説明

船舶

【課題】船型の肥大度が大きい船舶において、平水中の造波抵抗を減少することができる船舶を提供する。
【解決手段】船首前半部の方形係数Cbfが0.88〜0.96の船舶において、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭をHとしたときに、計画満載喫水の上下Hの範囲内における少なくとも一部の水線面において、船首垂線の垂線間長Lppの1%後方の水線の位置と船首垂線とを結ぶ線分が船体中心線となす角度をα°とし、船首垂線より垂線間長Lppの10%後方の水線の位置と、船首垂線より垂線間長Lppの15%後方の水線の位置とを結ぶ線分と船体中心線とがなす角度をβ°としたときに、この角度βが(100−α×5/4)以下で、かつ、(30−α×2/5)以上であるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、満載状態における推進性能を向上できる船舶に関し、より詳細には、船首部における平水中の造波抵抗を減少できる船首部の形状を有する船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船首形状に関しては、波浪中造波抵抗の減少を目的とするものが多いが、波浪中抵抗の増加量は、平水中の造波抵抗量の10%〜30乃至40%程度であるので、全体から見ると、波浪中抵抗増加量を減少させることよりも、平水中の造波抵抗量を減少させることの方が効果が大きい。
【0003】
また、船舶の水槽実験や実船の航海の様子を観察した結果では、船首部の淀み点付近を中心した水面上昇分を考慮することが重要である。船舶の航走中は、図10に示すように、船首部と水とは相対的に航走速度Vsを持っており、船舶側に固定した座標系で見た場合には、船首部に水が流速Vsで流入してくることになる。従って、船首部がブラントな肥大船では、船首部の船体中心線(センターライン:C.L.)上の淀み点Oで水流速度Voがゼロとなるので、水の密度をρとし、重力加速度をgとすると、淀み点Oに於ける水頭Hと遠方の水頭Hsとの関係は、ベルヌーイの定理により、ρ×g×H+ρ×Vo2 /2=ρ×g×Hs+ρ×Vs2 /2となり、淀み点Oに於ける水頭Hは、H=Vs2 /(2×g)−Vo2 /(2×g)+Hsとなる。ここで、Vo=0,Hs=0とすると、H=Vs2 /(2×g)となる。
【0004】
つまり、船首部の淀み点Oで水面が上昇する量を示す水頭Hは、Vs2 /(2×g)となり、船首部の先端では、航走時には、この水頭H(Z1のライン)程度まで上昇することになる。従って、実際の水没部分は船首近傍では、満載喫水Z0よりも水頭H分だけ高い位置Z1の近傍までとなる。例えば、船速が15kt(ノット)の船舶では、Vs=7.72m/sとなり、この水頭Hは3.0mとなる。
【0005】
この水面の盛り上がりを考慮して、平水中の造波抵抗量を減少させるものの一つとして、比較的速度の速い、フルード数Fn=0.18〜0.23程度の中速船において、船首造波抵抗を大幅に低減すべく、船首最先端ラインを、少なくとも計画速力において計画満載喫水船の少し下方付近から水面の盛り上がりにより水に接する部分の水線面を含む高さまで略鉛直上方に延ばし、かつ、当該範囲の水線面形状を先鋭にした船舶の船首形状が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、最大喫水よりも上の部分に関して、すべての水線面形状において、船首形状を船首水線から0.02×Lov(船舶の全長)後方を50°以内に収めて、船首をできるだけ前方に尖らせて、この船首での前方への波反射、波崩れ現象を緩和し、波浪中抵抗増加を減少するた肥大船が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
これらの船舶の船首形状では、航行中の水面盛り上がり部分の船首先端部を尖鋭化して、水切りを良くして、船首波崩れを抑制して、大幅な造波抵抗及び砕破抵抗の減少を図っている。
【0008】
しかしながら、この船首の先端部を尖鋭化した船首形状においては、船首部における水きりを良くして、船首波崩れを減少させることができる一方で、船首部を尖らせているため、船首の肩部が膨らむ傾向となり、細部から発生する波が顕著となり、船舶全体の造波抵抗は必ずしも減少しない。
【0009】
本発明者らは、水槽実験や数値計算により、この肩部の形状と平水中の造波抵抗の関係を考慮することにより、より平水中の造波抵抗を減少することができるとの知見を得て、本発明に至った。
【特許文献1】特開2003−160090号公報
【特許文献2】特開2000−335477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、船型の肥大度が大きい船舶において、平水中の造波抵抗を減少することができる船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の船舶は、船首前半部の方形係数Cbfが0.88〜0.96の船舶において、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭をHとしたときに、計画満載喫水の上下Hの範囲内における少なくとも一部の水線面において、船首垂線(F.P.)の垂線間長(Lpp)の1%後方の水線の位置と船首垂線(F.P.)とを結ぶ線分が船体中心線となす角度をα°とし、船首垂線(F.P.)より垂線間長(Lpp)の10%後方の水線の位置と、船首垂線(F.P.)より垂線間長(Lpp)の15%後方の水線の位置とを結ぶ線分と船体中心線(C.L)とがなす角度をβ°としたときに、この角度βが(100−α×5/4)以下で、かつ、(30−α×2/5)以上であるように構成される。この航海速力は、計画航海速力等、船舶が満載喫水に近い喫水で通常の航行を行う時の速力のことを言う。
【0012】
この本発明の対象の船舶を船首前半部の方形係数Cbfが0.88〜0.96の船舶とするのは、船首前半部が太っているに場合において、本発明の効果が特に大きいからである。船首前半部の方形係数Cbfが0.88より小さいと船首部付近の丸みが少なく本発明の効果が少なくなり、また、船首前半部の方形係数Cbfが0.96より大きいと実用的な船型にならないからである。
【0013】
また、この限定する水線面の高さを計画満載喫水より上方と下方に水頭(H=(0.5×Vs×Vs)/g)の1.0倍の範囲(±H)内としているのは、船首部正面では水面が盛り上がるので、この上下範囲内の水線面形状が最も平水中の抵抗に影響があるためであり、航海時における実際の水面位置の多少の上下変化に対しても抵抗減少効果を確実に得られるようにするためである。
【0014】
また、角度αは船首部先端の脹らみ具合、言い換えれば、丸み具合を示す指標であり、角度βは肩波が発生する場所である肩部の形状を示す指標である。図9に示すように、船首前半部の方形係数Cbfが0.88以上の肥大船では、この肩部は船首垂線(F.P.)の後方の垂線間長(Lpp)の10%〜15%の範囲付近となり、肩波を減少するという本発明の効果を奏することができる。特に、船首前半部の方形係数Cbfが0.90以上の時にこの効果は大きい。一方、船首前半部の方形係数Cbfが0.88よりも小さいような痩せた船の場合は、この肩部は更に後方になり、例えば20%等となる。
【0015】
次に、この船型について説明する。船首部の排水量を一定とする条件下では、船首先端部が太くなると、肩部は細くなり、逆に、船首先端部が細くなると、肩部が張り出すという関係にある。そして、船首先端部を太くすると、船首波が盛り上がる範囲が広くなり、造波抵抗が増加する。一方、肩部を張らせた形状にすると、肩部での流速が増加するので、水面の凹みが大きくなり、その後方で盛り上がる肩波が大きくなる。そのため造波抵抗が増加する。
【0016】
本発明は、このような船首先端部と肩部との関係を考慮して、平水中の造波抵抗が極小になるような範囲を与えて、平水中の推進抵抗を減少させるものである。つまり、上記の構成によれば、船首形状において、船首先端部は太く、肩部(10%Lpp〜15%Lpp)を細く形成したので、平水中では、船首部における造波抵抗が減少して平水中の推進抵抗が減少する。
【0017】
また、上記の船舶は、方形係数(Cb)が0.84〜0.95で、航海速力がフルード数(Fn)換算で0.12〜0.20の船舶である場合や垂線間長(Lpp)が50m〜400m等の大きな船舶の場合に特に大きな効果を奏することができる。
【0018】
この方形係数Cbは、船舶の排水容積をVとし、船の垂線間長をLpp、型幅をB、型喫水をdとした時に、Cb=V/(Lpp×B×d)となる無次元の値であり、この方形係数の値が大きいと肥大の度合いが大きいので、本発明の効果はより大きくなる。
【0019】
また、船首前半部の方形係数Cbfは、船舶の前半部の排水容積をVfとし、船の垂線間長をLpp、型幅をB、型喫水をdとした時に、Cbf=Vf/(0.5×Lpp×B×d)となる無次元の値であり、この船首前半部の方形係数の値が大きいと船首部の肥大の度合いが大きい。
【0020】
フルード数Fnは、船速Vs(m/s)に関する無次元表示であり、船の垂線間長をLpp(m),重力加速度をg(m/s2 )とした時に、Fn=Vs/(g×Lpp)1/2 となる無次元の値である。船速がこの範囲であると、船首正面部分における水面の上昇が比較的高くなるが、推進抵抗は極端に大きくならないので、本発明の効果が占める割合も比較的大きくなる。なお、航海速力Vsは、計画速力等と呼ばれることもあるので、ここでも、航海速力の中に計画速力を含むものとする。
【0021】
更に、船長(垂線間長Lpp)が50m〜400m程度の船舶になると、比較的大きく肥大化し、船速も比較的遅い船舶となり、本発明の効果が大きくなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の船舶によれば、船型の肥大度が大きい船型で、最大喫水付近の船首形状を、船首先端部(F.P.〜1%Lpp)は太く、肩部(10%Lpp〜15%Lpp)を細く形成したので、肩波を大きく減らすことができ、船首部における平水中の造波抵抗を減少して平水中の推進抵抗を減少することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面を参照して本発明に係る船舶の実施の形態について説明する。本発明に係る第1の実施の形態の船舶Aは、図1及び図2に示すように、船首バルブが無い船型の場合である。図1及び図2の船舶Xは従来技術の船舶を示す。また、第2の実施の形態の船舶Bは、図3及び図4に示すように船首バルブ2を有している船型の場合である。図3及び図4の船舶Yは従来技術の船舶を示す。
【0024】
これらの第1及び第2の実施の形態の船舶A,Bは、船首前半部の方形係数Cbfが0.88〜0.96の船舶であり、これらの船舶A,Bでは、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭をHとしたときに、最大喫水の上下Hの範囲内における少なくとも一部の水線面において、次のように構成される。
【0025】
図5の水線図に示すように、船首垂線(F.P.)の垂線間長(Lpp)の1%後方の水線の位置(1%Lpp)と船首垂線(F.P.)とを結ぶ線分が船体中心線(C.L.)となす角度をα°とする。図5のC船型ではαc°であり、D船型ではαd°である。この部分が船首先端部となる。
【0026】
また、船首垂線(F.P.)より垂線間長(Lpp)の10%後方の水線の位置と、船首垂線(F.P.)より垂線間長(Lpp)の15%後方の水線の位置とを結ぶ線分と船体中心線(C.L)とがなる角度をβ°とする。図5のC船型ではβc°であり、D船型ではβd°である。この部分が肩部となる。
【0027】
そして、本発明においては、この角度βが(100−α×5/4)以下で、かつ、(30−α×2/5)以上であるように形成される。図6に、この上記の条件を満たす中間船型Fの水線の例を、上記の条件を満たさない肩張船型Eと肩落船型Gとの比較で示す。
【0028】
この「(100−α×5/4)≧β≧(30−α×2/5)」の範囲は、これらの水線形状をもつ船型に対してシリーズの数値計算を行って造波抵抗を算出した結果から求めている。例えば、船種としてバルク運搬船を想定し、垂線間長Lppを220mとし、lcb=−2.0%の船型に関して、方形係数Cbを0.84、0.87、0.90、0.93に変更して、フルード数Fnを0.16(図7)と0.18(図8)にして計算した。この計算結果を、第1の角度α(°)を横軸とし、第2の角度β(°)を縦軸として、平水中の造波抵抗を無次元化した造波抵抗係数(rW)を円の大きさで示した。
【0029】
これらのシリーズ計算の結果から、造波抵抗係数の大きさを示す円が小さくなる範囲を求め、β=(100−α×5/4)の線と、β=(30−α×2/5)の線との間とした。なお、造波抵抗は船体前半部(ST(ステアステーション)5から船首先端)の造波成分のみを計算して算出している。
【0030】
なお、上記の船舶としては、方形係数Cbが0.84〜0.95で、航海速力Vsがフルード数Fn換算で0.12〜0.20の船舶である場合や垂線間長(Lpp)が50m〜400m等の大きな船舶の場合に特に効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の船舶の船首部の形状を示す部分側面図である。
【図2】図1の船舶の船首部の形状を示す部分正面図である。
【図3】本発明に係る第2の実施の形態の船舶の船首部の形状を示す部分側面図である。
【図4】図3の船舶の船首部の形状を示す部分正面図である。
【図5】本発明の第1の角度αと第2の角度βを説明するための水線図である。
【図6】本発明に係る線型の水線面の例を示す図である。
【図7】本発明に係わる船舶のフルード数が0.16における第1の角度αと第2の角度βと造波抵抗係数rWとの関係を示す図である。
【図8】本発明に係わる船舶のフルード数が0.18における第1の角度αと第2の角度βと造波抵抗係数rWとの関係を示す図である。
【図9】船首前半部の方形係数と肩部との関係を説明するための水線図である。
【図10】船首先端部における水面上昇と肩部における水面低下を説明するための図である。
【符号の説明】
【0032】
A,B,C,D,E,F,G,X,Y 船舶
Cb 方形係数
Cbf 船首前半部の方形係数
C.L. 船体中央線(センターライン)
D 型深さ
F.P. 船首垂線
Fn フルード数
g 重力加速度
H 淀み点における水頭
hs 船首から遠方に離れた位置での水頭
O 淀み点
Vs 航海速力
Vo 淀み点の流速
α 第1の角度
β 第2の角度
2 船首バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船首前半部の方形係数Cbfが0.88〜0.96の船舶において、船舶の航海速力をVsとし、重力加速度をgとした時に、(0.5×Vs×Vs)/gで計算される水頭をHとしたときに、計画満載喫水の上下Hの範囲内における少なくとも一部の水線面において、船首垂線(F.P.)の垂線間長(Lpp)の1%後方の水線の位置と船首垂線(F.P.)とを結ぶ線分が船体中心線となす角度をα°とし、船首垂線(F.P.)より垂線間長(Lpp)の10%後方の水線の位置と、船首垂線(F.P.)より垂線間長(Lpp)の15%後方の水線の位置とを結ぶ線分と船体中心線(C.L)とがなす角度をβ°としたときに、この角度βが(100−α×5/4)以下で、かつ、(30−α×2/5)以上であることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記船舶が、方形係数が0.84〜0.95で、航海速力がフルード数換算で0.12〜0.20の船舶であることを特徴とする請求項1記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−239059(P2008−239059A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84887(P2007−84887)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)