説明

船推進機

【課題】伝達機構の動作精度を判定できる船推進機を提供する。
【解決手段】船推進機10は、船外機本体28と、船体に対して船外機本体28を左右方向に揺動可能に取り付けるためのスイベルブラケットと、船外機本体28を左右方向に揺動させるためにスイベルブラケットに設けられる電動モータ62と、モータ軸の回動角度を検出するために電動モータ62に設けられる回動センサ62aと、電動モータ62の駆動力を船外機本体28に伝達するためにスイベルブラケットに設けられる伝達機構と、船外機本体28の実舵角を検出するための回動センサ98と、船推進機10の動作を制御するためのECU16とを備える。ECU16は、回動センサ98の検出結果に基づく船外機本体28の実舵角変化量と、電動モータ62の駆動量に基づく理論変化量とを比較することによって、伝達機構の動作精度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船推進機に関し、より特定的には、船体に対して推進機本体を左右方向に揺動させるための電動モータを有する船推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特許文献1に開示されているように、電動モータによって船外機(推進機本体)を船体に対して左右方向に揺動させることによって船体を操舵することが知られている。
【0003】
特許文献1の技術では、ステアリングホイールの回転角度等を用いて目標舵角を設定する。そして、船外機の実舵角と目標舵角との角度差に基づいて電動モータの駆動量を設定して電動モータを駆動する。電動モータの駆動力は減速ギヤ機構を介してシャフト部に伝達され、シャフト部が回動することによって船外機が船体に対して左右方向に揺動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−199189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、減速ギヤ機構の動作精度が磨耗による劣化等のために低下すれば、実舵角と目標舵角との角度差に基づいて設定した駆動量で電動モータを駆動しても、目標舵角と電動モータ駆動後の実舵角とがずれてしまう。特許文献1では、伝達機構である減速ギヤ機構の動作精度が劣化等のために低下するおそれがあることを考慮しておらず、減速ギヤ機構の動作精度を判定することについては何ら開示も示唆もされていない。
【0006】
それゆえにこの発明の主たる目的は、伝達機構の動作精度を判定できる、船推進機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載の船推進機は、船体を推進するための船推進機であって、推進機本体と、前記船体に対して前記推進機本体を左右方向に揺動可能に取り付けるためのブラケット部と、前記推進機本体を左右方向に揺動させるために前記ブラケット部に設けられる電動モータと、前記電動モータの駆動力を前記推進機本体に伝達するために前記ブラケット部に設けられる伝達機構と、前記推進機本体の実舵角を検出する実舵角検出部と、前記実舵角検出部の検出結果に基づいて前記推進機本体の実舵角変化量に関する第1情報を取得する第1情報取得部と、前記電動モータの駆動量に基づいて前記推進機本体の理論上の実舵角変化量に関する第2情報を取得する第2情報取得部と、前記第1情報と前記第2情報との比較結果に基づいて前記伝達機構の動作精度を判定する判定部とを備える。
【0008】
請求項2に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記電動モータよりも前記伝達機構側に設けられ、前記推進機本体が受ける外力によって前記推進機本体が左右方向に揺動しないように前記伝達機構をロックするロック部材をさらに含むことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記伝達機構は、衝撃を吸収するための緩衝部材を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の船推進機は、請求項1に記載の船推進機において、前記判定部の判定結果に基づいて前記推進機本体の出力を制御する制御部をさらに含むことを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の船推進機では、実舵角検出部の検出結果に基づいて推進機本体の実舵角変化量に関する第1情報を取得する一方で、電動モータの駆動量に基づいて推進機本体の理論上の実舵角変化量に関する第2情報を取得する。正常な状態であれば、電動モータの駆動量と実舵角変化量とは伝達機構の所定の伝達比に応じた比例関係を有している。したがって、電動モータの駆動量と伝達機構の所定の伝達比とを乗算することによって、正常な状態の理論上の実舵角変化量を取得できる。このような理論上の実舵角変化量に関する第2情報と第1情報とを比較して、それらのずれ量が大きければ磨耗による劣化等のために伝達機構の動作精度が低下していると判定する。このように第1情報と第2情報とを比較することによって、簡単に伝達機構の動作精度を判定できる。
