説明

船舶のローンチングシステム

【課題】投資費用の節減と作業効率を大幅に向上することのできる船舶のローンチングシステムを提供する。
【解決手段】船舶の船体5を支えて移動可能な複数の移動手段と、これらの移動手段を直線方向に沿って案内するガイドレール20と、を備えてなる船舶のローンチングシステムにおいて、前記ガイドレール20は、長手方向および幅方向に対して選択的に船体5を移動可能な格子構造を有することを特徴とする。ガイドレールを格子構造にして長手方向と幅方向に対して選択的に船体を移動可能にすることにより、既存の作業場をそのまま活用して先行搭載と搭載場として同時に使用可能となり、且つ、台車の活用を極大化させ、大型クレーンの使用を極力抑えることが可能になる。しかも、同時に複数のブロックを大組立や中組立に制限されることなく作業可能となるなど手狭いヤード敷地の活用を極大化させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船舶のローンチングシステムに係り、さらに詳しくは、ガイドレールを格子構造にして長手方向と幅方向に対して選択的に船体を移動可能にすることにより、既存の作業場をそのまま活用して先行搭載と搭載場として同時に使用可能となって、投資費用の節減を極大化させるようにし、且つ、台車の活用を極大化させ、これにより、大型クレーンの使用を極力抑えることが可能になって、作業効率が大幅に向上し、しかも、同時に複数のブロックを大組立や中組立に制限されることなく作業可能となるなど手狭いヤード敷地の活用を極大化させることが可能となり、加えて、進水及びロードアウトの計算や作業に対する柔軟性を発揮することができて建造時期も早めることができるなど回転率の極大化を可能にする船舶のローンチングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海外に貨物を運送する船舶は超大型に製作されるが、このような超大型船舶の製作は完成後に陸上から海上に搬送することが困難である点に鑑みて、ドライドックにいおいて船舶を建造した後、ドックの内部に水を満たして船を進水する工法を利用している。
【0003】
かようなドライドックを用いた船体の建造作業は、ドライドックを建設するのに高いコストと敷地が必要となり、その運用に際しても高いコストがかかるため、船舶の建造注文量が一定ではないということを考慮すれば、大規模のドライドックを用いた船体の建造作業は非経済的であるといえる。
【0004】
一方、かようなドライドックを利用することなく、陸上において船体を構成するそれぞれの部分を別々に分離して製造した後に使用現場に移動させて組み立てる作業方法がある。
【0005】
すなわち、上記の如き作業方法により超大型に製作された重量構造物を移動させたり、荷積みまたは荷下ろしするために、図1に示すように、所望の個所まで一字状ガイドレール2を設け、このガイドレール2上において当該船体を支えた状態で移動可能にする複数の台車(図示せず)を備える船舶のローンチングシステムが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の技術による船舶のローンチングシステムは、一字状ガイドレールに沿って長手方向にしか搭載できないため、基本的に搭載のみのためのヤード空間の活用により空間効率性に劣ることはもちろん、台車活用と共に大型クレーンの使用も必要になるなど作業効率に劣り、しかも、船舶のブロック作業にのみ制限されているため敷地の活用が消極的にならざるを得ず、進水及びロードアウト計算や作業に対する柔軟性に制限を受けるなどの問題点を有していた。
【0007】
この発明は上記の如き問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、ガイドレールを格子構造にして長手方向と幅方向に対して選択的に船体を移動可能にすることにより、既存の作業場をそのまま活用して先行搭載と搭載場として同時に使用可能となって、投資費用の節減を極大化させるようにし、且つ、台車の活用を極大化させ、これにより、大型クレーンの使用を極力抑えることが可能になって、作業効率が大幅に向上し、しかも、同時に複数のブロックを大組立や中組立に制限されることなく作業可能となるなど手狭いヤード敷地の活用を極大化させることが可能となり、加えて、進水及びロードアウトの計算や作業に対する柔軟性を発揮することができて建造時期も早めることができるなど回転率の極大化を可能にする船舶のローンチングシステムを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するためになされたこの発明に係る船舶のローンチングシステムは、船舶の船体を支えて移動可能な複数の移動手段と、これらの移動手段を直線方向に沿って案内するガイドレールと、を備えてなる船舶のローンチングシステムにおいて、前記ガイドレールは、長手方向および幅方向に対して選択的に船体(5)を移動可能な格子構造を有することを特徴とする。
【0009】
また、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記移動手段は、船体の底面を支える架台及びこの架台を上面に載置して車輪を用いて移動する台車からなることが好ましい。
【0010】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記移動手段の架台と船体との間に船体保護部がさらに設けられることが好ましい。
【0011】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記船体保護部は、薄板構造の木材質からなることが好ましい。
【0012】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記架台と台車との間には、この架台を昇降可能な昇降手段がさらに介装されていることが好ましい。
【0013】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記昇降手段は、台車の上面に固設されるシリンダーと、このシリンダーに対して上下に出没しながら架台を昇降するピストンロッドと、を備えてなることが好ましい。
【0014】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記ガイドレールは、その底面に地面と密着されると共に所定の厚さを有するベース板が設けられ、このベース板の上面から上方に所定の高さだけ突出し、その上面に台車の車輪が載置されて転動が行えるようにする長尺の四角棒状を呈することが好ましい。
【0015】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記ガイドレールの上面における幅方向の両端部に、台車の車輪が幅方向に離脱することを防ぐために上方に突出された抜け止め突部がそれぞれ設けられることが好ましい。
【0016】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記長手方向ガイドレールは、互いに等間隔にて離隔して長手方向の全体に亘って延在する複数のレール構造を有し、前記幅方向ガイドレールは、互いに部分別に分離された船体の船頭部、船中央部及び船尾部をそれぞれ幅方向に移動可能に当該分離された部分船体が位置する個所に幅方向に沿って複数のレール群が配列されるが、これらのそれぞれはさらに部分船体同士の接触を回避可能にする安全距離が維持されるようにして配列される構造を有することが好ましい。
【0017】
さらに、この発明に係る船舶のローンチングシステムにおいて、前記幅方向ガイドレールの複数のレール群は、分割された部分船体が幅方向移動時にこの部分船体の重心を正確に支えるように2ラインレールが互いに等間隔をなして複数配列される構造を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
この発明の一実施の形態による船舶のローンチングシステムは、ガイドレールを格子構造にして長手方向と幅方向に対して選択的に船体を移動可能にすることにより、既存の作業場をそのまま活用して先行搭載と搭載場として同時に使用可能となって、投資費用の節減を極大化させるようにし、且つ、台車の活用を極大化させ、これにより、大型クレーンの使用を極力抑えることが可能になって、作業効率が大幅に向上し、しかも、同時に複数のブロックを大組立や中組立に制限されることなく作業可能となるなど手狭いヤード敷地の活用を極大化させることが可能となり、加えて、進水及びロードアウトの計算や作業に対する柔軟性を発揮することができて建造時期も早めることができるなど回転率の極大化を可能にするなどの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の技術による船舶のローンチングシステムのガイドレールを示す概略平面図である。
【図2】この発明の一実施の形態による船舶のローンチングシステムのガイドレールを示す概略平面図である。
【図3】この発明の一実施の形態による船舶のローンチングシステムのガイドレールを示す横断面図である。
【図4】この発明の一実施の形態による船舶のローンチングシステムの船体運搬用台車を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に基づき、上記のような構成を有するこの発明を詳述する。
【0021】
図2乃至図4に示すように、この発明の一実施の形態による船舶のローンチングシステムは、船舶の船体5を支えて移動可能な複数の移動手段10と、これらの移動手段10を直線方向に沿って案内するガイドレール20と、を備えるが、このガイドレール20は長手方向と幅方向に対して選択的に船体5を移動可能に格子構造を有する。
【0022】
前記移動手段10は、船体5の底面を支える架台11及びこの架台11を上面に載置して車輪12aを用いて移動する台車12からなる。
【0023】
そして、前記移動手段10の架台11と船体5との間には船体保護部30が設けられている。
【0024】
ここで、前記船体保護部30は、薄板構造の木材材質からなることが好ましい。
【0025】
さらに、前記架台11と台車12との間には、この架台11を昇降可能な昇降手段40が介装されている。
【0026】
ここで、前記昇降手段40は、台車12の上面に固設されているシリンダー41と、このシリンダー41に対して上下に出没しながら架台11を昇降するピストンロッド42と、を備えてなる。
【0027】
そして、前記ガイドレール20は、その底面に地面と密着されると共に、所定の厚さを有するベース板21が設けられ、このベース板21の上面から上方に所定の高さだけ突出され、その上面に台車12の車輪12aが載置されて転動が行えるようにする長尺の四角棒状を呈する。
【0028】
ここで、前記台車12の車輪12aは、ガイドレール20の長手方向に沿って進行していて幅方向に切り替え易いようにカートなどの通常の軸回転方向切替構造を有することが好ましい。
【0029】
さらに、前記ガイドレール20の上面における幅方向の両端部には台車12の車輪12aが幅方向に離脱することを防ぐために上方に突出された抜け止め突部20aがそれぞれ設けられている。
【0030】
そして、前記長手方向ガイドレール20は、互いに等間隔にて離隔して長手方向の全体に亘って延在する複数のレール構造を有し、前記幅方向ガイドレール20は、互いに部分別に分離された船体5の船頭部、船中央部及び船尾部をそれぞれ幅方向に移動可能に当該分離された部分船体が位置する個所に幅方向に沿って複数のレール群が配列されるが、これらのそれぞれはさらに部分船体同士の接触を回避可能にする安全距離が維持されるようにして配列される構造を有する。
【0031】
さらに、前記幅方向ガイドレール20の複数のレール群は、分割された部分船体が幅方向移動時にこの部分船体の重心を正確に支えるように2ラインレールが互いに等間隔をなして複数配列される構造を有する。
【0032】
このような構成を有するこの発明の一実施の形態による船舶のローンチングシステムは、ガイドレール20の上に船体5を運搬するための複数の台車12を配置し、これらの台車12の上に架台11を設け、その架台11の上面に船体保護部30を介在して架台11の上に船体5が載置されるようにして船体の移動準備を完了する。
【0033】
この状態で、船体5を押してガイドレール20に沿ってこの船体5が長手方向に移動されるようにし、前記ガイドレール20の長手方向に沿って移動されていて幅方向に方向を切り替えようとする場合、互いの交差点である幅方向のガイドレール20の位置に達した後、長手方向に船体5を押す力を止め、幅方向に船体5を押せば、軸回転方向切替可能な構造となっている台車12の車輪12aが方向を切り替えて幅方向への移動が可能となる。
【0034】
一方、方向切替ができない台車12の車輪12aを用いて、長手方向にせよ、幅方向にせよ、予め所望の方向にのみ船体5を移動させることもできる。
【0035】
そして、船体5の移動中または移動後のどの場合であっても当該船体5の高低の調節が必要であると認められる場合、昇降手段40のピストンロッド42を昇降出没して架台11を所望の高さだけその位置調整を行うことが可能となる。
【0036】
このように、格子構造のガイドレール20を用いて、船体5を長手方向であるが、幅方向であるが、所望の方向に移動可能にすることにより、作業場の空間を効率よく活用することができ、船体5を迅速で且つ円滑に移動させることが可能になる。
【0037】
以上、この発明の好適な実施の形態を説明したが、前記実施の形態を既存の公知の技術と単純に組み合わせて適用した実施の形態はもちろん、この発明の特許請求の範囲と詳細な説明においてこの発明が属する技術分野の当業者がこの発明を単純に変形して利用できる程度の技術はこの発明の技術範囲に当然のことながら含まれると認めるべきである。
【符号の説明】
【0038】
2:ガイドレール
5:船体
10:移動手段
11:架台
12:台車
12a:車輪
20:ガイドレール
20a:抜け止め突部
21:ベース板
30:船体保護部
40:昇降手段
41:シリンダー
42:ピストンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船体(5)を支えて移動可能な複数の移動手段(10)と、これらの移動手段(10)を直線方向に沿って案内するガイドレール(20)と、を備えてなる船舶のローンチングシステムにおいて、前記ガイドレール(20)は、長手方向および幅方向に対して選択的に船体(5)を移動可能な格子構造を有することを特徴とする船舶のローンチングシステム。
【請求項2】
前記移動手段(10)は、船体(5)の底面を支える架台(11)及びこの架台(11)を上面に載置して車輪(12a)を用いて移動する台車(12)からなることを特徴とする請求項1に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項3】
前記移動手段(10)の架台(11)と船体(5)との間に船体保護部(30)がさらに設けられることを特徴とする請求項2に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項4】
前記船体保護部(30)は、薄板構造の木材質からなることを特徴とする請求項3に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項5】
前記架台(11)と台車(12)との間には、この架台(11)を昇降可能な昇降手段(40)がさらに介装されていることを特徴とする請求項2に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項6】
前記昇降手段(40)は、台車(12)の上面に固設されるシリンダー(41)と、このシリンダー(41)に対して上下に出没しながら架台(11)を昇降するピストンロッド(42)を含むことを特徴とする請求項5に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項7】
前記ガイドレール(20)は、その底面に地面と密着されると共に所定の厚さを有するベース板(21)が設けられ、このベース板(21)の上面から上方に所定の高さだけ突出し、その上面に台車(12)の車輪(12a)が載置されて転動が行えるようにする長尺の四角棒状を呈することを特徴とする請求項2に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項8】
前記ガイドレール(20)の上面における幅方向の両端部に、台車(12)の車輪(12a)が幅方向に離脱することを防ぐために上方に突出された抜け止め突部(20a)がそれぞれ設けられることを特徴とする請求項7に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項9】
前記長手方向ガイドレール(20)は、互いに等間隔にて離隔して長手方向の全体に亘って延在する複数のレール構造を有し、前記幅方向ガイドレール(20)は、互いに部分別に分離された船体(5)の船頭部、船中央部及び船尾部をそれぞれ幅方向に移動可能に当該分離された部分船体が位置する個所に幅方向に沿って複数のレール群が配列されるが、これらのそれぞれはさらに部分船体同士の接触を回避可能にする安全距離が維持されるようにして配列される構造を有することを特徴とする請求項7に記載の船舶のローンチングシステム。
【請求項10】
前記幅方向ガイドレール(20)の複数のレール群は、分割された部分船体が幅方向移動時にこの部分船体の重心を正確に支えるように2ラインレールが互いに等間隔をなして複数配列される構造を有することを特徴とする請求項9に記載の船舶のローンチングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−178387(P2011−178387A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42153(P2011−42153)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(511008861)エスティーエックス オフショア・アンド・シップビルディング カンパニー リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】STX Offshore & Shipbuilding Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】100, Wonpo−dong, Jinhae−si, Gyeongsangnam−do 645−703, Korea