説明

航空機推進システムおよびそのシステムを制御する方法

【課題】チョーキングを起こしにくく、雑音レベルの低い、航空機推進システムを提供すること。
【解決手段】航空機推進システムは、回転軸周りに回転可能であり、複数の羽根を備える推進ロータ組立体と、推進ロータ組立体に隣接して配置され、回転軸周りに円周方向に配列される、回転方向に固定された翼板組立体とを有する。空気流が推進ロータ組立体に入ると、空気流の一部は、空気流をロータ羽根から離れるように案内し、それにより、ロータ羽根に対する、方向を変えられた空気流の相対速度を低減させるように構成される翼板組立体の上を通り過ぎる。このことは、推進ロータ組立体を通る空気流がチョークされる傾向を低減させる結果をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機推進システム、特に、しかし排他的でなく、二重反転プロペラまたはオープンロータによって一般的に特徴付けられる、プロップファンタイプまたはアンダクテッドファン(unducted fan)タイプのエンジンを利用する航空機推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のターボファンエンジンのバイパス比を増加させることで、その燃料消費量および結果的にCO排出のレベルを低減することができることが知られている。この特性は、現代のターボファンエンジンのバイパス比を漸次増加させることで、エンジン製造者によって利用されてきた。
【0003】
しかし、最終的には、必要なエンジンナセルの大きさに付随する重量および抵抗(drag)による不利益が燃料消費量の低減を上回るので、バイパス比がどれだけ増加されうるかに対しては、限界が存在する。
【0004】
高バイパスターボファンエンジンに変わるものが、オープンロータエンジンまたはアンダクテッドファンエンジンであり、そこでは、ロータまたはファンは、ナセル内に収容されない。このことは、ファンまたはプロペラが、直径においてより大きくなることを可能にし、そのことが、バイパス比を増加させると同時に、重くて抵抗を誘発するナセルの必要性をなくす。
【0005】
このことが、結果として、オープンロータエンジンが著しく少ない燃料で(いくつかの例では30%まで)燃焼することを可能にし、従来のターボファンエンジンと比較した場合に、付随する排出の低減を提供する。
【0006】
オープンロータエンジンは、ターボプロップエンジンに類似するが、ターボプロップエンジンより高い巡航速度で効率的に動作するように設計される。ターボプロップエンジンとオープンロータエンジンとの間の主要な違いは、オープンロータエンジンのプロペラ羽根が、ターボプロップエンジンの羽根より高い剛率(solidity)(一般に、より多数のプロペラ羽根に基づく)を有することである。加えて、ターボプロップエンジンとは対照的に、オープンロータエンジンは、エンジンのコア排気からその全推力の一部を発生する。
【0007】
オープンロータエンジンに伴う問題は、オープンロータエンジンが、ファンからの雑音(noise)がナセルで覆われて防音される従来のターボファンエンジンより高い雑音レベルを発生することである。
【0008】
雑音は、二重反転のロータ組立体を備える好ましいオープンロータ装置において、特別な関心事である。第1の(上流の)ロータで生み出された後流は、後の(下流の)ロータで「切り刻まれる(chopped)」。前部ロータと後部ロータとの間の後流の相互作用によって放出される雑音の強度は、前部ロータ羽根で生み出される後流の強さに比例する。前部ロータの羽根で生み出される後流の強さは、各個別の羽根によって発生される荷重(loading)または揚力(lift)を減少させることによって低減されうる。このことは、前部ロータ羽根の数を増加させることによって、エンジンで生み出される推力を弱めることなく達成可能であり、すなわち同じ合計エンジン推力を生み出すために、各ロータ羽根に必要とされる揚力は、より少ない。
【0009】
オープンロータエンジン装置では、前部ロータは、航空機の前方飛行速度に等しい軸方向のマッハ数を受ける。ロータの回転速度と組み合わされた高い入口速度は、2つの隣接するロータ羽根の間の通路に入る空気がさらに高い相対マッハ数(約マッハ0.8)を有する結果をもたらす可能性がある。このことは、オープンロータを通る流れのレジームがチョーキング(choking;換言すれば、流れの閉そく)を引き起こす結果をもたらす可能性がある。
【0010】
従来のターボファンエンジンでは、ナセルおよびファンへの吸気部が流れを拡散させ、それにより、入口流れのマッハ数は、巡航状態(cruise condition)にあるときは航空機の飛行速度より小さいが、離陸または着陸においては航空機の飛行速度より大きい。それゆえ、そのようなエンジンにおいては、ファン羽根のチョーキングの問題は一般に発生しない。
【0011】
チョークマージン(choke margin)という用語が、しばしば、ロータのチョークポイント(choke point)に対する流れの状態の範囲を説明するために使用される。これは、以下のように定義されうる:
【0012】
【数1】

【0013】
ロータ羽根に対する付加的な制約は、ロータ羽根が、鳥の衝突に対する必要条件を満たすのに必要な構造強度をもたらすために、最小厚さを有する必要があることである。この必要とされる最小厚さは、2つの隣接する羽根の間の面積(のど面積(throat area))の大きさに、上限を加える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
高い相対入口マッハ数、および必要とされる最小羽根厚さによって加えられる、のど面積における制約は、ロータを通る空気流がチョークされる結果をもたらす可能性がある。チョーキングは、羽根の内側部分の上で特によく発生する。というのは、この領域では、のど面積が最も小さく、羽根が最も厚いからである。それゆえ、流れがチョークされるのを回避するために、多くの場合、ロータの羽根の数を制限することが必要である。しかし、ロータ雑音を低減させるためには、ロータの羽根の数を増加させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、回転軸周りに回転可能で、複数の第1のロータ羽根を備える第1の推進ロータ組立体と、回転軸周りに回転方向に固定され、第1のロータ組立体に隣接して配置され、回転軸周りに円周方向に配列される第1の翼板組立体とを備え、第1の翼板組立体が、第1の推進ロータ組立体に入る空気流を方向づけし、第1のロータ羽根に対して、再度方向づけされた空気流の速度を低減させるように構成される、航空機推進システムが提供される。
【0016】
本発明の一実施形態では、翼板組立体が、空気流の方向を変え、空気流が第1のロータ組立体のロータ羽根のそれぞれとよりよく整列されるように構成される。このことが第1のロータ組立体に入る空気流の相対速度ベクトルの大きさを減少させ、方向を変える。
【0017】
第1のロータ組立体の羽根の上の空気流の相対速度の低減が、2つの隣接するロータ羽根の間の通路に入る空気流の相対マッハ数を低減させることにより、ロータのチョークマージンを改善する。このことが、ロータの羽根数を増加させることを可能にし、そのことが、システムの総合効率を改善しながらさらに、放出される雑音レベルを低減する。
【0018】
また、相対速度ベクトルの方向の変化が、ロータの内側部分のねじれが戻る(untwisting)のを可能にする。言い換えると、羽根のエアロフォイル断面は、ロータ組立体の回転軸とより密接に整列されうる。このことは、2つの隣接するロータ羽根の間ののど面積を増加させ、そのことが、チョークマージンをさらに改善する結果をもたらす。
【0019】
任意選択で、航空機推進システムは、複数の第2のロータ羽根を備え、第1の推進ロータ組立体における、第1の翼板組立体に対する反対側に設置され、回転軸周りに回転可能な第2の推進ロータ組立体をさらに備える。
【0020】
任意選択で、第1の推進ロータ組立体および第2の推進ロータ組立体は、互いに反対方向に回転する。
任意選択で、第1の翼板組立体は複数の翼板を備え、複数の翼板のうちの少なくとも1つは、エアロフォイルとして形成される。
【0021】
翼板をエアロフォイルとして形成することによって、到来する空気流は、より容易に方向を変えられ、相対速度ベクトルの方向および大きさを変えることができる。
本発明の一実施形態では、翼板のスパンは、ロータ羽根のスパンより小さい。
【0022】
本発明の他の実施形態では、翼板は、ロータ羽根のスパンとほぼ同じスパンを有してよい。
本発明の別の実施形態では、翼板は、それらのスパンに沿ってねじられてよい。
【0023】
任意選択で、複数の翼板が、回転軸周りに非対称的に配列される。
翼板を回転軸周りに非対称的に配列することによって、例えば、エンジン搭載パイロンから伝播する後流など、エンジン設置がロータに与える影響を緩和することができる。
【0024】
任意選択で、複数の翼板のそれぞれは、隣接する翼板の対応するスパン、翼弦、キャンバー、円周方向の傾き(lean)、または後退角(sweep)とは異なるスパン、翼弦、キャンバー、円周方向の傾き、または後退角のうちの少なくとも1つを有する。
【0025】
オープンロータファンエンジンが航空機に搭載されると、エンジン組立体周りの流れ場は、一般に、例えばエンジン搭載パイロンの影響を受ける結果として非対称的になる。
