説明

臭素系難燃剤の簡易検知器、簡易検知装置および簡易検知法

【課題】液状被検体の簡便な分析手法である薄層クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィーなどの面状クロマトグラフィーの欠点を改良して、検知の準備・操作にかかる手間をなるべく少なくし、我々の生活空間に存在する臭素系難燃剤の種類を特定できる臭素系難燃剤の簡易検知器、簡易検知装置および簡易検知法を提供する。
【解決手段】臭素系難燃剤を吸着して検知する吸着相部分を有する展開体を備える臭素系難燃剤の簡易検知器での前記展開体が、下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量にスポット付けするための変異部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭素系難燃剤の簡易検知器、簡易検知装置および簡易検知法に関するものである。さらに詳しくは平面クロマトグラフィーの原理を面状の固定相で用いた高沸点臭素系化合物を含む混合物の分離・定性を行う簡易検知器、簡易検知装置および簡易検知法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants、以下「POPs」と略記する)は、環境中で分解されにくく、生物体内に蓄積しやすく、長距離移動が懸念され、一旦環境中に排出されると人の身体に有害な影響を及ぼすおそれがある有機化学物質である。このような性質を持つ化学物質の例として、ダイオキシン類、PCB (ポリ塩化ビフェニル)、DDTなどを挙げることができるが、最近、一部の臭素系難燃剤も「残留性有機汚染化学物質に関するストックホルム条約」の附属書に追加されることが決定した。
【0003】
POPs対策は世界的に進められており、国連環境計画(UNEP)を核として、各国関係官庁、政府間組織、非政府組織(NGO)、産業界などが協力して対策に取り組んでいるが、2001年5月、ストックホルムで行われた外交会議で「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」が採択され、2004年5月に発効し、現在、160か国以上が締結している。2009年5月に開かれた第4回締約国会議で、条約発効時から附属書に記載された12物質に加えて、新規9物質の附属書への追加掲載が決定された。
【0004】
この中に臭素系難燃剤である、テトラブロモジフェニルエーテルおよびペンタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモビフェニル、ヘキサブロモジフェニルエーテルおよびヘプタブロモジフェニルエーテルが含まれており、さらに、2009年10月に開催された残留性有機汚染物質検討委員会では、ヘキサブロモシクロドデカン(以下「HBCD」と言う)などが取り上げられ、条約対象物質として追加するための検討が行なわれた。
【0005】
一方、日常生活で、臭素系難燃剤の入ったプラスチックは電子機器のハウジングなどに広く使われており、火災防止に役立っている。具体的には、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)が、ABS、エポキシ樹脂、フェノール樹脂に、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)が発泡ポリスチレンに、ビス(テトラブロモイミド)エタンがポリスチレン、ポリオレフィンに、TBBA−ポリカーボネート・オリゴマーがポリカーボネート、ポリエステルに、TBBA−エポキシ・オリゴマーがABS、ポリスチレン、ポリエステルに、臭素化ポリスチレンがポリアミドに、ビス(ペンタブロモフェニル)エタンがポリスチレン、ポリオレフィンに、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)がポリスチレンに主として使用されている。さらに、使用量はそれほど多くはないが、デカブロモジフェニルエーテル(Deca−BDE)は、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルに使われ、ヘキサブロモベンゼンはポリウレタン、エポキシ樹脂に使用されている。
【0006】
また新たな臭素系難燃剤が「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の対象物質に追加されると、主要なプラスチック難燃剤として使われなくなることは明らかである。注目すべきは、2009年10月、残留性有機汚染物質検討委員会で検討されたヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)で、将来、規制対象物質になる可能性が高いとも言われている。この物質は、主として建材用の発泡ポリスチレンに世界中で使用されている。このように、広くプラスチックスに使用された臭素系難燃剤が、新たに規制対象物質となる可能性があるので、輸入品の検査、廃棄物処理などの過程で、特定の臭素系難燃剤がどのプラスチックに含有されているかを知ることのできる簡便な現場検知手段が必要となっている。
【0007】
ところで、従来は臭素系難燃剤の分析手法として、「エネルギー分散型蛍光X線分析装置」(EDXRF) が一次スクリーニング装置として用いられるのが一般的である(非特許文献1参照)。しかし、このX線による方法はで有害元素である臭素元素を検知することが可能であるが分子構造を特定することができない。したがって、臭素を含有していることはわかるが、検査対象物質がどんな種類の臭素系化合物であるかを判定することは困難であるとの問題点が指摘されている。
【0008】
また、二次スクリーニングとして、フーリエ変換型赤外分光計(FT−IR)に全反射法(ATR)のアクセサリーを搭載したシステムが、臭素系難燃剤の簡易分析装置として提案されている。しかし、プラスチック材料によっては、材料自身による強い赤外光吸収のために、臭素元素による吸収光を測定することが困難となり、さらに、この方法による検知限界は約3パーセントであるので対象プラスチックが限定されるとの問題点が指摘されている(非特許文献2参照)。
【0009】
臭素系難燃剤を分析し臭素系難燃剤の種類を特定できる、より高精度の分析手法として、「ガスクロマトグラフ質量分析装置」(GC/MS)、または「液体クロマトグラフ質量分析装置」(LC−MS)などがある。しかし、液体クロマトグラフ質量分析装置はかなり大型で高価でありさらに専門家による煩雑な操作が必要なため、液体クロマトグラフ質量分析方法は簡易分析とは言えないとの、問題点が指摘されている。
【0010】
ここで、被検体が液体である高沸点化合物の簡便な分離・定性手段として、広義の液体クロマトグラフィーである平面クロマトグラフィー(薄層クロマトグラフィーおよびペーパークロマトグラフィー)が挙げられる。以後、平面クロマトグラフィーの原理を、平面だけでなく曲面にも適用したものを面状クロマトグラフィーという。
【0011】
ところで、薄層クロマトグラフィーの実際の使用には、吸着剤を塗布・乾燥して形成した吸着相部分となる薄膜層とこの薄膜層が担持された担持体からなる展開体の用意が必要である。さらに展開体を入れる保持ケース、展開溶媒液の容器と展開容器、さらに臭素系難燃剤を含む試料のスポット付け具からなる検知用具一式が必要であり、検知の準備・操作に手間がかかるという問題点が指摘されている(特許文献1を参照)。
【0012】
また、簡便なクロマトグラフィー法としてのペーパーを面状吸着相部分としたペーパークロマトグラフィーでは前記の吸着剤の塗布、乾燥により薄膜層を形成する必要性はないが、やはり検知の準備・操作に手間がかり、適量試料のスポット付けは熟練を要する。
【0013】
従来、液体試料のスポット付けは、キャピラリーによることが多く、試料を吸い込んでしまうという危険性もあって不慣れなものには適宜な場所への適量のスポット付けが難しいことが簡便な面状クロマトグラフィーによる臭素系難燃剤検知の実現の障害になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−344380公開公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「EU規制に対応した環境負荷物質の分析技術」JFEテクノリサーチ株式会社、JFE技報No.13, p75−81 (2006)
