説明

舶用推進システム

【課題】船外機が操船者の意思とは関係なく動くことに起因して操船者に違和感を与えてしまうことを抑制することが可能な舶用推進システムを提供する。
【解決手段】船外機300の操舵角を検出する実舵角センサ203と、ハンドルと、ハンドルの回動角の変化量を検出するためのハンドル角センサ104aと、ハンドル角センサ104aの検出値に基づいて操舵制御を行う船体側ECU105とを備えている。船体側ECU105は、操舵制御の開始時において、ハンドルの回動位置と、実舵角センサ203により検出された船外機300の操舵角との関係を初期状態として設定するとともに、初期状態に対するハンドルの回動角の変化量に応じて船外機300の操舵角を変化させるようにモータ202を制御するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、舶用推進システムに関し、特に、ハンドル角センサの検出値に基づいて船外機を回動させるアクチュエータを制御することにより操舵制御を行う舶用推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハンドル角センサの検出値に基づいて船外機を回動させるアクチュエータを電気的に制御することにより操舵制御を行う舶用推進システムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1の舶用推進システムでは、内燃機関の始動時にステアリングホイール(ハンドル)の回転角と実操舵角とを検出するとともに、ステアリングホイールの回転角と実操舵角との間に位相差がある場合には、位相差を解消するようにアクチュエータを制御する位相差解消制御を行っている。この場合、操船者の意思とは関係なく船外機が動くので、操船者に違和感を与える場合がある。そこで、この特許文献1では、操船者に違和感を与えないように、位相差解消制御を実行する際に、位相差の向きや大きさを操船者に報知している。
【0004】
【特許文献1】特開2006−188212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のように位相差の向きや大きさを操船者に報知したとしても、操船者の意思とは関係なく船外機が動くことに変わりはないので、操船者に違和感がある程度残ってしまうという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ハンドルの回転角と船外機の操舵角との間に位相差がある場合にも、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことに起因して操船者に違和感を与えてしまうことを抑制することが可能な舶用推進システムを提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この発明の一の局面による舶用推進システムは、船体と、船体に取り付けられた船外機と、操舵時に船外機を回動させるアクチュエータと、船外機の操舵角を検出する操舵角センサと、少なくとも1つ設けられ、船外機を操舵するためのハンドルと、ハンドルの回動角の変化量を検出するためのハンドル角センサと、ハンドル角センサの検出値に基づいてアクチュエータを制御することにより操舵制御を行う制御部とを備え、制御部は、操舵制御の開始時または操舵制御の切換時において、ハンドルの回動位置と、操舵角センサにより検出された船外機の操舵角との関係を初期状態として設定するとともに、初期状態に対するハンドルの回動角の変化量、または、ハンドルの回動角の変化速度に応じて船外機の操舵角を変化させるようにアクチュエータを制御するように構成されている。
【0008】
この発明の一の局面による舶用推進システムでは、上記のように、操舵制御の開始時または操舵制御の切換時におけるハンドルの回動角と船外機の操舵角との関係を初期状態として設定することによって、操舵制御の開始時または操舵制御の切換時において、ハンドルの回動角と船外機の操舵角との関係に拘わらず、その状態を初期状態(ハンドルの回動角と船外機の操舵角とに位相差がない状態)とすることができる。これにより、操舵制御の開始時または操舵制御の切換時に、操船者がハンドルを操作していないのにも拘わらずアクチュエータが駆動されることがなくなるので、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことに起因して操船者に違和感を与えてしまうことを抑制することができる。また、初期状態に対するハンドルの回動角の変化量、または、ハンドルの回動角の変化速度に応じて船外機の操舵角を変化させるようにアクチュエータを制御することによって、操舵制御が開始されてから、または、操舵制御の切換が行われてから使用者がハンドルを切った分だけ船外機の操舵角が変更されるので、操船者は、自分の意図通りに操舵することができる。
【0009】
上記一の局面による舶用推進システムにおいて、好ましくは、操舵制御の開始時は、舶用推進システムの電源を入れた時、および、制御部が一時的に停止して復帰した時を含む。このように構成すれば、舶用推進システムの電源がオフの場合や制御部が一時的に停止している間にハンドルの回動角と船外機の操舵角との関係が相対的に変化した場合にも、電源を入れた時または制御部が復帰した時の状態が初期状態として設定されるので、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことを容易に抑制することができる。
【0010】
この場合、好ましくは、制御部は、舶用推進システムの電源を入れる度、および、制御部が一時的に停止して復帰する度に、ハンドルの回動位置と操舵角センサにより検出された船外機の操舵角との関係を初期状態として設定する。このように構成すれば、舶用推進システムの電源を入れる毎または制御部が一時的に停止して復帰する際に、確実に、船外機が勝手に動くことを抑制することができる。
【0011】
上記一の局面による舶用推進システムにおいて、好ましくは、ハンドルは、複数設けられており、操舵制御の切換時は、複数のハンドルのうちの1つに対応する操舵制御が他のハンドルに対応する操舵制御に切り換えられた時を含む。このように構成すれば、複数のハンドルのうちのあるハンドルを用いて操舵していて他のハンドルに切り換えた場合に、ハンドルを切り換えた時に切換後のハンドルの回動角と船外機の操舵角との関係が初期状態として設定されるので、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことを抑制することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、制御部は、複数のハンドルのうちの1つに対応する操舵制御が他のハンドルに対応する操舵制御に切り換えられる度に、ハンドルの回動位置と操舵角センサにより検出された船外機の操舵角との関係を初期状態として設定する。このように構成すれば、操舵制御を切り換える毎に、確実に、船外機が勝手に動くことを抑制することができる。
