説明

船用電線延焼防止シート

【課題】 切断によっても延焼防止性能が低下することがなく、また延焼防止シートと電線との隙間や電線相互の隙間をより緻密に塞ぐことのできる延焼防止シートを提供する。
【解決手段】 延焼防止性能を有さない船用電線を束ねて敷設する際、前記船用電線に延焼防止措置を講ずる船用電線延焼防止シート1であって、熱により膨張又は変形しない不燃性又は難燃性の基体シート11を外層とし、熱により膨張する熱膨張性部材を主とした不燃性又は難燃性の熱膨張シート12を内層として、平面視形状が略等しい基体シート11及び熱膨張シート12を重ねて一体にしてなり、熱膨張シート12は熱により膨張する鉱物粉末をバインダでシート状に形成した船用電線延焼防止シート1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延焼防止性能を有さない船用電線(ケーブル等)を束ねて敷設する際、前記船用電線に延焼防止措置を講ずる船用電線延焼防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
船用電線を束ねて敷設する際には、各船用電線が必要十分な延焼防止性能(IEC 60332-3 Category Aの試験に合格する延焼防止性能)を有する必要がある。しかし、各船用電線自体に前記延焼防止性能を付与すると、船用電線自体が高価になる。したがって、延焼防止性能を有さない船用電線を用いて、前記要求を満たすことができれば、コスト削減になる。海上人命安全条約(SOLAS)では、延焼防止性能を有さない船用電線の束ねる際、延焼防止措置を講ずるか、延焼防止工法を用いればよいことを認めている。
【0003】
延焼防止工法としては、延焼防止塗料を各船用電線に塗布する方法がよく知られている。しかし、各船用電線の径の違いや束ねる本数又は態様によって、全船用電線全体へ十分に延焼防止塗料が行き渡らず、延焼防止の要求を満たし得ないこともある。そこで、近年では、延焼防止措置として、船用電線の束に巻き付ける延焼防止シートが用いられる場合が増えてきている。
【0004】
延焼防止シートは、例えば特許文献1に見られるように、不燃性又は難燃性のシート本体の辺部に沿って耐熱シール材を固着した構成のものを例示できる。この特許文献1が示す延焼防止シートは、船用電線ではなく建造物の電線を想定しているが、火災時に耐熱シール材が発泡又は膨張して電線とシート本体との隙間や電線相互の隙間を塞ぐことにより、電線に沿った延焼を防止する働きから、船用電線にも利用しうると考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2000-013965号公報(3頁〜5頁、図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1が示す延焼防止シートは、電線に巻き付けたシート本体の縁部から耐熱シール材を詰め込むことを簡略化し、容易かつ確実に耐熱シール材を充填することを主眼としている。そのため、シート本体の辺部に沿った限られた範囲にしか耐熱シール材を設けておらず、例えばシート本体を途中から分断して使用できない。これに対し、船用電線では、確実な延焼防止措置を講ずる必要から、船用電線の全長にわたって複数の延焼防止シートを巻き付けることが好ましい。この場合、端数部分に合わせて延焼防止シートを適宜長さに分断する必要が生じるから、途中から分断して使用できない特許文献1の延焼防止シートは船用電線にそのまま用いることはできない。
【0007】
また、特許文献1の延焼防止シートは、具体的な耐熱シール材として、熱膨張性を備えたゴムシールを例示している(特許文献1、[0032])。しかし、前記ゴムシールは、熱膨張して電線を圧迫し、延焼防止シートと電線との隙間を塞ぎ、更に電線相互の隙間を小さくすることはできるが、延焼防止シートと電線との隙間や電線相互の隙間にまでゴムシールが割り込むわけでない。延焼防止の観点からは、残る隙間を小さくできることが好ましい。そこで、切断によっても延焼防止性能が低下することがなく、また延焼防止シートと電線との隙間や電線相互の隙間をより緻密に塞ぐことのできる延焼防止シートを開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討の結果開発したものが、延焼防止性能を有さない船用電線を束ねて敷設する際、前記船用電線に延焼防止措置を講ずる船用電線延焼防止シートであって、熱により膨張又は変形しない不燃性又は難燃性の基体シートを外層とし、熱により膨張する熱膨張性部材を主とした不燃性又は難燃性の熱膨張シートを内層として、平面視形状が略等しい基体シート及び熱膨張シートを重ねて一体にしてなり、熱膨張シートは熱により膨張する鉱物粉末をバインダでシート状に形成した船用電線延焼防止シートである。本発明の船用電線延焼防止シートを船用電線の束に巻き付けるには、不燃性又は難燃性の紐体、例えば針金等で縛り付けるとよい。
【0009】
本発明の延焼防止シートは、外層となる基体シートの内面全域にわたって熱膨張性シートを設けた構成で、しかも前記熱膨張性シートを熱膨張する鉱物粉末を主として構成することにより、熱膨張に際して船用電線の外面に倣って膨張させ、延焼防止シートと電線との隙間や電線相互の隙間をより緻密に塞ぐことができる。基本シートは、熱により膨張又は変形しない不燃性又は難燃性のシート素材であればよく、通常アルミ又はアルミ合金の薄膜から構成する。そして、鉱物粉末をバインダでシート状に形成した熱膨張シートは切断が容易であるから、本発明の延焼防止シートは、必要に応じた現場での整形(端数部分に合わせた分断等)が容易でありながら、延焼防止性能を低下させない。
【0010】
ここで、熱膨張性シートの膨張方向は、延焼防止シートを巻き付ける船用電線の直交方向、より具体的には内向きにすることが好ましい。これから、熱膨張性シートの膨張方向を内向きに特定するため、熱により膨張する鉱物粉末と無機繊維とを混在させて一体にバインダでシート状に形成した熱膨張性シートにするとよい。熱膨張シートは、無機繊維の配向によって鉱物粉末が膨張するが、外向きには基体シートがあるため、前記鉱物粉末は主として内向きに膨張することになる。
【0011】
鉱物粉末は、未焼成のバーミキュライトが好ましい。この場合、基体シートがアルミ又はアルミ合金の薄膜であると、延焼防止シート全体をハサミ又はカッタ等で容易に切断できるようになり、巻き付ける船用電線に応じて延焼防止シートの幅や形状を成形できるようになる。また、鉱物粉末、特に前記バーミキュライトを相互に結びつけるバインダは、従来公知の各種有機バインダ又は無機バインダを用いるs。また、鉱物粉末の熱膨張方向を特定づける無機繊維は、従来公知の各種セラミックファイバを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、切断によっても延焼防止性能が低下することがなく、また延焼防止シートと電線との隙間や電線相互の隙間をより緻密に塞ぐことのできる延焼防止シートが提供できるようになる。特に隙間を緻密に塞ぐ効果は、バーミキュライトからなる熱膨張シートの働きに負うところが大きい。また、本発明の延焼防止シートは、基体シートがアルミ又はアルミ合金の薄膜で、熱膨張シートがバーミキュライトをバインダでシート状に一体化したものにすれば、安価に製造できる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明の延焼防止シート1の一例を表した斜視図であり、図2は船用電線の束2に延焼防止シート1を巻き付けた一態様を表す斜視図である。
【0014】
本例の延焼防止シート1は、図1に見られるように、熱により膨張又は変形しない不燃性又は難燃性の基体シート11を外層と、熱により膨張する熱膨張性部材を主とした不燃性又は難燃性の熱膨張シート12を内層とを重ねて一体にした構成である。この延焼防止シート1は、一端に達した火災の影響を他端に及ぼさないことで、延焼を防止する。こうした延焼防止シート1は、幅が大きいほど好ましいが、取扱いの観点から、幅30cm〜100cm、好ましくは幅40cm〜60cmにするとよい。また、延焼防止シート1の長さは、巻き付ける船用電線の束2を構成する船用電線21の数によって異なるから、例えばロールから適宜繰り出して適当長さで切断、分離するとよい。後述するように、本例の延焼防止シート1は、現場においてハサミ等により容易に切断、整形できるため、適当長さで切断することも容易であり、幅の調整も可能である。
【0015】
基体シート11としては、アルミ又はアルミ合金の薄膜が好ましい。基体シート11は、直接的には、熱膨張シート12を取扱いやすくする基準であり、前記熱膨張シート12が外向きに膨張することを抑制又は防止することにより、熱膨張シート12が主に内向きに膨張するように規制している。これから、基体シート11は、熱膨張シートの膨張によっても破れない必要があり、本例のアルミ又はアルミ合金の薄膜を基体シートとする場合、およそ50μm〜120μm、好ましくは70μm〜90μmにするとよい。また、特にアルミ又はアルミ合金の薄膜からなる基体シート11は、延焼防止シート1外部から内部へ熱が伝わることを遮断し、延焼防止シート1に包まれた船用電線21が加熱されることを抑制又は防止する働きも有する。
【0016】
熱膨張シート12としては、熱により膨張する未焼成のバーミキュライトの粉末とセラミックファイバとを混在させて一体にバインダでシート状に形成した構成が好ましい。バーミキュライトは、約350℃以上で、含有する結晶水が蒸発して吸熱作用をもたらし、蒸発した水蒸気ガスが膨張作用をもたらして船用電線21の隙間等を塞ぎ、延焼防止性能を発揮する。このほか、バーミキュライトは、安価かつ入手が容易な鉱物粉末で、前記セラミックファイバ及びバインダと一体に形成しても、ハサミ等により容易に切断できる利点がある。これにより、船用電線21の隙間にバーミキュライトを潜り込ませ、よりよい延焼防止性能を実現する。バインダは、有機又は無機のいずれでもよく、特にバーミキュライトの保形性を実現できるものであればよい。バーミキュライトを船用電線21の隙間により多く潜り込ませる観点からは、熱膨張シート12は厚いほど好ましいことになるが、あまり厚すぎると取扱いが不便になるほか、膨張によって基体シートを破損しかねない。これから、熱膨張シート12の好ましい厚みは、2mm〜5mm、好ましくは3mm〜4mmである。
【0017】
本例の延焼防止シート1は、図2に見られるように、巻き付ける船用電線の束2に応じてロール13から繰り出して適当長さをハサミ等で切断して、船用電線の束2に適当間隔(水平方向は14m間隔以下、垂直方向は6m間隔又は2甲板毎以下、か以上人命安全条約(SOLAS)参照)で巻き付ける。巻き付けた状態を保持するため、本例では針金31を用いているが、難燃性又は不燃性のある紐体であれば、針金31に限らず用いることができる。火災時には、熱膨張シート12が膨張して船用電線21の隙間に潜り込むため、延焼防止シート1は船用電線の束2にきつく締め付ける必要はない。しかし、船用電線の束2から延焼防止シート1がずれると十分な延焼防止性能を発揮できなくなる虞れがあるので、延焼防止シート1は船用電線の束2からずれない程度で緊密に巻き付ける。この点、針金31等を用いた締付けは、延焼防止シート1を部分的に船用電線の束2に締め付けるため、過度にきつくならず、延焼防止シート1を船用電線の束2に安定して巻き付けておくことができる。
【0018】
ロール13から繰り出す延焼防止シート1は一定幅であり、上述の通り船用電線の束2に対して適当間隔で断続的に巻き付ければよいため、通常幅方向に切断する必要はない。しかし、巻き付ける対象となる船用電線21の配置によって、一定幅のままでうまく巻き付けることができない場合もある。この場合でも、本発明の延焼防止シート1は、ハサミ等を用いて容易に切断し、幅を短くしたり、周縁を自在に整形することができる。ここで、延焼防止シート1は、基体シート11の全面にわたって熱膨張シート12が存在しているため、どのように切断又は整形しても、延焼防止シート1の端まで熱膨張シート12が存在する利点がある。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の延焼防止シート1の延焼防止性能について実施した評価試験について説明する。図3は試験装置4の外観を表す斜視図で、図4は船用電線の束2に延焼防止シート1を巻き付けた試験体の斜視図である。試験方法は、IEC60332-3-22の耐延焼性試験(垂直に取り付けられたカテゴリーAの電線ケーブルの垂直方向の火炎伝搬性試験方法)に従っている。試験対象となる船用電線21は、船舶で多く使用されている「耐炎性3心EPゴム絶縁ビニルシースあじろ外装ケーブル」である。
【0020】
試験装置4は、図3に見られるように、IEC60332-310の耐延焼性試験装置(垂直に取り付けられた電線ケーブルの垂直方向の火炎伝搬性試験装置)に準じた構成である。全面に出入り口41を有する幅1100mm、高さ2800mm、そして奥行き2000mmの金属製筐体で、出入り口41直近の床面に吸気口42、上面奥に排気口43を設けている。船用電線21は、図4に見られるように、長さ約2.5mのものを複数本(図4中は図示の便宜上9本)を束ね、試験装置4内奥に設置した梯子(ラダー)44に沿って並べて取り付け、およそ下半分をばらけた状態、上半分を揃えた状態にしている。火炎源は、IEC60332-3-22の試験規格に準じ、船用電線の下端から50cm、船用電線から7.5cmの位置に設置したバーナー45である。
【0021】
試験に用いた延焼防止シート1は、厚み80μmのアルミ箔からなる基体シート11と、バーミキュライト50%とセラミックファイバ40%とを有機バインダ10%で一体にシート状にした熱膨張シート12とを重ね合わせた構成(図1参照)で、厚みを3.4mmで、幅40cmのものと、幅60cmのものとを使用した。各延焼防止シート1は、上述の船用電線の束2に対して高さ方向略中心に合わせて巻き付けた。
【0022】
評価試験は、延焼防止シートを巻き付けない船用電線の束2、40cm幅の延焼防止シート1を巻き付けた船用電線の束2、そして60cm幅の延焼防止シート1を巻き付けた船用電線の束2の順に実施した。これにより、延焼防止シートを巻き付けない船用電線の束2の延焼具合を基礎として、40cm幅又は60cm幅の延焼防止シート1を巻き付けた船用電線の束2の延焼具合を比較対照することで、本発明の延焼防止シート1の延焼防止性能を測ることができる。バーナー45の燃焼時間は、40分としている。
【0023】
まず、延焼防止シートを巻き付けない船用電線の束2の場合、船用電線21の延焼を防止することができず、バーナー45による燃焼を開始してから30分後には、船用電線21全体が燃え上がってしまい、排気口43から煙だけでなく火炎が出始めたため、バーナー45を止め、試験を中止せざるを得なくなった。船用電線21は、バーナー45を停止しても燃焼が止まらず、別途水消火した。当然、船用電線21は焼損してしまっていた。
【0024】
これに対し、まず40cm幅の延焼防止シート1を巻き付けた船用電線の束2の場合、巻き付けた延焼防止シート1より下の船用電線21は上述同様に燃焼し、また延焼防止シート1自体も火炎に包まれたが、延焼防止シート1より上の船用電線21には延焼が確認されなかった。バーナー45による40分の燃焼を終えた後、船用電線21を破断して確認したところ、船用電線21の外皮は熱による硬化又は膨張が確認され、延焼防止シート1より下の船用電線21に焼損が見られたものの、延焼防止シート1に包まれた部分から上の船用電線21に焼損はほとんど見られなかった。これは、60cm幅の延焼防止シート1を巻き付けた船用電線の束2についても同様であった。
【0025】
これから、延焼防止シートを巻き付けない船用電線の束2と延焼防止シート1を巻き付けた船用電線の束2とを比較することで、本発明の延焼防止シート1の延焼防止性能が確認された。また、この評価試験は、IEC60332-3-22に基づくものであったから、本発明の延焼防止シート1は前記IEC60332-3-22に基づく延焼防止基準を満たしているものと言える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の延焼防止シートの一例を表した斜視図である。
【図2】船用電線の束に延焼防止シートを巻き付けた一態様を表す斜視図である。
【図3】試験装置の外観を表す斜視図である。
【図4】船用電線の束に延焼防止シートを巻き付けた試験体の斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 延焼防止シート
11 基体シート
12 熱膨張シート
13 ロール
2 船用電線の束
21 船用電線
31 針金
4 試験装置
41 出入り口
42 吸気口
43 排気口
44 梯子(ラダー)
45 バーナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延焼防止性能を有さない船用電線を束ねて敷設する際、前記船用電線に延焼防止措置を講ずる船用電線延焼防止シートであって、熱により膨張又は変形しない不燃性又は難燃性の基体シートを外層とし、熱により膨張する熱膨張性部材を主とした不燃性又は難燃性の熱膨張シートを内層として、平面視形状が略等しい基体シート及び熱膨張シートを重ねて一体にしてなり、熱膨張シートは熱により膨張する鉱物粉末をバインダでシート状に形成してなる船用電線延焼防止シート。
【請求項2】
熱膨張シートは、熱により膨張する鉱物粉末と無機繊維とを混在させて一体にバインダでシート状に形成してなる請求項1記載の船用電線延焼防止シート。
【請求項3】
鉱物粉末は、未焼成のバーミキュライトである請求項1又は2いずれか記載の船用電線延焼防止シート。
【請求項4】
無機繊維は、セラミックファイバである請求項2記載の船用電線延焼防止シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate