説明

航空機アクチュエータの油圧システム

【課題】機体側油圧源の機能の喪失又は低下時でも単独のアクチュエータで舵面を駆動し、低コストで高出力アクチュエータの小型化を図り、薄翼内部にアクチュエータを配置する。
【解決手段】第1アクチュエータ14aは、第1機体側油圧源104の第1機体側油圧ポンプ104aからの圧油で作動し、舵面103aを駆動する。第2アクチュエータ14bは、第2機体側油圧源105の第2機体側油圧ポンプ105aからの圧油で作動し、舵面103aを駆動する。バックアップ用油圧ポンプ18は、航空機100の翼102aの内部に配置され、第1及び第2機体側油圧源104、105の少なくともいずれかの機能の喪失又は低下時に第1アクチュエータ14aに対して圧油を供給可能に設けられる。バックアップ用油圧ポンプ18は、最大吐出圧力が、第1及び第2機体側油圧ポンプ104a、105aの最大吐出圧力よりも大きくなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータを有するとともにこのアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機においては、動翼(操縦翼面)として形成されて、補助翼(エルロン)や昇降舵(エレベータ)、方向舵(ラダー)等として構成される舵面が設けられている。そして、このような舵面を駆動するアクチュエータとして、油圧作動式のアクチュエータがよく用いられている。尚、特許文献1に開示されているように、例えば、航空機では、1つの舵面に2つの油圧作動式のアクチュエータが取り付けられ、この2つのアクチュエータによって舵面が駆動されている。
【0003】
上記のようなアクチュエータに対しては、航空機の機体側に設置された油圧源である機体側油圧源から圧油が供給される。そして、2つのアクチュエータに対しては、機体側に設置された別系統の機体側油圧源からそれぞれ圧油が供給される。これにより、一方の機体側油圧源の機能(圧油供給機能)の喪失又は低下が発生した場合であっても、2つのアクチュエータのうちの一方のアクチュエータによって舵面を駆動することができ、高い信頼性を確保することができる。
【0004】
また、機体側油圧源の機能の喪失又は低下の発生に対して更に高い信頼性を確保できる油圧システム(航空機アクチュエータの油圧システム)として、特許文献2に開示された油圧システムが知られている。特許文献2に開示された油圧システムは、機体側油圧源とは独立して設けられたポンプを備え、機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生した場合にアクチュエータに対して圧油を供給することが可能な油圧システムとして構成されている。この油圧システムのポンプは、アクチュエータから排出される圧油を昇圧してアクチュエータに供給可能に設けられている。そして、このポンプは、機体側油圧源において圧力低下が生じてその機能の喪失又は低下が発生したときに運転が行われるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−40199号公報
【特許文献2】特開2007−46790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、航空機においては、機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生した場合の信頼性を確保するため、複数のアクチュエータのうちのいずれかのアクチュエータによって舵面を駆動できることが必要となる。このため、各アクチュエータにおいては、単独で舵面を駆動可能な出力を確保できることが、その構造のサイズを決定する大きな要因となる。よって、アクチュエータの小型化を実現するには、厳しい制約が伴うことになる。
【0007】
一方、近年においては、燃費向上のための機体の効率向上を目的として翼の薄型化を図る薄翼化の対応が図られることが望まれており、薄翼化された翼の内部にアクチュエータが配置される場合、アクチュエータの小型化は非常に重要となる。尚、アクチュエータの小型化が図れず、薄翼化された翼の内部へのアクチュエータの配置が不可能な場合であれば、アクチュエータが翼の外部に設置されることになる。この場合、空力抵抗を低減するためにアクチュエータの表面を覆うフェアリングが設けられたとしても、十分な空力抵抗の低減を図ることは困難であり、機体の効率低下を招いてしまうことになる。
【0008】
また、薄翼化された翼の内部へのアクチュエータの配置が可能なように高出力のアクチュエータの小型化を図る方法として、機体側油圧源の高圧化を図ることが考えられる。これにより、アクチュエータにおいて、受圧面積が小さくても大きな出力が可能となるため、アクチュエータの小型化を図ることができる。しかしながら、この場合、機体側油圧源からアクチュエータに至るまでの油圧系統の全てにおいて高圧化が図られる必要がある。このため、上記油圧系統の全てにおいて、例えば、高圧化に対応可能な特殊材料が用いられることが必要となるなど、大幅なコストの上昇を招いてしまうことになる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、同一の舵面を駆動する複数のアクチュエータを備える航空機アクチュエータの油圧システムにおいて、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であっても単独のアクチュエータで舵面を駆動可能であるとともに、高出力のアクチュエータの小型化が低コストで図れ、薄翼化が図られた翼の内部にアクチュエータを配置することができる、航空機アクチュエータの油圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る航空機アクチュエータの油圧システムにおける第1の特徴は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータを有するとともにこのアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧システムにおいて、前記アクチュエータとして設けられ、前記航空機の機体側に設置されるとともに第1機体側油圧ポンプを有する第1の油圧源である第1機体側油圧源からの圧油が供給されることで作動し、前記舵面を駆動する第1アクチュエータと、前記アクチュエータとして設けられ、前記航空機の機体側に設置されるとともに第2機体側油圧ポンプを有する第2の油圧源である第2機体側油圧源からの圧油が供給されることで作動し、前記舵面を駆動する第2アクチュエータと、前記航空機の翼の内部に配置され、前記第1機体側油圧源及び前記第2機体側油圧源のうちの少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が発生したときに前記第1アクチュエータに対して圧油を供給可能なバックアップ用油圧ポンプと、を備え、前記バックアップ用油圧ポンプは、最大吐出圧力が、前記第1機体側油圧ポンプ及び前記第2機体側油圧ポンプの最大吐出圧力よりも大きくなるように設定されていることである。
【0011】
この構成によると、航空機アクチュエータの油圧システムが、同一の舵面を駆動する第1及び第2の複数のアクチュエータを備える油圧システムとして設けられる。そして、この油圧システムでは、第1及び第2機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生した場合であっても、翼の内部に配置されたバックアップ用油圧ポンプから圧油が供給される単独の第1アクチュエータによって舵面を駆動することができるため、高い信頼性を確保することができる。
【0012】
また、バックアップ用油圧ポンプは、最大吐出圧力が、第1機体側油圧ポンプ及び第2機体側油圧ポンプの最大吐出圧力よりも大きくなるように設定されている。このため、第1及び第2機体側油圧ポンプではなく、バックアップ用油圧ポンプの高圧化が図られることで、第1アクチュエータにおいて、受圧面積が小さくても大きな出力が可能となる。これにより、高出力の第1アクチュエータの小型化を図ることができる。尚、第1アクチュエータは、バックアップ用油圧ポンプから供給される圧油によって単独のアクチュエータにて舵面を駆動可能に構成されることになる。このため、第2アクチュエータについては、第1アクチュエータと同様の高出力化の対応がなされなくてもよく、小型化が図られることになる。また、第1及び第2機体側油圧ポンプの高圧化が図られることなく、翼の内部に配置されたバックアップ用油圧ポンプの高圧化が図られるため、機体側油圧源からアクチュエータに至るまでの油圧系統の全てにおける高圧化も不要となる。このため、高出力の第1アクチュエータの小型化が低コストで図られることになる。そして、高出力の第1アクチュエータの小型化及び第2アクチュエータの小型化が図られるため、薄翼化された翼の内部に第1及び第2アクチュエータを配置することができることになる。
【0013】
従って、この構成によると、同一の舵面を駆動する複数のアクチュエータを備える航空機アクチュエータの油圧システムにおいて、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であっても単独のアクチュエータで舵面を駆動可能であるとともに、高出力のアクチュエータの小型化が低コストで図れ、薄翼化が図られた翼の内部にアクチュエータを配置することができる。
【0014】
本発明に係る航空機アクチュエータの油圧システムにおける第2の特徴は、第1の特徴を備える航空機アクチュエータの油圧システムにおいて、前記第1機体側油圧源及び前記第2機体側油圧源のうちの少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が発生したときに、前記バックアップ用油圧ポンプの運転が行われるように当該バックアップ用油圧ポンプを制御するコントローラを更に備え、前記コントローラは、前記第1機体側油圧源及び前記第2機体側油圧源の機能の喪失及び低下が発生していない通常運転時において、前記舵面の駆動に必要なモーメントが前記第1機体側油圧源からの圧油で作動する前記第1アクチュエータ及び前記第2機体側油圧源からの圧油で作動する前記第2アクチュエータが発生可能な所定の駆動モーメントを上回る高出力条件が成立したときにも、前記バックアップ用油圧ポンプの運転が行われるように当該バックアップ用油圧ポンプを制御することである。
【0015】
この構成によると、第1及び第2機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時には、コントローラによって、バックアップ用油圧ポンプの運転が行われるようにバックアップ用油圧ポンプが制御される。そして、このコントローラは、通常運転時においても、高出力条件の成立時には、バックアップ用油圧ポンプの運転が行われるようにバックアップ用油圧ポンプを制御するように構成されている。このため、第1及び第2機体側油圧ポンプよりも最大吐出圧力が大きく設定されたバックアップ用油圧ポンプから高圧の圧油が第1アクチュエータに供給されるため、第1アクチュエータから舵面に対して大きな駆動モーメントが出力されることになる。これにより、通常運転時においても、バックアップ用油圧ポンプにおいて、高出力対応を図るための機構としての機能も兼ねさせることができる。即ち、飛行速度が速いなどの飛行条件により空力抵抗が大きくて大きな駆動モーメントが必要な場合においても、高出力で小型化が図られて翼内に配置された第1アクチュエータから舵面に対して大きな駆動モーメントを出力することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、同一の舵面を駆動する複数のアクチュエータを備える航空機アクチュエータの油圧システムにおいて、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であっても単独のアクチュエータで舵面を駆動可能であるとともに、高出力のアクチュエータの小型化が低コストで図れ、薄翼化が図られた翼の内部にアクチュエータを配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る航空機アクチュエータの油圧システムが適用される航空機の一部を示す模式図である。
【図2】図1に示す航空機アクチュエータの油圧システムを含む油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。
【図3】図2に示す航空機アクチュエータの油圧システムにおける制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明の実施形態は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータを有するとともにこのアクチュエータに対して圧油を供給する航空機アクチュエータの油圧システムとして広く適用することができるものである。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る航空機アクチュエータの油圧システム1(以下、単に「油圧システム1」ともいう)が適用される航空機100の一部を示す模式図であって、航空機100の機体101の胴体部分の一部と一対の主翼(102a、102b)とを図示したものである。尚、図1の模式図では、各主翼(102a、102b)についての中途部分の図示を省略している。
【0020】
主翼102aには、航空機100の舵面を構成する動翼(操縦翼面)として、エルロン(補助翼)103aが設けられている。同様に、主翼102bには、航空機100の舵面を構成する動翼(操縦翼面)として、エルロン(補助翼)103bが設けられている。そして、図1に例示するように、主翼102aにおけるエルロン103aは、複数(本実施形態では、2つ)のアクチュエータ(14a、14b)によって駆動されるように構成されている。また、主翼102bにおけるエルロン103bも、複数(本実施形態では、2つ)のアクチュエータ(14a、14b)によって駆動されるように構成されている。
