説明

自転車用無段変速装置及びそれを備えた自転車

【課題】構造を簡略化して自転車への搭載を可能にした無段変速装置及びそれを搭載した自転車を提供する。
【解決手段】自転車1のペダル2の回転軸と共に回転するクランクプーリ5と、前記自転車1の車輪3の回転軸と共に回転する車輪用プーリ6と、前記クランクプーリ5及び前記車輪用プーリ6に懸架された無端状のベルト4と、前記ベルト4の張力を変化させる張力変更手段とを備える。前記クランクプーリ5及び前記車輪用プーリ6の一方が、前記ベルト4の張力によって懸架される部分の径が変動する可変プーリにより構成され、前記可変プーリは、懸架される部分の径が大きくなるように付勢力を与える第一の付勢手段を備え、前記張力変更手段は、所定の支点を中心として揺動可能に構成されたアーム16と、前記ベルト4が懸架されるテンションプーリ8と、前記アーム16に付勢力を与える第二の付勢手段とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自転車用のVベルト式の無段変速装置及びそれを備えた自転車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車などは現在チェーン駆動が主流であるが、一段直結変速の場合、変速比が固定のため、人によってはその変速比が重すぎたり軽すぎたりする問題が生じ、特にお年寄りや女性に顕著に現れるものである。又、多段変速の自転車の場合においても、このギア比では軽すぎるが、一段減速比を重くすると重すぎるといった問題がしばしば生じる。
【0003】
これを解決するものとして、特許文献1には自転車駆動側にVベルト及びVプーリを利用し、構造を簡単にした無段変速装置を組み込んだものがある。
【0004】
ところで従来のVベルト式無段変速装置の変速駆動制御は負荷検出機構や変速比設定機構又は電子制御回路及び調整駆動機構等の高度な機構を必要としていた為、小型の産業用機械、或いはオートバイや自転車の搭載には不向きであった。特に自転車の場合は、この様な無段変速制御機構の搭載は不可能な為、チェーンとギアによる有段変速機構が採用されているが、上記のようにギア比が乗る人に適しておらず、ギアの段を適切に切り替えたとしてもペダルを踏む重さが段階的に変って、乗る人にストレスを与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−278668
【特許文献2】特開2008−183995
【0006】
特許文献1記載のものは、変速用ベルトとして、通常の市販のVベルトを用いているが、十分な変速幅を得るためにV溝の中心角度が小さく、プーリ同士を圧着するのに相当な力を要し、手動で変速できない恐れがある。また、このプーリ構造のように、V溝の斜面下端(最小径部)が当接する時が有効径が最大となる構造では、変速幅を稼ぐにもプーリを厚くするには限界があり、十分な変速幅が期待できない為、駆動及び従動プーリを変位させる、両変速方式が必要になっていた。
【0007】
そこで、特許文献2では、Vベルト式の無段変速装置において、駆動プーリの有効径の変位量を大きく取れるようにした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載のものは、ベルトシステムとして、変速用ベルトシステムと、駆動用ベルトシステムの2種類のシステムが必要となり、複雑な機構となっていた。
【0009】
本発明の目的は、Vベルト式の無段変速装置において、構造を簡略化して自転車への搭載を可能にした無段変速装置及びそれを搭載した自転車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自転車に用いられる無段変速装置であって、前記自転車のペダルの回転軸と共に回転するクランクプーリと、前記自転車の車輪の回転軸と共に回転する車輪用プーリと、前記クランクプーリ及び前記車輪用プーリに懸架された無端状のベルトと、前記ベルトの張力を変化させる張力変更手段とを備えており、前記クランクプーリ及び前記車輪用プーリの一方が、前記ベルトの張力によってその前記ベルトが懸架される部分の径が変動する可変プーリにより構成されており、前記可変プーリは、前記ベルトが懸架される部分の径が大きくなるように付勢力を与える第一の付勢手段を備え、前記張力変更手段は、所定の支点を中心として揺動可能に構成されたアームと、前記アームに接続されており、前記ベルトが懸架されるテンションプーリと、前記アームに付勢力を与える第二の付勢手段とを有している自転車用無段変速装置にある。
【0011】