1つまたは複数の翼板の幾何学形状を変えることによって、ロータ組立体に入る空気流を非対称的に修正し、エンジンパイロンの影響を補償することが可能になる。チョークマージンにおける改善をもたらすことに加えて、そのような非対称的翼板配列もまた、羽根が、周期的に変化する流れ場を通過する必要性を低減することによって、雑音の低減をもたらす。
【0026】
任意選択で、複数の翼板のうちの1つまたは複数が、1つまたは複数の翼板の半径方向最外側部に形成される小翼を備える。
翼板の先端に形成される小翼の使用は、翼板による先端の渦の強さを低減することを助ける。翼板先端の渦の強さを低減することで、ロータと渦との相互作用で引き起こされる雑音が低減する。渦の影響を制限することによって、ロータ内への空気流が平滑化され、そのことが、結果としてチョークマージンを改善し、それゆえロータ組立体の空気力学的効率を改善することができる。
【0027】
任意選択で、複数の翼板のうちの1つまたは複数が、個別の1つまたは複数の可変ピッチ翼板を備える。
翼板のピッチを変える能力は、ロータを横切る空気流が修正される度合いが、推進システムの動作状態に応じて変えられることを可能にする。
【0028】
それゆえ、翼板のピッチは、飛行速度の変化に対処するために、ロータ羽根のピッチに合わせて調整される。例えば、チョーキングは、より高い飛行マッハ数による巡航状態においてより問題となるので、飛行エンベロープのこの部分は、ロータおよび翼板のより大きなピッチ角調整を必要とする可能性がある。
【0029】
任意選択で、航空機推進システムは、1つまたは複数の可変ピッチ翼板のそれぞれのピッチを集合的に変えるように動作可能な翼板制御モジュールをさらに備える。
任意選択で、航空機推進システムは、少なくとも1つの翼板が少なくとも部分的に筐体の中に収容される第1の収容位置と、少なくとも1つの翼板が筐体から突出して、第1の推進ロータ組立体に入る空気流の中に延びる第2の展開位置との間で、複数の翼板のうちの少なくとも1つが移動可能である筐体をさらに備える。
【0030】
翼板が必要でないときに翼板を後退させることによって、空力抵抗の低減を達成し、推進システムをより効率的にさせることができる。
任意選択で、航空機推進システムは、回転軸周りに回転方向に固定され、回転軸周りに円周方向に配列され、第1の推進ロータと第2の推進ロータとの間に設置される第2の翼板組立体をさらに備え、第2の翼板組立体は、第1の推進ロータ組立体を出る空気流を方向づけし、第2のロータ羽根の表面に対して、再度方向づけされた空気流の速度を低減させるように構成される。
【0031】
第2の翼板組立体は、前部ロータと後部ロータとの間のナセルに搭載され、回転軸周りに円周方向に配列されてよい。第2の翼板組立体は、第1のロータ組立体を出る高度に旋回する流れを受けて、この渦の一部を取り除き、それにより、第2のロータ組立体に入る空気流の相対速度(およびそれゆえ相対マッハ数)が低減される。第2の翼板組立体は、第1の翼板組立体を伴って実施されてよく、または伴わずに実施されてよい。
【0032】
本発明の第2の態様によれば、回転軸周りに回転可能であり、複数の第1のロータ羽根を備える第1の推進ロータ組立体と、第1の推進ロータ組立体に隣接して配置され、回転軸周りに円周方向に配列された複数の翼板とを備え、複数の翼板が、第1の推進ロータ組立体に入る空気流を方向づけし、第1のロータ羽根に対して、再度方向づけされた空気流の速度を低減させるように構成される、航空機推進システムを制御する方法が提供され、方法は、複数の翼板のピッチを集合的に(collectively)変化させるステップを含む。
【0033】
任意選択で、航空機推進システムが筐体をさらに備え、複数の翼板が少なくとも部分的に筐体の中に収容され、方法が追加の初期ステップ:複数の翼板のそれぞれを、第1の収容位置から、各翼板が筐体から第1の推進ロータ組立体に入る空気流の中に延びる第2の展開位置まで移動させるステップ、を含む。
【0034】
任意選択で、方法は、複数の翼板のそれぞれを収容位置から展開位置まで半径方向に延ばすステップを含む。
任意選択で、方法は、複数の翼板のそれぞれを収容位置から展開位置まで回転させるステップを含む。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、回転軸周りに回転可能な第1の推進ロータ組立体と、第1の推進ロータ組立体に隣接して設置され、回転軸周りに円周方向に配列される、回転方向に固定された第1の翼板組立体とを含む航空機推進システムを備えるナセルが提供され、ナセルの軸線は、回転軸と整列される。
【0036】
本発明の第4の態様によれば、複数のロータ羽根を有し、回転軸周りに回転可能な少なくとも1つの推進ロータ組立体を備える航空機推進システムによって放射される雑音を低減させる方法であって、ロータ羽根の上の空気流の速度を低減させ、ロータ入口のマッハ数を低減させるように、複数の翼板を、回転軸周りに円周方向配列で取り付けるステップと、使用時にロータ組立体によって発生する雑音を低減させるように、推進ロータ組立体を、少なくとも1つの追加のロータ羽根を加えることによって修正するステップとを含む、方法が提供される。
【0037】
次に、非限定的な例による本発明の一実施形態が、添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来のオープンロータのターボファン航空機エンジンの概略的断面図である。
【図2】図1の従来技術のエンジンのオープンロータ羽根の上の空気流を表示する線図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による、オープンロータのターボファン航空機エンジンの概略的断面図である。
【図4a】翼板およびロータ羽根を示す図3のエンジンの部分断面図である。
【図4b】図3の実施形態の翼板の平面図である。
【図5】図3のエンジンのオープンロータ羽根の上の空気流を表示する線図である。
【図6a】図3の実施形態による、翼板組立体の対称的配列を示すエンジンナセルの概略的立面図である。
【図6b】図3の実施形態による、翼組立体の非対称的配列を示すナセルの概略的立面図である。
【図6c】図3の実施形態による、非対称的配列の翼板組立体を有する、パイロンで搭載されたナセルを有する航空機の概略的立面図である。
【図7】図3の実施形態の翼板の概略的斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による、オープンロータのターボファン航空機エンジンの概略的断面図である。
【図9】半径方向に展開可能な翼板組立体を有し、部分的に半径方向に後退された位置にある1つの翼板を示す、図8のエンジンの概略的な部分断面図である。
【図10a】翼板組立体が回転可能に後退可能であり、後退された位置にある翼板を示すエンジンナセルの一部の概略的立面図である。
【図10b】延ばされた位置にある図10aの翼板組立体を示す図である。
【図11】回転可能に後退可能な翼板組立体を有し、後退された翼板によって形作られるナセルを示す、図8のエンジンの概略的な部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1を参照すると、従来のオープンロータのターボファンエンジン組立体が、全体的に参照数字10で示される。
オープンロータエンジン組立体10は、エンジンコア12、コア空気流16を外部空気流18から分離するナセル14、複数の第1のロータ羽根22を備える第1のロータ組立体20、および複数の第2のロータ羽根82を備える第2のロータ組立体80を備える。
【0040】
第1および第2の両ロータ組立体20、80は、回転軸24周りに回転する。
所与の飛行状態に対して、外部空気流18の速度は、図1に示されるように、第1のロータ20のスパンの一部の上にチョーク領域26を形成させるのに十分である。
【0041】
図2は、エンジン組立体10の第1のロータ組立体20に入る空気流18を、図の形で示す。速度三角形30が、所与のロータ半径28における空気流18のベクトル成分を表す。
【0042】
円周方向のロータ速度を表す回転方向速度ベクトル32が、航空機の軸方向の飛行速度を表す軸方向の速度ベクトル34に加えられ、軸方向の速度ベクトル34に対して角度38に向けられる相対速度ベクトル36を生成する。
【0043】
相対速度ベクトル36は、軸方向の速度ベクトル34より大きさが大である。このことは、ロータ羽根断面の平面内の空気流の速度が、ロータ軸に沿う空気流の速度より大きいことを意味する。
【0044】
空気流速度は、よく知られている関係:
【0045】
【数2】

【0046】
によってマッハ数に変換されてよく、ここで、
M=マッハ数;
v=空気流速度;
γ=比熱比;
R=一般気体定数;および
T=絶対温度
である。
【0047】
第1のロータ羽根22のそれぞれは、最大厚さ42を有し、相対速度ベクトル36とほぼ整列される、エアロフォイル形の断面プロフィール23を有する。第1のロータ羽根断面23の整列角度は、食い違い角(stagger angle)40と称される。
【0048】
最大厚さ42は、エンジン組立体10の動作上の完全性(operational integrity)を損なうことなく、飛行中の鳥の衝突に耐えうるロータ羽根22に対する構造的必要条件によって、主として決定される。
【0049】
第1のロータ羽根22の相対的間隔が、隣接する前部ロータ羽根22の間に通路44を形成し、のど面積48として画定されるより小さい最小面積まで細くなる入口面積46を有する。厚さ42と食い違い角40との組合せにおけるエアロフォイルプロフィール形を選択することで、のど面積48の大きさが決定される。
【0050】
所与のマッハ数においてチョーキング状態を発生させる、のど面積48に対する入口面積46の比が、知られている圧縮性流れの関係:
【0051】
【数3】

【0052】
によって支配される。ここで、
A=入口面積;
=チョーキングが発生するのど面積;
M=ロータへの入口46における相対マッハ数;および
γ=比熱比
である。
【0053】
第1のロータ20に対して、のど面積48に対する入口面積46の比が、飛行状態における相対入口マッハ数に対するA/Aより大きいならば、すなわち
【0054】
【数4】

【0055】
であるならば、チョーキングが発生する。このことは、効率の損失、抵抗の増加、およびエンジンが与えうる推力の限界を結果としてもたらす。したがって、チョーキングは、相対マッハ数および面積比
【0056】
【数5】

【0057】
によって影響を受ける。
図3を参照すると、本発明の一実施形態によるオープンロータエンジン組立体が、全体として参照番号100で示される。参照を容易にするために、エンジン組立体10の特徴に対応するエンジン組立体100の特徴は、対応する参照番号を与えられている。
【0058】
エンジン組立体100は、エンジン組立体10の特徴のすべてを含み、複数の第1の翼板62を備える第1の翼板組立体60の付加を伴う。第1の翼板組立体60は、ナセル14上に搭載され、回転軸24周りに円周方向に配列される。
【0059】
図4aに示されるように、第1の翼板62は、チョーキングまたはチョークマージンが問題となる領域26をわずかに超えて延びるスパン63を有する。第1の翼板62の断面プロフィール64は、ロータ羽根入口マッハ数とスパン63の中の任意の所与の点における面積比との望ましい組合せを達成するために、速度線図(図5参照)を使用することによって適切に設計されてよい。
【0060】
第1のロータ20のチョーク領域26を超えて延びる、第1の翼板62の先端断面66(図4b参照)は、翼板の先端において非常にわずかな揚力を生み出すように、または全く揚力を生み出さないように、ゼロのキャンバーで設計されてよい。ゼロの揚力を保持するようにエアロフォイルの先端領域65を設計することで、翼の自由端において発生することが知られている先端渦の影響が制限される。第1の翼板62によって発生されうる先端渦の強さを軽減する、他の知られている方法、小翼または楕円平面の成形など、が利用されてよい。
【0061】
図5は、エンジン組立体100の第1の翼板62および第1のロータ組立体20を通る空気流18を、線図の形で示す。速度三角形130は、ロータ半径28における空気流18の成分を、ベクトルの形で表す。
【0062】
第1の翼板組立体60に入る、軸方向の速度ベクトル34で表される自由流の空気流18は、第1の翼板62による小角度150を介して方向を変えられる。図5に示されるように、第1の翼板62は、エアロフォイル形の断面プロフィール64を有する。
【0063】
翼板断面64の上を通り過ぎると、空気流は、翼板出口速度ベクトル134を有する。第1のロータ20の回転方向速度ベクトル32は、翼板出口速度ベクトル134と結合して、軸方向の速度ベクトル34に対して角度138で向けられる、新しい相対入口速度ベクトル136を生成する。
【0064】
新しい相対入口速度ベクトル136は、エンジン10(すなわち、第1の翼板組立体60を持たない)に対して、対応する相対入口速度ベクトル36より大きさが小さい。加えて、相対入口速度ベクトル136は、対応する相対入口速度ベクトル36よりも、より軸方向に回転軸24と整列される(すなわち、角度138は角度38より小さい)。
【0065】
エンジン100のロータ断面23は、新しい相対入口速度ベクトル136とほぼ整列され、新しい食い違い角140を生成する。
この新しい食い違い角140は、エンジン10における対応する食い違い角40より小さく、そのことが、通路44が新しい入口面積146およびのど面積148を有する結果をもたらす。
【0066】
上で説明されたように、エンジン100の羽根断面23は、エンジン10の対応する羽根断面23よりも、より軸方向に整列されるので、のど面積148は、エンジン10ののど面積48より大きくなりうる。このことが、通路44を通る空気流の速度を低下させ、そのことが、空気流の相対マッハ数を減少させる効果を有する。
【0067】
相対マッハ数におけるこの減少が、のど面積148の増加と併せて、チョークマージンにおける改善を結果としてもたらす。
本発明は、例えば、
【0068】
【数6】

【0069】
または
【0070】
【数7】

【0071】