【0013】
上記ハンドルが複数設けられた構成において、好ましくは、ハンドルは、互いに独立して回動可能な第1ハンドルと第2ハンドルとを含み、ハンドル角センサは、第1ハンドルの回動角の変化量を検出する第1ハンドル角センサと第2ハンドルの回動角の変化量を検出する第2ハンドル角センサとを含み、第1ハンドル角センサの検出値に基づいてアクチュエータを制御する第1操舵制御と、第2ハンドル角センサの検出値に基づいてアクチュエータを制御する第2操舵制御との切換を制御部に指示するための切換部をさらに備え、制御部は、切換部により第1操舵制御から第2操舵制御への切換が指示された場合において、切換時における第2ハンドルの回動位置と船外機の操舵角との関係を初期状態として設定するとともに、初期状態に対する第2ハンドルの回動角の変化量、または、第2ハンドルの回動角の変化速度に応じて船外機の操舵角を変化させるようにアクチュエータを制御するように構成されている。このように構成すれば、第1ハンドルを用いて操舵する第1操舵制御から第2ハンドルを用いて操舵する第2操舵制御に切換部により切換が指示された際に、切換部により切換が指示された時に第2ハンドルの回動角と船外機の操舵角との関係が初期状態として設定されるので、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことを抑制することができる。
【0014】
上記一の局面による舶用推進システムにおいて、好ましくは、操舵制御の停止状態において、船外機の操舵角は維持されるように構成されており、ハンドルは、操舵制御の停止状態において、船外機の操舵角とは無関係に回動可能なように構成されており、制御部は、操舵制御の開始時において、ハンドルの回動位置と、操舵角センサにより検出された船外機の操舵角との関係を対応付けして初期状態を設定するように構成されている。このように構成すれば、操舵制御の停止時においてハンドルが操作されて、操舵制御の停止前は対応していたハンドルの回動角と船外機の操舵角とにずれが生じてしまった場合にも、その状態を初期状態(ハンドルの回動角と船外機の操舵角とに位相差がない状態)とすることができる。これにより、操舵制御の開始時または操舵制御の切換時に、操船者がハンドルを動かしていないのにも拘わらずアクチュエータが自動的に駆動されることがなくなるので、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことに起因して操船者に違和感を与えてしまうことを抑制することができる。
【0015】
上記一の局面による舶用推進システムにおいて、好ましくは、ハンドルの回動をロックするロック機構をさらに備え、制御部は、初期状態に設定されたハンドルの回動位置に拘わらず、操舵角センサにより検出された船外機の操舵角が予め設定された角度範囲外になった場合に、ハンドルをロックするようにロック機構を制御するように構成されている。このように構成すれば、ハンドルの回動位置の初期状態が変わったとしても実舵角に対してハンドルをロックする基準は変わらないので、適切にハンドルのロックを行うことができる。
【0016】
上記一の局面による舶用推進システムにおいて、好ましくは、操舵角センサは、船外機の操舵角を絶対的な角度として検出し、ハンドル角センサは、ハンドルの回動角の変化量を相対的な角度として検出するように構成されている。このように構成すれば、ハンドルの回動角の変化量が相対的な角度として検出されるので、船外機の操舵角とハンドルの回動角との位相差がある状態を初期状態として設定した後に、容易に、初期状態に対するハンドルの回動角の変化量に応じて船外機の操舵角を変化させることができる。
【0017】
上記一の局面による舶用推進システムにおいて、制御部は、操舵制御の開始後、または、操舵制御の切換後において、ハンドルの回動位置と、操舵角センサにより検出された船外機の操舵角との関係を所定の時間毎に初期状態として設定し直すとともに、初期状態に対するハンドルの回動角の変化量、または、ハンドルの回動角の変化速度に応じて船外機の操舵角を変化させるようにアクチュエータを制御するように構成されていてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1〜図3は、本発明の第1実施形態による舶用推進システムの全体構成を示す図である。まず、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態による舶用推進システムの構造を説明する。
【0020】
図1〜図3に示すように、第1実施形態による舶用推進システムは、船体100の船尾101に舵取装置200を介して船外機300が取り付けられることにより構成されている。船体100には、舶用推進システムの電源のオン、オフを切り換えるメインスイッチ102、スロットル開度およびシフトの切換を指示するためのリモコンレバー103、船体100の進行方向を変更するためのハンドル104、及び船外機300の取り付け角度を変えるトリムスイッチ(図示せず)などが設置されている。リモコンレバー103は、レバー103a(図1参照)を回動させることにより、ニュートラル、前進および後進の切換と、アクセル操作とを行うことが可能である。
【0021】
また、ハンドル104は、操舵するために設けられており、舶用推進システムの電源のオフ時には、船外機300の操舵角とは無関係に何回でも回転することが可能に構成されている。ハンドル104には、ハンドル104の回動角度を検出するためのハンドル角センサ104aが設けられている。ハンドル角センサ104aは、ハンドル104の回動角度を基準位置に対する相対角で検出することが可能に構成されている。すなわち、ハンドル角センサ104aは、基準点(0度位置)が固定されておらず、可変の基準点に対する相対的な角度を検出するように構成されている。また、ハンドル104には、操舵時に船外機300の操舵角が最大になった場合に、ハンドル104の回動をロックするロック部104bが設けられている。図示しないが、ロック部104bは磁性流体中にコイルが配置された構造を有しており、コイルに通電することにより磁性流体の粘性を変化させてハンドル104の動きに負荷を与えることによって、ハンドル104をロックするように構成されている。なお、ロック部104bは、本発明の「ロック機構」の一例である。
【0022】