【0012】
請求項2に記載の船推進機では、推進機本体が外力を受けたとき伝達機構をロック部材によってロックすることで推進機本体が左右方向に揺動することを防止する。これによって、電動モータに電力を常時供給する必要がなくなり、消費電力を抑えることができる。このようなロック部材は電動モータよりも伝達機構側に設けられるので、磨耗による劣化等のためにロック部材の動作精度が低下しても第1情報と第2情報とのずれ量は大きくなる。したがって、第1情報と第2情報とを比較することによって、簡単に伝達機構およびロック部材の動作精度を判定できる。
【0013】
請求項3に記載の船推進機では、推進機本体が外力を受けることに伴って伝達機構に与えられる衝撃を緩衝部材が吸収することによって、伝達機構の磨耗による劣化等を抑えることができ、伝達機構の動作精度の低下を抑えることができる。すなわち、伝達機構の寿命を延ばすことができる。
【0014】
請求項4に記載の船推進機では、伝達機構の動作精度が低下していると判定した場合は、推進機本体の出力を制限することによって船速を抑える。これによって、伝達機構の動作精度が低下して目標舵角と実舵角とのずれが大きくなっている状態であっても、船体の進行方向が所望の方向に対して大きくずれることを防止できる。一般に、推進機本体の出力が大きく船速が大きいほどヨーレートが大きくなる(小さい舵角でもよく曲がる)ので、この発明は、推進機本体の出力が大きいときに特に効果的である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、伝達機構の動作精度を判定できる、船推進機が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態の船推進機が搭載された船の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す船推進機の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す船外機の全体構成を示す側面図である。
【図4】図1に示す船外機のスイベルブラケットの構成を説明するための斜視図である。
【図5】図1に示す船外機のスイベルブラケットの構成を説明するための側面図である。
【図6】図1に示す船外機のスイベルブラケットの構成を説明するための平面図である。
【図7】図1に示す船外機のボールナットと伝達プレートとの接続関係を説明するための側面図である。
【図8】この発明の一実施形態における動作の一例を示すフロー図である。
【図9】緩衝部材の効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
ここでは、この発明の一実施形態の船推進機10を船1に設置した場合について説明する。図中、FWDは、船1の前進方向を示している。
【0018】
図2をも参照して、船1は、船体2と船体2に設けられた船推進機10とを含む。
【0019】
船推進機10は、船外機本体28(後述)を操舵するために船体2内に設けられる操舵部12と、船体2を前進または後進させる操作を行うために操舵部12の近傍に設けられるコントロールレバー部14と、船推進機10の動作を制御するためのECU(電子制御ユニット)16と、操舵部12の回転操作による操舵角を検出する操舵角センサ18と、操舵部12に反力を与えるために操舵部12に連結される反力モータ20と、船1を推進するために船体2の船尾板3に取り付けられる2機の船外機22と、伝達機構66(後述)等の劣化をユーザに報知するための報知部24とを含む。これらの構成要素は、主としてLANケーブル26によって相互に電気的に接続されている。
【0020】
ついで、船外機22について説明する。
船外機22は、舵を有さず船外機22自体で舵を切るように構成されている。
【0021】
図3を参照して、船外機22は、船外機本体28とスイベルブラケット30とチルトブラケット32とを含む。
【0022】
船外機本体28は、上側から順にカウリング部34、ケース部36およびプロペラ38を含む。船外機22は、船外機本体28を左右方向に揺動させることによって、プロペラ38の向きを変え、プロペラ38の推力で船体2の方向を変える。
【0023】
カウリング部34には、エンジン40、およびエンジン40に電気的に接続されるECU42(図1参照)等が収納されている。
【0024】
スイベルブラケット30は、ブラケット下部44とブラケット上部46とを含む。
【0025】
ブラケット下部44は船外機本体28の上下方向(Z方向)に沿って中空筒状に設けられ、ブラケット下部44にはスイベル軸48が回動自在に挿入される。したがって、スイベル軸48は船外機本体28の上下方向(Z方向)に延びるように設けられる。スイベル軸48の上端部50が連結部52を介して船外機本体28に連結される。これによって、船外機本体28が、スイベルブラケット30ひいては船体2に対してスイベル軸48を中心として相対的に左右方向(図1の矢印X1方向および矢印X2方向)に揺動可能に取り付けられる。
【0026】
スイベルブラケット30を挟むように一対のチルトブラケット32が設けられ、一対のチルトブラケット32は船体2の後ろ側に設けられた船尾板3に固定される。スイベルブラケット30および一対のチルトブラケット32にはチルト軸54が挿通される。チルト軸54はスイベル軸48と直角をなす方向であって、船体2の幅方向(図1の矢印X1方向および矢印X2方向)に延びるように設けられる。これによって、スイベルブラケット30ひいては船外機本体28はチルト軸54を中心として船体2に対して相対的に上下方向(Z方向)に揺動可能となる。すなわち、船外機本体28は、チルトシリンダ(図示せず)によってチルト軸54廻りに揺動可能であり、上陸時等にほぼ水平方向まで回転して引き上げられる。また、船外機本体28は、トリムシリンダ(図示せず)によってチルト軸54廻りに揺動可能である。そして、航行中に船外機本体28のトリム角を調整してプロペラ38の推力方向を鉛直面内で上下に回動させて調整することができる。
【0027】
ついで、図4〜図6をも参照して、スイベルブラケット30について詳細に説明する。
ブラケット上部46は、ブラケット下部44の上端部に設けられ、前方(矢印FWD方向)に突出するように構成される。ブラケット上部46は、上面開口の略箱状に形成され、側方から見て、前方に向かうにつれて次第に高さ方向が大きくなる一対の側壁部56,58と、一対の側壁部56,58の前部を連結する前壁部60とを有する。ブラケット下部44に挿入されているスイベル軸48の上端部50は、ブラケット上部46に突出している。
【0028】
ブラケット上部46には、電動モータ62とロッククラッチ64と伝達機構66の大部分とが収納される。
【0029】
伝達機構66は、電動モータ62の駆動力を船外機本体28に伝達するものであり、ギヤ部68と、ギヤ部68に接続されるボールネジ70と、ボールネジ70上を移動可能にボールネジ70に係合されるボールナット72と、ボールナット72とスイベル軸48とを連結する伝達プレート74と、スイベル軸48と、連結部52とを含む。伝達機構66は、電動モータ62のモータ軸76が1回転することによってスイベル軸48を略1°〜1.5°回転させるように設定されている。すなわち、伝達機構66の伝達比(ここでは減速比)は270〜360に設定されている。
【0030】
電動モータ62は、そのモータ軸76が船体2の幅方向(矢印X1方向および矢印X2方向)に延びるように、スイベルブラケット30内の前壁部60近傍かつ側壁部56側に設けられ、船外機本体28を揺動させるための駆動力を発生する。また、電動モータ62には、モータ軸76の回動角度を検出する回動センサ62aが内蔵されている。
【0031】
電動モータ62は、ドライバ78と電気的に接続されている。ドライバ78は、ユーザが操舵部12を操舵した際にLANケーブル26を介して送信される信号に基づいて、電動モータ62の駆動を制御する。具体的には、ドライバ78は、操舵部12が時計回り方向(矢印A1方向:図1参照)に回転された場合にモータ軸76が矢印A2方向に回転するように電動モータ62を制御し、一方、操舵部12が反時計回り方向(矢印B1方向:図1参照)に回転された場合にモータ軸76が矢印B2方向に回転するように電動モータ62を制御する。
【0032】
ロッククラッチ64は、電動モータ62のモータ軸76と同軸上に配置され、モータ軸76とギヤ部68とを連結し、電動モータ62による駆動力をスイベル軸48ひいては船外機本体28側に伝達する。しかし、ロッククラッチ64は、船外機本体28側から伝達される外力(反力)を電動モータ62側に伝達せず、当該外力による船外機本体28の左右方向の揺動を防止するロック機能を有する。ロッククラッチ64は、逆入力遮断クラッチであり、たとえばNTN株式会社製の「トルクダイオード(登録商標)」等が用いられる。これによって、モータ軸76が回転したとき、モータ軸76の回転をロッククラッチ64に接続されたギヤ部68に伝達することができる。その一方、航行中等において、船外機本体28に左右方向に揺動する力が付与され、それに伴ってギヤ部68に回転力が付与されても、ロッククラッチ64がギヤ部68の回転を阻止しロックする。すなわち、航行中、水から受ける反力等が船外機本体28に対して左右方向に付与される場合であっても、ロッククラッチ64が機能するので、操舵方向を維持するために電動モータ62を駆動させる必要はない。このように簡素な構成のロッククラッチ64によって、電動モータ62を常時駆動させる必要がなくなる。
【0033】
ギヤ部68は、減速ギヤとして機能し、図5および図6に示すように、側壁部58の外側に設けられる3つの平歯車80,82および84を含む。平歯車80,82および84はそれぞれ、ナイロン、ポリアセタール等の弾性を有する合成樹脂からなる。平歯車80は、ロッククラッチ64の下流側(側壁部58側)から突出して側壁部58の貫通孔86を挿通する軸部材88と接続されており、軸部材88とともに回転する。図5に示すように、平歯車82は、側壁部58に回転可能に設けられる軸部材90に緩衝部材92を介して接続されており、軸部材90とともに回転する。緩衝部材92は、平歯車82の内周面と軸部材90の外周面との間に介挿される円環状(円筒状)の部材であり、ブチルゴム、ニトリルゴム等の弾性体からなる。平歯車82は、平歯車80と噛合されるとともに平歯車84にも噛合されている。すなわち、平歯車82は、平歯車80の回転を平歯車84に伝達する中間ギヤの機能を果たす。図6に示すように、平歯車84は、側壁部58の貫通孔94を挿通するボールネジ70と接続されており、ボールネジ70と一体的に回転する。
【0034】
ボールナット72は、ボールネジ70の回転に伴ってボールネジ70の軸方向(矢印X1方向および矢印X2方向)に移動する。具体的には、モータ軸76が矢印A2方向に回転するのに伴って、ギヤ部68を介してボールネジ70が矢印A3方向に回転し、ボールナット72は側壁部58方向(矢印X2方向)に移動する。その一方、モータ軸76が矢印B2方向に回転するのに伴って、ギヤ部68を介してボールネジ70が矢印B3方向に回転し、ボールナット72は側壁部56方向(矢印X1方向)に移動する。
【0035】
図6および図7に示すように、伝達プレート74の上面において前方(矢印FWD方向)側端部には円柱状の突起74aが設けられている。突起74aの外周面には、円環状(円筒状)の緩衝部材74bが設けられている。緩衝部材74bは、ブチルゴム、ニトリルゴム等の弾性体からなる。ボールナット72と伝達プレート74とは、ボールナット72の下端部に設けられる溝72aに緩衝部材74bを嵌合させることによって接続されている。弾性体である緩衝部材74bは、ボールナット72と伝達プレート74との接続部のブッシュとして機能する。
【0036】
図6に示すように、伝達プレート74の後方側端部には、スイベル軸48が係合されている。これによって、伝達プレート74は、ボールナット72が矢印X1方向または矢印X2方向に移動するのに伴って、スイベル軸48を中心に揺動することができる。それによってスイベル軸48を回動させ船外機本体28を揺動させることができる。船外機本体28は、ボールナット72が側壁部58方向(矢印X2方向)に移動すると矢印X1方向に舵きりされ、一方、ボールナット72が側壁部56方向(矢印X1方向)に移動すると矢印X2方向に舵きりされる。
【0037】
また、伝達プレート74の側壁部56側近傍には、回動軸96を有しその回動角度を検出する回動センサ98が設けられている。回動センサ98は、リンク部材100を介して伝達プレート74に接続されている。リンク部材100は、伝達プレート74がスイベル軸48を中心に揺動すると、それに伴って移動する。リンク部材100の移動に伴って、回動センサ98の回動軸96が回動する。回動センサ98によって検出された回動軸96の回動角度に基づいて、ECU16が伝達プレート74の揺動角度ひいては船外機本体28の実舵角を算出する。
【0038】
このようなブラケット上部46の側壁部56にはカバー部材102が取り付けられ、側壁部58にはギヤ部68ならびに貫通孔86および94を覆うようにカバー部材104が取り付けられる。また、ブラケット上部46の上面には、図5に示すように、開口全面を覆うことが可能なカバー部材106が取り付けられる。これによって、ブラケット上部46の内部を密閉できる。
【0039】
図2に戻って、このような船推進機10において、ECU16はCPUおよびメモリを含み、メモリには図8に示す動作を実行するためのプログラムや各種閾値や各種フラグ等が格納されている。
【0040】
ECU16には、操舵角センサ18から操舵部12の操舵角を示す信号、コントロールレバー部14からコントロール信号、回動センサ62aおよび回動センサ98からの回動角度を示す信号が与えられる。
【0041】
ECU16は、操舵角や図示しない外力センサによって検出される外力状態に応じた目標トルクを算出して反力モータ20に与え、反力モータ20はその目標トルクに応じた反力トルクを操舵部12に出力する。これによって、ユーザは、操舵部12を操作したときの重い感じや軽い感じ等の運転感覚を得ることができる。
【0042】
また、ECU16は、ユーザが操舵部12を回転した際の目標舵角を示す信号をスイベルブラケット30内のドライバ78に伝達して船外機本体28の操舵を制御する。さらに、ECU16は、ユーザがコントロールレバー部14を操作した際の信号を船外機本体28内のECU42に伝達し、エンジン40の出力を制御する。プロペラ38は、エンジン40の駆動に伴って回転する。
【0043】
さらに、ECU16は、報知部24に指示を与えて報知部24を制御する。報知部24としては、音を発するブザー、光を発するランプまたはメッセージを表示する液晶ディスプレイ等が用いられる。
【0044】
この実施形態では、船外機本体28が推進機本体に相当し、ロッククラッチ64がロック部材に相当する。ブラケット部はスイベルブラケット30およびチルトブラケット32を含み、実舵角検出部は回動センサ98およびECU16を含み、第1情報取得部はECU16を含み、第2情報取得部は回動センサ62aおよびECU16を含む。また、ECU16が判定部および制御部として機能する。さらに、弾性を有する平歯車80,82および84も緩衝部材として機能する。
【0045】
このような船舶推進機10を備える船1の動作例について、図8を参照して説明する。
図8に示す動作は、たとえば5msecのインターバルで繰り返し行われる。最初に行われる図8の動作においては、伝達機構66等の動作精度が低下していることを示す低下フラグがオフに設定されており、コントロールレバー部14への操作量に応じてエンジン40の出力を制御する通常制御に設定されている。
【0046】
まず、操舵角センサ18が操舵部12の操舵角を検出し(ステップS1)、ECU16はその操舵角に基づいて目標舵角を算出する(ステップS3)。そして、回動センサ98が回動軸96の回動角度を検出し、ECU16はその回動角度に基づいて船外機本体28の実舵角を検出する(ステップS5)。ECU16は、算出した目標舵角と船外機本体28の実舵角との角度差を算出し(ステップS7)、その角度差に基づいて目標電流を算出する(ステップS9)。そして、ドライバ78は、ECU16によって算出された目標電流に基づいて電動モータ62に通電する(ステップS11)。すると、電動モータ62の駆動力が、伝達機構66を介して船外機本体28に伝達されて船外機本体28が転舵される(ステップS13)。
【0047】
ステップS13の後、ECU16は、再び回動センサ98の検出結果に基づいて船外機本体28の実舵角を検出する(ステップS15)。そして、ECU16は、ステップS5で検出した実舵角とステップS15で検出した実舵角との差を算出することによって、船外機本体28の実舵角変化量を取得する(ステップS17)。この実施形態では、ステップS17で取得される実舵角変化量が第1情報に相当する。
【0048】
ステップS17の後、ECU16は、回動センサ62aからの信号に基づいてステップS13におけるモータ軸76の角度変化量(電動モータ62の駆動量)を取得する。すなわち、ECU16は、転舵期間におけるモータ軸76の角度変化量を取得する。そして、モータ軸76の角度変化量と伝達機構66の減速比(ここでは270)との積を算出する。理論上では、スイベル軸48の回動角度とモータ軸76の回動角度とは、伝達機構66の減速比に応じた比例関係を有している。したがって、モータ軸76の角度変化量と伝達機構66の減速比とを乗算することによって、伝達機構66が正常な状態であるときの理論上の実舵角変化量(以下、理論変化量という)が取得される(ステップS19)。この実施形態では、ステップS19で取得される理論変化量が第2情報に相当する。
【0049】
ステップS19の後、ECU16は、理論変化量に対する実舵角変化量のずれ量を算出し(ステップS21)、その値と所定の閾値(たとえば0.4°)とを比較する(ステップS23)。これによって、ロッククラッチ64および伝達機構66の状態を判定する。この実施形態では、ずれ量が閾値以上であればロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度の低下が許容範囲を超えていると判定し、ずれ量が閾値未満であればロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度の低下が許容範囲であると判定する。閾値は好ましくは0.3°〜0.5°の範囲に設定される。閾値がこの範囲内であれば、許容範囲が小さすぎず(厳しすぎず)かつ大きすぎず、ロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度を確保できる。
【0050】
ステップS23において、ECU16は、ずれ量が閾値以上であれば、すなわち、ロッククラッチ64および伝達機能66の動作精度が許容範囲を超えて低下していると判定すれば、メモリに格納されている低下フラグがオフか否かを判定する(ステップS25)。そして、ECU16は、低下フラグがオフであれば低下フラグをオンに設定し(ステップS27)、制限制御を開始するとともに報知部24による報知動作を開始させ(ステップS29)、終了する。ステップS29で報知部24に報知動作を開始させることによって、ロッククラッチ64および伝達機構66が劣化していることをユーザに報知できる。
【0051】
制限制御とは、エンジン40の出力(ここでは回転数)を制限する制御をいう。具体的には、コントロールレバー部14への操作量にかかわらずエンジン40の回転数を最高回転数(たとえば6000rpm)の20%に保つ制御をいう。この他にも、制限制御として、エンジン40の回転数を1000rpm下げたり、スロットルを全閉するようにしてもよい。
【0052】
一方、ステップS25において低下フラグが既にオンの場合、前回の動作から制限制御および報知部24による報知動作が継続されているので、そのまま終了する。
【0053】
また、ECU16は、ステップS23でずれ量が閾値未満であれば、すなわち、ロッククラッチ64および伝達機構66の劣化が許容範囲であると判定すれば、低下フラグがオンか否かを判定する(ステップS31)。そして、ECU16は、低下フラグがオンであれば、低下フラグをオフに設定し(ステップS33)、通常制御を開始するとともに報知部24による報知動作を停止させ(ステップS35)、終了する。
【0054】
通常制御とは、コントロールレバー部14への操作量に応じてエンジン40の出力を調節する制御をいう。通常、前回以前の動作でステップS29を経ることによって報知部24が報知動作をしていれば、ユーザはロッククラッチ64および伝達機構66を点検・修理する。これによって、ステップS23でずれ量が閾値未満になり、ステップS31〜S35に進む。
【0055】
一方、ステップS31で低下フラグがオフである場合、前回の動作から通常制御が継続され報知部24は報知動作をしていない状態であるので、そのまま終了する。
【0056】
このような船推進機10によれば、回動センサ98の検出結果に基づく実舵角変化量と、電動モータ62の駆動量に基づく理論変化量とのずれ量を求めて、その値と閾値とを比較することによって、簡単に伝達機構66の動作精度を判定できる。
【0057】
また、船外機本体28が外力を受けたとき伝達機構66をロッククラッチ64によってロックすることで船外機本体28が左右方向に揺動することを防止する。これによって、電動モータ62に電力を常時供給する必要がなくなり、消費電力を抑えることができる。このようなロッククラッチ64は電動モータ62よりも伝達機構66側に設けられるので、磨耗による劣化等のためにロッククラッチ64の動作精度が低下しても実舵角変化量と理論変化量とのずれ量は大きくなる。したがって、実舵角変化量と理論変化量とのずれ量と、閾値とを比較することによって、簡単にロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度を判定できる。
【0058】
船外機本体28が外力を受けることに伴って伝達機構66に与えられる衝撃を、緩衝部材74bおよび92によって吸収できる。また、弾性を有する歯車80,82および84自体も緩衝部材として機能して伝達機構66に与えられる衝撃を吸収できる。これによって、ロッククラッチ64および伝達機構66の磨耗による劣化等を抑えることができ、ロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度の低下を抑えることができる。すなわち、ロッククラッチ64および伝達機構66の寿命を延ばすことができる。
【0059】
緩衝部材74bおよび92を有しておらず平歯車80,82および84も弾性を有していなければ、すなわち、ダンパー機構を有していなければ、船外機本体28からの外力が伝達機構66を介してロッククラッチ64に直接的に与えられる。ダンパー機構を有していない状態でロッククラッチ64に与えられる荷重の推移の一例を図9(a)に示し、この場合の軸部材88(図6参照)の累積回転量を図9(b)に示す。
【0060】
図9(a)に示すように、ダンパー機構を有していなければ、ロッククラッチ64に与えられる荷重がロッククラッチ64の限界荷重を超えることが多くなる。ロッククラッチ64に与えられる荷重が限界荷重を超えれば、ロッククラッチ64が滑って軸部材88を回転させることになる。ロッククラッチ64が度々滑れば、図9(b)に示すように、軸部材88を度々回転させることになり、軸部材88の累積回転量が大きくなってしまう。このために、船外機本体28の向きが大きく変わるおそれがあり、船外機本体28の向きを修正しなければならないおそれがある。
【0061】
一方、船推進機10においてロッククラッチ64に与えられる荷重の推移の一例を図9(c)に示し、この場合の軸部材88の累積回転量を図9(d)に示す。なお、図9(a)および(b)と図9(c)および(d)とにおいて、船外機本体28が受ける外力はいずれも同様である。
【0062】
船推進機10によれば船外機本体28からの外力の一部を緩衝部材74bおよび92ならびに平歯車80,82および84によって吸収できる。したがって、図9(c)に示すように、船外機本体28が外力を受けてもほとんどの場合はロッククラッチ64に与えられる荷重を限界荷重未満にできる。これによって、ロッククラッチ64の滑りを抑え、図9(d)に示すように、軸部材88の回転を抑えることができる。ひいては、船外機本体28の向きの変化を抑えることができ、船外機本体28の向きを修正する必要がほとんどなくなる。
【0063】
ロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度が低下していると判定した場合は、船外機本体28の出力を制限することによって船速を抑える。これによって、ロッククラッチ64および伝達機構66の動作精度が低下して目標舵角と実舵角とのずれが大きくなっている状態であっても、船体2の進行方向が所望の方向に対して大きくずれることを防止できる。一般に、船外機本体28の出力が大きく船速が大きいほどヨーレートが大きくなる(小さい舵角でもよく曲がる)ので、この発明は、船外機本体28の出力が大きいときに特に効果的である。
【0064】
なお、上述の実施形態では、第1情報として実舵角変化量そのものを取得する場合について説明したが、第1情報はこれに限定されない。第1情報として、たとえば、回動センサ98の回動軸96の角度変化量、ボールナット72の移動量等を用いてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態では、第2情報として理論上の実舵角変化量そのものを取得する場合について説明したが、第2情報はこれに限定されない。第2情報として、たとえば、回動センサ98の回動軸96の理論上の角度変化量、ボールナット72の理論上の移動量等を用いてもよい。
【0066】
上述の実施形態では、2機の船外機22を船1に設置した場合について説明したが、この発明はこれに限定されない。この発明は、船に船外機を1機のみ設置した場合や3機以上設置した場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 船
2 船体
10 船推進機
12 操舵部
16 ECU
24 船外機
28 船外機本体
30 スイベルブラケット
32 チルトブラケット
62 電動モータ
62a,98 回動センサ
64 ロッククラッチ
66 伝達機構
74b,92 緩衝部材
78 ドライバ
80,82,84 平歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体を推進するための船推進機であって、
推進機本体と、
前記船体に対して前記推進機本体を左右方向に揺動可能に取り付けるためのブラケット部と、
前記推進機本体を左右方向に揺動させるために前記ブラケット部に設けられる電動モータと、
前記電動モータの駆動力を前記推進機本体に伝達するために前記ブラケット部に設けられる伝達機構と、
前記推進機本体の実舵角を検出する実舵角検出部と、
前記実舵角検出部の検出結果に基づいて前記推進機本体の実舵角変化量に関する第1情報を取得する第1情報取得部と、
前記電動モータの駆動量に基づいて前記推進機本体の理論上の実舵角変化量に関する第2情報を取得する第2情報取得部と、
前記第1情報と前記第2情報との比較結果に基づいて前記伝達機構の動作精度を判定する判定部とを備える、船推進機。
【請求項2】
前記電動モータよりも前記伝達機構側に設けられ、前記推進機本体が受ける外力によって前記推進機本体が左右方向に揺動しないように前記伝達機構をロックするロック部材をさらに含む、請求項1に記載の船推進機。
【請求項3】
前記伝達機構は、衝撃を吸収するための緩衝部材を含む、請求項1に記載の船推進機。
【請求項4】
前記判定部の判定結果に基づいて前記推進機本体の出力を制御する制御部をさらに含む、請求項1に記載の船推進機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−264794(P2010−264794A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115753(P2009−115753)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)