説明

舟形状デニッシュの製造法

【課題】フィリングを載せるためのくぼみを有する、きれいな舟形形状のデニッシュを、比較的容易な方法で入手すること、特に、焼成前の段階でフィリングを乗せる必要のない、きれいな舟形形状を有するデニッシュの製造方法を提供することになる。
【解決手段】デニッシュ生地の折層面を、焼き型の底面および壁面に対し、垂直に近くなるように配置したり、ツイスト生地を使用することで、膨らみの方向を分散したり、また膨らみを相殺することにより、きれいな形状の舟形状デニッシュを得ることができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリング等をのせるのに有利な、舟形形状をしたデニッシュの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
菓子パンや惣菜パンの形状の一つとして、フィリングが外側から見ることができるような形状のパンが存在する。このような形状は、アンパンなどフィリングがパン生地に完全に隠れてしまうパンに比べ、フィリングにより消費者の視覚に対し、より強くアピールすることができるなどの利点がある。
上記のような形状のパンを製造する方法は、大きく以下の2つ存在する。
A)目的の形状とした焼成前の生地にフィリングをのせ、パンとフィリングを同時に焼成する方法。
B)フィリングを入れることのできるくぼみのあるパンを焼成した後、そのくぼみにフィリングを乗せる方法。
【0003】
上記Aの方法は、フィリングの存在(自重)によりきれいな形状のくぼみができ、外観も優れるなどの利点がある。しかし、フィリングをパンと一緒に焼成するため、パンの焼成によっても変性等しないフィリングしか適用することができず、用途が限られる。一方Bの方法は、各種のフィリングを使用できるという利点がある一方、深いくぼみは得られにくく、また、外観が優れたものが得られにくいなどの欠点がある。
【0004】
また、通常のパンに切れ目を入れ、そこにフィリングを入れたようなパンも存在する。しかしこの場合、クリーム状の柔らかいフィリングを使用した場合は切れ目が閉じてしまい、フィリングが外から見えにくくなる場合が多い。もちろん、切れ目が楔形になるようにカットすればパンの切れ目が閉じることはないが、パンの無駄な切れ端が生じるし、また手間が煩雑である。
なお、本発明に関連する先行技術文献は、本発明者の知る限りでは存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、比較的容易な方法で、フィリング等を載せるのに適した、きれいな舟形形状のくぼみを有するデニッシュの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた。その結果、デニッシュ生地の折層面の向きを調整し、生地が膨らむ方向を分散したり、あるいは生地の膨らみを相殺するような生地成形をすることにより、舟のようなきれいなくぼみを持つデニッシュが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は
(1)焼き型を使用した舟形状デニッシュの調製において、デニッシュ生地を焼き型にU字状に配置する際、デニッシュ生地の厚さが5〜25mmであり、デニッシュ生地の折層面が、デニッシュ生地がそれぞれ接する焼き型の底面および壁面から45〜90°になるように配置することを特徴とする、舟形状デニッシュの製造法。
(2)焼き型を使用した舟形状デニッシュの調製において、3〜8mmの厚さのデニッシュ生地を幅10〜30mmの短冊状に切断したものをツイストした後渦巻き成形し、焼き型にU字状に配置することを特徴とする、舟形状デニッシュの製造法。
(3)焼成前にフィリングを乗せない、(1)〜(2)いずれか1つに記載の、舟形状デニッシュの製造方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的容易な方法で、フィリング等を載せるのに適した、従来にないきれいな形状のくぼみを有する舟形状デニッシュを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】非ツイスト生地を使用する場合の、生地を焼き型に配置した際の写真である。
【図2】ツイスト生地を使用する場合の、生地を焼き型に配置した際の写真である。
【図3】非ツイスト生地を使用する場合の、焼成後の写真である。
【図4】ツイスト生地を使用する場合の、焼成後の写真である。
【図5】生地の折層面を、焼き型の底面及び側面に対し平行に近くなるように配置した場合の、焼成後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明で言う「フィリング」とは、パンの上に乗せたり、中に充填したりする餡やカスタードクリームなどをさす。また、惣菜パンにおけるソーセージやカレーなども、本発明においては広く「フィリング」として扱う。
【0011】
本発明で言う「デニッシュ生地」とは、各種配合のパン生地にマーガリンやバターなどの油脂組成物を折り込んだものである。使用する油脂組成物はシート状マーガリンが望ましく、また、折層は12〜64層が望ましく、より望ましくは24〜48層である。折数が少なすぎたり、また多すぎたりすると、適切なふくらみや食感が得られない場合もある。生地に対する油脂組成物の折込量は対生地で10〜40重量%が望ましく、より望ましくは15〜25重量%である。折込油脂組成物の量が少なすぎると、風味に乏しいパンになってしまう場合があり、多すぎると、膨らみが阻害されたりする場合もある。
【0012】
本発明で言う焼き型とは、上面が開放した、箱型の焼き型であり、適宜蓋を使うこともできる。素材は金属、紙などいずれでもよいが、パンの焼成においても大きく変形、変質等しない素材である必要がある。大きさは必要に応じ適宜設定することが可能であるが、縦、横、高さ:50mm以上、100mm以上、40mm以上のものが望ましい。より望ましくは縦、横、高さ:50〜70mm、160〜220mm、40〜60mmである。なお、縦、横は焼き型底面の大きさを示し、高さは焼き型の深さを示す。また、底面から上部に向かって、やや広がった形状の焼き型が好適である。さらに、底面が円ないし楕円状であっても適用可能である。
【0013】
本発明1で言う「デニッシュ生地の厚さ」とは、焼き型を使用した舟形状デニッシュの調製において、焼き型に配置した直後の、焼き型底面ないし壁面から垂直方向に測定したデニッシュ生地の厚さを指す。デニッシュ生地の厚さは5〜25mmであり、より望ましくは10〜20mmである。デニッシュ生地の厚さが薄すぎる場合は、得られる舟形状デニッシュの生地が薄すぎて、フィリングがもれ出てしまう場合もある。一方、デニッシュ生地の厚さが厚すぎる場合は、きれいな舟形状デニッシュが得られない場合もある。
【0014】
「デニッシュ生地の折層面」とは、デニッシュ生地においては油脂組成物を折り込んだ後、展延を繰り返すが、その油脂組成物の存在する面に対し平行に位置する面のことである。
「デニッシュ生地の折層面が、デニッシュ生地がそれぞれ接する焼き型の底面および壁面から45〜90°になるように配置する」とは、デニッシュ生地を焼き型に配置する際、デニッシュ生地の折層面が、生地がそれぞれ接するように位置する焼き型の底面及び壁面に対し、垂直に近い方向に配置されること、より具体的には、生地がそれぞれ接するように位置する焼き型の底面および壁面から45〜90°の角度になるように配置することを指す。より望ましくは焼き型の底面および壁面から60〜90°の角度である。この角度が大きすぎたり小さすぎたりする場合は、きれいな舟形状にならない場合が多い。ここで言う角度は垂直を意味する90°を上限として表現し、90°以上の傾きは、その補角の角度で表現する。すなわち、デニッシュ生地の折層面の、焼き型の側面ないし底面からの角度が、たとえば110°と測定される場合は、その補角である、70°と表現する。
【0015】
なお、デニッシュ生地と焼き型の底面や壁面は、完全には接していない部分もあるが、本発明を達成する上で支障がない限りは差し支えない。また焼き型の側面と底面の接合部では、デニッシュ生地が接しない部分もあるが、本発明を実施できる限りにおいて、そのような部分が存在しても差し支えない。また、本発明は舟形形状のデニッシュの調製に関する発明であり、デニッシュ生地を焼き型に配置する際、舟形状を意図して配置することは言うまでもなく、その意図を本発明において「デニッシュ生地を焼き型にU字状に配置する」と表現する。
【0016】
本発明2で言う「短冊状に切断したものをツイスト(する)」とは、短冊状に切断した生地の長軸を中心に、10〜20回/m回転させること、すなわちねじることをさす。デニッシュ生地は通常、焼成により折層面に対し垂直方向に膨らむが、このような「ツイスト」加工を行うことで、膨らむ方向が分散する。このような「ツイスト」した生地を渦巻状に成形し、焼き型に配置することで、その後の焼成によっても一定方向のみに膨らまないため、きれいな形状の舟形状デニッシュを得ることができる。なお、「渦巻状」とは、上記「短冊状」に切断したデニッシュ生地を「ツイスト」し、それを中心から左右いずれかの方向に同心円状にまきつけ、円に近い形状を得ることを指す。
【0017】
本発明の本質は、デニッシュ生地を用いた舟形状デニッシュの製造において、目的とする「くぼみ」の中心に向かった方向に、デニッシュの焼成等による膨らみが集中して向かわないようにデニッシュ生地の折層面を配置したり、またツイスト成形を加えることで、デニッシュ生地の膨らみを相殺ないし分散することで、焼成前の段階でフィリングを乗せておかなくとも、きれいな「くぼみ」を維持した舟形状デニッシュを得ることができる点にある。
【0018】
以下に本発明の実施について、より具体的に説明する。
本発明を実施するためには、まず生地を準備する。本発明で使用する生地は幅広い配合のものを使用することができ、本発明を実施する上で不都合が無い限りは特に限定されない。
生地に対し上記記載の通り油脂組成物を折り込み、デニッシュ生地を調製する。
【0019】
1.非ツイスト生地を使用する場合(本発明1に相当)
最終3〜15mmまで展延したデニッシュ生地を適宜2〜4つ折にし、幅10〜40mm、長さ5〜20cmにカットする。なお、ここでのカットの大きさは、目的とする舟形状デニッシュの大きさにより適宜変更可能である。カットした生地は、折層面に対し垂直に位置する方向から押さえ、適宜伸ばした後、焼き型に配置する。このとき、焼き型底面および壁面に対しそれぞれ接するように配置された生地の折層面が、底面ないし壁面に対して垂直に近く配置することが必要である。より具体的には、生地がそれぞれ接するように位置する焼き型の底面および壁面から、折層面が45〜90°になるように配置する。焼き型にデニッシュ生地を配置した例を図1に示す。図のように、生地は焼き型中でU字形に配置する。
その後ホイロを取った後、焼成する。本発明においては、焼成前にフィリングを乗せることなく、きれいな舟形状デニッシュを得ることができる点に特徴があるが、焼成前にフィリングを乗せても、きれいな舟形状デニッシュを得ることができる。
【0020】
2.ツイスト生地を使用する場合(本発明2に相当)
最終3〜8mmの厚さ、縦の長さ40cm程度に展延したデニッシュ生地を、幅2cm程度の細長い短冊状にカットする。これを10〜20回/mの割合で、長軸を中心にねじり、ツイスト生地とする。得られたツイスト生地を同心円に巻き渦巻状とし、円の上から軽く押さえる。得られた生地を焼き型にU字状にセットする。セットした状態の例を図2に示す。その後ホイロを取った後、焼成する。本発明においては、焼成前にフィリングを乗せることなく、きれいな舟形状デニッシュを得ることができる点に特徴があるが、焼成前にフィリングを乗せても、きれいな舟形状デニッシュを得ることができる。
【0021】
焼成条件は、デニッシュ生地の配合や、目的とする製品の大きさなどにより適宜異なるが、上面200〜230℃、下面200〜240℃のオーブンにて、7〜25分間適宜焼成すればよい。
以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0022】
〔実施例1〕
非ツイスト生地を使用する場合
生地の準備
生地の配合を表1に示す。
表1 生地の配合

【0023】
以下の手順にて生地を調製した。
ミキシングタイム :L3分 M3分 練り込みマーガリン投入 L4分 M5分
捏ね上げ温度 :25℃
フロアタイム :30分
分割重量 :大分割
リタードタイム :−10℃/一晩
Lは(株)愛工舎製作所製ミキサー「マイティ30」回転速度:低速を示す。Mは同 回転速度:中低速を示す。
【0024】
上記により得られた生地2000gへシート状マーガリン(不二製油(株)製「メサージュシート300」) 400gを折り込み、2回三つ折りする。
生地をマイナス5℃で1時間リタードする。
生地をもう一度三つ折りした後、生地厚9mmまで展延し、三つ折りする。
実厚25mmに調整し2cm幅でカットし、得られたデニッシュ生地を、焼き型の長辺に対し、デニッシュ生地の長辺がほぼ直角となるようにU字形に配置した。この時同時に、デニッシュ生地の折層面を焼き型の底面および壁面に対し、垂直に近く位置するように配置した(図1)。なお、このときの焼き型底面および壁面から、折層面への角度はそれぞれ70〜90°の範囲であった。
使用した焼き型の寸法は縦、横、高さ:60mm、190mm、46mmであった。また、素材はアルミである。
この状態でホイロをとった(設定条件:27℃、湿度78%)。
ホイロ後、上火215℃、下火225℃にセットしたwinkler社製電気窯により15分間焼成した。
得られたデニッシュはきれいな舟形状をし、フィリング等を入れるのに好都合であった(図3)。
【0025】
〔実施例2〕
ツイスト生地を使用する場合
実施例1と同様の方法にて生地を準備し、また、実施例1と同様の方法にてシート状マーガリンを折り込んだ後、三つ折りを3回行うまでは同じである。
得られたデニッシュ生地を、5mmの厚さ(縦40cm)に展延した後、2cmの幅に短冊状にカットした。その後、長軸を中心に、15回/mとなるように生地をひねり、ツイスト生地とした。
得られたツイスト生地は、同心円状に巻き、その後実施例1と同じ焼き型にU字状に配置した(図2)。
ホイロ、焼成条件は実施例1と同じである。
得られたデニッシュはきれいな舟形状をし、フィリング等を入れるのに好都合であった(図4)。
【0026】
〔比較例1〕
実施例1と同じ条件にて生地調製、マーガリンの折り込み(三つ折り3回)を行った。
生地を4.5mmに展延した後、120mm×110mmの四角形に切断し、実施例1と同じ焼き型に配置した。なおこの際、デニッシュ生地の折層面は焼き型の底面及び壁面に対しほぼ平行になるように配置した。このときの焼き型底面及び壁面から生地の折層面への角度は、それぞれ0〜20°の範囲であった。
その後実施例1と同様の条件にてホイロ、焼成を行った。
得られたデニッシュは、フィリングを入れるべきくぼみがほぼ完全に閉じてしまい、好ましくなかった(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、きれいな舟形形状をしたデニッシュを容易に得ることができるようになった。これにより、パンとしての形状の面白さ及び、フィリングによる消費者へのアピールの強い製品を容易に得ることができるようになり、パン市場の活性化へ非常に大きな貢献をもたらすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き型を使用した舟形状デニッシュの調製において、デニッシュ生地を焼き型にU字状に配置する際、デニッシュ生地の厚さが5〜25mmであり、デニッシュ生地の折層面が、デニッシュ生地がそれぞれ接する焼き型の底面および壁面から45〜90°になるように配置することを特徴とする、舟形状デニッシュの製造法。
【請求項2】
焼き型を使用した舟形状デニッシュの調製において、3〜8mmの厚さのデニッシュ生地を幅10〜30mmの短冊状に切断したものをツイストした後渦巻き成形し、焼き型にU字状に配置することを特徴とする、舟形状デニッシュの製造法。
【請求項3】
焼成前にフィリングを乗せない、請求項1〜2いずれか1項に記載の、舟形状デニッシュの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−220568(P2010−220568A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72988(P2009−72988)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】