舵取装置200は、ブラケット201を介して船体100の船尾101に取り付けられている。舵取装置200は、操舵時に船外機300を回動させるためのモータ202と、船外機300の回動角度(実舵角)を検出するための実舵角センサ203とを含んでいる。すなわち、船外機300の本体を左右に振る(回動させる)ことによりプロペラ303の向きを変えることによって、そのプロペラ303の推力で船体100が方向を変えるように構成されている。実舵角センサ203は、船外機300の回動角度を絶対角で検出することが可能に構成されている。すなわち、実舵角センサ203は、基準点(0度位置)が固定されており、その基準点に対する角度を検出するように構成されている。なお、モータ202および実舵角センサ203は、それぞれ、本発明の「アクチュエータ」および「操舵角センサ」の一例である。
【0023】
また、船体100には船体側ECU105が搭載されている。なお、船体側ECU105は、本発明の「制御部」の一例である。マイクロコンピュータを含む船体側ECU105は、ハンドル角センサ104aおよび実舵角センサ203からの信号に基づいて、舵取装置200のモータ202およびロック部104bの駆動を制御するように構成されている。第1実施形態では、船体側ECU105において、ハンドル104の回動角の値に応じて船外機300が回動される実舵角の値が対応値として予め設定されている。たとえば、ハンドル104が2回転半(900度)回動された場合に、船外機300が30度回動されるように対応値が設定されている。これらの対応値は、マップにより対応関係が定義されており、このマップは船舶の航走状況(船舶の速度、ハンドル操舵速度、故障検出状態など)に応じて変更されるようにしても良い。または、ハンドル104の回動角の値(または回動速度)に対して、船舶の航走状況(船舶の速度、ハンドル操舵速度、故障検出状態など)を踏まえた特定の演算を行い、船外機300が回動される実舵角の値を設定するようにしても良い。また、リモコンレバー103による、ニュートラル、前進および後進の切換と、アクセル操作とを指示する信号は、船体側ECU105を介して船外機300の船外機側ECU301に送信されるように構成されている。
【0024】
また、メインスイッチ102が押されてシステムがオン状態になった場合に、船体側ECU105は、舵取装置200のモータ202およびロック部104bの駆動の制御を開始するように構成されている。以下、船体側ECU105による舵取装置200のモータ202の制御を操舵制御と呼ぶ。この操舵制御は、船体側ECU105が作動している間は常に実行されている。船体側ECU105(のマイクロコンピュータ)は、メインスイッチ102をオフ状態に操作したときに停止される他、システムに急激な電圧の変化が生じた場合などにも一時的に停止する場合がある。この場合、メインスイッチ102がオンされるか、またはシステムの一時的な停止が復帰した場合に船体側ECU105による操舵制御が再開される。
【0025】
ここで、第1実施形態では、船体側ECU105は、操舵制御が開始された場合、その開始時点におけるハンドル104の回動位置と、船外機300の操舵角との関係を初期状態として設定するように構成されている。すなわち、操舵制御の開始時点のハンドル104の回動位置をハンドル角センサ104aの基準点(0度位置)とするとともに、実舵角センサ203により検出された実舵角をハンドル角センサ104aの基準点と対応付けて記憶するように構成されている。これにより、操舵制御開始時のハンドル104の回転角度と船外機300の実舵角の関係に関わらず、その関係を初期状態として設定し、船体側ECU105に認識させる。この設定処理は操舵制御が開始される毎に毎回行われるように構成されている。
【0026】
また、船体側ECU105は、設定した初期状態に対するハンドル104の回動角の変化量をハンドル角センサ104aからの信号に基づいて認識するとともに、その変化量に応じて船外機300の操舵角を変化させるように舵取装置200のモータ202を制御するように構成されている。
【0027】
また、船外機300は、船体100の船尾101にクランプブラケット201(図2参照)に固定された舵取装置200を介して左右方向に回動可能に取り付けられている。船外機300は、エンジン302と、エンジン302の駆動力により回転するプロペラ303と、前後進切換機構部304とを備えている。前後進切換機構部304は、エンジン302の駆動力をプロペラ303に伝達する伝達状態(前進および後進)と、エンジン302の駆動力をプロペラ303から遮断する遮断状態(ニュートラル)とを切り替えることが可能である。エンジン302の回転および前後進切換機構部4は、船外機側ECU301により制御される。
【0028】
図4は、本発明の第1実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するためのフローチャートである。図5〜図7は、図4に示したフローチャートを説明するための図である。次に、図3〜図7を参照して、本発明の第1実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明する。
【0029】
図5に示すように、メインスイッチ102がオフ状態の場合には、船体側ECU105も作動せず、舵取装置200も作動しないので、船外機300の操舵角は変化しない。その一方、メインスイッチ102がオフ状態の場合には、ハンドル104は自由に回転する状態であるため、船外機300の実舵角(位相)とハンドル104の回動角(位相)との関係が相対的に変化する場合がある。又は、メインスイッチ102がオフ状態ではハンドル104が固定されて回転しないようなシステムであっても、転舵した状態の船外機300を別の船に取り付けたような状態では、船外機300の実舵角とハンドル104の回転角(位相)の関係が相対的に変化する場合がある。図5では、船外機300の実舵角は0度(直進状態)である一方、ハンドル104の回動角は元々の直進位置(D1位置)から変化した旋回位置(R1位置)に位置している。
【0030】
ここで、図6に示すように、メインスイッチ102がオン状態にされると、第1実施形態による操舵制御が開始される。すなわち、図4のステップS1において、船体側ECU105は、実舵角センサ203(図3参照)からの信号に基づいて、船外機300の実舵角を検出する。そして、ステップS2において、船体側ECU105は、ハンドル104の回動位置と、船外機300の操舵角との関係を初期状態として設定する。この場合、船体側ECU105は、操舵制御の開始時点のハンドル104の回動位置をハンドル角センサ104a(図3参照)の基準点(0度位置)とするとともに、実舵角センサ203により検出された実舵角をハンドル角センサ104aの基準点と対応付けて記憶する。具体的には、図5では船外機300の実舵角が0度であるので、ハンドル104の回動角(R1位置)と、船外機300の実舵角(0度)とを対応付けて設定する。これにより、船体側ECU105は、R1位置を船外機300の直進位置(0度)と対応付けて記憶する。これにより、R1位置が新たな直進位置(D2位置)として認識される。以下、メインスイッチ102がオンにされて操舵制御が開始された場合の最初の基準位置を初期基準位置と呼ぶ。