請求項2記載の発明は、前記ベルトがその内周側ほど幅が小さくなったVベルトであって前記可変プーリが、前記ペダルの回転軸の延在方向に配列されることによって互いに対向しており、前記ベルトの回転軸と一体的に回転するとともに、前記ペダルの回転軸の延在方向に相対移動可能に構成された二つのプーリ片と、前記二つのプーリ片の少なくとも一方を、前記二つのプーリ片が互いに近づく方向に付勢する付勢手段とを備えており、前記二つのプーリ片は、前記ベルトが懸架される部分の径が、互いの対向面に近い部分ほど小さくなっている請求項1に記載の自転車用無段変速装置にある。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記可変プーリとVベルトを使用し、可変プーリであるクランクプーリを有するクランク軸の駆動力を車輪に伝える自転車用無段変速装置であって、前記クランクプーリは、回転軸に固定されている固定プーリ片と、回転軸に対し固定プーリ片へ向け回転軸に沿って進退可能かつ軸周方向には回転しないように取り付けられている可動プーリ片とを備え、前記可動プーリ片には、固定プーリに向け付勢力を与える第一の付勢手段を有し、車輪には少なくともVベルトを懸架した車輪プーリ、アイドラープーリ、及びテンションプーリを有し、前記テンションプーリとアイドラープーリとが該テンションプーリがクランクから離れるように第二の付勢手段で付勢したアームによって連結され、テンションプーリの位置が該付勢手段による付勢力とベルト張力との力の差によって、クランク軸と車輪軸間で可変となる自転車用無段変速装置にある。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の無段変速装置を備えた自転車にある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によると、自転車に用いられる無段変速装置であって、前記自転車のペダルの回転軸と共に回転するクランクプーリと、前記自転車の車輪の回転軸と共に回転する車輪用プーリと、前記クランクプーリ及び前記車輪用プーリに懸架された無端状のベルトと、前記ベルトの張力を変化させる張力変更手段とを備えており、前記クランクプーリ及び前記車輪用プーリの一方が、前記ベルトの張力によってその前記ベルトが懸架される部分の径が変動する可変プーリにより構成されており、前記可変プーリは、前記ベルトが懸架される部分の径が大きくなるように付勢力を与える第一の付勢手段を備え、前記張力変更手段は、所定の支点を中心として揺動可能に構成されたアームと、前記アームに接続されており、前記ベルトが懸架されるテンションプーリと、前記アームに付勢力を与える第二の付勢手段とを有している自転車用無段変速装置であることから、ペダルの踏み込み力が負荷に応じて自動的に変化することになり、煩わしい手動での変速操作を伴うことなく、常に踏み込み力の変化を最小にしながら走行が可能となる効果がある。
【0015】
請求項2に記載の発明によると、前記ベルトがその内周側ほど幅が小さくなったVベルトであって前記可変プーリが、前記ペダルの回転軸の延在方向に配列されることによって互いに対向しており、前記ベルトの回転軸と一体的に回転するとともに、前記ペダルの回転軸の延在方向に相対移動可能に構成された二つのプーリ片と、前記二つのプーリ片の少なくとも一方を、前記二つのプーリ片が互いに近づく方向に付勢する付勢手段とを備えており、前記二つのプーリ片は、前記ベルトが懸架される部分の径が、互いの対向面に近い部分ほど小さくなっている請求項1に記載の自転車用無段変速装置であることから、ベルト張り側張力と前記付勢手段の付勢力との関係によって、プーリ径が自動的に変化し、変速を行うことが可能となる効果がある。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、前記可変プーリとVベルトを使用し、可変プーリであるクランクプーリを有するクランク軸の駆動力を車輪に伝える自転車用無段変速装置であって、前記クランクプーリは、回転軸に固定されている固定プーリ片と、回転軸に対し固定プーリ片へ向け回転軸に沿って進退可能かつ軸周方向には回転しないように取り付けられている可動プーリ片とを備え、前記可動プーリ片には、固定プーリに向け付勢力を与える第一の付勢手段を有し、車輪には少なくともVベルトを懸架した車輪プーリ、アイドラープーリ、及びテンションプーリを有し、前記テンションプーリとアイドラープーリとが該テンションプーリがクランクから離れるように第二の付勢手段で付勢したアームによって連結され、テンションプーリの位置が該付勢手段による付勢力とベルト張力との力の差によって、クランク軸と車輪軸間で可変となる自転車用無段変速装置であることから、請求項3に記載の効果と同様、ベルト張り側張力と前記付勢手段の付勢力との関係によって、プーリ径が自動的に変化し、変速を行うことが可能となる効果がある。
さらに、ベルトの張り側張力と緩み側張力の張力差が小さくなり、登坂時においても、過度の踏み込み力が不要となる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から3のいずれかに記載の無段変速装置を備えた自転車であることから、一つのベルトシステムのみで無段変速が可能で、コンパクトな無段変速装置を搭載することから、自転車の重量も増加しないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における実施の形態に係る自転車の概略構成図であり、(a)が、アームが最大限時計回りに揺動した状態、(b)が、アームが最大限反時計回りに揺動した状態をそれぞれ示している。
【図2】図1(a)を矢印2の方向から見た図である。
【図3】図1(b)を矢印3の方向から見た図である。
【図4】クランク側を拡大した図である。
【図5】車輪側を拡大した図である。
【図6】実施例の自転車を用い、踏み込み力300Nでスタートし、6秒後に70Nに弱めたときの経過時間と増速比との関係を示したグラフである。
【図7】実施例の自転車を用い、踏み込み力300Nでスタートし、6秒後に70Nに弱めたときの経過時間と車速との関係を示したグラフである。
【図8】実施例の自転車を用い、2%勾配の下り坂を踏み込み力120Nで下り、6秒後3%勾配の上り坂を踏み込み力200Nで登ったときの経過時間と増速比との関係を示したグラフである。
【図9】実施例の自転車を用い、2%勾配の下り坂を踏み込み力120Nで下り、6秒後3%勾配の上り坂を踏み込み力200Nで登ったときの経過時間と車速との関係を示したグラフである。
【図10】比較例の自転車を用い、踏み込み力300Nでスタートし、6秒後に70Nに弱めたときの経過時間と増速比との関係を示したグラフである。
【図11】比較例の自転車を用い、踏み込み力300Nでスタートし、6秒後に70Nに弱めたときの経過時間と車速との関係を示したグラフである。
【図12】比較例の自転車を用い、2%勾配の下り坂を踏み込み力120Nで下り、6秒後3%勾配の上り坂を踏み込み力200Nで登ったときの経過時間と増速比との関係を示したグラフである。
【図13】比較例の自転車を用い、2%勾配の下り坂を踏み込み力120Nで下り、6秒後3%勾配の上り坂を踏み込み力200Nで登ったときの経過時間と車速との関係を示したグラフである。
【図14】変形例1の図2相当の図である。
【図15】変形例1の図3相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る自転車の一部を示す概略構成図であり、(a)が、後述するアーム16が最大限時計回りに揺動した状態、(b)が、アーム16が最大限反時計回りに揺動した状態それぞれ示している。図2は図1(a)を矢印2の方向から見た図である。図3は図1(b)を矢印3の方向から見た図である。但し、図面を分かり易くするため、図2、図3においては、後述する、アイドラープーリ7、テンションプーリ8、アーム16などの図示を省略している。
【0021】
図1から図3に示すように、自転車1は、ペダル2及び車輪3と、ペダル2の回転を車輪3に伝達するためのベルト4、クランクプーリ5、車輪用プーリ6、アイドラープーリ7及びテンションプーリ8とを有している。ペダル2及び車輪3の構成は、従来の自転車のものと同様であるので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0022】
ベルト4は、クランクプーリ5、車輪用プーリ6、アイドラプーリ7及びテンションプーリ8に懸架された無端状のベルトであり、図2、図3に示すように、内周側の部分ほどその幅が狭くなった略台形の断面形状を有するいわゆるVベルトである。
【0023】
クランクプーリ5は、ペダル2の回転軸2aと接続されており、ペダル2を回転させると、回転軸2aとともにクランクプーリ5が回転する。又、クランクプーリ5は、いわゆる可変プーリであって、二つのプーリ片11、12及びバネ13を有している。
【0024】
車輪用プーリ6は、車輪の回転軸3aにボルト14により固定されており、車輪用プーリ6が回転することにより車輪3が回転する。
【0025】
二つのプーリ片11、12は、ペダル2の回転軸2aの延在方向(図2、図3の左右方向)に配列されることで互いに対向しており、ペダル2の回転軸2aと一体に回転可能となっている。回転軸3aと一体に回転する。又、プーリ片11、12は、互いの対向面に近い部分ほどその径が小さくなっている。つまり、プーリ片11は図2、図3の右側の部分ほどその径が小さくなっており、プーリ片12は、図2、図3の左側の部分ほどその径が小さくなっている。そして、ベルト4は、プーリ片11、12のこの径が変化している部分に懸架される。
【0026】
プーリ片11は、自転車1に固定されており、プーリ片12は、回転軸3aの延在方向(図2、図3の左右方向)に移動可能となっている。すなわち、プーリ片11とプーリ片12とは、回転軸3aの延在方向に相対移動可能となっている。バネ13は図2、図3におけるプーリ片12の右側に配置されており、プーリ片12をプーリ片11に向かって図2、図3の左方に(プーリ片11とプーリ片12とが互いに近づく方向に)付勢している。
【0027】
これにより、クランクプーリ5においては、後述するようにベルト4の張力が小さい場合には、バネ13の付勢力によりプーリ片12がプーリ片11に近づき(図2、図3の左方に移動し)、これより、ベルト4が車輪用プーリ6の外周側に押し出され、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径が大きくなる。
【0028】
一方、ベルト4の張力が大きくなると、プーリ片12はベルト4によりその内周側に押され、これにより、バネ13の付勢力に抗してプーリ片11から離れる(図2、図3の右方に移動する)。これにより、ベルト4がクランクプーリ5の内周側に食い込み、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径が小さくなる。
【0029】
アイドラープーリ7は、連結部材15により、車輪用プーリ6に固定されている。テンションプーリ8は、アーム16により、アイドラープーリ7と連結されている。
【0030】
アーム16は、アイドラープーリ7の中心に位置する支点16aを中心として、図1(a)に示す位置と図1(b)に示す位置との間で揺動可能となっている。そして、アーム16が揺動するのに連動して、アーム16に連結されたテンションプーリ8も支点16aを中心として揺動する。
【0031】
そして、アーム16が図1の反時計回りに揺動して図1(b)に示す位置に近づくほど、ベルト4が、テンションプーリ8によりその外周側に大きく押し広げられ、その結果、ベルト4の張力が大きくなる。
【0032】
このように、本実施の形態では、ベルト4が懸架されたテンションプーリ8と接続されたアーム16を揺動させることにより、ベルト4の張力を容易に変化させることができる。又、アーム16の支点16aがアイドラープーリ7の中心に位置しているので、自転車1の構成が簡単になる。
【0033】
次に、アーム16を揺動させる揺動ユニットについて説明する。アーム16は、第二の付勢手段として、ねじりバネ21が使用される。第二の付勢手段としては、ねじりバネに限らず、エアーシリンダー等のエアーバネ、圧縮バネ、引張りバネ、板バネ等が使用されるが、これらに限定されない。
【0034】
ねじりバネ21は、アーム16を後輪側に付勢するように設置してあり、自転車のスタート時はペダルを強く踏み込むことにより、ベルト張り側26の張力が大きくなり、その分ベルト緩み側28の張力が増加する。
【0035】
自転車の加速が終了し、一定速度での走行に移行するとペダル踏み込み力が小さくなる為、ベルト張り側26の張力が小さくなり、その分ベルト緩み側28のベルト張力が増加することから、ベルト緩み側28の張力がねじりバネ21の付勢力を上回る為、アーム16が時計回転し、図1(a)の位置に近づく。そのため、ベルト緩み側28のベルト張力が減少する。
【0036】
次に、自転車1における変速動作について説明する。自転車1は、停止時においては、図1(b)、図2に示すように、アーム16が最大限、図1の反時計回りに揺動した状態となっており、ベルト4の張力が最大限大きくなっている。これにより、図2に示すように、クランクプーリ5を構成するプーリ片12がバネ13の付勢力に抗して最大限プーリ片11から離れて位置しており、ベルト4は、最大限プーリ片11、12の内周側に食い込んでいる。即ち、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径が最小となっている。
【0037】
停止した状態の自転車1を発進させる場合や、車輪3の回転速度が遅い場合などには、ペダル2を回転させる為に比較的大きな力が必要になるが、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径が最小となっているため、車輪用プーリ6の径に対するクランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径の比が小さくなっている。これにより、ペダル2の回転量に対する車輪用プーリ6の回転量が小さくなる為、ペダル2を回転させる為に必要な力が小さくなる。
【0038】
そして、車輪3の回転速度が所定の回転速度よりも遅いときには、この状態を保持し、車輪3の速度が所定の回転速度以上となったときに、車輪3の回転速度が速くなる程、アーム16を大きく図1の時計回りに揺動させて図1(a)図8に示す状態に近づける。そして、アーム16を大きく図1の時計回りに揺動させるほど、ベルト4の張力が小さくなり、プーリ片12がバネ13の付勢力によりプーリ片11に近づく(図2、図3の左方に移動する)。これにより、ベルト4がプーリ片11、12により押し出され、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径が大きくなる。その結果、車輪用プーリ6の径に対するクランクプーリ5のベルト4が懸架される部分の径の比が大きくなる。
【0039】
そして、車輪用プーリ6の径に対するクランクプーリ5のベルト4が懸架される部分の径の比が大きくなると、クランクプーリ5(ペダル2)の回転量に対する車輪用プーリ6(車輪3)の回転量が大きくなり、ペダル2の回転速度を増加させたときに、車輪3の回転速度を大きく増加させることが可能となる。
【0040】
以上に説明した実施の形態によると、停止した状態の自転車1を発進させる場合や、登り坂にかかって車輪3の回転速度が遅い場合には、ペダル2を回転させる為に比較的大きな力が必要となるが、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径が最小となっているため、クランクプーリ5におけるベルト4が懸架される部分の径に対する車輪用プーリ6の径の比が大きくなる。これにより、クランクプーリ5(ペダル2)の回転量に対する車輪用プーリ6(車輪3)の回転量が小さくなるため、ペダル2を回転させるために必要な力が小さくなる。
【0041】
又、ベルト4が懸架されたテンションプーリ8と接続されたアーム16を揺動させることにより、ベルト4の張力を容易に変化させることができる。又、このとき、アーム16の支点16aがアイドラプーリ7の中心に位置しているので、自転車1の構成が簡単になる。
【0042】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。但し、本実施の形態と同様の構成を有する部分については同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0043】
上述の実施の形態では、クランクプーリ5が可変プーリとなっていたが、これには限られない。一変形例では、図12、図13に示すように、クランクプーリ35は通常のプーリであり、車輪用プーリ36が、二つのプーリ片41、42及びバネ43を有する可変プーリとなっている。
【0044】
プーリ片41、42及びバネ43は、それぞれ、プーリ片11、12及びバネ13(図2、図3参照)と同様の構成を有するものである。すなわち、二つのプーリ片41、42は、回転軸3aの延在方向(図12、図13の左右方向)に配列されることで互いに対向しており、回転軸3aと一体に回転する。又、プーリ片41、42は、互いの対向面に近い部分ほどその径が小さくなっており、ベルト4は、プーリ片41、42のこの部分に懸架される。プーリ片41は、自転車1に固定されており、プーリ片42は、回転軸3aの延在方向(図12、図13の左右方向)に移動可能となっている。つまり、プーリ片41とプーリ片42とは、回転軸3aの延在方向に相対移動可能となっている。バネ43はプーリ片42の右側に配置されており、プーリ片42をプーリ片41に向かって図12、図13の左方に付勢している。
【0045】
これにより、車輪用プーリ36においては、ベルト4の張力が小さい場合には、バネ43の付勢力によりプーリ片42がプーリ片41に近づき(図12、図13の左方に移動し)、これにより、ベルト4が車輪用プーリ36の外周側に押し出され、車輪用プーリ36におけるベルト4が懸架される部分の径が小さくなる。(変形例1)。
【0046】
