説明

船舶

【課題】船首部において、船体による水面の攪乱の度合を小さくすることにより、砕破現象を減少する等して、波浪中抵抗増加を低減することができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶の船長方向に関して船首垂線F.P.から後方の垂線間長Lppの0.5%以上5%以下の間の船首フレアFs、F1〜F3の横断面の形状において、船首フレアFs、F1〜F3が傾斜を開始する位置ps、p1〜p3を、満載喫水線Z0よりも垂線間長Lppの0.5%上側の位置より上で、且つ、満載喫水線Z0よりも垂線間長(Lpp)の2%上側の位置より下の範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、満載状態における波浪中の推進性能を向上できる船舶に関し、より詳細には、波浪中の船首部における水面の上下変位及び船首部の運動に起因する砕破現象等による抵抗増加を減少できる船首部の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の波浪中抵抗増加を低減させる方法として、船首形状を満載吃水水線面積よりも狭小な暴露甲板面積をもつように形成したり、船首バルブと船首上部の間の満載吃水線近傍の船首端部に尖端縁を前方に向け平水面を貫通するように楔状付加物を装着したりして、水面に平行な断面を示す水線面形状で見たときの船首端部における水線の傾斜角を小さくして、正面からの波を正面に反射するのを小さくすることが行われている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
また、船首垂線(FP)より前方で、且つ、最大喫水線よりも上側のすべての水線面における、船体中心線上の船体前端の点と、船体前端から計った水平距離(0.02×LOA)後方位置の垂直面と水線面形状との交点を結んだ直線の、船体中心線から計った角度γを、0°<γ≦50°に設定し、船首部分をできるだけ尖らせて、船首での前方への波反射、波崩れ現象を緩和して、波浪中抵抗増加を低減する肥大船が提案されている( 例えば、特許文献3参照。) 。
【0004】
これらは、波浪中を航行する船体が受ける抵抗は、平水中で受ける抵抗の他に、波浪中での船体の運動によるエネルギーの無限遠方への散逸に起因する成分と、入射波の反射によるエネルギーの無限遠方への散逸に起因する成分に分けられると考え、水線面形状を船首端に向けて尖った形にすることによって特に反射の成分を低減させることを目的としている。
【0005】
しかしながら、船体近傍で見たときに、これらの無限遠方に散逸するエネルギーの他に船首近傍で発生する破砕現象によるエネルギー消費も抵抗増加に繋がる。この破砕現象は特に肥大船のように船首が太った船型に顕著に見られる。この破砕現象は、非線形な現象であり、完全に解明されたわけではないが、出来るだけ非線形な影響を少なくすることが、砕破現象を低減させるのに効果があると考えられる。
【特許文献1】特開昭58−149884号公報
【特許文献2】特開平08−142974号公報
【特許文献3】特許第3279284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、船首部において、船体による水面の攪乱の度合を小さくすることにより、砕破現象を減少する等して、波浪中抵抗増加を低減することができる船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の船舶は、船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)から後方の垂線間長(Lpp)の0.5%以上5%以下の間の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアが傾斜を開始する位置を、満載喫水線よりも垂線間長(Lpp)の0.5%上側の位置より上で、且つ、満載喫水線よりも垂線間長(Lpp)の2%上側の位置より下の範囲内とする。
【0008】
この船首フレアが傾斜を開始する位置とは、船首フレアの傾斜面と船首部の略垂直な船体部分が直線状に交差している場合は、その交点を言い、船首フレアの傾斜面と船首部の略垂直な船体部分が直線状に交差していない場合は、船首フレアの傾斜面の延長と船首部の略垂直な船体部分の延長との交点のことを言う。なお、船首フレアの傾斜面の延長線が定まらないときは、垂直線に対して30°となる船首フレアの接線と船首部の略垂直な船体部分の延長との交点のことを言う。
【0009】
この構成により、船首部の船首フレアの傾斜が始まる位置が高くなり、船体と水面の垂直方向の相対運動における船体の部分の変化率が小さくなる。従って、船体による水面の攪乱の度合が小さくなり、砕破現象が小さくなるので、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0010】
なお、船首垂線(F.P.)から後方の垂線間長(Lpp)の0.5%以上5%以下の間とするのは、この部分で砕破現象が発生し易いからであり、船首フレアが傾斜を開始する位置を、満載喫水線よりも垂線間長(Lpp)の0.5%上側の位置より上で、且つ、満載喫水線よりも垂線間長(Lpp)の2%上側の位置より下の範囲内、即ち、0.5%Lpp以上2%Lppの範囲内とするのは、この範囲内とすることで、平水中の造波抵抗の減少だけでなく、砕破現象を低減する効果が生じるからである。この垂線間長(Lpp)の0.5%上側の位置より上とするのは、これより低いと砕破現象を低減する効果が少なくなるからであり、また、垂線間長(Lpp)の2%上側の位置より下とするのは、これより高いと船首甲板の面積を確保するのが難しくなるからである。
【0011】
あるいは、上記の目的を達成するための本発明の船舶は、船首垂線(F.P.)の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアの傾斜の開始位置と満載喫水線よりも2%Lpp上側の船首フレアの位置とを結ぶ直線を垂直方向に対して30°以上50°以下とすると共に、船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)と船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の5%の位置と間で、船首フレアの横断面の形状において、船首フレアの傾斜の開始位置と満載喫水線よりも2%Lpp上側の船首フレアの位置とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度を、船長方向に関して前側から後側に向かって同じ又は徐々に減少させて形成する。
【0012】
この構成によれば、船首部近傍の船首フレアの垂直方向に対する傾斜角度が全体的に適正な角度になるので、波面が船首フレア部分で上下変位する際に、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0013】
なお、この傾斜角度を同じとするとは、船首垂線(F.P.)と船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の5%の位置との間で、船首フレアの傾斜角度が同じ傾斜角度を維持することを言い、また、この傾斜角度を徐々に減少とは連続的な減少ではあるが、同じ傾斜角度を部分的に維持し、全体として減少するような場合も含む。この傾斜角度を同じにする構成にすると、船首フレアの傾斜部分が2次元曲げとなり、非常に工作性が良くなる。
【0014】
また、上記の船舶の構成の両方を組み合わせた船舶の構成により、船体と水面の垂直方向の相対運動における船体の部分の変化率が小さくなる。つまり、水面又は船首部が上下に移動したときに、船体側が略垂直に近い状態となっているため、水面での出入りが円滑に行われ、この上下移動に起因する造波が小さくなる。そのため、船体による水面の攪乱の度合が小さくなり砕破現象が小さくなるので、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0015】
上記の船舶において、船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)と船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の5%の位置と間において、船首フレアの傾斜の開始位置より上側で且つ満載喫水線よりも2%Lpp上側の位置よりも下側の範囲内で、船首フレアの横断面における形状を、直線状、又は、上側若しくは船体中心側に凸となる形状に形成すると共に、船首フレアの接線の傾斜角度を垂直方向に対して0°以上70°以下の範囲内とする。
【0016】
この構成によれば、船首部近傍の船首フレアの垂直方向に対する傾斜角度が全体的に適正な角度になるので、波面が船首フレア部分で上下変位する際に、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0017】
上記の船舶において、船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)から後方の少なくとも垂線間長(Lpp)の0.5%以上5%以下の間の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアが傾斜を開始する位置において、この開始位置より下側の船体部分とこの開始位置より上側の傾斜している船体部分との間を曲線で滑らかに連続させる。
【0018】
この構成によれば、波面が船首フレア部分で上下変位する際に、船体の水線面形状の変化をより滑らかにすることができるので、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。なお、この曲線としては、円弧、楕円弧、サインカーブ(正接曲線)などを採用することができる。
【0019】
また、上記の船舶は、方形係数Cbが0.80〜0.90で、航海速力Vsがフルード数Fn換算で0.12〜0.19の船舶である場合や垂線間長(Lpp)が150m〜350m等の大きな船舶の場合に特に大きな効果を奏することができる。
【0020】
この方形係数Cbは、船舶の排水容積をVとし、船の垂線間長をLpp、型幅をB、型喫水をdとした時に、Cb=V/(Lpp×B×d)となる無次元の値である。
【0021】
このフルード数Fnは、船速Vs(m/s)に関する無次元表示であり、船の垂線間長をLpp(m),重力加速度をg(m/s2 )とした時に、Fn=Vs/(g×Lpp)1/2 となる無次元の値である。なお、航海速力Vsは、計画速力等と呼ばれることもあるので、ここでも、航海速力の中に計画速力を含むものとする。
【0022】
また、本発明は、満載喫水線よりも上側の船首形状に関するものであるので、満載喫水線より下の船体形状に関しては特に限定を必要としない。そのため、船首バルブの有無に関係なく本発明を適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の船舶によれば、船首部において船首フレアの開始点を上に上げたり、船首フレアの傾斜を適当に選択したりすることで、船体と水面の垂直方向の相対変位における船体の水線面形状の変化率を小さくし、これによって船体による水面の攪乱の度合を小さくして砕破現象を減少することができ、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面を参照して本発明に係る船舶の実施の形態について説明する。この実施の形態の船舶は、船舶の排水容積をVとし、船の垂線間長をLpp、型幅をB、型喫水をdとした時の方形係数Cb=V/(Lpp×B×d)が0.80〜0.90で、航海速力Vs(m/s)がフルード数Fn=(Vs/(g×Lpp)1/2 )換算で0.12〜0.19の船舶の場合に本発明の効果が大きいので、このような船舶を例にして説明する。なお、これらの船舶の内でも、垂線間長Lppは150m〜350m等の大きな船舶の場合に本発明は特に大きな効果を奏することができる。なお、重力加速度をg(m/s2 )とする。
【0025】
図1及び図2に、本発明に係る第1の実施の形態の船舶1Aの船首部形状を示す。図1に、実線A0で船首垂線F.P.の横断面における船首フレアF0の形状を、実線Asで船首垂線F.P.から垂線間長Lppの0.5%後方Xsの横断面における船首フレアFsの形状を、実線A1で船首垂線F.P.から垂線間長Lppの1.25%後方X1の横断面における船首フレアF1の形状を、実線A2で垂線間長Lppの2.5%後方X2の横断面における船首フレアF2の形状を、実線A3で垂線間長Lppの5%後方X3の横断面における船首フレアF3の形状を示す。
【0026】
また、図2に、この各横断面の位置F.P.(=X0)、Xs、X1、X2、X3(=Xe)を示す。なお、C.L.は船体中心線を、Z0は満載喫水線を、Z1は上甲板を示す。また、比較のために、図9に従来船型を示すが、実線W0、Ws、W1、W2、W3はそれぞれの位置F.P.(=X0)、Xs、X1、X2、X3(=Xe)に対応する従来船型の横断面における船首フレアの形状を示す。
【0027】
この第1の実施の形態の船舶1Aでは、船舶1Aの船長方向に関して船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの0.5%の位置Xsと5%の位置Xeとの間、即ち、船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの0.5%以上5%以下の間の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアが傾斜を開始する位置を、満載喫水線Z0よりも垂線間長Lppの0.5%上側の位置より上で、且つ、満載喫水線Z0よりも垂線間長Lppの2%上側の位置より下の範囲内として構成される。
【0028】
つまり、図1に示すように、船首フレアFs、F1〜F3の傾斜の開始点ps、p1〜p3の満載喫水Z0からの高さを示すHs、H1〜H3が、0.005Lpp≦Hs、H1,H2,H3≦0.02Lppとなるように船首部の形状を形成する。
【0029】
この船首フレアFs、F1〜F3が船首フレアFs、F1〜F3の傾斜を開始する位置とは、図1に示すように、船首フレアFs、F1〜F3の傾斜面fs、f1〜f3と船首部の略垂直な船体部分vs、v1〜v3が直線状に交差している場合は、その交点を言い、船首フレアFs、F1〜F3の傾斜面fs、f1〜f3と船首部の略垂直な船体部分vs、v1〜v3が直線状に交差していない場合は、船首フレアFs、F1〜F3の傾斜面fs、f1〜f3の延長と船首部の略垂直な船体部分vs、v1〜v3の延長との交点ps、p1〜p3のことを言う。なお、船首フレアFs、F1〜F3の傾斜面fs、f1〜f3の延長線が定まらないときは、垂直線に対して30°となる船首フレアFs、F1〜F3の接線と船首部の略垂直な船体部分vs、v1〜v3の延長との交点のことを言う。
【0030】
なお、この船首部の略垂直な船体部分vs、v1〜v3は、船体と水面の垂直方向の相対変位における船体の水線面形状の変化率を小さくするために、垂直方向に対して、0°から10°が好ましく、更に、0°〜5°にするのがより好ましい。
【0031】
この第1の実施の形態の船舶1Aの構成により、船首部の船首フレアFs、F1〜F3の傾斜が始まる位置ps、p1〜p3が高くなり、船体と水面の垂直方向の相対変位における船体の水線面形状の変化率が小さくなる。従って、船体による水面の攪乱の度合が小さくなり、砕破現象等が小さくなるので、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0032】
次に第2の実施の形態の船舶について説明する。図3又は図4に、実線B0で船首垂線F.P.の横断面における船首フレアF0の形状を、実線Bsで船首垂線F.P.から垂線間長Lppの0.5%後方Xsの横断面における船首フレアFsの形状を、実線B1で船首垂線F.P.から垂線間長Lppの1.25%後方X1の横断面における船首フレアF1の形状を、実線B2で垂線間長Lppの2.5%後方X2の横断面における船首フレアF2の形状を、実線B3で垂線間長Lppの5%後方X3の横断面における船首フレアF3の形状を示す。
【0033】
図3又は図4に示すように、この第2の実施の形態の船舶1Bは、船首垂線F.P.の船首フレアF0の横断面の形状において、船首フレアF0の傾斜の開始位置p0と満載喫水線Z0よりも2%Lpp上側の船首フレアF0の位置q0とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度α0を垂直方向に対して30°以上50°以下とする。
【0034】
また、それと共に、船舶1Bの船長方向に関して船首垂線F.P.と船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの5%の位置Xeとの間で、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の横断面の形状において、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の傾斜の開始位置p0、ps、p1〜p3と満載喫水線Z0よりも2%Lpp上側の船首フレアF0、Fs、F1〜F3の位置q0、qs、q1〜q3とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度α0、αs、α1〜α3を、図3に示すように全て同じに形成するか、又は、図4に示すように徐々に減少させて形成する。即ち、α0≧αs≧α1≧α2≧α3に形成する。なお、この傾斜角度α0、αs、α1〜α3が徐々に減少とは連続的な減少ではあるが、同じ傾斜角度を部分的に維持し、全体として減少するような場合も含む。
【0035】
この船首フレアF0、Fs、F1〜F3、Fsが船首フレアF0、Fs、F1〜F3の傾斜を開始する位置p0、ps、p1〜p3は、第1の実施の形態と同様に定義される。
【0036】
この第2の実施の形態の船舶1Bの構成により、船首部近傍の船首フレアF0、Fs、F1〜F3の垂直方向に対する傾斜角度α0、αs、α1〜α3が全体的に適正な角度になるので、波面が船首フレアF0、Fs、F1〜F3の部分で上下変位する際に、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0037】
次に第3の実施の形態の船舶について説明する。図5又は図6に示すように、この第3の実施の形態の船舶1Cは、第1の実施の形態の船舶1Aの構成に加えて、第2の実施の形態の船舶1Bの構成を加えて形成される。
【0038】
図5又は図6に、実線C0で船首垂線F.P.の横断面における船首フレアF0の形状を、実線Csで船首垂線F.P.から垂線間長Lppの0.5%後方Xsの横断面における船首フレアFsの形状を、実線C1で船首垂線F.P.から垂線間長Lppの1.25%後方X1の横断面における船首フレアF1の形状を、実線C2で垂線間長Lppの2.5%後方X2の横断面における船首フレアF2の形状を、実線C3で垂線間長Lppの5%後方X3の横断面における船首フレアF3の形状を示す。
【0039】
この第3の実施の形態の船舶1Cにおいては、第1の実施の形態の船舶1Aと同様に、図5又は図6に示すように、船首フレアF1〜F3の傾斜の開始点ps、p1〜p3の満載喫水Z0からの高さを示すHs、H1〜H3が、0.005Lpp≦Hs、H1,H2,H3≦0.02Lppとなるように船首部の形状を形成する。なお、この船首部の略垂直な船体部分vs、v1〜v3は、船体と水面の垂直方向の相対変位における船体の水線面形状の変化率を小さくするために、垂直方向に対して、0°から10°が好ましく、更に、0°〜5°にするのがより好ましい。
【0040】
更に、この第3の実施の形態の船舶1Cでは、第2の実施の形態の船舶1Bと同様に、図5又は図6に示すように、船首垂線F.P.の船首フレアF0の横断面の形状において、船首フレアF0の傾斜の開始位置p0と満載喫水線Z0よりも2%Lpp上側の船首フレアF0の位置q0とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度α0を垂直方向に対して30°以上50°以下とする。
【0041】
また、それと共に、船舶1Cの船長方向に関して船首垂線F.P.と船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの5%の位置Xeとの間で、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の横断面の形状において、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の傾斜の開始位置p0、ps、p1〜p3と満載喫水線Z0よりも2%Lpp上側の船首フレアF0、Fs、F1〜F3の位置q0、qs、q1〜q3とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度α0、αs、α1〜α3を、図5に示すように全て同じに形成するか、又は、図6に示すように徐々に減少させて形成する。即ち、α0≧αs≧α1≧α2≧α3に形成する。なお、この傾斜角度α0、αs、α1〜α3が徐々に減少とは連続的な減少ではあるが、同じ傾斜角度を部分的に維持し、全体として減少するような場合も含む。
【0042】
この船首フレアF0、Fs、F1〜F3が船首フレアF0、Fs、F1〜F3の傾斜を開始する位置p0,ps、p1〜p3や船首フレアF0、Fs、F1〜F3の傾斜角度α0、αs、α1〜α3の定義は第1及び第2のの実施の形態と同じである。
【0043】
この構成により、第1の実施の形態と第2の実施の形態の両方の作用効果を発揮することができ、船体による水面の攪乱の度合が小さくなり、砕破現象等が小さくなるので、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0044】
次に第4の実施の形態の船舶について説明する。図7に示すように、この第4の実施の形態の船舶1Dは、第1の実施の形態の船舶1Aの構成に加えて、次のような構成にする。図7に、実線D0で船首垂線F.P.の横断面における船首フレアF0の形状を、実線Dsで船首垂線F.P.から垂線間長Lppの0.5%後方Xsの横断面における船首フレアFsの形状を、実線D1で船首垂線F.P.から垂線間長Lppの1.25%後方X1の横断面における船首フレアF1の形状を、実線D2で垂線間長Lppの2.5%後方X2の横断面における船首フレアF2の形状を、実線D3で垂線間長Lppの5%後方X3の横断面における船首フレアF3の形状を示す。
【0045】
この第4の実施の形態の船舶1Dでは、船舶1Dの船長方向に関して船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの0.5%の位置Xsと5%の位置Xeとの間、即ち、船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの0.5%以上5%以下の間の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアが傾斜を開始する位置ps、p1〜p3を、満載喫水線Z0よりも垂線間長Lppの0.5%上側の位置より上で、且つ、満載喫水線Z0よりも垂線間長Lppの2%上側の位置より下の範囲(斜線部)内として構成される。つまり、図7に示すように、船首フレアFs、F1〜F3の傾斜の開始点ps、p1〜p3の満載喫水Z0からの高さを示すHs、H1〜H3が、0.005Lpp≦Hs、H1,H2,H3≦0.02Lppとなるように船首部の形状を形成する。
【0046】
更に、この第4の実施の形態の船舶1Dでは、図7に示すように、船舶1Dの船長方向に関して船首垂線F.P.と船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの5%の位置Xeと間において、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の傾斜の開始位置p0、ps、p1〜p3より上側で且つ満載喫水線Z0よりも2%Lpp上側の位置よりも下側の範囲内で、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の横断面における形状を、直線状、又は、上側若しくは船体中心側に凸となる形状に形成すると共に、船首フレアF0、Fs、F1〜F3の接線の傾斜角度を垂直方向に対して0°以上70°以下の範囲内とする。
【0047】
なお、図7では、船首垂線F.P.から後方の垂線間長Lppの0.5%の位置Xsの船首フレアFsの一つの接線tsの傾斜角度βsが垂直方向に対して0°以上70°以下の範囲内となっていることを示しているだけであるが、接線tsは、一般的には、船首フレアFsの傾斜の開始位置psより上側で且つ満載喫水線Z0よりも2%Lpp上側の位置よりも下側の範囲内で変化し、それに伴って、傾斜角度βsも変化する。この変化する傾斜角度βsの全てが垂直方向に対して0°以上70°以下の範囲内となるように構成される。また、この位置Xsにおけるこの構成は、船首垂線F.P.と船首垂線F.P.から後方の垂線間長Lppの5%の位置Xeとの間で維持される。
【0048】
この構成によれば、船首部近傍の船首フレアF0、Fs、F1〜F3の垂直方向に対する傾斜角度が全体的に適正な角度になるので、波面が船首フレア部分で上下変位する際に、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0049】
そして、その他の実施の形態の船舶として、この船舶の船長方向に関して船首垂線F.P.と船首垂線F.P.の後方の垂線間長Lppの5%の位置Xeとの間において、船首フレアの傾斜の開始位置より上側で且つ満載喫水線よりも2%Lpp上側の位置よりも下側の範囲内で、船首フレアの横断面における形状を、直線状、又は、上側若しくは船体中心側に凸となる形状に形成すると共に、船首フレアの接線の傾斜角度を垂直方向に対して0°以上70°以下の範囲内とする構成を、上記の第2及び第3の実施の形態の船舶1B、1Cに対しても適用することができ、この適用により、更に、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0050】
また、上記の第1〜第4及びその他の実施の形態の船舶1A〜1Dで、船首部付近の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアFs、F1〜F3が傾斜を開始する位置ps、p1〜p3において、船首部の略垂直な船体部分v0、v1〜v3と傾斜部分f0、f1〜f3との間を曲線で滑らかに連続させて構成することが好ましい。この曲線としては、円弧、楕円弧、サインカーブ(正接曲線)などを採用する。この構成の採用により、波面が船首フレア部分で上下変位する際に、船体の水線面形状の変化をより滑らかにすることができるので、砕破現象が小さくなり、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0051】
従って、上記の構成の船舶1A〜1Dによれば、船首部の船首フレア形状を上記のように構成したので、船体と水面の垂直方向の相対変位における船体の水線面形状の変化率を小さくし、これによって船体による水面の攪乱の度合を小さくして砕破現象を減少することができ、波浪中抵抗増加を低減することができる。
【0052】
なお、平水中を航海速力Vsで航行している時の、ベルヌイの連続の式から導かれる船首中央部の淀み点の水面の盛り上がり量に相当する量としての水頭hは、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとし、h=(0.5×Vs×Vs)/gで計算され、平水中の造波抵抗の減少のみならば、上限は1.5h程度までの高さでよいが、本発明は、波浪中の船首部における水面と船首部の相対変位に起因する破砕現象に着目して、この破砕現象等による抵抗増加を減少させるべくなされたものであるので、下限を満載喫水線Z0よりも垂線間長Lppの0.5%上側の位置より上にして波浪中の砕破現象による波浪中抵抗増加を減少する。また、本発明では、上限は通常はこの1.5hよりも高くなる垂線間長Lppの2%上側の位置までとし、波浪中の砕破現象による波浪中抵抗増加を減少する作用効果を維持しつつ、十分な船首甲板面積を確保できるようにしている。
【実施例】
【0053】
これらの船首部形状の効果を確認するために、方形係数(Cb)が0.85のバルクキャリアの船型において、実船の船長Lppが280mで、航海速力が15ノット(フルード数Fn=0.15)に対応する波浪中抵抗水槽実験を行った。
【0054】
実施例1として、第1の実施の形態の船舶1Aの構成とし、船長3.5mの模型船を用意した。この船型は図1に類似した船型である。また、実施例2として、第3の実施の形態の船舶1Cの構成とし、船長3.5mの模型船を用意した。この船型は図6に類似した船型である。
【0055】
また、従来例として、同じバルクキャリアの船型において、船首部以外は実施例と同じ船型であるが、船首部には従来の船首部形状を採用した船長3.5mの模型船を用意した。この船首部の形状は、計画満載喫水Z0以上では、水線面積が徐々に大きくなる形状である。この船型は図9に類似した船型である。
【0056】
この水槽実験における波浪中抵抗試験結果を図8に示す。この図8は規則波の波長λを一定にした時の各船型の模型船の波浪中抵抗増加係数RAwを示す。実施例1をAで、実施例2をCで、従来例をWで示す。この結果によれば、実施例1のAと実施例2のCは従来例のWはより小さく、また、実施例2のCは実施例1のAより小さい。従って、実施例2が最も波浪中抵抗増加が少なくなることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の船舶の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【図2】図1の横断面位置を示す船舶の部分側面図である。
【図3】本発明に係る第2の実施の形態の船舶の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の船舶の他の形状の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【図5】本発明に係る第3の実施の形態の船舶の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【図6】本発明に係る第3の実施の形態の船舶の他の形状の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【図7】本発明に係る第4の実施の形態の船舶の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【図8】実施例1、2と従来例の波浪中抵抗試験結果の比較を示す図である。
【図9】従来技術における船舶の船首部の計画満載喫水の近傍の形状を示す部分正面図である。
【符号の説明】
【0058】
1A.1B,1C,1D,1W 船舶
C.L. 船体中央線(センターライン)
F.P. 船首垂線
ps,p1〜p3 船首フレアの傾斜開始点
αs 船首フレアの傾斜角度
β 船首フレアの接線の傾斜角度
X0 横断面位置(船首垂線の位置:F.P.)
Xs 横断面位置(船首垂線より0.5%Lpp後方)
X1 横断面位置(船首垂線より1.25%Lpp後方)
X2 横断面位置(船首垂線より2.5%Lpp後方)
X3,Xe 横断面位置(船首垂線より5%Lpp後方)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)から後方の垂線間長(Lpp)の0.5%以上5%以下の間の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアが傾斜を開始する位置を、満載喫水線よりも垂線間長(Lpp)の0.5%上側の位置より上で、且つ、満載喫水線よりも垂線間長(Lpp)の2%上側の位置より下の範囲内とすることを特徴とする船舶。
【請求項2】
船首垂線(F.P.)の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアの傾斜の開始位置と満載喫水線よりも2%Lpp上側の船首フレアの位置とを結ぶ直線を垂直方向に対して30°以上50°以下とすると共に、
船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)と船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の5%の位置と間で、船首フレアの横断面の形状において、船首フレアの傾斜の開始位置と満載喫水線よりも2%Lpp上側の船首フレアの位置とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度を、船長方向に関して前側から後側に向かって同じ又は徐々に減少させて形成したことを特徴とする船舶。
【請求項3】
船首垂線(F.P.)の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアの傾斜の開始位置と満載喫水線よりも2%Lpp上側の船首フレアの位置とを結ぶ直線を垂直方向に対して30°以上50°以下とすると共に、
船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)と船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の5%の位置と間で、船首フレアの横断面の形状において、船首フレアの傾斜の開始位置と満載喫水線よりも2%Lpp上側の船首フレアの位置とを結ぶ直線の垂直方向に対する傾斜角度を、船長方向に関して前側から後側に向かって同じ又は徐々に減少させて形成したことを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項4】
船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)と船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の5%の位置と間において、船首フレアの傾斜の開始位置より上側で且つ満載喫水線よりも2%Lpp上側の位置よりも下側の範囲内で、
船首フレアの横断面における形状を、直線状、又は、上側若しくは船体中心側に凸となる形状に形成すると共に、船首フレアの接線の傾斜角度を垂直方向に対して0°以上70°以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1、2又は3記載の船舶。
【請求項5】
船舶の船長方向に関して船首垂線(F.P.)から後方の垂線間長(Lpp)の0.5%以上5%以下の間の船首フレアの横断面の形状において、船首フレアが傾斜を開始する位置において、この開始位置より下側の船体部分とこの開始位置より上側の傾斜している船体部分との間を曲線で滑らかに連続させたことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の船舶。
【請求項6】
前記船舶の方形係数(Cb)が0.80〜0.90で、航海速力(Vs)がフルード数(Fn)換算で0.12〜0.19であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−230480(P2008−230480A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74880(P2007−74880)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)