【0031】
この後、ステップS3において、船体側ECU105は、ハンドル角センサ104aからの信号に基づいて、ハンドル104の初期基準位置(D2位置)に対するハンドル角の変化量を検出する。また、ステップS4において、船体側ECU105は、実舵角センサ203からの信号に基づいて、船外機300の実舵角を検出する。そして、ステップS5において、船体側ECU105は、ハンドル角の初期基準位置(D2位置)に対する変化量に対応する角度分、舵取装置200のモータ202を駆動して船外機300を回動させる。図7では、ステップS3において設定した基準位置D2から旋回位置R2までハンドル104が回動されるのに対応して、船外機300が直進位置から旋回位置まで回動している。
【0032】
また、ステップS6において、船体側ECU105は、実舵角が予め設定された所定範囲(船外機300の回動限界範囲)内か否かを判断する。実舵角が所定範囲内(±30度以内)である場合には、ステップS3に戻る。実舵角が所定範囲内(±30度以内)でない場合には、ステップS7において、船体側ECU105は、ロック部104bを駆動することにより、ハンドル104がさらに舵を切る方向に移動しないようにハンドル104をロックする。この後、ステップS3に戻る。操舵制御中においては、ステップS3〜ステップS7が所定の時間毎に繰り返し行われる。
【0033】
また、急激な電圧の変化などにより船体側ECU105が一時的に停止して復帰した場合にも、復帰した時に上記ステップS1〜ステップS7の処理が行われる。
【0034】
第1実施形態では、上記のように、操舵制御の開始時におけるハンドル104の回動角と船外機300の操舵角との関係を初期状態として設定することによって、操舵制御の開始時におけるハンドル104の回動角と船外機300の操舵角との関係を初期状態(ハンドル104の回動角と船外機300の操舵角とに位相差がない状態)とすることができる。これにより、操舵制御の開始時に、操船者がハンドル104を操作していないのにも拘わらず舵取装置200のモータ202が駆動されることがなくなるので、船外機300が操船者の意思とは関係なく動くことに起因して操船者に違和感を与えてしまうことを抑制することができる。また、初期状態に対するハンドル104の回動角の変化量に応じて船外機300の操舵角を変化させるように舵取装置200のモータ202を制御することによって、操舵制御が開始されてから使用者がハンドル104を切った分だけ船外機300の操舵角が変更されるので、操船者は、自分の意図通りに操舵することができる。
【0035】
また、第1実施形態では、上記のように、実舵角センサ203により船外機の操舵角を絶対的な角度として検出するとともに、ハンドル角センサ104aによりハンドル104の回動角の変化量を相対的な角度として検出することによって、ハンドル104の回動角の変化量が相対的な角度として検出される。このため、船外機300の操舵角とハンドル104の回動角との位相差がある状態を初期状態として設定した後に、容易に、初期状態に対するハンドル104の回動角の変化量に応じて船外機300の操舵角を変化させることができる。
【0036】
また、第1実施形態では、上記のように、ハンドル104の操舵中に船体側ECU105が一時停止して復帰した場合に、操舵制御の開始時におけるハンドル104の回動角と船外機300の操舵角との関係を初期状態として設定することによって、船体側ECU105が停止した時の船外機300の操舵角が船体側ECU105の停止中は保持される。また、船体側ECU105が復帰した時にハンドル104が停止時点からさらに回動されていたとしても、船体側ECU105の停止中のハンドル104の回動分は船外機300の動作に表れないようにすることができる。これにより、従来技術のように船体側ECU105の停止中のハンドル104の回動量分が船外機300の動作に反映される場合と異なり、第1実施形態では、船体側ECU105の復帰時に船外機300が操船者の意図とは関係なく動くことを抑制することができる。
【0037】
また、第1実施形態では、上記のように、初期状態に設定されたハンドル104の回動位置に拘わらず、実舵角センサ203により検出された船外機300の操舵角が予め設定された角度範囲から出た場合にハンドル104をロックすることによって、ハンドル104の回動位置の初期状態が変わったとしても実舵角に対してハンドル104をロックする基準は変わらないので、適切にハンドル104のロックを行うことができる。
【0038】
(第2実施形態)
図8および図9は、本発明の第2実施形態による舶用推進システムの全体構成を示す図である。この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、船を操縦するためのハンドルが2つ設けられた例について説明する。まず、図8および図9を参照して、本発明の第2実施形態による舶用推進システムの構造を説明する。
【0039】
図8および図9に示すように、第2実施形態による舶用推進システムは、船体100の船尾101に2つの舵取装置200aおよび200bをそれぞれ介して2つの船外機300aおよび300bが取り付けられることにより構成されている。船体100には、船を操縦するためのメインステーション400と、メインステーション400の上方に配置され、船を操縦するためのサブステーション500とが設けられている。
【0040】
メインステーション400には、舶用推進システムの電源のオンおよびオフを切り換えるメインスイッチ401、スロットル開度およびシフトの切換を指示するためのリモコンレバー402、船体100の進行方向を変更するためのハンドル403、および、サブステーション500による操舵制御からメインステーション400による操舵制御に切り換えるための切換スイッチ404などが設置されている。ハンドル403には、ハンドル403の回動角度を検出するためのハンドル角センサ403aと、ハンドル403の回動をロックするロック部403bとが設けられている。なお、メインステーション400のメインスイッチ401、リモコンレバー402、ハンドル403、ハンドル角センサ403aおよびロック部403bは、それぞれ、上記第1実施形態のメインスイッチ102、リモコンレバー103、ハンドル104、ハンドル角センサ104aおよびロック部104bと同様の構造を有している。また、ハンドル403は、本発明の「第1ハンドル」または「第2ハンドル」の一例であり、ハンドル角センサ403aは、本発明の「第1ハンドル角センサ」または「第2ハンドル角センサ」の一例であり、切換スイッチ404は、本発明の「切換部」の一例である。
【0041】
サブステーション500には、メインステーション400による操舵制御からサブステーション500による操舵に切り換えるための切換スイッチ501、リモコンレバー502、および、ハンドル503などが設置されている。第2実施形態では、メインスイッチ401がオンにされた状態では、メインステーション400による操舵制御が行われるように構成されており、切換スイッチ501がオンにされた場合に、サブステーション500による操舵制御が行われるように構成されている。また、切換スイッチ501がオフにされた場合に、メインステーション400による操舵制御が行われるように構成されている。なお、切換スイッチ501は、本発明の「切換部」の一例である。ハンドル503には、ハンドル503の回動角度を検出するためのハンドル角センサ503aと、ハンドル503の回動をロックするロック部503bとが設けられている。なお、サブステーション500のリモコンレバー502、ハンドル503、ハンドル角センサ503aおよびロック部503bは、それぞれ、上記第1実施形態のリモコンレバー103、ハンドル104、ハンドル角センサ104aおよびロック部104bと同様の構造を有している。また、ハンドル503は、本発明の「第2ハンドル」または「第1ハンドル」の一例であり、ハンドル角センサ503aは、本発明の「第2ハンドル角センサ」または「第1ハンドル角センサ」の一例である。
【0042】
舵取装置200aは、上記第1実施形態による舵取装置200と同様の構造を有しており、モータ202aと、実舵角センサ203aとを含んでいる。舵取装置200bも上記第1実施形態による舵取装置200と同様の構造を有しており、モータ202bと、実舵角センサ203bとを含んでいる。なお、モータ202aおよび202bは、本発明の「アクチュエータ」の一例であり、実舵角センサ203aおよび203bは、本発明の「操舵角センサ」の一例である。
【0043】
また、船体100には船体側ECU106が搭載されている。船体側ECU106は、メインステーション400による操舵制御時において、メインステーション400のハンドル角センサ403aと実舵角センサ203aおよび203bとからの信号に基づいて、舵取装置200のモータ202aおよび202bとメインステーション400のロック部403bとの駆動を制御するように構成されている。また、船体側ECU106は、サブステーション500による操舵制御時において、サブステーション500のハンドル角センサ503aと実舵角センサ203aおよび203bとからの信号に基づいて、舵取装置200のモータ202aおよび202bとサブステーション500のロック部503bとの駆動を制御するように構成されている。また、リモコンレバー402または502による、ニュートラル、前進および後進の切換と、アクセル操作とを指示する信号は、船体側ECU106を介して船外機300aの船外機側ECU301aおよび船外機300bの船外機側ECU301bに送信されるように構成されている。第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、メインスイッチ401がオンされた場合にメインステーション400による操舵制御が開始される。また、メインステーション400による操舵制御またはサブステーション500による操舵制御を行っている際に船体側ECU106が停止して復帰した場合に、メインステーション400による操舵制御またはサブステーション500による操舵制御が再開される。または、船体側ECU106の他に、舵取り装置200の中に舵取りモータ駆動用ECUを配置し、船体側ECU106からの指令を通信で伝送して駆動制御するような構成でも良い。
【0044】
ここで、第2実施形態では、船体側ECU106は、サブステーション500の切換スイッチ501が押されてサブステーション500による操舵制御が開始された場合、その開始時点におけるサブステーション500のハンドル503の回動位置と、船外機300aおよび300bの操舵角との関係を初期状態として設定するように構成されている。すなわち、サブステーション500による操舵制御の開始時点のサブステーション500のハンドル503の回動位置をハンドル角センサ503aの基準点(0度位置)とするとともに、実舵角センサ203aおよび203bにより検出された実舵角をサブステーション500のハンドル角センサ503aの基準点と対応付けて記憶するように構成されている。これにより、メインステーション400のハンドル403の基準点の位相と前回操作時のサブステーション500のハンドル503の基準点の位相とがずれている場合(メインステーション400のハンドル403の基準点の位相と船外機300aおよび300bの基準点の位相とは関連付けられているが、サブステーション500のハンドル503の基準点の位相と船外機300aおよび300bの基準点の位相とは関連付けられていない場合)にも、ステーションの切換時におけるサブステーション500のハンドル503の回動位置と船外機300aおよび300bの実舵角との関係を初期状態として設定し直して船体側ECU106に認識させる。この設定処理はメインステーション400による操舵制御からサブステーション500による操舵制御に切り換えられる毎に毎回行われるように構成されている。
【0045】
また、船体側ECU106は、メインステーション400による操舵制御からサブステーション500による操舵制御に切り換えられた場合、設定した初期状態に対するハンドル503の回動角の変化量をハンドル角センサ503aからの信号に基づいて認識するとともに、その変化量に応じて船外機300aおよび300bの操舵角を変化させるように舵取装置200aのモータ202aおよび舵取装置200bのモータ202bを制御するように構成されている。
【0046】
また、サブステーション500による操舵制御時に切換スイッチ404が押された場合には、サブステーション500による操舵制御からメインステーション400による操舵制御に切り換えられるように構成されている。この場合にも、メインステーション400からサブステーション500に切り換えられた場合と同様の制御が行われる。
【0047】