この場合には、自転車1における変速動作は上述の実施の形態とは逆になる。すなわち、自転車1の停止時においては、図1(a)、図12に示すように、アーム16が最大限、図1の時計回りに揺動した状態となっており、ベルト4の張力が最小となっている。これにより、図12に示すように、車輪用プーリ36を構成するプーリ片42がバネ43の付勢力によりプーリ片41に当接している、つまり、最大限プーリ片41に近接している。従って、ベルト4が、車輪用プーリ36の外周側に最大限押し出された状態となり、車輪用プーリ36におけるベルト4が懸架される部分の径が最大となっている。
【0047】
停止した状態の自転車1を発進させる場合や、車輪3の回転速度が遅い場合などには、ペダル2を回転させるために比較的大きな力が必要となるが、車輪用プーリ36におけるベルト4が懸架される部分の径が最大となっている為、車輪用プーリ36におけるベルト4が懸架される部分の径に対するクランクプーリ35の径の比が小さくなる。これにより、クランクプーリ35(ペダル2)の回転量に対する車輪用プーリ36(車輪3)の回転量が小さくなり、その結果、ペダル2を回転させる為に必要な力が小さくなる。
【0048】
但し、この状態では、クランクプーリ35(ペダル2)の回転量に対する車輪用プーリ36(車輪3)の回転量が小さい為、ペダル2の回転速度を上げても、車輪3の回転速度はそれほど大きくは増加しない。
【0049】
又、上述の実施の形態では、アーム16の支点16aが、アイドラプーリ7の中心に位置していたが、アーム16の支点16aが他の位置にあってもよい。
【0050】
又、上述の実施の形態では、ベルト4が懸架されたテンションプーリ8と接続されたアーム16を揺動させることにより、ベルト4の張力を変化させたが、これには限られず、別の方法によりベルト4の張力を変化させても良い。
【0051】
又、以上の説明では、ベルト4がVベルトであり、可変プーリが、二つのプーリ片及びバネを有する構成となっていたが、これには限られず、例えば、ベルト4の張力が大きくなるほど、可変プーリの径が小さくなるように変形するなど、ベルト4の張力が大きさに応じてベルト4の可変プーリに懸架される部分の径が変化するように構成されていれば、ベルト4及び可変プーリの構成は上述したのとは異なっていてもよい。
【実施例】
【0052】
本発明を図に示した実施例に基づき詳細に説明する。
自転車のクランク軸1のクランクプーリ5は、固定側のプーリ片11と可動側のプーリ片12を有している。可動側のプーリ片12はバネ13によってベルト4の側面に押し付けられている。固定側のプーリ片11にピン25が取り付けられており、可動側のプーリ片12には軸方向に対して斜めに設けられたガイド溝27が設けられており、ピン25に沿って摺動する。車輪軸29には車輪用プーリ6が取り付けられており、ベルトによる駆動力を車輪3に伝達する。自転車本体1には連結部材15が取り付けられており、ねじりバネ21を介してアーム16が連結されている。連結部材15にはアイドラプーリ7が装着されており、アーム16先端にはテンションプーリ8が装着されている。
又、比較例としては、変速ギアを有していなく、クランクプーリと後輪との回転比が変わらない自転車を用いた。実施例及び比較例の仕様を表1に示す。又、実施例の自転車でのスタート時の速比変化及び車速変化の結果を図6及び図7に示す。又、比較例の自転車でのスタート時の速比変化及び車速変化の結果を図10及び図11に示す。又、実施例の自転車で上り坂を登ったときの速比変化及び車速変化の結果を図8及び図9に示す。比較例の自転車で上り坂を登ったときの速比変化及び車速変化の結果を図12及び図13に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
図6は、実施例の自転車を用い、踏み込み力300Nでスタートし、6秒後に70Nに弱めたときの経過時間と増速比との関係を示したグラフである。自転車のスタート時はペダルを強く踏み込むことにより、ベルト張力が大きくなり、可動プーリ片への圧力が高まり、バネ13が圧縮され可動プーリ片が移動し、プーリ幅が広くなることでベルトが落ち込みプーリピッチ径が小さくなる。そのことにより、後輪の回転数が小さくなり、増速比も小さくなる。このことより、加速時の踏み込み力を軽減する。加速が終了し一定速度での走行に移行するとペダル踏み込み力は小さくなる為、可動プーリ片に掛かる圧力が減少しバネ13の力によって、可動プーリ片は固定プーリ片に近づく方向に移動し、ベルトが押し上げられプーリピッチ径が大きくなる。このことから増速比も大きくなる。又、図7の結果から、実施例ではスタート時にスタートから6秒後に車速13.5m/sに到達している。比較例では図10及び図11の結果から増速比は一定であり、実施例と同等の車速に達するのに8.5秒を要しているのがわかる。又、登坂時には実施例では図8のように、坂を踏み込み力120Nでペダルを踏み込むと、スタート時と同様にベルト張力が大きくなり、ベルトがプーリに落ち込むことからプーリピッチ径が小さくなり、増速比も小さくなる。又、6秒後に上り坂に差し掛かり、踏み込み力を200Nに上げるとさらにベルト張力が大きくなり、さらに可動プーリ片が固定プーリ片から離れベルトが落ち込みプーリピッチ径が小さくなる。増速比もそれにつれて小さくなり、登坂時の踏み込み力を軽減する。又、図9の結果から実施例は登坂開始から200Nの踏み込み力で一定速度を保って走行が可能であるが、比較例では増速比が変わらず、図13のように200Nの踏み込み力では徐々に車速が低下してくるのがわかる。
【符号の説明】
【0055】
1 自転車
2 ペダル
2a 回転軸
3 車輪
3a 回転軸
4 ベルト
5 クランクプーリ
6 車輪用プーリ
7 アイドラプーリ
8 テンションプーリ
11、12 プーリ片
13 バネ
14 ボルト
15 連結部材
16 アーム
16a 支点
19 回転速度センサ
20 揺動制御装置
21 ねじりバネ
25 ピン
26 ベルト張り側
27 ガイド溝
28 ベルト緩み側
29 車輪軸
35 クランクプーリ
36 車輪用プーリ
41、42 プーリ片
43 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車に用いられる無段変速装置であって、
前記自転車のペダルの回転軸と共に回転するクランクプーリと、
前記自転車の車輪の回転軸と共に回転する車輪用プーリと、
前記クランクプーリ及び前記車輪用プーリに懸架された無端状のベルトと、
前記ベルトの張力を変化させる張力変更手段とを備えており、
前記クランクプーリ及び前記車輪用プーリの一方が、前記ベルトの張力によってその前記ベルトが懸架される部分の径が変動する可変プーリにより構成されており、
前記可変プーリは、前記ベルトが懸架される部分の径が大きくなるように付勢力を与える第一の付勢手段を備え、
前記張力変更手段は、所定の支点を中心として揺動可能に構成されたアームと、
前記アームに接続されており、前記ベルトが懸架されるテンションプーリと、
前記アームに付勢力を与える第二の付勢手段とを有していることを特徴とする自転車用無段変速装置。
【請求項2】
前記ベルトがその内周側ほど幅が小さくなったVベルトであって
前記可変プーリが、
前記ペダルの回転軸の延在方向に配列されることによって互いに対向しており、前記ベルトの回転軸と一体的に回転するとともに、前記ペダルの回転軸の延在方向に相対移動可能に構成された二つのプーリ片と、
前記二つのプーリ片の少なくとも一方を、前記二つのプーリ片が互いに近づく方向に付勢する付勢手段とを備えており、
前記二つのプーリ片は、前記ベルトが懸架される部分の径が、互いの対向面に近い部分ほど小さくなっている請求項1に記載の自転車用無段変速装置。
【請求項3】
前記可変プーリとVベルトを使用し、可変プーリであるクランクプーリを有するクランク軸の駆動力を車輪に伝える自転車用無段変速装置であって、前記クランクプーリは、回転軸に固定されている固定プーリ片と、回転軸に対し固定プーリ片へ向け回転軸に沿って進退可能かつ軸周方向には回転しないように取り付けられている可動プーリ片とを備え、前記可動プーリ片には、固定プーリに向け付勢力を与える第一の付勢手段を有し、車輪には少なくともVベルトを懸架した車輪プーリ、アイドラープーリ、及びテンションプーリを有し、前記テンションプーリとアイドラープーリとが該テンションプーリがクランク軸から離れる方向に第二の付勢手段で付勢したアームによって連結され、テンションプーリの位置が該付勢手段による付勢力とベルト張力との力の差によって、クランク軸と車輪軸間で可変となることを特徴とする自転車用無段変速装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の無段変速装置を備えた自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−167976(P2010−167976A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13817(P2009−13817)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)