走力を保持させることが必要である。除電用イオンはクーロン力等によって吸引方向または反撥方向に自走力を得る。したがって、吸引力と反発力を適宜組み合わせると自走力の方向と大きさは決まる。また、自走力を得たイオンは慣性の法則で障害がない限り自走力を維持する。したがって、除電用イオンの必要量を設定し、自走力を調整すればいずれの場所も電荷密度が0またはそれに近い除電が可能となる。
なお、自走力をイオンに付与する方法としては、イオン雲に衝撃圧力を付与すると空気力学でイオン雲が噴出自走する、正または負の電荷を供電した電極とイオンとの間の吸引力または反発力を利用して自走力を付与する、生じたイオン相互の反撥または吸引力で自走力を発生する、光圧力でイオンに自走力を保持させる、圧電トランス等の超音波でイオン発生と自走力を発生させる等種々の方法がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以上の発明の実施は、図1、図2および図3の基本要素とこれを現場使用するための付属的部分とで構築されることになる。図1は除電用イオンを搬送するための気流を使用しない、除電装置自体も気流を生じない、除電装置からの漏洩電界はない、しかし、遠方に除電用イオンは自力で移動できるという本発明の動作の説明図で、実用機としての付属的なものは図面では省略している。
図中の1は高電圧を印可した針状電極である。ただし、使用目的によって、線状、円板状、円筒状等に変形する必要がある。また、イオン発生源は図1ではコロナ放電であるが、X線・α線等の放射線や衝撃波等を使用する場合がある。2は高電圧電源で電極1にコロナ放電を発生させる電力を供給する。3は電極1との間にコロナを発生させるための接地電極で、図1では針電極1と同心円的に配置される。4は除電装置の外形構造をかねて電極1と3及び衝撃圧力を発生させる装置5を保持し、かつ、密閉状態のイオン空間6を形成する容器である。7は針端のコロナ発生部で、イオンは電極1と接地電極3との間の空間8を充満させる。
この状態で、衝撃圧力が圧力発生装置5によりイオン空間6と8に印加されると、空気力学でよく知られているように、図2のようなリング状のイオン塊が8から回転しながら外部に放出され、リングは自走を開始する。
図2は放出されたイオンの状態を示す図で、9はイオン塊、10はイオン塊の回転方向、11はイオン塊の自走方向である。
実際には、用途によって、電極3の形状は長方形、スリット状、三角形等にする場合があり、それに応じて電極1や衝撃圧力発生装置5や容器形状等は適宜設計変更する必要がある。
つぎに、図3は除電用イオンの電気力で除電用イオンが被除電物に到達するように除電イオンを動作させる本発明の説明図で、走行するフィルムの場合を例として説明する。
図3(1)で、12は帯電したフィルム、13・14は本発明の自走力を有する除電用イオン発生装置で、13が正イオンであれば14は負イオンを発生させるように極性は13と14とでは反対になるように電源を接続する。ただし、直流でも交流でもよい。15・17・19はイオン発生機13から発生したイオン塊、16・18・20はイオン発生機14から発生したイオン塊である。図3(2)では、12は帯電したフィルム、21と22は従来の除電装置で21と22は極性が正反対である。ただし、電源は直流でも交流でもよい。また、21・22は超音波による衝撃電離を利用した除電装置でもよい。
図3の除電装置の動作は以下のようにおこなわれる。
図3(1)でイオン発生装置13・14で生じたイオン塊は自走力でフィルムの進行方向(矢印)に追走し、その間、正負のイオン間のクーロン力でフィルム表面に進行し、フィルムを除電する。図3(2)の場合も除電用イオンのクーロン力でフィルムに到達し、ほぼ完全に除電する。ただし、除電装置のイオン供給力が弱いときには並列で使用することになる。
なお、このような正負イオンの対称的供給では、正負イオンの方向が180°異なるので、外乱に対しては相殺的となる。また、図3(1)で14を省略すると、イオン塊15・17・19は自身のイオン間の反撥力で半径方向に拡散し、フィルムに自力で到達する。