図10は、本発明の第2実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するためのフローチャートである。図11〜図13は、図10に示したフローチャートを説明するための図である。次に、図9〜図13を参照して、本発明の第2実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明する。
【0048】
図11に示すように、サブステーション500側の切換スイッチ501がオフ状態(メインステーション400側の切換スイッチ404がオン状態)の場合には、メインステーション400による操舵制御が行われ、メインステーション400のハンドル403の位相と、船外機300aおよび300bの操舵角の位相とは関連付けられており、ハンドル403の操舵に応じて船外機が転舵する。その一方、切換スイッチ501はオフ状態であり、サブステーション500のハンドル503は自由に回転する状態であるため、船外機300aおよび300bの実舵角(位相)とは無関係にハンドル503の回動角(位相)が変化する。図11では、船外機300aおよび300bの実舵角は0度(直進状態)であり、メインステーション400のハンドル403の回動角も直進位置である。その一方、サブステーション500のハンドル503の回動角は、ハンドル503の基準位置とハンドル403の基準位置とが同じであったと仮想した場合に、メインステーション400の直進位置(D3位置)からずれた旋回位置(R3位置)に位置している。
【0049】
ここで、図12に示すように、サブステーション500の切換スイッチ501がオン状態にされると、メインステーション400による操舵制御からサブステーション500による操舵制御に切り換えられる。この時、図10のステップS11において、船体側ECU106は、実舵角センサ203aおよび203bからの信号に基づいて、船外機300aおよび300bの実舵角を検出する。そして、ステップS12において、船体側ECU106は、サブステーション500のハンドル403の回動位置と、船外機300aおよび300bの操舵角との関係を初期状態として設定する。この場合、船体側ECU106は、操舵制御の切換時点のサブステーション500のハンドル503の回動位置をハンドル角センサ503aの基準点(0度位置)とするとともに、実舵角センサ203aおよび203bにより検出された実舵角をハンドル角センサ503aの基準点と対応付けて記憶する。具体的には、図12では船外機300aおよび300bの実舵角が0度(直進位置)であるので、ハンドル503の回動角(R3位置)と、船外機300aおよび300bの実舵角(0度)とを対応付けて設定する。これにより、船体側ECU106は、R3位置を船外機300aおよび300bの直進位置(0度)と対応付けて記憶する。これにより、R3位置が新たな直進位置(D4位置)として認識される。
【0050】
この後、ステップS13において、船体側ECU106は、ハンドル角センサ503aからの信号に基づいて、ハンドル503の基準位置(D4位置)に対するハンドル角の変化量を検出する。また、ステップS14において、船体側ECU106は、実舵角センサ203aおよび203bからの信号に基づいて、船外機300aおよび300bの実舵角を検出する。そして、ステップS15において、船体側ECU106は、サブステーション500のハンドル503のハンドル角の基準位置(D4位置)に対する変化量に対応する角度分、舵取装置200aのモータ202aおよび舵取装置200bのモータ202bを駆動して船外機300aおよび300bを回動させる。図13では、ステップS13において設定した基準位置D4から旋回位置R4までハンドル503が回動されるのに対応して、船外機300aおよび300bが直進位置から旋回位置まで回動している。
【0051】
また、ステップS16において、船体側ECU106は、実舵角が予め設定された所定範囲(船外機300aおよび300bの回動限界範囲)内か否かを判断する。実舵角が所定範囲内(±30度以内)である場合には、ステップS13に戻る。実舵角が所定範囲内(±30度以内)でない場合には、ステップS7において、船体側ECU106は、ロック部503bを駆動することにより、ハンドル503がさらに舵を切る方向に移動しないようにハンドル503をロックする。この後、ステップS13に戻る。サブステーション500による操舵制御中においては、ステップS13〜ステップS17が所定の時間毎に繰り返し行われる。
【0052】
第2実施形態では、上記のように、メインステーション400による操舵制御とサブステーション500による操舵制御とを切り換えた場合に、切換時におけるハンドル(ハンドル403または503)の回動角と船外機(船外機300aおよび300b)の操舵角との関係を初期状態として設定する。これによって、操舵制御の切換時において、切換先のステーションのハンドルの回動角と船外機の操舵角との関係に拘わらず、その状態を初期状態とすることができる。これにより、操舵制御の切換時に、操船者が切換先のステーションのハンドルを操作していないのにも拘わらずモータ(舵取装置200aのモータ202aおよび舵取装置200bのモータ202b)が駆動されることがなくなるので、船外機が操船者の意思とは関係なく動くことに起因して操船者に違和感を与えてしまうことを抑制することができる。また、切換先のハンドルの初期状態に対する回動角の変化量に応じて船外機の操舵角を変化させるように舵取装置のモータを制御することによって、ステーションが切り換えられてから使用者が切換先のステーションのハンドルを切った分だけ船外機の操舵角が変更されるので、操船者は、自分の意図通りに操舵することができる。
【0053】
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0054】
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態による舶用推進システムを示すブロック図である。この第3実施形態では、ハンドル104の変化量に基づいて船外機300を回動させる上記第1実施形態と異なり、ハンドル104の回動速度に基づいて船外機を回動させる例について説明する。まず、図14を参照して、本発明の第3実施形態による舶用推進システムの構造について説明する。
【0055】
図14に示すように、第3実施形態による舶用推進システムは、船体側ECU105aを備えている。船体側ECU105a以外の構造は、上記第1実施形態による舶用推進システムと同様である。第3実施形態では、船体側ECU105aは、所定の時間毎にハンドル角センサ104aからの信号に基づいてハンドル104の回動速度(所定時間におけるハンドル角の変化量)を取得するように構成されている。また、船体側ECU105aは、ハンドル104の回動速度に基づいて、舵取装置200のモータ202を駆動するように構成されている。船体側ECU105aにおいて、ハンドル104の回動速度の値に応じて船外機300が回動される実舵角の値が対応値として予め設定されている。これらの対応値は、マップにより対応関係が定義されており、このマップは船舶の航走状況(船舶の速度、ハンドル操舵速度、故障検出状態など)に応じて変更されるようにしても良い。または、ハンドル104の回動角の値(または回動速度)に対して、船舶の航走状況(船舶の速度、ハンドル操舵速度、故障検出状態など)を踏まえた特定の演算を行い、船外機300が回動される実舵角の値を設定するようにしても良い。
【0056】
図15は、本発明の第3実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するためのフローチャートである。次に、図4および図15を参照して、本発明の第3実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明する。
【0057】
まず、ステップS21およびステップS22において、上記第1実施形態のステップS1およびステップS2(図4参照)と同様の処理が行われる。次に、ステップS23において、タイマがセットされる。このセット時間は、ハンドル104の回動速度を算出するための時間幅であり、たとえば、5msecである。
【0058】
そして、ステップS24において、船体側ECU105aは、所定時間(タイマのセット時間)が経過したか否かを判断する。所定時間が経過していない場合には、この判断が繰り返される。また、所定時間が経過した場合には、ステップS25において再度タイマがセットされた後、ステップS26において、船体側ECU105aは、ハンドル角センサ104aからの信号に基づいて、所定時間におけるハンドル角の変化量(ハンドル104の回動速度)を検出する。この後、ステップS27において、船体側ECU105aは、実舵角センサ203からの信号に基づいて実舵角を検出する。
【0059】
次に、ステップS28において、船体側ECU105aは、所定時間におけるハンドル角の変化量(ハンドル104の回動速度)に応じて舵取装置200のモータ202を駆動することにより、船外機300を回動させる。この後、ステップS29およびステップS30において、上記第1実施形態のステップS6およびステップS7(図4参照)と同様の処理が行われる。そして、ステップS24〜ステップS30の処理が所定の時間毎に繰り返される。
【0060】
第3実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0061】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0062】
たとえば、上記第2実施形態では、2つのステーション(メインステーション400およびサブステーション500)を設けた例を示したが、本発明はこれに限らず、3つ以上のステーションを設けてもよい。
【0063】
また、上記第1実施形態では、それぞれ、操舵制御の開始時において船外機300の操舵角が直進状態である例を説明したが、本発明はこれに限らず、操舵制御の開始時において船外機300の操舵角が旋回状態であってもよい。この場合には、船外機300の旋回位置と、ハンドルの回動位置との関係が対応付けられて初期状態として設定される。すなわち、操舵制御の開始時点のハンドル104の回動位置をハンドル角センサ104aの基準点(0度位置)とするとともに、実舵角センサ203により検出された実舵角(旋回位置)をハンドル角センサ104aの基準点と対応付けて記憶される。これは上記第2実施形態におけるステーションの切換時においても同様である。
【0064】
また、上記第1実施形態では、1つの船外機300を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、2つ以上の船外機を用いてもよい。また、船外機が2つ以上ある場合であって、それぞれの船外機の操舵角が互いに異なる場合には、それぞれの船外機の操舵角を同じ角度に統一してから操舵制御を行うように構成してもよい。また、2つの船外機の操舵角が互いに異なる場合には、平面的に見てハの字状(平面的に見て2つの船外機が先端(船体側)から後端(プロペラ側)に向かって閉じるような配置)になるように操舵角を制御してから操舵制御を行うように構成してもよい。
【0065】
また、上記第1〜第3実施形態では、システムの電源を入れた時、システムが一時停止して復帰した時、または、ステーションを切り換えた時のみにおいて初期状態を設定する例を示したが、本発明はこれに限らず、最初に初期状態を設定した後に、所定の時間毎に初期状態を設定し直すように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態による舶用推進システムを示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による舶用推進システムを示す模式的な平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による舶用推進システムを示すブロック図である。
【図4】本発明の第1実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図6】本発明の第1実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図7】本発明の第1実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図8】本発明の第2実施形態による舶用推進システムを示す斜視図である。
【図9】本発明の第2実施形態による舶用推進システムを示すブロック図である。
【図10】本発明の第2実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図12】本発明の第2実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図13】本発明の第2実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するための模式的な平面図である。
【図14】本発明の第3実施形態による舶用推進システムを示すブロック図である。
【図15】本発明の第3実施形態による舶用推進システムの操舵制御を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0067】
