説明

自転車用スプロケット

【課題】 合成樹脂製の内側固定部を有する自転車用スプロケットにおいて、軽量化を図れかつ合成樹脂の劣化や変形に起因する締め付け力の低下を防止できるようにする。
【解決手段】 自転車用スプロケット71は、自転車のギヤクランク51にボルト80により固定され外周に自転車駆動用のチェーンが巻回されるスプロケットであって、スプロケットリング部90と、内側固定部91と、筒状部材92とを備えている。スプロケットリング部90は、外周にチェーンが巻回されるスプロケット歯90aが形成されたものである。内側固定部は、ギヤクランクへの固定のための取付孔91eを有し、スプロケット歯形成部分の内周側でスプロケットリング部に連結される合成樹脂製のものである。筒状部材は、取付孔に装着され、ボルト80からの力を受けるための第1接触面92cを有する金属製の部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプロケット、特に、自転車の回転駆動部に装着され外周に自転車駆動用のチェーンが巻回される自転車用スプロケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自転車には、一般に、前後のスプロケットと、それに巻回されたチェーンとを有する駆動部が設けられている。前スプロケットは自転車のギヤクランク(回転駆動部の一例)に設けられ、後スプロケットは自転車のフリーハブ(回転駆動部の一例)に設けられている。この種の自転車用スプロケットは、JIS H4000のA2014P等のアルミニウムやJIS G3141のSPCC等の鉄を素材として用いている。変速のためにギヤクランクやフリーハブに複数のスプロケットを装着する場合、軽量化を図るためにアルミニウムを素材として採用している。
【0003】
また、さらに軽量化するためにスプロケット歯が形成されたアルミニウム製のスプロケットリング部とスプロケットリング部の内周に装着されギヤクランクに固定される炭素繊維素材製の内側固定部とを有する自転車スプロケットが従来知られている(特許文献1参照)。このスプロケットは、スプロケットリング部の内周部と内側固定部とを、スプロケットリング部と内側固定部とにそれぞれ形成された半円形の孔部に金属製のカシメピンを装着することにより固定している。また、ギヤクランクとの固定部部分には、段差を有する取付孔が設けられている。このような構造のスプロケットでは、通常は取付孔にボルト(固定部材の一例)を挿通してギヤクランクのスパイダーアームにスプロケットを固定している。
【特許文献1】独国実用新案第20218755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の自転車用スプロケットでは、内側固定部を構成する合成樹脂の経年劣化により固定力が低下することが懸念される。また、過剰なトルクでボルトを締め付けると合成樹脂製の内側固定部が変形し、やはり固定力が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、合成樹脂製の内側固定部を有する自転車用スプロケットにおいて、軽量化を図れかつ合成樹脂の劣化や変形に起因する固定力の低下を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1に係る自転車用スプロケットは、自転車の回転駆動部に固定部材により固定され外周に自転車駆動用のチェーンが巻回されるスプロケットであって、スプロケットリング部と、内側固定部と、筒状部材とを備えている。スプロケットリング部は、外周にチェーンが巻回されるスプロケット歯が形成されたものである。内側固定部は、回転駆動部への固定のための取付孔を有し、スプロケット歯形成部分の内周側でスプロケットリング部に連結される合成樹脂製のものである。筒状部材は、取付孔に装着され、固定部材からの力を受けるための第1接触面を有する金属製の部材である。
【0007】
このスプロケットでは、スプロケットリング部が連結され回転駆動部に固定される内側固定部は軽量な合成樹脂製である。この内側固定部には取付孔が設けられ、取付孔には金属製の筒状部材が装着されている。この筒状部材に例えばボルトなどの固定部材を挿通してスプロケットを回転駆動部に固定する。このとき、内側固定部ではなく筒状部材の第1接触面が固定部材からの力を受ける。ここでは、内側固定部に合成樹脂より経年劣化しにくい金属製の筒状部材を装着し、筒状部材の第1接触面が固定部材からの力を受けるので、軽量化を図るために内側固定部を軟質の合成樹脂製にしても、十分な固定力を確保しつつ回転駆動部との固定部分が変形しにくくなる。このため、合成樹脂の劣化や変形に起因する固定力の低下を防止できるとともにスプロケットの軽量化を図ることができる。
【0008】
発明2に係る自転車用スプロケットは、発明1に記載のスプロケットにおいて、筒状部材は、取付孔に軸方向移動不能に装着されている。この場合には、筒状部材が軸方向移動不能に装着されているので、第1接触面において固定部材からの力を確実に受けることができる。
【0009】
発明3に係る自転車用スプロケットは、発明1又は2に記載のスプロケットにおいて、筒状部材は、内側固定部と一体成形されている。この場合には、合成樹脂製の内側固定部に筒状部材が、たとえばインサート成形などにより一体形成されているので、軸方向移動不能に容易に装着できる。
【0010】
発明4に係る自転車用スプロケットは、発明1から3のいずれかに記載のスプロケットにおいて、筒状部材は、筒状部と筒状部より大径の鍔部とを有し、第1接触面は鍔部に設けられている。この場合には、鍔部を設けることにより、筒状部材を軸方向移動不能に内側固定部に装着できるとともに、大径の鍔部に固定部材と接触する第1接触面が設けられているので、第1接触面の面積が大きくなり、固定部材からの力を受けても面圧が小さくなる。また、内側固定部と筒状部材とを一体形成する場合には、鍔部を内側部材の中に埋め込むことにより、両部をより強固に一体形成できる。
【0011】
発明5に係る自転車用スプロケットは、発明1から4のいずれかに記載のスプロケットにおいて、筒状部材は、回転駆動部と接触する第2接触面を有する。この場合には、回転駆動部に対して金属製の筒状部材の第2接触面が接触するので、固定部材でスプロケットを固定したときに、筒状部材に力が作用する。このため、回転駆動部との固定部分がさらに変形しにくくなる。
【0012】
発明6に係る自転車用スプロケットは、発明1から5のいずれかに記載のスプロケットにおいて、スプロケットリングは金属製であり、内側固定部は、スプロケットリング部の両側面と一体成形されている。この場合には、スプロケットリング部の両側面に内側固定部が配置されるので、スプロケットリング部と内側固定部の間での剛性を高く維持できる。また、カシメピンを装着してカシメ固定するカシメ工程が不要になるので、製造工程を簡素化できる。
【0013】
発明7に係る自転車用スプロケットは、発明1から6のいずれかに記載のスプロケットにおいて、固定部材は頭部を有するボルトであり、筒状部材は、ボルトの頭部に接触する。この場合には、ボルトの頭部が筒状部材の第1接触面に接触しても第1接触面が変形しにくくなる。
【0014】
発明8に係る自転車用スプロケットは、発明1から7のいずれかに記載のスプロケットにおいて、スプロケットリング部は、内側固定部を回転不能に連結するためのアンカー手段をさらに備える。この場合には、アンカー手段によりスプロケットリング部と内側固定部とが回転不能に連結されるので、剛性がさらに高くなる。
【0015】
発明9に係る自転車用スプロケットは、発明1から8のいずれかに記載のスプロケットにおいて、内側固定部は、ポリアミド系合成樹脂に炭素繊維のフィラーを含浸させた炭素繊維混入樹脂製である。この場合には、炭素繊維を含浸させることにより内側固定部の強度を合成樹脂だけの場合に比べて高くすることができる。
【0016】
発明10に係る自転車用スプロケットは、発明1から9のいずれかに記載のスプロケットにおいて、スプロケットリング部は、表面にアルマイト層が形成されたアルミニウム合金製である。この場合には、スプロケットリング部の耐食性が向上する。
【0017】
発明11に係る自転車用スプロケットは、発明1から10のいずれかに記載のスプロケットにおいて、筒状部材は、アルミニウム合金製である。この場合には、内側固定部の変形を抑えるために筒状部材を装着しても軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内側固定部に合成樹脂より経年劣化しにくい金属製の筒状部材を装着し、筒状部材の第1接触面が固定部材からの力を受けるので、軽量化を図るために内側固定部を軟質の合成樹脂製にしても、十分な固定力を確保しつつ回転駆動部との固定部分が変形しにくくなり、合成樹脂の劣化や変形に起因する固定力の低下を防止できるとともにスプロケットの軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1において、本発明の一実施形態を採用した自転車は、たとえばドロップタイプのハンドル部14を有するロードバイク10である。ロードバイク10は、車体の骨格をなすダイヤモンド形のフレーム11を備えている。フレーム11は、フレーム体12と、フレーム体12の前部に斜め縦軸回りに回転自在に支持され、下部が2股に分かれたフロントフォーク13とを有している。また、ロードバイク10は、フロントフォーク13に連結されたハンドル部14と、フレーム体12の下部に取り付けられ、踏み力を駆動力に変換する駆動部15と、フロントフォーク13の下端に回転自在に支持された前輪16と、フレーム体12の後部に回転自在に支持された後輪17と、前後の制動装置18,19とを備えている。
【0020】
フレーム体12は、三角形状の前三角20と、前三角20の後方に配置された後三角21とを有している。前三角20は、横方向に配置された上パイプ25と、上パイプ25の下方に前上がりに配置された下パイプ26と、上パイプ25および下パイプ26の前端を接合するヘッドパイプ27と、上パイプ25および下パイプ26の後端を接合し、斜め上方に延びる立パイプ28とから構成されている。立パイプ28にはサドル32を固定したシートポスト33が上下位置を調節可能に固定されている。立パイプ28と下パイプ26との接合部には、筒状のハンガー部29(図3)が形成されている。後三角21は、立パイプ28に前端が接合され2股に分かれて斜め下方に延びるシートスティ30と、立パイプ28の下端から後方に2股に分かれて延び、シートスティ30の後端に接合されたチェーンスティ31とから構成されている。
【0021】
フロントフォーク13の上部にはハンドル部14を構成するハンドルステム35が上下に移動可能に固定されている。ハンドルステム35の上端には、左右に延びる両端が湾曲したハンドルバー36が固定されている。ハンドルバー36の両端には、変速機能付のブレーキレバー38が取り付けられている。
【0022】
駆動部15は、ハンガー部29に設けられたクランク部41と、後輪17のフリーハブに回転不能に取り付けられた小ギヤ部43と、クランク部41と小ギヤ部43との間に架け渡されたチェーン44と、変速用のフロントディレーラ45およびリアディレーラ46とを有している。フロントディレーラ45は、チェーン44が挿通するチェーンガイド45aを有している。
【0023】
クランク部41は、図1〜図3に示すように、フレーム11のハンガー部29に回転自在に支持されたクランク軸50(図3)と、クランク軸50の右端にカシメ固定され先端にペダル53(図1)が装着されたギヤクランク51と、クランク軸50の左端に着脱自在に固定される左クランク52(図3)とを有している。
【0024】
クランク軸50は、図3に示すように、ハンガー部29に装着されたボトムブラケット54によりハンガー部29に回転自在に装着されている。クランク軸50は、たとえばクロムモリブデン鋼等の高剛性を有する合金製の中空のパイプ状部材である。クランク軸50の左端内周面には、左クランク52を固定するために固定ボルト59がねじ込まれる雌ねじ部55bが形成されている。
【0025】
ボトムブラケット54は、ハンガー部29の両端からねじ込まれる左右の軸受ハウジング60,61と、左右の軸受ハウジング60,61を同芯に連結する筒状の連結部材62と、左右のハウジング60,61に装着された左右の玉軸受63,64と、左右の玉軸受63,64の内輪とクランク軸50との間に装着される左右のカバー部材65,66とを有している。
【0026】
玉軸受63,64は、内輪と外輪との間にシールが装着されたシールドベアリングであり、グリースが予め封入されたものである。これにより、潤滑のためのメンテナンスを省くことができる。このように、ハンガー部29の軸方向外方に軸受63,64を配置することによりクランク軸50の軸径を大きくすることができ、クランク軸50を中空形状にして軽量化を図ってもクランク軸50の強度や剛性を高く維持できる。
【0027】
ギヤクランク51は、図2及び図3に示すように、円形の空間で構成されクランク軸50の右端に回転不能に装着される係合凹部78を有するクランク連結部75と、クランク連結部75から放射状に延びる大小2枚のスプロケット71,72を先端に装着可能な5つのアーム部76と、クランク軸50の右端に固定された右クランク77とを有している。
【0028】
各アーム部76の先端両面には、スプロケット71,72をクランク軸50と同芯に取り付けるための取付部76aが他の部分より凹んで形成されている。取付部76aには、図5に示すように、スプロケット71,72を頭部80aを有するボルト80及びそれに螺合するナット81により一括して固定するための固定孔76bが形成されている。
【0029】
右クランク77は、図3に示すように、中空構造のものであり、クランク連結部75及びアーム部76と一体形成され、クランク連結部75の外側面75aから先端が軸方向外方に向けて僅かに傾斜しつつ径方向に外方に延びている。この延びた先端にペダル53がねじ込まれるペダル装着孔77aが形成されている。
【0030】
係合凹部78は、図3に示すように、クランク軸50の第2部分56に装着されており、第2部分56の軸方向長さより長い深さで外側面75aの手前側まで形成されている。この結果、右クランク77を含むクランク連結部75の外側面75aは、凹凸を有さない滑らかな曲面で構成されている。また、係合凹部78の深さは、クランク軸50の第2部分56の直径より短い。
【0031】
本発明の一実施形態によるスプロケットであるスプロケット71は、図4〜図6に示すように、金属製のスプロケットリング部90と、スプロケットリング部90と一体成形されギヤクランク51(図2及び図3)に固定される合成樹脂製の内側固定部91と、内側固定部91と一体形成された筒状部材92とを備えている。
【0032】
スプロケットリング部90は、外周にチェーン44(図1)が巻回される多数のスプロケット歯90aが形成された、たとえばアルミニウム製のリング状の部材である。スプロケットリング部90の両側面90b,90cには、図6に示すように、内側固定部91を回転不能に連結しやすくするためのアンカー手段としての多数の貫通孔90dが周方向に間隔を隔てて形成されている。スプロケットリング部90は、外周にスプロケット歯90aが、両側面90b,90cに貫通孔90dが、それぞれ形成されるように金属板をリング状にプレス打ち抜き加工して形成されている。
【0033】
内側固定部91は、たとえば、炭素繊維のフィラーを含浸させたポリアミド系合成樹脂製である。内側固定部91は、スプロケットリング部90のスプロケット歯90a形成部分より内周側での両側面90b,90cと一体形成されたものである。内側固定部91は、スプロケットリング部90が一体成形されるリング部91aと、リング部91aから径方向内方に延び固定孔76bに対向可能な位置に複数の取付孔91eが形成されたねじ止め部91bとを有している。この取付孔91eに筒状部材92が軸方向移動不能に装着されている。リング部91aは、スプロケットリング部90の両側面90b,90c及び内周面90eを覆うように一体形成されている。ねじ止め部91bは、リング部91aの内周面からアーチ状に形成されたアーチ部91cと、アーチ部91cの中間部に径方向内方に突出して形成された5つのアーム固定部91dとを有している。アーム固定部91dは、アーム部76の先端の取付部76aと対向する位置に形成されており、そこに、固定孔76bに面する段付きの取付孔91eが形成されている。
【0034】
筒状部材92は、たとえばアルミニウム合金製のものであり、筒状部92aと、筒状部92aより大径の鍔部92bとを有する鍔付き円筒状の部材である。鍔部92bは、ボルト80の頭部80aに接触してボルト80からの力を受けるための第1接触面92cを外側端面に有している。鍔部92bの外周部は、取付孔91eの内周面よりさらに外周側にはめ込まれている。このため、筒状部材92が内側固定部91に対して抜けにくくなるとともに軸方向移動不能に確実に固定できる。また、筒部92aは、ギヤクランク51のアーム部76の取付部76aに接触する第2接触面92dを内側端面に有している。このように金属製の筒状部材92の第1接触面92cがボルト80の頭部80aに接触しているので、チェーンから大きな力が作用したり、ボルト80を過剰なトルクで締め付けたりしても、筒状部材92が変形しにくい。また、金属製の筒状部材92の第2接触面92dが金属製の取付部76aに接触しているので、ボルト80でスプロケット71を固定したときに、合成樹脂製の内側固定部91ではなく金属製の筒状部材92に力が作用する。このため、取付部76aとの固定部分がさらに変形しにくくなる。
【0035】
この筒状部材92の内周部外側からボルト80が装着され、取付部76aの内側面に装着されたスプロケット72側から装着されたナット81により2つのスプロケット71,72が取付部76aの両面に固定される。ボルト80は、六角穴付きの頭部80aを有する中空のボルトであり、ナット81は鍔付きの中空のナットである。これらのボルト80及びナット81は、スプロケット71,72を位置決めして取り付けるように構成されたスプロケット固定用の公知のものである。
【0036】
このような構成のスプロケット71は、図7に示すような工程で製造される。
【0037】
まず、アルミニウム板をプレス打ち抜き加工して図4に示すような形状のスプロケットリング部90を得る。続いて、得られたスプロケットリング部90の側面90b,90cと内周面90eとにトリアジンチオールの微粉末を電着めっき処理により拡散させた環状の拡散層93aを形成する。また、筒状部材92の鍔部92b及び筒部92aの外周面にも拡散層93bを形成する。次に拡散層93a及び93bが形成されたスプロケットリング部90及び筒状部材92を内側固定部91を成形するための上型95aと下型95bとを有する金型95に挿入する。金型95の内部には、内側固定部91のリング部91a及びねじ止め部91bを形成するための空間95c及び空間95dが形成されている。スプロケットリング部90及び筒状部材92を装着すると金型95を締めて、内部の空間95c,95dに炭素繊維のフィラーを含浸したポリアミド系合成樹脂の溶融液を充填して合成樹脂と拡散層93a,93bとを化学反応させて内側固定部91とスプロケットリング部90及び筒状部材92とを化学的に結合する。このようなインサート成形により、スプロケットリング部90及び筒状部材92と一体成形された内側固定部91を有するスプロケット71が完成する。
【0038】
ここでは、合成樹脂製の内側固定部91を金属製のスプロケットリング部90の両側面90b,90cと一体成形することによりスプロケットリング部90と内側固定部91とを固定しているので、両部90,91のガタを防止できるとともにスプロケットリング部90と内側固定部91の間での剛性を高く維持できる。また、カシメピンを装着してカシメ固定するカシメ工程が不要になるので、製造工程を簡素化できる。さらに、内側固定部91に合成樹脂より経年劣化しにくい金属製の筒状部材92を装着し、筒状部材92の第1接触面92cが。ボルト80からの力を受けるので、軽量化を図るために内側固定部91を軟質の合成樹脂製にしても、十分な締め付け力を確保しつつ取付部76aとの固定部分が変形しにくくなり、合成樹脂の劣化や変形に起因する固定力の低下を防止できるとともにスプロケットの軽量化を図ることができる。また、変形や劣化に起因する取付部76aに対するがたつきも防止できる。
【0039】
スプロケット72は、図5に示すように、スプロケット歯72aが形成されたリング部72bと、リング部72bの内周から径方向内方に突出する固定部72cとが一体形成された、たとえばアルミニウム製の公知のスプロケットである。この固定部72cと内側固定部91とが、ボルト80及びナット81とによりアーム部76に一括して固定されている。
【0040】
左クランク52は、図3に示すように、先端にペダル53がねじ込まれるペダル装着孔85aが形成された中空構造の左クランクアーム部85を有している。なお、左クランク52のクランク軸50を装着部分には図示しないスリットが形成されており、スリットを狭めるように、クランク軸50の図3下方に配置された2本の取付ボルト57a,57bを締め付けることにより強固にクランク軸50に固定されている。この2本の取付ボルト57a,57bは、たとえば六角穴付きボルトであり、頭部が異なる方向から挿入されている。
【0041】
このように構成されたクランク部41をボトムブラケット54に装着する際には、まず、スプロケット71,72をギヤクランク51に装着する。スプロケット71,72をギヤクランク51に装着する際には、スプロケット71,72を取付部76aの凹んだ部分に固定孔76b及び筒状部材92が対向するように置く。そして、スプロケット71側からボルト80を装着してスプロケット72側からナット81を装着して、ナット81を特殊工具で回り止めした状態でボルト80をアーレンキーにより回してスプロケット71,72を装着する。
【0042】
スプロケット71,72の装着が終わると、ギヤクランク51をクランク軸50にカシメ固定する。このカシメ固定の際には、ギヤクランク51の係合凹部78にクランク軸50の右端を挿入する。この状態でカシメ治具をクランク軸50の左端から装着する。カシメ治具を装着したクランク軸50とギヤクランク51とを、たとえばギヤクランク51のクランク連結部75及び右クランク77の外側面の形状に合わせ受け具に装着し、カシメ治具をプレス装置などで押圧する。これによりギヤクランク51がクランク軸50にカシメ固定される。
【0043】
〔他の実施形態〕
(a)前記実施形態では、アンカー手段をスプロケットリング部90の側面90bに周方向に間隔を隔てて形成された多数の貫通孔90dで構成したが、図8に示すように、スプロケットリング部90の内周面90eに周方向に間隔を隔てて形成された多数の凹凸部90fで構成してもよい。
【0044】
(b)前記実施形態では、ロードバイクのスプロケットを例に説明したが、本発明は全ての自転車に適用できる。
【0045】
(c)前記実施形態では、全長にわたり中空の筒状のクランク軸50にギヤクランク51をカシメ固定するクランク部41に装着されるスプロケットを例に説明したが、クランク軸にギヤクランクをボルトにより固定するクランク部や別体の右クランクをギヤクランクとともにクランク軸にボルトにより固定するクランク部に装着されるスプロケットにも本発明を適用できる。また、小ギヤ部43に装着されるスプロケットにも本発明を適用できる。また、スプロケット72を、アルミニウム合金製のスプロケットリング部と合成樹脂製の固定部とで構成してもよい。
【0046】
(d)前記実施形態では、スプロケットリング部をアルミニウム製にし、内側固定部をポリアミド系合成樹脂としたが、スプロケットリング部は軽量で硬質のものであればどのようなものでもよく、内側固定部は、軽量な合成樹脂であればどのようなものでもよい。
【0047】
(e)前記実施形態では、スプロケットリング部90をアルミニウム板(金属板)をプレス打ち抜き加工して形成したが、図9に示すように、長手方向一側にスプロケット歯90aが形成されるように金属板96を平鋼状にプレス打ち抜き加工した後、他側に向けてリング状に曲げ加工して形成してもよい。この場合、スプロケットリング部90に隙間90gが形成される。この隙間90gは溶接やカシメ等により接合してもよいが、接合しなくてもよい。接合しない場合でも、内側固定部91との一体成形の際にスプロケットリング部90が内側固定部91により固定されるので、隙間があることによる問題は生じにくい。
【0048】
(f)前記実施形態では、筒状部材を鍔付き円筒状に構成したが、筒状部材に鍔部を設けなくてもよい。
【0049】
(g)前記実施形態では、スプロケットリング部90と内側固定部91とを一体形成したが、カシメ固定やねじ止め等の固定手段により内側固定部91に固定してもよい。また、筒状部材92についても同様であり、止め輪やねじ止め等の固定手段により内側固定部91に固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る一実施形態を採用した自転車の側面図。
【図2】そのギヤクランクの正面図。
【図3】図2のIII−III断面図。
【図4】スプロケットの正面図。
【図5】図4のV−V断面拡大図。
【図6】スプロケットの正面拡大部分図。
【図7】スプロケットの製造工程を示す模式図。
【図8】他の実施形態の図6に相当する図。
【図9】他の実施形態によるスプロケットリング部の製造工程を示す模式図。
【符号の説明】
【0051】
10 ロードバイク
44 チェーン
51 ギヤクランク
71 スプロケット
76 アーム部
80 ボルト
80a 頭部
90 スプロケットリング部
90a スプロケット歯
90d 貫通孔(アンカー手段)
90e 内周面
90f 凹凸部(アンカー手段)
91 内側固定部
91a リング部
91b ねじ止め部
91e 取付孔
92 筒状部材
92a 筒部
92b 鍔部
92c 第1接触面
92d 第2接触面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の回転駆動部に固定部材により固定され外周に自転車駆動用のチェーンが巻回される自転車用スプロケットであって、
外周に前記チェーンが巻回されるスプロケット歯が形成されたスプロケットリング部と、
前記回転駆動部への固定のための取付孔を有し、前記スプロケット歯形成部分より内周側で前記スプロケットリング部に連結される合成樹脂製の内側固定部と、
前記取付孔に装着され、前記固定部材からの力を受けるための第1接触面を有する金属製の筒状部材と、
を備えた自転車用スプロケット。
【請求項2】
前記筒状部材は、前記取付孔に軸方向移動不能に装着されている、請求項1に記載の自転車用スプロケット。
【請求項3】
前記筒状部材は、前記内側固定部と一体成形されている、請求項1又は2に記載の自転車用スプロケット。
【請求項4】
前記筒状部材は、筒状部と前記筒状部より大径の鍔部とを有し、前記第1接触面は前記鍔部に設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。
【請求項5】
前記筒状部材は、前記回転駆動部と接触する第2接触面を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。
【請求項6】
前記スプロケットリングは金属製であり、
前記内側固定部は、前記スプロケットリング部の両側面と一体成形されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。
【請求項7】
前記固定部材は頭部を有するボルトであり、
前記筒状部材は、前記ボルトの頭部に接触する、請求項1から6のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。
【請求項8】
前記スプロケットリング部は、前記内側固定部を回転不能に連結するためのアンカー手段をさらに備える、請求項1から7のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。
【請求項9】
前記内側固定部は、ポリアミド系合成樹脂に炭素繊維のフィラーを含浸させた炭素繊維混入樹脂である、請求項1から8のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。
【請求項10】
前記スプロケットリング部は、表面にアルマイト層が形成されたアルミニウム合金製である、請求項1から9のいずれか1項に記載の記載の自転車用スプロケット。
【請求項11】
前記筒状部材は、アルミニウム合金製である、請求項1から10のいずれか1項に記載の自転車用スプロケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−7799(P2006−7799A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183447(P2004−183447)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)