説明

自転車の走行駆動機構

【課題】自転車の走行速度を高めるため、スプロケットのギア比を大きく取るように試みられているが、余りスプロケットの径を小さくすると滑りによる磨耗が激しくなり、適正な回転が早々に出来なることから自ずと限界がある。
【解決手段】本発明は、クランク軸を回転可能に貫通させた自転車フレームの本体にクランク軸の軸心と同じくする中空軸を設け、同中空軸上に駆動用スプロケットを回転可能に取り付けると共に、同駆動用スプロケットと前記クランク軸の間に遊星歯車機構を備えることで、倍速を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自転車の回転速度を高める走行駆動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車の走行速度を高めるため、駆動用スプロケットと後輪用スプロケットのギア比を大きく取るように試みられているが、余り一方のスプロケットの径を小さくすると滑りによる磨耗が激しくなり、適正な回転が早々に出来なくなり、ギア比による速度アップには自ずと限界がある。
【0003】
このようなことから、以下の特許文献1で見られるように、自転車の回転ストロークを変えることなく、クランクアームに固定クランクアームを配置させて回転主軸からペダルまでの距離を倍増することによって、回転トルクを倍増させるとするものなどが提案されているが、それらは新たなギアやチェーンを必要とするなど構造が複雑化されている。
【0004】
また、自転車の速度が高まったとき、ペダルを漕ぐ速度を高めても自転車の速度に追いつかず、空回りに似たような状況となるが、これに対応するような提案はあまり見られない。
【0005】
この他、後で詳述するように、本発明で用いた遊星歯車機構を利用して速度を変えるとするものに、特許文献2で見られるような変速装置に用いることが示されている。これは変速装置であるが故に構造が複雑と成っており、且つ本発明で目的とする人それぞれの期待する走行に応じてのスプロケットの自由設計が出来ないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開2007−83811号公報
【特許文献2】 特開2005−280591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図2に一般的な自転車の概観図を示しているが、自転車本体のフレーム1に駆動用スプロケット2を回転させるためのクランクアーム3が、クランク軸を介して回転自在に取り付けられている。このとき、駆動用スプロケット2とクランクアーム3は同軸上に結合されている。
【0008】
このため、人力によりペダル4を漕ぐとクランクアーム3が回転し、同時に同方向に駆動用スプロケット2が回転する。これにより人力(駆動力)はチェーン5と後輪側スプロケット6を介して後輪7が回転する。このことによって、自転車に走行力を発生させることになっていることは周知の通りである。
【0009】
このときの動力の伝達を図3に模式化して示した。ペダル4を漕ぐ力をF1、後輪7を駆動する力をF2、自転車の走行力をF3とし、クランクアーム3の長さをr1、駆動用スプロケット2の半径をr2、後輪側スプロケットの半径をr3、そして後輪の半径をr4としたとき、以下の式が成り立つ。
F1・r1=F2・r2
F2・r3=F3・r4 → F2=F3・(r4/r3)
F1=F3・(r4/r3)・(r2/r1)
従って走行力F3は
F3=F1・r1・(r3/r4)・(1/r2)
となり、r2の径が小さいほど走行力が高まることが分かる。
【0010】
然しながらこの場合、走行速度が落ちると云う問題が起こることから適度な径とし、r3の径を小さくして回転数を稼ぐといったことが試みられることとなるが、簡易な構造で、且つ高速走行のみならず、登坂時の走行にも対応するといった思想の提案は見受けられない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、スプロケットとクランクアームの間に遊星歯車機構を介在させることで、現在用いられているスプロケットのギア比は同じとしても、クランクアーム1回転あたりのスプロケットの回転数を高められるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
このようにすることで、スプロケットの径を多様に選べることが出来、健脚者はより一層スピードを楽しんだり、山坂の走行を楽しんだりすることが出来ると云ったことに留まらず、一方のスプロケットの径を余り小さくしなくて済むと云ったことへの対応も出来、更には、機構が簡易なため安価に上述の効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、クランク軸を回転可能に貫通させた自転車フレームの本体に前記クランク軸の軸心と同じくする中空軸を設け、同中空軸上に駆動用スプロケットを回転可能に取り付けると共に、同駆動用スプロケットと前記クランク軸の間に遊星歯車機構を備えたことを特徴とする自転車の走行駆動機構としている。
【0014】
更に詳しくは、前記遊星歯車機構のサンギアを固定として、プラネットギアを入力、インターナルギアを出力として取り付けることにより、遊星歯車機構に増速機能を持たせたものである。
【0015】
このとき、更に増速させたい場合は、遊星歯車機構をもう1段、或いは複数段組み合わせることにより、これを達成することが出来る。つまり、サンギアを固定として、プラネットギアを入力、インターナルギアを出力とする遊星歯車機構のインターナルギアの出力取付軸を、他方の遊星歯車機構に接続する合せ板に取付け、同合せ板から入力取付軸を介して増設する側の遊星歯車機構のプラネットギアへ回転力を伝えるようにしたものである。
【0016】
このように本発明は、クランク軸と中空軸の軸心上を自由に回転する駆動用スプロケットの間に遊星歯車機構を取り付ける簡便な機構でクランクアームの回転を増速して駆動用スプロケットに伝えるようにしたものである。
【実施例】
【0017】
図1を用いて説明すると、自転車本体のフレーム12に中空軸11が取付けられており、同中空軸11の外周には駆動用スプロケット10がベアリング14や、スペーサー15を介在させて回転可能に取付けられている。
【0018】
前記中空軸11の内部はクランク軸13が回転可能に貫通し、ボルト20によってクランクアーム16と連結されており、クランクアーム16の回転力は連結部21と遊星歯車機構23のプラネットギア18が締結部材19で結合されているので入力として伝わることとなる。
【0019】
プラネットギア18により入力として伝わった回転力はサンギア28が中空軸11に固定されていることから、インターナルギア22は出力として機能し、この出力は締結部材24を介して駆動用スプロケット10に伝わる。
【0020】
このとき、サンギア28の歯数をZa、インターナルギア22の歯数をZcとしたときの増速回転数は(Za+Zc)÷Zcの関係が成り立ち、例えば、歯数を各々Zaを100、プラネットギアZbを25、Zcを50としたとき、クランクアーム16の1回転あたりの入力回転数に対して1.5回転の増速を成すことが出来る。
【0021】
これを2倍近く、もしくは2倍以上の増速を成すためには、遊星歯車機構を複数段組合すことにより達成できる。これを図4を用いて説明すると、遊星歯車機構23・25を貫通したペダル軸13は図1で説明したのと同様に、クランクアーム16の連結部21に連結されており、クランクアーム16の回転力は締結部材19を介して、プラネットギア18に入力として伝わり、インターナルギア22に出力として伝わる。
【0022】
このとき、サンギア28は締結部材31を介してここでは図示されていない中空軸11に固定された他方のサンギア32と固定的に結合されている。
【0023】
従い、前記出力は出力取付軸24及び合せ板27に回転力として伝わり、入力取付軸26を介して遊星歯車機構25のプラネットギア29に入力として回転させるようにし、これをインターナルギア30が受けて、出力として2倍近く、もしくは2倍以上の回転数となって出力する。
【0024】
以上のような構成とすることで、通常、クランクアームの回転数が一定になるように走ると、エネルギー効率が高いとされているが、このとき、変速機で速度を調整し、クランクアームの回転数は変えないように走行するのが望ましく、本発明のようにクランクアームからの入力(回転数)を最初から高く設定出来れば、より効果的な走行が出来る。
【0025】
つまり、自転車による高速走行にあっては、ある一定の回転数よりも回転数が上がると、回転数の上昇と共にペダルに加えられる力は減少していき、最終的には馬力は低下していくが、倍速機能が発揮されることにより、ペダルに加わる力は減少するとして、回転そのものはより高く設定した状態での走行を可能とするものである。
【0026】
更にまた、駆動用スプロケットと後輪用スプロケットの歯数の比であるギア比は磨耗等の物理的な面より限定されるが、本発明によればもともとのクランクアームよりの入力回転数を増やすことが出来るので、例えば、登坂での走行にあっては、人と自転車を持上げる力を必要とすることから、後輪側に大きなトルクをかける必要があり、ギア比を小とすることが望ましく、このことに対して、従前の自転車に比し、駆動用スプロケットの径を小さくて且つ回転数を同じとすることも出来るので、好ましい走行状態を提供できることとなる。
【0027】
このように本発明に依れば、多種の走行要求に対して、スプロケットをどのようにするかと云った設計上の自由度を増やすことが出来るものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、比較的簡易な機構で走行力を高めることが出来、また、体力に応じてその高める程度を変えることが出来るので、健脚者には健脚者なりの、また体力的弱者には弱者なりの健康増進的な使い方が出来る乗り物を提供するものであり、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の駆動力伝達機構で、一部部分断面を示すものである。
【図2】従来用いられている一般的な自転車の概観図。
【図3】図2で示した自転車における駆動力の伝達を模式化した図。
【図4】図1に示した本発明の駆動力伝達機構による回転速度よりも、更に増速させるための機構を示す。
【符号の説明】
【0030】
10…駆動用スプロケット
11…中空軸
13…クランク軸
16…クランクアーム
17…インターナルギア
18…プラネットギア
23…遊星歯車機構
28…サンギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を回転可能に貫通させた自転車フレームの本体に前記クランク軸の軸心と同じくする中空軸を設け、同中空軸上に駆動用スプロケットを回転可能に取り付けると共に、同駆動用スプロケットと前記クランク軸の間に遊星歯車機構を備えたことを特徴とする自転車の走行駆動機構。
【請求項2】
遊星歯車機構のサンギアを固定として、プラネットギアを入力、インターナルギアを出力として取り付けた請求項1に記載の自転車の走行駆動機構。
【請求項3】
遊星歯車機構のサンギアを固定として、して、プラネットギアを入力、インターナルギアを出力とする遊星歯車機構のインターナルギアの出力取付軸を合せ板に取付け、同合せ板から入力取付軸を介して増設する遊星歯車機構のプラネットギアへ回転力を伝えるようにした請求項1に記載の自転車の走行機構

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25365(P2012−25365A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178061(P2010−178061)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000171908)