100 船体
104 ハンドル
104a ハンドル角センサ
104b ロック部(ロック機構)
105、105a 船体側ECU(制御部)
106 船体側ECU(制御部)
202、202a、202b モータ(アクチュエータ)
203、203a、203b 実舵角センサ(操舵角センサ)
300、300a、300b 船外機
403 ハンドル(第1ハンドル、第2ハンドル)
403a ハンドル角センサ(第1ハンドル角センサ、第2ハンドル角センサ)
403b ロック部(ロック機構)
404 切換スイッチ(切換部)
501 切換スイッチ(切換部)
503 ハンドル(第1ハンドル、第2ハンドル)
503a ハンドル角センサ(第1ハンドル角センサ、第2ハンドル角センサ)
503b ロック部(ロック機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
船体に取り付けられた船外機と、
操舵時に前記船外機を回動させるアクチュエータと、
前記船外機の操舵角を検出する操舵角センサと、
少なくとも1つ設けられ、前記船外機を操舵するためのハンドルと、
前記ハンドルの回動角の変化量を検出するためのハンドル角センサと、
前記ハンドル角センサの検出値に基づいて前記アクチュエータを制御することにより操舵制御を行う制御部とを備え、
前記制御部は、前記操舵制御の開始時または前記操舵制御の切換時において、前記ハンドルの回動位置と、前記操舵角センサにより検出された前記船外機の操舵角との関係を初期状態として設定するとともに、前記初期状態に対する前記ハンドルの回動角の変化量、または、前記ハンドルの回動角の変化速度に応じて前記船外機の操舵角を変化させるように前記アクチュエータを制御するように構成されている、舶用推進システム。
【請求項2】
前記操舵制御の開始時は、前記舶用推進システムの電源を入れた時、および、前記制御部が一時的に停止して復帰した時を含む、請求項1に記載の舶用推進システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記舶用推進システムの電源を入れる度、および、前記制御部が一時的に停止して復帰する度に、前記ハンドルの回動位置と前記操舵角センサにより検出された前記船外機の操舵角との関係を初期状態として設定するように構成されている、請求項2に記載の舶用推進システム。
【請求項4】
前記ハンドルは、複数設けられており、
前記操舵制御の切換時は、前記複数のハンドルのうちの1つに対応する操舵制御が他のハンドルに対応する操舵制御に切り換えられた時を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の舶用推進システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記複数のハンドルのうちの1つに対応する操舵制御が他のハンドルに対応する前記操舵制御に切り換えられる度に、前記ハンドルの回動位置と前記操舵角センサにより検出された前記船外機の操舵角との関係を初期状態として設定するように構成されている、請求項4に記載の舶用推進システム。
【請求項6】
前記ハンドルは、互いに独立して回動可能な第1ハンドルと第2ハンドルとを含み、
前記ハンドル角センサは、前記第1ハンドルの回動角の変化量を検出する第1ハンドル角センサと前記第2ハンドルの回動角の変化量を検出する第2ハンドル角センサとを含み、
前記第1ハンドル角センサの検出値に基づいて前記アクチュエータを制御する第1操舵制御と、前記第2ハンドル角センサの検出値に基づいて前記アクチュエータを制御する第2操舵制御との切換を前記制御部に指示するための切換部をさらに備え、
前記制御部は、前記切換部により前記第1操舵制御から前記第2操舵制御への切換が指示された場合において、切換時における前記第2ハンドルの回動位置と前記船外機の操舵角との関係を初期状態として設定するとともに、前記初期状態に対する前記第2ハンドルの回動角の変化量、または、前記第2ハンドルの回動角の変化速度に応じて前記船外機の操舵角を変化させるように前記アクチュエータを制御するように構成されている、請求項4または5に記載の舶用推進システム。
【請求項7】
前記操舵制御の停止状態において、前記船外機の操舵角は維持されるように構成されており、
前記ハンドルは、前記操舵制御の停止状態において、前記船外機の操舵角とは無関係に回動可能なように構成されており、
前記制御部は、前記操舵制御の開始時において、前記ハンドルの回動位置と、前記操舵角センサにより検出された前記船外機の操舵角との関係を対応付けして初期状態を設定するように構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の舶用推進システム。
【請求項8】
前記ハンドルの回動をロックするロック機構をさらに備え、
前記制御部は、前記初期状態に設定された前記ハンドルの回動位置に拘わらず、前記操舵角センサにより検出された前記船外機の操舵角が予め設定された角度範囲外になった場合に、前記ハンドルをロックするように前記ロック機構を制御するように構成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の舶用推進システム。
【請求項9】
前記操舵角センサは、前記船外機の操舵角を絶対的な角度として検出し、
前記ハンドル角センサは、前記ハンドルの回動角の変化量を相対的な角度として検出するように構成されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の舶用推進システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記操舵制御の開始後、または、前記操舵制御の切換後において、前記ハンドルの回動位置と、前記操舵角センサにより検出された前記船外機の操舵角との関係を所定の時間毎に初期状態として設定し直すとともに、前記初期状態に対する前記ハンドルの回動角の変化量、または、前記ハンドルの回動角の変化速度に応じて前記船外機の操舵角を変化させるように前記アクチュエータを制御するように構成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の舶用推進システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−116009(P2010−116009A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289907(P2008−289907)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)