説明

航空標識灯

【課題】同一のLEDを用いて2種類の要求光を発光でき、同一の点灯回路を使用できる航空標識灯を提供することである。
【解決手段】滑走路の長手方向の一方に白色光を出射する白色光源17は、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含む白色光LEDを有する。滑走路の長手方向の他方に赤色光を出射する赤色光源18は、白色光源に用いる白色光LEDに、波長が605nm以上で700nm以下である光束を透過するフィルタ部材20を設けて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、空港における滑走路に埋め込まれて通行区分等を表示する航空標識灯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空港の滑走路に用いられる航空標識灯では、滑走路への誘導を厳しい気象条件でもその明かりによって確実に飛行機の操縦者に認識させるために、発光効率の向上が望まれている。また、航空標識灯では、過酷な使用条件でも耐えうる耐久性はもとより、その光源の長寿命化も望まれている。このような航空標識灯は、その目的に応じて様々な形態のものが製造されている。
【0003】
例えば、滑走路中心線灯は、滑走路の中心を示すために滑走路の中心線上に配置される航空標識灯であり、着陸しようとする航空機から見て滑走路先方の末端から第1所定距離の範囲では赤色光、その末端から第1所定距離を超え第2所定距離までの範囲は交互に赤色光と白色光、それ以外では白色光で灯火する。このように、滑走路中心線灯には白色光と赤色光の2種類の要求光がある。
【0004】
また、滑走路灯は、滑走路を示すために滑走路の両側に所定間隔で設置される航空標識灯であり、滑走路中心線灯と同様に、航空機から見て滑走路先方の末端から第1所定間隔の範囲では黄色光、その末端から第1所定間隔を超え第2所定間隔までの範囲は交互に黄色光と白色光、それ以外では白色光で点灯する。このように、滑走路灯には白色光と黄色光の2種類の要求光がある。
【0005】
これらの航空標識灯の光源としては、従来より調光制御が容易な白熱電球が用いられているが、白熱電球に代えて発光ダイオードを用いたものも開発されている(特許文献1参照)。また、灯体の周方向に主として光を放射する第1の発光ダイオードを有する第1の光源ユニットと、第1の発光ダイオードと異なる色調の光を放射する第2の発光ダイオードを有する第2の光源ユニットとを有し、第1発光ダイオードと第2の発光ダイオードとを選択的に点灯させ、出射光の切り替えが容易に行えるようにしたものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−283603号公報
【特許文献2】特開2010−176943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、2種類の要求光に対し、異なる色調の2種類の発光ダイオード(以下、LEDという)を使用する場合には、LEDの電流や電圧等の仕様の違いにより、同一の点灯回路を用いるのが困難である。このように、異なる色調の2種類のLEDを使用する場合には、各色ごとのLEDが必要となるだけでなく、各色ごとのLEDに対してそれぞれ別個の点灯回路が必要となる。従って、同一の点灯回路を用いることができないので点灯回路が複雑になる。
【0008】
本発明の目的は、同一のLEDを用いて2種類の要求光を発光でき、同一の点灯回路を使用できる航空標識灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の実施形態の航空標識灯によれば、滑走路の長手方向の一方に白色光を出射する白色光源は、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含む白色光LEDを有する。滑走路の長手方向の他方に赤色光を出射する赤色光源は、白色光源に用いる白色光LEDに、波長が605nm以上で700nm以下である光束を透過するフィルタ部材を設けて形成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同一のLEDを用いて2種類の要求光を発光でき、同一の点灯回路を使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る航空標識灯の簡略化した説明図。
【図2】図1に示した航空標識灯を滑走路中心線灯として用いた場合の配置図。
【図3】白色光源及び赤色光源の説明図。
【図4】各波長の光を色度座標で表した色度図。
【図5】3種類の白色LEDの分光分布の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る航空標識灯11の説明図であり、図1(a)は航空標識灯11の平面図、図1(b)は灯体の一部切り欠き断面図である。図1では、滑走路中心線灯として用いられる航空標識灯11を示している。
【0013】
この航空標識灯11は、図示省略の基台の上部に調整リング12a、12bがボルト13aで装着される。そして、その調整リング12aの上部に灯体14がボルト13bで装着される。図示省略の基台は空港の滑走路の路中に形成される。
【0014】
灯体14の内部には2個の光源15a、15bが設けられ、一方の光源15aは図1の左側方向に光を出射し、他方の光源15bは図1の右側方向に光を出射する。これにより、滑走路の長手方向の双方に光を出射する。また、灯体14の上部には外部に光を放射するプリズム16が設けられている。プリズム16は、光源15a、15bからの発光の出射角度を調整するものであり、このプリズム16により、灯体14内部の地面下に位置させた光源からの発光が滑走路の路面を照明するように調整する。
【0015】
そして、灯体14の内部の光源15a、15bの双方を白色光源とした第1航空標識灯11aと、灯体14の内部の一方の光源15aを白色光源とし、他方の光源15bを赤色光源とした第2航空標識灯11bとを用意する。これは、前述したように、滑走路中心線灯は、着陸しようとする航空機から見て滑走路先方の末端から第1所定距離D1の範囲では赤色光で灯火し、その末端から第1所定距離D1を超え第2所定距離D2までの範囲は交互に赤色光と白色光で灯火し、それ以外の範囲D3では白色光で灯火する必要があるからである。
【0016】
図2は、図1に示した航空標識灯11を滑走路中心線灯として用いた場合の配置図である。図2では、共通の滑走路を左方向からの進入用と、右方向からの進入用とに兼用する場合の一例を示している。図中の白丸は白色光源17を示し、黒丸は赤色光源18を示している。
【0017】
図2に示すように、滑走路の両端部から第1所定距離D1の範囲には、白色光源18及び白色光源17との双方の光源を有した第2航空標識灯11bが配列される。第2航空標識灯11bは、進入してくる航空機から見て赤色光源が対面するように配置される。
【0018】
次に、第1所定距離D1に至る前の第2所定距離D2までの範囲に、第1航空標識灯11aと第2航空標識灯11bとを交互に配置する。
【0019】
航空機が図2の左方向から進入して来る場合には、図2の上部に示すように、滑走路先方の末端から第1所定距離D1の範囲に、赤色光源18が航空機に対向するように第2航空標識灯11bを配置する。これにより、滑走路先方の末端から第1所定距離D1の範囲では航空機から見て連続した赤色光の灯火となり滑走路の先方末端部を容易に確認できる。
【0020】
そして、第1所定距離D1に至る前の第2所定距離D2までの範囲に、第1航空標識灯11aと第2航空標識灯11bとを交互に配置する。この場合、第2航空標識灯11bは赤色光源18が航空機に対向するように配置する。これにより、第1所定距離D1を超え第2所定距離D2までの範囲では、航空機から見て白色光と赤色光との交互灯火となる。さらに、それ以外の範囲D3には第1航空標識灯11aを配置する。これにより、白色光の連続灯火となる。
【0021】
一方、航空機が左方向から進入して来る場合においても、航空機が右方向から進入して来る場合と同様に、図2に示すように、滑走路先方の末端から第1所定距離D1の範囲に、赤色光源18が航空機に対向するように第2航空標識灯11bを配置し、以下、同様に、その末端から第1所定距離D1を超え第2所定距離D2までの範囲に、第1航空標識灯11aと第2航空標識灯11bとを交互に配置し、それ以外の範囲D3には第1航空標識灯11aを配置する。
【0022】
次に、図3は、白色光源17及び赤色光源18の説明図であり、図3(a)は白色光源17の構成図、図3(b)は赤色光源18の構成図である。白色光源17は、図3(a)に示すように、白色LED19から構成される。白色LED19は、青色LEDまたは紫外線LEDに蛍光塗料を塗布して白色光を得るようにしたもの、あるいは赤色LED、緑色LED、青色LEDを組み合わせて白色光を得るようにしたもの等が用いられる。また、白色LED19は、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含むように形成する。
【0023】
一方、赤色光源18は、図3(a)の白色光源17で用いた白色LEDと同じ構成の白色LED19を用い、白色LEDの出射光をフィルタ部材20を透過させて赤色光を実現する。例えばカット波長600nmのフィルタ部材20により赤色光を実現する。つまり、少なくとも、その白色LED19からの出射光のうち、波長が605nm以上で700nm以下である光束を透過するフィルタ部材20を設けて構成する。フィルタ部材20は、例えば、セロハン、波長選択干渉膜、蛍光体等を用いる。
【0024】
ここで、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含む白色LED19を採用するのは、赤色光の要求規格配光は白色光に対し15%の光度値が必要であるからである。
【0025】
このように、本発明の実施形態では、赤色光源18は、白色光源17で用いた白色LEDと同じ構成の白色LED19を用い、フィルタ部材20を設けて、波長が605nm以上で700nm以下である光束を透過して出射光を赤色とする。従って、白色LED19として、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含む白色LEDを選択して使用する。以下、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含む白色LEDについて説明する。
【0026】
図4は、各波長の光を色度座標で表した色度図である。航空標識灯11で使用する各種色、航空緑、航空青、航空白、航空黄、航空赤の範囲は、図4に示すように、色度図上の色度座標で定められている。例えば、航空白はx座標上で約0.28〜0.56の範囲であり、xの値が小さいほど青っぽい白色となり、逆にxの値が大きくなるほど赤っぽい白色となる。
【0027】
図5は、3種類の白色LEDの分光分布の一例を示すグラフである。縦軸は分光比率、横軸は波長である。分光分布曲線S1は色温度が2600K〜3700Kの光を発光する白色LED19aの分光分布の一例を示す曲線、分光分布曲線S2は色温度が3700K〜5000Kの光を発光する白色LED19bの分光分布の一例を示す曲線、分光分布曲線S3は色温度が5000K〜8300Kの光を発光する白色LED19cの分光分布の一例を示す曲線である。図5に示すように、白色LEDは色温度により波長分布が異なり、色温度が低くなるにつれて605nm以上で700nm以下の波長光が増加することが分かる。
【0028】
図5の各々の分光分布曲線S1、S2、S3において、各々の白色LED19a、19b、19cの出射光の全光束は、各々の分光分布曲線S1、S2、S3と縦軸yのy=0の直線とで囲まれる面積で示される。また、出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束は、各々の分光分布曲線S1、S2、S3、縦軸yのy=0の直線、横軸xのx=606nmの直線、横軸xのx=700nmの直線で囲まれる面積で示される。
【0029】
また、波長が450前後の光は航空青、波長が約495nm〜552nmの光は航空緑、波長が約552nm〜585nmの光は航空黄緑、波長が約585nm〜600nmの光は航空黄、波長が約607nm〜700nmの光は航空赤である。
【0030】
図5から分かるように、白色LED19aの分光分布曲線S1は、波長が450nm前後の分光比率及び600nm前後の分光比率が大きい。特に、波長が450nm前後の分光比率より、波長が600nm前後の分光比率の方が大きい。このことから、白色LED19aの出射光には、航空黄や航空赤である波長の光束を多く含み、605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含んでいる。白色LED19aの出射光は赤っぽい白色である。
【0031】
また、白色LED19bの分光分布曲線S2は、波長が460nm前後の分光比率及び550nm〜600nm前後の分光比率が大きい。この場合、波長が460nm前後の分光比率の方が550nm〜600nm前後の分光比率より大きい。このことから、白色LED19bの出射光は、白色LED19aの出射光より、航空黄や航空赤である波長の光束は少なくなるが、605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含んでいる。白色LED19aの出射光は白色である。
【0032】
一方、白色LED19cの分光分布曲線S3は、波長が450nm前後の分光比率が大きく、525nm〜575nm前後の分光比率が大きい。この場合、波長が450nm前後の分光比率の方が525nm〜575nm前後の分光比率より大きい。このことから、白色LED19bの出射光は、白色LED19a、19bの出射光より、航空黄や航空赤である波長の光束は少なくなり、605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含まなくなる。白色LED19cの出射光は青っぽい白色である。
【0033】
ここで、白色光の航空標識灯をLEDにおいて実現しようした場合、色度を航空白の範囲とするためには、色温度3000K〜6000Kの白色LEDを使用する必要がある。また、要求規格により白色の光量と赤色の光量との比は100:15と定められており、その要求を満たすには、例えば、色温度が5000K以下の白色LEDとする必要がある。そこで、本発明の実施形態では、白色光源17として、色温度3000K〜5000Kの白色LEDを使用する。
【0034】
一方、赤色光源18として、白色光源17に使用した白色LEDに、波長が605nm以上で700nm以下である光束を透過するフィルタ部材20を設けて形成する。これにより、航空赤を出射する赤色光源18とする。
【0035】
以上の説明では、白色光と赤色光との2種類の光を必要とする滑走路中心線灯について説明したが、白色光と黄色光との2種類の光を必要とする滑走路灯についても、同様に、黄色光源として、白色光源に使用した白色LEDに黄色光を透過するフィルタ部材20を設けて構成することができる。
【0036】
この場合、黄色を実現するために、白色LEDとして、出射光の波長が585nm以上で600nm以下である光束を含み、かつ、出射光の波長が570nm以上である光束を全光束の40%以上含むものを採用する。
【0037】
航空黄は波長が約585nm〜600nmの光であることから、波長が585nm以上で600nm以下である光束を必ず含むこととする。また、波長が585nm以上で600nm以下である光束だけでは、白色LEDの出射光をフィルタ部材20を透過させたときに、要求規格である白色光に対して黄色光15%が満たされないことがあるので、波長が570nm以上である光束を全光束の40%以上含むものとする。
【0038】
黄色光源は、白色光源に用いる白色光LEDに、波長が570nm以上である光束を透過するフィルタ部材20を設けて実現する。すなわち、波長が約585nm〜600nmの光及び波長が570nm以上である光束が重なり合って15%の黄色光を実現する。
【0039】
本発明の実施形態によれば、航空赤及び航空黄の波長光を多く含む色温度の低い白色LEDを用い、白色光は白色LEDの出射光をそのまま使用し、赤色光または黄色光は、白色LEDと同じLEDからの出射光をフィルタ部材20において赤色光または黄色光に変換して実現するので、LEDの電流や電圧等の仕様を統一できる。従って、同一の点灯回路を用いることができる。
【0040】
空港では、共通の定電流電源からの数十〜数百個の標識灯に給電する配電路が施設され、定電流電源の出力切替により多段に設光するようになされているが、本実施形態のものは、この定電流電源からの出力を受けて、同一の点灯回路で異なる色光を発生することができる。
【0041】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、光源は白色用と赤色用(または黄色用)とを共通とし、いずれか一方の方向の照射する光に対してフィルタ部材を機能させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
11…航空標識灯、12…調整リング、13…ボルト、14…灯体、15…光源、16…プリズム、17…白色光源、18…赤色光源、19…白色LED、20…フィルタ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射光の波長が605nm以上で700nm以下である光束を全光束の15%以上含む白色光LEDから滑走路の長手方向の一方に白色光を出射する白色光源と;
前記白色光源に用いる白色光LEDに、波長が605nm以上で700nm以下である光束を透過するフィルタ部材を設け、前記滑走路の長手方向の他方に赤色光を出射する赤色光源と;
を備えた航空標識灯。
【請求項2】
出射光の波長が585nm以上で600nm以下である光束を含み、かつ、出射光の波長が570nm以上である光束を全光束の40%以上含む白色光LEDから滑走路の長手方向の一方に白色光を出射する白色光源と;
前記白色光源に用いる白色光LEDに、波長が570nm以上である光束を透過するフィルタ部材を設け、前記滑走路の長手方向の他方に黄色光を出射する黄色光源と;
を備えた航空標識灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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