説明

船舶の抵抗低減装置

【課題】気泡流が船底から船体側方に逸脱することを防止する気体保持構造に割れが生じることが防止される船舶の抵抗低減装置を提供する。
【解決手段】船舶の抵抗低減装置20は、船体10の船底13に設けられた空気吹き出し口31から空気を吹き出す空気吹き出し装置30と、船底13に設けられた複数の気体保持構造41、42とを具備する。複数の気体保持構造41、42の各々は、船体10の前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板51、52を備える。複数の気体保持板51、52は、前後方向Xに隙間61、62が設けられるように配列される。複数の気体保持構造41、42は、船底13の左舷側縁部分13aに配置された第1気体保持構造41と、船底13の右舷側縁部分13bに配置された第2気体保持構造42とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気吹き出しにより船体の摩擦抵抗を低減する抵抗低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航行時に船底面を気泡流で覆うことにより船体摩擦抵抗を低減する技術が知られている。
【0003】
図1A、1Bを参照して、特許文献1の船体摩擦抵抗低減装置を説明する。船舶の船底部1の船首側に気体室2が設けられている。気体室2は船幅方向に形成されている。左右一対の気体保持板5が船底両舷部に沿って船首から船尾にかけて設けられている。気体室2から水中へ気体が吹き出され、船底面に沿い後方へ流れる気泡流が発生する。気体保持板5により気泡流の船体側方への逸脱が防止される。このようにして、船体の摩擦抵抗が軽減される。
【0004】
本発明者は、図1A、1Bに示されるように気体保持板5が船体の前後方向に沿って連続的に設けられる場合、船体のサギングやホギングにより気体保持板5に縦曲げが生じて気体保持板5の船体中央部近傍位置に割れが生じる可能性があることに気がついた。更に気体保持板5が船体に溶接されている場合、気体保持板5の割れにより生じたクラックが船体に達して船体が割れてしまうリスクがある。
【0005】
特許文献2は他の船体摩擦抵抗低減装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−143345号公報
【特許文献2】特開2008−114710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、気泡流が船底から船体側方に逸脱することを防止する気体保持構造に割れが生じることが防止される船舶の抵抗低減装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0009】
本発明による船舶の抵抗低減装置は、船体(10)の船底(13)に設けられた空気吹き出し口(31)から空気を吹き出す空気吹き出し装置(30)と、前記船底に設けられた複数の気体保持構造(41〜45)とを具備する。前記複数の気体保持構造の各々は、前記船体の前後方向(X)に沿って配列された複数の気体保持板(51〜55)を備える。前記複数の気体保持板は、前記前後方向に隙間(61〜65)が設けられるように配列される。前記複数の気体保持構造は、前記船底の左舷側縁部分(13a)に配置された第1気体保持構造(41)と、前記船底の右舷側縁部分(13b)に配置された第2気体保持構造(42)とを含む。
【0010】
前記複数の気体保持構造は、前記左舷側縁部分に配置された第3気体保持構造(43)と、前記右舷側縁部分に配置された第4気体保持構造(44)とを含む。前記第1気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間と前記第3気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間とは、前記前後方向の位置がずれている。前記第2気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間と前記第4気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間とは、前記前後方向の位置がずれている。
【0011】
前記複数の気体保持構造の数が3以上である。前記複数の気体保持構造は、前記船体の左右方向(Y)に等間隔に配置される。
【0012】
前記複数の気体保持構造から任意に選択される互いに隣り合う二つの気体保持構造のうちの一方側気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間と前記二つの気体保持構造のうちの他方側気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間とは、前記前後方向の位置がずれている。
【0013】
前記複数の気体保持板の各々は、R又は傾斜が形成された前方側エッジ(51a)と、R又は傾斜が形成された後方側エッジ(51b)とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、気泡流が船底から船体側方に逸脱することを防止する気体保持構造に割れが生じることが防止される船舶の抵抗低減装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、従来の船体摩擦抵抗低減装置を備えた船舶の側面図である。
【図1B】図1Bは、従来の船体摩擦抵抗低減装置を備えた船舶の底面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の第1の実施形態に係る抵抗低減装置を備えた船舶の底面図である。
【図2B】図2Bは、第1の実施形態に係る抵抗低減装置を備えた船舶の側面図である。
【図3】図3は、第1の実施形態に係る気体保持構造の気泡を保持する効果を説明する模式図である。
【図4A】図4Aは、第1の実施形態の第1変形例に係る気体保持板を示す。
【図4B】図4Bは、第1の実施形態の第2変形例に係る気体保持板を示す。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態に係る抵抗低減装置を備えた船舶の底面図である。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態に係る抵抗低減装置を備えた船舶の底面図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係る気体保持構造のローリング時における気泡を保持する効果を示す模式図である。
【図8】図8は、第3の実施形態に係る気体保持構造のローリング時における気泡を保持する効果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明による船舶の抵抗低減装置を実施するための形態を以下に説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図2Aを参照して、本発明の第1の実施形態に係る抵抗低減装置20が設けられた船体10は、船首11と、船尾12と、船底13と、左舷14と、右舷15と、プロペラ16と、舵17を備える。船底13は、左舷側縁部分13aと、右舷側部分13bを含む。船体10の前後方向及び左右方向が、それぞれX及びYで示されている。
【0018】
抵抗低減装置20は、空気吹き出し装置30と、気体保持構造41及び42とを備える。空気吹き出し装置30は、船底13の船首11側部分に設けられた空気吹き出し口31から水中に空気を吹き出す。気体保持構造41は、空気吹き出し口31よりも船尾12側に配置されるように、左舷側縁部分13aに設けられている。気体保持構造42は、空気吹き出し口31よりも船尾12側に配置されるように、右舷側縁部分13bに設けられている。
【0019】
気体保持構造41は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板51を備える。各気体保持板51は船底13から下方に突き出している。複数の気体保持板51は、前後方向Xに隙間61が設けられるように配列されている。
【0020】
気体保持構造42は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板52を備える。各気体保持板52は船底13から下方に突き出している。複数の気体保持板52は、前後方向Xに隙間62が設けられるように配列されている。
【0021】
図2Bを参照して、空気吹き出し装置30は、空気を吹き出すためのコンプレッサ又はブロワ32を備える。
【0022】
図3を参照して、航行中に空気吹き出し装置30が空気吹き出し口31から水中に吹き出した空気によって形成された気泡70は、船底13を覆うように後方に向かって流れる気泡流を形成する。この気泡70によって船体10の摩擦抵抗が低減される。気体保持構造41及び42は、気泡70が浮力により船底13から船体10側方に逸脱することを防止する。
【0023】
更に、気体保持構造41が前後方向Xに延びる連続した単一の気体保持板から構成されずに隙間61が設けられた複数の気体保持板51から構成され、気体保持構造42が前後方向Xに延びる連続した単一の気体保持板から構成されずに隙間62が設けられた複数の気体保持板52から構成されるため、サギングやホギングにより船体10に縦曲げが生じても気体保持構造41及び42(気体保持板51及び52)に割れが生じることが防止される。その結果、気体保持構造41及び42が船底13に溶接されている場合であっても、サギングやホギングにより船体10が割れてしまうことが防止される。
【0024】
(第1の実施形態の第1変形例)
図4Aを参照して、第1の実施形態の第1変形例を説明する。第1変形例に係る気体保持板51が備える前方側エッジ51aにRが形成され、気体保持板51が備える後方側エッジ51bにRが形成されている。このRにより、応力集中領域80における応力集中が低減される。同様に、気体保持板52が備える前方側エッジにRが形成され、気体保持板52が備える後方側エッジにRが形成されている。
【0025】
(第1の実施形態の第2変形例)
図4Bを参照して、第1の実施形態の第2変形例を説明する。第2変形例に係る気体保持板51が備える前方側エッジ51aに傾斜が形成され、気体保持板51が備える後方側エッジ51bに傾斜が形成されている。前方側エッジ51a及び後方側エッジ51bは船底13に対して傾斜している。すなわち、前方側エッジ51a及び後方側エッジ51bが三角形に形成される。この傾斜により、応力集中領域80における応力集中が低減される。同様に、気体保持板52が備える前方側エッジに傾斜が形成され、気体保持板52が備える後方側エッジに傾斜が形成されている。なお、前方側エッジ及び後方側エッジの一方にRが形成され、前方側エッジ及び後方側エッジの他方に傾斜が形成されてもよい。
【0026】
(第2の実施形態)
図5を参照して、本発明の第2の実施形態に係る抵抗低減装置20を説明する。本実施形態に係る抵抗低減装置20は、気体保持構造43及び44を更に備える点を除いて第1の実施形態に係る抵抗低減装置20と同様である。気体保持構造43は、空気吹き出し口31よりも船尾12側に配置されるように、左舷側部分13aに設けられている。気体保持構造44は、空気吹き出し口31よりも船尾12側に配置されるように、右舷側部分13bに設けられている。
【0027】
気体保持構造43は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板53を備える。各気体保持板53は船底13から下方に突き出している。複数の気体保持板53は、前後方向Xに隙間63が設けられるように配列されている。
【0028】
複数の気体保持板51及び複数の気体保持板53は、隙間61と隙間63の前後方向Xの位置がずれるように配置される。例えば、複数の気体保持板51及び複数の気体保持板53は千鳥形配列とされる。
【0029】
気体保持構造44は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板54を備える。各気体保持板54は船底13から下方に突き出している。複数の気体保持板54は、前後方向Xに隙間64が設けられるように配列されている。
【0030】
複数の気体保持板52及び複数の気体保持板54は、隙間62と隙間64の前後方向Xの位置がずれるように配置される。例えば、複数の気体保持板52及び複数の気体保持板54は千鳥形配列とされる。
【0031】
本実施形態によれば、隙間61と隙間63の前後方向Xの位置がずれているために隙間61及び隙間63を通って気泡70が船底13から船体10側方に逸脱することが防止され、隙間62と隙間64の前後方向Xの位置がずれているために隙間62及び隙間64を通って気泡70が船底13から船体10側方に逸脱することが防止される。
【0032】
(第3の実施形態)
図6を参照して、本発明の第3の実施形態に係る抵抗低減装置20を説明する。本実施形態に係る抵抗低減装置20は、気体保持構造43乃至45を更に備える点を除いて第1の実施形態に係る抵抗低減装置20と同様である。気体保持構造43乃至45は、空気吹き出し口31よりも船尾12側に配置され且つ気体保持構造41及び42の間に配置されるように、船底13に設けられている。
【0033】
気体保持構造43は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板53を備える。複数の気体保持板53は、前後方向Xに隙間63が設けられるように配列されている。各気体保持板53は船底13から下方に突き出している。気体保持構造44は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板54を備える。複数の気体保持板54は、前後方向Xに隙間64が設けられるように配列されている。各気体保持板54は船底13から下方に突き出している。気体保持構造45は、前後方向Xに沿って配列された複数の気体保持板55を備える。複数の気体保持板55は、前後方向Xに隙間65が設けられるように配列されている。各気体保持板55は船底13から下方に突き出している。気体保持構造41乃至45は、左右方向Yに等間隔に配置されている。
【0034】
図7を参照して、本実施形態に係る気体保持構造41乃至45の効果の理解を助けるため、第1の実施形態に係る気体保持構造41及び42のローリング時における気泡を保持する効果を説明する。気泡70は気体保持構造41と気体保持構造42の間で自由に移動できるため、ローリングにより右舷15が持ち上がると、浮力により気泡70が気体保持構造42の近傍の一箇所に集まる。このため、気泡70の分布にムラができ、摩擦抵抗低減効果が減少する。
【0035】
図8を参照して、第3の実施形態に係る気体保持構造41乃至45のローリング時における気泡を保持する効果を説明する。気体保持構造43乃至45が気体保持構造41と気体保持構造42との間に設けられているため、気泡70は気体保持構造41と気体保持構造42の間で自由に移動できない。このため、ローリングにより右舷15が持ち上がっても気泡70が一箇所に集まらない。したがって、気泡70の分布にムラができず、摩擦抵抗低減効果が減少しない。
【0036】
本実施形態において、気体保持構造41乃至45から任意に選択される互いに隣り合う二つの気体保持構造の間で隙間の前後方向Xの位置がずれていることが好ましい。具体的には、気体保持構造41及び43が互いに隣り合い、気体保持構造43及び45が互いに隣り合い、気体保持構造45及び44が互いに隣り合い、気体保持構造44及び42が互いに隣り合う場合、隙間61と隙間63の前後方向Xの位置がずれており、隙間63と隙間65の前後方向Xの位置がずれており、隙間65と隙間64の前後方向Xの位置がずれており、隙間64と隙間62の前後方向Xの位置がずれていることが好ましい。例えば、複数の気体保持板51、複数の気体保持板53、複数の気体保持板55、複数の気体保持板54、及び複数の気体保持板52は千鳥形配列とされる。互いに隣り合う二つの気体保持構造の間で隙間の前後方向Xの位置がずれていることで、気泡70の左右方向Yの移動がより制限される。
【0037】
以上、気体保持構造41及び42に加えて3つの気体保持構造が設けられる場合を説明したが、気体保持構造41及び42に加えて少なくとも一つの気体保持構造が設けられてもよい。
【0038】
なお、上記実施形態どうしを組み合わせることが可能である。例えば、気体保持板53乃至55のエッジにR又は傾斜を形成することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…船底部
2…気体室
5…気体保持板
10…船体
11…船首
12…船尾
13…船底
13a…左舷側縁部
13b…右舷側縁部
14…左舷
15…右舷
16…プロペラ
17…舵
20…抵抗低減装置
30…空気吹き出し装置
31…空気吹き出し口
32…コンプレッサ又はブロワ
41〜45…気体保持構造
51〜55…気体保持板
51a…前方側エッジ
51b…後方側エッジ
61〜65…隙間
70…気泡
80…応力集中領域
X…前後方向
Y…左右方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の船底に設けられた空気吹き出し口から空気を吹き出す空気吹き出し装置と、
前記船底に設けられた複数の気体保持構造と
を具備し、
前記複数の気体保持構造の各々は、前記船体の前後方向に沿って配列された複数の気体保持板を備え、
前記複数の気体保持板は、前記前後方向に隙間が設けられるように配列され、
前記複数の気体保持構造は、
前記船底の左舷側縁部分に配置された第1気体保持構造と、
前記船底の右舷側縁部分に配置された第2気体保持構造と
を含む
船舶の抵抗低減装置。
【請求項2】
前記複数の気体保持構造は、
前記左舷側縁部分に配置された第3気体保持構造と、
前記右舷側縁部分に配置された第4気体保持構造と
を含み、
前記第1気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間と前記第3気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間とは、前記前後方向の位置がずれており、
前記第2気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間と前記第4気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間とは、前記前後方向の位置がずれている
請求項1の船舶の抵抗低減装置。
【請求項3】
前記複数の気体保持構造の数が3以上であり、
前記複数の気体保持構造は、前記船体の左右方向に等間隔に配置された
請求項1の船舶の抵抗低減装置。
【請求項4】
前記複数の気体保持構造から任意に選択される互いに隣り合う二つの気体保持構造のうちの一方側気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間と前記二つの気体保持構造のうちの他方側気体保持構造における前記複数の気体保持板の前記隙間とは、前記前後方向の位置がずれている
請求項3の船舶の抵抗低減装置。
【請求項5】
前記複数の気体保持板の各々は、
R又は傾斜が形成された前方側エッジと、
R又は傾斜が形成された後方側エッジと
を備える
請求項1乃至4のいずれかに記載の船舶の抵抗低減装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−213324(P2011−213324A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85930(P2010−85930)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)