の比を減少させることによって、羽根の通路の中のチョーキングを排除することなく、性能上の利点をエンジンにもたらすことができることに留意されたい。この状況では、式(1)によるチョークマージンの値はゼロとなり、すなわち翼板が存在せず、流れがチョークされる場合と同じである。しかし、翼板はやはり、羽根通路に対してマッハ数を減少させ、そのことが、結果として、通路ののどにおいて形成する衝撃の強さを減少させる。より弱い衝撃が、より少ない空力的損失を生み出し、それゆえシステム性能が改善される。
【0072】
本発明の代替実施形態(図6a、図6bおよび図6c参照)では、ナセル14上に円周方向に配列される個別の第1の翼板62は、それぞれ、エンジンナセル14周りに非対称的流れ場を提供するために、互いに異なる形状を有することができる。
【0073】
この非対称的流れ場は、空気流が、エンジン軸24に対して対称的に配置されない航空機構造物160の上を通り過ぎることによって生じる。オープンロータエンジン10によって経験される、流れ18に与える1つの主要な影響は、前部ロータ組立体20の入口平面付近に強い後流を生成する、エンジン搭載パイロン162によって引き起こされる影響である。
【0074】
エンジン周りの空気流における速度場は、当技術分野で知られている近代的な計算方法を使用し、これらの設置物の影響を明らかにして解析されうる。そのような解析に基づいて、個別の第1の翼板62のスパン63、翼弦67、スタック(stack)68、キャンバー69および後退角70(図7参照)が、当業者によって適切に選択されうる。
【0075】
図6aは、それぞれが共通の形状を有する、軸対称分配の翼板62を示すエンジンナセル14の概略的立面図を示す。
図6bは、図6aに類似するが、非軸対称分配の翼板62を有する図を示し、また、多様な形状を有する翼板62を示す。形状におけるこの変化は、例えば、より大きなスパンを有する翼板170、より小さなスパンの172、変化するスタック(円周方向の傾き180、182として示される)、および小翼190、192の追加を含んでよい。
【0076】
図6cは、個別のパイロン162に搭載された2つのオープンロータエンジン100を有する航空機160の概略的断面図を示す。エンジン100は、第1のロータ組立体20の上流である、図6bに示されるもののような非軸対称配列の第1の翼板62を組み込む。図6cは、プッシャータイプ(pusher-type)およびプーラータイプ(puller-type)の両タイプのオープンロータ配列を表す。
【0077】
他の実施形態(図10a、図10bおよび図11)では、第1の翼板62のそれぞれは、展開可能である。言い換えると、例えば、低速飛行動作の間、空気力学的利益を第1のロータ20にもたらさない飛行エンベロープの部分に対して、翼板62がナセルの中に後退されてよい。次いで、例えば巡航高度における飛行など、翼板が有益である飛行エンベロープの部分に対して、翼板62が延ばされてよい。
【0078】
一構成では、第1の翼板62は、ナセル14の外面内に完全に、またはほぼ完全に収容される後退された位置から、半径方向に延ばされてよい。例えば油圧シリンダまたは電気モータなど、なんらかの適切な作動機構(図示されず)が、翼板62を延ばすためおよび後退させるために使用されてよい。
【0079】
代替構成(図10aおよび図10bに示される)では、第1の翼板62は、ナセル構造351に接続された枢動軸350に、蝶番で留められてよい。翼板62は、作動装置352によって翼板62を円周方向に枢動させることによって後退されてよい。この構成では、翼板がその後退された位置にあるとき、翼板表面355のうちの1つが、ナセル14の外面353と同一平面にある状態を維持する。
【0080】
そのような実施形態では、第1の翼板62は、枢動軸350付近で翼板62にほぼ垂直に延びるように配列されるナセルフィラー(filler)354に取り付けられてよい。その結果、翼板62が図10bに示されるように延ばされる時、ナセルフィラー354が回転してナセル表面353と同一平面になり、延ばされた翼板62によって残された空所を満たす。例えば滑動パネルなど、他の手段もまた、この空所を満たすために使用されてよい。
【0081】
図10aおよび図11で例示される、この実施形態の変形形態では、回転可能に展開可能な第1の翼板62の表面355が、翼板がそれらの後退された位置にあるときに、ナセル14の外面353を超えて突出する。この配列では、入口流れ18に曝される翼板62の表面355は、第1のロータ20に入る流れ18に空気力学的利益をもたらすように適切に形作られる(すなわち、ナセル成形(nacelle shaping))。
【0082】
さらに別の実施形態(図示されず)では、第1の翼板62は、可変ピッチを有するように構成されてよい。可変ピッチは、翼板62が入口空気流18を修正し、それにより、もたらされる入口流れの速度ベクトル136が、例えば離陸、上昇および巡航など、航空機の動作状態の範囲に対して最適化されることを可能にする。翼板62のピッチにおけるこの変化は、ロータ羽根22のピッチ角における変化と関係づけられてよく、または関係づけられなくてよい。