つぎに、図4は図3の本発明を製品化した場合の一例で、正と負のイオンのクーロン力で被除電物へ除電用イオンを到達させるかわりに、除電用イオンの映像力で除電用イオンを被除電物へ到達させる場合で、帯電したフィルムを例として説明する。
図4で12は帯電したフィルム、14は除電装置、16、18、20は除電装置から放出された除電用イオン塊、23は接地された導体で、この場合は平面状で、イオン塊に映像を生じさせ、イオンと映像との間の力でフィルム方向への自走力をイオンに発生させる。なお、23のかわりにいくつかの電極を設け、これに適切な荷電をおこなうことによってイオン流の大きさと自走方向を制御し高度の除電をおこなうことが本発明の目的である。
【実施例1】
【0007】
図5はICトレー・CD/DVDの表面の除電・LCDモジュール圧接部等の除電に汎用されているクリーンエアー噴出高周波型薄型除電装置とほぼ同じ用途に本発明を使用した場合で、図はICトレーの除電の説明図で実務的な諸部分は省略してある。
図5で、24は作業台、25はICトレー・26は本発明の除電装置で、27はクリーンエアー供給用パイプ、28はイオン塊進行方向である。なお、27のクリーンエアー供給管は原理としては不必要であるが、IC関係では無塵状態が重要であるから、イオン塊が無塵状態であるように図1の6・8のイオン発生空間及び除電用イオン塊を無塵状態に維持するために実用時に付加するものである。
【発明の効果】
【0008】
IC関係では無塵状態ですべての作業がおこなわれるが、クリーンエアーは高価であるがため、エアーの節約が至上命令である。本発明はエアーをジェットで噴出することなく回転リングとして放出するので、従来は5l/minが最小と称されている噴出エアーを0.5l/min以下に節約することができた。また、本発明では噴出気流によるイオン密度の不均一が生じないので均一除電が可能となった。
【実施例2】
【0009】
図6は作業空間全体を一様除電しなければならない作業場、たとえば偏光板製造工場・自動車塗装工場・複写機組立工場・プラスチック工場等では清掃時等に舞い上がる帯電した微粒子が仕掛品に再付着することから生じる不良率が高い。この様なところでは広範囲に無風で除電用イオンを広範囲に撒布しなければならない。図6は本発明の実施例で、除電装置を直列的・並列的に作業に支障のないように配置する。図6で、29は除電装置をとりつける支柱、30、31、32、・・・は除電装置である。図では支柱は大地に直立状であるが用途によって適宜に配置を選択することは当然である。
【効果】
【0010】
仕掛品の除塵・除電をガスコンロメーカーの塗装工程に使用したところ、従来品に比べ不良率が1/10に減少した。さらに、正イオン用除電装置と負イオン用除電装置を対称的に配置したところ、正負イオンの再結合で重量増加した浮游粒子は沈降速度が大となり、不良率は1/100に減少した。
【実施例3】
【0011】
図7は凹凸面の除電に本発明を利用した場合の説明図で、従来の方法では充分な除電ができなかった凹凸面の凹部の除電を可能にするものである。図7で33は凹凸面を有する帯電体、34は除電装置が発生した回転リング状の除電用イオン、35はイオンの自走方向、36と37は表面の凸部、38は表面の凹部である。なお、図中のlはリングの厚み、Lは凹部の幅、rはリング半径である。
従来の除電装置が供給するイオンは帯電体の上面を覆う形となるので、イオンは36や37の凸部に集中し、38の凹部には到達しなかった。本発明の除電イオンはリング状で、リング厚みlが凹部の幅Lより小さいと、電気力線は凹部の底面38に到達するので除電が可能となる。なお、リング厚みは衝撃圧力幅に比例するので、圧力発生は急激なパルス圧発生器による。また、リングは矢印方向に進行中にリング半径rを拡大し、速度を低下させながら矢印方向に進行する。それゆえに、幅Lとそれの深さによってリングの初速度と半径を調節するようにイオン発生装置のイオン量、圧力、等を設計することは当然である。以上のように、凹部の除電とは凹部に除電イオンを輸送することであるから、図3のような除電装置の配置が効力を増進させる。
【効果】
【0012】
従来困難であった凹凸面の除電や組立後の立体的な細部の除電が可能となった。基盤上LEDの放電破壊防止に使用したところ、破壊が0となった。また、リレー生産でも不良率が0となった。
【実施例4】
【0013】
図8は成型品やフィルム等の剥離時の静電気除去に本発明を利用した場合の説明図で、図8はフィルムの剥離時を示すものである。図8で、39は型台、40は剥離するフィルム、41は除電装置、42は自走する除電用イオンリングである。43は剥離中の部所である。なお、図のような固定型からの剥離であれば剥離場所は41の除電装置の側から剥離に向かって遠ざかるので、リング走行方向42は動作に応じて角度変更が必要な場合がある。ただし、ロール引きされるような場合の剥離では剥離位置は定位置となる。
【効果】
【0014】
剥離直後の箇所にイオンリングのみが供給されるので、従来の除電装置に比べると残留電荷がほとんど生じない。ダストフィギュアー法で残留電荷をしらべたところ、残留電荷のない良質の除電であった。
【実施例5】
【0015】
フィルム製造工程で延伸したフィルムの静電気除去に図3のように本発明の除電装置を配置して除電用イオンのクーロン力で除電するよう装置を配置した。
【効果】
【0016】
除電後のフィルムのダストフィギュアーを作成したところ、ダストの付着がなかった。従来のものとは格段に質のよい除電となった。
【実施例6】
【0017】
図9は粉体装置・液体攪拌反応装置等の静電気の除電に本発明を利用した場合の説明図で、図は攪拌反応槽に使用した場合である。図9で、44は攪拌翼、45は攪拌される液体・46は反応槽・47は本発明の除電装置である。一般に粉体をバッグフィルターで捕集するとき、反応槽で絶縁性の液体を攪拌するとき等には強い静電気が発生し、種々の障災害を生じる。すなわち、反応槽では、容器や攪拌翼が腐食されないようにガラスライニング等のコーティングを施しているが、コーティング面が静電気で破損する。また、可燃物であれば静電気放電で着火する等の障災害となる。本発明のようにイオン塊を自走力で液面に到達させると静電気は中和消滅し、槽の破壊や着火爆発が防止できる。
【効果】
【0018】
反応槽に利用したところ、コーティング面の静電損傷がなくなった。また、可燃物の場合、静電気放電が生じないので着火が生じなくなった。粉体攪拌の場合には静電凝集がなくなった。
【実施例7】
【0019】
図10は粉体やペレット等のパイプ輸送等に本発明を利用した場合の説明図で、48はパイプ壁、49と50は本発明の除電装置で、輸送用パイプ径が大になる程除電装置の数は増加する。51はパイプ輸送中の粉体雲、52は除電用イオン、53はパイプに流入する粉体流、54は流出する粉体流である。粉体はパイプ壁と衝突まさつ帯電しながら矢印方向に移動し、サイロやバグフィルターまたは容器に流入するので、帯電していると静電気障災害を生じる。
静電気を0にすればよいので、本発明の除電装置でパイプ輸送中の粉体雲に除電用イオンを混合した。
【効果】
【0020】
従来の針状電極からコロナを発生させる除電装置では、コロナ発生部に粉体等が蓄積されるので、メンテナンスが難しかった。また、イオン雲の粉体への除電作用は均一でなかったことから種々の問題が生じた。
本発明の除電装置では、図1のイオン空間6と8への粉体の流入を防止するために、6と8は高圧力化されているのでメンテナンスフリーとなった。また、イオンリングが回転状態でペレットや粉体流に投入されるので均一除電が可能となり、従来のような輸送障害が生じなくなった。
【実施例8】
【0021】
図11は内容積に対して口細の容器内の静電気除去に本発明を利用したときの動作の説明図で、中心軸で容器及び除電装置を断面図化したものである。図中の55は除電装置、56は容器壁、57・58・59・60・61は除電用イオンの進行位置、62・63・64・65・66・67はイオンの自走力の大きさと方向を制御するための電極で、図には記載していないが別に設けた制御用電源からそれぞれに必要な電荷量が供給される。
55から発進した除電用イオン塊は自走力で容器内に進入し、57の位置では62の制御電極との間の吸引力で一部の電荷が壁面電荷を中和し、残部は前方に進行する。イオンは58・59・60・61と進行しながら電極63・64・65・66・67に吸引または反撥されながら壁面電荷を中和させる。ただし、制御電極へ供給する制御用電荷の大きさと時間は除電装置が発射する除電用イオン及び容器静電気の大きさとの関係で決まるので、据付後の調整実験で調整する。
【効果】
【0022】
粉状医薬品や試薬等で問題視されていた容器内静電気の除去が可能となり、静電付着で容器内に残留する薬品の損失がほとんどなくなった。
【実施例9】
【0023】
図12、図13、図14は、帯電体のいずれの部所でも電荷密度が0またはそれに近いように除電するために、図1、図2、図3の自走力のある除電用イオンの自走方向と自走力を調整する使用例の一つで、一般に重畳法とよばれるものの説明図である。
図3(1)のイオン塊15と16との間、または図3(2)の21と22から放出されたイオン塊の間には図12の71の線図のように中心線上で最も強い自走力が生じ、中心線を離れると急激に自走力は低下する。ただし、図12の68は正イオン塊69と負イオン塊70との対称平面で、イオン塊69と70を結ぶ線が自走力分布図の中心線である。
ところで、図12のような自走力分布図は、イオン塊70を電荷を供電した導体に置換しても得られる。そこで、図13のように自走力調整用の電極72、73、74、75を対称面68の近傍に配置し、図には記載していないが別に設けた電源からそれぞれに制御用電荷を供給すると、イオン塊の自走力分布は図14のように、イオン塊69と電極72との間の分布76、イオン塊69と電極73との間の分布77、イオン塊69と電極74との間の分布78、イオン塊69と電極75との間の分布79の総和がイオン塊69の自走力分布となり、いずれの場所でもほぼ一様の80となる。
上記した一様密度で除電可能にしたものA・B・Cの3台を一軸延伸フィルム装置の進行方向に配置し、Aで一様に弱く逆帯電させ、その後Bで微弱な再除電をおこない、最後にCで電荷密度0の分布状態となるように極微弱除電をおこなったところ、残留電荷がほぼ0の除電効果が得られた。
【効果】
【0024】
帯電体の電位を降下させる従来の除電装置では、帯電体のいずれの場所でも電荷密度が0、またはそれに近い状態の除電をすることが難しかった。本発明の除電用イオンをほぼ等しい電荷密度でいずれの場所にも供給できる除電装置で段階的に帯電体の電荷密度を低減させることによって無帯電に近い状態にまで除電することができ、従来にない高品質の除電が可能になった。
【実施例10】
【0025】
自走力を有するイオン雲を利用する除電装置には、自走中のイオン雲が同極性電荷間の反発力で雲径が拡散拡大する性質がある。拡大速度はイオン密度が大きい程大であるから、正イオンと負イオンを交番的に配置して電気粘性を大にし雲径拡大を小さくすることはできる。ただし、正負イオンの交番発生でもイオン発生部のイオン発生密度以上のイオン雲にはならない。
図15はイオン雲を高密度に収斂するための電極の配置図で、81・82・83・84は球状または楕円球状またはそれに近い形状の電極で、85は交番電源、86は動作を説明するためのイオン、87は86の移動方向の転換点、88はイオン雲の収斂点、89と90はイオン86の移動方向転換点で、電極81と83、電極82と84は同極性になるように、81と82は異極性となるように電源85に接続され、動作は以下のように進行する。
イオン86と電極84が正極性、電極83が負極性とすると、86は84から反撥力、83から吸引力をうけて87の方向に移動する。ここで、電源の極性が反転すると86は89の方向に移動する。電源の極性が再度反転すると、イオンは89から90の方向に反転する。以後同様にして86は収斂点88に収斂する。なお、電極81、82,83,84で囲まれた域内でのイオンはすべて86と同様の移動をするので、88を中心とした高密度イオン雲が得られる。
以上の動作原理で、図15には記載していないが、図面の上方に位置した除電装置から電極空間に流入したイオン雲は電極の収斂作用で88を中心に収斂し、高密度イオン雲を形成しながら図15の裏面の方向に自走し、高密度微小半径の除電用イオン雲となる。
本発明をイオンエアー搬送用のチューブやパイプに装着したところ、搬送距離10mでもイオン濃度はほとんど減すいしなかった。
【効果】
【0026】
従来は微小面積の除電はできないとされていた。本発明の収斂径0.3mmの除電装置をGMRヘッド生産工程中に生じる微小部分帯電の除電に使用したところ、不良品の発生率が1/50に減少した。
【実施例11】
【0027】
集積度向上のために層状化されたIC等で、工程中に生じた静電気が除去不十分なままに加工されると静電気が内部に閉じこめられ、表面の帯電とは異なった障害を発生させる。
図16は内部に閉じこめられた静電気を外部に自走させる除電装置の動作の説明図で、外部に漏出した静電気は従来の除電装置で除電されるので、図16では表面電荷の除電は記載していない。
図16で、91は帯電体の表面、92は内部電荷の位置、93と94は内部電荷92に自走力を付与する電極、95は電極を励起する電源、96は内部電荷の自走方向である。
動作は図15と同じであるが、固体絶縁物中の内部イオンの自走力は電源周波への依存性が高い。絶縁物の種類によって変える必要がある。
【効果】
【0028】
熱刺激微電流がほとんど生じない素材製作のために本発明を利用したところ、熱刺激微電流がほとんど生じないものを生産することができた。
【実施例12】
【0029】
図17は板状絶縁物に0.5mmφの微細孔を穿ったときの細孔表面の静電気を除去する場合の説明図で、97は板状絶縁物、98は細孔、99は衝撃イオン発生機、100はイオン発生部で、半径は細孔の約1/2で、加工によっては0.01m・mφまで可能である。
細孔の中心線と衝撃イオン発生機の中心線とが一致するように配置し、衝撃イオン発生機を励起させると除電用イオンはイオン発生部100から細孔に向かって自走し、壁面電荷を中和しながら前進する。ところで、ここでいう衝撃イオン発生機とは圧電トランスなどの出力側に生じるイオン発生をそのまま除電装置に利用するもので、イオン発生は圧電子の衝撃力による界面の衝撃波によるものである。なお、衝撃波により空気の電離する現象は相当古くから知られている現象であるが、除電装置に利用された例はない。
【効果】
【0030】
固体絶縁物を穿孔したときに生じる壁面静電気の除電方法は得られていなかった。本発明で細孔の除電が可能となったので、基盤加工工程に利用したところ、塵埃付着による不良発生がなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】 自走力を有するイオン雲をコロナ放電と衝撃波で発生させる装置の説明図
【図2】 自走力を有する回転環状除電用イオンの概略図
【図3】 除電用イオン塊相互のクーロン力で被除電体に除電用イオンが自走付着する動作の説明図
【図4】 除電用イオンの映像力で被除電体に除電用イオンが自走付着する動作の説明図
【図5】 ICトレーの除電に本発明の除電装置を利用したときの動作の説明図
【図6】 作業場全体を一様除電する場合に本発明の除電装置を利用した場合の除電装置の配置例
【図7】 凹凸面のある被除電体の凹面の除電に本発明を利用した場合の凹面除電の説明図
【図8】 剥離帯電の除電に本発明の除電装置を利用した場合の動作の説明図
【図9】 攪拌溶剤槽内の絶縁性液体の攪拌帯電の除去に本発明の除電装置を利用したときの説明図
【図10】 粉体やペレットのパイプ輸送に本発明の除電装置を利用した場合の動作の説明図
【図11】 口細容器内壁面の静電気除去に除電用イオンの状態を制御電極で適正化した装置の説明図
【図12】 正負等量のイオン塊の間の自走力の分布図
【図13】 イオン塊の自走力分布を制御するための複数電極の配置例
【図14】 複数電極によるイオン塊の自走力分布を重畳法で求めた場合の説明図
【図15】 制御用電極でイオン雲を収斂させて高密度化する装置の説明図
【図16】 内部に閉じこめられた静電気を外部に自走させる除電装置の説明図
【図17】 衝撃イオン発生機でイオン発生と自走力をイオンに付与する装置の説明図
【符号の説明】
【0032】
1:針状電極
2:電源
3:接地電極
4:除電装置容器
5:衝撃圧力発生装置
6:イオン発生空間
7:コロナ発生部
8:接地電極と針電極との間のイオン空間
9:イオン環
10:イオン環の回転方向
11:イオン環の自走方向
12帯電したフィルム
13・14:除電装置
15・16・・・19・20:除電用イオン塊
21・22:除電装置
23:接地された導体
24:作業台
25:ICトレー
26:除電装置
27:クリーンエアー供給パイプ
28:除電用イオン進行方向
29:除電装置をとりつける支柱
30・31・32:除電装置
33:凹凸面のある帯電体
34:回転リング状の除電用イオン環
35:イオンの自走方向
36・37:帯電体の凸部
38:帯電体の凹部
l:除電用イオンリングの厚み
L:凹部の幅
r:イオンリングの半径
39:型台
40:剥離フィルム
41:除電装置
42:除電用イオン雲
43:剥離中の部所
44:攪拌翼
45:液体
46:反応槽
47:除電装置
48:輸送用パイプ壁
49・50:除電装置
51:パイプ輸送中の粉体
52:除電用イオン流
53:パイプに流入する粉体流
54:パイプから流出する粉体流
55:除電装置
56:容器壁
57・58・59・60・61:除電用イオン
62・63・64・65・66・67:制御用電極
68:正イオン塊と負イオン塊との対称面
69:正イオン塊
70:負イオン塊
71:正負イオン間の自走力分布図
72・73・74・75:自走力調整用電極
76・77・78・79:各電極とイオン塊との間の自走力分布
80:各電極とイオン塊との自走力の重畳値
81・82・83・84:イオン収斂用電極
85:交番電源
86:イオン
87・89・90:イオンの運動方向転換点
88:イオン雲の収斂点
91:帯電体表面
92:内部に閉じこめられた電荷
93・94:自走力付与電極
95:電源
96:内部電荷自走方向
97:板状絶縁物
98:細孔
99:衝撃圧力発生機
100:イオン発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人為的に発生させたイオン雲で静電気を中和消滅させる除電装置において、イオン雲に衝撃力で自走力を与え、除電用イオン雲が静電気に自走力で到達する除電装置
【請求項2】
人為的に発生させたイオン雲で静電気を中和消滅させる除電装置において、正電荷と負電荷との間の吸引力または同極性電荷の反発力で除電用イオン雲に自走力を与え、イオン雲が静電気に自走力で到達する除電装置
【請求項3】
人為的に発生させたイオン雲で静電気を中和消滅させる除電装置において、設定した電極に制御用電荷または電位を与えて除電用イオン雲の自走力の方向と大きさを制御した除電装置
【請求項4】
人為的に発生させたイオン雲をパイプ輸送して静電気を中和消滅させる除電装置等において、長さ方向に正負で一対になった制御用電極の複数対を対称的に設け、正負の電極間に交番電荷または電位を与えることによって除電用イオン雲を電極対の中心に自走させ、高密度用イオン雲化した、または長距離輸送を可能にした除電装置
【請求項5】
人為的に発生させたイオン雲で静電気を中和消滅させる除電装置において、固体または液体の内部に存在する静電気に設定した電極の交番電荷または電位で自走力を与え、内部の静電気を浮上させ、除電する装置
【請求項6】
衝撃波で生じるイオンを利用した除電装置において、衝撃圧力発生用振動子のイオン発生点の衝撃圧力によりイオンに自走力を与えた除電装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−48985(P2009−48985A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243030(P2007−243030)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(591275894)
【Fターム(参考)】