説明

航空機の座席部構造

【課題】 室内空間の狭い航空機においても適切な衝撃吸収を可能とした航空機の座席部構造を提供する。
【解決手段】 トラクター式小型固定翼機の場合には、機体の防火壁40前方から後部座席22後方に達する領域の機体両側部に2列に並ぶ衝撃吸収体30〜32を配置し、機体外殻70に接続される荷重伝達部材60〜62を介して機体のメインフレーム50に接続させる。胴体下部表面には、これらの衝撃吸収体30〜32を覆うようにフェアリング55が設けられており、衝撃時には順次、表面層が磨滅または剥離する構造の表面層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の座席部構造に関し、特に衝撃時に乗員を保護する座席部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の座席部構造については、FAR(連邦航空規定FederalAviation Regulations)23.562に座席の強度に関する規定があるものの、座席を含む機体構造については定めがない。航空機は、高速度で運航され、その衝撃速度は自動車や鉄道車両の倍以上であって、必要な衝撃吸収エネルギー量は4倍以上になる。そのため、座席だけでの衝撃吸収量には限度があり、機体側で衝撃を吸収して乗員を収容する空間の変形を抑制する必要性は高い。一方で、航空機においては、自動車や鉄道車両に比較して機体軽量化、コンパクト化の要請が強く、衝撃時の吸収ストローク量を確保することが困難である。
そのため、少ないストローク量で衝撃を効果的に吸収させて、搭乗者を保護する座席部構造が提案されている。特許文献1に記載された技術は、こうした技術の一例であって、回転翼航空機において、床板と座席下方部分が分離されるように構成し、所定の着地衝撃荷重が付加された場合に、両者を分離させ座席下方部分を降下させて座席下方部分に配置した衝撃吸収手段により搭乗者への衝撃を緩和するものであると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−232075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術は、機体上部に回転翼が配置される回転翼航空機を対象としたものであるため、主要構成部材の存在しない機体下部で衝撃吸収ストロークを確保している。しかしながら、固定翼機、中でも小型航空機においては、空気抵抗を減らすために胴体部を極力細くする必要性があり、同様の手法で衝撃吸収ストロークを確保することが困難である。さらに、固定翼機の場合は、揚力確保のために前進速度が大きくなるため、衝撃吸収についてもこれも考慮する必要がある。さらに、4人ないし6人乗りの小型機では室内幅は1.2m程度と狭いため、衝撃吸収体等を配置する場合にもその配置に制約を受けてしまう。
そこで本発明は、室内空間の狭い航空機においても適切な衝撃吸収を可能とした航空機の座席部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明にかかる航空機の座席部構造は、胴体下側両側端部に少なくともそれぞれ一つ配置される衝撃吸収構造と、この衝撃吸収構造を含む機体下部を底部から覆う機体表面保護部材と、を備えており、機体表面保護部材は、衝撃時には、表面層が順次、磨滅または剥離する構造であることを特徴とする。
【0006】
この衝撃吸収構造は、機体前後方向に一つまたは複数個並べて配置される衝撃吸収体と、この衝撃吸収体上に配置される平板状の介在プレートと、この介在プレートとその上の機体のメインフレームとの間に配置され、機体外殻に固定されている荷重伝達部材を備えているとよい。
【0007】
機体表面保護部材の表面層は、例えば、裁断したガラス繊維を樹脂に混ぜて塗り固めた不織布状の層を含むとよい。あるいは、フィルム状の層を接着剤または粘着剤で積層させた層を含み、機体側から表面側にかけて段階的に接着剤または粘着剤による連結を減らしていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、胴体下側両側端に2列に並ぶ形で衝撃吸収構造を配置することができるので、衝撃時の胴体の損傷を抑制し、乗員のいる室内空間の安全を図ることができるとともに、衝撃吸収構造の軽量化を両立することができる。また、表面保護部材により、衝撃を吸収することが可能である。
【0009】
衝撃吸収構造を上述したように構成すると、衝撃吸収体からメインフレームへと吸収した衝突荷重を効果的に分散させることができる。表面保護部材を上述のように構成することで、剥離、磨滅により、衝撃を吸収しつつ、衝突時の機体の急減速を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる航空機の座席部構造を横からみた縦断面図である。
【図2】図1の座席部構造を前方からみた横断面図である。
【図3】図1の座席部構造を上からみた縦断面図である。
【図4】図1の衝撃吸収構造を示す断面図である。
【図5】図4の荷重伝達部材を示す断面図である。
【図6】図4の荷重伝達部材の別の例を示す断面図である。
【図7】本発明にかかる航空機の座席部構造の機体表面保護部材を示す縦断面図である。
【図8】図7の機体表面保護部材の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明にかかる航空機の座席部構造を横からみた縦断面図であり、図2は、その前方からみた横断面図、図3は、上方からみた縦断面図である。ここでは、4人乗りの小型固定翼機を例に説明する。
【0013】
機体内部には、乗員90、91が着座する座席21、22が設けられ、台座41、42により乗員空間の床面に固定されている。機体の外殻71は、窓10〜12を有し、このうち、窓11は、乗員の発着用のドア15に設けられている。ドア15の開口部の下側の機体側壁内側には、機体前後方向に延びるメインフレーム50が配置されている。このメインフレーム50は、機体前方に配置されるエンジンルームと乗員空間とを仕切る防火壁40の前方から後部座席22の後方まで達している。メインフレーム50は、衝撃荷重に耐えられる十分な強度、断面を有する部材であり、例えば、その高さが機体胴体幅の5%以上、幅が機体胴体幅の3%以上に設定されているとよい。
【0014】
メインフレーム50の下側には、荷重伝達部材60〜62を挟んで衝撃吸収体30〜32が配置されている。この衝撃吸収体30〜32は、アルミ製のハニカム構造体や棒状FRP(Fiber Reinforced Plastic 繊維強化プラスチック)を束ねた物など、一定の荷重が加わると下側から順次全体にわたって壊れていくように形成された部材である。
【0015】
衝撃吸収体30〜32は、機体の前方から後方にかけてその幅または高さが減少もしくは同一となるよう設定されているとよい。好ましくは、その幅は、前側の位置で機体胴体幅の10〜20%、後方位置で機体胴体幅の5〜15%に設定されているとよく、その高さは、前側の位置で機体胴体幅の20〜30%、後方位置で機体胴体幅の10〜20%に設定されている。
【0016】
ここでは、片側に3個を配置しているが、乗員空間全体にわたって配置される形態であれば、連続した1つの衝撃吸収体をそれぞれの側に配置してもよいし、2個または4個以上の衝撃吸収体を並べて配置してもよい。
【0017】
荷重伝達部材60〜62と衝撃吸収体30〜32の間には、図4に示されるように、平板状の介在プレート80〜82が配置されている(図は、荷重伝達部材61、衝撃吸収体31、介在プレート81の組み合わせを示している)。この介在プレート80〜82は、FRPや金属製であって、衝撃吸収体30〜32から伝えられる衝突荷重を荷重伝達部材60〜62に一様に伝達させるだけの十分な曲げ剛性と強度を有している。これらが衝撃吸収構造をなす。
【0018】
荷重伝達部材60〜62は、図5または図6に示されるように、FRPまたは金属で作成した断面矩形状の部材60aまたは断面コの字状の部材60bを複数個、機体側面外殻70に接着またはリベット止め、溶接等により固定したものである。なお、図5、図6は、図4の水平方向断面に相当する。
【0019】
図7に示すように、これらの衝撃吸収構造を機体下側から覆うフェアリング55が設けられており、フェアリング55は、メインフレーム50から前方に延びる剛性部材51と機体前方でピン、リベット等により締結されている。このフェアリング55は、金属またはFRP製であって、胴体下面を形成するため空力的にスムーズな形状を有しており、本発明にかかる機体表面保護部材を構成している。
【0020】
このフェアリング55の外表面には、図8に示すように剥離可能な複数層のフィルム56が接着剤を用いた接着層57により貼り付けられている。ここで、接着層57は、フェアリング55側(機体側)から表面側にかけて段階的に接着による連結部を減らすよう構成されている。接着層57に代えて粘着剤を用いた粘着層としてもよい。さらに、フィルム56の表面には、表面処理層58が設けられている。表面処理層58は、例えば、5〜30mmに裁断したガラス繊維等を樹脂に混ぜたものを外側表面に1〜5mm程度の厚さ塗り固めて、樹脂で固めた不織布状の層を設けたものである。
【0021】
小型航空機が地面に衝突する場合は、機首を下げたいわゆる頭下げ姿勢で接地する頻度が高い。この場合、機首下部(防火壁40付近)で最初に接地し、その後、機体は水平になるように回転して接地点が後方へと移動する。本発明の座席構造等を採用した場合、衝突初期の接地時には、表面処理層58が地面との摩擦を軽減し、滑るようにするので、衝突に伴う急減速が避けられる。さらに、フィルム56を連結する接着層57が順次、磨滅することで、フィルム56が順次、剥離することで、衝突エネルギーを吸収しつつ、急減速を避けることが可能である。ここで、フェアリング55は、前端がメインフレーム50に接続される剛性部材51に締結されているため、衝突衝撃時にも機体からはずれて後方へ引きずられることがない。
【0022】
接地点が後方へと移動すると、衝突荷重により、衝撃吸収体30〜32が順次、下側から潰れていく。衝突荷重はさらに、介在プレート80〜82を通じて荷重伝達部材60〜62を経てメインフレーム50や機体外殻70へと分散される。この結果、衝突荷重による乗員収容空間の変形を効果的に抑制することができ、乗員を安全に保護することができる。
【0023】
本発明にかかる座席部構造では、胴体下側の側端に2列に衝撃吸収体を配置しているので、衝突荷重を胴体全体に効果的に分配して、胴体の破損を防いで、その乗員収容空間を安全に保持して、乗員を保護することができる。また、胴体下面全体に衝撃吸収体を配置すれば、衝撃吸収性能は向上するが、衝撃吸収体に入力される衝突荷重を支えるために、太くて重いクロスメンバーを多数配置する必要があり、機体重量の増加に繋がるほか、乗員収容空間が狭められてしまう。本発明の構成によれば、衝撃吸収性能を確保しつつ、機体の軽量化や乗員収容空間の確保と両立させることが可能である。
【0024】
ここでは、表面処理層58と、フィルム56の双方を設ける場合を例に説明したが、いずれか一方のみを設けてもよい。この場合も、フェアリング55の表面のフィルム56の剥離や、表面処理層58の磨滅により、地面との摩擦抵抗を少なくして、地面衝突時の急停止を抑制する効果が得られる。
【0025】
以上の説明では、前方にエンジン、プロペラが配置されるトラクター式小型固定翼機を例に説明したが、本発明にかかる座席部構造は後方にエンジン、プロペラが配置されるプッシャー式小型固定翼機においても適用可能である。さらに、胴体とは別に推進装置が配置される双発機等においても適用できる。これらの場合は乗員収容空間の前後方向全体にわたるように衝撃吸収体等の座席構造を配置すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明にかかる航空機の座席部構造は、各種の小型航空機に採用することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
10〜12…窓、15…ドア、21、22…座席、30〜32…衝撃吸収体、40…防火壁、41、42…台座、50…メインフレーム、51…剛性部材、55…フェアリング、56…フィルム、57…接着層、58…表面処理層、60a、60b…部材、61…荷重伝達部材、60〜62…荷重伝達部材、70、71…外殻、80〜82…介在プレート、90、91…乗員。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の座席部構造であって、
胴体下側両側端部に少なくともそれぞれ一つ配置される衝撃吸収構造と、
前記衝撃吸収構造を含む機体下部を底部から覆う機体表面保護部材と、を備えており、
前記機体表面保護部材は、衝撃時には、表面層が順次、磨滅または剥離する構造であることを特徴とする航空機の座席部構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収構造は、機体前後方向に一つまたは複数個並べて配置される衝撃吸収体と、前記衝撃吸収体上に配置される平板状の介在プレートと、前記介在プレートとその上の機体のメインフレームとの間に配置され、機体外殻に固定されている荷重伝達部材を備えていることを特徴とする請求項1記載の航空機の座席部構造。
【請求項3】
前記機体表面保護部材の表面層は、裁断したガラス繊維を樹脂に混ぜて塗り固めた不織布状の層を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の航空機の座席部構造。
【請求項4】
前記機体表面保護部材の表面層は、フィルム状の層を接着剤または粘着剤で積層させた層を含み、機体側から表面側にかけて段階的に接着剤または粘着剤による連結を減らしていることを特徴とする請求項1または2に記載の航空機の座席部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−96588(P2012−96588A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243923(P2010−243923)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)