【0083】
図8を参照すると、本発明の第2の実施形態によるオープンロータエンジン組立体は、全体として参照番号200で示される。エンジン組立体100の特徴に対応するエンジン組立体200の特徴は、参照を容易にするために、対応する参照番号を与えられている。
【0084】
エンジン組立体200は、エンジン組立体100の特徴をすべて含み、複数の第2の翼板162を備える第2の翼板組立体90の付加を伴う。第2の翼板組立体90は、第1のロータ組立体20と第2のロータ組立体80との間でナセル14上に搭載され、回転軸24周りに円周方向に配列される。
【0085】
本発明は、その本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形態において具現化されてよい。説明された実施形態は、あらゆる点で、制限的ではなく単に例示であるものとみなされるべきである。それゆえ、本発明の範囲は、前の説明によるのではなく、添付される特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の等価物の意味および範囲の中に入るすべての変化は、特許請求の範囲の中に包含される。
【符号の説明】
【0086】
10 オープンロータターボファンエンジン組立体
12 エンジンコア
14 ナセル
16 コア空気流
18 外部空気流
20 第1のロータ組立体
22 第1のロータ羽根
23 第1のロータ羽根断面プロフィール
24 回転軸
26 チョーク領域
28 所与のロータ半径
30 速度三角形
32 回転方向速度ベクトル
34 軸方向の速度ベクトル
36 相対速度ベクトル
38 角度
40 食い違い角
42 最大厚さ
44 通路
46 入口面積
48 のど面積
60 第1の翼板組立体
62 第1の翼板
63 スパン
64 第1の翼板62の断面プロフィール
65 エアロフォイルの先端領域
66 第1の翼板62の先端断面
67 翼弦
68 スタック
69 キャンバー
70 後退角
80 第2のロータ組立体
82 第2のロータ羽根
90 第2の翼板組立体
100 エンジン組立体
130 速度三角形
134 翼板出口速度ベクトル
136 相対入口速度ベクトル
138 角度
140 食い違い角
146 入口面積
148 のど面積
150 第1の翼板62による小角度
160 航空機構造物
162 エンジン搭載パイロン
170 翼板
172 より小さなスパン
180 円周方向の傾斜
182 円周方向の傾斜
190 小翼
192 小翼
200 エンジン組立体
350 枢動軸
351 ナセル構造
352 作動装置
353 ナセル14の外面
354 ナセルフィラー
355 翼板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(24)周りに回転可能であり、複数の第1のロータ羽根(22)を備える第1の推進ロータ組立体(20)と、
前記回転軸(24)周りに回転方向に固定され、前記第1の推進ロータ組立体(20)に隣接して配置され、前記回転軸(24)周りに円周方向に配列された第1の翼板組立体(60)とを備え、
前記第1の翼板組立体(60)が、前記第1の推進ロータ組立体(20)に入る空気流を方向づけし、前記第1のロータ羽根(22)に対して、再度方向づけされた前記空気流の速度を低減させるように構成される、航空機推進システム。
【請求項2】
複数の第2のロータ羽根(82)を備え、前記第1の推進ロータ組立体(20)における、前記第1の翼板組立体(60)に対する反対側に設置され、前記回転軸(24)周りに回転可能である、第2の推進ロータ組立体(80)をさらに備える、請求項1に記載の航空機推進システム。
【請求項3】
前記第1の推進ロータ組立体(20)および前記第2の推進ロータ組立体(80)が、互いに反対方向に回転する、請求項2に記載の航空機推進システム。
【請求項4】
前記第1の翼板組立体(60)が複数の翼板(62)を備え、前記複数の翼板(62)のうちの少なくとも1つがエアロフォイルとして形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の航空機推進システム。
【請求項5】
前記複数の翼板(62)が、前記回転軸(24)周りに非対称的に配列される、請求項4に記載の航空機推進システム。
【請求項6】
前記複数の翼板(62)のそれぞれが、隣接する翼板(62)の対応するスパン(63)、翼弦(67)、キャンバー(69)、円周方向の傾き、または後退角(70)とは異なるスパン(63)、翼弦(67)、キャンバー(69)、円周方向の傾き、または後退角(70)のうちの少なくとも1つを有する、請求項4または5に記載の航空機推進システム。