【非特許文献2】「プラスチック中の臭素系難燃剤の分析」サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、Signal−to−News(IR/Raman Customer News Letter), M05011(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来技術で説明したように、液状被検体の簡便な分析手法と言われる薄層クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィーなどの面状クロマトグラフィーでも、実際に使用するに際しては、さまざまな準備が必要になる。そこで、本発明の目的は、従来の面状クロマトグラフィーの欠点を改良して、検知の準備・操作にかかる手間をなるべく少なくし、展開後に、簡便に臭素系難燃剤の相対移動距離(原点から成分のスポット中心までの距離/原点から溶媒先端までの距離、以下「Rf値」と言う)を求め、我々の生活空間に存在する臭素系物質の種類を特定できる簡易検知器、簡易検知装置および簡易検知法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載された面状クロマトグラフィー法で臭素系難燃剤を検知する臭素系難燃剤の簡易検知器は、少なくとも臭素系難燃剤を吸着して検知する吸着相部分を有する展開体を備える臭素系難燃剤の簡易検知器であって、前記展開体が、下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量にスポット付けするための変異部分を有することを特徴としている。
【0018】
ここで、薄層クロマトグラフィー法及びペーパークロマトグラフィー法をも含む面状クロマトグラフィー法では、吸着相部分が面状であれば平面でも曲面でもよい。かかる面状クロマトグラフィー法において、吸着相部分を有する展開体の下部を展開溶媒に浸して展開する前に、予め吸着相部分の下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量置く作業(以下、「スポット付け」と言う)が必要となるが、本発明では展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量にスポット付けするために設けられた変異部分の存在により、被検体試料の位置と量を適宜に保ち易くなる。ここに下端から所定の距離だけ離れた位置は、後述する展開液の種類、取り扱いの容易さなどにより定まる。以下、変異部分について「所定の距離」と記す場合は、「展開体下端から変異部分下端までの距離」を表わす。
【0019】
請求項2に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置で展開体を上下に分離するように区画した前記展開体の上方部分に位置する上部展開体の下端の一部が凸型に成型され、前記展開体を上下に分離するように区画した前記展開体の下方部分に位置する下部展開体の上端の一部が前記上部展開体の凸型に対応した凹型に成型されていることを特徴としている。下部展開体は上部展開体を支持する役割があるが、厚みが十分でないときは、下部展開体に上部展開体の背面に上方へ立ちあがる背もたれ部を設けると上部展開体の支持が安定する。また、展開体を背面から支持する支持体を別に設けてもよい。
【0020】
この臭素系難燃剤の簡易検知器は、展開体が上下に2枚に分離するように区画されて、上部展開体の下端の一部が凸型に成型されているので、この凸型部分を有する上部展開体を取り出して液体状の被検体試料中に浸すことで、容易に適量の被検体試料のスポット付けが可能になる。
【0021】
請求項3に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1に記載された簡易検知器において前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置において前記展開体が前記吸着相部分側から見て略U字型に前記展開体を貫通するように加工され、前記略U字型の一端が前記展開体に連続しているように形成されていることを特徴としている。略U字型の向きは任意であるが、U字型の向きは基板に連続している部分が上方になることがスポット付けの観点からは好ましい。ここで、下端から所定の距離だけ離れた位置は略U字型の先端と展開体の下端の距離である。
【0022】
上記の加工後の展開体の略U字型に打ち抜かれた部分の他端をピンとして展開体の背面に引き出して、ピンの先端を被検体試料に浸したり、ピンと展開体背面との空間に試料をスポイトなどで載せることで、適量の試料を吸着相部分に載せることができる。そして、試料を載せた後で、引き出した下端を元の位置へ戻すことで適量の試料がスポット付けされた状態の展開体が用意されることとなる。ペーパークロマトグラフィー法では吸着相部分に濾紙を使うことが一般的だが、濾紙の背面に固めの紙を当てて一体化してもよい。
【0023】
請求項4に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置において前記展開体に穴状部分が形成されていることを特徴としている。
【0024】
穴状に形成されている部分、具体的には穴や窪みに、スポイトなどで被検体試料を置くと、穴状に形成されている部分の大きさと穴状に形成されている部分の深さで決まる分量の被検体試料が保持されて、吸着相部分へ毛細管現象で吸収されて適量のスポット付けが行われる。
【0025】
請求項5に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし4の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記面状クロマトグラフィー法が薄層クロマトグラフィー法であり、前記展開体が前記吸着相部分となる薄膜層と該薄膜層を担持する担持体とからなることを特徴としている。
【0026】
前記展開体が前記吸着相部分となる薄膜層と該薄膜層を担持する担持体とからなるので、吸着相部分となる薄膜層および担持体の材料を適宜に選択することが可能となる。
【0027】
請求項6に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし4の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記面状クロマトグラフィー法がペーパークロマトグラフィー法であり、前記展開体が紙からなることを特徴としている。
【0028】
展開体が紙でできているので、展開体を安価に用意することができる。
【0029】
請求項7に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし6の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、複数の前記展開体を備え、前記吸着相部分を外向きにし、前記吸着相部分の背面を内向きに配置されていることを特徴としている。
【0030】
吸着相部分を外向きになるように複数の展開体を配置することで、外から吸着相部分を観察することが可能となり、一度に複数の被検体試料の展開が可能となる。複数の展開体にそれぞれ被検体試料を置くことで、複数の測定を同時に行えるので被検体試料のRf値の測定精度を上げることができる。
【0031】
請求項8に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし7の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記展開体を前記吸着相部分の背面側で支持する支持体をさらに備えることを特徴としている。
【0032】
薄い展開体を用いたときは、展開体を支えるために支持体により背面から支持することで、安定した展開をすることができる。
【0033】
請求項9に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項2を引用する請求項8に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記支持体が、前記下部展開体と一体化され、前記上部展開体の背面に沿って上方に延在し、その延在部で前記上部展開体を支持していることを特徴としている。
【0034】
支持体が、前記下部展開体と一体化され、前記上部展開体に沿って上方に延在し、その延在部で前記上部展開体を支持しているので、上部展開体を安定して下部展開体の上方に位置させることができる。
【0035】
請求項10に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし請求項9何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、少なくとも前記変異部分より上方に位置する前記吸着相部分が、前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質を含有することを特徴としている。
【0036】
少なくとも前記変異部分より上方に位置する前記吸着相部分が予め前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質を含有しているので、呈色反応する化学物質の使用が減るとともに展開後の呈色反応を得る作業が不要になる。
【0037】
また、請求項11に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質が、(1) 前記吸着相部分で分解して分散するか、臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する硝酸化合物、(2) 臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する金属の微粒子、又は(3)臭素化合物と反応して着色する酸化剤若しくは指示薬であることを特徴としている。
【0038】
請求項11に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、吸着相部分が上記のような臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質を含有しているので、展開後に改めて、基板を容器から取り出して、呈色反応する化学物質を基板に噴霧するなどの作業が不要になる。
【0039】
請求項12に記載された臭素系難燃剤の簡易検知装置は、請求項1ないし11の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器および該簡易検知器を内部に収められる透明容器を備える簡易検知装置であって、前記簡易検知器が非使用時に透明あsd容器の中で保持され、使用時に前記透明容器から出し入れできるように構成されていることを特徴としている。
【0040】
例えば、不活性なガスで充填されたガラスなどの透明容器中に密封された臭素系難燃剤の簡易検知器は、使用時に透明容器をヤスリなどで切断して開封されるまでは基板が不活性ガス中に置かれるので保存時に周囲環境の影響を受け難くなる。
【0041】
請求項13に記載された臭素系難燃剤の簡易検知装置は、請求項12に記載の臭素系難燃剤の簡易検知装置であって、さらに前記透明容器の上下方向に目盛りが備えられことを特徴としている。試料の特定を行うには、展開後のスポット位置を知る必要があるが、本発明の臭素系難燃剤の簡易検知装置は展開体が収められた透明容器の上下方向に目盛りが備えられているので、展開後のスポット位置を容易に知ることができる。
【0042】
請求項14に記載された臭素系難燃剤の簡易検知装置は、請求項12又は13に記載の臭素系難燃剤の簡易検知装置において、さらに良溶媒と貧溶媒の混合溶媒である展開溶媒を備え、使用時に前記展開溶媒を前記透明容器の下方に注入して展開することを特徴としている。
【0043】
展開溶媒として良溶媒と貧溶媒の混合液を用いるので展開液の組成の自由度が増し、展開液を好適に選択することで被検体試料のRf値の測定精度の向上が図れる。
【0044】
請求項15に記載された臭素系難燃剤の簡易検知法は、請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器を用いる臭素系難燃剤の簡易検知法であって、
(1)被検体試料を前記変異部分にスポット付けする工程、(2)展開溶媒で展開後に前記展開体を乾燥させる工程、(3)乾燥させた前記展開体を親水性溶媒と接触させる工程、及び(4)前記展開体で展開された臭素系難燃剤を顕色させて検知する工程を含むことを特徴としている。
【0045】
上記の臭素系難燃剤の簡易検知法は、疎水性である臭素系難燃剤を展開後に、展開液を乾燥してから親水性溶媒、例えば水などに接触させると、吸着相部分に臭素系難燃剤が存在するか否かによる色の違いが生じることから、顕色により検知することができる。
【0046】
請求項16に記載された臭素系難燃剤の簡易検知法は、請求項10又は請求項11に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器を用いる臭素系難燃剤の簡易検知法であって、(1)被検体試料を前記変異部分にスポット付けする工程、(2)前記吸着相部分にスポット付けされた被検体試料を展開溶媒で展開する工程、及び(3)前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質により前記展開された臭素系難燃剤を呈色させて検知する工程を含むことを特徴としている。
【0047】
上記の臭素系難燃剤の簡易検知法は、吸着相部分が呈色反応する化学物質を含有しているので展開するだけでスポットが呈色反応をすることから、展開後に改めて呈色反応する化学物質の噴霧などをしないでも、スポットの位置を識別することができる。
【発明の効果】
【0048】
請求項1に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、少なくとも臭素系難燃剤を吸着して検知する吸着相部分を有する展開体を備える臭素系難燃剤の簡易検知器であって、前記展開体が、下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量にスポット付けするための変異部分を有するので被検体試料の位置と量を適宜に保つスポット付けが容易になることから不慣れな作業者も容易に臭素系難燃剤の検知作業をすることができる。
【0049】
請求項2に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置で展開体を上下に分離するように区画した前記展開体の上方部分に位置する上部展開体の下端の一部が凸型に成型され、前記展開体を上下に分離するように区画した前記展開体の下方部分に位置する下部展開体の上端の一部が前記上部展開体の凸型に対応した凹型に成型されているので、この凸型部分のみを取り出して液体状の被検体試料中に浸すことで、適量の被検体試料が吸着相部分に置かれることになり、従来、難しかった試料の適量をスポット付けが簡便化されることになり不慣れな作業者も容易に臭素系難燃剤の検知作業をすることができる。
【0050】
請求項3に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置において前記展開体が前記吸着相部分側から見て略U字型に前記展開体を貫通するように加工され、前記略U字型の一端が前記展開体に連続しているように形成されている。ここで、所定の距離は展開体の下端から略U字型に加工された部分の他端までとする。そうすると略U字型に加工された部分の他端をピン状に展開体の背面に引き出すことで形成される展開体背面との空間にスポイトなどで吸着相部分に試料を適量載せたり、ピンの先端を被検体試料に漬けて適量を載せることができる。試料を載せた後で、引き出した略U字型に加工された部分の他端を元の位置へ戻すことで適量の試料がスポット付けされた状態の展開体が用意されることから、スポット付け作業が容易になり、スポット付けの再現性が改善される。
【0051】
請求項4に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置において、前記展開体に穴状部分が形成されていることを特徴としているので、穴状部分に、スポイトなどで被検体試料を置くと、穴状部分の大きさと穴状部分の深さで決まる分量の被検体試料が保持されて、吸着相部分へ毛細管現象で吸収されて適量のスポット付けが行われることから、不慣れな作業者も検知作業を容易に行うことができる。
【0052】
請求項5に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし4の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記面状クロマトグラフィー法が薄層クロマトグラフィー法であり、前記展開体が前記吸着相部分となる薄膜層と該薄膜層を担持する担持体とからなるので、吸着相部分となる薄膜層および担持体の材料は、適宜に選択することが可能となり、多様な臭素系難燃剤に対応することができる。
【0053】
請求項6に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし4の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記面状クロマトグラフィー法がペーパークロマトグラフィー法であり、前記展開体が紙からなるので、展開体を簡便に用意することができ、コストダウンを図ることが容易になる。
【0054】
請求項7に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし6の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記吸着相部分を外向きにし、前記吸着相部分の背面を内向きにして、複数枚使用されている。吸着相部分を外向きになるように複数枚使用することで、外から吸着相部分を観察することが可能となり、一度に複数の被検体試料の展開が可能となる。複数の展開体にそれぞれ被検体試料を置くことで、複数の測定を同時に行えるので被検体試料のRf値の測定精度を上げることができることから、検知作業の効率化を図ることができる。
【0055】
請求項8に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし7の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記展開体を前記吸着相部分の背面側で支持する支持体をさらに備えるので、特に、薄い展開体を用いたときは、支持体を背面から当てることで、安定した展開をすることができる。
【0056】
請求項9に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項2を引用する請求項8に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記支持体が、前記下部展開体と一体化され、前記上部展開体の背面に沿って上方に延在し、その延在部で前記上部展開体を支持しているので、上部展開体を安定して下部展開体の上方に位置させることができることから、展開作業の効率化が図れる。
【0057】
請求項10に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、少なくとも前記変異部分より上方に位置する前記吸着相部分が、前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質を含有することを特徴としており、さらに、請求項11に記載された臭素系難燃剤の簡易検知器は、前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質が、(1) 前記吸着相部分で分解して分散するか、臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する硝酸化合物、(2) 臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する金属の微粒子、又は(3)臭素化合物と反応して着色する酸化剤若しくは指示薬であることを特徴としている。少なくとも前記変異部分より上方部分の吸着相部分が上記のような臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質を含有しているので、展開後に改めて、基板を容器から取り出して、呈色反応する化学物質を基板に噴霧するなどの作業が不要になり、臭素系難燃剤の検知作業の効率化が図れ、不慣れな作業者も検知作業を容易に行うことができる。
【0058】
請求項12に記載された簡易検知装置は、請求項1ないし11の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器および該簡易検知器を内部に収められる透明容器を備える簡易検知装置であって非使用時に透明容器の中で保持され、使用時に前記透明容器から出し入れできるように構成されていることを特徴としているので、例えば、不活性なガスで充填されたガラスなどの透明容器中に封入された簡易検知器は、使用時に透明容器をヤスリなどで切断して開封されるまでは基板が不活性ガス中に置かれることになり保存時に周囲環境の影響を受け難くなる。その結果、展開体をデシケータなどに保存するなどの特別な保存対策が不要となり、簡便な簡易検知器の取り扱いが可能となる。また、吸着相部分が安定に保たれるので測定の再現性が向上し全体として検知器の取り扱いが容易になる。
【0059】
請求項13に記載された臭素系難燃剤の簡易検知装置は、前記透明容器の上下方向に目盛りが備えられ、展開後の展開スポットの位置を容易に読み取ることができるようにしたので、臭素系難燃剤の検知を簡便に行うことができる。
【0060】
請求項14に記載された臭素系難燃剤の簡易検知装置は、請求項12又は13に記載の臭素系難燃剤の簡易検知装置において、さらに良溶媒と貧溶媒の混合溶媒である展開溶媒を備え、使用時に前記展開溶媒を前記透明容器内の下方に注入して展開することを特徴とする。ここで、良溶媒と貧溶媒の混合液を用いるので展開液の組成の自由度が増し、展開液を好適に選択することで被検体試料のRf値の測定精度の向上が図れる。測定精度の向上により臭素系難燃剤の識別を容易に行うことできることから、不慣れな作業者も容易に臭素系難燃剤の検知作業をすることができる。
【0061】
請求項15に記載された臭素系難燃剤の簡易検知法は、請求項1ないし請求項9の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器を用いる臭素系難燃剤の簡易検知法であって(1)被検体試料を前記変異部分にスポット付けする工程、(2)展開溶媒で展開後に前記展開体を乾燥させる工程、(3)乾燥させた前記展開体を親水性溶媒と接触させる工程、及び(4)前記展開体で展開された臭素系難燃剤を顕色させて検知する工程を含むことを特徴としているので、展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量にスポット付けすることが容易にできる。さらに、疎水性である臭素系難燃剤を展開後に、展開液を乾燥してから親水性溶媒、例えば水などに接触させることで吸着相部分に臭素系難燃剤が存在するか否かによる色の違いが生じることで顕色により検知することができることから、簡便に臭素系難燃剤の検知をすることができる。
【0062】
請求項16に記載された臭素系難燃剤の簡易検知法は、請求項10又は請求項11に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器を用いる臭素系難燃剤の簡易検知法であって、(1)被検体試料を前記変異部分にスポット付けする工程、(2)前記吸着相部分にスポット付けされた被検体試料を展開溶媒で展開する工程、及び(3)前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質により前記展開された臭素系難燃剤を呈色させて検知する工程を含むことを特徴としているので請求項10又は請求項11に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器の吸着相部分が呈色反応する化学物質を含有していることから、展開後に改めて呈色反応する化学物質の噴霧などをしないでも効率的に呈色反応を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】上下に区画された展開体の境界に変異部分を有し、上部展開体の背面に支持体を有する展開体の平面図と、平面図上のAA'における断面図である。
【図2】表面に吸着相部分が付着された担持体からなる展開体の断面図である。
【図3】上下に分離するように区画された展開体の境界部分を斜めに加工した拡大図である。
【図4】変異部分として、展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置にすり鉢型の穴を設けた展開体の断面図である。
【図5】変異部分として、吸着相部分と担持体からなる展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置にすり鉢型の穴を設けた展開体の断面図である。
【図6】変異部分として、下端から所定の距離だけ離れた位置を、吸着相部分側から見て略U字型に表裏を貫通するように加工した展開体の平面図と、ピンとしてU字型の先端部を展開体の背面に引き出した状態の展開体の断面図である。
【図7】変異部分として、吸着相部分と担持体からなる展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置を、吸着相部分側から見て略U字型に表裏を貫通するように加工した展開体の平面図と、ピンとしてU字型の先端部を展開体の背面に引き出した状態の展開体の断面図である。
【図8】吸着相部分と担持体からなる展開体において下部展開体の表裏両面にそれぞれ上部展開体を装着した平面図と断面図である。
【図9】目盛を備えた透明容器中に展開溶媒と展開体を入れて展開した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
平面又は曲面の吸着相部分を有する面状クロマトグラフィーでは、検知用の部材として展開体が重要であり、検知作業としては、試料のスポット付けが重要である。そこで、先ず、簡便にスポット付けできる展開体について説明する。展開体が吸着相部分とそれを担持する担持体からなる薄層クロマトグラフィーの担持材料としてはポリエステル、ガラス、セラミック、アルミニウム、高融点金属などを用いると良い。また、ペーパークロマトグラフィーでは、吸着相部分は主にセルロースでできている紙を用いる。
【0065】
展開体の形状は、平板、棒状、パイプ状などがある。ここで、検知対象である被検体試料のスポット付けを容易にするために機械的に周囲部分と異なる形状に加工された微小部分である変異部分を設ける。展開体を上下に区画して分離する場合は、下端から所定の距離だけ離れた位置で上部と下部とを二分し、上部展開体の下端は、直線状、V字状またはU字状などで、上部展開体の下端の中央部に小さなV型またはU型の凸部を形成し、試料のスポット付けの操作性を向上すると共に、下部展開体の上端に上部展開体の凸部に対応する凹部を設けて上下展開体を安定して結合できるようにする。吸着相部分に被検体試料のスポット付けを行うには、透明容器に入った上部展開体を容器から取り出し、上部展開体の下端の凸部を試料液に浸漬し、乾燥させた後、支持台でもある下部展開体上に戻すことで一体化する。ここに記載した、棒状の展開体とは、断面が円形、半円形、三角形、四角形などのものも含み、パイプ状の展開体とは、内部に穴が開いており、断面が円形、半円形、三角形、四角形、なども含む。
【0066】
また、薄い平板の展開体で変異部分を設ける場合は、下端から所定の距離だけ離れた位置に吸着相部分側から見て略V字状、U字状、矩形状型に表裏を貫通するように加工し、加工された部分を裏面に約30度引き出すとV字状、U字状、矩形状などのピンになる。また、変異部分としては、下端から所定の距離だけ離れた位置で展開体に穴を開けたり窪みを形成しても良い。詳細は図面を用いて後述する。
【0067】
次に、薄層クロマトグラフィーで、担持体上に形成する吸着相部分の材質としては被検体試料に応じて、シリカ、セルロース、デキストラン、ポリアミド、酸化アルミニウム、酸化金属、金属などの多孔質の吸着剤を、好ましくは、厚さ0.1〜0.8mmで用いることができるが、これに限定されない。担持体上の吸着相部分の形成は、通常、水中に分散させたシリカなどの微粒子を均一に薄膜層として塗布し乾燥して行う。
【0068】
また、吸着剤にセラミック、金属酸化物などを用いる場合は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、CVD法などによる方法でも吸着相部分を形成することができ、さらに金属アルコキシドからなるゾルを加水分解・重縮合反応させてゲルを作製し、加熱して金属酸化物を得るゾルゲル法を用いて担持体上に吸着相部分を形成してもよい。
【0069】
ペーパークロマトグラフィー法の展開体は主にセルロースからなる紙を使う。その厚さは適宜に選択することができる。吸着相部分に濾紙を使い背面に機械的に丈夫な紙を当てて複層構造にしてもよい。上下に展開体を分離する場合は、展開液が下部展開体から突き合わせた上部展開体へ移動できるように突き合わせ精度を確保するようにする。
【0070】
面状クロマトグラフィーは、薄層クロマトグラフィーとペーパークロマトグラフィーを含む概念である。本発明において、ペーパークロマトグラフィーは従来の薄い濾紙を用いたものに留まらず、薄層クロマトグラフィーの吸着相部分に該当する部分を薄い濾紙で形成しその濾紙を担持する担持体を紙で作って、展開体の全体を紙で形成することもできる。
【0071】
図1に厚い展開体の例を示す。下部展開体10を支持台として、その上に上部展開体20を載せ、下部展開体10の上端部で、上部展開体20を固定する構造となっている。展開体を安定に支持するために、下部展開体は上方へ支持体として背面部を伸ばしているが、上部展開体20に十分な厚みが有る場合や、他に支持材が有る場合は支持体は無くても良い。この図では、下部展開体が支持体と一体化され、支持体が上部展開体に沿って上方に延在して、その延在した部分で上部展開体を背面から支持しているが、下部展開体の厚みを上部担持体の厚みと同じにして、上部・下部展開体の両者を背面から展開体と分離した別の支持体で支えるように構成してもよい。
【0072】
次に、図1の厚い展開体を、薄層クロマトグラフィーの坦持体とすると、分離された上下の担持体上に吸着相部分となる薄膜層を形成して展開体としたものが得られる。図1の展開体のAA'での断面図を図2に示す。
【0073】
吸着相部分は、下部担持体の下端から所定の距離(図1の距離L )離れた位置で担持体を分離し、分離した状態で形成しても良いが、吸着相部分を載せた状態で展開体を加工しても良い。吸着相部分は担持体の形状に倣った形状になっているので上下展開体を密着させることで上下展開体の境界で吸着相部分は互いに接触することになり、展開溶媒は容易にこの境界を越えるようになっている。
【0074】
図2の吸着相部分4を載せた上部担持体2は上部展開体42となり、下端部の中央部分にV型の凸部(オス型)を変異部分3として有している。保存時には、吸着相部分4を載せた下部展開体41上に、上部展開体42を載せ、両基板を容器中に入れて保存し、使用時に、上部展開体42を容器から取り出して凸部を試料溶液に浸漬することで、適量の被検体試料がスポット付けされる。スポット付けされた上部展開体42を下部展開体41に境界部分が密着するように載せて、下部展開体41の下端部分を展開溶媒中に入れて使用する。
【0075】
この上下展開体の境界は直線状に限られないとともに、薄膜層を担持した状態で分離可能に区画して加工してもよい。例えば、図3に示すように上下展開体の境界をV字型として、その中央部にさらに変異部分として凸部を設けてもよい。この場合、凸部を試料に浸す際に多少深く入れ過ぎてもスポット付けの範囲が広がりにくいという利点がある。
【0076】
また、変異部分としては、図4に示すように担持体を有さない一体型の展開体20において下端から所定の距離だけ離れた位置に、展開体にすり鉢型の穴を変異部分30として開けてもよい。また、展開体に窪みなどを形成してもよい。スポイトなどで、すり鉢型の穴や窪みに適量の試料を入れることで、吸着相部分へのスポット付けが再現性良く行われる。また、スポット付けの場所を指定するためには円、四角、三角のような識別マーキングを設けても良い。
【0077】
同様に、変異部分としては、図5に示すように担持体2を有する一体型の展開体において下端から所定の距離だけ離れた位置に、展開体にすり鉢型の穴を開けてもよい。また、展開体に窪みなどを形成してもよい。スポイトなどで、展開体のすり鉢型の穴や窪みに適量の試料を入れることで、吸着相部分4へのスポット付けが再現性良く行われる。
【0078】
また、図6に示すように、薄い展開体の場合、変異部分として展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置を吸着相部分側から見て略U字型に表裏を貫通するように加工して、U字型の上部が展開体に接続された状態で上記加工によるピン60を吸着相部分面とは反対側の斜め後方へ約30度引き出す。ここで、所定の距離は展開体の下端からピンの先端部分までの距離である。
【0079】
また、図7に示すように、変異部分として吸着相部分4を載せた担持体5の下端から所定の距離だけ離れた位置で吸着相部分側から見て略U字型に表裏を貫通するように加工して、U字型の上部が展開体に接続された状態で上記加工によるピン6を担持体5の斜め後方へ約30度引き出す。ここで、所定の距離は展開体の下端からピンの先端部分までの距離である。
【0080】
引き出されたピンの先端部を臭素系難燃剤を溶媒に溶かした液体に浸して臭素系難燃剤の試料をスポット付けした後、溶媒を飛ばすために乾燥させ、接着テープなどを用いてピンを元の平面状態に戻すことができる。ピンを元の平面状態に戻すとは、展開体の裏面を全面、展開体とほぼ同じ形状の支持台に両面接着テープで貼り付けてもよいし、展開体の裏面の必要な部分を片面接着テープで貼り付けてもよい。裏面を貼り付ける支持台を別に用意する場合、展開液に浸からないように支持台へ固定する接着テープはピンより下部で用いず、支持台は両端部で展開体を支えて展開溶剤と接着テープが触らないようにして展開液との接触はアルミニウムなどの薄い平板の基板のみにするなどの工夫をすることができる。
【0081】
ここで、展開体を複数枚用意して、吸着相部分を外側から見えるように配置することで、一度に複数の展開を行うことができる。具体的には、例えば2枚の展開体の場合、図8に示すように下部担持体1'に吸着相部分を載せて下部展開体41'、 41''を用意し、それぞれに、吸着相部分4を載せた上部展開体42'、42''を装着すると、一度に2回分の展開をすることができる。例えば、背面の上部展開体42''に、上部展開体42'と同じ試料をスポット付けすると実験の再現性を短時間でチェックすることが可能になる。また、背面の上部展開体42''に比較試料をスポット付けすることで表面の展開体と背面の展開体にスポット付けされた試料との相違を見ることも可能である。展開体を3枚以上に増やすことも容易にでき、例えば、四角柱の各面に展開体を配置することで一度に4つのデータを得ることができる。
【0082】
図9に、透明容器に簡易検知器を入れて簡易検知装置とした状態を示す。図1又は図2の厚い平板を用いた上下に分離した展開体を透明容器10の中に入れ保管している状態である。保管性を向上するため、透明容器中には不活性ガスの窒素や、希ガスのヘリウム、アルゴンなどを入れて封入してもよい。
【0083】
使用時には、透明容器の上端部を開放して中に封入された展開体を取り出し試料のスポット付けを行う。そして、容器の中に展開溶媒を適量入れて、展開体を容器中に戻して展開を行う。
【0084】
所定の時間の経過後に、試料の種類に応じた位置にスポット9が観測されるので、観測されたスポットの中心と原点となるスポット付け位置との距離を、原点と展開溶媒の先端部分までの距離で割ってRf値を求め、予め用意した試料名とRf値との対応データから、試料名を特定する。
【0085】
ここで、図9に示すように、透明容器の上下方向に目盛8が付いていると、展開体を中に入れた状態で、展開後のスポット中心の位置の読み取りが非常に容易になる。また、展開溶媒の分量もこの目盛を目安にすることで、試料の検知の再現性を向上させることができる。
【0086】
次に、上記で説明した臭素系難燃剤の簡易検知器の使用法について詳細に説明する。
【0087】
臭素系難燃剤の簡易検知器で臭素系難燃剤を検知するには、先ず検知対象となる試料の用意が必要になる。検知器の検知対象である難燃剤を含むプラスチックを、極性の大きい良溶媒と、極性の小さい貧溶媒との混合溶媒で一部を溶解させ、ポリマーをゲル化する。このポリマーを濾過して除去し、難燃剤を含む溶液を取り出す。
【0088】
以下、展開溶媒でも使われる良溶媒と貧溶媒について詳細に説明する。試料を得るためのプラスチックのゲル化や展開液として、極性の高い良溶媒と極性の低い貧溶媒との混合溶媒を選択して、通常2液または3液の混合溶媒を用いるが、それ以上の数の混合溶媒であってもよい。混合溶媒とすることで、溶媒の選択肢が広くなる。
【0089】
ここで、良溶媒とは極性の高いものを意味しており、メタノール、アセトニトリル、酢酸、アセトン、ピリジン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エタノール、1,4−ジオキサン、エチルメチルケトン、四塩化炭素、クロロホルム、2−プロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1−プロパノールなどを例として挙げることができる。
【0090】
また、貧溶媒とは極性の低いものを意味しており、n−ペンタン、iso−ペンタン、neo−ペンタン、n−へキサン、iso−ヘキサン、3−メチルペンタン、neo−ヘキサン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、n−オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、3−エチルヘキサン、2,2−ジメチルへキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルへキサン、2,5−ジメチルへキサン、3,3−ジメチルへキサン、3,4−ジメチルへキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタンがその例として挙げられる。具体的な混合溶媒としては、混合割合を体積比で示すと、ベンゼン:ヘキサン=2:1、四塩化炭素:ヘキサン=2:1、酢酸エチル:トルエン:水:蟻酸=30:10:3:1、酢酸エチル:ジエチルエーテル:n−ヘキサン=10:2:3、酢酸エチル:n−ヘキサン:メタノール=15:2:1などを、その例として挙げることができる。
【0091】
次に、呈色反応を示す化学物質について説明する。呈色反応を示す化学物質として、(1)薄層部のシリカゲル中に分解して分散するか、臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する硝酸化合物、(2) 臭素化合物と金属塩を形成するか若しくは配位で臭素化合物と結合する金属の微粒子、又は(3)臭素化合物と反応して着色する酸化剤若しくは指示薬が挙げられる。
【0092】
ここに述べる硝酸化合物とは、臭素と反応して1価の金属塩(MBr)、または2価の金属塩(MBr2)、または3価の金属塩(MBr3)を形成するもので、具体的には硝酸鉄、硝酸インジウム、硝酸イットリウム、硝酸亜鉛、硝酸カルシウム、硝酸ガドリニウム、硝酸銀、硝酸金、硝酸白金、硝酸コバルト、硝酸ジスプロシウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸セリウム、硝酸タリウム、硝酸テルビウム、硝酸鉛、硝酸銅、硝酸ニッケル、硝酸バリウム、硝酸ネオジウム、硝酸パラジウム、硝酸ビスマス、硝酸マンガン、硝酸マグネシウム、硝酸プラセオジム、硝酸ユウロピウム、硝酸ランタン、硝酸ルテニウム、硝酸ルビジウム、硝酸ロジウムなどおよびその水和物を意味する。臭素化合物と金属塩を形成するか配位などで結合する金属の微粒子とは、鉄、インジウム、イットリウム、亜鉛、カルシウム、ガドリニウム、銀、金、白金、コバルト、ジスプロシウム、ジルコニウム、ストロンチウム、セシウム、セリウム、タリウム、テルビウム、鉛、銅、ニッケル、バリウム、ネオジウム、パラジウム、ビスマス、マンガン、マグネシウム、プラセオジム、ユウロピウム、ランタン、ルテニウム、ルビジウム、ロジウムなどの金属の微粒子がある。
【0093】
さらに、臭素化合物と反応して着色する酸化剤としては、過酸化水素などの過酸化物、硫酸、硝酸などの無機酸、クロラミンTなどが例示され、臭素化合物と反応して着色する指示薬としては、臭素化合物または臭素化合物を酸化処理して得られる次亜臭素酸化合物と反応して得られる指示薬であるフェノールレッド、チモールブルーなどを示す。前者はブロモフェノールブルーとなり、後者はブロモチモールブルーとなり変色し、臭素化合物を検知することができる。
【0094】
ここで、呈色反応を示す化学物質を予め吸着相部分に含有させる際に、上下に展開体が分離する場合は、少なくとも上部展開体に含有させればよい。
【0095】
次に、被検体試料を特定するためのRf値を得る作業について説明する。図1又は図2で示す分離型の展開体を使うときは、上部展開体(図1の20、図2の42)のV型の凸部(図1の30、図2の3)を臭素系難燃剤を含む被検体試料に浸してスポット付けした後、乾燥して溶液を飛ばし、支持体としても機能する下部展開体(図1の10、図2の41)の上におき、下部展開体(図1の10、図2の41)の下方部分を展開用の有機溶媒に浸して展開を行う。
【0096】
ここで、展開を透明容器中で行うことで、臭素系難燃剤の検知に必要な器具を減らすことができる。透明容器は、好ましくは8〜15mmの内径を持つ透明なガラスで作製し、有機溶媒である展開溶媒(展開液)を入れて使用するときは、最上部にシリコンゴム製の栓をつけ展開液の蒸散を防ぐ。透明容器の高さは、好ましくは120〜220mmであるが、この限りではない。
【0097】
透明容器中に入れる展開体は、底部から12〜15mmで2つに分離し、接合面の中央部に、U型、V型などの凸部(図1の30、図2の3)を形成するか、下端から所定の距離だけ離れた位置に穴を設けるか(図4の30、図5の3)、所定の距離だけ離れた位置として下端から約12mmのところでアルミニウム板などの基板を加工してピン (図6の60,図7の6)を約30度引き出し立てる、などの方法で、臭素系難燃剤を含む試料のスポット付けを簡便にしたものを用いる。
【0098】
上下分離型(図1、図2)の場合、下に置かれて支持体となる下部展開体は、展開液が吸着相部分を上部方向に移動できるように上端部の中央部をメス型のU字状またはV字状として、上部展開体の吸着相部分のオス型のU字状またはV字状部と密着して設置できるようにしてもよい。展開体の幅は容器に入るように設計してあり、好ましくは7〜14mmで、長さは、好ましくは100〜200mmであるが、この限りではない。スポット付けは、上部展開体を容器から取り出し、予め用意した臭素系難燃剤を含む試料液に上部展開体の下端に形成した変異部分(図1の30、図2の3)を浸漬することによる。
【0099】
浸漬後、溶媒が蒸発して上部展開体が乾いたら元の容器に戻す。
【0100】
次に、展開液である良溶媒と貧溶媒から構成される混合液をピペットなどで容器の目盛を目安にして容器内に入れ、下部の支持体である下部展開体(図1の10、図2の41)の下部を展開液に浸漬する。展開液が上昇するとともに、臭素系難燃剤も上方に展開し吸着剤に含有された化学物質と呈色反応を起こしてスポットが目視できるようになる。展開後のスポットの中心位置と原点との距離を測定することで、試料の特定をすることができる。
【0101】
以下、薄層クロマトグラフィーを用いた実施例を説明するが、吸着相部分の作成を省略し、担持体を紙で作成することで、ペーパークロマトグラフィーにも適用ができる。
【実施例1】
【0102】
(1)被検体試料として、先ず、検知対象となる試料を以下のようにして準備した。特級メタノールと特級アセトンとを、体積比1:2の割合で混合し、混合溶媒を500ml作製した。建材用として市販されている、押出法発泡ポリスチレン(以下XPS)を購入し、2cm角にワイヤーカッターを用いて切断した。
【0103】
その後、攪拌機、冷却管、および温度計の設置された容量500mlのセパラブルフラス コを組み立て、準備した混合溶媒300ml、および2cm角のXPSを3.0g入れ、 80℃で30分間加熱し、発泡ポリスチレンに含有される臭素系難燃剤のHBCDを抽出 した。抽出時間の経過後、フィルターを用いてゲル化したポリスチレンを除去し、エバポ レーターで溶媒であるメタノール、アセトンを除去した残渣をHBCD含有試料として試 料瓶に入れて保管した。
【0104】
(2)次に、検知器として、内径12mm、高さ150mmのガラス製の縦長透明容器中に、平均粒径40μmのシリカゲルの吸着相部分を厚さ0.3mmで形成したアルミニウム製の担持体(幅10mm、厚さ5mm、吸着相部分の担持体下端からの高さ12mm)を、上部展開体の支持体となる下部展開体41として設置した。
【0105】
この透明容器中の下部展開体上に、平均粒径40μmのシリカゲルの薄膜層を、厚さ0.3mmで形成した、アルミニウム製の上部展開体42(幅10mm、厚さ5mm、高さ100mm)を、上下両展開体が広く接触する水平面と、中央部のV型の凸部が共に密着するように設置して保管した。
【0106】
(3)次に、展開後に臭素系難燃剤の位置を知るために、呈色反応を示す化学物質を吸着相部分に含有させた。具体的には、特級の硝酸銀を純水に溶解し、5wt%の硝酸銀水溶液を作製した。上部展開体42を透明容器から取り出し、500mlのメスシリンダー中で、5wt%の硝酸銀水溶液に浸漬した後、一昼夜、室温で乾燥した。
【0107】
(4)その後、スポット付け作業として、前記の方法で予め抽出して準備したHBCD含有試料をガラス製シャーレに入れ、上部展開体下端の中央部にあるV型の凸部を液面と接した点から少し下まで浸漬し、その後すぐに、浸漬をやめて取り出した。
【0108】
約3時間、室温で乾燥、元の透明容器中で、下部展開体の薄膜層と上部展開体の薄膜層とが接するように位置決めして、上部展開体を下部展開体の上に戻した。
【0109】
(5)展開を行うために、展開溶媒として有機溶媒を混合したものを用意した。いずれの有機溶媒も特級品を用いた。酢酸エチル85vol%、n−ヘキサン10vol%、メタノール5vol%の混合溶媒を約100ml作り、この中の1mlを、展開体を入れた容器内にスポイトを用いて慎重に入れ、シリコンゴムで開口部に栓をした。その後、容器を垂直に固定して混合溶媒を展開した。上部展開体の上端から約10mmに混合溶媒の先端が達したとき、栓を開け、上部展開体を取り出して乾燥した。硝酸銀によるものと思われる薄茶色の薄層の上に、臭素化合物の呈色反応による白いスポットが見られた。
【0110】
(比較実験1)
実施例と同様に、検体として、食品トレーとして使用されている発泡ポリスチレンシートを入手し、ハサミで切断した3.0gを、攪拌機、冷却管、および温度計の設置された容量500mlのセパラブルフラスコに入れ、さらに、混合溶媒300ml入れ、80℃で30分間加熱し、同様の抽出実験を行った。抽出時間の経過後、フィルターを用いてゲル化したポリスチレンを除去し、エバポレーターで溶媒であるメタノール、アセトンを除去して検体含有試料を得た。
【0111】
簡易検知器を使用して(実施例1)と同様の試験を行ったが、展開液が、上部展開体の上端から10mmに達したとき取り出して観察したが、HBCDのスポットは見られなかった。食品用のトレーにはHBCDは含有されていないことが理由と見られる。
【0112】
(比較実験2)
次の比較実験では、予め、液体クロマトグラフィーを用いて分離したHBCDのγ-異性体を含む溶液を、(実施例1)と同様にして、上部展開体の下端につけ、所定の時間、乾燥後、同様の方法で展開溶媒を用いて展開した。その結果、(実施例1)の発泡ポリスチレンブロック(XPS)から抽出した試料と同様のRf値に、HBCDのγ−異性体のスポットを観察することができた。
【0113】
次に、吸着相部分に呈色反応を示す化学物質を含有させないで、呈色反応を得ることを試みた。
【実施例2】
【0114】
(1)被検体試料の準備として、アセトンを溶媒として3種類の濃度のHBCD溶液を作成した。
(2)展開体として吸着相部分に呈色反応を示す化学物質を含まない展開体Aを2枚、吸着相部分を硝酸銀水溶液に浸漬乾燥させた展開体Bを1枚の計3枚の展開体を用意した。
(3)呈色反応を見るために、スポット付け後に展開して乾燥させた後に(a1)展開体Aをイオン交換水に浸漬した。(a2)展開体Aを硝酸銀水溶液に浸漬した。(b)展開体Bをイオン交換水に浸漬した。
(4)a1、a2、bの何れの展開体も、臭素系難燃剤を示す白色のスポットが見られた。
【0115】
白色のスポットが展開体を水に浸すことで見える理由としてHBCDは疎水性でシリカゲルは親水性なので水との反応の違いがあって、水に浸漬することでスポット部とそれ以外のシリカゲル部との反射率が異なってくることが考えられる。したがって水に浸すことで「鮮やかな白色」と「くすんだ白色」とが見えると考えられる。この場合は、呈色反応というよりも単に顕色すると表現してもよい。さらに、硝酸銀との反応で、シリカゲル部は背景色が薄茶色になりスポットが見やすくなることも分かった。
【0116】
上記の実施例2の実験結果から、臭素系難燃剤が疎水性である性質を利用して、水に代表される身近な親水性の材料を用いて簡便に顕色・呈色により検知できる可能性を得た。
【0117】
本発明による、臭素系難燃剤の検知器、臭素系難燃剤の検知装置および臭素系難燃剤の検知法が簡便に臭素系難燃剤の特定をするために役立つことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
近年、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」、「ロース(RoHS)指令」などで、国際的に、プラスチックスの臭素系難燃剤に対する規制が強化される傾向にあり、一部の臭素系難燃剤が、日本の化審法でも特定化学物質となる可能性が生じている。このような事態になると、該化学物質の製造・輸入が禁止されることとなる。したがって輸入された、燃えやすい発泡プラスチック製品中の臭素系難燃剤の検知・確認作業、さらに規制前に製造・輸入された廃棄物中の規制対象物質の検知・確認作業が必要となるので、簡便な臭素系難燃剤の検知器、臭素系難燃剤の検知装置および臭素系難燃剤の検知法を提供する本発明は建築産業を通じで社会の発展に大いに役立つものである。
【符号の説明】
【0119】
1、1' 下部担持体
2、2' 上部担持体
3、3' 変異部分
4 吸着相部分
41,41'、41'' 下部展開体
42,42'、42'' 上部展開体
5 薄い担持体
6 ピン
7 展開液(展開溶媒)
8 目盛
9 展開スポット
10 下部展開体
20 上部展開体
30 変異部分
50 薄い展開体
60 ピン
100 透明容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状クロマトグラフィー法で少なくとも臭素系難燃剤を吸着して検知する吸着相部分を有する展開体を備える臭素系難燃剤の簡易検知器であって、
前記展開体が、下端から所定の距離だけ離れた位置に被検体試料を適量にスポット付けするための変異部分を有することを特徴とする臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項2】
前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置で展開体を上下に分離するように区画した前記展開体の上方部分に位置する上部展開体の下端の一部が凸型に成型され、前記展開体を上下に分離するように区画した前記展開体の下方部分に位置する下部展開体の上端の一部が前記上部展開体の凸型に対応した凹型に成型されていることを特徴とする請求項1に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項3】
前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置において前記展開体が前記吸着相部分側から見て略U字型に前記展開体を貫通するように加工され、前記略U字型の一端が前記展開体に連続しているように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項4】
前記変異部分として、前記展開体の下端から所定の距離だけ離れた位置において前記展開体に穴状部分が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項5】
前記面状クロマトグラフィー法が薄層クロマトグラフィー法であり、前記展開体が前記吸着相部分となる薄膜層と該薄膜層を担持する担持体とからなることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項6】
前記面状クロマトグラフィー法がペーパークロマトグラフィー法であり、前記展開体が紙からなることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項7】
複数の前記展開体を備え、前記複数の展開体が、前記吸着相部分を外向きにし、前記吸着相部分の背面を内向きに配置されていることを特徴とする請求項1ないし6の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項8】
前記展開体を前記吸着相部分の背面側で支持する支持体をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項9】
請求項2を引用する請求項8に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器において、前記支持体が、前記下部展開体と一体化され、前記上部展開体の背面に沿って上方に延在し、その延在部で前記上部展開体を支持していることを特徴とする臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項10】
少なくとも前記変異部分より上方に位置する前記吸着相部分が、前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質を含有することを特徴とする請求項1ないし9の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項11】
前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質が、 (1) 前記吸着相部分で分解して分散するか、臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する硝酸化合物、(2) 臭素化合物と金属塩を形成するか、若しくは配位で臭素化合物と結合する金属の微粒子、又は(3)臭素化合物と反応して着色する酸化剤若しくは指示薬であることを特徴とする請求項10に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器および該簡易検知器を内部に収められる透明容器を備える簡易検知装置であって、前記簡易検知器が非使用時に透明容器の中で保持され、使用時に前記透明容器から出し入れできるように構成されていることを特徴とする臭素系難燃剤の簡易検知装置。
【請求項13】
さらに前記透明容器の上下方向に目盛りを備える請求項12に記載の臭素系難燃剤の簡易検知装置。
【請求項14】
さらに良溶媒と貧溶媒の混合溶媒である展開溶媒を備え、使用時に前記展開溶媒を前記透明容器内の下方に注入して展開することを特徴とする請求項12又は13に記載の臭素系難燃剤の簡易検知装置。
【請求項15】
請求項1ないし9の何れか1項に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器を用いる臭素系難燃剤の簡易検知法であって、
(1)被検体試料を前記変異部分にスポット付けする工程、(2)展開溶媒で展開後に前記展開体を乾燥させる工程、(3)乾燥させた前記展開体を親水性溶媒と接触させる工程、及び(4)前記展開体で展開された臭素系難燃剤を顕色させて検知する工程を含むことを特徴とする臭素系難燃剤の簡易検知法。
【請求項16】
請求項10又は11に記載の臭素系難燃剤の簡易検知器を用いる臭素系難燃剤の簡易検知法であって、
(1)被検体試料を前記変異部分にスポット付けする工程、(2)前記スポット付けされた被検体試料を展開溶媒で展開する工程、及び(3)前記臭素系難燃剤と呈色反応する化学物質により前記展開された臭素系難燃剤を呈色させて検知する工程を含むことを特徴とする臭素系難燃剤の簡易検知法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−37481(P2012−37481A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180286(P2010−180286)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)