【0021】
主翼102aの内部には、エルロン103aを駆動するアクチュエータ(14a、14b)と、そのうちの一方のアクチュエータ14aに対して圧油を供給するように構成された油圧装置13とが設置されている。同様に、主翼102bの内部には、エルロン103bを駆動するアクチュエータ(14a、14b)と、そのうちの一方のアクチュエータ14aに対して圧油を供給するように構成された油圧装置13とが設置されている。
【0022】
そして、本実施形態に係る油圧システム1は、アクチュエータ14a、アクチュエータ14b、油圧装置13、後述するフライトコントローラ12、等を備えて構成されている。また、油圧システム1は、エルロン103aとエルロン103bとにそれぞれ対応して設けられている。
【0023】
本実施形態においては、各主翼(102a、102b)のそれぞれに設置されるアクチュエータ(14a、14b)及び油圧装置13は同様に構成され、各エルロン(103a、103b)のそれぞれに対応して設けられる油圧システム1は同様に構成されている。そこで、以下の説明においては、一方の主翼102aに設置されるアクチュエータ(14a、14b)及び油圧装置13を備える油圧システム1について説明し、他方の主翼102bに設置されるアクチュエータ(14a、14b)及び油圧装置13を備える油圧システム1についての説明を省略する。
【0024】
図2は、エルロン103aに対応して設けられた油圧システム1を含む油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。図2に示すように、アクチュエータ(14a、14b)のそれぞれは、エルロン103aに連結されており、独立してエルロン103aを駆動可能なシリンダ機構として構成されている。
【0025】
そして、アクチュエータ(14a、14b)は、シリンダ15、ピストン16aが設けられたロッド16、等を備え、シリンダ15内がピストン16aによって2つの油室(15a、15b)に区画されて構成されている。また、アクチュエータ14aのシリンダ15における各油室(15a、15b)は、後述の油圧装置13に含まれる制御弁17aを介して後述の機体側油圧源104及びリザーバ回路106と連通可能に構成されている。一方、アクチュエータ14bのシリンダ15における各油室(15a、15b)は、制御弁17bを介して後述の機体側油圧源105及びリザーバ回路107と連通可能に構成されている。
【0026】
また、アクチュエータ14aには、ロッド16のシリンダ15に対する位置を検出する位置センサ24aが設置されている。更に、アクチュエータ14aには、一対の油室(15a、15b)間の差圧、即ち、油室15a内の圧油の圧力と油室15b内の圧油の圧力との差を検出する差圧センサ25aが設置されている。尚、アクチュエータ14aにおける一対の油室(15a、15b)間の差圧は、例えば、油室15a内の圧油の圧力値から油室15b内の圧油の圧力値を引いた差として検出される。
【0027】
また、アクチュエータ14bには、ロッド16のシリンダ15に対する位置を検出する位置センサ24bが設置されている。更に、アクチュエータ14bには、一対の油室(15a、15b)間の差圧、即ち、油室15a内の圧油の圧力と油室15b内の圧油の圧力との差を検出する差圧センサ25bが設置されている。尚、アクチュエータ14bにおける一対の油室(15a、15b)間の差圧は、上記のアクチュエータ14aの場合と方向を合わせて差が検出される。即ち、アクチュエータ14bにおける一対の油室(15a、15b)間の差圧は、上記のアクチュエータ14aの例に合わせて、油室15a内の圧油の圧力値から油室15b内の圧油の圧力値を引いた差として検出される。
【0028】
図1に示す機体側油圧源104は、圧油を供給する機体側油圧ポンプ104a、通過する油を冷却する熱交換器を有して機体側油圧ポンプ104aから供給する圧油を冷却する油冷却装置(図示せず)、等を備えて構成されている。この機体側油圧源104は、機体101側に(機体101の内部に)設置されている。そして、エルロン103aに対応して設けられた油圧システム1に対しては、機体側油圧源104は、第1の油圧源である第1機体側油圧源を構成し、機体側油圧ポンプ104aは、第1機体側油圧ポンプを構成している。
【0029】
また、図1に示す機体側油圧源105も、機体側油圧源104と同様に、圧油を供給する機体側油圧ポンプ105a、通過する油を冷却する熱交換器を有して機体側油圧ポンプ105aから供給する圧油を冷却する油冷却装置(図示せず)、等を備えて構成されている。この機体側油圧源105は、機体101側に(機体101の内部に)設置されている。そして、エルロン103aに対応して設けられた油圧システム1に対しては、機体側油圧源105は、第2の油圧源である第2機体側油圧源を構成し、機体側油圧ポンプ105aは、第2機体側油圧ポンプを構成している。尚、機体側油圧源104及び機体側油圧源105のそれぞれは、互いに独立した系統として設けられている。
【0030】
機体側油圧源(104、105)のそれぞれからの圧油が供給されることで、エルロン(103a、103b)を駆動するアクチュエータ(14a、14b)とエルロン(103a、103b)以外の各舵面を駆動するアクチュエータ(図示せず)とが作動するように構成されている。また、機体側油圧源104は、一方の主翼102aに設置されたアクチュエータ14aと他方の主翼102bに設置されたアクチュエータ14bとに圧油を供給可能に接続されている。一方、機体側油圧源105は、一方の主翼102aに設置されたアクチュエータ14bと他方の主翼102bに設置されたアクチュエータ14aとに対して圧油を供給可能に接続されている。
【0031】
図2に示すリザーバ回路106は、圧油として供給された後にエルロン103aに対応するアクチュエータ14aとエルロン103bに対応するアクチュエータ14bとから排出される油(作動油)が流入して戻るタンク(図示せず)を有するとともに、機体側油圧源104に連通するように構成されている。また、リザーバ回路106から独立した系統として構成されるリザーバ回路107は、圧油として供給された後にエルロン103bに対応するアクチュエータ14aとエルロン103aに対応するアクチュエータ14bとから排出される油(作動油)が流入して戻るタンク(図示せず)を有するとともに、機体側油圧源104から独立した系統として構成される機体側油圧源105に連通するように構成されている。
【0032】
上記のように、リザーバ回路106は、一方の主翼102aに設置されたアクチュエータ14aと他方の主翼102bに設置されたアクチュエータ14bとに接続されるとともに、機体側油圧源104に接続されている。これにより、リザーバ回路106に戻った油が機体側油圧源104で昇圧され、アクチュエータ(14a、14b)に供給される。一方、リザーバ回路107は、一方の主翼102aに設置されたアクチュエータ14bと他方の主翼102bに設置されたアクチュエータ14aとに接続されるとともに、機体側油圧源105に接続されている。これにより、リザーバ回路107に戻った油が機体側油圧源105で昇圧され、アクチュエータ(14a、14b)に供給される。
【0033】
尚、本実施形態では、アクチュエータ(14a、14b)は、各エルロン(103a、103b)として構成された舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータとして設けられている。即ち、アクチュエータ(14a、14b)を備える油圧システム1が、エルロン(103a、103b)に対応して設けられた形態を例示している。しかし、この通りでなくてもよく、油圧システム1が、エレベータ(昇降舵)等のエルロン以外の舵面を駆動するアクチュエータを有するとともにそのアクチュエータに対して圧油を供給する油圧システムとして用いられてもよい。
【0034】
また、本実施形態では、エルロン103aに対応して設けられた油圧システム1においては、アクチュエータ14aが、機体側油圧源104(第1機体側油圧源)からの圧油が供給されることで作動し、舵面であるエルロン103aを駆動する本実施形態における第1アクチュエータを構成している。更に、エルロン103aに対応する油圧システム1においては、アクチュエータ14bが、機体側油圧源105(第2機体側油圧源)からの圧油が供給されることで作動し、上記舵面と同一の舵面としてのエルロン103aを駆動する本実施形態における第2アクチュエータを構成している。
【0035】
また、以下の説明においては、エルロン103aに対応する油圧システム1について説明する。このため、機体側油圧源104を第1機体側油圧源104とも称し、機体側油圧源105を第2機体側油圧源105とも称し、機体側油圧ポンプ104aを第1機体側油圧ポンプ104aとも称し、機体側油圧ポンプ105aを第2機体側油圧ポンプ105aとも称する。また、アクチュエータ14aを第1アクチュエータ14aとも称し、アクチュエータ14bを第2アクチュエータ14bとも称する。
【0036】
エルロン103aに対応する油圧システム1における油圧装置13は、第1アクチュエータ14aに対して圧油を供給するように構成されている。そして、図2に示すように、油圧装置13は、制御弁(17a、17b)、バックアップ用油圧ポンプ18、電動モータ19、ドライバ20、バックアップ側逆止弁21、機体油圧源側逆止弁22、リリーフ弁23、等を備えて構成されている。
【0037】
制御弁17aは、第1機体側油圧源104に連通する供給通路104b及びリザーバ回路106に連通する排出通路106aと、第1アクチュエータ14aの油室(15a、15b)との接続状態を切り替えるバルブ機構として設けられている。この制御弁17aは、例えば、電気油圧サーボ弁(EHSV)として設けられ、比例的にスプール(図示せず)の位置を切り替え可能に構成され、第1アクチュエータ14aの動作を制御するアクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて駆動される。
【0038】
一方、制御弁17bは、第2機体側油圧源105に連通する供給通路105b及びリザーバ回路107に連通する排出通路107aと、アクチュエータ14bの油室(15a、15b)との接続状態を切り替えるバルブ機構として設けられている。そして、制御弁17bは、制御弁17aと同様に構成され、例えば、電気油圧サーボ弁(EHSV)として設けられ、比例的にスプール(図示せず)の位置を切り替え可能に構成される。そして、制御弁17bは、アクチュエータ14bの動作を制御するアクチュエータコントローラ11bからの指令信号に基づいて駆動される。
【0039】
また、制御弁17aは、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて切り替えられることで、供給通路104bから油室(15a、15b)の一方に圧油が供給され、油室(15a、15b)の他方から排出通路106aに油が排出される。これにより、シリンダ15に対してロッド16が変位し、エルロン103aが駆動される。また、図示を省略するが、制御弁17aと第1アクチュエータ14aとの間には、油室(15a、15b)間の連通状態(モード)を切り替えるモード切替弁が設けられている。尚、制御弁17bの作動については、上述した制御弁17aと同様であるため、説明を省略する。
【0040】
バックアップ用油圧ポンプ18は、主翼102aの内部に配置され、斜板を有する可変容量式の油圧ポンプとして構成されている。このバックアップ用油圧ポンプ18は、その吸込み側が排出通路106aに連通するように接続され、その吐出側がバックアップ側逆止弁21を介して供給通路104bに圧油を供給可能に連通するように接続されている。
【0041】
また、バックアップ用油圧ポンプ18は、第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105のうちの少なくともいずれかの機能(圧油供給機能)の喪失又は低下が発生したときに第1アクチュエータ14aに対して圧油を供給可能な油圧ポンプとして設けられている。即ち、バックアップ用油圧ポンプ18は、第1機体側油圧源104の第1機体側油圧ポンプ104aの故障や油漏れ等によって第1機体側油圧源104の機能の喪失又は低下が発生したときに第1アクチュエータ14aに圧油を供給可能に構成されている。また、バックアップ用油圧ポンプ18は、第2機体側油圧源105の第2機体側油圧ポンプ105aの故障や油漏れ等によって第2機体側油圧源105の機能の喪失又は低下が発生したときにも第1アクチュエータ14aに圧油を供給可能に構成されている。
【0042】
また、バックアップ用油圧ポンプ18は、その最大吐出圧力が、第1機体側油圧源104の第1機体側油圧ポンプ104a及び第2機体側油圧源105の第2機体側油圧ポンプ105aよりも大きくなるように設定されている。例えば、第1機体側油圧ポンプ104a及び第2機体側油圧ポンプ105aの最大吐出圧力が3000psi(20.7MPa)に設定され、バックアップ用油圧ポンプ18の最大吐出圧力が5000psi(34.5MPa)に設定される。
【0043】
尚、前述したバックアップ側逆止弁21は、バックアップ用油圧ポンプ18から第1アクチュエータ14aへ向かう方向の油の流れを許容してその逆方向の油の流れを規制する逆止弁として設けられている。また、供給通路104bにおけるバックアップ用油圧ポンプ18の吐出側であってバックアップ側逆止弁21の下流側が接続する箇所の上流側(第1機体側油圧ポンプ104a側)には、機体油圧源側逆止弁22が設けられている。この機体油圧源側逆止弁22は、第1機体側油圧ポンプ104aから第1アクチュエータ14aへ向かう方向の油の流れを許容してその逆方向の油の流れを規制する逆止弁として設けられている。
【0044】
また、排出通路106aにおけるバックアップ用油圧ポンプ18の吸込み側が接続する箇所の下流側(リザーバ回路106側)には、第1アクチュエータ14aから排出された油の圧力が上昇した際にリザーバ回路106へ圧油を排出するリリーフ弁23が設けられている。また、このリリーフ弁23には、供給通路104bに連通するとともにバネが配置されたパイロット圧室が設けられている。供給通路104bから供給される圧油の圧力が所定の圧力値よりも低下すると、パイロット圧油として供給通路104bから上記のパイロット圧室に供給されている圧油の圧力(パイロット圧)も所定の圧力値より低下し、排出通路106aがリリーフ弁23によって遮断されることになる。このように、油圧装置13では、上述した逆止弁(21、22)及びリリーフ弁23が設けられていることにより、第1機体側油圧源104の機能の喪失時又は低下時に、第1アクチュエータ14aから排出された油をリザーバ回路106に戻すことなくバックアップ用油圧ポンプ18で昇圧でき、その昇圧された圧油をアクチュエータ14aに供給可能となる。
【0045】
電動モータ19は、バックアップ用油圧ポンプ18とともに主翼102a内に配置されている。そして、電動モータ19は、バックアップ用油圧ポンプ18に対して、カップリング等を介して連結され、このバックアップ用油圧ポンプ18を駆動するように構成されている。この電動モータ19は、ドライバ20を介して、後述のフライトコントローラ12からの指令信号に基づいて運転状態が制御される。尚、ドライバ20は、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて電動モータ19へ供給される電力及び電動モータ19の運転速度(回転速度)を制御してこの電動モータ19を駆動する回路基板等として設けられている。
【0046】
次に、油圧システム1におけるフライトコントローラ12について説明する。図3は、油圧システム1における制御構成を示すブロック図である。図2及び図3に示すフライトコントローラ12は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)やメモリ、インターフェース等を備えて構成されている。
【0047】
また、フライトコントローラ12は、アクチュエータコントローラ11a及びアクチュエータコントローラ11bに対して上位のコンピュータとして設けられ、エルロン103aの動作を指令するコンピュータとして構成されている。即ち、フライトコントローラ12は、パイロット(図示せず)の操作によって生成される操作信号等に基づいて、エルロン103aの動作を指令する指令信号を生成し、この指令信号をアクチュエータコントローラ(11a、11b)に対して送信するように構成されている。
【0048】
尚、エルロン103aの動作を指令する指令信号がアクチュエータコントローラ(11a、11b)に対して送信されると、アクチュエータコントローラ11aが上記の指令信号に基づいて第1アクチュエータ14aを制御し、アクチュエータコントローラ11bが上記の指令信号に基づいて第2アクチュエータ14bを制御する。このとき、図3に示すように、アクチュエータコントローラ11aは、位置センサ24aでのロッド16の位置検出結果に基づいて、制御弁17aのスプール位置を調整し、第1アクチュエータ14aのロッド16の位置のフィードバック制御を行うように構成されている。同様に、アクチュエータコントローラ11bは、位置センサ24bでのロッド16の位置検出結果に基づいて、制御弁17bのスプール位置を調整し、第2アクチュエータ14bのロッド16の位置のフィードバック制御を行うように構成されている。上記により、エルロン103aの動作が制御されるように構成されている。
【0049】
ここで、アクチュエータコントローラ(11a、11b)について簡単に説明する。エルロン103aを駆動するアクチュエータ(14a、14b)を制御するアクチュエータコントローラ(11a、11b)は、例えば、集中制御方式のコントローラとして、又は分散処理方式のコントローラとして設置される。集中制御方式の場合、機体101側に設置された1つの筐体(図示せず)にアクチュエータコントローラ11a及びアクチュエータコントローラ11bが設置され、アクチュエータコントローラ11aがアクチュエータ14aを制御し、アクチュエータコントローラ11bがアクチュエータ14bを制御するように構成される。
【0050】
分散処理方式の場合、アクチュエータ14aに搭載された筐体(図示せず)にアクチュエータコントローラ11aが設置され、アクチュエータ14bに搭載された筐体(図示せず)にアクチュエータコントローラ11bが設置される。そして、アクチュエータコントローラ11aがアクチュエータ14aを制御し、アクチュエータコントローラ11bがアクチュエータ14bを制御するように構成される。
【0051】
また、フライトコントローラ12は、第1機体側油圧ポンプ104aの吐出圧力又は供給通路104bを通過する圧油の圧力を検知する圧力センサ(図示せず)と、第2機体側油圧ポンプ105aの吐出圧力又は供給通路105bを通過する圧油の圧力を検知する圧力センサ(図示せず)とに対して接続されている。これにより、フライトコントローラ12は、上記の各圧力センサで検知された圧力検知信号が受信され、それらの圧力検知信号に基づいて、第1機体側油圧源104の機能の喪失又は低下と、第2機体側油圧源105の機能の喪失又は低下とを検知するように構成されている。
【0052】
例えば、フライトコントローラ12は、第1機体側油圧ポンプ104a等に設置された圧力センサからの圧力検知信号の圧力値が所定の圧力値以下となったタイミングに応じて第1機体側油圧源104の機能の喪失又は低下を検知するように構成されている。そして、フライトコントローラ12は、第2機体側油圧ポンプ105a等に設置された圧力センサからの圧力検知信号の圧力値が所定の圧力値以下となったタイミングに応じて第2機体側油圧源105の機能の喪失又は低下を検知するように構成されている。
【0053】
また、フライトコントローラ12は、ドライバ20に対しても指令信号を送信可能に構成されている。そして、フライトコントローラ12にて第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105の少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が検知されると、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいてドライバ20が電動モータ19を駆動する。これにより、電動モータ19の運転が開始され、第1及び第2機体側油圧ポンプ(104a、105a)よりも高圧の圧油を供給可能なバックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われ、前述のように、アクチュエータ104aに対する圧油の供給が行われることになる。このように、フライトコントローラ12は、第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105のうちの少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が発生したときに、バックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われるようにバックアップ用油圧ポンプ18を制御する本実施形態のコントローラを構成している。
【0054】
また、フライトコントローラ12は、第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生していない通常運転時においても、所定の条件が成立したときに、バックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われるようにこのバックアップ用油圧ポンプ18を制御するよう構成されている。フライトコントローラ12においては、上記の所定の条件は、エルロン103aの駆動に必要なモーメントが第1機体側油圧源104からの圧油で作動する第1アクチュエータ14a及び第2機体側油圧源105からの圧油で作動する第2アクチュエータ14bが発生可能な所定の駆動モーメントを上回る高出力条件として設定されている。
【0055】
尚、エルロン103aに作用する空力抵抗によるモーメントの大きさは、エルロン103a近傍の空気密度と、航空機100の飛行速度の2乗と、エルロン103aの主翼102aに対する傾き角度である舵角と、にほぼ比例する。一方、アクチュエータ(14a、14b)から出力されてエルロン103aを駆動する駆動モーメントは、アクチュエータ(14a、14b)に対して供給される圧油の圧力と、ピストン16aの受圧面積と、ロッド16の端部がエルロン103aに対して連結される位置とエルロン103aの支点位置との距離であるホーンアーム長(モーメントアームの長さ)との積に比例する。
【0056】
エルロン103aが駆動可能な状態が維持されるためには、エルロン103aを駆動する駆動モーメントとして、エルロン103aに作用する空力抵抗によるモーメントを超えるモーメントが確保される必要がある。このため、フライトコントローラ12においては、各種センサからの信号に基づいて、エルロン103aに作用する空力抵抗によるモーメントの大きさが演算されており、飛行速度が高速の場合など、空力抵抗によるモーメントが機体側油圧源(104、105)からの圧油で作動するアクチュエータ(14a、14b)が発生可能な駆動モーメントを上回る高出力条件が成立したときには、第1及び第2機体側油圧ポンプ(104a、105a)の運転に加えてバックアップ用油圧ポンプ18も運転させるように、ドライバ20及び電動モータ19を介してこのバックアップ用油圧ポンプ18を制御する。
【0057】
尚、上記のように第1及び第2機体側油圧ポンプ(104a、105a)の運転に加えてバックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われる場合と、第1機体側油圧源104の機能の喪失又は低下が発生したために第2機体側油圧ポンプ105a及びバックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われる場合とにおいては、第1アクチュエータ14a及び第2アクチュエータ14bに供給される圧油の圧力が異なる状態となる。即ち、第2アクチュエータ14bに対しては第2機体側油圧ポンプ105aから所定の圧力以下(例えば、20.7MPa以下)の圧油が供給され、第1アクチュエータ14aに対しては第2機体側油圧ポンプ105aよりも最大吐出圧力が高いバックアップ用油圧ポンプ18から所定の高圧の圧力以下(例えば、34.5MPa以下)の圧油が供給されることになる。
【0058】
上記に対し、フライトコントローラ12においては、第1アクチュエータ14aのロッド16の位置と第2アクチュエータ14bのロッド16の位置とのずれが生じて第1アクチュエータ14aと第2アクチュエータ14bとの間で逆方向に付勢し合うフォースファイトが発生することを防止するための構成が設けられている。フォースファイトを防止する構成として、図3に示すように、フライトコントローラ12には、各アクチュエータコントローラ(11a、11b)を介して第1及び第2アクチュエータ(14a、14b)の動作を制御する指令信号を調整する均等化処理部26が設けられている。
【0059】
均等化処理部26は、フライトコントローラ12におけるCPU或いはフライトコントローラ12に備えられた他の電子回路として設けられている。そして、この均等化処理部26は、第1アクチュエータ14aのロッド16の位置と第2アクチュエータ14bのロッド16の位置とを均等化するように(位置のずれを修正して位置を一致させるように)、第1及び第2アクチュエータ(14a、14b)に対する指令信号を調整するように構成されている。
【0060】
また、フライトコントローラ12は、第1アクチュエータ14aの差圧センサ25aで検知された差圧信号がアクチュエータコントローラ11aを経由して受信され、第2アクチュエータ14bの差圧センサ25bで検知された差圧信号がアクチュエータコントローラ11bを経由して受信されるように構成されている。そして、フライトコントローラ12では、第1アクチュエータ14aの差圧センサ25aの差圧信号の値から第2アクチュエータ14bの差圧センサ25bの差圧信号の値を引いた差が演算され、この演算結果に基づいて、均等化処理部26が、第1アクチュエータ14a及び第2アクチュエータ14bに対する指令信号を調整するように構成されている。
【0061】
尚、第1アクチュエータ14aのロッド16の位置と第2アクチュエータ14bのロッド16の位置とのずれが生じ始めると、差圧センサ25aと差圧センサ25bとの差圧信号値の差の値は、プラス又はマイナスの値としてその大きさが大きくなることになる。そして、均等化処理部26は、差圧信号の差の値の符号と大きさとに応じて、第1アクチュエータ14a及び第2アクチュエータ14bに対する指令信号を調整することになる。
【0062】
尚、フライトコントローラ12は、第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105のうちの少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が発生したタイミングと、前述の高出力条件が成立したタイミングとに加え、更に、航空機100が着陸姿勢に入ったタイミングでバックアップ用油圧ポンプ18を起動させるように構成されていてもよい。この場合、着陸段階で急激に第1及び第2機体側油圧源(104、105)の機能の喪失又は低下が生じても、既にバックアップ用油圧ポンプ18は運転されているため安全な飛行を確保することができる。
【0063】
次に、油圧システム1の作動について説明する。第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生していない通常運転時であって前述の高出力条件が成立していない状態は、バックアップ用油圧ポンプ18の運転は行われない。この状態では、第1アクチュエータ14aに対しては、制御弁17aを介して第1機体側油圧源104からの圧油が油室(15a、15b)の一方に供給され、油室(15a、15b)の他方から油が排出されて制御弁17aを介してリザーバ回路106に戻されることになる。同様に、第2アクチュエータ14bに対しても第2機体側油圧源105からの圧油が供給され、第2アクチュエータ14bから排出された油がリザーバ回路に油が戻されることになる。
【0064】
また、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁17aの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(15a、15b)の切り替えが行われる。同様に、アクチュエータコントローラ11bからの指令信号に基づいて制御弁17bの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(15a、15b)の切り替えが行われる。これにより、第1アクチュエータ14a及び第2アクチュエータ14bが作動してエルロン103aが駆動される。
【0065】
また、第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生していない通常運転時において前述の高出力条件が成立すると、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、電動モータ19の運転が開始され、バックアップ用油圧ポンプ18が起動されてその運転が開始される。そして、第1アクチュエータ14aに対しては、制御弁17aを介してバックアップ用油圧ポンプ18からの圧油が油室(15a、15b)の一方に供給され、油室(15a、15b)の他方から油が排出されて制御弁17aを介してバックアップ用油圧ポンプ18に吸い込まれて昇圧されることになる。
【0066】
そして、この状態においては、第2アクチュエータ14bに対しては第2機体側油圧ポンプ105aからの圧油が供給され、第1アクチュエータ14aに対しては第2機体側油圧ポンプ105aよりも高圧の圧油を吐出するバックアップ用油圧ポンプ18からの圧油が供給される。これに対し、前述のように、フライトコントローラ12の均等化処理部26において、第1アクチュエータ14aのロッド16の位置と第2アクチュエータ14bのロッド16の位置とを均等化するように、第1及び第2アクチュエータ(14a、14b)に対する指令信号が調整される。そして、第1及び第2アクチュエータ(14a、14b)間でのフォースファイトの発生が防止された状態で、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁17aの接続状態が切り替えられ、アクチュエータコントローラ11bからの指令信号に基づいて制御弁17bの接続状態が切り替えられる。これにより、第1及び第2アクチュエータ(14a、14b)が同期して作動し、エルロン103aが大きな駆動モーメントで駆動される。
【0067】
一方、第1機体側油圧源104及び第2機体側油圧源105のうちの少なくともいずれかの機能の喪失及び低下が発生すると、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、電動モータ19の運転が開始され、バックアップ用油圧ポンプ18が起動されてその運転が開始される。そして、第1アクチュエータ14aに対しては、制御弁17aを介してバックアップ用油圧ポンプ18からの圧油が油室(15a、15b)の一方に供給され、油室(15a、15b)の他方から油が排出されて制御弁17aを介してバックアップ用油圧ポンプ18に吸い込まれて昇圧されることになる。また、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁17aの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(15a、15b)の切り替えが行われ、第1アクチュエータ14aが作動してエルロン103aが駆動される。
【0068】
以上説明したように、本実施形態によると、油圧システム1が、同一の舵面であるエルロン103aを駆動する第1及び第2の複数のアクチュエータ(14a、14b)を備える油圧システムとして設けられる。そして、この油圧システム1では、第1及び第2機体側油圧源(104、105)の機能の喪失又は低下が発生した場合であっても、主翼102aの内部に配置されたバックアップ用油圧ポンプ18から圧油が供給される単独の第1アクチュエータ14aによってエルロン103aを駆動することができるため、高い信頼性を確保することができる。
【0069】
また、バックアップ用油圧ポンプ18は、最大吐出圧力が、第1機体側油圧ポンプ104a及び第2機体側油圧ポンプ105aの最大吐出圧力よりも大きくなるように設定されている。このため、第1及び第2機体側油圧ポンプ(104a、105a)ではなく、バックアップ用油圧ポンプ18の高圧化が図られることで、第1アクチュエータ14aにおいて、受圧面積が小さくても大きな出力が可能となる。これにより、高出力の第1アクチュエータ14aの小型化を図ることができる。
【0070】
尚、第1アクチュエータ14aは、バックアップ用油圧ポンプ18から供給される圧油によって単独のアクチュエータ14aにてエルロン103aを駆動可能に構成されることになる。このため、第2アクチュエータ14bについては、第1アクチュエータ14aと同様の高出力化の対応がなされなくてもよく、小型化が図られることになる。また、第1及び第2機体側油圧ポンプ(104a、105a)の高圧化が図られることなく、主翼102aの内部に配置されたバックアップ用油圧ポンプ18の高圧化が図られるため、機体側油圧源(104、105)からアクチュエータ(14a、14b)に至るまでの油圧系統の全てにおける高圧化も不要となる。このため、高出力の第1アクチュエータ14aの小型化が低コストで図られることになる。そして、高出力の第1アクチュエータ14aの小型化及び第2アクチュエータ14bの小型化が図られるため、薄翼化された主翼102aの内部に第1及び第2アクチュエータ(14a、14b)を配置することができることになる。
【0071】