【請求項7】
前記複数の翼板(62)のうちの1つまたは複数が、前記翼板(62)の半径方向最外側部に形成される小翼を備える、請求項4から6のいずれか1項に記載の航空機推進システム。
【請求項8】
筐体をさらに備え、
前記複数の翼板(62)のうちの少なくとも1つが、
前記少なくとも1つの翼板(62)が少なくとも部分的に前記筐体の中に収容される第1の収容位置と、
前記少なくとも1つの翼板(62)が前記筐体から突出して前記第1のロータ組立体(20)に入る前記空気流の中に延びる第2の展開位置と
の間で移動可能である、請求項4から7のいずれか1項に記載の航空機推進システム。
【請求項9】
前記回転軸(24)周りに回転方向に固定され、前記回転軸(24)周りに円周方向に配列され、前記第1の推進ロータ組立体(20)と前記第2の推進ロータ組立体(80)との間に設置される第2の翼板組立体(90)をさらに備え、
前記第2の翼板組立体(90)が、前記第1の推進ロータ組立体(20)を出る空気流を方向づけし、前記第2のロータ羽根(82)に対して、再度方向づけされた前記空気流の速度を低減させるように構成される、請求項1から8のいずれか1項に記載の航空機推進システム。
【請求項10】
回転軸(24)周りに回転可能であり、複数の第1のロータ羽根(22)を備える第1の推進ロータ組立体(20)と、前記第1の推進ロータ組立体(20)に隣接して配置され、前記回転軸(24)周りに円周方向に配列される複数の翼板(62)とを備える航空機推進システムを制御する方法であって、
前記第1の推進ロータ組立体(20)に入る空気流を方向づけし、前記第1のロータ羽根(22)に対して、再度方向づけされた前記空気流の速度を低減させるように、前記複数の翼板(62)のピッチを集合的に変化させるステップを含む、方法。
【請求項11】
前記航空機推進システムが筐体をさらに備え、前記複数の翼板(62)が少なくとも部分的に前記筐体の中に収容され、前記方法は、
前記複数の翼板(62)のそれぞれを、第1の収容位置から、各翼板(62)が前記筐体から前記第1のロータ組立体(20)に入る空気流の中に延びる第2の展開位置まで移動させる、追加の初期ステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の翼板(62)のそれぞれを、第1の収容位置から、各翼板(62)が前記筐体から前記第1のロータ組立体(20)に入る空気流の中に延びる第2の展開位置まで移動させる前記ステップが、
前記複数の翼板(62)のそれぞれを、第1の収容位置から、各翼板(62)が前記筐体から前記第1のロータ組立体(20)に入る空気流の中に延びる第2の展開位置まで半径方向に延ばすステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の翼板(62)のそれぞれを、第1の収容位置から、各翼板(62)が前記筐体から前記第1のロータ組立体(20)に入る空気流の中に延びる第2の展開位置まで移動させる前記ステップが、
前記複数の翼板(62)のそれぞれを、第1の収容位置から、各翼板(62)が前記筐体から前記第1のロータ組立体(20)に入る空気流の中に延びる第2の展開位置まで回転させるステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
複数のロータ羽根(22:82)を有し、回転軸(24)周りに回転可能な少なくとも1つの推進ロータ組立体(20:80)を備える航空機推進システムによって発生する雑音を低減させる方法であって、
前記少なくとも1つの推進ロータ組立体(20:80)に入る空気流を方向づけし、前記ロータ羽根(22:82)に対して、再度方向づけされた前記空気流の速度を低減させるように、複数の翼板を前記回転軸(24)周りに円周方向の配列で取り付けるステップと、
使用時に前記推進ロータ組立体(20:80)によって発生する前記雑音を低減させるように、前記推進ロータ組立体(20:80)を、少なくとも1つの追加のロータ羽根(22:82)を加えることによって修正するステップとを含む、方法。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか1項に記載の航空機推進システムを備えるナセル(14)であって、前記ナセル(14)の軸線が前記回転軸(24)に整列される、ナセル(14)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−43635(P2013−43635A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−180422(P2012−180422)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY