説明

自転車用モータ制御装置および自転車

【課題】発進時の乗り方に応じてモータを適切に制御できるようにする。
【解決手段】制御部12は、アシストモータ60を制御する。制御部12は、クランク位置検出部40と、クランク位置判断部41と、モータ制御部43と、を備える。クランク位置検出部40は、自転車の右クランク18aおよび左クランク18bの位置を検出する。クランク位置判断部41は、クランク位置検出部40の検出結果に基づいて、自転車のクランクが下死点を含む所定領域にあるか否かを判断する。停止判断部は、右クランク18aおよび左クランク18bの停止を判断する。モータ制御部43は、停止判断部42が、右クランク18aおよび左クランク18bが停止していると判断した後に、右クランク18aおよび左クランク18bが所定領域にあるとクランク位置判断部41が判断する間は、アシストモータ60の駆動を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、特に、自転車に装着されるモータを制御する自転車用モータ制御装置およびそれを搭載した自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車において、人力による駆動をモータにより補助する電動自転車では、踏力を検出し、踏力に応じてモータにより駆動力を補助する。自転車の乗り方には、ハンドルを持った状態で片足をペダルに乗せて、もう一方の足で地面をけり出して走り出す、いわゆるケンケン乗りと呼ばれる特定の乗り方がある。この特定の乗り方で発進すると、検出される踏力が大きくなり、ユーザにとって不所望の補助力が付与される場合がある。これを抑えるために、発進開始から所定時間経過するまでアシスト制御を行わない技術が従来知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、外装変速機において、モータを用いて電動変速する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。外装変速機は、クランクが回転しないと変速できない。このため、従来は、クランクの回転を検出し、クランクが回転しないときにモータが動作しないように変速制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−358987号公報
【特許文献2】特開2006−008062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では、発進時から所定時間経過するまでアシスト力が付与されない。このため、例えばサドルに座って発進する場合にも、所定時間経過するまでアシスト力が得られない。これにより、例えば上り坂の途中でサドルに座って発進する場合、所定時間のアシスト力が得られないため、ライダーにとって不便である。
【0006】
特許文献2の構成では、クランクが回転すると変速制御を可能にしているため、特定の乗り方での発進時に僅かでもクランクの回転を検出すると、実際には変速できない状態で不適切な変速動作が行われる可能性がある。
【0007】
本発明の課題は、発進時の乗り方に応じてモータを適切に制御できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明1に係る自転車用モータ制御装置は、自転車に装着されるモータを制御する装置である。自転車用モータ制御装置は、クランク位置検出部と、クランク位置判断部と、モータ制御部と、を備える。クランク位置検出部は、自転車のクランクの位置を検出する。クランク位置判断部は、クランク位置検出部の検出結果に基づいて、自転車のクランクが下死点を含む所定領域にあるか否かを判断する。停止判断部は、自転車およびクランクの少なくともいずれか一方の停止を判断する。モータ制御部は、停止判断部が、自転車およびクランクの少なくともいずれか一方が停止していると判断した後に、クランクが所定領域にあるとクランク位置判断部が判断する間は、モータの駆動を禁止する。
【0009】
この自転車用モータ制御装置では、自転車またはクランクが停止しており、かつクランク位置が下死点を含む所定領域にあると判断されると、モータの駆動が禁止される。これにより、発進時に一方のペダルに足を載せて他方の足で地面を蹴る特定の乗り方をしても、クランクが所定領域内に位置している間は、モータが駆動されない。この結果、モータが人力による駆動を補助する場合は、特定の乗り方によって生じる踏力の増大に伴う補助力の不所望の増加を抑えることができる。また、発進時にサドルに乗ってクランクを回す乗り方の場合は、発進した時からの時間に関わらずクランクが所定領域から外れると、適切にアシスト力を付与する制御を行うことができ、モータによる補助力を必要とするクランク位置ではアシスト力が付与されないということを抑制することができる。一方、モータが外装変速機を駆動する場合は、クランクが所定領域内で回動しても、不適切な変速動作が行われない。これらにより、発進時の乗り方に応じてモータを適切に制御できるようになる。
【0010】
発明2に係る自転車用モータ制御装置は、発明1に記載の自転車用モータ制御装置であって、クランク位置検出部は、磁石と、磁力検出素子と、を有する。磁石は、自転車のクランクおよび自転車のフレームの一方に装着可能であり、周方向に間隔を隔ててS極とN極とが配置される。磁力検出素子は、磁石に対向する位置で、自転車のクランクおよび自転車のフレームの他方に装着され所定領域に対応して2つ配置される。
【0011】
この場合には、非接触でかつ汚れ等の影響を受けない磁力により所定領域内にクランクが配置されているか否かを検出できる。このため、汚れやすい野外を走行する自転車にクランク位置検出部を装着してもクランク位置を精度良く検出できる。また簡単な構成で、クランクの位置を検出することができる。
【0012】
発明3に係る自転車用モータ制御装置は、発明2に記載の自転車用モータ制御装置において、クランク位置判断部は、磁力検出素子からの出力に基づいてクランクが所定領域にあるか否かを判断する。この場合には、所定領域に対応して配置された2つの磁力検出素子からの出力の組み合わせにより、クランク位置が所定領域内か否かを容易に判断できる。特に、特定の乗り方の場合、人によっては後方から見て自転車の左側から乗る場合と、右側から乗る場合とがある。このような場合、右クランクと、右クランクとは180度位相が離れた左クランクとで2つの下死点が存在する。しかし、2つの磁力検出素子の出力の組み合わせにより、180度離れた2つの下死点を含む所定領域を容易に判断できる。
【0013】
発明4に係る自転車用モータ制御装置は、発明2または3に記載の自転車用モータ制御装置において、停止判断部は、磁力検出素子からの出力が予め定める時間変化しない場合に、クランクが停止していると判断する。この場合には、クランク位置検出部の磁力検出素子の出力によりクランクの停止を判断できるので、別の検出部を設ける必要がなくなり、モータ制御装置の構成が簡素化する。
【0014】
発明5に係る自転車用モータ制御装置は、発明1に記載の自転車用モータ制御装置において、停止判断部は、自転車の速度を検出する速度検出部を有する。この場合には、速度により自転車の停止を容易に判断できる。また、速度の変化により自転車の発進時を検出することもできる。
【0015】
発明6に係る自転車用モータ制御装置は、発明1から5のいずれかに記載の自転車用モータ制御装置において、自転車に作用する踏力を検出する踏力検出部をさらに備える。
モータは、人力による駆動を補助するように自転車に装着可能である。モータ制御部は、モータの駆動を禁止しているときに、クランクが所定領域から外れたとクランク位置判断部が判断すると、モータを踏力に応じて駆動する。
【0016】
この場合には、特定の乗り方をしても、クランクが所定領域内に位置している場合、モータが駆動されない。この結果、モータが人力による駆動を補助する場合は、踏力の増大による不意の増速を抑えることができる。また、サドルに乗ってクランクを回す乗り方の場合は、発進した時からの時間に関わらずクランクが所定領域から外れると、適切にアシスト力を付与する制御を行うことができる。これにより、発進時の乗り方に応じてアシスト用のモータを適切に制御でき、モータによる補助力を必要とするクランク位置ではアシスト力が付与されないということを抑制することができる。
【0017】
発明7に係る自転車用モータ制御装置は、発明1から5のいずれかに記載の時用モータ制御装置において、モータは、外装変速機を駆動するモータである。この場合には、モータが外装変速機を駆動する場合は、クランクが所定領域内で回動しても、不適切な変速動作が行われない。これにより、発進時の乗り方に応じて外装変速用のモータを適切に制御できるようになる。
【0018】
発明8に係る自転車は、モータと、発明1から7のいずれかに記載の自転車用モータ制御装置と、を備える。この場合には、自転車において、上記した作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
クランク位置が下死点を含む所定領域にあると判断されると、モータの駆動が禁止される。これにより、一方のペダルに足を載せて他方の足で地面を蹴る特定の乗り方をしても、クランクが所定領域内に位置している場合、モータが駆動されない。このため、発進時の乗り方に応じてアシスト用のモータを適切に制御できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態による自転車の側面図。
【図2】モータ制御装置のブロック図。
【図3】そのクランク位置センサの正面拡大図。
【図4】制御部の機能構成を示すブロック図。
【図5】クランク位置判断部の判断の一例を示す動作図。
【図6】電源制御部の制御を示すフローチャート。
【図7】第2実施形態の図2に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
図1において、本発明の第1実施形態を採用した自転車1は人力よる駆動をモータユニット10により補助する電動自転車である。自転車1は、フレーム体2aとフロントフォーク3とを有するフレーム2と、ハンドル部4と、駆動部5と、前輪6fと、後輪6rと、図示しないフロントブレーキ装置およびリアブレーキ装置と、前照灯23と、尾灯24と、を備えている。また、自転車1は、図2に示すに電装システム7を有する。フロントフォーク3は、図1に示すように、フレーム体2aの前部に斜めの軸回りに揺動自在に装着されている。
【0022】
フレーム体2aには、サドル11およびハンドル部4を含む各部が取り付けられている。フレーム体2aの下部中央には、後述するクランク軸16を支持するためのハンガー部22が設けられる。
【0023】
駆動部5は、フレーム体2aのハンガー部22に回転自在に支持されたクランク軸16と、クランク軸16の両端にそれぞれ固定される右クランク18aおよび左クランク18bと、チェーン19と、内装変速ハブ30と、を有する。右クランク18aおよび左クランク18bの先端には、ペダル21が装着される。右クランク18aと、左クランク18bとは、180度位相が異なる。チェーン19は、右クランク18aに設けられるフロントギアに掛け渡される。内装変速ハブ30は、チェーン19により駆動される。内装変速ハブ30は、後輪6rの中央に配置される。内装変速ハブは、例えば8段または11段変速のハブである。また、内装変速ハブ30には、例えば、ローラブレーキ、バンドブレーキまたはディスクブレーキ等によって実現されるリアブレーキ装置が連結されている。内装変速ハブ30は、ハンドル部4に装着された図示しない変速操作部に変速ケーブルにより連結される。
【0024】
フレーム体2aの後上部には、リアキャリア17が取り付けられる。リアキャリア17には、制御部12を含むリアキャリアユニット13が装着される。リアキャリアユニット13は、後述するモータユニット10、制御部12および前照灯23等の電源となる、例えばニッケル水素電池またはリチウムイオン電池等を含む蓄電部14を着脱可能に搭載する。蓄電部14には、尾灯24が一体で取り付けられる。
【0025】
前輪6fの中心には、前輪6fの駆動補助用のモータユニット10が装着される。モータユニット10には、例えばローラブレーキ、バンドブレーキまたはディスクブレーキ等によって実現されるフロントブレーキ装置が連結される。モータユニット10に、フロントブレーキ装置が連結されない場合には、フロントフォーク3にVブレーキまたはカンチブレーキ等によって実現されるブレーキ装置を設ければよい。
【0026】
電装システム7は、自転車用の複数の電装品を有する。第1実施形態では、リアキャリアユニット13と、モータユニット10と、ハンガーユニット22aと、前照灯23と、が電装品である。各電装品は、電力線通信規格の2芯の通信線により接続されている。
【0027】
モータユニット10の内部には、図2に示すように、アシストモータ60と、インバータ61と、速度センサ62とが設けられる。アシストモータ60は、たとえば3相ブラシレスDCモータまたは交流モータである。インバータ61は、蓄電部14から直流出力された電流をアシストモータ60の駆動に適した電流交流に変換する。速度センサ62は、アシストモータ60の回転速度つまり、自転車の速度を検出する。
【0028】
ハンガーユニット22aは、ハンガー部22に設けられる。ハンガーユニット22aは、クランク軸16に作用する踏力を検出するためのトルクセンサ37およびクランク軸16の回転位置を検出するためのクランク位置センサ39を有する。
【0029】
クランク位置センサ39は、図3に示すように、右クランク18aに設けられる磁石45と、ハンガー部22に設けられる第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bと、を有する。第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bは、2つの磁力検出素子の一例である。
【0030】
磁石45は、右クランク18aに装着可能である。磁石45は、環状に形成され、周方向にS極45aとN極45bとが隣接して配置される。本実施の形態では、磁石45は円環形状を有する。磁石45は、一般的な永久磁石であってもよいし、たとえば樹脂に磁性材料を混ぜ込んで形成されてもよい。磁石45は、固定部材48によって、ハンガー部22に固定される。固定部材48は、例えば複数のネジ48によって実現される。S極45aとN極45bとは、クランク軸16の外周に配置され、ここでは、それぞれが半円環の形状を有する。たとえば、クランク軸の中心を通る平面によって分割される磁石45の一方をS極45aとし、他方をN極45bとしている。S極45aとN極45bとは隣接するので2つの境界を有する。各境界は、クランク軸まわりに180°離れている。S極45aとN極45bとの境界となる第1境界線45cおよび第2境界線45dは、それぞれ右クランク18aの長手方向に沿って配置される。より好ましくは、第1境界線45cおよび第2境界線45dは、クランク軸の回転軸線を含み、かつペダル取り付け孔の中心軸線を含む平面N上に設けられる。磁石45および右クランク18aには、相互の位置を合わせるための位置合わせ構造が設けられてもよい。このような位置合わせ構造は、たとえば磁石45および右クランク18aの一方に突部を設け、他方にこの突部に嵌め合う嵌め合い部を設けることによって実現される。嵌め合い部には、たとえば孔または溝が形成される。第1境界線45cでは、時計まわりの上流側にN極45bが配置され、下流側にS極45aが配置される。第2境界線45dでは、時計まわりの上流側にS極45aが配置され、下流側にN極45bが配置される。
【0031】
第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bは、磁石45に対向する位置で、右クランク18aに装着される。磁石45は、クランクの軸線方向で、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bに対向する。第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bは、ボトムブラケット部22に直接取り付けられてもよいし、ボトムブラケット部22に着脱可能なブラケットに取り付けられてもよい。第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bは、右クランク18aまたは左クランク18bの下死点を含む所定領域αに対応して配置される。所定領域αは、第1実施形態では、右クランク18aが下死点に配置される基準位置から、右クランク18aが周方向の両側に例えば15度ずつ回転した位置までの範囲である。所定領域αに対応する右クランク18aの回転角度は例えば30度である。所定領域αに対応する右クランク18aの回転角度は、20度から40度の範囲が好ましい。
【0032】
リアキャリアユニット13は、図2に示すように、制御部12を内部に有している。制御部12は、マイクロコンピュータを有し、接続される電装品を制御する。制御部12は、アシストモードのとき、乗り手の踏力に応じたアシスト力が発生するようにモータユニット10を制御可能である。制御部12は、図4に示すように、ソフトウェアで実現される機能構成として、クランク位置検出部40と、クランク位置判断部41と、停止判断部42と、モータ制御部43と、を有する。
【0033】
クランク位置検出部40は、クランク位置センサ39の出力により、右クランク18aおよび左クランク18bのクランク位置を検出する。クランク位置判断部41は、クランク位置検出部40の検出結果に基づいて、自転車の右クランク18aまたは左クランク18bが下死点を含む所定領域αにあるか否かを判断する。クランク位置判断部41は、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの組み合わせ組み合わせ出力の組み合わせにより、右クランク18aおよび左クランク18bが4つの領域のいずれにあるのかを判断する。例えば、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力は、S極45aが対向しているときに「L (Low)」レベルとなり、N極45bが対向しているときに「H (High)」レベルとなる。第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bから出力される信号の組み合わせを、それぞれ第1の組み合わせA1、第2の組み合わせA2、第3の組み合わせA3および第4の組み合わせA4とする。
【0034】
図5(A)は、第1の組み合せA1のときの、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bと磁石45との位置の一例を示す。第1の組み合わせA1では、例えば、第1ホール素子46aの出力は、「L (Low)」レベルとなり、第2ホール素子46bの出力は、「H (High)」レベルとなる。右クランク18aが下死点を含む所定領域αにあるときは、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力が第1の組み合わせA1となる。第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力が第1の組み合わせA1のとき、自転車の側面から見て、図5(A)に示すように、第1ホール素子46aと第2ホール素子46b間に磁石45の第1境界線45cが位置する。
【0035】
図5(B)は、第2の組み合わせA2のときの、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bと磁石45との位置の一例を示す。第2の組み合わせA2では、例えば、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力は、ともに「H」レベルとなる。右クランク18aが下死点を含む所定領域αから矢印Bで示す方向(自転車の右側から見て時計回り)に回転し、磁石45の第1境界線45cが第1ホール素子46aを超え、かつ左クランク18bが下死点を含む所定領域αに入る直前までの領域にあるときには、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力が第2の組み合わせA2となる。
【0036】
図5(C)は、第3の組み合わせA3のときの、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bと磁石45との位置の一例を示す。第3の組み合わせA3では、例えば、第1ホール素子46aの出力は、「H」レベルとなり、第2ホール素子46bの出力は、「L」レベルとなる。左クランク18bが下死点を含む所定領域αにあるときの第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力が第3の組み合わせA3となる。第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力が第3の組み合わせA3のとき、自転車の側面から見て、図5(C)に示すように、第1ホール素子46aと第2ホール素子46b間に磁石45の第2境界線45dが位置する。
【0037】
図5(D)は、第4の組み合わせA4のときの、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bと磁石45との位置の一例を示す。第4の組み合わせA4では、例えば、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力は、ともに「L」レベルとなる。左クランク18bが下死点を含む所定領域αから矢印Bで示す方向(自転車の右側から見て時計回り)に回転し、磁石45の第2境界線45dが第1ホール素子46aを超え、かつ右クランク18bが下死点を含む所定領域αに入る直前までの領域にあるときには、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力が第4の組み合わせA4となる。
【0038】
停止判断部42は、右クランク18aおよび左クランク18bの停止を判断する。停止判断部42は、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bからの出力が予め定める時間変化しない場合に、右クランク18aおよび左クランク18bが停止していると判断する。
【0039】
モータ制御部43は、停止判断部42が、右クランク18aおよび左クランク18bが停止していると判断した後に、右クランク18aまたは左クランク18bが所定領域にあるとクランク位置判断部41が判断する間は、アシストモータ60の駆動を禁止する。モータ制御部43は、アシストモータ60の駆動を禁止しているときに、右クランク18aおよび左クランク18bが所定領域αから外れた、すなわち、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力の組み合わせが第1の組み合わせA1または第3の組み合わせA3から第2の組み合わせA2または第4の組み合わせA4に移行したとクランク位置判断部41が判断すると、アシストモータ60を踏力検出部であるトルクセンサ37が検出したトルク(踏力)に応じて駆動する。
【0040】
ここで自転車の左右は、通常、自転車を後方から見たときに右にあるのを右とし、左にあるのを左と規定している。
【0041】
次に、制御部12の制御動作について、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0042】
制御部12は、図6のステップS1で右クランク18aおよび左クランク18bが停止したか否かを判断する。停止していないと判断した場合は、ステップS2に移行する。
【0043】
ステップS2では、トルクセンサ37で検出されたトルクTが所定のトルクTsより大きいか否かを判断する。所定のトルクTsより検出されたトルクTが大きい場合は、ステップS3に移行し、検出したトルクTに応じたアシスト制御を行いステップS1に戻る。検出されたトルクTが所定のトルクTs以下のときは、ステップS1に戻る。右クランク18aが停止していると判断するとステップS1からステップS4に移行する。
【0044】
ステップS4では、下死点を含む所定領域αに右クランク18aまたは左クランク18bが位置しているか否かを判断する。この判断は、前述したクランク位置判断部46で説明したようにクランク位置センサ39の第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力の組み合せにより判断する。すなわち、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力の組み合わせが、右クランク18aが所定領域にあることを示す第1の組み合わせA1または左クランク18bが所定領域にあることを示す第3の組み合わせA3であるか否かにより判断する。右クランク18aまたは左クランク18bが所定領域αに位置していると判断すると、ステップS4からステップS5に移行する。ステップS5では、アシストモータ60の駆動を禁止し、すなわちアシスト制御を無効にして、ステップS1に戻る。右クランク18aまたは左クランク18bが所定領域αに位置していないと判断すると、ステップS1に戻る。
【0045】
ここでは、右クランク18aまたは左クランク18bの回転位置が下死点を含む所定領域αにあると判断されると、アシストモータ60の駆動が禁止される。これにより、一方のペダルに足を載せて他方の足で地面を蹴る特定の乗り方をしても、右クランク18aまたは左クランク18bが所定領域α内に位置している場合にアシストモータ60が駆動されない。この結果、発進時における不所望な補助力の増加を抑えることができる。また、サドル11に乗って右クランク18aおよび左クランク18bを回す乗り方の場合は、右クランク18aまたは左クランク18bが所定領域αから外れると、すぐに適切なアシスト力を付与する制御を行うことができる。
【0046】
<第2実施形態>
第1実施形態では、アシストモータ60が人力による駆動を補助するアシスト自転車を例に本発明を説明したが、第2実施形態では電動の外装変速機を有する自転車を例に説明する。図7において、自転車用電装システム107は、例えば6つの電装品を含んで構成される。電装品は、リアディレーラ130r、フロントディレーラ130f、ハンガーユニット122a、バッテリユニット143、第1変速操作部119f、および第2変速操作部119rである。フロントディレーラ130fは、フロント変速モータ140fと、フロント段数センサ141fと、フロント制御部142fと、を有する。フロント制御部142fは、モータ制御部の一例である。リアディレーラ130rは、リア変速モータ140rと、リア段数センサ141rと、リア制御部142rと、を有する。リア制御部142rは、モータ制御部の一例である。フロント変速モータ140fは、フロント制御部142fにより制御される。リア変速モータ140rは、リア制御部142rにより制御される。
【0047】
ハンガーユニット122aは、第1実施形態と同様な構成のクランク位置センサ139を有する。バッテリユニット143は、充電可能なバッテリ143aを着脱可能に備る。第1変速操作部119fは、フロントディレーラ130fを変速操作するためのスイッチXおよびスイッチYを有する。第2変速操作部119rは、リアディレーラ130rを変速操作するためのスイッチXおよびスイッチYを有する。
【0048】
フロント制御部142fは、第1変速操作部119fに設けられるスイッチXおよびスイッチYの操作によりフロント変速モータ140fを駆動し、フロントディレーラ130fを変速動作させる。リア制御部142rは、第2変速操作部119rに設けられるスイッチXおよびスイッチYの操作によりリア変速モータ140rを駆動し、リアディレーラ130rを変速動作させる。
【0049】
フロント制御部142fは、第1実施形態と同様に、クランク位置センサ139の出力に応じて、フロント変速モータ140fの駆動を禁止する。またリア制御部142rは、第1実施形態と同様に、クランク位置センサ139の出力に応じて、リア変速モータ140rの駆動を禁止する。具体的には、右クランクおよび左クランクのいずれか一方が下死点を含む所定領域にあると判断すると、スイッチXまたはスイッチYが操作されても、フロント変速モータ140fおよびリア変速モータ140rの駆動を禁止する。
【0050】
第2実施形態では、右クランクまたは左クランクが所定領域α内で回動あるいは揺動しても、不適切な変速動作が行われない。これにより、発進時の乗り方に応じて外装変速用のフロント変速モータ140fまたはリア変速モータ140rを適切に制御できるようになる。
【0051】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
(a)前記実施形態では、磁石と磁力検出素子とを有するクランク位置センサを例示したが、本発明はこれに限定されない。クランク位置センサは、例えば、ロータリエンコーダ等の回転位置を検出可能なセンサであってもよい。また、クランク位置センサは、投受光型または拡散反射型の光センサと、クランクの回転に応じて光センサの光路を遮蔽する遮断部材と、を有する構成であってもよい。
【0053】
(b)前記実施形態では、磁力検出素子としてホール素子を例示したが、本発明はこれに限定されない。磁力検出素子としては、例えば、リードスイッチまたはコイル等の磁力を検出可能なものであればどのようなものでもよい。
【0054】
(c)前記実施形態では、クランク位置センサの磁力検出素子の出力によりクランクの停止を判断し、判断後にクランクが所定領域にある間モータ制御部がモータの駆動を禁止したが、本発明はこれに限定されない。例えば、クランクの停止を判断する代わりに、自転車の停止を判断し、判断後にクランクが所定領域にある間、モータ制御部がモータの駆動を禁止してもよい。この場合、停止判断部は、たとえば図3に示す、速度センサ62の出力に基づいて、クランクではなく、自転車の停止を判断する。速度センサ62を用いることによって、自転車の発進したタイミングの検出が可能になる。クランク位置判断部は、速度センサ62からの信号に基づいて、自転車の発進を検出した後に、クランクが所定領域にあるか否かを判断してもよい。また停止判断部は、クランクおよび自転車の両方が停止しているか否かを判断してもよい。
【0055】
(d)前記実施形態では、2つの磁石検出素子(第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46b)をクランク(右クランク18a)に設け、磁石45をフレーム(ハンガー部22)に設けたが、逆でも良い。すなわち、磁石をフレームに設け、磁力検出素子をクランクに設けてもよい。またクランクとして左クランク18bを用いてもよい。
【0056】
(e)前記実施形態では、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力は、S極45aが対向しているときに「L」レベルとなり、N極45bが対向しているときに「H」レベルとなっているが、出力レベルは逆であってもよい。すなわち、第1ホール素子46aおよび第2ホール素子46bの出力は、S極45aが対向しているときに「H」レベルとなり、N極45bが対向しているときに「L」レベルとなっていてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 自転車
12 制御部
16 クランク軸
18a 右クランク
18b 左クランク
37 トルクセンサ
39 クランク位置センサ
40 クランク位置検出部
41 クランク位置判断部
42 停止判断部
43 モータ制御部
45 磁石
45a S極
45b N極
46a 第1ホール素子
46b 第2ホール素子
60 アシストモータ
62 速度センサ
139 クランク位置センサ
140f フロント変速モータ
140r リア変速モータ
142f フロント制御部
142r リア制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車に装着されるモータを制御する自転車用モータ制御装置であって、
前記自転車のクランクの位置を検出するクランク位置検出部と、
前記クランク位置検出部の検出結果に基づいて、前記自転車のクランクが下死点を含む所定領域にあるか否かを判断するクランク位置判断部と、
前記自転車およびクランクの少なくともいずれか一方の停止を判断する停止判断部と、
前記停止判断部が、前記自転車およびクランクの少なくともいずれか一方が停止していると判断した後に、前記クランクが前記所定領域にあると前記クランク位置判断部が判断する間は、前記モータの駆動を禁止するモータ制御部と、
を備える自転車用モータ制御装置。
【請求項2】
前記クランク位置検出部は、
前記自転車のクランクおよび自転車のフレームの一方に装着可能であり、周方向に間隔を隔ててS極とN極とが配置される磁石と、
前記磁石に対向する位置で、前記自転車のクランクおよび前記自転車のフレームの他方に装着され前記所定領域に対応して配置される2つの磁力検出素子と、を有する、請求項1に記載の自転車用モータ制御装置
【請求項3】
前記クランク位置判断部は、前記磁力検出素子からの出力に基づいて前記クランクが前記所定領域にあるか否かを判断する、請求項2に記載の自転車用モータ制御装置。
【請求項4】
前記停止判断部は、前記磁力検出素子からの出力が予め定める時間変化しない場合に、クランクが停止していると判断する、請求項2または3に記載の自転車用モータ制御装置。
【請求項5】
前記停止判断部は、自転車の速度を検出する速度検出部を有する、請求項1に記載の自転車用モータ制御装置。
【請求項6】
前記自転車に作用する踏力を検出する踏力検出部をさらに備え、
前記モータは、人力による駆動を補助するように自転車に装着可能であり、
前記モータ制御部は、前記モータの駆動を禁止しているときに、前記クランクが前記所定領域から外れたと前記クランク位置判断部が判断すると、前記モータを前記踏力に応じて駆動する、請求項1から5のいずれか1項に記載の自転車用モータ制御装置。
【請求項7】
前記モータは、外装変速機を駆動するモータである、請求項1から5のいずれか1項に記載の自転車用モータ制御装置。
【請求項8】
前記モータと、
請求項1から7のいずれかに1項に記載の前記自転車用モータ制御装置と、を備える自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28210(P2013−28210A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163880(P2011−163880)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)