従って、本実施形態によると、同一の舵面であるエルロン103aを駆動する複数のアクチュエータ(14a、14b)を備える航空機アクチュエータの油圧システム1において、機体側油圧源(104、105)の機能の喪失時又は低下時であっても単独のアクチュエータ14aでエルロン103aを駆動可能であるとともに、高出力のアクチュエータ14aの小型化が低コストで図れ、薄翼化が図られた主翼102aの内部にアクチュエータ(14a、14b)を配置することができる。
【0072】
また、油圧システム1によると、第1及び第2機体側油圧源(104、105)の機能の喪失時又は低下時には、フライトコントローラ12によって、バックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われるようにバックアップ用油圧ポンプ18が制御される。そして、このフライトコントローラ12は、通常運転時においても、高出力条件の成立時には、バックアップ用油圧ポンプ18の運転が行われるようにバックアップ用油圧ポンプ18を制御するように構成されている。このため、第1及び第2機体側油圧ポンプ(104a、105a)よりも最大吐出圧力が大きく設定されたバックアップ用油圧ポンプ18から高圧の圧油が第1アクチュエータ14aに供給されるため、第1アクチュエータ14aからエルロン103aに対して大きな駆動モーメントが出力されることになる。これにより、通常運転時においても、バックアップ用油圧ポンプ18において、高出力対応を図るための機構としての機能も兼ねさせることができる。即ち、飛行速度が速いなどの飛行条件により空力抵抗が大きくて大きな駆動モーメントが必要な場合においても、高出力で小型化が図られて主翼102a内に配置された第1アクチュエータ14aからエルロン103aに対して大きな駆動モーメントを出力することができる。
【0073】
尚、上記の実施形態では、エルロン103aに対応する油圧システム1について説明したため、機体側油圧源104が第1機体側油圧源104を構成し、機体側油圧源105が第2機体側油圧源105を構成したが、エルロン103bに対応する油圧システム1の場合は、逆の組み合わせとなる。即ち、エルロン103bに対応する油圧システム1の場合は、機体側油圧源104が第2機体側油圧源104を構成し、機体側油圧源105が第1機体側油圧源105を構成することになる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、エレベータ等のエルロン以外の舵面を駆動するアクチュエータを備えてこのアクチュエータに対して圧油を供給する航空機アクチュエータの油圧システムを実施してもよい。また、航空機アクチュエータの油圧システムと機体側油圧源とを接続する油圧回路形態については、種々変更して実施してもよい。また、バックアップ用油圧ポンプの運転を制御するコントローラの形態については、上述の実施形態で例示したフライトコントローラの形態に限らず、種々変更して実施してもよい。また、上述の実施形態では、一対の油室間の差圧を検出する差圧センサが設けられたアクチュエータを例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、一対の油室のそれぞれに対応して各油室内の圧油の圧力を検出する各圧力センサが設けられたアクチュエータを備える油圧システムにおいて、各圧力センサでの検出信号に基づいてその差が検知され、フォースファイトの発生が防止されるように制御される構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータを有するとともにこのアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧システムとして、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0076】
1 航空機アクチュエータの油圧システム
100 航空機
101 機体
102a 主翼(翼)
103a エルロン(舵面)
104 機体側油圧源(第1機体側油圧源)
104a 機体側油圧ポンプ(第1機体側油圧ポンプ)
105 機体側油圧源(第2機体側油圧源)
105a 機体側油圧ポンプ(第2機体側油圧ポンプ)
14a アクチュエータ(第1アクチュエータ)
14b アクチュエータ(第2アクチュエータ)
18 バックアップ用油圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータを有するとともにこのアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧システムであって、
前記アクチュエータとして設けられ、前記航空機の機体側に設置されるとともに第1機体側油圧ポンプを有する第1の油圧源である第1機体側油圧源からの圧油が供給されることで作動し、前記舵面を駆動する第1アクチュエータと、
前記アクチュエータとして設けられ、前記航空機の機体側に設置されるとともに第2機体側油圧ポンプを有する第2の油圧源である第2機体側油圧源からの圧油が供給されることで作動し、前記舵面を駆動する第2アクチュエータと、
前記航空機の翼の内部に配置され、前記第1機体側油圧源及び前記第2機体側油圧源のうちの少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が発生したときに前記第1アクチュエータに対して圧油を供給可能なバックアップ用油圧ポンプと、
を備え、
前記バックアップ用油圧ポンプは、最大吐出圧力が、前記第1機体側油圧ポンプ及び前記第2機体側油圧ポンプの最大吐出圧力よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧システム。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機アクチュエータの油圧システムであって、
前記第1機体側油圧源及び前記第2機体側油圧源のうちの少なくともいずれかの機能の喪失又は低下が発生したときに、前記バックアップ用油圧ポンプの運転が行われるように当該バックアップ用油圧ポンプを制御するコントローラを更に備え、
前記コントローラは、前記第1機体側油圧源及び前記第2機体側油圧源の機能の喪失及び低下が発生していない通常運転時において、前記舵面の駆動に必要なモーメントが前記第1機体側油圧源からの圧油で作動する前記第1アクチュエータ及び前記第2機体側油圧源からの圧油で作動する前記第2アクチュエータが発生可能な所定の駆動モーメントを上回る高出力条件が成立したときにも、前記バックアップ用油圧ポンプの運転が行われるように当該バックアップ用油圧ポンプを制御することを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116466(P2012−116466A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210135(P2011−210135)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】